(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
トルク伝達要素が係合するトラック溝を内周に形成したカップ部と、このカップ部の底部に形成された軸部とを別部材で構成し、前記カップ部を形成するカップ部材と前記軸部を形成する軸部材とを溶接してなる等速自在継手の外側継手部材の製造方法において、
前記カップ部材と軸部材を中炭素鋼で形成し、製造工程として、前記カップ部材は、その筒状部と底部を一体に形成した後、機械加工工程において前記底部の肉厚内に嵌合用孔を形成したカップ部材を準備し、前記軸部材は、機械加工工程において前記カップ部材の底部と接合される前記軸部材の端部に嵌合用外面を形成した軸部材を準備し、前記カップ部材の嵌合用孔と軸部材の嵌合用外面を嵌合して、この嵌合部に前記カップ部材の内側からビームを照射して溶接するものであって、
前記カップ部材の嵌合用孔と前記軸部材の嵌合用外面が、隙間を有する接合部と締め代を有する圧入部とで構成され、前記接合部の軸方向寸法を圧入部の軸方向寸法より長くし、接合部を圧入ガイドとすると共に、前記圧入部の直径寸法を前記接合部の直径寸法より大きくし、前記カップ部材の底部の肉厚内における外部側に前記圧入部を設けたことを特徴とする等速自在継手の外側継手部材の製造方法。
トルク伝達要素が係合するトラック溝を内周に形成したカップ部と、このカップ部の底部に形成された軸部とを別部材で構成し、前記カップ部を形成するカップ部材と前記軸部を形成する軸部材とを溶接してなる等速自在継手の外側継手部材において、
前記カップ部材と軸部材が中炭素鋼からなり、前記カップ部材は、筒状部と底部が一体成形され、この底部の肉厚内に嵌合用孔が形成されたものであり、前記軸部材は、前記底部に接合される端部に嵌合用外面が形成されたものであり、前記嵌合用孔に嵌合用外面が嵌合されて前記カップ部材と軸部材が溶接されており、この溶接部が前記カップ部材の内側から照射されたビームによるビードで形成されたものであって、
前記カップ部材の嵌合用孔と前記軸部材の嵌合用外面が、接合部と圧入部とで構成され、前記接合部の軸方向寸法が圧入部の軸方向寸法より長く形成され、接合部が圧入ガイドとされると共に、前記圧入部の直径寸法が前記接合部の直径寸法より大きく形成され、前記カップ部材の底部の肉厚内における外部側に前記圧入部が設けられていることを特徴とする等速自在継手の外側継手部材。
【背景技術】
【0002】
自動車や各種産業機械の動力伝達系を構成する等速自在継手は、駆動側と従動側の二軸をトルク伝達可能に連結すると共に、前記二軸が作動角をとっても等速で回転トルクを伝達することができる。等速自在継手は、角度変位のみを許容する固定式等速自在継手と、角度変位および軸方向変位の両方を許容する摺動式等速自在継手とに大別され、例えば、自動車のエンジンから駆動車輪に動力を伝達するドライブシャフトにおいては、デフ側(インボード側)に摺動式等速自在継手が使用され、駆動車輪側(アウトボード側)には固定式等速自在継手が使用される。
【0003】
摺動式又は固定式を問わず、等速自在継手は主要な構成部材として、内周面にトルク伝達要素が係合するトラック溝を形成したカップ部と、このカップ部の底部から軸方向に延びた軸部とを有する外側継手部材を備えている。この外側継手部材は、中実の棒状素材(
バー材)を鍛造加工やしごき加工等の塑性加工、切削、熱処理、研削等の加工を施すことによって、カップ部と軸部とを一体成形する場合が多い。
【0004】
ところで、外側継手部材として、長寸の軸部(ロングステム)を有するものを用いる場合がある。左右のドライブシャフトの長さを等しくするために、片側のドライブシャフトのインボード側外側継手部材をロングステムにし、このロングステムが転がり軸受によって回転支持される。ロングステム部の長さは、車種により異なるが、概ね300〜400mm程度である。この外側継手部材では、軸部が長寸であるために、カップ部と軸部を精度良く一体成形することが困難である。そのため、カップ部と軸部を別部材で構成し、両部材を摩擦圧接にて接合するものがある。このような摩擦圧接技術が、例えば、特許文献1に記載されている。
【0005】
特許文献1に記載された外側継手部材の摩擦圧接技術の概要を
図17および
図18に基づいて説明する。外側継手部材71の中間製品71’は、カップ部材72および軸部材73からなり、摩擦圧接によって接合されている。
図17に示すように、接合部74は、圧接に伴って内外径にバリ75が生じる。外側継手部材71の中間製品71’の軸部に転がり軸受(
図1参照)を装着するために、
図18に示すように、接合部74の外径側のバリ75を旋削等の加工により取り除く必要がある。図示は省略するが、中間製品71’はスプラインや止め輪溝等を機械加工して外側継手部材71の完成品となる。したがって、外側継手部材71と中間製品71’との間に細部の形状に異なるところがあるが、
図18では、説明を簡略化するため細部の形状の相違点は省略して、完成品としての外側継手部材71と中間製品71’を同じ部分に符号を付している。以降の説明においても同様とする。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前述した摩擦圧接によって生じた接合部74のバリ75は、摩擦熱とその後の冷却によって焼入れされて高い硬度を有すると共に、径方向と軸方向とに広がる歪んだ形状をしている。したがって、
図18に示すように、外径側のバリ75を旋削加工で除去する際、高い硬度によって旋削チップが激しく摩耗し、また、歪んだ形状によって旋削チップに欠けが生じやすい。そのため、旋削速度を上げることが難しく、旋削チップの1つのパス当たりの切削量が少なくパス数が増大するので、サイクルタイムが長く製造コストが上がるという問題がある。
【0008】
また、外側継手部材71の接合部74の接合状態を検査するために、高速探傷が可能な超音波探傷を行おうとしても、接合部74の内径側に残るバリ75によって超音波が散乱するため接合状態を確認できない。したがって、接合後に超音波探傷による全数検査ができないという問題もある。
【0009】
上記の問題に対して、接合にレーザ溶接あるいは電子ビーム溶接を行うことによって、摩擦圧接のような接合部表面の盛り上がりを抑えることが考えられるが、
図19に示すようなカップ部材72と軸部材73を突き合わせて溶接した場合、溶接中の加工熱により、中空空洞部76内の気体圧力が上昇し、溶接終了後は圧力の減少が生じる。この中空空洞部76の内圧の変化により、溶融物の吹き上がりが発生し、溶接部の外径の表面に凹み、溶接深さ不良や溶接内部に気泡が生じて溶接状態が悪化する。その結果、溶接部の強度が安定せず、品質に悪影響を及ぼすことになる。
【0010】
この対策として、カップ部材72と軸部材73を突き合わせ部位に形成される中空空洞部76を真空化して溶接することも考えられるが、後述するように技術面やコスト面等で問題が残ることが判明した。
【0011】
さらに、前述した
図17および
図18の摩擦圧接や
図19の溶接に用いたカップ部材72と軸部材73は、軸部分の途中位置で接合するものである。そのため、後述するように生産性の向上やカップ部材の品種統合によるコスト低減の面でも問題があることが判明した。
【0012】
加えて、自動車用等の量産製品である等速自在継手の外側継手部材では、カップ部材と軸部材の溶接前の圧入時の精度および作業性の向上を図ることが不可欠であることに着目した。
【0013】
本発明は、前述の問題点に鑑みて提案されたもので、その目的とするところは、溶接前の圧入時の精度および作業性の向上、溶接部の強度、品質の向上と共に溶接コストの削減、生産性の向上、並びに品種統合によるコスト低減、生産管理の負荷低減を可能にする外側継手部材の製造方法および外側継手部材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上記の目的を達成するため鋭意検討および検証し、以下の知見を見出した。そして、これらの多面的な知見を基に、新たな製造コンセプトを着想し、本発明に至った。
(1)レーザ溶接や電子ビーム溶接における生産技術の面では、カップ部材72と軸部材73を密閉空間に設置して真空引きし、中空空洞部76を真空化して溶接すると、製品サイズにより真空引きに要する時間が異なるといった問題がある。特に、ロングステムタイプの外側継手部材のような長い軸部材を溶接する場合、真空引き時間を多く要するため、サイクルタイムが長くなり、接合工程のコストアップに繋がる。
(2)また、生産性の面では、生産性向上を図るために、焼入れ焼戻しの熱処理を施した完成状態のカップ部材と軸部材を溶接する場合、溶接時の熱で周辺部の温度が上昇し、熱処理部の硬度が低下する問題がある。この対策として、溶接中に水冷や空冷等でワークとしてのカップ部材と軸部材を冷却する方法が考えられるが、密閉空間で適用した場合、真空度が下がり、前述した溶接部の強度の不安定や品質への悪影響という問題が依然として残ることが判明した。
(3)さらに、生産性や品種統合の面では、
図17〜19に示すカップ部材72は、鍛造加工等によりカップ部の底部より縮径された短軸部を有する形状であり、カップ部材72と軸部材73は、軸部の途中位置で接合されている。軸部材73は、組み付けられる車両によって、標準的な長さのステムやロングステムというタイプの違いに加えて、種々の軸径や外周形状が要求される。したがって、この軸部材73と接合されるカップ部材72の短軸部の軸径(接合径)や形状、長さ(接合位置)の両方が異なるため、一種類の軸部材73に対して専用のカップ部材72が必要になる。したがって、生産性の向上やカップ部材の品種統合によるコスト低減の面でも問題があることが判明した。
(4)さらなる項目として、自動車用等の量産製品である等速自在継手の外側継手部材では、カップ部材と軸部材の溶接前の圧入時の精度および作業性の向上を図るために、嵌合部の形状を工夫する必要があることが判明した。
【0015】
前述の目的を達成するための技術的手段として、本発明は、トルク伝達要素が係合するトラック溝を内周に形成したカップ部と、このカップ部の底部に形成された軸部とを別部材で構成し、前記カップ部を形成するカップ部材と前記軸部を形成する軸部材とを溶接してなる等速自在継手の外側継手部材の製造方法において、前記カップ部材と軸部材を中炭素鋼で形成し、製造工程として、前記カップ部材は、その筒状部と底部を一体に形成した後、機械加工工程において前記底部の肉厚内に嵌合用孔を形成したカップ部材を準備し、前記軸部材は、機械加工工程において前記カップ部材の底部と接合される前記軸部材の端部に嵌合用外面を形成した軸部材を準備し、前記カップ部材の嵌合用孔と軸部材の嵌合用外面を嵌合して、この嵌合部に前記カップ部材の内側からビームを照射して溶接するものであって、前記カップ部材の嵌合用孔と前記軸部材の嵌合用外面が、隙間を有する接合部と締め代を有する圧入部とで構成され、前記接合部の軸方向寸法を圧入部の軸方向寸法より長くし、接合部を圧入ガイドと
すると共に、前記圧入部の直径寸法を前記接合部の直径寸法より大きくし、前記カップ部材の底部の肉厚内における外部側に前記圧入部を設けたことを特徴とする。
【0016】
また、等速自在継手の外側継手部材としての本発明は、トルク伝達要素が係合するトラック溝を内周に形成したカップ部と、このカップ部の底部に形成された軸部とを別部材で構成し、前記カップ部を形成するカップ部材と前記軸部を形成する軸部材とを溶接してなる等速自在継手の外側継手部材において、前記カップ部材と軸部材が中炭素鋼からなり、前記カップ部材は、筒状部と底部が一体成形され、この底部の肉厚内に嵌合用孔が形成されたものであり、前記軸部材は、前記底部に接合される端部に嵌合用外面が形成されたものであり、前記嵌合用孔に嵌合用外面が嵌合されて前記カップ部材と軸部材が溶接されており、この溶接部が前記カップ部材の内側から照射されたビームによるビードで形成されたものであって、前記カップ部材の嵌合用孔と前記軸部材の嵌合用外面が、接合部と圧入部とで構成され、前記接合部の軸方向寸法が圧入部の軸方向寸法より長く形成され、接合部が圧入ガイドとされ
ると共に、前記圧入部の直径寸法が前記接合部の直径寸法より大きく形成され、前記カップ部材の底部の肉厚内における外部側に前記圧入部が設けられていることを特徴とする。
【0017】
上記の構成により、溶接部の強度、品質の向上、溶接コストの削減と共に、カップ部材および軸部材の生産性の向上、並びにカップ部材の品種統合によるコスト低減、生産管理の軽減が可能な外側継手部材の製造方法および外側継手部材を実現することができる。特に、カップ部材の嵌合用孔と軸部材の嵌合用外面を、隙間を有する接合部と締め代を有する圧入部とで構成し、接合部の軸方向寸法を圧入部の軸方向寸法より長くし、接合部を圧入ガイドとしたので、カップ部材と軸部材の同軸度および圧入時の芯出し作業性が向上する。
【0018】
上記のカップ部材の接合部の内径をジョイントサイズ毎に同一寸法にすることにより、品種統合するカップ部材の加工度を高め、生産性の向上および生産管理の軽減を一層促進することができる。
【0019】
ここで、特許請求の範囲および本明細書において、上記カップ部材の接合部の内径をジョイントサイズ毎に同一寸法にしたとは、カップ部材が1つのジョイントサイズで1種類、すなわち、1品番ということに限定されるものではなく、例えば、最大作動角の異なる仕様により1つのジョイントサイズで複数の種類(複数品番)のカップ部材を設定し、これらのカップ部材の上記接合部の内径を同一寸法にしたものを包む概念のものである。また、これに加えて、例えば、継手機能や製造現場の実情、生産性等を考慮して、カップ部材を熱処理前の中間部品と熱処理を施した完成部品の複数形態で管理するために、1つのジョイントサイズで複数の種類(複数品番)のカップ部材を設定し、これらのカップ部材の上記接合部の内径を同一寸法にしたものも包むものである。
【0020】
さらに、特許請求の範囲および明細書において、カップ部材の接合部の内径をジョイントサイズ毎に同一寸法にしたことは、等速自在継手の形式が異なる場合も含むものであり、例えば、インボード側では、トリポード型等速自在継手とダブルオフセット型等速自在継手の上記接合部の内径を同一寸法にすることや、アウトボード側では、ツェッパ型等速自在継手とアンダーカットフリー型等速自在継手の上記接合部の内径を同一寸法にすることも含む概念のものである。さらには、インボード側とアウトボード側の等速自在継手の上記接合部の内径を同一寸法にすることも可能である。
【0021】
上記の圧入部の直径寸法を接合部の直径寸法より大きくし、カップ部材の底部の肉厚内における外部側に圧入部を設けることが望ましい。これにより、カップ部材の底部から軸部材を通して圧入することができ、生産性が向上する。
【0022】
上記の接合部の隙間を直径で0.5mm以下に設定することにより、圧入ガイドの効果を得ると共に、溶接部の表面凹みや溶け落ち等の不良がなく、良好な溶接部を得ることができる。
【0023】
上記の溶接前にカップ部材と軸部材の少なくとも一方に完成部品としての熱処理後の研削加工や焼入れ後切削加工等の仕上げ加工が施されていることが望ましい。これにより、ジョイントサイズ毎に共用化された完成部品としてのカップ部材と車種毎に種々の軸部仕様を備えた軸部材が得られるので、それぞれ、品番を付与して管理することができる。したがって、カップ部材の品種統合によるコスト低減、生産管理の負荷軽減が顕著となる。また、共用化されたカップ部材と種々の軸部仕様を備えた軸部材は、鍛造加工、旋削加工、熱処理、さらには研削加工や焼入れ後の切削加工等の仕上げ加工を経た完成部品まで、それぞれ別々に製造でき、段取り削減等も含めて生産性が向上する。ただし、本明細書および特許請求の範囲において、完成部品としてのカップ部材や軸部材とは、前述した熱処理後の研削加工や焼入れ後の切削加工等の仕上げ加工(例えば、軸受装着面や滑り軸受面)が施されたものに限られず、前記仕上げ加工を残した熱処理完了状態のカップ部材や軸部材を含む概念のものである。
【0024】
上記の溶接を電子ビーム溶接とすることにより、接合部にバリが生じることがない。接合部の後加工の省略による製造コスト削減、さらには、接合部の超音波探傷による全数検査が確実に実施できる。また、電子ビーム溶接により、深い溶け込みが得られるので溶接強度が高く、かつ熱歪を小さくできる。
【0025】
上記のカップ部の内部を大気圧以下の状態で溶接することが望ましい。カップ部材の内部空間を真空引きするので、真空引きする空間が減少するため、サイクルタイムの短縮が可能になると共に、製品サイズによる真空引き時間の差を低減することができ、サイクルタイムを増加することなく他型番、品種に対応できる。また品質面では、カップ部材の内部空間を真空引きするので、溶接部の品質を向上できる。
【0026】
上記のカップ部および軸部を冷却しながら溶接することが望ましい。これにより、焼入れ焼戻しの熱処理を施した完成部品としてのカップ部材と軸部材を溶接する場合であっても、溶接時の熱で周辺部の温度が上昇による熱処理部の硬度が低下するという問題が解消される。また、カップ部および軸部を冷却する部位が、真空引きするカップ部材の内部空間と遮断されているので、真空度が下がることによる溶接部の強度の不安定や品質への悪影響という問題も解消される。
【0027】
上記の溶接前にカップ部材と軸部材の接合箇所を200℃〜650℃に予熱することや溶接後にカップ部材と軸部材の接合箇所を200℃〜650℃に後熱することが望ましい。これにより、溶接後の冷却速度を遅くすることで焼き割れを防止することができ、溶接した部位の硬度を調整し、良好な溶接状態を得ることができる。
【発明の効果】
【0028】
本発明に係る等速自在継手の外側継手部材の製造方法および外側継手部材によれば、溶接部の強度、品質の向上、溶接コストの削減と共に、カップ部材および軸部材の生産性の向上、並びにカップ部材の品種統合によるコスト低減、生産管理の軽減が可能な外側継手部材の製造方法および外側継手部材を実現することができる。特に、カップ部材の嵌合用孔と軸部材の嵌合用外面を、隙間を有する接合部と締め代を有する圧入部とで構成し、接合部の軸方向寸法を圧入部の軸方向寸法より長くし、接合部を圧入ガイドとしたので、カップ部材と軸部材の同軸度および圧入時の芯出し作業性が向上する。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下に本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0031】
本発明に係る等速自在継手の外側継手部材の製造方法についての第1の実施形態を
図3〜11に示し、本発明に係る外側継手部材についての第1の実施形態を
図1および
図2に示す。はじめに、外側継手部材についての第1の実施形態を
図1、
図2および必要に応じて
図6、
図7に基づいて説明し、続いて、外側継手部材の製造方法についての実施形態を
図3〜11に基づいて説明する。
【0032】
図1は、第1の実施形態の外側継手部材11が使用されたドライブシャフト1の全体構造を示す図である。ドライブシャフト1は、デフ側(図中右側:以下、インボード側ともいう)に配置される摺動式等速自在継手10と、駆動車輪側(図中左側:以下、アウトボード側ともいう)に配置される固定式等速自在継手20と、両等速自在継手10、20をトルク伝達可能に連結する中間シャフト2とを主要な構成とする。
【0033】
図1に示す摺動式等速自在継手10は、いわゆるトリポード型等速自在継手(TJ)であり、カップ部12とカップ部12の底部から軸方向に延びた長寸軸部(ロングステム部)13とを有する外側継手部材11と、外側継手部材11のカップ部12の内周に収容された内側継手部材16と、外側継手部材11と内側継手部材16との間に配置されたトルク伝達要素としてのローラ19とを備える。内側継手部材16は、ローラ19を外嵌した3本の脚軸18が円周方向等間隔に設けられたトリポード部材17で構成される。
【0034】
ロングステム部13の外周面にはサポートベアリング6の内輪が固定されており、このサポートベアリング6の外輪は、図示しないブラケットを介してトランスミッションケースに固定されている。外側継手部材11は、サポートベアリング6によって回転自在に支持され、このようなサポートベアリング6を設けておくことにより、運転時等における外側継手部材11の振れが可及的に防止される。
【0035】
図1に示す固定式等速自在継手20は、いわゆるツェッパ型等速自在継手であり、有底筒状のカップ部21aとカップ部21aの底部から軸方向に延びた軸部21bとを有する外側継手部材21と、外側継手部材21のカップ部21aの内周に収容された内側継手部材22と、外側継手部材21のカップ部21aと内側継手部材22との間に配置されたトルク伝達要素としてのボール23と、外側継手部材21のカップ部21aの内周面と内側継手部材22の外周面との間に配され、ボール23を保持する保持器24とを備える。なお、固定式等速自在継手20として、アンダーカットフリー型等速自在継手が用いられる場合もある。
【0036】
中間シャフト2は、その両端部外径にトルク伝達用のスプライン(セレーションを含む。以下、同じ)3を有する。そして、インボード側のスプライン3を摺動式等速自在継手10のトリポード部材17の孔部とスプライン嵌合させることにより、中間シャフト2と摺動式等速自在継手10のトリポード部材17とがトルク伝達可能に連結される。また、アウトボード側のスプライン3を固定式等速自在継手20の内側継手部材22の孔部とスプライン嵌合させることにより、中間シャフト2と固定式等速自在継手20の内側継手部材22とがトルク伝達可能に連結される。この中間シャフト2として、中実タイプを示したが、中空タイプを用いることもできる。
【0037】
両等速自在継手10、20の内部には潤滑剤としてのグリースが封入されている。グリースの外部漏洩や継手外部からの異物侵入を防止するため、摺動式等速自在継手10の外側継手部材11と中間シャフト2との間、および固定式等速自在継手20の外側継手部材21と中間シャフト2との間には、蛇腹状のブーツ4、5がそれぞれ装着されている。
【0038】
図2に基づき、第1の実施形態の外側継手部材を説明する。
図2は、本実施形態の外側継手部材11を拡大して示したもので、
図2(a)は部分縦断面図で、
図2(b)は側面図である。
図2(c)は、
図2(a)のA部の拡大図である。外側継手部材11は、一端が開口し、内周面の円周方向三等分位置にローラ19(
図1参照)が転動するトラック溝30と内周面31が形成された有底筒状のカップ部12と、カップ部12の底部から軸方向に延び、カップ部12の開口側とは反対側(インボード側)の端部外周にトルク伝達用連結部としてのスプラインSpが設けられたロングステム部13とからなる。本実施形態では、外側継手部材11は、カップ部材12a、軸部材13aを溶接して形成されている。
【0039】
図2(a)および
図2(c)に示すように、カップ部材12aは、内周にトラック溝30と内周面31が形成された筒状部12a1と底部12a2からなる一体成形品である。軸部材13aは、カップ部材12a寄りの外周に軸受装着面14および止め輪溝15が形成され、インボード側の端部にスプラインSpが形成されている。
図6および
図7に示すように、カップ部材12aの底部12a2の嵌合用孔50と軸部材13aのアウトボード側端部の嵌合用外面51とが嵌合され、嵌合用孔50と嵌合用外面51の接合部50a、51aが電子ビーム溶接により溶接されている。
図2(a)および
図2(c)に示すように、溶接部49は、カップ部材12aの内側から照射されたビームによるビードで形成されている。
【0040】
本実施形態の外側継手部材11の特徴的な構成であるカップ部材12aの嵌合用孔50と軸部材13aの嵌合用外面51の詳細を
図7に基づいて説明する。
図7(a)に示すように、カップ部材12aの底部12a2の肉厚内に嵌合用孔50が形成され、嵌合用孔50は接合部50aと圧入部50bとから構成されている。軸部材13aの嵌合用外面51は接合部51aと圧入部51bとから構成されている。
【0041】
カップ部材12aの接合部50aの内径B1は、軸部材13aの接合部51aの外径B2より若干大きく設定され、内径B1と外径B2との間に直径で0.5mm以下の隙間δが設けられている。一方、カップ部材12aの圧入部50bの内径C1は、軸部材13aの圧入部51bの外径C2より若干小さく設定され、内径C1と外径C2との間に締め代が設けられている。そして、接合部50a、51aの軸方向寸法Dは、圧入部50b、51bの軸方向寸法Eより長く設定されている。圧入部50b、51bの直径寸法C1、C2は、接合部50a、51aの直径寸法B1、B2より大きく形成され、カップ部材13aの底部12a2の肉厚内における外部側〔
図7(a)の右側〕に圧入部50b、51bが設けられている。
図2(a)、
図2(c)では、溶融した溶接部49が図示されているが、圧入部50b、51bの直径寸法C1、C2は、接合部50a、51aの直径寸法B1、B2より大きく形成されていることが把握される。
【0042】
上記のような寸法関係に設定されているので、圧入時に、まず、
図7(a)に示すように、カップ部材12aの接合部50aに軸部材13aの接合部51aを臨ませる。その後。接合部50a、51aを圧入ガイドとすることにより、カップ部材12aと軸部材13aの芯を出しながら、カップ部材12aの圧入部50bと軸部材13aの圧入部51bが当接する。そして、芯出しされた状態で、圧入部50b、51bが圧入され、
図7(b)に示すように、圧入工程が終了する。このようにして圧入されるので、カップ部材12aと軸部材13aの同軸度が向上する。また、上記のように、圧入工程の芯出し作業性が向上する。
【0043】
カップ部材12aの接合部50aの内径B1と軸部材13aの接合部51aの外径B2との隙間δを直径で0.5mm以下に設定したので、接合部50a、51aで圧入とならず、良好な圧入ガイドの効果が得られると共に、溶接部の表面凹みや溶け落ち等の不良がなく、良好な溶接部を得ることができる。尚、隙間δは、理解しやすいように誇張して図示している。
【0044】
また、圧入部50b、51bの直径寸法C1、C2を接合部50a、51aの直径寸法B1、B2より大きくし、カップ部材
12aの底部12a2の肉厚内における外部側〔
図7(a)の右側〕に圧入部50b、51bを設けたので、
図7(a)に示すように、カップ部材
12aの底部12a2から軸部材13aを通して圧入することができ、生産性が向上する。
【0045】
詳細は後述するが、カップ部材12aの接合部50aの内径B1は、ジョイントサイズ毎に同一寸法に設定されている。溶接部49が、軸部材13aの端部に形成されるので、軸受装着面14などの後加工が省略でき、また、電子ビーム溶接のため溶接部にバリが出ないので、溶接部の後加工も省略でき、製造コストが削減できる。さらに、溶接部の超音波探傷による全数検査を確実に実施できる。
【0046】
次に、本発明に係る製造方法についての第1の実施形態を
図3〜11に基づいて説明する。
図3に、外側継手部材の製造工程の概要を示す。カップ部材12aは、図示のように、バー材切断工程S1c、鍛造加工工程S2c、しごき加工工程S3c、旋削加工工程S4cおよび熱処理工程S5cを主な製造工程として完成部品となる。一方、軸部材13aは、バー材切断工程S1s、旋削加工工程S2s、スプライン加工工程S3s、熱処理工程S4sおよび研削加工工程S5sを主な製造工程として完成部品となる。完成部品としてのカップ部材12aと軸部材13aは、それぞれ、品番が付与されて管理される。その後、カップ部材12aと軸部材13aとが溶接工程S6を経て外側継手部材11が完成する。特許請求の範囲における機械加工工程とは、上記の製造工程のうち、旋削加工工程S4c、旋削加工工程S2sおよび研削加工工程S5sを意味する。
【0047】
各工程の概要を説明する。各工程は、代表的な例を示すものであって、必要に応じて適宜変更や追加を行うことができる。まず、カップ部材12aの製造工程を説明する。
【0048】
[バー材切断工程S1c]
鍛造重量に基づいて所定長さで切断し、ビレットを製作する。
【0049】
[鍛造加工工程S2c]
ビレットを鍛造加工によりカップ部材12aの筒状部12a1と底部12a2を一体成形し素形材を製作する。
【0050】
[しごき加工工程S3c]
前記素形材のトラック溝30および円筒面31をしごき加工して、カップ部材12aの筒状部12a1の内周を仕上げる。
【0051】
[旋削加工工程S4c]
しごき加工後の素形材に、外周面、ブーツ取付溝32などと底部12a2の肉厚内に嵌合用孔50を旋削加工する。
【0052】
[熱処理工程S5c]
旋削加工後、少なくともカップ部材12aのトラック溝30に熱処理としての焼き入れ焼き戻しを行う。これにより、カップ部材12aは完成部品となり、品番が付与されて管理される。
【0053】
次に、軸部材13aの製造工程を説明する。
[バー材切断工程S1s]
軸部全長に基づいてバー材を所定長さで切断し、ビレットを製作する。軸部材13aの形状に応じて、ビレットをアプセット鍛造により概略形状に鍛造加工する場合がある。
【0054】
[旋削加工工程S2s]
ビレット又は鍛造素形材の外周面(軸受装着面14、止め輪溝15、スプライン下径、端面など)とアウトボード側端部の嵌合用外面51を旋削加工する。
【0055】
[スプライン加工工程S3s]
旋削加工後の軸部材にスプラインを転造加工する。ただし、スプラインの加工は転造加工に限られるものではなく、適宜プレス加工等に置き換えることもできる。
【0056】
[熱処理工程S4s]
軸部材の外周の必要範囲を熱処理としての高周波焼き入れ焼き戻しを行う。軸端の嵌合用外面は熱処理を施さない。
【0057】
[研削加工工程S5s]
熱処理後、軸部材13aの軸受装着面14等を研削加工して仕上げる。これにより、軸部材13aは完成部品となり、品番が付与されて管理される。
【0058】
[溶接工程S6]
完成部品としてのカップ部材12aと軸部材13aを嵌合し溶接する。これにより、外側継手部材11が完成する。
【0059】
次に、本実施形態の製造方法の主要な構成を説明する。
図4は、完成部品としてのカップ部材12aの溶接前の状態を示す縦断面図である。カップ部材12aは、内周にトラック溝30と内周面31が形成された筒状部12a1とそのインボード側端部から半径方向内方に延びる底部12a2からなり、底部12a2の肉厚内に嵌合用孔50が形成されている。カップ部材12aは、S53C等の0.40〜0.60重量%の炭素を含む中炭素鋼からなる。前述した旋削加工工程S4cにおいて嵌合用孔50が切削加工される。図示は省略するが、トラック溝30やその他の所定部分にはHRC58〜62程度の硬化層が形成されている。
【0060】
図5に完成部品としての軸部材13aの溶接前の状態を示す。軸部材13aは、アウトボード側(
図5の左側)端部にカップ部材12aの嵌合用孔50に嵌合される嵌合用外面51が形成され、嵌合用外面51のインボード側(
図5の右側)に軸受装着面14、止め輪溝15、そしてインボード側端部にスプラインSpが形成されている。軸部材13aは、S40C等の0.30〜0.55重量%の炭素を含む中炭素鋼からなる。図示は省略するが、外周面の所定範囲に熱処理としての高周波焼入れによりHRC50〜62程度の硬化層が形成されている。嵌合用外面51は熱処理を施さない。熱処理工程S4s後に、軸受装着面14は研削加工等により仕上げ加工されている。
【0061】
前述したように、
図4に示すカップ部材12aの接合部50aの内径B1は、1つのジョイントサイズで同一寸法に設定されている。
図5に示す軸部材13aはロングステム用のものであるが、接合部50aに嵌合するアウトボード側端部の接合部51aの外径B2は、軸径や外周形状に関係なく、接合部50aの内径B1と一定の隙間δ〔
図7(a)参照〕をもった寸法に設定されている。このように寸法設定されているので、カップ部材12aを共用化しておいて、軸部材13aのみを車種に応じた種々の軸径、長さや外周形状に製作し、両部材12a、13aを溶接することにより、種々の車種に適合する外側継手部材11を製作することができる。
【0062】
上記のようにして製作された完成品としてのカップ部材12aと軸部材13aを
図6に示すように圧入嵌合する。
図7(b)に示すように、カップ部材12aの圧入部50bと軸部材13aの圧入部51bが圧入嵌合されるので、両部材12a、13aが同軸に芯出し状態で仮固定される。
【0063】
カップ部材12aの嵌合用孔50、接合部50a、圧入部50bおよび軸部材13aの嵌合用外面51、接合部51a、圧入部51bの寸法関係の詳細や、カップ部材12aと軸部材13aの圧入時の状態、また、作用効果については
図7(a)、
図7(b)に基づいて前述したとおりである。
【0064】
次に、本発明の製造方法についての第1の実施形態の溶接工程S6を
図8に基づいて説明する。
図8は、溶接工程S6の概要を示す。圧入嵌合で仮固定されたカップ部材12aと軸部材13aを溶接装置(図示省略)にセットする。
図8に示すように、カップ部材12aの開口端部にカバー部材52に設けたシール部材53を当接させ、カップ部材12aの内部に密閉空間54を形成する。カバー部材52には電子銃55が設置されると共に密閉空間54を真空引きするために真空ポンプ56が管路57を介して接続されている。カップ部材12aの外周面の外側と軸部材13aの外周面の外側に冷却ジャケット58が設置されている。
【0065】
具体的には、カップ部材12aの開口端部にカバー部材52に設けたシール部材53を当接させ、カップ部材12aの内部に密閉空間54を形成した後、密閉空間54を大気圧以下の6.7Pa程度まで真空引きする。本実施形態では、密閉空間54がカップ部材12aの内部に限定され、空間容積が減少するため、真空引きのサイクルタイムが短縮される。真空引きと共に、溶接後の急冷を防止し溶接部の高硬度化を抑制するために電子ビーム59により嵌合用孔50(
図6参照)と嵌合用外面51を含む周辺を200〜650℃になるように予熱する。予熱は、電子ビーム59のビーム幅を拡げて、ビームを高速で旋回させて行う。予熱後、図示のように電子ビーム59のビームを絞って溶接するが、冷却ジャケット58により、カップ部材12aの筒状部12a1の外周と軸部材13aの軸受装着面14の周辺外周を冷却しながら溶接する。予熱によって、溶接部の硬度をHv200〜500に調整することで、必要強度を満足する良好な溶接部を得ることができると共に、熱処理した部分の硬度低下を防止することができる。
【0066】
前述した溶接工程S6では、溶接部の硬度を調整するために、溶接前に予熱を実施した例を説明したが、溶接後に接合箇所を200℃〜650℃に後熱し、溶接部の硬度を調整してもよい。また、予熱、後熱は、電子ビーム以外の誘導加熱等の熱源で実施してもよい。
【0067】
次に、カップ部材の品種統合について、前述した
図5に示すロングステムタイプの軸部材13aとは異なる品番の軸部材を例示して補足説明する。
図9および
図10に示す軸部材13a’は、インボード側の標準的なステム用のものである。軸部材13a’には、カップ部材12aの底部12a2の嵌合用孔50(
図4参照)に嵌合する嵌合用外面51が形成されている。この嵌合用外面51の接合部51aの外径B2は、
図5に示したロングステムタイプの軸部材13aの嵌合用外面51の接合部51aの外径B2と同一寸法に形成されている。
【0068】
この軸部材13a’は、インボード側の標準的なステム用のため、軸部の長さが短く、軸方向中央部に滑り軸受面18が形成され、この滑り軸受面18に複数の油溝19が形成されている。インボード側の端部にはスプラインSpと止め輪溝48が形成されている。このように、標準的な長さのステムやロングステムというタイプの違いや、車種毎の種々の軸径や外周形状が異なっても、軸部材13a、13a’の嵌合用外面51の接合部51aの外径B2は同一寸法に設定されている。
【0069】
カップ部材12aの嵌合用孔50の接合部50aの内径B1がジョイントサイズ毎に同一寸法に設定されているので、ジョイントサイズ毎に共用化されたカップ部材と車種毎に種々の軸部仕様を備えた軸部材が完成部品として準備することができ、カップ部材と軸部材それぞれに品番を付与して管理することができる。そして、カップ部材を品種統合しても、車種毎に種々の軸部仕様を備えた軸部材と組み合わせて、要求に応じた種々の外側継手部材11を迅速に製作することができる。したがって、カップ部材の品種統合によるコスト低減、生産管理の負荷を軽減することができる。
【0070】
以上の要約として、カップ部材の品種統合の例を
図11に示す。図示のようにカップ部材は、1つのジョイントサイズで共用化され、例えば、品番C001が付与されて管理される。これに対して、軸部材は、車種毎に種々の軸部仕様を備え、例えば、品番S001、S002、〜S(n)が付与されて管理される。そして、例えば、品番C001のカップ部材と品番S001の軸部材を組み合わせて溶接すると、品番A001の外側継手部材を製作することができる。このように、カップ部材の品種統合により、コスト低減、生産管理の負荷を軽減することができる。この品種統合において、カップ部材は、1つのジョイントサイズで1種類、すなわち、1型番ということに限定されるものではなく、例えば、最大作動角の異なる仕様により1つのジョイントサイズで複数の種類(複数型番)のカップ部材を設定し、これらのカップ部材の上記接合部の直径を同一寸法にしたものを包むものである。
【0071】
図12に、前述した
図3に示す製造工程を一部変更した変形例を示す。
図12の製造工程では、
図3の軸部材の研削加工工程S5sを溶接工程S6の後に変更し、研削加工工程S7としている。この製造工程では、カップ部材と軸部材を溶接した後、軸部材の軸受装着面や滑り軸受面を研削加工により仕上げる。そのため、
図12の軸部材の製造工程中、熱処理工程S4sでは軸部材の略完成と表記している。その他の構成は、
図3に示す製造工程と同様であるので、同様の加工工程については同一の符号を付して重複説明を省略する。このように、本明細書および特許請求の範囲において、完成部品としてのカップ部材や軸部材とは、前述した第1の実施形態のような熱処理後の研削加工や焼入れ後の切削加工等の仕上げ加工(例えば、軸受装着面や滑り軸受面)が施されたものに限られず、前記仕上げ加工を残した熱処理完了状態のカップ部材や軸部材を含む概念のものである。
【0072】
次に、本発明の製造方法についての第2の実施形態を
図13に基づいて説明する。前述した第1の実施形態および変形例の製造工程では、完成部品としてのカップ部材や軸部材を前提にしていたが、第2の実施形態では、カップ部材は完成部品であるが、軸部材は、スプライン加工までを経た中間部品としたことが第1の実施形態および変形例の製造工程と異なる。この点を除いた内容、すなわち、製造方法についての第1の実施形態において前述した各工程の概要、カップ部材および軸部材の主な加工工程における状態、カップ部材の共通化、溶接方法、品種統合や外側継手部材の構成などは同様であるので、第1の実施形態の全ての内容を本実施形態に準用し、相違する部分のみ説明する。
【0073】
図13に示すように、本実施形態では、
図3における軸部材13aの熱処理工程S4sと研削加工工程S5sを溶接工程S6の後に入れ、熱処理工程S7および研削加工工程S8としたものである。本実施形態では、溶接工程S6後に軸部材13aの熱処理工程S7となるので、溶接時の熱で周辺部の温度が上昇による熱処理部の硬度が低下の問題がなく、
図8における軸部材13aの軸受装着面14の周辺外周を冷却する冷却ジャケット58を省略することが可能である。
【0074】
図4に示すように、カップ部材12aは、嵌合用孔50から底部12a2を経て径の大きな筒状部12a1に至る形状であり、かつ、焼入れ焼戻しとしての熱処理を施す部位が筒状部12a1の内周のトラック溝30、内周面31である。このため、通常、熱処理部に対して溶接時の熱影響がないので、カップ部材12aについては溶接前に熱処理を施し完成部品として準備する。本実施形態の製造工程が実用面では好適である。
【0075】
本実施形態の場合、第1の実施形態で前述したカップ部材の品種統合を示す
図11については、図中の軸部材の品番が中間部品としての品番となるだけで、カップ部材と外側継手部材については、第1の実施形態と同様であるので、説明を省略する。
【0076】
本発明の製造方法についての第3の実施形態を
図14に基づいて説明する。本実施形態では、第2の実施形態のカップ部材の熱処理工程S5cをさらに溶接工程S6の後に入れ、熱処理工程S7としたものである。この点を除いた内容、すなわち、製造方法についての第1の実施形態において前述した各工程の概要、カップ部材および軸部材の主な加工工程における状態、カップ部材の共通化、溶接方法、品種統合や外側継手部材の構成などは同様であるので、第1の実施形態の全ての内容を本実施形態に準用し、相違する部分のみ説明する。
【0077】
図13に示すように、本実施形態では、溶接工程S6後にカップ部材12aと軸部材13aの熱処理工程S7となるので、溶接時の熱で周辺部の温度が上昇による熱処理部の硬度が低下の問題がなく、
図8における冷却ジャケット58を省略することが可能である。
【0078】
本実施形態の場合、第1の実施形態で前述したカップ部材の品種統合を示す
図11については、図中のカップ部材と軸部材の両方の品番が中間部品としての品番となる。その他の内容は第1の実施形態と同様であるので、説明を省略する。
【0079】
次に、本発明に係る外側継手部材についての第2の実施形態を
図15および
図16に基づいて説明する。本実施形態では、外側継手部材についての第1の実施形態と同様の機能を有する箇所には同一の符号(下付き文字を除く)を付して、重複説明を省略する。
【0080】
図15に示す摺動式等速自在継手10
1は、ダブルオフセット型等速自在継手(DOJ)である。この等速自在継手10
1は、カップ部12
1とカップ部12
1の底部から軸方向に延びたロングステム部13とを有する外側継手部材11
1と、外側継手部材11
1のカップ部12
1の内周に収容された内側継手部材16
1と、外側継手部材11
1と内側継手部材16
1のトラック溝30
1、40との間に配置されたトルク伝達要素としてのボール41と、外側継手部材11
1の筒状内周面42と内側継手部材16
1の球状外周面43とに、それぞれ嵌合する球状外周面45、球状内周面46を有し、ボール41を保持する保持器44とを備える。保持器44の球状外周面45の曲率中心O
1と球状内周面46の曲率中心O
2は、継手中心Oに対して、軸方向に反対側にオフセットされている。
【0081】
外側継手部材についての第1の実施形態と同様に、ロングステム部13の外周面にはサポートベアリング6の内輪が固定され、このサポートベアリング6の外輪は、図示しないブラケットを介してトランスミッションケースに固定されている。外側継手部材11
1は、サポートベアリング6によって回転自在に支持され、運転時等における外側継手部材11
1の振れが可及的に防止される。
【0082】
図16に、外側継手部材11
1の部分縦断面を示す。図示したように、外側継手部材11
1は、一端が開口し、内周面42にボール41(
図15参照)が配置される6本、又は8本のトラック溝30
1が形成された有底筒状のカップ部12
1と、カップ部12
1の底部から軸方向に延び、カップ部12
1と反対側(インボード側)の端部外径にトルク伝達用連結部としてのスプラインSpが設けられたロングステム部13とからなる。第1の実施形態と同様に、外側継手部材11
1は、カップ部材12a
1と軸部材13aが溶接されたものである。
【0083】
カップ部材12a
1の底部12a2
1の肉厚内に嵌合用孔50
1が形成され、嵌合用孔50
1は接合部50a
1と圧入部50b
1とから構成されている。軸部材13aの嵌合用外面51
1は接合部51a
1と圧入部51b
1とから構成されている。そして、圧入部50b
1、51b
1は、カップ部材13a
1の底部12a2
1の肉厚内における外部側(
図16の右側)に設けられている。
【0084】
本実施形態の外側継手部材は、前述した外側継手部材についての第1の実施形態および製造方法についての実施形態と同様であるので、これらについて前述した内容を全て準用し、重複説明を省略する。
【0085】
以上の実施形態では、電子ビーム溶接を適用したものを示したが、レーザ溶接でも同様に適用することができる。
【0086】
以上の外側継手部材についての実施形態では、摺動式等速自在継手10、10
1としてのトリポード型等速自在継手、ダブルオフセット型等速自在継手に適用した場合について説明したが、本発明は、クロスグルーブ型等速自在継手等、他の摺動式等速自在継手の外側継手部材、さらには固定式等速自在継手の外側継手部材にも適用することができる。また、以上では、ドライブシャフトを構成する等速自在継手の外側継手部材に本発明を適用しているが、本発明は、プロペラシャフトを構成する等速自在継手の外側継手部材にも適用することができる。
【0087】
本発明は前述した実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、さらに種々の形態で実施し得ることは勿論のことであり、本発明の範囲は、特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲に記載の均等の意味、および範囲内のすべての変更を含む。