特許第6385720号(P6385720)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6385720
(24)【登録日】2018年8月17日
(45)【発行日】2018年9月5日
(54)【発明の名称】高変換効率太陽電池およびその調製方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 31/0352 20060101AFI20180827BHJP
【FI】
   H01L31/04 342Z
【請求項の数】7
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2014-113313(P2014-113313)
(22)【出願日】2014年5月30日
(65)【公開番号】特開2015-228413(P2015-228413A)
(43)【公開日】2015年12月17日
【審査請求日】2017年2月26日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成25年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「太陽エネルギー技術研究開発 革新的太陽光発電技術研究開発(革新的太陽電池国際研究拠点整備事業)」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504150450
【氏名又は名称】国立大学法人神戸大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000822
【氏名又は名称】特許業務法人グローバル知財
(72)【発明者】
【氏名】喜多 隆
(72)【発明者】
【氏名】原田 幸弘
(72)【発明者】
【氏名】渡部 大樹
(72)【発明者】
【氏名】朝日 重雄
【審査官】 吉野 三寛
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−124288(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2009/0159854(US,A1)
【文献】 SOGABE Tomah et al.,Intermediate-band dynamics of quantum dits solar cell in concentrator photovoltaic modules,SCIENTIFIC REPORTS,英国,nature,2014年 4月25日,Vol. 4, No. 4792 ,DOI: 10.1038/srep04792
【文献】 中間バンド型太陽電池における光電流の増大効果を世界で初めて「室温」で確認 −超高効率量子ドット太陽電池の実用化へ前進,日本,東京大学,2014年 4月26日,URL,http://mbe.rcast.u-tokyo.ac.jp/pdf/SREP_press%20release20140426.pdf
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 31/02−31/0392
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
価電子帯上端のエネルギー準位と伝導帯下端のエネルギー準位との間の中間準位を備え、中間準位のキャリアの内、伝導帯下端のエネルギー準位より高いエネルギーを有するホットキャリアを電流として取り出すことを特徴とする太陽電池。
【請求項2】
中間準位が、量子井戸,量子細線,量子ドット超格子あるいは不純物ドープにより形成されたことを特徴とする請求項1に記載の太陽電池。
【請求項3】
基板、p型半導体層、光吸収層、n型半導体層及び電極を有する太陽電池において、
前記光吸収層が、量子井戸,量子細線あるいは量子ドット超格子を含有し、Cu(銅),In(インジウム),Ga(ガリウム),Al(アルミニウム)から選択される少なくとも1つの元素を含む、化合物半導体、金属窒化物、硫黄化合物、セレン化物、金属砒素化合物もしくは金属リン化合物、あるいはこれらの組み合わせによる合金半導体から構成され、
前記量子井戸,量子細線,量子ドット超格子あるいはドープされた不純物が、価電子帯上端のエネルギー準位と伝導帯下端のエネルギー準位との間の中間準位を形成し、
中間準位のキャリアの内、伝導帯下端のエネルギー準位より高いエネルギーを有するホットキャリアを前記電極から電流として取り出すことを特徴とする太陽電池。
【請求項4】
前記ホットキャリアは、バンドギャップよりエネルギーの小さい波長の光が吸収され、中間準位のキャリアの温度が上昇したものであることを特徴とする請求項1乃至3に記載の太陽電池。
【請求項5】
中間準位のキャリアの温度の上昇は、集光によるものであることを特徴とする請求項4に記載の太陽電池。
【請求項6】
価電子帯上端のエネルギー準位と伝導帯下端のエネルギー準位との間の中間準位を備え、中間準位のキャリアの内、伝導帯下端のエネルギー準位より高いエネルギーを有するホットキャリアを電流として取り出す太陽電池の調製方法であって、
太陽電池のホスト半導体の組成を調製してバンドギャップを制御するバンドギャップ制御ステップと、
光吸収層となる半導体の組成、量子効果が現れるサイズ、量子次元、ドープする不純物、不純物ドープ量、或は、不純物のドープ位置の少なくとも1つを調製して中間準位を形成し、該中間準位と伝導帯のエネルギー準位の差を所定値に制御する中間準位制御ステップと、
を備えることを特徴とする太陽電池の調製方法。
【請求項7】
前記所定値は、太陽電池の変換効率が極大値となる値であることを特徴とする請求項6に記載の太陽電池の調製方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透過損失及び熱損失を抑制して太陽光エネルギーの変換効率を向上させる太陽電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
昨今、CO2を排出しないクリーンなエネルギー源として太陽電池が注目され、その普及が進みつつある。現在、最も普及している太陽電池は、シリコンを用いた単接合型太陽電池である。単接合型太陽電池は、p型半導体とn型半導体を接合したp−n接合により構成される。価電子帯(Valence Band:VB)上端と伝導帯(Conduction Band:CB)下端のエネルギー差をバンドギャップエネルギー(E)という。半導体にEより高いエネルギーを持つ光が入射すると、その光は吸収される。光が吸収されると、VBに存在する電子はCBへ励起され、VBには正孔が生成される。生成された電子と正孔は、n型半導体のドナーイオンとp型半導体のアクセプタイオンによって発生している空乏層内の電界によって、それぞれn型半導体側とp型半導体側へ移動する。その後、電子が電極を通じて外部回路に流れ出ることで電流として取り出すことができる。
【0003】
単接合型太陽電池(以下では、単に太陽電池と呼ぶ)は、いくつかの避けられない損失が存在するために、入射した光のエネルギーは100%、電気エネルギーに変換されない。主な損失としては、図1にしめすように、Eより小さなエネルギーを持つ光が入射した際は、光のフォトンは吸収されず透過損失となり、また 、Eより大きなエネルギーを持つ光が入射した際は、電子、正孔はそれぞれCB下端、VB上端よりも高いエネルギーで励起されるが、励起されたキャリアは電極へ到達する前に、過剰なエネルギーをフォノン散乱などにより熱損失となってしまう。
【0004】
上記の如く、太陽電池のエネルギー変換効率は、主に熱損失と透過損失などの避け難い損失の存在によって、超えることが困難な変換効率の上限が存在する。通常、太陽電池のエネルギー変換効率は約30%がその上限とされている。上記の避け難い損失を仮に抑制することができるならば、変換効率の大幅な向上が期待できる。
【0005】
ここで、太陽電池の変換効率を求める際に標準となる太陽光スペクトルが必要となる。太陽光スペクトルとは、太陽光がどれだけの距離の大気を通過したかを表したものでエアマス(air mass coefficient:AM)が使用される。地球表面の法線に対して角度θで入射する太陽光のAMは、1/cosθで与えられる。AM1.5は穏やかな気候における太陽光スペクトルであり、太陽電池の効率を決定するための標準スペクトルである。
【0006】
図2に、AM1.5非集光下における太陽電池のShockley-Queisserモデルにおける入射光エネルギーに対する太陽電池の出力と各損失の割合を示す。理論変換効率は、キャリアの再結合を考慮した詳細平衡時における理論計算により求めている。図に示されるように、太陽電池のAM1.5非集光下での理論変換効率の最大値、すなわち、Shockley-Quisserの理論限界値(SQ理論限界)は、Eが1.34eVのときで約33%となる。
【0007】
SQ理論限界を超える構造をもった太陽電池を第3世代太陽電池と呼び、現在研究が進められている。第3世代太陽電池の例として、ホットキャリア型太陽電池(例えば、非特許文献1を参照)や中間バンド型太陽電池(例えば、特許文献1,2を参照)などが知られている。
【0008】
ホットキャリア型太陽電池は、キャリア生成層とエネルギー選択電極(Selective Energy Contact:SEC)から構成される太陽電池である。SECとは、狭いEを持つ電子移動層と正孔移動層をキャリア生成層に隣接して形成することで、特定のエネルギーを持つキャリアが移動層を介して電流として取り出すことを実現するものである。Eよりも高いエネルギーをもった光を吸収したときに励起されたキャリアを、エネルギー緩和する前にSECを介して取り出すことで、熱損失を抑制し、高効率化を目指す太陽電池である。ホットキャリア型太陽電池の概念図を図3に示す。ホットキャリア型太陽電池のAM1.5非集光下の理論変換効率は約66%とされており、後述する中間バンド型太陽電池と同様に高効率化を次世代の実現する太陽電池として注目されている。しかし、キャリアがエネルギー緩和する前に電流として取り出せるようにデバイス化するには至っていないのが現状である。
【0009】
非特許文献1には、量子井戸を有するキャリア生成層において、集光によるキャリア温度の上昇に関して、量子井戸のパラメータ(組成比、幅、数)依存性について開示されている。非特許文献1は、ホットキャリア型太陽電池に関するものであり、一般的に使われる共鳴トンネリング構造など非常に狭いエネルギー範囲のキャリアのみが通過できるエネルギー選択電極(非特許文献1のFig.1には“ESC”と記述されているが、“SEC”と同義である)の存在を前提としている(図4を参照)。
【0010】
次に、中間バンド型太陽電池(Intermediate Band Solar Cell:IBSC)について説明する。中間バンド型太陽電池の概念図を図5に示す。
中間バンド型太陽電池は、図5のように、太陽電池のVBとCBの間に中間バンド(Intermediate Band:IB)と呼ばれる電子の許容帯を挿入した構造をもつ。中間バンドの形成には、半導体のホスト半導体に対して遷移金属を高濃度ドーピングする方法や、量子ナノ構造(量子井戸,量子ドットなど)を形成する方法が研究されている。中間バンドを挿入することで、従来の太陽電池の価電子帯から伝導帯への電子励起に加えて、価電子帯から中間バンド、そして中間バンドから伝導帯への新たな電子励起が可能となる。新たな電子励起が可能となることで、価電子帯−伝導帯間のエネルギーEVCよりも小さなエネルギーの光を吸収し光電変換することが可能になる。このため、中間バンド型太陽電池は、従来の太陽電池と比べて透過損失を抑制して、SQ限界を超える高いエネルギー変換効率が得られると期待されている。
【0011】
中間バンド型太陽電池は、AM1.5非集光下において、EVCが2.1eV、中間バンド(IB)−伝導帯(CB)間のエネルギーEICが0.75eVのときに理論変換効率の最大値が約48%となる。中間バンド型太陽電池は、太陽電池の理論変換効率の約33%を大きく上回ることから、注目を集めている。しかしながら、実験値での変換効率の最大値は非集光下で約18%となっており、Si系太陽電池の実験値での最大変換効率である約29%を超えることができていない。実際の中間バンド型太陽電池の変換効率が低い原因の1つとしては、中間バンド(IB)−伝導帯(CB)間の光によるキャリアの励起効率が悪いことが考えられる。実際のInAs/GaAs量子ドットを用いた中間バンド型太陽電池において、強度の強いレーザーを用いて中間バンド(IB)−伝導帯(CB)間のキャリアの励起を引き起こすことでの電流の増加が観測されているが、電流の増加が不十分である。中間バンド型太陽電池の高効率化に向けて、中間バンド(IB)−伝導帯(CB)間の光によるキャリアの励起を効率良く起こす、或は、光以外の方法で電流を増加させるような新しい太陽電池の構造が求められている。
【0012】
上記の通り、従来から透過損失を抑制する方法として、太陽電池の価電子帯(VB)と伝導帯(CB)の間に中間バンド(IB)を設ける中間バンド型太陽電池が検討されてきた。しかし、中間バンド(IB)から伝導帯(CB)への遷移は光吸収によって実現するとされているが、実際には、光吸収係数は非常に小さく、中間バンドによる透過損失の抑制効果を実現するには、もっと効率的に中間バンド(IB)から伝導帯(CB)に電子を汲み上げる仕組みが必要であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2012−195381号公報
【特許文献2】特開2012−089756号公報
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】L. C. Hirst et al., Hot Carriers in Quantum Wells for Photovoltaic Efficiency Enhancement, IEEE JOURNAL OF PHOTOVOLTAICS, VOL.4, NO.1, pp.244-252, JAN. 2014.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
上述の如く、現状の中間バンド型太陽電池は、光による中間バンド−伝導帯間の電子励起の効率が良くないといった問題があり、中間バンドによる透過損失の抑制効果を実現するには、もっと効率的に中間バンドから伝導帯に電子を汲み上げる仕組みが必要とされていた。
かかる状況に鑑みて、本発明は、中間バンド内の高い温度をもつ電子、すなわちホットキャリアを利用した新しい中間バンド型太陽電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、第3世代太陽電池における中間バンド型太陽電池の高効率化について鋭意検討した結果、従来は熱損失となっていたエネルギーを電子の温度上昇に利用することにより、光以外の方法で電流を増加できることを知見した。
【0017】
すなわち、本発明の太陽電池は、価電子帯上端のエネルギー準位と伝導帯下端のエネルギー準位との間の中間準位を備え、中間準位のキャリアの内、伝導帯下端のエネルギー準位より高いエネルギーを有するホットキャリアを電流として取り出すことを特徴とする。
中間準位に存在するキャリアが高いキャリア温度をもつホットキャリアになることによって、キャリアの高エネルギーでの占有確率が上昇する。すなわち、中間準位内の電子が高い電子温度をもつホットキャリアとなることにより、中間準位内の電子は、伝導帯下端のエネルギー準位より高いエネルギーに確率的に存在できるため、伝導帯下端のエネルギー準位より高いエネルギーで確率的に存在する電子を電流として取り出すことができる。
中間バンド型太陽電池の場合、中間バンド(IB)内の電子がホットキャリアとなることで、電子の分布関数が高エネルギー側に広がり、中間バンド(IB)内の電子は、伝導帯(CB)下端のエネルギーよりも高いエネルギーで確率的に存在できるようになる。価電子帯(VB)−中間バンド(IB)間で励起された電子のうち、伝導帯(CB)下端のエネルギーよりも高いエネルギーに確率的に存在している電子は、電流として取り出せるのである。
【0018】
ここで、中間準位は、量子井戸,量子細線,量子ドット超格子あるいは不純物ドープにより形成される。
ホスト半導体に対して、量子井戸(2次元構造),量子細線(1次元構造),量子ドット超格子といった微細な量子ナノ構造を形成することで、中間準位を形成できる。特に、量子ドット超格子によれば、多数の中間準位(ミニバンド)を形成できる。
不純物ドープにより形成される中間準位とは、不純物によるバンドギャップ内準位や、不純物の3次元的な配置に由来するバンドギャップ内準位をいう。
【0019】
より具体的には、本発明の太陽電池は、基板、p型半導体層、光吸収層、n型半導体層及び電極を有する太陽電池において、光吸収層が、量子井戸,量子細線あるいは量子ドット超格子を含有し、Cu(銅),In(インジウム),Ga(ガリウム),Al(アルミニウム)から選択される少なくとも1つの元素を含む、化合物半導体、金属窒化物、硫黄化合物、セレン化物、金属砒素化合物もしくは金属リン化合物、あるいはこれらの組み合わせによる合金半導体から構成される。そして、量子井戸,量子細線,量子ドット超格子あるいはドープされた不純物が、価電子帯上端のエネルギー準位と伝導帯下端のエネルギー準位との間の中間準位を形成する。そして、中間準位のキャリアの内、伝導帯下端のエネルギー準位より高いエネルギーを有するホットキャリアを電極から電流として取り出すことを特徴とする。
【0020】
上述の本発明の太陽電池において、ホットキャリアは、バンドギャップよりエネルギーの小さい波長の光が吸収され、中間準位のキャリアの温度が上昇したものであることが好ましい。
この中間準位のキャリアの温度の上昇は、集光によるものであることがさらに好ましい。集光されればされるほど、すなわち、集光倍率が高いほど、ホットキャリアになりやすいと考えられるからである。
【0021】
次に、本発明の太陽電池の調製方法について説明する。
本発明の太陽電池の調製方法は、価電子帯上端のエネルギー準位と伝導帯下端のエネルギー準位との間の中間準位を備え、中間準位のキャリアの内、伝導帯下端のエネルギー準位より高いエネルギーを有するホットキャリアを電流として取り出す太陽電池の調製方法であり、下記のステップを備える。
1)太陽電池のホスト半導体の組成を調製してバンドギャップを制御するバンドギャップ制御ステップ
2)光吸収層となる半導体の組成、量子効果が現れるサイズ、量子次元、ドープする不純物、不純物ドープ量、或は、不純物のドープ位置の少なくとも1つを調製して中間準位を形成し、該中間準位と伝導帯のエネルギー準位の差を所定値に制御する中間準位制御ステップ
【0022】
上記1)のバンドギャップ制御は、例えば、砒化ガリウム(GaAs)基板上のInGa1−xAs薄膜では、薄膜の組成を制御して、バンドギャップエネルギーEを0.36〜1.42eVまで幅広く制御することである。
【0023】
上記2)の中間準位制御における半導体の組成を制御するとは、量子井戸層を形成するInGa1−xAs薄膜の組成を制御することである。また、量子効果が現れるサイズを制御するとは、量子井戸層の厚み方向の幅を制御することである。また、量子次元を制御するとは、量子井戸(2次元構造),量子細線(1次元構造),量子ドット超格子といった構造を制御することである。また、ドープする不純物を制御するとは、不純物である遷移金属の種別を制御することであり、不純物ドープ位置を制御するとは、ドープする3次元的な位置を制御することである。
また、中間準位と伝導帯のエネルギー準位の差を所定値に制御するとは、太陽電池の変換効率が極大値をとるように、中間準位と伝導帯のエネルギー準位の差を制御するのが好ましい。
【発明の効果】
【0024】
本発明の太陽電池によれば、熱損失となっていたエネルギーを電子の温度上昇に利用し、伝導帯下端のエネルギー準位より高いエネルギーを有するホットキャリアを電流として取り出すことにより、光以外の方法で電流を増加させることができる。本来なら透過して損失となる光を中間バンドで吸収し、中間バンドに高密度にキャリアを生成することによって伝導帯までキャリアを汲み上げ、太陽電池で生成される電流を増加させてエネルギー変換効率を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】透過損失と熱損失の説明図
図2】Shockley-Queisserモデルにおける入射光エネルギーに対する太陽電池の出力と各損失の割合を示すグラフ
図3】ホットキャリア型太陽電池の概念図
図4】非特許文献1のFig1に開示されたホットキャリア型太陽電池の概念図
図5】中間バンド型太陽電池の概念図
図6】本発明の太陽電池における電流の説明図
図7】従来の中間バンド型太陽電池における電流の説明図
図8】電子のフェルミ分布関数と電子温度の関係を示すグラフ
図9】本発明の太陽電池におけるホットキャリアを利用して電流を取り出す概念図
図10】本発明の太陽電池における電子−正孔の擬フェルミレベルの説明図
図11】EVC=1.42eVのときのVI間で吸収できるフォトン数の比較グラフ
図12】量子井戸型太陽電池の集光倍率とキャリア温度のグラフ
図13】EVCモデルとEVIモデルの概念図
図14】EVCモデルにおける変換効率ηのXとEIC依存性を示すグラフ
図15】フォトン数と電子の占有確率の間のトレードオフの関係を示すグラフ
図16】EVIモデルにおける変換効率ηのXとEVC依存性を示すグラフ
図17】最大集光時の変換効率の理論値を示すグラフ(AM1.5,AM0)
図18】InGaAs量子井戸及びInAs/GaAs量子ドットのフォトルミネッセンス特性図
図19】InGaAs量子井戸及びInAs/GaAs量子ドットのエネルギーバンドの説明図
図20】キャリアの温度特性を示す図
図21】量子ドットによって中間準位が形成された単接合型太陽電池のエネルギー変換効率の理論値を示すグラフ
図22】量子井戸によって中間準位が形成された単接合型太陽電池のエネルギー変換効率の理論値を示すグラフ
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態の一例を、図面を参照しながら詳細に説明していく。なお、本発明の範囲は、以下の実施例や図示例に限定されるものではなく、幾多の変更及び変形が可能である。
【0027】
本発明の太陽電池における電流の様子を図6に示す。また、参考として、従来の中間バンド型太陽電池における電流の様子を図7に示す。従来の中間バンド型太陽電池における電子の励起は、価電子帯−伝導帯間(VC間)、価電子帯−中間バンド間(VI間)、中間バンド−伝導帯間(IC間)の全てにおいて、光によるものを想定していたが、これに対して本発明の太陽電池では、VC間とVI間の電子の励起を、従来の中間バンド型太陽電池と同様に光によるものとする一方、IC間は従来とは異なり、光によって電子の励起は起こらないとしている。
【0028】
本発明の太陽電池では、従来の中間バンド型太陽電池と同様に、電圧は、電子の擬フェルミレベルEfeと正孔の擬フェルミレベルEfhの差で決定される。また、従来の中間バンド型太陽電池と同様、EfeとEfhに加えて中間バンドの擬フェルミレベルEfiがあり、EfiはIB内に存在すると仮定できる。そのため、本発明の太陽電池では、VI間、IC間の擬フェルミレベルの差はそれぞれEfi−Efh、Efe−Efiと表すことができ、それらの和はEfe−Efhである。また、Efe−EfhはVC間の擬フェルミレベルの差と一致するため、VI間の電圧とIC間の電圧の和が、VC間の電圧に等しくなる。
ここで、電子はフェルミ粒子であり、フェルミ粒子である電子の占有確率はフェルミ分布関数に従うことになる。フェルミ分布関数は、下記式(1)で与えられる。式中においてTは電子の温度を表す。図8に電子のフェルミ分布関数と電子温度の関係を示す。
【0029】
【数1】
【0030】
図8(a)(b)は、それぞれ上記式(1)にT=300K、T=1000Kを代入した様子を表したものである。横軸は電子の占有確率、縦軸はあるエネルギーEと電子の擬フェルミレベルEfeの差(E−Efe)を表す。E=Efeのときは電子の占有確率が0.5となる。上記式(1)のf(E)は、図8に示すように、Tの上昇に伴って高エネルギー側における電子の占有確率が増加する。VI間での光吸収で励起されてIBに存在する電子は、Tの上昇に伴って高エネルギー側での占有確率が増加し、IB内の電子は伝導帯下端のエネルギーEよりも高いエネルギーに確率的に存在できる。
【0031】
本発明の太陽電池では、あるエネルギーに確率的に存在する電子数は、VI間で励起された電子の数と分布関数の積で与えると定義している。そして、VI間で励起された電子のうち、Eよりも高いエネルギーで確率的に存在する電子は電流として取り出せるものとする。この過程によって取り出した電流を、ホットキャリアを利用して取り出せる電流と呼ぶことにする。図9に、本発明の太陽電池におけるホットキャリアを利用して電流を取り出す概念図を示す。
【0032】
本発明の太陽電池では、図10に示すように、VC間の電子−正孔の擬フェルミレベルとVI間の電子−正孔の擬フェルミレベルは別々に開くものであると定義する。つまり、本発明の太陽電池では、VC間とVI間の電子の擬フェルミレベルは一致しておらず、全体の電圧はVC間の電子−正孔の擬フェルミレベルの差で決まると定義する。本発明の太陽電池の構造を、以下では、ホットキャリア中間バンド型太陽電池モデル(HCIBSC)と呼ぶ。
HCIBSCでは、あるエネルギーEでホットキャリアを利用して取り出せる電子数nTe(E)は、電子の分布関数と、VI間で生成された電子数の積で表せる。HCIBSCにおける上記式(1)のEfeとTの設定方法について後述する。その後、ホットキャリアを利用して取り出せる電流をどのように求められるかを述べる。
【0033】
先ず、HCIBSCにおいて、Efeをどのように設定したのかを述べる。HCIBSCでは、上記式(1)のEfeはVI間の電子の擬フェルミレベルを表すとした。EfeはIB内に存在するものと仮定した。これはLuqueとMartiが提唱した中間バンド型太陽電池のモデルと同じ仮定であり、IBの途中まで電子が埋まっていることを意味する。EfeをIB内に存在すると仮定したことで、IB内の電子が抜け出したとしても、抜け出した分の電子はVBからの励起で補われる。そのためIB内の電子が空になることがあり、満たされることはなく、常にVI間およびIC間の電子の遷移を可能とする。
【0034】
次に、HCIBSCでは、Tをどのように設定していたのかを述べる。VI間で励起される電子数は、VI間で吸収するフォトン数に等しいので、EVIによって変化する。図11に、AM1.5非集光下におけるEVC=1.42eVのときのVI間で吸収できるフォトン数(FsVI)の比較を示す。図11(a)に示すEVI=0.80eVのときのフォトン数(FsVI)は、0.80eVから1.42eVのエネルギーを持つフォトンの数である。一方、図11(b)に示すEVI=1.10eVのときのフォトン数(FsVI)は、1.10eVから1.42eVのエネルギーを持つフォトンの数である。図11よりEVIが小さければフォトン数(FsVI)が増加し、VI間で励起される電子数も増加することがわかる。
【0035】
またVI間で励起される電子数は、集光倍率によっても変化する。集光倍率をXとすると、VI間で励起される電子数はXFsVIで表すことができる。
図12に、InGaAs/GaAsPの量子井戸型太陽電池の集光倍率と、キャリア温度(Teh)の関係を示す。ここで、図12の横軸は集光倍率(Suns equivalent)、縦軸はキャリア温度Tehを表す。“deep well”はIn0.2Ga0.8Asの試料、“shallow well”はIn0.11Ga0.89Asの試料をそれぞれ測定して見積られた値である。“deep well”のTehは、1.30eVの発光を観測することにより実験的に見積られている。
【0036】
本発明の太陽電池では、図12から“deep well”の場合、集光倍率が300増加することで、キャリア温度が線形に約1℃上昇すると見做している。なお、これは計算上の単なるモデル化であって、キャリア温度の物理的な変化を限定するものではない。量子構造の状態密度のエネルギー分布によってはキャリア温度が集光倍率に非線形に応答することがある。
1.30eVの発光を観測しているので、非集光でのキャリア数は1.30eVから1.42eVのエネルギーに含まれるフォトンの数をFrefとすると、集光倍率300のときは300Frefとなる。ここからHCIBSCでは、XFsVIが300Fref増加すると、電子温度Tが1℃上昇すると仮定した。下記式(2)にHCIBSCでのTとXFsVIの関係を示す。式(2)において、Tは非集光時において、Frefの電子がVI間で励起されたときの電子の温度である。
【0037】
【数2】
【0038】
HCIBSCでは、太陽電池の格子温度と同じであると仮定し、T=300Kとした。dT/d(XFsVI)はXFsVIが300Fref増加すると、電子温度Tが1℃上昇すると仮定したことから、dT/d(XFsVI)=1/300Frefとした。よって、HCIBSCでは下記式(3)を用いてTを求めた。
【0039】
【数3】
【0040】
HCIBSCでは、あるエネルギーにおけるホットキャリアを利用して取り出せる電子数nTe(E)は、電子の分布関数f(E)とVI間で生成された電子数の積で表すことができるとした。VI間で生成された電子数は、VI間で吸収できるフォトン数XFsVIに等しい。よってnTe(E)は下記式(4)で表すことにした。ここで上述した式(1)より、E=Ffeのときf(E)=0.5となるが、E=FfeのときnTe(E)=XFsVIと書き表すため、式(4)に示すように2を乗算している。
【0041】
【数4】
【0042】
また、単位エネルギーあたりに存在する電子数ΔnTe(E)は、nTe(E)を微分した下記式(5)で与えられる。
【0043】
【数5】
【0044】
ホットキャリアを利用して取り出せる電流ITeは、Eより高いエネルギーに確率的に存在している電子を取り出すものとした。よって、ITeは、Eから十分大きなエネルギーEまでのΔnTe(E)を積分した値に電荷素量をかけたものであるとし、下記式(6)で表すことができる。
【0045】
【数6】
【0046】
また、系全体として取り出せる電流Itotalは、VC間で取り出せる電流IVCと、IBを介して取り出せる電流、すなわち、IC間で取り出せる電流IICの和であり、Itotal=IVC+IICと表せる。また、電圧Vtotalは、VC間の電子−正孔の擬フェルミレベルの差であるとしたので、Vtotal=VVCと表せる。また、IC間で取り出せる電流IICは、IBからCBへ取り出した電流なので、上記式(6)のITeと等しいので、IIC=ITeと表せる。ここで、IVCとVVCとの関係は、太陽電池の電流電圧特性を表す下記式(7)で表せる。ここで、Xは集光倍率、kはボルツマン定数、Tは太陽電池の格子温度である。
【0047】
【数7】
【0048】
また、下記式(8)に示すFc0は、太陽電池自体の温度による電子の励起数であり、プランクの黒体輻射の式を積分することで求めている。式中、νは振動数を表し、νはE分のエネルギーをもつフォトンの振動数を表し、2πは太陽電池から放出するフォトンの立体角を表す。
【0049】
【数8】
【0050】
上述の如く、系全体として取り出せる電流Itotalは、Itotal=IVC+IICと表せることから、上記式(6)と式(8)を代入して下記式(9)が得られる。そして、上記式(9)において、VVC=Vtotalと書きかえると、下記式(10)が得られる。
【0051】
【数9】
【0052】
【数10】
【0053】
上記式(10)から、ItotalとVtotalの積が最大となる電流と電圧をImaxとVmaxと表すと、HCIBSCの出力Pmaxは、Pmax=Imax×Vmaxで表せる。変換効率ηは、入射光エネルギーをPinとして、出力PmaxをPinで除算した下記式(11)で求めることができる。
【0054】
【数11】
【0055】
以下の実施例では、ホットキャリア中間バンド型太陽電池(HCIBSC)の一例として、単接合型太陽電池のバンドギャップ中に中間バンドを1つ設けたモデルで数値シミュレーションを行い、具体的な変換効率を計算した結果について説明する。
変換効率ηの計算は、IC間のエネルギーEICと集光倍率Xを変数として行った。入射光はAM1.5スペクトルを用いた。図13に示すように、EICを次の異なる2種類の方法で変化させて数値シミュレーションを行った。以下では、EVCを固定したうえでEICを変化させるモデルと、EVIを固定したうえでEICを変化させるモデルを、それぞれEVCモデル,EVIモデルと呼ぶことにする。
【0056】
VCモデルでは、ホスト半導体をGaAsと仮定し、IB形成方法の変更を想定したモデルとした。GaAsのEは1.42eV程度なので、EVC=1.42eVと固定した。一方、EVCモデルはIBの形成方法は固定したうえで、ホスト半導体となる材料を変更することを想定したモデルとした。InAs/GaAs量子ドットを用いた中間バンド型太陽電池のIB形成方法での典型的なEVIは1.00eV程度である。よってEVCモデルはEVI=1.00eVと固定した。
【実施例1】
【0057】
実施例1では、EVCモデルにおける集光倍率とIC間のエネルギーを変化させたときのエネルギー変換効率について説明する。
図14に、EVCモデルにおける変換効率ηのXとEIC依存性を示す。図の縦軸はEIC、横軸はXを表す。変換効率ηは、等高線およびプロットで表す。EIC=0eVのときは、Eが1.42eVの単接合型太陽電池の場合と等しい。
図14よりXの増加に伴って、変換効率ηが単調に上昇することがわかる。上述の式(7)を、VVCについて解いたものを下記式(12)で表す。
【0058】
【数12】
【0059】
上記式(12)からXが増加するとVVCが増加することがわかる。また上述の式(3)からFsVIが増加すると電子温度Tが上昇し、上述の式(1)からTが上昇すると高エネルギー側におけるf(E)が増加することがわかる。上述の式(4),(5),(6)からf(E)が増加するとITeが増加する。以上から、Xの増加に伴って、VVCの増加と高エネルギー側におけるf(E)の増加を引き起こし、その結果、変換効率ηが上昇することがわかる。
【0060】
また、図14から、Xを固定し、EICを変化させるとEIC=0.03eVのときに変換効率が最大値をとることがわかる。非集光下、EIC=0.03eVのときηは約33.1%であり、単接合型太陽電池の約32.6%と比較すると、0.5%の高効率化が見積られた。また、X=45000、EIC=0.03eVのときは、変換効率ηは約42.1%であり、バンドギャップエネルギーが1.42eVの単接合型太陽電池の約41.1%と比較すると1.0%の高効率化が見積られた。EVCモデルにおいて、EICの変化が与える影響を考察する。
【0061】
図11に示すように、EICが小さい場合は、EVIが大きくなるためにフォトン数(FsVI)が減少する。またEfeとEの差が小さくなるために、Eより大きなエネルギーでの電子の占有確率は上昇する。反対に、EICが大きい場合は、EVIが小さくなるためにフォトン数(FsVI)が増加する。またEfeとEの差が大きくなるためにEより大きなエネルギーでの電子の占有確率は減少する。このようにEICの変化に応じて、フォトン数(FsVI)と電子の占有確率の間にはトレードオフの関係が存在することがわかる。
【0062】
図15に、EICを変化させたときの電子の占有確率とフォトン数(FsVI)との間のトレードオフの関係を示す。ITeが最大となるのは、EIC=0.03eVのときであることがわかった。
以上から、HCIBSCは、ホスト半導体にGaAsを利用する場合、EIC=0.03eVとなるように中間バンド(IB)を形成することにより、高効率化を図れることがわかる。
【実施例2】
【0063】
実施例2では、EVIモデルにおける集光倍率とIC間のエネルギーを変化させたときのエネルギー変換効率について説明する。
図16に、EVIモデルにおける変換効率ηのXとEVC依存性を示す。図の縦軸はEVC、横軸はXを表す。変換効率ηは、等高線およびプロットで表す。
VCモデルと同様にXの増加に伴って、変換効率ηが単調に上昇することがわかる。また、Xを固定し、EVCを変化させると、EVCがおおよそ1.05eV、1.16eV、1.34eVのときに、変換効率ηが極大値をもつことがわかる。EVCが約1.05eVのときはEICが約0.05eVとなり、EVCモデルで見積られたITeが最も大きくなる条件におおよそ一致する。よってEVCが約1.05eVのときはホットキャリアを利用した電流が増加することから、変換効率ηは極大値をとることが期待できる。
【0064】
1.16eVと1.34eVにみられる変換効率ηの極値構造は、AM1.5のスペクトルの微細構造に起因する。図17にAM1.5における最大集光時(45900)の変換効率の理論値を示す。図17から、バンドギャップが凡そ1.16eV、1.34eVのときに、AM1.5のスペクトル構造に依存して単接合型太陽電池の変換効率は極大値をとることがわかる。これに伴ってEVCがおおよそ1.13eV、1.34eVのときの極大値は、VC間のキャリアの光遷移による影響が大きくなることによるものであることがわかる。
【0065】
以上の結果、HCIBSCは、ホスト半導体はEが1.05eV、1.13eV、1.34eVの条件に、凡そ該当するもので、かつ中間バンド(IB)を形成できる材料を利用する必要があることがわかる。この条件に該当する材料として、Eが1.42eVで、量子ドットを利用した中間バンド型太陽電池によく利用されているGaAsが挙げられる。
また、実施例1で説明したEVCモデルから、ホスト半導体にGaAsを利用する場合、高効率化のためには、EIC=0.03eVとなるように、中間バンド(IB)を形成すべきであることがわかっている。InAs/GaAsの量子ドットを用いた中間バンド型太陽電池の典型的なEVC,EICは、それぞれEVC=1.42eV,EIC=0.40eVとなっていることから、EIC=0.03eVとは、従来の中間バンド型太陽電池よりも遥かに低いエネルギーであることがわかる。
VCモデルとEVIモデルの2種類の数値シミュレーション結果から、ホットキャリアを利用した高効率の中間バンド型太陽電池を実現するためには、ホスト半導体となる材料は、Eが1.05eV、1.13eV、1.34eVの条件に凡そ該当するものを使用し、中間バンド(IB)はEIC=0.03eVとなるように形成する必要がある。
【実施例3】
【0066】
実施例3では、光吸収層のホスト半導体にGaAsを用いた単接合型太陽電池において、InGaAs量子井戸またはInAs/GaAs量子ドットによって中間準位を設けた場合について、図18〜22を参照して説明する。
図18は、InGaAs量子井戸及びInAs/GaAs量子ドットのフォトルミネッセンス特性図を示している。InGaAs量子井戸の場合、1.35evに中間準位が形成される。また、InAs/GaAs量子ドットの場合、1.05evに中間準位が形成される。
GaAsのEは1.42eV程度であることから、InGaAs量子井戸により形成された中間準位との差、すなわち、EICは0.07eV程度となる(図19(1)を参照)。一方、InAs/GaAs量子ドットにより形成された中間準位との差であるEICは0.37eV程度となる(図19(2)を参照)。
【0067】
図20は、キャリアの温度特性を示している。図20に示すように、InGaAs量子井戸の場合、キャリア温度は100〜200(K)であり、InAs/GaAs量子ドットの場合、キャリア温度は800〜2000(K)であり、InAs/GaAs量子ドットの方が、InGaAs量子井戸よりも、8〜10倍程度、キャリア温度が高くなることがわかる。また、入射フォトン数が1021から1022に増加すると、キャリア温度が約2倍になることがわかる。
すなわち、InAs/GaAs量子ドットの方が、InGaAs量子井戸よりも、キャリア温度がより高くなることから、キャリアがホットキャリアになりやすく、キャリアの高エネルギーでの占有確率が上昇することになる。
【0068】
図21は、量子ドットによって中間準位が形成された単接合型太陽電池のエネルギー変換効率の理論値を示している。また、図22は、量子井戸によって中間準位が形成された単接合型太陽電池のエネルギー変換効率の理論値を示している。それぞれ、AM1.5における集光倍率が、1倍、10倍、100倍、1000倍、10000倍、45900倍のプロットを示している。プロットに付記している増分(%)は、それぞれのプロットにおける変換効率の極大値と、EIC=0eVの時のエネルギー効率の値との差分を表している。
図21に示すように、量子ドットによって中間準位が形成された単接合型太陽電池のエネルギー変換効率は、集光倍率10倍以上で、EIC=0.3eV付近で極大値になる。また、集光倍率10000倍以上で、EIC=0.5eV付近で極大値になる。InAs/GaAs量子ドットの場合(EIC=0.37eV)、集光倍率10倍以上で、ほぼ極大値に近いエネルギー変換効率となることがわかる。特に、InAs/GaAs量子ドットの場合、AM1.5における最大集光時(45900)の変換効率は50%に達することがわかる。
また、図22に示すように、量子井戸によって中間準位が形成された単接合型太陽電池のエネルギー変換効率は、集光倍率によって極大値となるEICは変動するが、概ねEIC=0.04〜0.08eVで極大値になる。InGaAs量子井戸の場合(EIC=0.07eV)、集光倍率が増えるほど極大値に近いエネルギー変換効率となることがわかる。
【0069】
(その他の実施例)
(1)上記実施例では、太陽電池の光吸収層のホスト半導体にGaAsを用いたが、Cu(銅),In(インジウム),Al(アルミニウム)を含む、化合物半導体、金属窒化物、硫黄化合物、セレン化物、金属砒素化合物もしくは金属リン化合物、あるいはこれらの組み合わせによる合金半導体でもよい。例えば、AlGaAs、InGaAs,InGaN,InAlGaN,GaInPなどを用いても良い。
(2)上記実施例では、中間バンドを形成するのに、量子井戸、量子ドット超格子を用いたが、量子細線、ホスト半導体に遷移金属のドーピングにより形成しても構わない。
(3)上記実施例では、InGaAsの量子井戸を用いているが、多重量子井戸を用いても構わない。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明は、単接合型太陽電池に有用である。単接合型太陽電池のエネルギー変換効率は約30%が限界とされていたが、このエネルギー変換効率を、原理的には最大で10%以上引き上げることが可能である。高効率な太陽電池は、発電単価を引き下げることができ、現在のところ40円/KWhと言われている太陽電池の発電単価を、石油火力発電並みの30円/KWh以下まで引き下げる可能性がある。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22