(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記鋼管打設工程での前記鋼管の打設と、前記鋼管抜き取り工程での前記鋼管の抜き取りとは、長尺鋼管先受け工法に用いられる2重管構造のボーリングロッドによって行うことを特徴とする請求項1記載の自由面形成工法。
【発明を実施するための形態】
【0010】
次に、本発明を実施するための形態(以下、単に「実施の形態」という)を、図面を参照して具体的に説明する。
【0011】
本実施の形態の自由面形成工法では、地山の安定性を図る長尺鋼管先受け工法に用いられるボーリングロッド1を用いて連続孔を形成する。ボーリングロッド1は、
図1に示すように、現場で通常使用されているドリルジャンボ(削孔機)100に装着して使用される。
【0012】
ボーリングロッド1は、
図2に示すように、先端からリングビット2、ケーシングシュー3、鋼管4の順に連なる外管部11と、先端からインナービット5、中継ロッド6の順に連なる内管部12とで構成された2重管構造である。
【0013】
内管ロッド8の後端には、アダプタ13を介してドリフター14が連結される。ドリフター14は、内管部12に対して回転力及び打撃力を出力する回転・打撃装置であり、ドリルジャンボ100に設けられたフィード装置15によって前後方向に移動可能に取り付けられている。ドリフター14が出力する衝撃力及び回転力は、中継ロッド6を介してインナービット5に伝達される。中継ロッド6とインナービット5とは、正逆いずれの回転でも連結が緩まないように連結されている。これらの連結は、例えば端部同士を相互に螺着することによって行うことができ、連結部を貫通するピンを設けることで正逆いずれの回転方向に対しても固定させると良い。
【0014】
インナービット5は、
図3を参照すると、先端に岩盤を掘削する複数の掘削チップ7を有する。そして、インナービット5の後方には、拡径した部分を設けてケーシングシュー3を前方に押し付ける押付力伝達部51としている。掘削チップ7は、凸球面状の先端部を有するボタンチップである。また、先端の掘削チップ7と押付力伝達部51との間には、打撃力、押付力及び後方に引き抜く引抜力をリングビット2に伝達する打撃力伝達部52と、リングビット2に回転力を伝達する回転力伝達部53とが設けられている。
【0015】
ケーシングシュー3の内周には、縮径し、インナービット5の押付力伝達部51と係合し、押付力伝達部51から押付力及び打撃力が伝達される押付力被伝達部31が形成されている。ケーシングシュー3の後端には、鋼管4が螺合や溶接によって取り付けられ、ケーシングシュー3の先端には、リングビット2が回転自在に取り付けられる。
【0016】
鋼管4としては、長尺鋼管先受け工法に用いられるAGF鋼管を使用することができる。なお、長尺鋼管先受け工法では、定着材を注入するための孔がAGF鋼管に形成されているが、本実施の形態の自由面形成工法では、孔が形成されていないAGF鋼管を使用する。
【0017】
リングビット2は、先端に岩盤を掘削する複数の掘削チップ7を有する。リングビット2の内周には、インナービット5の打撃力伝達部52と係合し、打撃力伝達部52から打撃力及び押付力が伝達される打撃・押付力被伝達部21と、インナービット5の打撃力伝達部52と係合し、打撃力伝達部52から引抜力が伝達される引抜力被伝達部22と、インナービット5の回転力伝達部53と係合し、回転力伝達部53から回転力が伝達される回転力被伝達部23とが形成されている。インナービット5の打撃力伝達部52と、リングビット2の打撃・押付力被伝達部21及び引抜力被伝達部22とは、インナービット5の正方向の回転によって係合され、インナービット5の逆方向の回転によって係合が解消される。
【0018】
(第1の実施の形態)
次に、ボーリングロッド1を用いて自由面を形成する自由面形成工法の第1の実施の形態について
図4及び
図5を参照して詳細に説明する。なお、
図4及び
図5では、鋼管4の長さ方向の縮尺が幅方向の縮尺に比べて大きくなっている。
まず、
図4(a)に示すように、鋼管打設工程としてボーリングロッド1を用いて切羽に複数本の鋼管4を打設する。複数本の鋼管4は、形成したい自由面の形状内に満遍なく近接させて打設する。
図4(a)に示す例では、円形の自由面を形成するため、鋼管4として7本のAGF鋼管(鋼管径φ=114.3mm、肉厚t=6.0mm、長さL=3m)を相互に接するように自由面の形状内に満遍なく打設した例が示されている。なお、自由面の形状は任意である。また、鋼管4を打設する順番は任意である。最初の鋼管4を打設した後、新たな鋼管4を既設の鋼管4に近接させて順次打設しても良い。また、間隔をおいて鋼管4を打設した後、既設の鋼管4の間に新たな鋼管4を近接させて打設しても良い。
【0019】
鋼管4の打設は、以下に示す工程によって行われる。
まず、内管部12をドリルジャンボ100に装着し、この内管部12を外管部11の内部後端から挿入させ、
図2及び
図3に示すボーリングロッド1を構成させる。そして、ドリフター14の駆動によって打撃力と正方向の回転力とを発生させると共に、フィード装置15によってドリフター14を前方に移動させて押付力を発生させ、ボーリングロッド1によってトンネル内の切羽を削孔する。ドリフター14からの打撃力及び正方向の回転力と、フィード装置15からの押付力とは、中継ロッド6を介してインナービット5に伝達され、インナービット5によって削孔が行われる。また、打撃力、正方向の回転力及び押付力は、インナービット5からリングビット2に伝達され、リングビット2によっても削孔が行われる。また、打撃力及び押付力は、インナービット5からケーシングシュー3へも伝達され、掘削に伴ってケーシングシュー3と、ケーシングシュー3の後方に取り付けた鋼管4とが引き込まれる。このようにして、所定の到達距離まで削孔した後、ドリフター14を逆方向に回転させることで、インナービット5の打撃力伝達部52と、リングビット2の打撃・押付力被伝達部21及び引抜力被伝達部22との係合を解消させ、内管部12を後方に引き抜く。これにより、先端にリングビット2及びケーシングシュー3を残した状態で鋼管4が打設される。なお、削孔の際には、中継ロッド6及びインナービット5の内部に形成された供給通路を通して削孔水がインナービット5及びリングビット2に送られる。この削孔水によってインナービット5及びリングビット2が冷却されると共に、掘削したスライムが外管部11内部を通って後方からスムーズに排出される。
【0020】
新たな鋼管4を既設の鋼管4に近接させて打設する場合、既設の鋼管4がガイドとして機能し、新たな鋼管4を既設の鋼管4と略平行に打設することができる。すなわち、ボーリングロッド1による削孔に、鋼管4が埋設されているため、ボーリングロッド1の先端が既設の鋼管4の方向に曲がろうとしても、ボーリングロッド1の先端が既設の鋼管4に当接して軌道が修正される。なお、リングビット2の掘削チップ7として先端が凸球面状のボタンチップを用いているため、ボーリングロッド1の先端、すなわち掘削チップ7が既設の鋼管4に当接しても、掘削チップ7が鋼管4の表面で滑り、鋼管4が大きなダメージを受けることがない。
【0021】
図4(a)では、削孔の所定の到達距離を3mとした。この場合、鋼管4の後端部は、インナービット5及びケーシングシュー3の長さ分、切羽から突出した状態となる。このように、打設した鋼管4の後端部を切羽から突出させることで、突出させた既設の鋼管4を基準にして新たな鋼管4の位置あわせを容易に行うことができる。
【0022】
次に、鋼管抜き取り工程として打設した鋼管4を全て引き抜く。鋼管4を引き抜くことで連続した空孔(連続孔)が形成され、
図4(b)に示すように、鋼管4を引き抜いた跡が心抜き自由面16となる。
図4(a)に示すように7本の鋼管4を相互に接するように円形に打設した場合には、鋼管4の鋼管径φの約3倍の直径を有し、鋼管4の長さとほぼ同じ深さを有する心抜き自由面16が形成される。
【0023】
鋼管4の引き抜きは、以下に示す工程によって行われる。
まず、ドリルジャンボ100に装着した内管部12を打設されている鋼管4の内部後端から挿入させ、ドリフター14の駆動によって正方向の回転力を発生させると共に、フィード装置15によってドリフター14を前方に移動させる。これにより、先端にインナービット5が連結された内管部12が前方に移動され、インナービット5がリングビット2の位置まで到達すると、インナービット5の打撃力伝達部52と、リングビット2の打撃・押付力被伝達部21及び引抜力被伝達部22とが係合する。インナービット5の打撃力伝達部52と、リングビット2の打撃・押付力被伝達部21及び引抜力被伝達部22とが係合したか否かは、鋼管4の挙動を観察することで判断することができる。すなわち、インナービット5が鋼管4及びケーシングシュー3の内部に位置している際には、回転力がインナービット5から鋼管4及びケーシングシュー3に伝達され、鋼管4の動き(回転や振動)が大きい。これに対して、インナービット5がリングビット2の位置まで到達すると、回転力はインナービット5からリングビット2に伝達されるため、鋼管4の動き(回転や振動)が小さくなる。
【0024】
次に、ドリフター14の駆動によって正方向の回転力を発生させると共に、フィード装置15によってドリフター14を後方に移動させる。これにより、引抜力がインナービット5の打撃力伝達部52からリングビット2の引抜力被伝達部22に伝達され、リングビット2及びケーシングシュー3と共に鋼管4が引き抜かれる。
【0025】
次に、
図5(a)、(b)に示すように、払い発破によって所定長(例えば、1000mm)ずつ掘削を行う。心抜き自由面16を形成することで、払い発破に爆薬に比べて振動を低減できる非火薬破砕剤(蒸気圧破砕薬、静的破砕剤等)を使用して振動を低減させることができる。
【0026】
(第2の実施の形態)
次に、ボーリングロッド1を用いて自由面を形成する自由面形成工法の第2の実施の形態について
図6及び
図7を参照して詳細に説明する。なお、
図6及び
図7では、鋼管4の長さ方向の縮尺が幅方向の縮尺に比べて大きくなっている。
第2の実施の形態では、
図6(a)に示すように、鋼管打設工程として複数本の鋼管4を形成したい自由面の周囲に近接させて打設する。
図6(a)に示す例では、円形の自由面を形成するため、鋼管4として24本のAGF鋼管(鋼管径φ=114.3mm、肉厚t=6.0mm、長さL=3m)を相互に近接するように円周状に打設した例が示されている。
【0027】
次に、鋼管抜き取り工程として打設した鋼管4を全て引き抜く。鋼管4を引き抜くことで連続した空孔(連続孔)が形成され、
図6(b)に示すように、鋼管4を引き抜いた跡が円周状の自由面17となる。鋼管4は、互いが接するように打設することなく、少し離れていても、鋼管4の引き抜きの際に、間の岩盤が崩れるため、連続した空孔(連続孔)が形成される。
【0028】
次に、
図7(a)に示すように、円周状の自由面17に囲まれた円形部分を最小限の発破、又はブレーカによって破砕し、円周状の自由面17を面状の自由面18に拡大する。その後、
図7(b)に示すように、払い発破によって掘削を行う。この円形部分の破砕と、払い発破による掘削とを所定長(例えば、1000mm)ずつ行う。
【0029】
(第3の実施の形態)
次に、ボーリングロッド1を用いて自由面を形成する自由面形成工法の第3の実施の形態について
図8を参照して詳細に説明する。
第2の実施の形態では、24本の鋼管4(外管部11)を用いて円周状の自由面17を形成したが、第3の実施の形態では、5本の鋼管4a〜4eを用いて円周状の自由面17をする。
【0030】
まず、鋼管打設工程として5本の鋼管4a〜4eを、
図8(a)に示すように、形成したい自由面の周囲に近接させて打設する。5本の鋼管4a〜4eでは、形成したい自由面の周囲全部をカバーすることができず、自由面の周囲の一部に線状に打設される。次に、鋼管抜き取り工程として真ん中に位置する鋼管4cを抜き取り、
図8(b)に示すように、鋼管打設工程として抜き取った鋼管4cを端部に位置する鋼管4eに近接させて打設する。次に、鋼管抜き取り工程として鋼管4cを抜き取った後の空穴に隣接して打設されている鋼管4dを抜き取り、
図8(c)に示すように、鋼管打設工程として抜き取った鋼管4dを端部に位置する鋼管4cに近接させて打設する。このように鋼管4c〜4eの抜き取る鋼管抜き取り工程と、鋼管4c〜4eを打設する鋼管打設工程とを順次行うことで、連続孔が徐々に延びて円周状の自由面17が徐々に形成されていく。そして、
図8(d)に示すように、鋼管4c〜4eと、反対側の抜き取らずに残した鋼管4a、4bとが繋がると、5本の鋼管4a〜4eを抜き取る。これにより、
図6(b)に示すような円周状の自由面17が形成される。なお、第3の実施の形態では、5本の鋼管4a〜4eを使用する例について説明したが、使用する鋼管4の本数は、2本以上であれば任意である。円周状の自由面17のように、両端が閉じた自由面を形成する場合には、鋼管4が3本以上必要になるが、両端が開いた線状の自由面を形成する場合には、鋼管4が2本以上であれば良い。
【0031】
このように、第3の実施の形態によると、使用する鋼管4の本数を削減することができ、コストダウンを実現することができる。また、最初の鋼管打設工程によって所定本数の鋼管4a〜4eを打設した後は、鋼管抜き取り工程によって抜き取った鋼管4c〜4eをそのまま用いて打設するため、抜き取った鋼管4c〜4eを内管部12から取り外す作業と、打設する鋼管4c〜4eを内管部12に装着する作業と軽減することができる。
【0032】
以上説明したように、本実施の形態によれば、切羽に自由面を形成する自由面形成工法であって、切羽に複数の鋼管4を近接させて打設する鋼管打設工程と、打設した鋼管4を切羽から抜き取る鋼管抜き取り工程とを有し、鋼管4を抜き取った跡の空孔が連なった連続孔を自由面(心抜き自由面16、円周状の自由面17)として形成する。
この構成により、鋼管4やドリルジャンボ100等の一般的な機械設備を用いて、自由面となる連続孔を簡単に削孔することができる。
【0033】
さらに、本実施の形態では、鋼管打設工程での鋼管4の打設と、鋼管抜き取り工程での鋼管4の抜き取りとは、長尺鋼管先受け工法に用いられる2重管構造のボーリングロッド1によって行う。
この構成により、長尺鋼管先受け工法用の一般的な機械設備を用いて、自由面となる連続孔を簡単に削孔することができる。
【0034】
さらに、本実施の形態において、ボーリングロッド1の掘削チップ7は、先端が凸球面状のボタンチップである。
この構成により、掘削チップ7が既設の鋼管4に当接しても、掘削チップ7が鋼管4の表面で滑り、鋼管4が大きなダメージを受けることがない。
【0035】
さらに、本実施の形態では、鋼管打設工程によって所定本数の鋼管4a〜4eを打設した後、鋼管抜き取り工程と鋼管打設工程とを順次繰り返して、徐々に連続孔を延ばすようにしても良い。
この構成により、使用する鋼管4の本数を削減することができ、コストダウンを実現することができる。
【0036】
さらに、本実施の形態では、鋼管打設工程によって所定本数の鋼管4a〜4eを打設した後、一部の鋼管4a〜4bを残した状態で他の鋼管4c〜4eを用いて鋼管抜き取り工程と鋼管打設工程とを順次繰り返す際に、鋼管抜き取り工程によって抜き取った鋼管4c〜4eをそのまま用いて、次の鋼管打設工程で打設するようにしても良い。
この構成により、抜き取った鋼管4c〜4eを内管部12から取り外す作業と、打設する鋼管4c〜4eを内管部12に装着する作業と軽減することができる。
【0037】
以上、本発明を実施の形態をもとに説明した。この実施の形態は例示であり、それらの各構成要素の組み合わせ等にいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。