(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6385763
(24)【登録日】2018年8月17日
(45)【発行日】2018年9月5日
(54)【発明の名称】レーザ溶接装置及びレーザ溶接方法
(51)【国際特許分類】
B23K 26/34 20140101AFI20180827BHJP
B23K 26/00 20140101ALI20180827BHJP
G21C 19/02 20060101ALN20180827BHJP
G21C 17/003 20060101ALN20180827BHJP
【FI】
B23K26/34
B23K26/00 P
B23K26/00 M
!G21C19/02 J
!G21C17/00 E
【請求項の数】9
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-188172(P2014-188172)
(22)【出願日】2014年9月16日
(65)【公開番号】特開2016-59930(P2016-59930A)
(43)【公開日】2016年4月25日
【審査請求日】2017年3月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001092
【氏名又は名称】特許業務法人サクラ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】上野 聡一
(72)【発明者】
【氏名】椎原 克典
(72)【発明者】
【氏名】千田 格
【審査官】
奥隅 隆
(56)【参考文献】
【文献】
特開2014−111278(JP,A)
【文献】
特開2012−040576(JP,A)
【文献】
特表2000−514559(JP,A)
【文献】
特開2011−012985(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/00−26/70
B23K 31/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ光を発生させる発振器と、
前記発振器で発生したレーザ光を伝送する伝送機構と、
前記伝送機構を通じて伝送されたレーザ光を溶接箇所へ照射する照射機構と、
溶接材料を前記溶接箇所へ供給する供給機構と、
溶接後の溶接材料の形状を計測する形状計測機構と、
前記溶接後の溶接材料の健全性を検査するための検査機構と、
前記形状計測機構による計測結果に基づいて、前記検査機構の位置、ならびに、前記供給機構による前記溶接材料の供給状態および前記レーザ光の照射状態の少なくともいずれかを制御する制御部と、
を具備したことを特徴とするレーザ溶接装置。
【請求項2】
レーザ光を発生させる発振器と、
前記発振器で発生したレーザ光を伝送する伝送機構と、
前記伝送機構を通じて伝送されたレーザ光を溶接箇所へ照射する照射機構と、
溶接材料を前記溶接箇所へ供給する供給機構と、
溶接後の溶接材料の形状を計測する形状計測機構と、
前記溶接後の溶接材料の健全性を検査するための検査機構と、
前記形状計測機構による計測結果に基づいて前記検査機構の位置を制御するとともに、前記形状計測機構による計測結果に基づいて、前記検査機構によって得られる検査信号から、前記溶接後の溶接材料の表面形状により発生するノイズ信号を除去する制御部と、
を具備したことを特徴とするレーザ溶接装置。
【請求項3】
前記溶接材料が前記溶接箇所に供給される前に、前記溶接材料を予備加熱する加熱機構を具備したことを特徴とする請求項1または2に記載のレーザ溶接装置。
【請求項4】
前記検査機構が、渦電流探傷センサーを具備したことを特徴とする請求項1〜3いずれか1項記載のレーザ溶接装置。
【請求項5】
前記制御部は、前記渦電流探傷センサーに対して矩形電流を供給して、前記溶接後の溶接材料の内部に生じる渦電流の減衰速度を計測し、予め求めた前記溶接後の溶接材料の厚さと前記渦電流の減衰係数との関係から、前記溶接後の溶接材料の厚みを求めることを特徴とする請求項4記載のレーザ溶接装置。
【請求項6】
レーザ光を発生させる発振器と、
前記発振器で発生したレーザ光を伝送する伝送機構と、
前記伝送機構を通じて伝送されたレーザ光を溶接箇所へ照射する照射機構と、
溶接材料を前記溶接箇所へ供給する供給機構と、
溶接後の溶接材料の形状を計測する形状計測機構と、
前記溶接後の溶接材料の健全性を検査するための渦電流探傷センサーと、
前記形状計測機構による計測結果に基づいて前記渦電流探傷センサーの位置を制御するとともに、前記渦電流探傷センサーに対して矩形電流を供給して前記溶接後の溶接材料の内部に生じる渦電流の減衰速度を計測し、予め求めた前記溶接後の溶接材料の厚さと前記渦電流の減衰係数との関係から求められた前記溶接後の溶接材料の厚みから、多層に溶接した後の前記溶接後の溶接材料の形状を平坦化するように、2層目以降の前記溶接材料の供給量と供給位置を調整する制御部と、
を具備したことを特徴とするレーザ溶接装置。
【請求項7】
溶接部にレーザ光を照射して加熱する工程と、
溶接材料供給機構により、加熱した前記溶接部に溶接材料を供給して前記溶接材料を溶融させて溶接する工程と、
形状測定機構により、溶接後の溶接材料の形状を計測する工程と、
前記形状測定機構による形状測定結果に基づいて、検査機構の位置、ならびに、前記溶接材料供給機構による前記溶接材料の供給状態および前記レーザ光の照射状態の少なくともいずれかを調整する工程と、
位置を調整した前記検査機構によって、前記溶接後の溶接材料の健全性を検査する工程と、
を具備したことを特徴とするレーザ溶接方法。
【請求項8】
溶接部にレーザ光を照射して加熱する工程と、
溶接材料供給機構により、加熱した前記溶接部に溶接材料を供給して前記溶接材料を溶融させて溶接する工程と、
形状測定機構により、溶接後の溶接材料の形状を計測する工程と、
前記形状測定機構による形状測定結果に基づいて、検査機構の位置を調整する工程と、
位置を調整した前記検査機構によって、前記溶接後の溶接材料の健全性を検査する工程と、
前記形状計測機構による形状計測結果に基づいて、前記検査機構によって得られる検査信号から、前記溶接後の溶接材料の表面形状により発生するノイズ信号を除去する工程と、
を具備したことを特徴とするレーザ溶接方法。
【請求項9】
溶接部にレーザ光を照射して加熱する工程と、
溶接材料供給機構により、加熱した前記溶接部に溶接材料を供給して前記溶接材料を溶融させて溶接する工程と、
形状測定機構により、溶接後の溶接材料の形状を計測する工程と、
前記形状測定機構による形状測定結果に基づいて、渦電流探傷センサーの位置を調整する工程と、
位置を調整した前記渦電流探傷センサーによって、前記溶接後の溶接材料の健全性を検査する工程と、
前記渦電流探傷センサーに対して矩形電流を供給して前記溶接後の溶接材料の内部に生じる渦電流の減衰速度を計測する工程と、
予め求めた前記溶接後の溶接材料の厚さと前記渦電流の減衰係数との関係から求められた前記溶接後の溶接材料の厚みから、多層に溶接した後の前記溶接後の溶接材料の形状を平坦化するように、2層目以降の前記溶接材料の供給量と供給位置を調整する工程と、
を具備したことを特徴とするレーザ溶接方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ溶接装置及びレーザ溶接方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、原子力プラントの炉内構造物や機器等は、長期間使用すると応力腐食割れなどの欠陥が発生する可能性がある。欠陥が発生した場合には、その構造物全体を交換するか、あるいは補助金具を取り付けるなどの処置が施されている。
【0003】
また、蒸気弁の弁座肉盛施工部分の欠陥補修方法として、レーザ溶接により補修を行う方法が提案されている。この方法では、蒸気弁の弁座肉盛施工部分の欠陥部に溶接材料(ろう)を設けるとともに、欠陥部が不活性ガス雰囲気となるようにシールド板を設け、欠陥部近傍に不活性ガスを吹き付けながらレーザ光を照射して加熱することで溶接材料を欠陥部に浸透させる拡散ろう付けを行う。
【0004】
上記の拡散ろう付けによる欠陥補修方法では、補修部に溶接材料を設ける置きろうに相当するステップがある。しかしながら、例えば原子炉内の欠陥補修においては、置きろうに相当する当該ステップは望ましくない。
【0005】
また、原子炉内構造物の補修をレーザ溶接によって行う場合は、補修後に溶接部の健全性を検査する必要がある。検査手法としては超音波探傷検査、渦電流探傷検査などが用いられるが、溶接部の表面を加工した後検査を行うため、溶接部に異常が検知された場合は再施工となり、工期長期化の要因となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4284052号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したとおり、従来の技術では、レーザ溶接による欠陥補修に時間を要し、その工期が長期化する傾向にあるという問題があった。また、置きろうではなく、差しろうによりレーザ溶接を行う場合、溶接状態を良好な状態に保つことが難しいという問題もあった。
【0008】
本発明は、上記従来の事情に対処してなされたもので、工期を短縮することができるレーザ溶接装置及びレーザ溶接方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のレーザ溶接装置の一態様は、レーザ光を発生させる発振器と、前記発振器で発生したレーザ光を伝送する伝送機構と、前記伝送機構を通じて伝送されたレーザ光を溶接箇所へ照射する照射機構と、溶接材料を前記溶接箇所へ供給する供給機構と、溶接後の溶接材料の形状を計測する形状計測機構と、前記溶接後の溶接材料の健全性を検査するための検査機構と、前記形状計測機構による計測結果に基づいて、前記検査機構の位置
、ならびに、前記供給機構による前記溶接材料の供給状態および前記レーザ光の照射状態の少なくともいずれかを制御する制御部と、を具備したことを特徴とする。
【0010】
本発明のレーザ溶接方法の一態様は、溶接部にレーザ光を照射して加熱する工程と、溶接材料供給機構により、加熱した前記溶接部に溶接材料を供給して前記溶接材料を溶融させて溶接する工程と、形状測定機構により、溶接後の溶接材料の形状を計測する工程と、前記形状測定機構による形状測定結果に基づいて、検査機構の位置
、ならびに、前記溶接材料供給機構による前記溶接材料の供給状態および前記レーザ光の照射状態の少なくともいずれかを調整する工程と、位置を調整した前記検査機構によって、前記溶接後の溶接材料の健全性を検査する工程と、を具備したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、工期を短縮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の一実施形態に係るレーザ溶接装置の概略構成を示す図。
【
図5】渦電流探傷によって得られる検出信号の例を説明するための図。
【
図6】矩形波駆動の渦電流探傷センサーの検出信号の例を説明するための図。
【
図8】補修材の形状をより平坦にする方法を説明するための図。
【
図9】遠隔操作によって欠陥補修を行う場合を説明するための図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態を、図面を参照して説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係るレーザ溶接装置100の概略構成を模式的に示すものである。金属部材からなる補修対象101に発生した欠陥(き裂)102に対して、欠陥102の進展を防止するためには、周囲環境と遮断することが有効である。
図1に示す実施形態では、環境遮断の方法として、レーザ溶接装置100により、欠陥102に対して肉盛溶接を行う場合を示している。
【0014】
レーザ溶接装置100は、レーザ光104を発生させるための発振器103と、レーザ光104を伝送するための伝送機構105と、補修部位に配設される照射ヘッド130とを具備している。照射ヘッド130は筐体131を具備しており、筐体131の下方には、
図1中下側が開口された容器状の構造物からなり、補修部位及びその周辺を外部から隔離するための環境遮蔽機構118が配設されている。
【0015】
筐体131及び環境遮蔽機構118内には、伝送機構105によって伝送されたレーザ光104を、溶接部位に照射するための照射機構106と、溶接部位に溶接材料(補修材)112を供給するための供給機構113と、溶接部位に肉盛溶接した溶接後の溶接材料(溶接ビード)116の形状を計測するための形状計測機構110が配設されている。また、筐体131の外側の側方(
図1中左側)には、固定アーム121によって支持された検査機構117が配設されている。検査機構117は、溶接後の溶接材料116のブローホールや融合不良などの異常を検出するためのものである。
【0016】
また、レーザ溶接装置100は、コンピュータ等からなる制御部150を具備している。そして、制御部150は、発振器103、照射機構106、形状計測機構110、供給機構113、検査機構117などの動作(レーザ溶接装置100の全体の動作)を統括的に制御するとともに、形状計測機構110からの検出信号、検査機構117からの検出信号が入力されるようになっている。
【0017】
上記伝送機構105としては、例えば、光ファイバなどを用いることができる。発振器103から発生したレーザ光104は伝送機構105を通って照射機構106へと伝送される。照射機構106の内部において、レーザ光104は,集光レンズ107を通った後、分岐レンズ108によって、溶接箇所へ照射される溶接レーザ光109と形状計測機構110へ送られる形状計測レーザ光111とに分けられる。
【0018】
溶接材料112は、供給機構113によって溶接部位へと供給される。本実施形態において、溶接材料112はワイヤ状であり、ワイヤ供給源114にリール状に巻かれている。ワイヤ状の溶接材料112は、モータ駆動などの動力源(図示せず。)により、ワイヤ供給源114から、筒状の溶接材料加熱機構115を通って溶接箇所へと供給される。溶接材料加熱機構115は、図示しない加熱手段を具備しており、溶接材料112は、溶接材料加熱機構115を通る過程で所定の温度へと昇温された状態で溶接箇所へと供給される。加熱機構としては、通電によるジュール熱加熱、レーザ加熱、誘導加熱などを用いることができる。
【0019】
供給機構113の内部において、ワイヤ供給源114は、図示しない駆動機構によってxyz方向へ移動可能とされており、溶接材料加熱機構115は、図示しない駆動機構によってθ方向に回動可能とされている。これによって、供給機構113では、溶接材料112の供給位置を所望の位置に調節できるようになっている。
【0020】
本実施形態では、形状計測機構110がレーザ変位計によって構成されており、計測媒体に、レーザ光を用いる。分岐レンズ108にて、溶接レーザ光109と分岐された形状計測レーザ光111は、形状計測機構110の内部を通って、溶接後の溶接材料116に照射される。そして、その反射光を形状計測機構110で検出することによって、溶接後の溶接材料116の高さを検知する。なお、形状計測機構110は、溶接後の溶接材料116の中央部分の1点の測定を行う構成としてもよく、
図1中y方向(溶接ビードの幅方向)の複数点における計測を行う構成としてもよい。複数点における計測を行う構成とした場合、溶接材料がy方向において偏在したような場合、その偏在した状態を検出することができる。
【0021】
形状計測機構110は、上記したレーザ変位計に限らず、溶接後の溶接材料(溶接ビード)116の形状を計測可能なものであれば、他のセンサーも用いることができる。
図2に形状計測機構110として、接触式センサーを用いた場合の構成例を示す。この場合、接触子201が溶接後の溶接材料116に直接接触することで溶接後の溶接材料116の形状を計測する。例えば、接触子201の表面を接触点感知センサーとすることで溶接後の溶接材料116との接触点を求める。接触子201が溶接後の溶接材料116との接触で破損しないように、緩衝機構202を設ける。この緩衝機構202がθ方向に回転することで接触子201が破損するのを防ぐ。また、シリンダー203は接触センサー支持機構204のz方向の変位を吸収する。最終的に溶接後の溶接材料116の形状は、シリンダー203のz方向吸収量、接触センサー支持機構204の全長、緩衝機構202の吸収角θ、接触子201の接触点座標から算出される。
【0022】
形状計測機構110によって計測された溶接後の溶接材料116の形状が、予め定められた溶接後の溶接材料116の基準形状と、許容範囲を超えて相違する場合、制御部150は、溶接後の溶接材料116の形状が基準形状となるように、溶接レーザ光109の照射状態、溶接材料112の供給状態の少なくともいずれか一方を調整する。溶接レーザ光109の照射状態の調整は、レーザ光104の出力の変更や、分岐レンズ108から溶接箇所までの距離であるワークディスタンスなどを変更することによって行う。また、溶接材料112の供給状態の調整は、供給機構113による溶接材料112の供給量、加熱温度、供給角度、供給位置等を変更することによって行う。これによって、差しろうによって行う溶接においても、溶接状態を良好な状態に保つことができる。
【0023】
本実施形態のレーザ溶接装置100は、前述したとおり、溶接箇所周辺の雰囲気を周囲から遮蔽する環境遮蔽機構118を有する。環境遮蔽機構118には、内部に酸化防止のための不活性ガス119等を供給するためのガス供給機構133が設けられており、環境遮蔽機構118の内部を不活性ガス119雰囲気とすることができる。環境遮蔽機構118の内部に導入された不活性ガス119は、環境遮蔽機構118と補修対象101との隙間120から外部へと放出され、環境遮蔽機構118内部に水や外気が浸入することを防止できるようになっている。
【0024】
レーザ光104は、
図3(b)に示すように、エネルギー分布が均一なレーザ光(トップハット型のレーザ光)を用いることが望ましい。これによって溶接箇所のある一点にエネルギーが集中して過熱する、あるいは低エネルギー部位が生じて加熱が不十分になることを抑制することができる。さらに、予め溶接材料112を加熱することで、溶接レーザ光109によって加熱された溶接箇所に均一に溶接材料112が広がる効果が得られる。従って
図3(a)に示すようなガウス分布レーザ光を用いる場合と比較すると、同じ発振出力でより幅の広い肉盛溶接を行うことができる。この場合、発振器103として、ダイレクトダイオードレーザを用いることができる
【0025】
検査機構117は、溶接後の溶接材料116にブローホールや融合不良などが発生した場合の異常検知(健全性検査)に用いる。本実施形態では、検査機構117のセンサーとして、渦電流探傷センサー123を用いた場合の例を示している。渦電流探傷センサー123によって検査行う場合、渦電流探傷センサー123を溶接後の溶接材料116に近接して配置する必要がある。このため、渦電流探傷センサー123を、可動アーム122などに把持させた状態で検査を行う。
【0026】
本実施形態において、渦電流探傷センサー123による検査を行う際、形状計測機構110によって計測された溶接後の溶接材料116の形状に基づいて、可動アーム122の駆動を制御することによって渦電流探傷センサー123の位置を調節する。これによって、渦電流探傷センサー123と溶接後の溶接材料116との接触による破損を防ぐとともに、検査面に対して渦電流探傷センサー123を略垂直に配置して、精度の良い検査を行うことができる。
【0027】
図4のフロー図に、本実施形態におけるレーザ溶接工程を示す。
図4に示すように、先ず溶接を施工し(工程601)、この後、形状計測機構110によって溶接後の溶接材料116の形状を測定する(工程602)。そして、この形状測定結果に基づいて検査機構117の位置を調整し(工程603)、溶接後の溶接材料116の健全性を検査する(工程604)。
【0028】
上記の健全性検査の結果、溶接後の溶接材料116が健全であれば、処理を終了する。一方、ブローホールや融合不良などの異常が見出され、溶接後の溶接材料116が健全でない場合は、溶接を再施行する(工程605,606)。そして、溶接を再施行した場合は、上記工程602からの工程を繰り返して行う。
【0029】
ここで、渦電流探傷センサー123の検査結果には、縦軸を検出電圧、横軸を時間とした
図5(a)のグラフに示すように、溶接後の溶接材料116の表面形状からのノイズ401が発生する可能性が想定される。溶接後の溶接材料116の内部の異常による信号402を簡便に判断する方法として、信号に閾値403を設けて、閾値403を超えたものを異常と判断する方法が挙げられる。
【0030】
しかしながら、
図5(a)に示すように、溶接後の溶接材料116の表面形状によるノイズ401が閾値を超える場合は、異常の誤判定につながる。そこで、形状計測機構110により計測した溶接後の溶接材料116の形状から、渦電流探傷によって発生するノイズ401を予め予測して検出信号からノイズを除去する。これによって、縦軸を検出電圧、横軸を時間とした
図5(b)のグラフに示すように異常による信号404を容易に判定可能な検出信号を得ることができる。
【0031】
さらに、通常正弦波で駆動する渦電流探傷センサー123を矩形の電流(例えば、矩形のパルス電流)で駆動することで、溶接後の溶接材料116の内部に過渡的に減衰する渦電流が発生する。この過渡的な渦電流の減衰速度は渦電流が発生する金属の厚みによって決まる。すなわち、縦軸を検出電圧、横軸を時間とした
図6のグラフに示すように金属の厚みが増すにつれ減衰が遅くなる。したがって、縦軸を減衰係数、横軸を厚みとした
図7のグラフに示すように、減衰曲線501の減衰係数と溶接後の溶接材料116の厚みとの関係を求めておき、渦電流探傷センサー123によって渦電流の減衰時間を検出することで、溶接後の溶接材料116の厚みを求めることが可能である。
【0032】
また、通常駆動の正弦波の周波数と矩形波の基本波の奇数倍高調波成分の周波数を異なる値にすることで、信号検出時の混信を避けることが可能であるため、1つの渦電流探傷センサー123で、溶接後の溶接材料116内部の異常検知と、その厚みの計測が可能である。
【0033】
以上のとおり、本実施形態では、検査機構117を用いることで、溶接を実施した後、早い段階で溶接状態の不備を検出することができ、再溶接を行うことができるので、後戻り工程を大幅に削減することができる。また、形状計測機構110によって溶接後の溶接材料116の形状を測定し、検査機構117の位置を調整して検査を行うので、精度良く検査を実施することができる。
【0034】
溶接後の溶接材料116の内部に異常が検知されなかった場合、多層に溶接を行う場合は、次に2層目以降の溶接を行う。この場合、1層目の溶接後の溶接材料116aにおける形状計測結果と厚みの計測結果から、2層目以降における溶接材料112の供給量と供給位置を、例えば
図8に示す2層目の溶接後の溶接材料116bとなるように調整することで、多層に溶接を行った後の形状を平坦化することができる。すなわち、1層目の溶接後の溶接材料116aの間に溶接材料112を供給し、かつ、溶接材料112の供給量を、2層目の溶接後の溶接材料116bの高さが1層目の溶接後の溶接材料116aの高さを超えないように調整する。
【0035】
本実施形態のレーザ溶接装置100において、照射機構106、供給機構113、形状計測機構110、検査機構117、環境遮蔽機構118は図示しない走査機構に把持され、補修対象101の補修箇所周辺を走査する。従って
図9に示すように、発振器103から離れた補修対象101に対しても遠隔で補修を行うことができる。
【0036】
以上のとおり、本実施形態によれば、欠陥補修等に要する時間を短縮することができ工期を短縮することができるとともに、溶接状態を良好な状態に保つことができる。
【0037】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0038】
100……レーザ溶接装置、101……補修対象、102……欠陥、103……レーザ発振器、104……レーザ光、105……レーザ光伝送機構、106……照射機構、107……集光レンズ、108……分岐レンズ、109……溶接レーザ光、110……形状計測機構、111……形状計測レーザ光、112……溶接材料(補修材)、113……供給機構、114……ワイヤ供給源、115……溶接材料加熱機構、116……溶接後の溶接材料(溶接ビード)、117……検査機構、118……環境遮蔽機構、119……不活性ガス、120……隙間、121……固定アーム、122……可動アーム、123……渦電流探傷センサー、130……照射ヘッド、131……筐体、133……ガス供給機構、150……制御部。