特許第6385803号(P6385803)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6385803
(24)【登録日】2018年8月17日
(45)【発行日】2018年9月5日
(54)【発明の名称】圧縮機
(51)【国際特許分類】
   F04B 39/00 20060101AFI20180827BHJP
   F16J 15/3204 20160101ALN20180827BHJP
【FI】
   F04B39/00 107J
   F04B39/00 104D
   !F16J15/3204 101
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2014-231183(P2014-231183)
(22)【出願日】2014年11月14日
(65)【公開番号】特開2016-94880(P2016-94880A)
(43)【公開日】2016年5月26日
【審査請求日】2017年2月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】502129933
【氏名又は名称】株式会社日立産機システム
(74)【代理人】
【識別番号】100098660
【弁理士】
【氏名又は名称】戸田 裕二
(72)【発明者】
【氏名】奥田 亨
(72)【発明者】
【氏名】小林 永敏
【審査官】 加藤 昌人
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−248813(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04B 39/00
F04B 53/14
F16J 15/3204
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダ内を往復動するピストンと、
前記ピストンに形成されたシール溝にはめ込まれるシール部材とを備え、
前記シール部材は、前記シール溝にはめ込まれる底部と、前記ピストンの外側に設けられた側部と、前記底部と前記側部とを接続する屈曲部とを有し、
前記ピストンがシリンダ内を下死点から上死点に向けて移動し、シリンダ内に吸い込まれた外気を圧縮する圧縮行程において、前記ピストンが上死点側に遠ざかるように傾斜する部分における前記屈曲部の厚さを、上死点側に近づくように傾斜する部分における前記屈曲部の厚さよりも大きくし、
前記屈拒部の内周面の曲率半径を周方向の位置によって異ならせることを特徴とする圧縮機。
【請求項2】
前記ピストンがシリンダ内を下死点から上死点に向けて移動し、シリンダ内に吸い込まれた外気を圧縮する圧縮行程において、前記ピストンが上死点側に遠ざかるように傾斜する部分における前記屈曲部の内周面の曲率半径を上死点側に近づくように傾斜する部分における前記屈曲部の内周面の曲率半径よりも大きくすることを特徴とする請求項1に記載の圧縮機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧縮機に関する。
【背景技術】
【0002】
本技術分野の背景技術として、特許文献1がある。特許文献1にはピストン本体とシリンダ内面との間をシールするリップリングを備えたロッキングピストンが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2013−253698号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1のリップリングの屈曲部の厚さは、周方向の位置によらず一定である。ピストンがシリンダ内を揺動する揺動型圧縮機において圧縮行程時にピストンがシリンダに対して傾斜すると、リップリングにかかる応力は周方向の位置によって不均衡になる。そのため、特に大きな応力がかかるリップリングの屈曲部の厚さが周方向に位置によらず一定だと、特定の部分にのみ大きな応力がかかり、リップリングの寿命を向上させることができなかった。一方、リップリングの屈曲部の厚さを全周にわたって厚くした場合、屈曲部の剛性が高くなりすぎてしまい、シール性を向上させることができない。
【0005】
上記問題点に鑑み、本発明はリップリングのシール性を維持しつつ、リップリングの寿命向上を実現した圧縮機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため本発明は、シリンダ内を往復動するピストンと、前記ピストンに形成されたシール溝にはめ込まれるシール部材とを備え、前記シール部材は、前記シール溝にはめ込まれる底部と、前記ピストンの外側に設けられた側部と、前記底部と前記側部とを接続する屈曲部とを有し、前記屈曲部の厚さを周方向に位置によって異ならせることを特徴とする圧縮機を提供する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、リップリングのシール性を維持しつつ、リップリングの寿命向上を実現した圧縮機を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の実施例に係る圧縮機の断面図である。
図2】本発明の実施例に係る圧縮部の動作を示したである。
図3】本発明の実施例に係るリップリングの拡大図である。
図4】本発明の実施例に係るリップリングにかかる応力の解析結果を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明に係る圧縮機の実施例を、図を用いて説明する。
【0010】
図1は本発明の実施例による圧縮機の横断面図である。本実施例ではモータと圧縮部を一体に形成した圧縮機を例に挙げて説明する。
【0011】
駆動源としての電動モータ(モータ部)1は、駆動軸2と一体に形成されているロータ3、ステータ4、モータコイル5、モータハウジング6等で形成されている。モータコイル5に給電されることにより駆動軸2が回転する。駆動軸2は、モータハウジング6の外部へ貫通しており、モータハウジング6の外部において駆動軸2には、キー溝7が設けられておりそこにキー8が入り電動モータ1の回転力を偏心部としてのエキセントリック9に伝えている。ベアリング10に対し、偏心した位置にエキセントリック9を介して電動モータ1の回転軸を取り付けられることにより、電動モータ1の回転運動がベアリング10の偏心運動に変換され、ピストンの往復運動(揺動運動)に変換される。
【0012】
連接棒11の上面側のシール溝にはピストン体とシリンダ14との間をシールするシール部材としてのリップリング13が押え12を用いて取付けられており、シリンダ14内を往復運動するピストン体を構成している。リップリング13は、連接棒11とシリンダ14との間を気密にシールしている。リップリング13は、シール溝にはめ込まれる底部と、ピストン体を外周面に設けられる側部と、側部と底部とを接即し、屈曲した形状の屈曲部から構成される。リップリングは側部の内周面からシリンダ14内の圧縮空気の圧力を受けることに寄り、側部が外側に開き、ピストンとシリンダ14との間をシールする。
【0013】
上述のピストン体は、ピストンが連接棒11に固定されたタイプの揺動式であり、圧縮行程、吸入行程時において、シリンダ14内を揺動しながら往復動する。このとき、図2に示すようにピストン体とピストン体に装着されたリップリング13はピストンの揺動に伴い、電動モータの軸線方向から見て左右方向に傾斜しながら往復動する。
【0014】
クランクケース15は、電動モータ1によって駆動される圧縮部を覆っている。クランクケース15の上部にシリンダ14、吸込み弁16aと吐出し弁16bを有する空気弁組16、吐出し口17と吸込み口18を有するシリンダヘッド19が取付けられ、圧縮部を構成している。
【0015】
図2を用いて、本実施例における圧縮部の動作について説明する。ピストンがシリンダ14内の最も下にある位置(最もシリンダヘッド19から離れた位置)を下死点といい、最も上にある位置(最もシリンダヘッド19に近い位置)を上死点という。圧縮部はモータ1の駆動軸が回転すると、連接棒11とリテーナ12により構成されたピストンがシリンダ14内を下死点と上死点との間を往復動することにより、外部からシリンダ14内に空気を吸い込む吸入行程とシリンダ14内に吸込んだ空気を圧縮する圧縮工程を繰り返し行う。圧縮部における吸入工程では、ピストンが上死点から下死点に移動するに伴い、シリンダヘッド19に設けた外気吸込み口18より外気を吸込む。吸込んだ外気は上述の空気弁組16の有する吸込み弁16aを通過しシリンダ14内へ入る。圧縮行程では、ピストンが下死点から上死点に移動するに伴い、吸込んだ外気をシリンダ14内にて圧縮し、上述の空気弁組16の有する吐出し弁16bを通過し、上述のシリンダヘッド19の有する吐出し口17より圧縮空気として取り出す。取り出された圧縮空気は貯留タンク等に貯留される。
【0016】
電動モータ1が回転するとエキセントリック9も回転し連接棒11の大端部が駆動軸2から偏心した状態で回転する。ピストン体が連接棒11と一体となった揺動式ピストンの場合、ピストン体は上下運動に伴いしながら電動モータ1の軸線方向から見て左右方向に傾斜する。ピストン体の傾斜に連動して、リップリング13も軸線方向から見て左右方向に傾斜する。
【0017】
シリンダ14内の圧力が上昇する圧縮行程とリップリング13上面に荷重が作用する。そのため、圧縮工程においてリップリング13にかかる応力がとくに上昇するため、リップリング13の寿命を向上させるためには圧縮行程時にリップリング13にかかる応力を考慮する必要がある。
【0018】
ここで、図2に示すように圧縮行程において、ピストン体、リップリング13が下(シリンダヘッド19から遠ざかる側)に傾斜する部分を突込み側、上(シリンダヘッド19に近づく側)に傾斜する部分を反突込み側と定義する。
【0019】
リップリング13に作用する応力について図4を用いて説明する。
【0020】
図4にリップリング13にかかる応力をFEM解析したものを示す。突込み側と反突込み側の応力について、それぞれ、内周面の曲率半径を1mm、0.5mmとしたものについて計算した。色が薄くなっている部分は高い応力がかかっている部分である。突込み側は屈曲部の外周面の応力を主応力として示し、反突込み側は屈曲部の内周面の応力を応力として示している。なお、内周面の曲率半径が大きいほど、屈曲部の厚さは厚くなる。
【0021】
リップリング13が揺動することによって圧縮工程においては突込み側の屈曲部の外周面が伸ばされるため引張応力が作用する。他方、反突込み側の屈曲部の内周面も伸ばされるため引張応力が作用する。
【0022】
図4に示す通り、突込み側では、内周面の曲率半径を大きくし、屈曲部の厚さを厚くしたほうが屈曲部に作用する応力を軽減することができることがわかった。一方、反突込み側では内周面の曲率半径を小さくし、屈曲部の厚さを薄くしたほうが屈曲部の応力を軽減することができることがわかった。
【0023】
そこで、本実施例では、図3に示すようにリップリング13の周方向の位置によって屈曲部の厚さを異ならせるようにした。リップリング13の突込み側は、屈曲部の厚さを厚くすることで、リップリング13がシリンダ14の壁面から応力を受けても屈曲しにくくなるようにした。一方、リップリング13の反突込み側は、屈曲部の厚さを薄くすることにより、シリンダ14の壁面から応力を受けたときに屈曲しやすくなるようにした。
【0024】
これにより、圧縮行程においてピストン体とリップリング13がシリンダ14に対して傾斜したとき、リップリング13がシリンダ14の壁面からの応力を受けて、反突込み側に寄るように移動する。そのため、突込み側では、シリンダ14の壁面からの応力を低減させることができ、屈曲部の外周面が引っ張られないようにすることができる。一方、反突込み側では、シリンダ14内部の圧縮空気の圧力に対してシリンダ14の壁面からの応力が大きくなるようにして、屈曲部の内周面が広がりすぎないようにした。このようにすることで、圧縮行程において引張応力が大きくなりやすい突込み側の屈曲部の外周面と反突込み側の内周面の応力を低減することができ、リップリング13の寿命を向上差得ることができる。
【0025】
ここで、本実施例では、突込み側の屈曲部の厚さを反突込み側の屈曲部の厚さよりも大きくする例について説明してきたが、突込み側の屈曲部の剛性が反突込み側の屈曲部の剛性よりも高くなり、圧縮行程時にリップリングが反突込み側に寄れば厚さを変えなくてもよい。例えば、突込み側と反突込み側とを同じ厚さにし、突込み側を反突込み側より剛性の高い材質で形成してもよい。
【0026】
本実施例では突込み側と反突込み側とで屈曲部の厚さを変えて剛性を異ならせた場合、圧縮行程において、シリンダヘッド19(上死点側)に遠ざかるように傾斜する部分(突込み側)の屈曲部の厚さとシリンダヘッド19(上死点側)に近づくように傾斜する部分(反突込み側)の屈局部の厚さが急激に変化しないように滑らかな形状になるように形成した。本発明はこれに限らず、屈曲部の厚さが急激に変化するように形成してもよいし、シリンダヘッド19(上死点側)に遠ざかるように傾斜する部分またはシリンダヘッド19(上死点側)に近づくように傾斜する部分の一部だけを他の部分と屈曲部の厚さを異ならせるようにしてもよい。
【0027】
本実施例におけるリップリング13を製作する方法について説明する。一般的にリップリングを製作する方法としては、素材を切削加工で希望の形状にする方法や、中空の円盤状に切削した後、加熱しながらプレスのように凹凸の型に挟み込んで希望の形状にする方法があるが、本発明の形状にするためには後者が有効である。すなわち、凸の型(内側の形状を決定する型)のR(曲率半径)を周方向で一様でない形状に加工すれば可能となる。ただし中空の円盤状に切削した板厚よりも厚くすることは不可能であるため、突込み側の屈曲部の内周面のR(曲率半径)の最大値は板厚となる。
【0028】
以上より、本実施例によれば、リップリング13の周方向における厚さを異なるように形成し、突込み側の屈曲部の厚さを反突込み側の屈曲部の厚さよりも大きくなるように形成することにより、リップリング13の寿命を向上させることができる。また、リップリング13全体を厚く形成する必要がなくなるため、リップリング13の側部が外側に開きにくくなることがなく、シール性を低下させずにリップリング13の寿命を向上させることができる。
【0029】
本実施例にて説明したリップリング13の形状は本実施例で説明した往復動圧縮機に限らず、真空ポンプ等にも適用でき、電動モータを用いた様々な機械において信頼性の確保に大きく寄与する。
【0030】
これまで説明してきた実施例は、何れも本発明を実施するにあたっての具体化の一例を示したものに過ぎず、これらによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されない。すなわち、本発明はその技術思想、又はその主要な特徴から逸脱することなく、様々な形で実施することができる。
【符号の説明】
【0031】
1 電動モータ
2 駆動軸
3 ロータ
4 ステータ
5 モータコイル
6 モータハウジング
7 キー溝
8 キー
9 エキセントリック
10 ベアリング
11 連接棒
12 リテーナ
13 リップリング
14 シリンダ
15 クランクケース
16 空気弁組
16a 吸込み弁
16b 吐出し弁
17 吐出し口
18 吸込み口
19 シリンダヘッド
図1
図2
図3
図4