特許第6385712号(P6385712)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ マブチモーター株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6385712-ロータおよびブラシレスモータ 図000002
  • 特許6385712-ロータおよびブラシレスモータ 図000003
  • 特許6385712-ロータおよびブラシレスモータ 図000004
  • 特許6385712-ロータおよびブラシレスモータ 図000005
  • 特許6385712-ロータおよびブラシレスモータ 図000006
  • 特許6385712-ロータおよびブラシレスモータ 図000007
  • 特許6385712-ロータおよびブラシレスモータ 図000008
  • 特許6385712-ロータおよびブラシレスモータ 図000009
  • 特許6385712-ロータおよびブラシレスモータ 図000010
  • 特許6385712-ロータおよびブラシレスモータ 図000011
  • 特許6385712-ロータおよびブラシレスモータ 図000012
  • 特許6385712-ロータおよびブラシレスモータ 図000013
  • 特許6385712-ロータおよびブラシレスモータ 図000014
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6385712
(24)【登録日】2018年8月17日
(45)【発行日】2018年9月5日
(54)【発明の名称】ロータおよびブラシレスモータ
(51)【国際特許分類】
   H02K 1/27 20060101AFI20180827BHJP
   H02K 21/14 20060101ALI20180827BHJP
【FI】
   H02K1/27 501M
   H02K1/27 501K
   H02K1/27 501A
   H02K21/14 M
【請求項の数】9
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2014-94085(P2014-94085)
(22)【出願日】2014年4月30日
(65)【公開番号】特開2015-211623(P2015-211623A)
(43)【公開日】2015年11月24日
【審査請求日】2016年12月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000113791
【氏名又は名称】マブチモーター株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100109047
【弁理士】
【氏名又は名称】村田 雄祐
(74)【代理人】
【識別番号】100109081
【弁理士】
【氏名又は名称】三木 友由
(72)【発明者】
【氏名】宮島 祐介
【審査官】 田村 惠里加
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−023393(JP,A)
【文献】 特開2006−311772(JP,A)
【文献】 特表2012−517209(JP,A)
【文献】 特開2000−197292(JP,A)
【文献】 特開2002−010600(JP,A)
【文献】 特開2009−153299(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2013/0057103(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 1/00−1/34,15/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロータコアと、
複数のマグネットと、を備え、
前記ロータコアは、
回転軸が挿入される孔部の周囲の環状部と、
前記環状部から放射状に形成された複数の磁極片と、
隣接する前記磁極片同士の間に放射状に形成された複数のマグネット収容部と、
前記環状部の外側であって、隣接する前記マグネット収容部同士の間の各領域に形成された複数の第1の磁束障壁部と、を有し、
前記マグネット収容部は、第2の磁束障壁部を回転軸側の端部に有し、
前記マグネットは、隣接する他のマグネットと同じ磁極同士がロータコアの周方向において対向するように前記マグネット収容部に収容されており、
前記ロータコアは、前記第1の磁束障壁部と、該第1の磁束障壁部と隣接する2つの前記第2の磁束障壁部との間に形成された2つの磁路を有し、
前記2つの磁路は、前記磁極片の回転軸側の端部から前記環状部に向けて形成されており、
前記第1の磁束障壁部および前記第2の磁束障壁部は、
前記磁路の中心部を通る直線L1と前記磁極片の中心線L2とが成す角度αが30°から47°の範囲であり、
前記磁路の中心部を通る直線L1と前記マグネットの回転軸側端面を含む平面P1とが成す角度βが30°から47°の範囲であるように構成されていることを特徴とするロータ。
【請求項2】
前記2つの磁路は、前記磁極片の回転軸側の端部から前記環状部に向けて異なる方向へ分岐していることを特徴とする請求項1に記載のロータ。
【請求項3】
前記2つの磁路は、磁極片の中心線に対して線対称に配置されていることを特徴とする請求項1または2に記載のロータ。
【請求項4】
前記第2の磁束障壁部は、回転軸方向に貫通した貫通部であって前記マグネットの径方向の位置決め機能を有し、
前記第2の磁束障壁部の前記マグネットと隣接した領域の周方向の幅は、前記マグネット収容部に収容された前記マグネットの周方向の幅よりも小さいことを特徴とする請求項1乃至のいずれか1項に記載のロータ。
【請求項5】
前記第1の磁束障壁部は、回転軸方向に貫通した貫通部であることを特徴とする請求項1乃至のいずれか1項に記載のロータ。
【請求項6】
前記磁極片は、隣接する他の磁極片と外周部が分離されていることを特徴とする請求項1乃至のいずれか1項に記載のロータ。
【請求項7】
前記磁極片の外周面の曲率半径をR、前記ロータコアの最大外径をL、とすると、R<L/3を満たすことを特徴とする請求項1乃至のいずれか1項に記載のロータ。
【請求項8】
複数の巻線が配置されている筒状のステータと、
前記ステータの中心部に設けられている請求項1乃至のいずれか1項に記載のロータと、
前記ステータの複数の巻線に給電する給電部と、
を備えるブラシレスモータ。
【請求項9】
前記マグネットは、前記ステータと対向する外周部の一部が露出していることを特徴とする請求項に記載のブラシレスモータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブラシレスモータのロータに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、様々な装置や製品の駆動源としてモータが用いられている。例えば、プリンタや複写機等の事務機器、様々な家電製品、自動車や電動自転車等の車両のアシストを含めた動力源の用途で採用されている。特に、動作頻度の高い可動部品の駆動源として、耐久性や電気ノイズの観点からブラシレスモータが使われる場合がある。
【0003】
ブラシレスモータの一種として、ロータに永久磁石を埋め込んだ埋込磁石型(Interior Permanent Magnet)が知られている。例えば、ロータヨークに板状の複数の磁石が放射状に埋め込まれているとともに、隣接する磁石の同極同士がヨークの周方向において互いに対向するように各磁石が配置されている電気機器がある(例えば、特許文献1の図2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2012−517209号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
埋込磁石型のブラシレスモータにおいて、回転トルクを向上する一つの方法としては、残留磁束密度の高い磁石を用いることが一案であるが、ロータ内部において磁束の短絡が生じると、ロータヨークの外周部において平均磁束密度が低下してしまう。そこで、上述の電気機器においては、磁石の両端部側での磁束の短絡を防止するための、いわゆるフラックスバリアと呼ばれる磁気抵抗を高めた貫通部が磁石の近傍に形成されている。
【0006】
しかしながら、上述の電気機器における扇形の各ロータ磁極片は、中心軸の周囲の環状の部分に繋がっており、隣接するフラックスバリア間に位置する一本の細い領域によって支持されているにすぎない。そのため、回転時にロータ磁極片に働く様々な力(遠心力や磁気力)によって、各ロータ磁極片が正規の位置に対して変位(振動)することから、回転ノイズやロータ破損等の不具合を発生させるおそれがある。
【0007】
本発明はこうした状況に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、高剛性で低ノイズのブラシレスモータを実現する技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明のある態様のロータは、ロータコアと、複数のマグネットと、を備える。ロータコアは、回転軸が挿入される孔部の周囲の環状部と、環状部から放射状に形成された複数の磁極片と、隣接する磁極片同士の間に放射状に形成された複数のマグネット収容部と、環状部の外側であって、隣接するマグネット収容部同士の間の各領域に形成された複数の第1の磁束障壁部と、を有する。マグネット収容部は、第2の磁束障壁部を回転軸側の端部に有する。マグネットは、隣接する他のマグネットと同じ磁極同士がロータコアの周方向において対向するようにマグネット収容部に収容されており、ロータコアは、第1の磁束障壁部と、該第1の磁束障壁部と隣接する2つの第2の磁束障壁部との間に形成された2つの磁路を有する。2つの磁路は、磁極片の回転軸側の端部から環状部に向けて異なる方向へ分岐している。
【0009】
この態様によると、第1の磁束障壁部および第2の磁束障壁部によって、マグネットから出る磁束のロータコア内の短絡が抑制されるため、高トルクなブラシレスモータのロータとして好適となる。また、各磁極片が2つの磁路で支持されているため、磁極片の環状部に対する機械的固定強度が向上し、回転時の磁極片の変位を低減できる。また、2つの磁路は、磁極片の回転軸側の端部から環状部に向けて異なる方向へ分岐しているため、磁極片に対して作用する方向が異なる様々な外力に対して磁極片の変位を低減できる。
【0010】
2つの磁路は、磁極片の中心線に対して線対称に配置されていてもよい。これにより、回転方向が時計回りか反時計回りかによって磁極片を支持する力は変わらない。
【0011】
第1の磁束障壁部および第2の磁束障壁部は、磁路の中心部を通る直線L1と磁極片の中心線L2とが成す角度αが0°より大きく、磁路の中心部を通る直線L1とマグネットの回転軸側端面を含む平面P1とが成す角度βが10°より大きくなるように構成されていてもよい。これにより、適切な大きさの第1の磁束障壁部および第2の磁束障壁部を実現できる。
【0012】
第2の磁束障壁部は、回転軸方向に貫通した貫通部であってマグネットの径方向の位置決め機能を有してもよい。第2の磁束障壁部のマグネットと隣接した領域の周方向の幅は、マグネット収容部に収容されたマグネットの周方向の幅よりも小さい。これにより、簡素な構成で磁束の短絡を抑制できる。また、マグネットの径方向の位置決めのために、第2の磁束障壁部を特殊な形状にする必要がない。
【0013】
第1の磁束障壁部は、回転軸方向に貫通した貫通部であってもよい。これにより、簡素な構成で磁束の短絡を抑制できる。
【0014】
磁極片は、隣接する他の磁極片と外周部が分離されていてもよい。これにより、マグネットの外周側端面近傍での磁束の短絡を低減できる。
【0015】
磁極片の外周面の曲率半径をR、ロータコアの最大外径をL、とすると、R<L/3を満たす。これにより、トルク変動が低減され滑らかな回転が可能なブラシレスモータを実現できる。
【0016】
複数の巻線が配置されている筒状のステータと、ステータの中心部に設けられている上述のロータと、ステータの複数の巻線に給電する給電部と、を備えてもよい。これにより、ロータ外周部の平均磁束密度を高めることができ、モータトルクの向上に寄与する。
【0017】
なお、以上の構成要素の任意の組合せ、本発明の表現を部品、製造方法、システムなどの間で変換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、高剛性で低ノイズのブラシレスモータを実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】第1の実施の形態に係るブラシレスモータの全体斜視図である。
図2】第1の実施の形態に係るブラシレスモータの側面図である。
図3】第1の実施の形態に係るブラシレスモータの分解斜視図である。
図4図4(a)は、第1の実施の形態に係るロータコアの上面図、図4(b)は、図4(a)に示すロータコアにマグネットを嵌め込んだ状態を示す上面図である。
図5】第1の実施の形態に係る磁路を説明するためのロータコアの上面図である。
図6】第2の実施の形態に係る磁路を説明するためのロータコアの上面図である。
図7図7(a)、図7(b)は、第3の実施の形態に係るロータコアの上面図である。
図8】第4の実施の形態に係る磁路を説明するためのロータコアの上面図である。
図9】第4の実施の形態に係る磁路を説明するための要部拡大図である。
図10図10(a)は、第5の実施の形態に係るロータコアを構成する一枚の板状部材の上面図、図10(b)は、第5の実施の形態に係るロータコアの上面図である。
図11】積層する2枚の板状部材の位置関係を説明するための図である。
図12】第5の実施の形態に係るロータコアの斜視図である。
図13】ロータにおける角度αおよび角度βの好適な範囲について説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を適宜省略する。また、以下に述べる構成は例示であり、本発明の範囲を何ら限定するものではない。以下では、インナーロータタイプのブラシレスモータを例に説明する。
【0021】
[第1の実施の形態]
(ブラシレスモータ)
図1は、第1の実施の形態に係るブラシレスモータの全体斜視図である。図2は、第1の実施の形態に係るブラシレスモータの側面図である。図3は、第1の実施の形態に係るブラシレスモータの分解斜視図である。
【0022】
第1の実施の形態に係るブラシレスモータ(以下、「モータ」と称する場合がある。)10は、マグネットを有する円柱状のロータ12と、ロータ12が配置される空間を中央部に有するステータ14と、フロントベル16と、ハウジング本体18と、給電部19と、を備える。
【0023】
フロントベル16は、板状の部材であり、中央に回転シャフト20が貫通できるように孔16aが形成されているとともに、孔16aの近傍に軸受22を保持する凹部16bが形成されている。そして、フロントベル16は、ロータ12の回転シャフト20の一部を軸受22を介して支持する。また、ハウジング本体18は、円筒状の部材であり、基部18aの中央に軸受(不図示)を保持する凹部18bが形成されている。そして、ハウジング本体18は、ロータ12の回転シャフト20の他部を軸受を介して支持する。第1の実施の形態では、フロントベル16およびハウジング本体18は、ロータ12およびステータ14を収容する収容部材を構成する。
【0024】
(ロータ)
図4(a)は、第1の実施の形態に係るロータコアの上面図、図4(b)は、図4(a)に示すロータコアにマグネットを嵌め込んだ状態を示す上面図である。
【0025】
ロータ12は、円形のロータコア26と、複数のマグネット28と、を備える。ロータコア26の中心には、回転シャフト20が挿入された状態で固定される貫通孔26aが形成されている。また、ロータコア26は、回転シャフト20が挿入される貫通孔26aの周囲の環状部26cと、環状部26cから放射状に形成された複数の扇形の磁極片26dと、隣接する2つの磁極片26dの間に放射状に形成された複数のマグネット収容部26bと、環状部26cの外側に形成された複数の第1の磁束障壁部26eと、を有する。
【0026】
マグネット収容部26bにはマグネット28が挿入され固定される。マグネット28は、マグネット収容部26bの形状に対応した板状の部材である。
【0027】
そして、これら各部材を順に組み立てる。具体的には、複数(14個)のマグネット28のそれぞれを、対応するマグネット収容部26bに嵌め込み、そのロータコア26の貫通孔26aに回転シャフト20を挿入する。そして、軸受22は、回転シャフト20に取り付けられる。
【0028】
(ロータコア)
図4(a)に示すロータコア26は、複数の板状の部材を積層したものである。複数の板状の部材のそれぞれは、無方向性電磁鋼板(例えばケイ素鋼板)からプレス加工によって図4(a)に示すような所定の形状で打ち抜くことで作製される。そして、マグネット収容部26bは、ロータコア26の回転軸を中心に放射状に形成されている。なお、ロータコア26を圧粉成型にて作製してもよい。
【0029】
マグネット28は、図4(b)に示すように、隣接する他のマグネットと同じ磁極同士がロータコア26の周方向において対向するようにマグネット収容部26bに収容されている。つまり、マグネット28は、略直方体の6つの面のうち表面積の広い2つの主面28a,28bがそれぞれN極とS極となるように構成されている。これにより、マグネット28の主面28aから出た磁力線は、2つのマグネット28の間の領域からロータコア26の外に向かう。その結果、第1の実施の形態に係るロータ12は、その外周部に、N極とS極が交互に7極ずつ計14極ある磁石として機能する。マグネット28は、図4(b)に示すI字配置に限らず、いわゆるV字配置であってもよい。
【0030】
なお、マグネット28は、例えば、ボンド磁石や焼結磁石である。ボンド磁石は、ゴムや樹脂などに磁性材を練り込んで射出成形または圧縮成型した磁石であり、後加工をしなくても高精度のC面(斜面)やR面を得られる。一方、焼結磁石は、粉末状の磁性材を高温で焼き固めた磁石であり、ボンド磁石よりも残留磁束密度を向上させやすいが、高精度のC面やR面を得るためには後加工が必要な場合が多い。
【0031】
第1の実施の形態に係るマグネット収容部26bは、第2の磁束障壁部26b1を回転シャフト20(貫通孔26a)側の端部に有する。前述の第1の磁束障壁部26eは、隣接する第2の磁束障壁部26b1の間に形成されている。第1の磁束障壁部26eおよび第2の磁束障壁部26b1は、板状のマグネット28から出る磁束(磁力線)のロータコア26内の短絡を抑制するように構成されている。つまり、マグネット28の一方の主面28aから出た磁力線は、ロータコア26の第1の磁束障壁部26eおよび第2の磁束障壁部26b1により、ロータコア26内の短絡が抑制される。このような磁力線の通る領域を磁路といい、磁路が狭く長いほど磁気抵抗が高くなり磁力線が通りにくくなる。
【0032】
(磁路)
図5は、第1の実施の形態に係る磁路を説明するためのロータコアの上面図である。第1の実施の形態に係るロータコア26は、第1の磁束障壁部26eと、第1の磁束障壁部26eと隣接する2つの第2の磁束障壁部26b1との間に形成された2つの磁路26fを有する。2つの磁路26fは、磁極片26dの貫通孔26a側の端部から環状部26cに向けて異なる方向へ(Y字状に)分岐している。
【0033】
これにより、第1の磁束障壁部26eおよび第2の磁束障壁部26b1によって、マグネット28から出る磁束のロータコア内の短絡が抑制されるため、高トルクなブラシレスモータのロータとして好適となる。また、各磁極片26dが環状部26cに対して2つの磁路26fで支持されているため、磁極片26dの環状部26cに対する機械的固定強度が向上し、ロータ回転時の磁極片26dの変位を低減できる。また、2つの磁路26fは、磁極片26dの貫通孔26a側の端部から環状部26cに向けて異なる方向へ分岐しているため、磁極片26dに対して作用する方向が異なる様々な外力(磁気力や遠心力等)に対して磁極片26dの変位をより効果的に低減できる。
【0034】
第1の実施の形態に係る2つの磁路26fは、図5に示すように、それぞれの長手方向が互いに異なるように形成されている。また、2つの磁路26fは、ロータコア26の直径に対して線対称に配置されている。これにより、ロータ12の回転方向が時計回りか反時計回りかによって磁極片26dを支持する力が変わらない。
【0035】
第1の磁束障壁部26eおよび第2の磁束障壁部26b1は、磁路の中心部を通る直線L1と磁極片26dの中心線L2とが成す角度αが0°より大きく、磁路の中心部を通る直線L1とマグネット28の回転軸(貫通孔26a)側端面28cを含む平面P1とが成す角度βが10°より大きくなるように構成されている。角度αを0°より大きく、角度βを10°より大きく設定することで、磁束の短絡を抑制することのできる大きさの第1の磁束障壁部26eおよび第2の磁束障壁部26b1が形成される。本実施の形態に係るロータコア26においては、角度αが約30°、角度βが約47°である。
【0036】
なお、角度αは15°以上が好ましく、30°以上がより好ましい。また、角度βは20°以上が好ましく、30°以上がより好ましい。これにより、大幅に磁束の短絡を抑制することのできる大きさの第1の磁束障壁部26eおよび第2の磁束障壁部26b1を実現できる。
【0037】
第1の磁束障壁部26eおよび第2の磁束障壁部26b1は、回転軸方向(紙面鉛直方向)に貫通した三角形の貫通部である。これにより、製造の容易な簡素な構成で磁束の短絡を抑制できる。第1の磁束障壁部26eは、正三角形であってもよい。なお、第1の実施の形態に係る第1の磁束障壁部26eおよび第2の磁束障壁部26b1は、透磁率が小さい空気を満たした中空の領域であるが、透磁率が小さい物質を充填してもよい。この場合、ロータコア26全体の強度を向上できる。
【0038】
第2の磁束障壁部26b1は、マグネット28の径方向の位置決め機能を有している。具体的には、第2の磁束障壁部26b1の板状マグネットと隣接した領域の周方向の幅W1は、マグネット収容部26bに収容されたマグネット28の周方向の幅W2よりも小さい。これにより、マグネット28の径方向の位置決めのために、第2の磁束障壁部26b1を特殊な形状にする必要がない。そのため、ロータコア26を構成する板状の部材をプレス加工で打ち抜く際の各部の寸法精度が向上する。
【0039】
第1の実施の形態に係る磁極片26dは、隣接する他の磁極片26dと外周部26gが分離されている。これにより、マグネット28の外周側端面近傍での磁束の短絡を低減できる。
【0040】
また、扇形の磁極片26dの外周部26gの曲率半径をR、ロータコアの最大外径をL、とすると、R<L/3を満たす。これにより、トルク変動が低減され滑らかな回転が可能なブラシレスモータを実現できる。
【0041】
また、第1の実施の形態に係るモータ10は、複数の巻線が配置されている筒状のステータ14と、ステータ14の中央部に設けられている上述のロータ12と、ステータ14の複数の巻線に給電する給電部19と、を備えている。これにより、ロータ外周部の平均磁束密度を高めながらロータの機械的強度を確保することができ、トルクが高く高剛性で低ノイズのブラシレスモータを実現できる。
【0042】
また、第2の磁束障壁部26b1において、マグネット28の端面28cとロータコア26の環状部26cとの距離X1は0.5mm以上あるとよい。
【0043】
また、第1の磁束障壁部26eおよび第2の磁束障壁部26b1は、磁極片26dの根本の最狭部の幅をW3、各磁路26fの幅をW4とすると、W3>2×W4を満たすように構成されているとよい。これにより、マグネット28の主面から出た磁力線は、更に磁路を通過しにくくなり、磁束の短絡をより抑制できる。
【0044】
[第2の実施の形態]
図6は、第2の実施の形態に係る磁路を説明するためのロータコアの上面図である。なお、第1の実施の形態に係るロータコア26と同様の構成については同様の符号を付して説明を適宜省略する。
【0045】
第2の実施の形態に係るロータコア30は、第1の磁束障壁部30eと、第1の磁束障壁部30eと隣接する2つの第2の磁束障壁部30b1との間に形成された2つの磁路30fを有する。2つの磁路30fは、磁極片30dの貫通孔30a側の端部から環状部30cに向けて異なる方向へ分岐している。
【0046】
第2の実施の形態に係るロータコア30は、第1の実施の形態に係るロータコア26と比較して、第1の磁束障壁部30eや第2の磁束障壁部30b1の大きさ、形状が主な相違点である。本実施の形態に係るロータコア30においては、角度αが約47°、角度βが約30°である。
【0047】
[第3の実施の形態]
図7(a)、図7(b)は、第3の実施の形態に係るロータコアの上面図である。図7(a)に示すロータコア32においては、第1の磁束障壁部32eおよび第2の磁束障壁部30b1は、共に四角形(等脚台形)である。また、図7(b)に示すロータコア34は、第1の磁束障壁部34eが円形であり、第2の磁束障壁部34b1が半円である。ロータコア34のように磁路34fの幅が一定でない場合、磁路34fの中心部を通る直線L1は、第1の磁束障壁部34eと第2の磁束障壁部34b1とが最も近接した位置を通る直線L3に対して垂直な直線と定義することもできる。
【0048】
[第4の実施の形態]
図8は、第4の実施の形態に係る磁路を説明するためのロータコアの上面図である。図9は、第4の実施の形態に係る磁路を説明するための要部拡大図である。第1の実施の形態に係るロータコア26と同様の構成については同様の符号を付して説明を適宜省略する。
【0049】
第4の実施の形態に係るロータコア36は、第1の磁束障壁部36eと、第1の磁束障壁部36eと隣接する2つの第2の磁束障壁部36b1との間に形成された2つの磁路36fを有する。2つの磁路36fは、磁極片36dの貫通孔36a側の端部から環状部36cに向けて異なる方向へ分岐している。また、第4の実施の形態に係るロータコア36は、磁路36fが途中で屈曲している点が特徴である。
【0050】
このような場合、磁路36fの中心部を通る直線L1とは、以下のように定義してもよい。例えば、第1の磁束障壁部36eの径方向先端部36e1と第2の磁束障壁部36b1のマグネット側の周方向端部36b2との幅W5の中間と、第1の磁束障壁部36eの周方向端部36e2と、第2の磁束障壁部36b1の径方向端部36b2との幅W6の中間と、を結ぶ直線を直線L1とすることもできる。
【0051】
[第5の実施の形態]
図10(a)は、第5の実施の形態に係るロータコアを構成する一枚の板状部材の上面図、図10(b)は、第5の実施の形態に係るロータコアの上面図である。図11は、積層する2枚の板状部材の位置関係を説明するための図である。図12は、第5の実施の形態に係るロータコアの斜視図である。
【0052】
板状部材38は、図10(a)に示すように、単独では2種類の磁束障壁部や磁極片毎に2つの磁路を構成する形状ではない。具体的には、磁極片38aは、1つの磁路38bで支持されている。そして、図11に示すように、一方の板状部材38に対して、他方の板状部材38を、磁極片1個分の回転角度(第5の実施の形態では(360/14)°))だけずらして繰り返し積層し、ボスカシメ等の手法を用いて各板状部材の磁極片を相互に機械的に固定することによりロータコア40を構成している。
【0053】
これにより、図10(b)に示すように、上面から見ると一つの磁極片38aが2つの磁路38bで支持されているように見える。このように、第5の実施の形態に係るロータコア40は、積層後の磁極片38aの環状部38cに対する機械的固定強度を十分に保ちながら磁路38bの磁気抵抗を大きく高め、ロータ内への漏洩磁束を大幅に削減することができる。
【0054】
[角度αおよび角度βの好適な範囲]
図13は、ロータにおける角度αおよび角度βの好適な範囲について説明するための図である。
【0055】
図13の縦軸は、ロータの平均磁束密度および磁極片剛性の設計時の狙い値(基準値)を100%としたときの変化を示している。例えば、第1の実施の形態に係るロータにおいては、角度αが30°、角度βが47°であり、第2の実施の形態に係るロータにおいては、角度αが47°、角度βが30°である。
【0056】
角度αが0°より大きければ磁極片の剛性の基準比率が約97%以上となり、十分な磁極片の剛性が確保できる。また、角度βが10°より大きければロータ外周部の平均磁束密度の基準比率が約97%以上となり、十分なモータ特性を発揮できる。
【0057】
更に角度αが15°以上かつ角度βが20°以上であれば、磁極片の剛性とロータ外周部の平均磁束密度のそれぞれの基準比率が約98.5%以上となり、磁極片の剛性とモータ特性を、より高い次元で両立する事ができる。
【0058】
更に角度αが30°以上かつ角度βが30°以上であれば、磁極片の剛性の基準比率が100%以上でロータ外周部の平均磁束密度の基準比率がほぼ100%となり、磁極片の剛性とモータ特性において、より好適で妥協のないモータを提供する事が可能となる。
【0059】
なお、角度αが増えていくと47°を超える辺りでロータ外周部の平均磁束密度の基準比率がほぼ100%から下がり始め、角度βが増えていくとこちらも同様に47°を超える辺りで磁極片の剛性が100%から下がり始める。以上より、各実施の形態に係るロータは、角度αが30°〜47°、角度βが30°〜47°の範囲で定まる構成が好ましい。
【0060】
以下に、本願発明を好適に用いることができるブラシレスモータの諸元について説明する。本実施の形態に係るブラシレスモータは、外径が30〜140mm程度、好ましくは35〜80mm程度である。また、ステータの溝(ティース)の数は例えば12である。また、マグネットの数は10または14が好ましい。また、マグネットの磁力(エネルギー積)は、8MGOe以上、好ましくは10MGOe以上、より好ましくは30MGOe以上である。また、ロータの直径は、20〜70mm程度が好ましい。また、上述の各磁路の幅寸法は、ロータコアを構成する一枚の板状部材の厚み(0.35〜0.5mm程度)より大きい。
【0061】
以上、本発明を上述の各実施の形態を参照して説明したが、本発明は上述の各実施の形態に限定されるものではなく、各実施の形態の構成を適宜組み合わせたものや置換したものについても本発明に含まれるものである。また、当業者の知識に基づいて各実施の形態における組合せや処理の順番を適宜組み替えることや各種の設計変更等の変形を各実施の形態に対して加えることも可能であり、そのような変形が加えられた実施の形態も本発明の範囲に含まれうる。
【符号の説明】
【0062】
L1 直線、 P1 平面、 W1 幅、 L2 中心線、 W2 幅、 L3 直線、 10 モータ、 12 ロータ、 14 ステータ、 16 フロントベル、 16a 孔、 16b 凹部、 18 ハウジング本体、 18a 基部、 18b 凹部、 19 給電部、 20 回転シャフト、 22 軸受、 26 ロータコア、 26a 貫通孔、 26b マグネット収容部、 26b1 第2の磁束障壁部、 26c 環状部、 26d 磁極片、 26e 第1の磁束障壁部、 26f 磁路、 26g 外周部、 28 マグネット、 28a,28b 主面、 28c 端面。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13