(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に、本発明の負極活物質および蓄電装置を実施するための最良の形態を説明する。なお、特に断らない限り、本明細書に記載された数値範囲「x〜y」は、下限xおよび上限yをその範囲に含む。そして、これらの上限値および下限値、ならびに実施例中に列記した数値も含めてそれらを任意に組み合わせることで数値範囲を構成し得る。さらに数値範囲内から任意に選択した数値を上限、下限の数値とすることができる。
【0023】
<第一活物質粉末>
第一活物質粉末はSi、Si化合物、Sn及びSn化合物からなる群から選ばれるものである。第一活物質粉末はLi等の電荷担体を吸蔵及び放出可能であり、負極活物質として機能する。当該第一活物質粉末の平均粒径D
50は300nm以上20μm以下であることが好ましい。第一活物質粉末の平均粒径D
50が300nmより小さいと、第一活物質粉末の比表面積が大きいために、第一活物質粉末と電解液との接触面積が大きくなって、電解液の分解が進んでしまい、サイクル特性が悪くなる可能性がある。また平均粒径D
50が300nmより小さいと凝集により第一活物質粉末の二次粒径が大きくなるため好ましくない。例えば第一活物質粉末がSi、Si化合物等の導電性の低いものであれば、第一活物質粉末の平均粒径D
50が20μmより大きいと、負極活物質層に導電性の低い第一活物質粉末が均一分散し難く、電極全体の導電性が不均一になり、充放電特性が低下する場合がある。
【0024】
またSi、Si化合物、Sn及びSn化合物は充放電時に膨張収縮するので、この膨張収縮を小さくするために、第一活物質粉末中のSi、Si化合物、Sn及びSn化合物の結晶子サイズは、1nm〜300nmであることがより好ましい。
【0025】
平均粒径D
50は、粒度分布測定法によって計測できる。平均粒径D
50とはレーザー回析法による粒度分布測定における体積分布の積算値が50%に相当する粒子径を指す。つまり、平均粒径D
50とは、体積基準で測定したメディアン径を指す。結晶子サイズはX線回折(XRD)測定で得られる回折ピークの半価幅からシェラーの式より算出される。
【0026】
Si化合物としては、例えばSiO
x(0.3≦x≦1.6)で表されるケイ素酸化物を用いるのが好ましい。
【0027】
この場合、第一活物質粉末の各粒子は、不均化反応によって微細なSiと当該Siを覆うSiO
2とに分離したSiO
xからなる。xが下限値未満であると、Si比率が高くなるため充放電時の体積変化が大きくなりすぎてサイクル特性が低下する。またxが上限値を超えると、Si比率が低下してエネルギー密度が低下するようになる。0.5≦x≦1.5の範囲が好ましく、0.7≦x≦1.2の範囲がさらに望ましい。
【0028】
一般に、酸素を断った状態であれば1000℃以上で、ほぼすべてのSiOが不均化して二相に分離すると言われている。具体的には、非結晶性のSiO粉末を含む原料酸化ケイ素粉末に対して、真空中または不活性ガス中などの不活性雰囲気中で1000〜1200℃、1〜5時間の熱処理を行うことで、非結晶性のSiO
2相および結晶性のSi相の二相を含むSiO
x粉末が得られる。
【0029】
またSiO
xに対し炭素材料を1〜50質量%で複合化したものを第一活物質粉末として用いることもできる。SiO
xに炭素材料を複合化することで第一活物質粉末の導電性が向上する。炭素材料の複合量が1質量%未満では導電性向上の効果が充分に得られない場合がある。また、50質量%を超えると第一活物質粉末中のSiO
xの割合が相対的に減少して、負極容量が低下してしまう場合がある。炭素材料の複合量は、SiO
xに対して5〜30質量%の範囲が好ましく、5〜20質量%の範囲がさらに望ましい。SiO
xに対して炭素材料を複合化するには、CVD法などを利用することができる。
【0030】
SiO
xの平均粒径は1μm〜10μmの範囲にあることが望ましい。SiO
xの平均粒径が10μmより大きいと蓄電装置の充放電特性が低下し、平均粒径が1μmより小さいとSiO
xが凝集して粗大な粒子となるため同様に蓄電装置の充放電特性が低下する場合がある。
【0031】
Siが微細であるほど、それを負極活物質として用いた蓄電装置のサイクル特性は向上する。そのため、第一活物質粉末として、ナノサイズの粒径あるいは結晶子サイズを有するナノシリコン材料を用いることも好ましい。
【0032】
本願発明者らは、非特許文献1及び特許文献3に記載された層状ポリシランに関して鋭意研究を行い、そのラマンスペクトルに着目した。一般的にラマンシフトが高周波側へシフトすると結合が強くなり、低周波側へシフトすると結合が切れやすくなることが知られている。この層状ポリシランのラマンスペクトルと、単結晶シリコンのラマンスペクトルを比較したところ、単結晶シリコンにおいて520cm
−1に観測されるSi−Si結合が、層状ポリシランでは単結晶シリコンに比べて低周波側の320cm
−1付近にシフトしたことがわかった。
【0033】
すなわち層状ポリシラン構造とすることで、Si−Siの結合が弱くなり、穏和な条件でのナノシリコン化が可能となることが予測された。そして、本発明の発明者等は、非酸化性雰囲気下にて100℃を超える温度で層状ポリシランを熱処理することで、ナノシリコン材料が得られることを見出した。非特許文献1に記載された層状ポリシランは、ケイ素原子で構成された六員環が複数連なった構造をなし組成式(SiH)
nで示される層状ポリシランを基本骨格としている。この層状ポリシランを非酸化性雰囲気下にて100℃を超える温度で熱処理することにより、結晶子サイズ5nm程度のナノシリコン材料が得られた。100℃未満の熱処理では、層状ポリシランの構造がそのまま維持され、ナノシリコン材料は得られない。熱処理時間は熱処理温度によって異なるが、500℃以上の熱処理であれば1時間で十分である。
【0034】
また負極活物質中にSiO
2成分が多く含まれると、初期特性の劣化を引き起こすことが知られている。しかし非特許文献1及び特許文献3に記載された層状ポリシランに含まれる酸素量は多く、当該層状ポリシランはSiO
2成分を多く含むと考えられるため、上述したように負極活物質としては適さない。
【0035】
そこで鋭意研究の結果、本発明の発明者等は、層状ポリシランの製造条件によって得られる層状ポリシランの酸素量が変化し、それを熱処理して得られるナノシリコンの酸素量も変化することを明らかにした。非特許文献1及び特許文献3では、塩化水素(HCl)と二ケイ化カルシウム(CaSi
2)とを反応させて層状ポリシランを得ている。二ケイ化カルシウム(CaSi
2)は、ダイヤモンド型のSiの(111)面の間にCa原子層が挿入された層状結晶をなし、酸との反応で当該CaSi
2からカルシウム(Ca)が引き抜かれることによって層状ポリシランが得られる。
【0036】
この層状ポリシランのラマンスペクトルにおいては、ラマンシフトの341±10cm
−1、360±10cm
−1、498±10cm
−1、638±10cm
−1、734±10cm
−1にピークが存在する。
【0037】
CaSi
2からCaを引き抜く酸として、フッ化水素(HF)と塩化水素(HCl)の混合物を用いることで、得られる層状ポリシラン及びナノシリコン材料の酸素量が少なくなることが明らかとなった。すなわち、HFとHClとの混合物と、CaSi
2と、を反応させる。
【0038】
この製造方法では、酸としてHFとHClとの混合物を用いている。HFを用いることで、合成中あるいは精製中に生成するSiO
2成分がエッチングされ、これにより酸素量が低減される。HFのみを用いた場合でも層状ポリシランが得られるものの、このようにして得られた層状ポリシランは微量の空気によって酸化され易く、逆に酸素量が増大するため好ましくない。またHClのみを用いた場合は非特許文献1と同様であり、酸素量が多い層状ポリシランしか得られない。
【0039】
HFとHClとの組成比は、モル比でHF/HCl=1/1〜1/100の範囲が望ましい。HFの量がこの比より多くなると、CaF
2、CaSiO系化合物などの不純物が生成し、この不純物と層状ポリシランとを分離するのが困難であるため好ましくない。またHFの量がこの比より少なくなると、HFによるエッチング作用が弱く、層状ポリシランに酸素が多く残存する場合がある。
【0040】
HFとHClとの混合物とCaSi
2との配合比は、当量より酸を過剰にすることが望ましい。また反応雰囲気は、真空下又は不活性ガス雰囲気であることが望ましい。なおこの製造方法によれば、非特許文献1の製造方法に比べて反応時間が短くなることも明らかとなった。反応時間が長すぎるとSiとHFがさらに反応してSiF
4が生じてしまうため、反応時間は0.25〜24時間程度で充分である。参考までに、当該反応は室温でも容易に進行する。
【0041】
上記の反応によりCaCl
2なども生成するが、水洗によって容易に除去することができる。したがって層状ポリシランの精製は容易である。
【0042】
製造された層状ポリシランを、非酸化性雰囲気下にて100℃以上の温度で熱処理することで、酸素量が少ないナノシリコンの凝集粒子が得られる。非酸化性雰囲気としては、不活性ガス雰囲気、真空雰囲気が例示される。不活性ガスは窒素、アルゴン、ヘリウムなど酸素を含まなければ特に規定されない。
【0043】
また熱処理温度は、100℃〜1000℃の範囲が好ましく、400℃〜600℃の範囲が特に好ましい。100℃未満ではナノシリコンが生成しない。特に400℃以上で熱処理されて形成されたナノシリコン凝集粒子を負極活物質とするリチウムイオン二次電池は初期効率が向上する。
【0044】
ナノシリコン材料のSi結晶子サイズは、蓄電装置の電極活物質として用いるには、0.5nm〜300nmが好ましく、1nm〜100nm、1nm〜50nm、更には1nm〜10nmの範囲が特に望ましい。この結晶子サイズは、X線回折により得られた(111)面の回折ピークの半値幅からシェラーの式により算出できる。
【0045】
非特許文献1に記載の製造方法で製造された層状ポリシランを熱処理することで得られたナノシリコン材料の酸素量は約33%と大きいが、上記の製造方法で製造された層状ポリシランを熱処理することで得られたナノシリコン材料の酸素量は30%以下と小さい。
【0046】
他のSi化合物としては、例えば、SiB
4、SiB
6、Mg
2Si、Mg
2Si、Ni
2Si、TiSi
2、MoSi
2、CoSi
2、NiSi
2、CaSi
2、CrSi
2、Cu
5Si、FeSi
2、MnSi
2、NbSi
2、TaSi
2、VSi
2、WSi
2、ZnSi
2、SiC、Si
3N
4、Si
2N
2O、SnSiO
3、LiSiOなどが使用できる。
【0047】
Snとしては、市販のSn粉末が使用できる。Sn化合物としては、例えば、SnO
w(0<w≦2)、SnSiO
3、LiSnO、スズ合金(Cu−Sn合金、Co−Sn合金等)が使用できる。
【0048】
<第二活物質粉末>
第二活物質粉末は、厚みが0.3nm〜100nm、長軸方向の長さが0.1μm〜500μmの板状黒鉛粒子からなる。この板状黒鉛粒子は、例えば、グラファイト構造を有する公知の黒鉛、具体的には人造黒鉛、鱗片状黒鉛、塊状黒鉛、土状黒鉛などをグラファイト構造が破壊されないように粉砕することによって得られる。また、形状が上記の範囲内であれば、板状黒鉛粒子として市販のグラフェンを用いることができる。
【0049】
板状黒鉛粒子は、天然黒鉛である鱗片状黒鉛と比べても厚みが大幅に小さいものである。板状黒鉛粒子の長軸方向の長さ/厚みで求めるアスペクト比は10〜1000であり、さらに望ましくは50〜100である。
【0050】
板状黒鉛粒子の厚みは、0.3nm〜100nmであり、さらに1nm〜100nmが好ましい。板状黒鉛粒子の長軸方向の長さは、0.1μm〜500μmであり、さらに1μm〜500μmが好ましく、短軸方向の長さは、0.3μm〜100μmが好ましい。
【0051】
板状黒鉛粒子の表面には、水酸基、カルボキシル基、エポキシ基などの官能基が結合していることが好ましい。板状黒鉛粒子の表面に官能基が結合することにより、板状黒鉛粒子と溶媒やポリマーなどの他の有機物との親和性が増す。このことは、後述する芳香族ビニル共重合体と板状黒鉛粒子との親和性を高めるために特に有用である。つまり、これらの官能基の存在によって芳香族ビニル共重合体の板状黒鉛粒子への吸着量が増大し、液体や溶融樹脂等の流体中において第二活物質粉末(つまり黒鉛−ポリマー複合体の集合体)の分散性が高くなる傾向にある。
【0052】
このような官能基は、板状黒鉛粒子の表面近傍、好ましくは表面から深さ10nmまでの領域にある全炭素原子を100原子%としたときに、50原子%以下、より好ましくは20原子%以下、特に好ましくは10原子%以下の炭素原子に結合していることが好ましい。また官能基が結合している炭素原子の割合は、表面から深さ10nmまでの領域にある全炭素原子を100原子%としたときに、0.01原子%以上であるのが好ましい。官能基が結合している炭素原子の割合が50原子%を超えると、板状黒鉛粒子の親水性が増大し、有機物との親和性が低下する傾向がある。なお板状黒鉛粒子の表面近傍の官能基はX線光電子分光法(XPS)により定量することができる。
【0053】
また板状黒鉛粒子の表面には、下記式(1):
−(CH
2−CHX)− (1)
(式(1)中、Xはフェニル基、ナフチル基、アントラセニル基またはピレニル基を表し、これらの基は置換基を有していてもよい。)
で表されるビニル芳香族モノマー単位を含有する芳香族ビニル共重合体が吸着していることが好ましい。当該ビニル芳香族モノマー単位は、板状黒鉛粒子の表面の六員環構造に吸着すると考えられる。そして、当該ビニル芳香族モノマー単位が板状黒鉛粒子に吸着することで、ビニル芳香族モノマー単位を有する芳香族ビニル共重合体が板状黒鉛粒子に吸着する。
【0054】
板状黒鉛粒子の表面に芳香族ビニル共重合体が吸着していると、板状黒鉛粒子同士の凝集力が低下し、また、板状黒鉛粒子と溶媒や樹脂との親和性が増加するので、板状黒鉛粒子を溶媒中や樹脂中に良好に分散させることができる。
【0055】
また、流体中に高度に分散した板状黒鉛粒子は、一定の方向に配向し易い。したがって、板状黒鉛粒子と芳香族ビニル共重合体との複合体(つまり黒鉛−ポリマー複合体)を負極活物質や導電助剤として用いる場合には、板状黒鉛粒子の板面が集電体の表面に略平行になるように板状黒鉛粒子を配向させ易い。この場合、負極における負極活物質層あるいは正極における正極活物質層の嵩密度を高めることができ、電池容量を高めることができる。
【0056】
芳香族ビニル共重合体はビニル芳香族モノマー単位とビニル芳香族モノマー単位以外のモノマー単位(以下、第2のモノマー単位と称する)を含有することが好ましい。芳香族ビニル共重合体において、ビニル芳香族モノマー単位は板状黒鉛粒子に吸着しやすく、第2のモノマー単位は溶媒や樹脂及び板状黒鉛粒子の表面の官能基と親和しやすい。つまり、芳香族ビニル共重合体のビニル芳香族モノマー単位は芳香族ビニル共重合体を板状黒鉛粒子に吸着させる機能を担い、第2のモノマー単位は、主として板状黒鉛粒子と溶媒やバインダー等の樹脂との親和性を向上させる機能を担う。
【0057】
ビニル芳香族モノマー単位の含有率が高い芳香族ビニル共重合体ほど、板状黒鉛粒子への吸着量が増大する。ビニル芳香族モノマー単位の含有率は、芳香族ビニル共重合体全体に対して10質量%〜98質量%が好ましく、30質量%〜98質量%がより好ましく、50質量%〜95質量%が特に好ましい。ビニル芳香族モノマー単位の含有率が10質量%より低くなると、芳香族ビニル共重合体の板状黒鉛粒子への吸着量が低下する。ビニル芳香族モノマー単位の含有率が98質量%より高くなると、板状黒鉛粒子と溶媒や樹脂との親和性が低くなって、板状黒鉛粒子の溶媒中や樹脂中への分散性が低下する。
【0058】
式(1)の置換基としては、例えば、アミノ基、カルボキシル基、カルボン酸エステル基、水酸基、アミド基、イミノ基、グリシジル基、アルコキシ基、カルボニル基、イミド基、リン酸エステル基が挙げられる。板状黒鉛粒子の溶媒中や樹脂中への分散性を高くするには、置換基は、アルコキシ基が好ましく、アルコキシ基は、メトキシ基が好ましい。
【0059】
ビニル芳香族モノマー単位としては、例えば、スチレンモノマー単位、ビニルナフタレンモノマー単位、ビニルアントラセンモノマー単位、ビニルピレンモノマー単位、ビニルアニソールモノマー単位、ビニル安息香酸エステルモノマー単位、アセチルスチレンモノマー単位が挙げられる。中でも板状黒鉛粒子の溶媒中や樹脂中への分散性が向上するという観点からは、スチレンモノマー単位、ビニルナフタレンモノマー単位、ビニルアニソールモノマー単位が好ましい。
【0060】
第2のモノマー単位は、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリレート類、(メタ)アクリルアミド類、ビニルイミダゾール類、ビニルピリジン類、無水マレイン酸及びマレイミド類からなる群から選択される少なくとも1種のモノマーから誘導されるのが好ましい。なお本明細書において、例えば、「(メタ)アクリル酸」とは、「アクリル酸」および「メタクリル酸」の双方を意味する。
【0061】
このような第2のモノマー単位を含む芳香族ビニル共重合体が板状黒鉛粒子の表面に吸着していることによって、板状黒鉛粒子と溶媒や樹脂との親和性が向上し、溶媒中や樹脂中に板状黒鉛粒子を良好に分散させることができる。
【0062】
(メタ)アクリレート類としては、アルキル(メタ)アクリレート、置換アルキル(メタ)アクリレートが挙げられる。置換アルキル(メタ)アクリレートとしては、例えば、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、アミノアルキル(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0063】
(メタ)アクリルアミド類としては、(メタ)アクリルアミド、N−アルキル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジアルキル(メタ)アクリルアミドが挙げられる。
【0064】
ビニルイミダゾール類としては、1−ビニルイミダゾールが挙げられる。
【0065】
ビニルピリジン類としては、2−ビニルピリジン、4−ビニルピリジンが挙げられる。
【0066】
マレイミド類としては、マレイミド、アルキルマレイミド、アリールマレイミド、N−フェニルマレイミドが挙げられる。
【0067】
板状黒鉛粒子の分散性が向上するという観点から、第2のモノマー単位は、アルキル(メタ)アクリレート、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、アミノアルキル(メタ)アクリレート、N,N−ジアルキル(メタ)アクリルアミド、2−ビニルピリジン、4−ビニルピリジン、アリールマレイミドが好ましく、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、N,N−ジアルキル(メタ)アクリルアミド、2−ビニルピリジン、アリールマレイミドがより好ましく、フェニルマレイミドが特に好ましい。
【0068】
特に、後述するようにバインダーがカルボキシル基を有するポリマーを含む場合には、第2のモノマー単位は、Nを含有する塩基性の有機基を有するのが好ましい。ここでいう有機基とはCを含む官能基を指す。この場合、有機基のNとカルボキシル基とが水素結合することで、黒鉛−ポリマー複合体とバインダーとの結着性が向上する。黒鉛−ポリマー複合体とバインダーとの結着性が高まれば、負極活物質層の強度や耐久性を高め得るとともに、例えば、負極活物質層中に形成されている導電パス等の耐久性をも高め得る。つまり、カルボキシル基を有するバインダーと、Nを含有する塩基性の有機基を有する第2のモノマー単位とを組み合わせることで、二次電池の特性(特にサイクル特性、耐久性)の更なる向上を図り得る。
【0069】
第2のモノマー単位における有機基の炭素数は2〜100程度であるのが好ましく、2〜50程度であるのがより好ましい。2〜20程度であるのがなお好ましい。炭素数が過大であれば有機基が嵩張り、黒鉛−ポリマー複合体が嵩張るため、充分な量の負極活物質(つまり板状黒鉛粒子やSiO
x等)を負極活物質層に配合し難くなる場合がある。
【0070】
Nを含有する塩基性の有機基としては、アジリジン、アジリン、アゼチジン、アゼト、ピロリジン、ピロール、ピペリジン、ピリジン、アゼパン、アゼピン、イミダゾール類、ピラゾール、オキサゾール、チアゾール、イミダゾリン、イミダゾリジノン、ピラジン、モルホリン、チアジン、ピラゾリン、ピラゾロン、ピラゾリジン、ピラゾレート、ピリミジン、キノリン、イソキノリン、キノキサリン、アミン類等が挙げられる。
【0071】
当該Nを含有する塩基性の有機基は、N含有複素環を有するのが好ましい。N含有複素環としては芳香族が好ましい。N含有複素環は、このうち、ピリジン、イミダゾールの何れかであるのが特に好ましい。
【0072】
これらの第2のモノマー単位は、ビニルアジリジン、ビニルアジリン、ビニルアゼチジン、ビニルアゼト、ビニルピロリジン、ビニルピロール、ビニルピペリジン、ビニルピリジン、ビニルアゼパン、ビニルアゼピン、ビニルイミダゾール類、ビニルピラゾール、ビニルオキサゾール、ビニルチアゾール、ビニルイミダゾリン、ビニルイミダゾリジノン、ビニルピラジン、ビニルモルホリン、ビニルチアジン、ビニルピラゾリン、ビニルピラゾロン、ビニルピラゾリジン、ビニルピラゾレート、ビニルピリミジン、ビニルキノリン、ビニルイソキノリン、ビニルキノキサリン、ビニルアミン類からなる群から選ばれる少なくとも一種のモノマーから誘導されるのが好ましい。第2のモノマー単位として特に好ましいものを以下に列挙する。
【0073】
ビニルアジリジンとしては、1−ビニルアジリジンが挙げられる。
【0074】
ビニルチアゾールとしては、2−ビニルチアゾールが挙げられる。
【0075】
ビニルアゾール類としては、1−ビニル−1H−ピロール、2−ビニル−1H−ピロール、1−ビニルイミダゾール、2−ビニルイミダゾール等が挙げられる。
【0076】
ビニルピラジンとしては、2−ビニルピラジン等が挙げられる。
【0077】
ビニルピラゾリンとしては、5−ビニルピラゾリン、3−ビニル−1−ピラゾリン等が挙げられる。
【0078】
ビニルピリミジンとしては、5−ビニルピリミジン等が挙げられる。
【0079】
ビニルキノリンとしては、2−ビニルキノリン、4−ビニルキノリン等が挙げられる。
【0080】
ビニルイソキノリンとしては、4−ビニルイソキノリンが挙げられる。
【0081】
ビニルキノキサリンとしては、2−ビニルキノキサリンが挙げられる。
【0082】
ビニルアミンとしては、メチルビニルアミン等が挙げられる。
【0083】
上記芳香族ビニル共重合体の例としては、例えば、スチレン(ST)とN,N−ジメチルメタクリルアミド(DMMAA)とのランダム共重合体、1−ビニルナフタレン(VN)とDMMAAとのランダム共重合体、4−ビニルアニソール(VA)とDMMAAとのランダム共重合体、STとN−フェニルマレイミド(PM)とのランダム共重合体、STと1−ビニルイミダゾール(VI)とのランダム共重合体、STと4−ビニルピリジン(4VP)とのランダム共重合体、STとN,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート(DMAEMA)とのランダム共重合体、STとメチルメタクリレート(MMA)とのランダム共重合体、STとヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)とのランダム共重合体、STと2−ビニルピリジン(2VP)とのランダム共重合体、STと2VPとのブロック共重合体、STとMMAとのブロック共重合体、STとポリエチレンオキシド(PEO)とのブロック共重合体が挙げられる。
【0084】
なお、ビニル芳香族モノマー単位に対する第2のモノマー単位の含有量は、ビニル芳香族モノマー単位1モルに対して、0.1〜10モルであるのが好ましく、0.3〜3モルであるのがより好ましく、0.5〜2モルであるのがより好ましい。なお、ビニル芳香族モノマー単位と第2のモノマー単位とはモル比1:1で存在するのが特に好ましい。第2のモノマー単位の含有割合が過小であれば、黒鉛−ポリマー複合体とバインダーとの親和性を高め難くなる。また、ビニル芳香族モノマー単位の含有割合が過小であれば、板状黒鉛粒子に対する芳香族ビニル共重合体の吸着性を高め難い場合がある。
【0085】
芳香族ビニル共重合体の数平均分子量としては、1,000〜1,000,000が好ましく、5,000〜100,000がより好ましい。芳香族ビニル共重合体の数平均分子量が1,000未満になると、板状黒鉛粒子に対する吸着能が低下する傾向にあり、他方、数平均分子量が1,000,000より大きくなると、黒鉛−ポリマー複合体の溶媒や樹脂に対する分散性が低下したり、芳香族ビニル共重合体の粘度が著しく上昇して取り扱いが困難になる傾向にある。なお、芳香族ビニル共重合体の数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(カラム:Shodex GPC K−805LおよびShodex GPC K−800RL(ともに、昭和電工(株)製)、溶離液:クロロホルム)により測定し、標準ポリスチレンで換算した値を用いる。
【0086】
芳香族ビニル共重合体としてランダム共重合体を用いても、ブロック共重合体を用いてもよい。板状黒鉛粒子の溶媒中や樹脂中への分散性が向上するという観点から、ブロック共重合体を用いることが好ましい。
【0087】
黒鉛−ポリマー複合体における芳香族ビニル共重合体の含有量としては、板状黒鉛粒子100質量部に対して芳香族ビニル共重合体10
−7〜10
−1質量部であるのが好ましく、10
−5〜10
−2質量部であるのがより好ましい。板状黒鉛粒子に対する芳香族ビニル共重合体の量が10
−7質量部に満たないと、板状黒鉛粒子への芳香族ビニル共重合体の吸着量が不十分なため、溶媒や樹脂に対する黒鉛−ポリマー複合体の分散性が低下する傾向にある。他方、板状黒鉛粒子に対する芳香族ビニル共重合体の量が10
−1質量部を超えると、板状黒鉛粒子に直接吸着していない遊離の芳香族ビニル共重合体が存在するようになり、第二活物質粉末が必要以上に嵩高くなる場合がある。
【0088】
黒鉛−ポリマー複合体の製造方法は、原料黒鉛粒子、前記式(1)で表されるビニル芳香族モノマー単位を含有する芳香族ビニル共重合体、過酸化水素化物、および溶媒を混合する混合工程と、混合工程で得られた混合物に粉砕処理を施す粉砕工程とを含み得る。
【0089】
原料黒鉛粒子としては、グラファイト構造を有する公知の黒鉛、例えば人造黒鉛、鱗片状黒鉛、塊状黒鉛、土状黒鉛が挙げられる。原料黒鉛粒子の大きさには特に制限はないが、原料黒鉛粒子の粒子径が0.01mm〜5mmの範囲であるのが好ましく、0.1mm〜1mmの範囲であるのがより好ましい。ここでいう粒子径は、例えば、JIS Z 8815のふるい分け試験方法通則に基づく乾式篩法で測定できる。
【0090】
芳香族ビニル共重合体は上記で説明したものと同様のものを使用できる。
【0091】
過酸化水素化物としては、カルボニル基を有する化合物と過酸化水素との錯体、四級アンモニウム塩、フッ化カリウム、炭酸ルビジウム、リン酸および尿酸などの化合物に過酸化水素が配位したものが挙げられる。カルボニル基を有する化合物は、例えば、ウレア、カルボン酸(安息香酸、サリチル酸など)、ケトン(アセトン、メチルエチルケトンなど)、カルボン酸エステル(安息香酸メチル、サリチル酸エチルなど)が挙げられる。過酸化水素化物としては、カルボニル基を有する化合物と過酸化水素との錯体が好ましい。
【0092】
このような過酸化水素化物は、酸化剤として作用し、原料黒鉛粒子のグラファイト構造を破壊せずに、炭素層間の剥離を容易にするものである。すなわち、過酸化水素化物が炭素層間に侵入して層表面を酸化しながら劈開を進行させ、同時に芳香族ビニル共重合体が劈開した炭素層間に侵入して劈開面を安定化させ、層間剥離が促進される。その結果、板状黒鉛粒子の表面に芳香族ビニル共重合体が吸着する。
【0093】
溶媒は、ジメチルホルムアミド(DMF)、クロロホルム、ジクロロメタン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、N−メチルピロリドン(NMP)、ヘキサン、トルエン、ジオキサン、プロパノール、γ−ピコリン、アセトニトリル、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルアセトアミド(DMAC)が好ましく、ジメチルホルムアミド(DMF)、クロロホルム、ジクロロメタン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、N−メチルピロリドン(NMP)、ヘキサン、トルエンがより好ましい。
【0094】
混合工程において、原料黒鉛粒子と芳香族ビニル共重合体と過酸化水素化物と溶媒とを混合する。原料黒鉛粒子の混合量としては、溶媒1L当たり0.1g/L〜500g/Lが好ましく、10g/L〜200g/Lがより好ましい。原料黒鉛粒子の混合量が溶媒1L当たり0.1g/L未満になると、溶媒の消費量が増大し、経済的に不利となり、他方、溶媒1L当たり500g/Lを超えると、液の粘度が上昇して取り扱いが困難になる。
【0095】
また、芳香族ビニル共重合体の混合量としては、原料黒鉛粒子100質量部に対して芳香族ビニル共重合体0.1質量部〜1000質量部が好ましく、0.1質量部〜200質量部がより好ましい。芳香族ビニル共重合体の混合量が、原料黒鉛粒子100質量部に対して0.1質量部未満になると、得られる黒鉛−ポリマー複合体の分散性が低下する傾向にあり、他方、芳香族ビニル共重合体の混合量が、原料黒鉛粒子100質量部に対して1000質量部を超えると、芳香族ビニル共重合体が溶媒に溶解しなくなるとともに、液の粘度が上昇して取り扱いが困難となる。
【0096】
過酸化水素化物の混合量としては、原料黒鉛粒子100質量部に対して0.1質量部〜500質量部が好ましく、1質量部〜100質量部がより好ましい。過酸化水素化物の混合量が原料黒鉛粒子100質量部に対して0.1質量部未満になると、得られる板状黒鉛粒子の分散性が低下する傾向にあり、他方、原料黒鉛粒子100質量部に対して500質量部を超えると、原料黒鉛粒子が過剰に酸化され、得られる板状黒鉛粒子の導電性が低下する傾向にある。
【0097】
粉砕工程において、混合工程で得られた混合物に粉砕処理を施して原料黒鉛粒子を板状黒鉛粒子に粉砕する。これにより生成した板状黒鉛粒子の表面に芳香族ビニル共重合体が吸着する。粉砕処理としては、例えば、超音波処理、ボールミルによる処理、湿式粉砕、爆砕、機械式粉砕、湿式高圧粉砕等が挙げられる。超音波処理は、発振周波数としては15〜400kHzが好ましく、出力としては500W以下が好ましい。粉砕処理としては、超音波処理または湿式粉砕処理が好ましい。粉砕工程では、原料黒鉛粒子のグラファイト構造を破壊させずに原料黒鉛粒子を粉砕して板状黒鉛粒子を得ることができる。また、粉砕処理時の温度としては、例えば、−20℃〜100℃とすることができる。また、粉砕処理時間としては、例えば、0.01時間〜50時間とすることができる。湿式高圧粉砕等であれば、粉砕処理時の圧力は50MPa〜400MPaであるのが好ましい。
【0098】
板状黒鉛粒子および黒鉛−ポリマー複合体は、負極活物質層において少なくとも一部の板状黒鉛粒子の板面が集電体の表面に略平行になるように配向していても良いが、板状黒鉛粒子の配向は第一活物質粉末の存在によって崩れていてもよい。配向が崩れることで、板状黒鉛粒子における炭素層どうしの隙間が集電体表面と交差する方向に向く。このため、当該隙間がリチウムイオンの進行方向に対して交差する方向に向き、当該隙間へのリチウムイオンの接触頻度が高まる。このため、リチウムイオンが板状黒鉛粒子内部にも出入し易くなり、板状黒鉛粒子の負極活物質としての機能を充分に利用し得るため、蓄電装置の充放電容量を向上させ得る。
【0099】
また黒鉛−ポリマー複合体においては板状黒鉛粒子の表面に上記した芳香族ビニル共重合体が吸着しているため、溶媒に板状黒鉛粒子を入れた状態でも板状黒鉛粒子が溶媒中で凝集せずに分散する。このため板状黒鉛粒子を含む負極合材の固形分が沈殿し難く、均一な負極活物質層を形成し易い。
【0100】
負極活物質には、第一活物質粉末と第二活物質粉末に加えて黒鉛を添加することもできる。黒鉛としては、天然黒鉛、造粒黒鉛、ハードカーボン、ソフトカーボンなどが例示される。黒鉛の添加量は、第一活物質粉末と第二活物質粉末と黒鉛の合計量を100質量%としたときに90質量%以下の範囲が好ましい。黒鉛の添加量が90質量%より多くなると容量の低下や第二活物質粉末の効果が低下する不具合が生じる場合がある。
【0101】
<混合比>
第一活物質粉末と第二活物質粉末の合計を100質量%としたときに、第二活物質粉末が5〜30質量%含まれていることが好ましく、第二活物質粉末が10〜20質量%含まれていることがさらに好ましい。第二活物質粉末が5質量%未満では効果の発現がわかりにくく、30質量%を超えると蓄電装置の充放電容量が低下する場合がある。
【0102】
<負極>
本発明の負極活物質は、蓄電装置の負極に用いられる。負極は、集電体と、集電体表面に配置された負極活物質層とからなる。集電体は蓄電装置の放電または充電の間、電極に電流を流し続けるための化学的に不活性な電子高伝導体をいう。集電体に用いることのできる材料として、例えば銀、銅、金、アルミニウム、タングステン、コバルト、亜鉛、ニッケル、鉄、白金、錫、インジウム、チタン、ルテニウム、タンタル、クロム、モリブデンから選ばれる少なくとも一種ならびにステンレス鋼等の金属材料、さらには導電性樹脂を挙げることができる。集電体は公知の保護層で被覆しても良い。また、集電体の表面を公知の方法で処理しても良い。集電体は、箔、シート、フィルム、線状、棒状、メッシュ状などの形態をとることができる。そのため、集電体として、例えば銅箔、ニッケル箔、アルミニウム箔、ステンレス箔などの金属箔を好適に用いることができる。集電体が箔、シート、フィルム等の薄肉形状である場合、集電体の厚みは1μm〜100μmの範囲内であることが好ましい。
【0103】
本発明の負極活物質を用いて、例えば非水系二次電池の負極の負極活物質層を形成するには、負極活物質を含む負極合材を集電体上に塗布し、負極合材に含まれるバインダーを乾燥あるいは硬化させれば良い。負極合材としては、第一活物質粉末、第二活物質粉末、炭素粉末などの導電助剤、バインダー、および必要であればその他の添加剤に、適量の有機溶剤を加えて混合しスラリーにしたものを用いれば良い。スラリー状の負極合材を集電体に塗布する方法としては、ロールコート法、ディップコート法、ドクターブレード法、スプレーコート法、カーテンコート法などの方法を採用できる。
【0104】
バインダーは、第一活物質粉末、第二活物質粉末、導電助剤およびその他の添加剤を直接的または間接的に集電体の表面に繋ぎ止める役割を果たすものである。バインダーには、上述した活物質等をなるべく少ない量で集電体に結着させることが求められるが、その添加量は活物質、導電助剤、及びバインダーを合計したものの0.5質量%〜50質量%が望ましい。バインダーの添加量が0.5質量%未満では電極の成形性が低下するおそれがあり、50質量%を超えると電極のエネルギー密度が低くなるおそれがある。
【0105】
バインダーとしては、ポリフッ化ビニリデン(PolyVinylidene DiFluoride:PVdF)、ポリ四フッ化エチレン(PTFE)、フッ素ゴム等の含フッ素樹脂、ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)等のイミド系樹脂、アルコキシシリル基含有樹脂、メタクリル樹脂(PMA)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリ(メタ)アクリル酸(PAA)等のアクリル系樹脂、変性ポリフェニレンオキシド(PPO)、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリ塩化ビニル(PVC)、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、カルボキシメチルセルロース(CMC)等が例示される。
【0106】
バインダーには、カルボキシル基を有するポリマーを含むことが好ましい。板状黒鉛粒子はカルボキシル基を有するポリマーに高分散し易いためである。このようなポリマーとしては、ポリアクリル酸(PAA)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ポリメタクリル酸などが例示される。
【0107】
分子中にカルボキシル基を含むポリマーは、酸モノマーを重合することで製造することができる。酸モノマーとしては、アクリル酸、メタクリル酸、ビニル安息香酸、クロトン酸、ペンテン酸、アンジェリカ酸、チグリン酸など分子中に一つのカルボキシル基をもつ酸モノマー、イタコン酸、メサコン酸、シトラコン酸、フマル酸、マレイン酸、2−ペンテン二酸、メチレンコハク酸、アリルマロン酸、イソプロピリデンコハク酸、2,4−ヘキサジエン二酸、アセチレンジカルボン酸など分子内に二つ以上のカルボキシル基をもつ酸モノマーなどが例示される。これらから選ばれる二種以上のモノマーを重合してなる共重合ポリマーを用いてもよい。
【0108】
例えば特開2013−065493号公報に記載されたような、アクリル酸とイタコン酸との共重合体からなり、カルボキシル基どうしが縮合して形成された酸無水物基を分子中に含んでいるポリマーをバインダーとして用いることも好ましい。この種のポリマーからなるバインダーは、一分子中にカルボキシル基を二つ以上有する酸性度の高いモノマー由来の構造を有する。そして、この構造があることにより、充電時に電解液分解反応が起こる前にリチウムイオンなどをトラップし易くなり、また、リチウムイオンなどをしっかりとトラップできると考えられている。さらに、この種のモノマーはポリアクリル酸やポリメタクリル酸に比べてカルボキシル基が多く酸性度が高まると共に、所定量のカルボキシル基が酸無水物基に変化しているため、酸性度が高まりすぎることもない。そのため、この負極用バインダーを用いて形成された負極をもつ二次電池は、初期効率が向上し、負荷特性が向上する。
【0109】
ポリマー分子中のカルボキシル基は多い方が好ましいと考えられることから、一分子中に上記したポリマー鎖を複数有するような星形ポリマーを用いることも好ましい。また性能を損なわない範囲内で、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、フッ素ゴム等の含フッ素樹脂、ポリプロピレン、ポリエチレン等の熱可塑性樹脂、ポリイミド、ポリアミドイミド等のイミド系樹脂、アルコキシシリル基含有樹脂などのポリマーを混合してもよい。
【0110】
バインダーとしてポリフッ化ビニリデンを用いると負極の電位を下げることができ蓄電装置の電圧向上が可能となる。またバインダーとしてポリアミドイミド(PAI)又はポリアクリル酸(PAA)を用いることで初期効率と放電容量が向上する。
【0111】
導電助剤は、電極の導電性を高めるために添加される。導電助剤として、炭素質微粒子であるカーボンブラック、黒鉛、アセチレンブラック(AB)、ケッチェンブラック(KB:登録商標)、気相法炭素繊維(Vapor Grown Carbon Fiber:VGCF)および各種の金属粒子等が例示される。これらは単独でまたは二種以上組み合わせて負極活物質層中に添加することができる。導電助剤の使用量については、特に限定的ではないが、本発明の負極活物質は第二活物質としてグラファイトを含むため、一般的な負極に比べて導電助剤の使用量は少なくて良い。例えば、第二活物質粉末以外の導電助剤の量は、負極活物質100質量部に対して、0.5〜50質量部程度であるのが好ましい。なお、第二活物質粉末が導電助剤を兼ねる場合、導電助剤すなわち第二活物質粉末の量は、負極活物質100質量部に対して、20〜100質量部程度とすることができる。導電助剤の量が20質量部未満では効率のよい導電パスを形成できず、100質量部を超えると電極の成形性が悪化するとともにエネルギー密度が低くなるおそれがある。なお炭素材料が複合化されたケイ素酸化物を活物質として用いる場合は、導電助剤の添加量を低減あるいは無しとすることができる。
【0112】
有機溶剤には特に制限はなく、複数の溶剤の混合物でも構わない。N−メチル−2−ピロリドン及びN−メチル−2−ピロリドンとエステル系溶媒(酢酸エチル、酢酸n−ブチル、ブチルセロソルブアセテート、ブチルカルビトールアセテート等)あるいはグライム系溶媒(ジグライム、トリグライム、テトラグライム等)の混合溶媒が特に好ましい。
【0113】
負極活物質層には、銅(Cu)、ニッケル(Ni)及びコバルト(Co)から選ばれる少なくとも一種の金属原子を含むことが望ましい。この金属原子を含むことで負極活物質層の導電性が向上するため、リチウムなどの吸蔵反応の抵抗が減少し、蓄電装置の初期容量が向上する。さらにこの金属は価数変化が可能であるので、充放電における電位変化に追従して電子の授受が生じ、本発明の負極を用いた蓄電装置は初期効率がさらに向上するとともにサイクル後の効率も向上する。
【0114】
負極活物質層におけるこの金属原子の含有量は、バインダーを100質量部としたときに0.01〜10質量部の範囲が好ましい。金属原子の含有量が0.01質量%より少ないと添加した効果が発現されず、10質量%より多くなると活物質層の材料偏析の原因となる場合がある。
【0115】
<蓄電装置>
本発明の蓄電装置がリチウムイオン二次電池の場合、負極には、リチウムをプリドーピングすることもできる。負極にリチウムをドープするには、例えば対極に金属リチウムを用いて半電池を組み、電気化学的にリチウムをドープする電極化成法などを利用することができる。或いは、負極の表面に金属リチウム箔を貼り付けても良い。リチウムのドープ量は特に制約されない。
【0116】
本発明の蓄電装置がリチウムイオン二次電池の場合、特に限定されない公知の正極、電解液、セパレータを用いることができる。正極は、非水系二次電池で使用可能なものであればよい。正極は、集電体と、集電体上に結着された正極活物質層とを有する。正極活物質層は、正極活物質と、バインダーとを含み、さらには導電助剤およびその他の添加剤を含んでも良い。正極活物質、導電助材およびバインダーは、特に限定はなく、非水系二次電池で使用可能なものであればよい。
【0117】
正極活物質としては、Li等の電荷担体を吸蔵及び放出可能なものを使用すれば良い。正極活物質としては、層状化合物のLi
aNi
bCo
cMn
dD
eO
f(0.2≦a≦2、b+c+d+e=1、0≦e<1、DはLi、Fe、Cr、Cu、Zn、Ca、Mg、S、Si、Na、K、Al、Zr、Ti、P、Ga、Ge、V、Mo、Nb、W、Laから選ばれる少なくとも1の元素、1.7≦f≦3)、Li
2MnO
3を挙げることができる。また、正極活物質として、LiMn
2O
4、Li
2Mn
2O
4等のスピネル、及びスピネルと層状化合物の混合物で構成される固溶体、LiMPO
4、LiMVO
4又はLi
2MSiO
4(式中のMはCo、Ni、Mn、Feのうちの少なくとも一種から選択される)などで表されるポリアニオン系化合物を挙げることができる。さらに、正極活物質として、LiFePO
4FなどのLiMPO
4F(Mは遷移金属)で表されるタボライト系化合物、LiFeBO
3などのLiMBO
3(Mは遷移金属)で表されるボレート系化合物を挙げることができる。正極活物質として用いられるいずれの金属酸化物も上記の組成式を基本組成とすればよく、基本組成に含まれる金属元素を他の金属元素で置換したものも使用可能である。また、正極活物質として、充放電に寄与するリチウムイオンを含まない正極活物質材料、たとえば、硫黄単体(S)、硫黄と炭素を複合化した化合物、TiS
2などの金属硫化物、V
2O
5、MnO
2などの酸化物、ポリアニリン及びアントラキノン並びにこれら芳香族を化学構造に含む化合物、共役二酢酸系有機物などの共役系材料、その他公知の材料を用いることもできる。さらに、ニトロキシド、ニトロニルニトロキシド、ガルビノキシル、フェノキシルなどの安定なラジカルを有する化合物を正極活物質として採用してもよい。リチウムを含まない正極活物質材料を用いる場合には、正極および/または負極に、公知の方法により、予めイオンを添加させておく必要がある。ここで、当該イオンを添加するためには、金属または当該イオンを含む化合物を用いればよい。
【0118】
正極用の集電体は、アルミニウム、ニッケル、ステンレス鋼など、リチウムイオン二次電池の正極に一般的に使用されるものであれば良く、それ以外は負極用の集電体と同様である。導電助剤もまた上記の負極で記載したものと同様のものが使用できる。
【0119】
電解液は、非水溶媒と非水溶媒に溶解した電解質(支持電解質、支持塩とも言う)とを含んでいる。例えばリチウムイオン二次電池であれば、電解液は、有機溶媒に電解質であるリチウム金属塩を溶解させたものである。本発明の蓄電装置においては、電解液は特に限定されない。例えば、非水溶媒として、環状エステル類、鎖状エステル類、エーテル類等が使用可能である。環状エステル類としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ガンマブチロラクトン、ビニレンカーボネート、2−メチル−ガンマブチロラクトン、アセチル−ガンマブチロラクトン、ガンマバレロラクトンを例示できる。鎖状エステル類としては、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジブチルカーボネート、ジプロピルカーボネート、エチルメチルカーボネート、プロピオン酸アルキルエステル、マロン酸ジアルキルエステル、酢酸アルキルエステル等を例示できる。エーテル類としては、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、1,2−ジブトキシエタンを例示できる。非水溶媒としては、上記具体的な溶媒の化学構造のうち一部又は全部の水素がフッ素に置換した化合物を採用しても良い。
【0120】
より好ましくは、非水溶媒は非プロトン性有機溶媒であるのが良く、例えばプロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)等から選ばれる一種以上を用いるのが良い。
【0121】
これらの非水溶媒に溶解させる電解質としては、LiPF
6、LiBF
4、LiAsF
6、LiI、LiClO
4、LiCF
3SO
3、LiN(CF
3SO
2)
2等のリチウム塩を例示できる。
【0122】
例えば、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネートなどの非水溶媒にLiClO
4、LiPF
6、LiBF
4、LiCF
3SO
3等のリチウム金属塩を0.5mol/Lから1.7mol/L程度の濃度で溶解させた溶液を使用することができる。
【0123】
蓄電装置には、必要に応じてセパレータが用いられる。セパレータは正極と負極とを隔離し、両極の接触による電流の短絡を防止しつつ、電荷担体の通過を許容するものである。必要に応じて、電解液を保持可能なセパレータを選択することもできる。
【0124】
セパレータの種類は特に限定されず、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリイミド、ポリアミド、ポリアラミド(Aromatic polyamide)、ポリエステル、ポリアクリロニトリル等の合成樹脂、セルロース、アミロース等の多糖類、フィブロン、ケラチン、リグニン、スベリン等の天然高分子、セラミックス等の電気絶縁性材料を一種または複数種用いた微多孔体、多孔体、不織布、織布等を挙げることができる。これらはシート状、フィルム状、箔状等の薄肉形状であるのが好ましく、単層構造であっても良いし多層構造であっても良い。
【0125】
本発明の蓄電装置は以下のように製造できる。上記した正極および負極に必要に応じてセパレータを挟装させ電極体とする。電極体の形状に特に限定はなく、正極、セパレータ及び負極を重ねた積層型、又は、正極、セパレータ及び負極を捲いた捲回型のいずれの型にしても良い。例えば本発明の蓄電装置が電池であれば、正極の集電体および負極の集電体から外部に通ずる正極端子および負極端子までの間を、集電用リード等を用いて接続した後、この電極体を電解液とともに電池ケースに密閉すれば良い。また、本発明の蓄電装置は、電極に含まれる活物質の種類に適した電圧範囲で充放電を実行されれば良い。
【0126】
本発明の蓄電装置の形状は特に限定されない。例えば本発明の蓄電装置がリチウムイオン二次電池である場合、円筒型、角型、コイン型、ラミネート型等、種々の形状を採用することができる。
【0127】
本発明の蓄電装置は、例えば車両に搭載しても良い。車両は、その動力源の全部あるいは一部にリチウムイオン二次電池等の蓄電装置による電気エネルギーを使用している車両であれば良く、例えば、電気車両、ハイブリッド車両などであると良い。車両にリチウムイオン二次電池を搭載する場合には、リチウムイオン二次電池を複数直列に接続して組電池とすると良い。
【0128】
以下、実施例及び比較例により本発明の実施態様を具体的に説明する。
【実施例1】
【0129】
<黒鉛−ポリマー複合体の作製>
スチレン(ST)1.82g、N−フェニルマレイミド(PM)0.18g、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)10mgおよびトルエン5mlを混合し、窒素雰囲気下、60℃で6時間重合反応を行なった。放冷後、クロロホルム−エーテルを用いて再沈殿により精製し、0.66gのST−PM(91:9)ランダム共重合体を得た。このST−PM(91:9)ランダム共重合体の数平均分子量(Mn)は、58,000であった。
【0130】
ここで、数平均分子量(Mn)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(昭和電工(株)製「Shodex GPC101」)を用いて以下の条件で測定した。
・カラム:Shodex GPC K−805LおよびShodex GPC K−800RL(ともに、昭和電工(株)製)
・溶離液:クロロホルム
・測定温度:25℃
・サンプル濃度:0.1mg/ml
・検出手段:RI
なお、数平均分子量(Mn)は、標準ポリスチレンで換算した値を示した。
【0131】
黒鉛粒子(日本黒鉛工業(株)製「EXP−P」、粒子径100〜600μm)20mg、ウレア−過酸化水素包接錯体80mg、上記ST−PM(91:9)ランダム共重合体20mgおよびN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)2mlを混合し、室温で5時間超音波処理(出力:250W)を施して板状黒鉛粒子およびST−PMランダム共重合体の分散液を得た。この分散液を濾過し、濾過物をジメチルホルムアミド(DMF)洗浄した後、真空乾燥して、板状黒鉛と芳香族ビニル共重合体とを含む黒鉛−ポリマー複合体の集合体を得た。この工程で得られた黒鉛−ポリマー複合体の集合体は、本発明における第二活物質粉末に相当する。この第二活物質粉末を構成する黒鉛−ポリマー複合体を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察したところ、板状黒鉛粒子の長径は10μm〜20μm、短径は3μm〜10μm、厚みは30nm〜80nmであった。
【0132】
<黒鉛−ポリマー複合体の表面分析>
上記した板状黒鉛粒子およびST−PMランダム共重合体の分散液をインジウム箔上に塗布して乾燥させ、黒鉛−ポリマー複合体塗膜を作製した。黒鉛−ポリマー複合体塗膜について飛行時間型二次イオン質量分析(TOF−SIMS、正イオン:m/z 0−250)を行い、黒鉛−ポリマー複合体塗膜の表面に存在する分子を分析した。その結果、黒鉛−ポリマー複合体塗膜の表面にはST−PM(91:9)ランダム共重合体が吸着していることがわかった。またST−PM(91:9)ランダム共重合体のフラグメントパターンから、ST−PM(91:9)ランダム共重合体成分のうち、ビニル芳香族モノマー単位を多く含有する共重合体成分が板状黒鉛粒子の表面に吸着しやすいことがわかった。
【0133】
また、得られた黒鉛−ポリマー複合体塗膜についてX線光電子分光(XPS)測定を行なったところ、塗膜表面近傍(表面から深さ10nmの領域)の炭素原子に水酸基が結合していることが確認された。さらに、塗膜表面近傍の炭素量および酸素量を測定し、炭素と酸素との原子比を求めた。その結果、炭素原子100に対し酸素原子は1.13であった。また原料である黒鉛粒子においては炭素原子100に対して酸素原子が約2であった。
【0134】
つまり、炭素に対する酸素の原子比は、黒鉛−ポリマー複合体塗膜の表面において、原料黒鉛粒子の表面よりも小さかった。このことから、芳香族ビニル共重合体は板状黒鉛粒子表面に吸着して被覆していることがわかる。
【0135】
<負極の形成>
SiO粉末(シグマ・アルドリッチ・ジャパン社製、平均粒径5μm)を900℃で2時間熱処理し、平均粒径5μmのSiO
x粉末を調製した。この熱処理によって、SiとOとの比が概ね1:1の均質な固体の一酸化ケイ素SiOであれば、固体の内部反応によりSi相とSiO
2相の二相に分離する。分離して得られるSi相は非常に微細である。この工程で得られたSiO
x粉末(つまりSiO
x粒子の集合体)は、本発明における第一活物質粉末に相当する。
【0136】
上記SiO
x粉末32質量部と、天然黒鉛粉末30質量部と、上記黒鉛−ポリマー複合体20質量部と、アセチレンブラック(AB)粉末8質量部と、ポリアクリル酸10質量部とをN−メチル−2−ピロリドン(NMP)に溶解させるとともにこれらを混合し、スラリー状の負極合材を調製した。このスラリー状の負極合材を、厚さ20μmの電解銅箔(集電体)の表面にドクターブレードを用いて塗布し、集電体上に負極合材層を形成した。
【0137】
その後、集電体と負極合材層とからなる複合材を80℃で20分間乾燥し、負極合材層からNMPを揮発させて除去した。乾燥後、ロールプレス機により、集電体と負極合材層を強固に密着接合させた。これを100℃で2時間真空加熱し、負極活物質層の厚さが30μm程度の負極を形成した。
【0138】
<リチウムイオン二次電池の作製>
上記の手順で作製した負極を評価極として用い、リチウムイオン二次電池(ハーフセル)を作製した。対極は、金属リチウム箔(厚さ500μm)とした。
【0139】
対極をφ13mm、評価極をφ11mmに裁断し、セパレータ(ヘキストセラニーズ社製ガラスフィルターおよびcelgard2400)を両者の間に挟装して電極体電池とした。この電極体電池を電池ケース(宝泉株式会社製CR2032コインセル)に収容した。また、電池ケースには、エチレンカーボネートとジエチルカーボネートとを1:1(体積比)で混合した混合溶媒にLiPF
6を1Mの濃度で溶解した非水電解液を注入し、電池ケースを密閉して、実施例1のリチウムイオン二次電池を得た。
【0140】
[比較例1]
上記SiO
x粉末32質量部と、天然黒鉛粉末50質量部と、アセチレンブラック(AB)粉末8質量部と、ポリアクリル酸10質量部とをNMPに溶解させるとともにこれらを混合し、スラリー状の負極合材を調製した。このスラリーを、厚さ20μmの電解銅箔(集電体)の表面にドクターブレードを用いて塗布し、集電体上に負極合材層を形成した。
【0141】
その後、集電体と負極合材層との複合材を80℃で20分間乾燥し、負極活物質層からNMPを揮発させて除去した。乾燥後、ロールプレス機により、集電体と負極合材層を強固に密着接合させた。これを100℃で2時間真空加熱し、負極活物質層の厚さが16μm程度の負極を形成した。
【0142】
この負極を用いたこと以外は実施例1と同様にして、比較例1のリチウムイオン二次電池を得た。
【0143】
<評価試験1>
実施例1、比較例1のリチウムイオン二次電池の初期容量を測定した。具体的には、実施例1及び比較例1でそれぞれ作製したコイン電池を25℃の恒温槽に1時間保持した後に充放電を行った。充電の終止電圧をLi対極で1.0V、放電の終止電圧をLi対極で0.01Vとし、0.1mAの定電流で充放電を行い、充電容量と放電容量とを測定した。この時の充電容量を初期容量とした。
【0144】
上記初期容量とした充電容量と、放電容量とから初期効率(%)を下記計算式で計算した。
初期効率(%)=(初期充電容量÷初期放電容量)×100
【0145】
それぞれの結果を表1に示す。
【0146】
【表1】
【0147】
実施例1のリチウムイオン二次電池は比較例1のリチウムイオン二次電池に比べて初期容量および初期効率が共に高かった。これは負極活物質層に黒鉛−ポリマー複合体の集合体である第二活物質粉末を含んだことによる効果であることが明らかである。
【実施例2】
【0148】
負極活物質層のバインダーとして、ポリアクリル酸に代えてポリアミドイミドを同量用いたこと以外は実施例1と同様にして負極を作製し、この負極を用いたこと以外は実施例1と同様にして、実施例2のリチウムイオン二次電池を得た。
【0149】
[比較例2]
負極活物質層のバインダーとして、ポリアクリル酸に代えてポリアミドイミドを同量用いたこと以外は比較例1と同様にして負極を作製し、この負極を用いたこと以外は実施例1と同様にして、比較例2のリチウムイオン二次電池を得た。
【0150】
<評価試験2>
実施例2および比較例2のリチウムイオン二次電池を用い、評価試験1と同様にして初期容量と初期効率を測定した。結果を表2に示す。
【0151】
【表2】
【0152】
実施例2のリチウムイオン二次電池は比較例2のリチウムイオン二次電池に比べて初期容量と初期効率が共に高かった。これは負極活物質層に黒鉛−ポリマー複合体の集合体である第二活物質粉末を含んだことによる効果であることが明らかである。また実施例2のリチウムイオン二次電池の初期容量および初期効率が充分に高いことから、ポリアミドイミドをバインダーとして用いた場合においても、ポリアクリル酸をバインダーとして用いた場合と同様の効果が発現されることがわかる。
【実施例3】
【0153】
実施例1と同様のSiO
x粉末32質量部と、天然黒鉛粉末40質量部と、実施例1と同様の黒鉛−ポリマー複合体13質量部と、アセチレンブラック(AB)粉末5質量部と、ポリアクリル酸10質量部とをNMPに溶解させるとともにこれらを混合し、スラリー状の負極合材を調製した。このスラリー状の負極合材を、厚さ20μmの電解銅箔(集電体)の表面にドクターブレードを用いて塗布し、集電体上に負極合材層を形成した。
【0154】
その後、集電体と負極合材層との複合材を80℃で20分間乾燥し、負極合材層からNMPを揮発させて除去した。乾燥後、ロールプレス機により、集電体と負極合材層を強固に密着接合させた。これを100℃で2時間真空加熱し、負極活物質層の厚さが30μm程度の負極を形成した。この負極を用いたこと以外は実施例1と同様にして、実施例3のリチウムイオン二次電池を得た。
【実施例4】
【0155】
実施例1と同様のSiO
x粉末32質量部と、天然黒鉛粉末50質量部と、実施例1と同様の黒鉛−ポリマー複合体3質量部と、アセチレンブラック(AB)粉末5質量部と、ポリアクリル酸10質量部とをNMPに溶解させるととともにこれらを混合し、スラリー状の負極合材を調製した。このスラリー状の負極合材を、厚さ20μmの電解銅箔(集電体)の表面にドクターブレードを用いて塗布し、集電体上に負極合材層を形成した。
【0156】
その後、集電体と負極合材層との複合材を80℃で20分間乾燥し、負極合材層からNMPを揮発させて除去した。乾燥後、ロールプレス機により、集電体と負極合材層を強固に密着接合させた。これを100℃で2時間真空加熱し、負極活物質層の厚さが30μm程度の負極を形成した。この負極を用いたこと以外は実施例1と同様にして、実施例4のリチウムイオン二次電池を得た。
【実施例5】
【0157】
実施例1と同様のSiO
x粉末32質量部と、天然黒鉛粉末20質量部と、実施例1と同様の黒鉛−ポリマー複合体33質量部と、アセチレンブラック(AB)粉末5質量部と、ポリアクリル酸10質量部とをNMPに溶解させるとともにこれらを混合し、スラリー状の負極合材を調製した。このスラリー状の負極合材を、厚さ20μmの電解銅箔(集電体)の表面にドクターブレードを用いて塗布し、集電体上に負極合材層を形成した。
【0158】
その後、集電体と負極合材層との複合材を80℃で20分間乾燥し、負極合材層からNMPを揮発させて除去した。乾燥後、ロールプレス機により、集電体と負極合材層を強固に密着接合させた。これを100℃で2時間真空加熱し、負極活物質層の厚さが30μm程度の負極を形成した。この負極を用いたこと以外は実施例1と同様にして、実施例5のリチウムイオン二次電池を得た。
【0159】
<評価試験3>
実施例3〜5のリチウムイオン二次電池を用い、評価試験1と同様にして初期容量と初期効率を測定した。表1にも示した実施例1及び比較例1の結果と共に、結果を表3に示す。
【0160】
【表3】
【0161】
表3に示すように、負極活物質層に含まれるSiO
x、板状黒鉛粉末、アセチレンブラックの組成比によってリチウムイオン二次電池の初期効率が変化した。このうち、実施例3の初期効率が最も高かった。また初期容量には大きな差がないものの、実施例3の初期容量が最も大きかった。したがって、この結果から、各成分の比率には最適範囲が存在することが示唆される。
【実施例6】
【0162】
実施例1と同様のSiO
x粉末32質量部と、天然黒鉛粉末40質量部と、実施例1と同様の黒鉛−ポリマー複合体12質量部と、アセチレンブラック(AB)粉末4質量部と、ポリアクリル酸10質量部と、酢酸銅2質量部とをNMPに溶解させるとともにこれらを混合し、スラリー状の負極合材を調製した。このスラリー状の負極合材を、厚さ20μmの電解銅箔(集電体)の表面にドクターブレードを用いて塗布し、集電体上に負極合材層を形成した。
【0163】
その後、80℃で20分間乾燥し、負極合材層からNMPを揮発させて除去した。乾燥後、ロールプレス機により、集電体と負極合材層を強固に密着接合させた。これを100℃で2時間真空加熱し、負極活物質層の厚さが30μm程度の負極を形成した。この負極を用いたこと以外は実施例1と同様にして、実施例6のリチウムイオン二次電池を得た。
【0164】
<評価試験4>
実施例3と実施例6のリチウムイオン二次電池を用い、評価試験1と同様にして初期容量を測定した。そのときの充電曲線を
図1に示す。また満充電後に10秒間静置させた条件で充電させたときの充電終電圧を測定し、結果を初期容量と共に表4に示す。
【0165】
【表4】
【0166】
図1及び表4から、実施例6のリチウムイオン二次電池は実施例3に比べて初期容量が高く、特にSiO
xの充電領域(0.3V〜1.0V)で改善されている。また実施例6のリチウムイオン二次電池は実施例3に比べて充電終電圧が低く、リチウムイオンが負極から十分に離脱していることがわかる。これらの効果は、負極活物質層中に銅(Cu)原子を含んだことによる効果であることが明らかである。
【実施例7】
【0167】
<ナノシリコン粉末の調製>
濃度46質量%のHF水溶液7mlと、濃度36質量%のHCl水溶液56mlとの混合溶液を氷浴中で0℃とし、アルゴンガス気流中にてそこへ3.3gの二ケイ化カルシウム(CaSi
2)を加えて撹拌した。発泡が完了したのを確認した後に混合溶液を室温まで昇温し、室温でさらに2時間撹拌した後、蒸留水20mlを加えてさらに10分間撹拌した。このとき黄色粉末が浮遊した。
【0168】
得られた混合溶液を濾過し、得られた残渣を10mlの蒸留水で洗浄した後、10mlのエタノールで洗浄した。洗浄後の残渣を真空乾燥して2.5gの層状ポリシランを得た。そのラマンスペクトルを測定したところ、ラマンシフトの341±10cm
−1、360±10cm
−1、498±10cm
−1、638±10cm
−1、734±10cm
−1にピークが存在した。
【0169】
この層状ポリシランを1g秤量し、O
2を1体積%以下の量で含むアルゴンガス中にて500℃で1時間保持する熱処理を行い、ナノシリコン凝集粒子を得た。このナノシリコン凝集粒子に対してCuKα線を用いたX線回折測定(XRD測定)を行った。XRD測定によれば、Si微粒子由来と考えられるハローを観測した。ナノシリコン凝集粒子におけるSiの結晶子径は約7nmであった。この結晶子径は、X線回折測定で得られた(111)面の回折ピークの半値幅から、シェラーの式より算出される。
【0170】
上記の工程で得られたナノシリコン凝集粒子粉末を粉砕し、ナノシリコン粉末を調製した。詳しくは、ナノシリコン凝集粒子粉末1gに対して100gのジルコニアボール(4mmφ)を加え、70rpmで2時間の条件で、平均粒子径が10μmとなるようにボールミルで粉砕した。
【0171】
<リチウムイオン二次電池の作製>
上記ナノシリコン粉末45質量部と、天然黒鉛粉末20質量部と、実施例1と同様の黒鉛−ポリマー複合体20質量部と、アセチレンブラック(AB)粉末5質量部と、ポリアミドイミド10質量部とをNMPに溶解させるとともにこれらを混合し、スラリー状の負極合材を調製した。このスラリー状の負極合材を、厚さ20μmの電解銅箔(集電体)の表面にドクターブレードを用いて塗布し、集電体上に負極合材層を形成した。
【0172】
その後、集電体と負極合材層との複合材を80℃で20分間乾燥し、負極合材層からNMPを揮発させて除去した。乾燥後、ロールプレス機により、集電体と負極合材層を強固に密着接合させた。これを100℃で2時間真空加熱し、負極活物質層の厚さが30μm程度の負極を形成した。この負極を用いたこと以外は実施例1と同様にして、実施例7のリチウムイオン二次電池を得た。
【0173】
[比較例3]
上記ナノシリコン粉末45質量部と、天然黒鉛粉末40質量部と、アセチレンブラック(AB)粉末5質量部と、ポリアミドイミド10質量部とをNMPに溶解させるとともにこれらを混合し、スラリー状の負極合材を調製した。このスラリー状の負極合材を、厚さ20μmの電解銅箔(集電体)の表面にドクターブレードを用いて塗布し、集電体上に負極合材層を形成した。
【0174】
その後、80℃で20分間乾燥し、負極合材層からNMPを揮発させて除去した。乾燥後、ロールプレス機により、集電体と負極合材層を強固に密着接合させた。これを100℃で2時間真空加熱し、負極活物質層の厚さが30μm程度の負極を形成した。この負極を用いたこと以外は実施例1と同様にして、比較例3のリチウムイオン二次電池を得た。
【0175】
<評価試験5>
実施例7と比較例3のリチウムイオン二次電池を用い、以下の条件で充放電を繰り返すサイクル試験を行い各サイクルの放電容量を測定した。充電の終止電圧をLi対極で1.0V、放電の終止電圧をLi対極で0.01Vとし、0.1mAの定電流で行う充放電を1サイクルとし、15サイクルまでサイクル試験を行った。初回サイクルと各サイクル数における充電容量を測定した。Nサイクル後の充電容量維持率は次に示す式にて求めた。充電容量の変化を
図2に、容量維持率の変化を
図3にそれぞれ示す。また15サイクル後の容量と容量維持率の値を表5に示す。
Nサイクル後の容量維持率(%)=(30サイクル後の充電容量/初期充電容量)×100
【0176】
【表5】
【0177】
実施例7のリチウムイオン二次電池は比較例3のリチウムイオン二次電池に比べて容量維持率が高く、サイクル特性に優れている。これは、負極活物質層に黒鉛−ポリマー複合体の集合体である第二活物質粉末を含んだことによる効果であることが明らかである。また実施例7と比較例3のリチウムイオン二次電池は、共に1100mAh/g程度の初期容量を示し、他の実施例との比較から、第一活物質粉末としてナノシリコン粉末が特に好ましいこともわかる。
【実施例8】
【0178】
負極活物質層のバインダーとして、ポリアミドイミドに代えてポリアクリル酸を同量用いたこと以外は実施例7と同様にして負極を作製し、この負極を用いたこと以外は実施例1と同様にして、リチウムイオン二次電池を得た。
【0179】
[比較例4]
負極活物質層のバインダーとして、ポリアミドイミドに代えてポリアクリル酸を同量用いたこと以外は比較例3と同様にして負極を作製し、この負極を用いたこと以外は実施例1と同様にして、リチウムイオン二次電池を得た。
【0180】
<評価試験6>
実施例8と比較例4のリチウムイオン二次電池を用い、評価試験1と同様に測定された初期容量と初期効率の値を表6に示す。また評価試験5と同様のサイクル試験を行い、充電容量の変化を
図4に、容量維持率の変化を
図5にそれぞれ示す。そして15サイクル後の容量と容量維持率の値を表7に示す。
【0181】
【表6】
【0182】
【表7】
【0183】
実施例8のリチウムイオン二次電池は比較例4のリチウムイオン二次電池に比べて容量維持率が高く、サイクル特性に優れている。これは、負極活物質層に含まれる第二活物質粉末による効果であることが明らかである。また
図2、3と
図4、5との比較から、板状黒鉛粉末に対してはバインダーとしてポリアミドイミドよりポリアクリル酸を用いる方が効果が高いといえる。
【実施例9】
【0184】
N−フェニルマレイミドにかえてN,N−ジメチルメタクリルアミド(DMMAA)を用い、スチレンの量を1gとしかつN,N−ジメチルメタクリルアミドの量を1gとした以外は、実施例1と同様にして、1.0gのST−DMMAA(50:50)ランダム共重合体を得た。このST−DMMAA(50:50)ランダム共重合体の数平均分子量(Mn)は、55,000であった。
【0185】
このST−DMMAAランダム共重合体を芳香族ビニル共重合体として用いたこと以外は、実施例1と同様にして、黒鉛−ポリマー複合体を作製した。
【0186】
第一活物質粉末としては実施例1で用いたものと同じSiO
x粉末を用いた。負極合材における各成分の配合量は、SiO
x粉末45質量部、天然黒鉛粉末27質量部、上記黒鉛−ポリマー複合体13質量部、アセチレンブラック粉末5質量部、ポリアクリル酸10質量部であった。溶剤としては、実施例1と同様にN−メチル−2−ピロリドンを用いた。これらを用いて、実施例1と略同様にリチウムイオン二次電池を作製した。実施例9のリチウムイオン二次電池は、上記の黒鉛−ポリマー複合体を用いたことおよび、負極活物質層の厚さが16μm程度であったこと以外は、実施例1のリチウムイオン二次電池と概略同じである。
【実施例10】
【0187】
N−フェニルマレイミドにかえて2−ビニルピリジン(VP)を用い、スチレンの量を1gとしかつ2−ビニルピリジンの量を1gとした以外は、実施例1と同様にして、1.0gのST−VP(50:50)ランダム共重合体を得た。このST−VP(50:50)ランダム共重合体の数平均分子量(Mn)は、40,000であった。
【0188】
このST−VPランダム共重合体を芳香族ビニル共重合体として用いたこと以外は、実施例1と同様にして、黒鉛−ポリマー複合体を作製した。そして、当該黒鉛−ポリマー複合体を用いたこと以外は実施例9と同様にして、実施例10の負極および実施例10のリチウムイオン二次電池を作製した。
【0189】
[比較例5]
比較例5の負極及びリチウムイオン二次電池は、比較例1〜4と同様に、負極活物質層に黒鉛−ポリマー複合体を含まないものである。比較例5の負極合材における各成分の配合量は、SiO
x粉末45質量部、天然黒鉛粉末40質量部、アセチレンブラック粉末5質量部、ポリアクリル酸10質量部であった。これ以外は、実施例9と同様にして、比較例5の負極及び比較例5のリチウムイオン二次電池を作製した。
【0190】
<評価試験7>
実施例9、10および比較例5のリチウムイオン二次電池を用い、評価試験1と同様に測定された初期容量と初期効率の値を表8に示す。また評価試験5と同様のサイクル試験を行い、20サイクル後の容量維持率の値を同じく表8に示す。
【表8】
【0191】
表8に示すように、実施例9及び10のリチウムイオン二次電池は比較例5のリチウムイオン二次電池に比べて初期容量、初期効率及び20サイクル後の容量維持率の全てにおいて優れていた。これは、負極活物質層に板状黒鉛粒子からなる第二活物質粉末を含んだことによる効果であることが明らかである。つまり、第二活物質粉末に含まれる板状黒鉛粒子によって、リチウムイオン二次電池の初期充電容量が向上するとともに初期効率が向上すると考えられる。
【0192】
また、黒鉛−ポリマー複合体に含まれるビニル芳香族モノマー単位によって、第二活物質粉末には優れた分散性が付与される。このため、実施例9および実施例10の負極においては、負極活物質層中に板状黒鉛粒子が分散され、板状黒鉛粒子による導電パスが効率良く形成されると考えられる。このことによっても、実施例9及び実施例10のリチウムイオン二次電池では初期充電容量が向上したと考えられる。
【0193】
さらに、実施例10のリチウムイオン二次電池は特に20サイクル後の容量維持率に優れる。これは、実施例10のリチウムイオン二次電池に用いた第2のモノマー単位がNを含有する塩基性の有機基を有するものであることに起因すると考えられる。
【0194】
つまり実施例10では、負極用のバインダーとして、カルボキシル基を有するポリアクリル酸を用いている。第2のモノマー単位のNとポリアクリル酸のカルボキシル基とは水素結合すると考えられ、当該水素結合によって、バインダーと第2のモノマー単位を有する黒鉛−ポリマー複合体との結着性が向上すると考えられる。そして、その結果、実施例10のリチウムイオン二次電池の劣化が抑制され、サイクル特性がより向上したと考えられる。なお、実施例10ではカルボキシル基を有するバインダーとしてポリアクリル酸を選択し、第2のモノマー単位としてビニルピリジンを選択したが、その他のカルボキシル基を有するバインダー、および、Nを含有する塩基性の有機基を有する第2のモノマー単位の組み合わせによっても同様の効果が生じると考えられる。