【実施例1】
【0014】
本実施例における装置の構成について図面を参照しつつ説明する。
図1は本実施例のH鋼の冷却構造体を備える自溶炉10の概略構成を示した説明図である。
図1(a)は自溶炉10の平面図であり、
図1(b)は
図1(a)中のA−A線における断面図である。
【0015】
自溶炉10は例えば銅製錬の自溶炉である。
図1(a)および
図1(b)に示すように、自溶炉10は、反応シャフト20、セットラ30、アップテイク40を備えている。反応シャフト20の上部には精鉱バーナ50が設けられ、精鉱バーナ50から反応シャフト20内へ精鉱と酸素富化空気が吹き込まれる。吹き込まれた精鉱と酸素富化空気は反応シャフト20内で混合して瞬間的に反応し、セットラ30内において層状のマットとスラグに分離する。
【0016】
高温となる自溶炉10の炉壁は耐熱性のレンガを敷き詰めて構成されている。セットラ30の天井部60は、このようなレンガを支持するために、アーチ状のH鋼70が6本掛け渡されている。6本のH鋼70はZ方向に配列され、各H鋼70はZ方向に伸びる。
【0017】
図2(a)はセットラ30の天井部60を示した説明図である。
図2(a)に示すように、セットラ30の天井部は例えば6本のH鋼70により支持される。H鋼70の間には耐熱性のレンガ62が詰め込まれている。またH鋼70の炉内側(+Y側)に形成される空間にはH鋼70を冷却する冷却構造体80が設けられている。
【0018】
H鋼70は、例えば、厚さ22mmの一般構造用圧延鋼材(SS400)を材料とし、H鋼70のXY断面の寸法は、一例として、高さ420mm、幅200mmとされている。H鋼70および冷却構造体80はZ方向に向けて伸びるアーチ形状を有する。最も反応シャフト20側に位置するH鋼70と、最もアップテイク40側に位置するH鋼70との間は、一例としておよそ6200mm離れている。
【0019】
H鋼70は、H鋼70近傍を示す断面図である
図3に示すように、XY断面がH字状の形状を有し、Y軸方向に延びる2つのフランジ部72と、X軸方向に延びる1つのウェブ部71とを含んでいる。フランジ部72とウェブ部71との間は、溶接により接続されている。
【0020】
図2(b)は、冷却構造体80をH鋼70から取り出し、+X方向から見た状態を示す図である。
【0021】
冷却構造体80は、
図2(b)に示すように、Z方向に複数連なり、全体として、アーチ形状を有している。冷却構造体80は、ボディ82、冷却水管84(冷媒路)を備える。ボディ82は例えば銅製ジャケットである。冷却水管84は、例えば銅またはステンレスなどの金属からなるパイプであり、ボディ82に鋳込まれている。冷却水管84の一端及び他端には、給排水口86が設けられている。一方の給排水口86から冷媒(冷却水)が供給されると、冷媒は冷却水管84を流通し、他方の給排水口86から排出される。
【0022】
冷却構造体80のボディ82は、H鋼70のウェブ部71と2つのフランジ部72とで炉内側(+Y側)に形成されるコの字型の空間に設けられている。ボディ82は、ウェブ部71の炉内側の面、およびフランジ部72の内側面72aに接触している。またボディ82の一部である突出部83は、+X側及び−X側にせり出し、フランジ部72の炉内側端面72b(
図3の+Y側の端面)に接触している。ウェブ部71には、ボルト81が貫通しており、当該ボルトにより、冷却構造体80のボディ82がH鋼70に固定される。更に、ボディ82の炉内側にはフィン部85が形成されており、耐火物64がフィン部85に充填される。耐火物64は例えばレンガなどの定型耐火物、または粘土などの不定形耐火物である。
【0023】
なお、冷却水管84の溶損抑制のため、冷却水管84は、ボディ82のうちなるべく高めの位置に設けることが好ましい。
図3では、ボルト81と干渉しない最も高い位置に冷却水管84が設けられている。例えば、
図3では、冷却水管84の中心と冷却構造体80の下面との距離(L1)は約120mmで、冷却水管84の中心とウェブ部71との距離(L2)は約70mmとされている。なお、冷却水管84の外径(D1)は例えば42.7mm、内径(D2)は例えば22.7mmであるものとする。冷却水の流量は例えば5〜15トン/時とすることができ、熱負荷に応じて変更可能であるものとする。
【0024】
本実施例1では、冷却構造体80の内部に設けられた冷却水管84を冷却水が流れることで、冷却水がH鋼70から熱を奪い、H鋼70が冷却されるようになっている。この場合、冷却構造体80のボディ82は、H鋼のフランジ部72の+Y側端部(炉内側端面72b)を覆っているので、フランジ部72の+Y側端部を冷却することが可能となる。これにより、フランジ部72の+Y端部からの溶損を抑制することが可能となる。
【0025】
以上、詳細に説明したように、本実施例1に係る冷却構造体80は、自溶炉10の炉体を形成するH鋼70のウェブ部71およびフランジ部72により炉内側に形成される空間に設けられ、ウェブ部71およびフランジ部72の空間を形成する面に接触し、ウェブ部71の炉内側端面72bを覆うボディ82と、内部に冷却水が流通する冷却水管84とを備える。これにより、熱負荷の高いフランジ部72の炉内側端面72bがボディ82の突出部83に覆われるため、H鋼70の冷却が効果的に行われ、H鋼70の溶損が抑制される。このように、H鋼70の溶損が抑制され、強度が維持されることで、自溶炉10の倒壊も抑制される。なお、本実施例1では、H鋼70の寿命を例えば6年以上まで延ばすことができるため、H鋼70の更新(交換)工事の頻度を低減することができる。これにより、材料費や作業費などのコストを低減することができる。
【0026】
また、本実施例1では、冷却構造体80のボディ82は、銅製ジャケットである。このようにボディ82の材料として熱伝導率の高い銅を用いることで、H鋼70の冷却効果を高めることができる。また冷却水管84も金属製とすることで、冷却水管84の熱伝導率も高くなるため、H鋼70の冷却効果を高めることができる。さらに、ボディ82がウェブ部71およびフランジ部72の内側面72aに接触し、突出部83が炉内側端面72bに接触することで、高い冷却効果を得ることができる。なお、ボディ82は銅以外の金属で形成してもよい。
【0027】
また、本実施例1では、ボディ82にフィン部85が形成されているため、ボディ82と耐火物64との接触面積が大きくなり、冷却効率を高くすることができる。
【0028】
また、本実施例1では、冷却水管84をできるだけ上側(−Y側)に設けているので、冷却水管84の熱負荷を低くすることができ、冷却水管84の溶損の発生を低減することができる。したがって、漏水が抑制され、安定して自溶炉10を操業することができる。
【0029】
なお、上記実施例1では、冷却構造体80をセットラ30の天井部に設ける場合について説明したが、これに限らず、反応シャフト20とセットラ30との接合部など、セットラ30の天井部以外の熱負荷の高い場所に設けることとしてもよい。これにより、熱負荷の高い場所に設けられるH鋼の溶損を効果的に抑制し、H鋼の寿命を延ばすことができる。
【0030】
なお、上記実施例1においては、ボディ82に鋳込まれる冷却水管84が1つである場合について説明したが、これに限定されるものではない。例えば、
図4に示すように、ボディ82の内部に3つの冷却水管84a〜84cを鋳込むこととしてもよい。これにより、効果的な冷却が可能となる。なお、冷却水管は2つ又は4つ以上であってもよい。
【0031】
なお、上記実施例1においては、ボディ82とH鋼70のウェブ部71およびフランジ部72とが接触している場合について説明したが、これに限られるものではない。例えば、
図5に示すように、ボディ82とH鋼70との間に熱伝導性部材90が設けられてもよい。すなわち、ボディ82が熱伝導性部材90を介してH鋼70のウェブ部71やフランジ部の面と当着していてもよい。なお、熱伝導性部材90としては、例えば銅やステンレスなどの金属、またはセメントなどの、レンガ62よりも高い熱伝導率を有するものを採用することができる。これにより実施例1と同程度の冷却効果を得ることができる。なお、ボディ82とウェブ部71との間、および突出部83と炉内側端面72bとの間に熱伝導性部材90を設けてもよい。
【実施例2】
【0032】
図6は、実施例2におけるH鋼70近傍を示す断面図である。H鋼70には、実施例2に係る冷却構造体87が設けられている。冷却構造体87は、ボディ82の形状を除いて、実施例1の冷却構造体80と同じ構成である。
【0033】
図6に示すように、ボディ82は突出部83に代えて突出部88を有している。+X側の突出部88は、+X方向にせり出し、+X側のフランジ部72の+X側(外側)において−Y方向(上方向)に立ち上がった状態となっている。これにより、+X側の突出部88は、フランジ部72の炉内側端面72bとフランジ部72の外側面72c(内側面72aと反対側の面)の一部とを覆うようになっている。−X側の突出部88も+X側の突出部88と左右対称ではあるが、同様となっている。
【0034】
実施例2によれば、突出部88が、フランジ部72のうち炉内部に近接する3面の少なくとも一部を覆うため、フランジ部72の効果的な冷却が可能である。なお突出部88は、外側面72cの全体を覆ってもよい。
【0035】
なお、実施例2においても、実施例1と同様にボディ82に複数の冷却水管を設けてもよいし、ボディ82とH鋼70との間に熱伝導性部材90を設けてもよい。
【0036】
また、例えば冷却構造体87のボディ82は突出部83および88の両方を備えてもよい。すなわち、ボディ82の下端部の一方から突出部83(
図3参照)が突出し、他方から突出部88(
図6参照)が突出してもよい。これにより熱負荷に応じて冷却性能を調節することが可能となる。
【0037】
上記実施例は本発明を実施するための例にすぎず、本発明はこれらに限定されるものではなく、これらの実施例を種々変形することは本発明の範囲内であり、さらに本発明の範囲内において、他の様々な実施例が可能であることは上記記載から自明である。