(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
従来から、圧延装置を用いて厚鋼板などの圧延材を圧延する場合には、圧延装置に備えられた圧延機の一対のワークロールの間隙(以下、ロールギャップ量と呼ぶ)を調整して、圧延材の出側板厚を目標値に一致させる板厚制御が行われている。
圧延機は、板厚を制御するための板厚制御部を有しており、この板厚制御部では目標板厚を得るためのロールギャップ量を計算している。すなわち、板厚制御部では、圧延モデルによって圧延荷重Pを計算した後、ロールギャップ、圧延荷重、目標板厚の関係を表すゲージメータ式(次式)を使って、ロールギャップ量を算出している。
【0003】
H=S+P/M
ここで、Mはミル定数であり、(1/M)は単位荷重が作用したときに、圧延機内で圧延材が通過する位置でのロールギャップの開き量である。このゲージメータ式には、程度の差はあるものの、常時、誤差ΔSが含まれる。すなわち、狙いの板厚Hを得るためには、真のロールギャップはSではなく、S+ΔSのロールギャップに設定する必要がある。なお、圧延荷重Pの予測誤差は考慮しないこととする。
【0004】
誤差ΔSの値は、圧延が完了した後に圧延結果を用いて、次式を用いて、知見することができる。
ΔH=ΔS+ΔP/M
ΔH=H
act−H
ref
ΔP=P
act−P
cal
ここで、H
actは実測される板厚、H
refは目標板厚、P
actは実測される圧延荷重、P
calはH
refから計算される圧延荷重である。
【0005】
ところで、ゲージメータ式を用いた板厚の制御において、上記した誤差ΔS(ゲージメータ誤差ΔS)が発生する要因としては、
要因(1):ロールの磨耗や熱膨張によるロール径の変化
要因(2):ロールのたわみによるロールギャップの変化
要因(3):ミル定数Mの推定誤差
などが考えられる。
【0006】
そこで、所定のパス(例えば、nパス目)の圧延が終わった後に、ゲージメータ式によってゲージメータ誤差ΔSを求め、次の(n+1)パス目の圧延では、ゲージメータ誤差ΔSが修正されたゲージメータ式(次式)を用いて、ロールギャップS
n+1を決定する方法が、従来より採用されている。
H
n+1=S
n+1+ΔS+P
n+1 cal/M
また、ゲージメータ誤差ΔSには、nパス目の圧延結果から計算される値を用いるのではなく、それ以前のパスの影響も考慮し、たとえば(n-1)パス目におけるゲージメータ誤差ΔS
-1を用いて、次式で計算されるΔS'を用いることも多い。
【0007】
ΔS'=αΔS+(1−α)ΔS
-1
このようにして、前述したゲージメータ誤差の発生要因(1)〜(3)に起因するとしては、ゲージメータ誤差ΔSを学習していくことで、より目標板厚により近い板厚を実現するロ
ールギャップの設定が可能である。
上述した如く、前パスの圧延結果を現パスに反映させることで、ゲージメータ式による圧延材の板厚制御の精度を向上する技術は、数々開発されており、例えば、特許文献1の技術が該当する。
【0008】
すなわち、特許文献1に開示の圧延機の板厚制御方法は、ロールギャップオフセット量とミル定数とを含むゲージメータ式を用いて圧延材の板厚を制御する際に、前回圧延時のロールギャップオフセット量とミル定数とを、同圧延時に測定した実測データに基づいて推定し、推定した前回圧延時のロールギャップオフセット量とミル定数とを、前回と次回の圧延条件を考慮して修正し、修正したロールギャップオフセット量とミル定数とを、次回圧延時の板厚制御に適用することを特徴とする技術である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
前述した手法は、ゲージメータ式に基づいてゲージメータ誤差ΔSを計算し、算出されたゲージメータ誤差ΔSを基に、次のパスの圧延のロールギャップSを補正するものである。しかしながら、この手法は、それ以前のパスで推定されたΔSによって次パスの圧延におけるΔSが完全に予測できるということが前提となっている技術である。
ところが、ゲージメータ誤差ΔSは全パスにわたって一定ではなく、完全に予測できるものではない。それは、前述の要因(1)〜要因(3)によるゲージメータ誤差が、圧延量、圧延荷重、板幅等によって変化していくからである。そこで、それ以前の圧延結果からΔSを予測してロールギャップを設定する方法では、ΔSの予測の外れによって板厚誤差が発生することが否めない。
【0011】
このような問題に対して、前述の特許文献1の技術は対応できるものとはなっていない。
そこで本発明は、上記問題点に鑑み、ゲージメータ式を用いた板厚の制御方法において、ゲージメータ誤差の学習方法を改善し、目標板厚を得るためのロールギャップをより高い精度で計算する板厚制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上述の目的を達成するため、本発明においては以下の技術的手段を講じた。
本発明の板厚制御方法は、
同一のロールで複数パスの圧延を行う圧延機のロールギャップを制御する板厚制御方法
であって、現パスより前の複数パスにおける出側板厚の実測値とロールギャップの設定値とから、圧延中のミル伸び量を求めると共に、求めたミル伸び量と圧延荷重の実測値の関係式(P=f
n(δ))を求めておき、次パスのロールギャップの設定において、
次パス前の板厚と次パス後の目標板厚から圧延荷重を求め、前記関係式(P=f
n(δ))を用いて次パスでのミル伸び量を求め、次パスの目標板厚から求めたミル伸び量を減算することで、次パスにおけるロールギャップ量を算出し設定することを特徴とする。
【0013】
好ましくは、1パス目の圧延において、ミル伸び量と圧延荷重の実測値の関係式(P=f
n(δ))を初期化し、2パス目以降の圧延データから、ミル伸び量と圧延荷重の実測値の関係式(P=f
n(δ))内の係数を決定し、3パス目以降、順次、パス数の増加とともに、前記関係式(P=f
n(δ))内の係数を修正するとよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ゲージメータ式を用いた板厚の制御方法において、ゲージメータ誤差の学習方法を改善し、目標板厚を得るためのロールギャップをより高い精度で計算することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を基に、本発明にかかる圧延機の板厚制御方法を説明する。
図7に示す如く、厚鋼板等の圧延材Wを圧延する圧延装置1は、その上流側に圧延材Wを加熱する加熱炉2を有し、加熱炉2の下流側には、圧延材Wの粗圧延を行う粗圧延機3が備えられている。粗圧延機3の下流側には、仕上げ圧延を行う仕上圧延機4が備えられている。加熱炉2で加熱されたスラブRは、粗圧延機3や仕上圧延機4で複数回(複数パス)圧延されて、製品の圧延材W(厚鋼板)となる。
【0017】
圧延装置1に備えられている粗圧延機3や仕上圧延機4(以下、圧延機という)は、圧延材Wを圧延する一対のワークロール5,5とそれをバックアップする一対のバックアップロール6,6とを有している。
さらに、圧延機には、ワークロール5,5の間隙長(以下、ロールギャップ量と呼ぶ)を調整する油圧駆動の圧下装置が備えられている。また圧延機には圧延荷重を計測するロードセルが設けられている。圧延機の出側には、圧延材Wの出側板厚を計測するための板厚計が設けられている。板厚計としてはγ線板厚計などを採用することができる。なお、インラインの板厚計測手段が具備されていない場合、作業者がマイクロメータ等の測定具を用いて、手作業にて圧延材Wの出側板厚を計測する場合もある。
【0018】
圧延機には、ロードセルが計測した圧延荷重と板厚計が計測した出側板厚とを受けて、圧延材Wの出側板厚が所定のものとなるように、ロールギャップ量を制御する板厚制御部が設けられている。この板厚制御部はプロコンやPLCから構成されており、内部には、AGC制御系やベンダ制御系などがプログラムの形で組み込まれている。
本実施形態における板厚制御部は、基本的には、ゲージメータ式を用いたAGC(例えば、BISRA−AGC)を実行してロールギャップ量を制御している。ゲージメータ式を用いたAGCは、圧延機の弾性や圧延材Wの変形抵抗を考慮した上で、圧延機の出側板厚を求めるものであって、例えば、ロードセルが計測した圧延荷重を基にミル定数などを考慮して出側板厚を推定し、その値を基にロールギャップ量を変更し圧延機の制御を行うものである。
【0019】
さらに、本実施形態の板厚制御部は、ゲージメータ式を用いたAGCにおけるゲージメータ誤差ΔSの学習方法を改善し、目標板厚を得るためのロールギャップをより高い精度で計算する処理も備えている。この処理は本発明の板厚制御方法に特有のものである。
本発明の板厚制御方法を説明する前に、まず、
図1を参照しつつ、従来の手法によりロールギャップを設定する方法について、説明する。
【0020】
まず、
図1のSTEP101に示すように、1パス目のロールギャップの設定値S
1をゲ
ージメータ式(次式)に基づいて算出する。その後、ロールギャップの設定値S
1に基づいて圧延を行う。
S
1=H
1ref-P
1cal/M
STEP102において、1パス目の圧延結果(H
1act、P
1act)を取得する。
【0021】
STEP103において、1パス目の圧延実績に基づいたゲージメータエラー値を、次式で計算する。
ΔS
1=ΔH
1-ΔP
1/M
ΔH
1=H
1act−H
1ref
ΔP
1=P
1act−P
1cal
次に、STEP104では、2パス目のロールギャップ量S
2を、次式で設定し、ロールギャップの設定値S
2に基づいて圧延を行う。
【0022】
S
2=H
2ref-P
2cal/M-ΔS
1
STEP105において、2パス目の圧延結果(H
2act、P
2act)を取得する。
STEP106において、2パス目の圧延実績に基づいたゲージメータエラー値を、次式により計算する。
ΔS
2=ΔH
2-ΔP
2/M
ΔH
2=H
2act−H
2ref
ΔP
2=P
2act−P
2cal
求めたΔS
2を基に、STEP107において、3パス目のロールギャップ量S
3を次式で設定し、ロールギャップの設定値S
3に基づいて圧延を行う。
【0023】
S
3=H
3ref-P
3cal/M-ΔS
2
STEP108において、3パス目の圧延結果(H
3act、P
3act)を取得する。
STEP109において、3パス目の圧延実績に基づいたゲージメータエラー値を、次式により計算する。
ΔS
3=ΔH
3-ΔP
3/M
ΔH
3=H
3act−H
3ref
ΔP
3=P
3act−P
3cal
以下、STEP110〜STEP112にて同様の計算を行い、4パス目からnパス目までのロールギャップ量S
4〜S
nを設定する。
【0024】
以上が、従来の手法によりロールギャップを設定する方法であり、以前のパスで推定されたΔSによって次パスの圧延におけるΔSが完全に予測できるということが前提となっている技術である。
しかしながら、実際の圧延では、ゲージメータ誤差ΔSは全パスにわたって一定ではなく、完全に予測できるものではない。それ故、以前の圧延結果からΔSを予測してロールギャップを設定する方法(従来の板厚制御技術)では、ΔSの予測の外れによって板厚誤差が発生することが否めない。
【0025】
本発明の板厚制御方法は、かかる難点を克服した技術となっている。
以下、
図2を基に、本発明の板厚制御方法について詳細に説明する。
まず、本発明の板厚制御方法においては、2パス目までは従来法と同じ計算法を採用するようにしている。すなわち、
図2のSTEP1に示すように、1パス目のロールギャップの設定値S
1をゲージメータ式(次式)に基づいて算出し、ロールギャップの設定値S
1に基づいて圧延を行う。
【0026】
S
1=H
1ref-P
1cal/M
STEP2において、1パス目の圧延結果(H
1act、P
1act)を取得する。
STEP3において、1パス目の圧延実績に基づいたゲージメータエラー値を、次式で計算する。
ΔS
1=ΔH
1-ΔP
1/M
ΔH
1=H
1act−H
1ref
ΔP
1=P
1act−P
1cal
その後、STEP4では、1パス目のミル伸び量の実測値δ
1の計算を、次式で行う。
【0027】
δ
1=H
1act−S
1
STEP5にて、ロールギャップ量S
2を、次式で設定する。
S
2=H
2ref-P
2cal/M-ΔS
1
同様に、STEP6にて、2パス目の圧延結果(H
2act、P
2act)を取得し、STEP7にて、2パス目のミル伸び量の実測値δ
2の計算を、次式で行う。
【0028】
δ
2=H
2act−S
2
その後、STEP8にて、2パス目までのミル伸び式P=f
2(δ)を作成する。ここで、f
2()は、P
1=f
2(δ
1)とP
2=f
2(δ
2)を満たす関数とする。f
2(δ)としては、ミル伸び量δと圧延荷重の実測値(P
1, P
2)の関係を簡易の数式、たとえば、以下に示す2次式の形で表現したものを採用するとよい。
【0029】
P=a
0+a
1*δ
1+a
2*δ
22
続いて、STEP9において、STEP8にて作成したミル伸び式P=f
2(δ)を用いて、3パス目のミル伸び量のδ
3の予測計算を行い、その結果を基に、STEP10にて、
次式に基づいて、3パス目のロールギャップ量を計算する。
S
3=H
3ref−δ
3cal
その後、STEP11にて、3パス目の圧延結果(H
3act、P
3act)を取得し、STEP12にて、3パス目のミル伸び量の実測値δ
3の計算を、次式で行う。
【0030】
δ
3=H
3act−S
3
STEP13にて、3パス目までのミル伸び式P=f
3(δ)を作成する。ここで、f
3()は、P
i=f
3(δ
i)(i=1,2,3)を満たす関数とする。
以下、同様にSTEP14〜18を行うことで、4パス目のミル伸び量のδ
4の予測計算、4パス目の圧延、4パス目のミル伸び量の実測値δ
4の計算、4パス目までのミル伸び式P=f
4(δ)の作成を行う。
【0031】
その後は、圧延を進めることになるが、その際の板厚制御方法は、STEP19〜23に則り、制御を進める。すなわち、nパス目のミル伸び量のδ
nの予測計算、nパス目の圧延、nパス目のミル伸び量の実測値δ
nの計算、nパス目までのミル伸び式P=f
n(δ)の作成を行う。
ここで、f
n(δ)としては、ミル伸び量δと圧延荷重の実測値(P
n-1, P
n-2, P
n-3, ・・・, P
n)の関係を簡易の数式、たとえば、以下に示すn次式の形で表現したものを採用するとよい。
【0032】
P=a
0+a
1*δ
1+a
2*δ
22+・・・+a
n*δ
nn
以上のように、ゲージメータ式を用いた板厚の制御方法において、ゲージメータ誤差ΔSの学習方法を改善することで、目標板厚を得るためのロールギャップをより高い精度で計算することが可能となる。特に、圧延開始に対応する圧延材Wの先端部での板厚を目標値に一致させることが可能となる。
【0033】
上記した本発明の板厚制御方法において、STEP4においては、STEP8の考えに則り、例えば、過去の圧延実績から平均的なミル伸び式
P=f
std(δ)
を作成しておき、
δ
1=f
-1std(P
1cal)
によって1パス目のミル伸び量を予測して、1パス目の目標板厚H
1を得るロールギャップS
1を計算してもよい。
【0034】
また、nパス目までのミル伸び式
P=f
n(δ)
の作成において、1〜nパス目のすべてのパスの圧延実績(P
1, P
2, …, P
n, δ
1, δ
2, …, δ
n)を満足するのではなく、近似的に満足する関数f
n()を採用するようにしてもよい。その際、最新の圧延実績により大きな重みをつけて近似式を作成するのが望ましい。圧延材Wの板幅、強度クラスが変わった場合、新たにミル伸び式を再構築するのが望ましい。
【0035】
ミル伸びの近似式を作成する際、ある圧延実績i(圧延荷重P
i, ミル伸び量δ
i)に近い圧延実績が多数ある場合(圧延実績j, 圧延実績j+1, 圧延実績j+2,・・・)には、圧延実績iの重みを小さくし,逆にある圧延実績k(圧延荷重P
k, ミル伸び量δ
k)に近い圧延実績がない場合,圧延実績kの重みを大きくするのが好ましい。
以上述べた本発明にかかる板厚制御方法を用いて、圧延実験を行った結果を、
図3〜
図6に示す。
【0036】
図3、
図4は、本発明にかかる板厚制御方法を適用した際のパススケジュールと、圧延荷重の推移を示したものである。
一方、
図5は、従来法によりセットアップ計算を行ったときのゲージメータ誤差を示したものであり、
図6は、本発明によりセットアップ計算を行ったときのゲージメータ誤差示したものである。
図5と
図6を比較することから明らかなように、本発明の板厚制御方法を適用することにより、ゲージメータ式に含まれる種々の誤差を正確に同定して、ゲージメータ式を修正することで、圧延時において高い板厚精度が得られることがわかる。
【0037】
なお、
図8には、本発明の技術を同一の材料を同一の圧延機で圧延した場合に適用して、ミル伸び量δと圧延荷重Pの関係式を構成した例が示されている。この図から明らかなように、同一の圧延機で同じ材料(品種、サイズ)を圧延する場合でも、圧延チャンス1と、その後に圧延ロールを組み替えた圧延チャンス2で、ミル伸び量と圧延荷重Pの関係式は異なっている。しかし、いずれのチャンスにおいても、同一チャンス内であれば、δとPはたとえば二次式で表現される同一曲線上に再現性よくプロットされる。このように、δとPの関係式を逐次構築することで、圧延荷重の予測結果からミル伸び量を予測し、適切なロールギャップの設定が可能である。
【0038】
今回開示された実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。特に、今回開示された実施形態において、明示的に開示されていない事項、例えば、運転条件や操業条件、各種パラメータ、構成物の寸法、重量、体積などは、当業者が通常実施する範囲を逸脱するものではなく、通常の当業者であれば、容易に想定することが可能な値を採用している。