特許第6385724号(P6385724)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6385724
(24)【登録日】2018年8月17日
(45)【発行日】2018年9月5日
(54)【発明の名称】ピストンリング
(51)【国際特許分類】
   F16J 9/16 20060101AFI20180827BHJP
   F02F 5/00 20060101ALI20180827BHJP
【FI】
   F16J9/16
   F02F5/00 K
【請求項の数】6
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2014-117463(P2014-117463)
(22)【出願日】2014年6月6日
(65)【公開番号】特開2015-230072(P2015-230072A)
(43)【公開日】2015年12月21日
【審査請求日】2017年5月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000139023
【氏名又は名称】株式会社リケン
(74)【代理人】
【識別番号】100080012
【弁理士】
【氏名又は名称】高石 橘馬
(72)【発明者】
【氏名】川西 実
【審査官】 杉山 悟史
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−224939(JP,A)
【文献】 実開昭55−166947(JP,U)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0065008(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16J 9/00 − 9/28
F02F 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2ストロークディーゼルエンジンのシリンダ内を往復動するピストンの外周部に設けられたリング溝に装着されたピストンリングであって、一方の合口端部に周方向に突出する凸部が形成され、他方の合口端部に前記凸部を受入れ可能な凹部が形成されたガスタイト型合口を有し、前記凸部に少なくとも1以上のスリットを有し、前記スリットの先端が前記凸部の中立面より上側面側又は下側面側にあることを特徴とするピストンリング。
【請求項2】
請求項1に記載のピストンリングにおいて、前記スリットがピストン軸方向に平行で且つ内周面並びに上側面及び下側面のいずれか一方に開口していることを特徴とするピストンリング。
【請求項3】
請求項2に記載のピストンリングにおいて、前記スリットが複数個からなり、前記上側面と前記下側面に交互に開口していることを特徴とするピストンリング。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載のピストンリングにおいて、前記ピストンリングが鋼製であることを特徴とするピストンリング。
【請求項5】
請求項4に記載のピストンリングにおいて、前記スリットの先端部の曲率半径が0.5 mm以下であることを特徴とするピストンリング。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載のピストンリングにおいて、前記ガスタイト型合口がダブルステップ合口、ダブルアングル合口、又はダブルラウンド合口であることを特徴とするピストンリング。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2ストロークディーゼルエンジン用ピストンリングに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、船舶用の大型2ストロークディーゼルエンジンにおいて、例えばユニフロー掃気方式のエンジンでは、図8に示すように、シリンダライナの下部に多数の掃気ポート100が円周上に存在する。この掃気ポートは空気を導入する役割を担い、その開閉はピストンの往復動により行われる。よって、ピストンとシリンダダイナ間のシールを行うピストンリングは上記掃気ポートに接して摺動することになる。ピストンリングは自由状態で開口した合口を閉じることによって自己張力を持たせ、シリンダライナの中では所定の面圧が作用するように設計されており、従って、掃気ポートを通過する際に掃気ポートと干渉して重大なトラブルを起こすことが懸念される。
【0003】
掃気ポートを含む各種ポートとピストンリングとの干渉を回避するための手段として、特許文献1は、ピストンリングの外周面を高さ方向に中高状の円弧面に構成し、シリンダ内への掃気ポート又は排気ポートの開口部における縁角のうちシリンダ頂部より遠い部分における縁角を面取り角又は丸角にする一方、前記ピストンリング外周面における中高状円弧面のうち最大外径を呈する頂点部分を、当該ピストンリングの高さ方向の中心よりもピストン頂面から遠ざかる方向にずらせた部位に位置させたピストンリングを開示している。
【0004】
しかし、特許文献1はピストンリングの合口端部の飛び出しについては考慮していない。合口部については、従来、図13に示すように、斜め合口の合口部近傍を外周面と上下側面との角部を合口端部ほど大きく面取りしたピストンリングが使用されたが、近年の大型2ストロークディーゼルエンジンで使用されるガスタイト型の特殊合口を有するピストンリングに対応したものは提案されていない。ガスタイト型合口の断面積の小さな凸部を有する一方の合口端部は、高温ガスの暴露による熱変形や、摩耗したシリンダライナの影響により、掃気ポートに飛び出し易く、角部の面取りでは対応しきれない場合があり、特にピストンリングが強靱なスチールで製造されている場合には、掃気ポートとの強い干渉により、掃気ポート間の柱部等を破壊し、エンジンを損傷させ、重大事故に発展する危険がある。
【0005】
よって、ガスタイト型合口を有するピストンリングにおいて、何らかの合口端部と掃気ポートとの干渉が発生した場合において、エンジンの損傷にいたるような重大事故を回避する対策が求められているのが実情である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−224939号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記問題に鑑み、本発明は、大型2ストロークディーゼルエンジンで使用されるガスタイト型の特殊合口を有するピストンリングにおいて、合口端部と掃気ポートとの干渉を小さく抑え、エンジンの止まることのないピストンリングを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者達は、ピストンリングの合口端部と掃気ポートとの干渉を小さく抑えるために、合口端部の掃気ポートへの飛び出しを回避することではなく、飛び出したとしても合口端部の一部が容易に切り離れるよう、鋭意研究の結果、合口端部にスリットを導入することによって、強い干渉を回避することができることに想到した。
【0009】
すなわち、本発明のピストンリングは、2ストロークディーゼルエンジンのシリンダ内を往復動するピストンの外周部に設けられたリング溝に装着されたピストンリングであって、一方の合口端部に周方向に突出する凸部が形成され、他方の合口端部に前記凸部を受入れ可能な凹部が形成されたガスタイト型合口を有し、前記凸部に少なくとも1以上のスリットを有し、前記スリットの先端が前記凸部の中立面より上側面側又は下側面側にあることを特徴とする。
【0010】
前記スリットは、ピストン軸方向に平行で且つ内周面並びに上側面及び下側面のいずれか一方に開口していることが好ましい。また、前記スリットは複数個からなり、前記上側面と前記下側面に交互に開口していることが好ましい。
【0011】
前記ピストンリングは鋼製であることが好ましく、その場合、前記スリットの先端部の曲率半径は0.5 mm以下であることが好ましい。
【0012】
また、前記ガスタイト型合口はダブルステップ合口、ダブルアングル合口、又はダブルラウンド合口であることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明のピストンングは、ガスタイト型合口の周方向に突出する断面積の小さい凸部がシリンダライナの掃気ポート内に飛び出したとしても、前記凸部に少なくとも1以上のスリットがあり、スリット先端を起点として破断し、切り離されるため、合口端部と掃気ポートの強い干渉が回避され、エンジンを損傷させ、重大事故に発展するような重大なトラブルを回避することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明のピストンリングの周方向に突出する凸部を有する合口端部の一例を示す図である。
図2】本発明のピストンリングの周方向に突出する凸部に形成されるスリットに平行で、該スリットを含む断面を示す図である。
図3】本発明のピストンリングの周方向に突出する凸部に形成される別のスリットに平行で、該スリットを含む断面を示す図である。
図4】本発明のピストンリングの周方向に突出する凸部に形成される別のスリットに平行で、該スリットを含む断面を示す図である。
図5】本発明のピストンリングの周方向に突出する凸部に形成される別のスリットに平行で、該スリットを含む断面を示す図である。
図6】本発明のピストンリングの周方向に突出する凸部を有する合口端部の別の一例を示す図である。
図7】本発明のピストンリングの周方向に突出する凸部を有する合口端部の別の一例を示す図である。
図8】2ストロークディーゼルエンジン用シリンダライナの外観を示す図である。
図9】ガスタイト型合口の一例を示す図である。
図10】ガスタイト型合口の別の一例を示す図である。
図11】ガスタイト型合口の別の一例を示す図である。
図12】ガスタイト型合口とシリンダライナの掃気ポートとの干渉を示す図であり、(a)は合口端部が掃気ポートに飛び出した状態、(b)はピストンが上昇する際に合口端部と掃気ポートが干渉している状態、(c)はピストンが下降する際に合口端部と掃気ポートが干渉している状態を示す。
図13】合口近傍の外周面と上下側面との角部を面取りした従来の斜め合口を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を、図を参照しながら説明する。
【0016】
図9図11は、本発明のピストンリングの合口に係るガスタイト型合口を示す。図9は、いわゆるダブルステップ合口、図10はダブルアングル合口、図11はダブルラウンド合口である。これらは、いずれも、一方の合口端部に周方向に突出する凸部200が形成されており、この凸部200は断面積が小さく高温ガスの暴露により熱影響を受けやすいため、図12(a)に示すように掃気ポート100に飛び出しやすい傾向にある。
【0017】
2ストロークディーゼルエンジンでは、吸入・圧縮行程であるピストンの上昇行程において、図12(b)に示すように、凸部に形成された合口端部200と掃気ポート100の上端部で干渉する虞があり、爆発・排気行程であるピストンの下降工程においては、図12(c)に示すように、凸部に形成された合口端部200と掃気ポート100の下端部で干渉する虞がある。
【0018】
図12(b)の場合、凸部200の上側面側に引張応力が負荷され、図12(c)の場合、凸部200の下側面側に引張応力が負荷される傾向になる。
【0019】
図1は、本発明のピストンリングの周方向に突出する凸部1の形成された合口端部を示しており、凸部1に複数のスリット2, 3, 2, 3が形成されている。スリット2はピストン軸方向に平行で凸部1の内周面4及び上側面6に開口しており、スリット3はピストン軸方向に平行で凸部1の内周面4及び下側面7に開口している。図1ではスリット2, 3は上側面6と下側面7に交互に開口している。ここで、スリット2, 3は、ガスタイトの観点からは、外周面5に開口しないことが好ましい。
【0020】
図2は、図1のスリット2に平行で、該スリット2を含む断面を示しているが、スリット2の先端10は凸部1の中立面A-Aより下側面側にあって、図12(c)に該当するような凸部1の下側面側に引張応力が作用する場合にスリット先端10を起点として破断する。
【0021】
図3は、図1のスリット3に平行で、該スリット3を含む断面を示しているが、スリット3の先端11は凸部1の中立面A-Aより上側面側にあって、図12(b)に該当するような凸部1の上側面側に引張応力が作用する場合にスリット先端11を起点として破断する。
【0022】
一方、図4は内周面4と下側面7に開口する深さの浅いスリット8を示しているが、スリット8の先端12は凸部1の中立面A-Aより下側面側にあって、スリット先端の応力場は図2のスリット先端の応力場と類似したものとなる。但し、スリット先端の応力拡大係数は異なる。靱性の低い鋳鉄製ピストンリングの場合は、図4のようなスリットでも、図12(c)に該当するような凸部1の下側面側に引張応力が作用する場合にスリット先端12を起点として破断させることが可能となる。
【0023】
図5は、図4と反対に内周面4と上側面6に開口する深さの浅いスリット9を示している。この場合も、スリット先端の応力場は図3のスリット先端の応力場と類似したものとなり、靱性の低い鋳鉄製ピストンリングの場合は、図5のようなスリットでも、図12(b)に該当するような凸部1の上側面側に引張応力が作用する場合にスリット先端13を起点として破断させることが可能となる。
【0024】
なお、靱性の高いスチール製ピストンリングの場合は、スリットのサイズを考慮するだけでなく、スリット先端の曲率半径を所定の値以下に設定することが好ましい。スリット先端の曲率半径は0.5 mm以下が好ましく、0.1 mm以下がより好ましい。
【0025】
図6は、本発明のピストンリングの周方向に突出する凸部14の形成されたダブルアングル合口の合口端部を示しており、凸部14に複数のスリット15, 16, 15, 16が形成されている。スリット15はピストン軸方向に平行で凸部14の上側面17に開口しており、スリット16はピストン軸方向に平行で凸部14のアングル面18に開口している。
【0026】
図7は、本発明のピストンリングの周方向に突出する凸部19の形成されたダブルラウンド合口の合口端部を示しており、凸部19に複数のスリット20, 21, 20, 21が形成されている。スリット20はピストン軸方向に平行で凸部19の上側面22に開口しており、スリット21はピストン軸方向に平行で凸部19のラウンド面23に開口している。
【0027】
本発明のピストンリングは、ガスタイト型合口の凸部を有する一方の合口端部が、掃気ポートとの干渉により破断を繰り返していけば、凸部が極めて短くなる場合が想定される。そのような観点でもピストンリングの外周面はバレルフェイス面で構成し、上側面及び下側面との角部を面取り又は丸めておくことが好ましい。
【符号の説明】
【0028】
1, 14, 19 合口凸部
2, 3, 8, 9, 15, 16, 20, 21 スリット
4 内周面
5 外周面
6 上側面
7 下側面
10, 11, 12, 13 スリット先端
100 掃気ポート
200 合口凸部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13