【実施例】
【0023】
以下、本発明の実施例(実験例)を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定するものではない。なお、以下では、主として砒素を除去するための砒素除去剤の事例について説明する。
【0024】
[砒素除去剤の調製その1]
砒素除去剤の主原料として、本件の一出願人の子会社であるアイシン高丘東北株式会社の鋳物工場内にあるショットブラスト処理設備で生じたショット廃砂(ショット集塵ダストを含まない狭義のショット廃砂)を使用した。このショット廃砂をほぼそのまま転用して得た第1の砒素除去剤を指して、以下では「生ショット廃砂」と呼ぶことにする。
以下に説明する性能評価試験(砒素吸着試験)で使用した砒素除去剤としての「生ショット廃砂」は、概ね次のような組成を有していた。
鉄および酸化鉄:11wt%、酸化アルミニウム:11wt%、酸化珪素:72wt%、その他の成分:6wt%
また、この生ショット廃砂をレーザー回折散乱式粒度分布測定器で測定した平均粒径(体積基準平均径)は、251μmであった。
【0025】
[砒素除去剤の調製その2]
上記「生ショット廃砂」を磁選機にかけて約3000ガウスで磁選した後、分級機にて20メッシュを通過したものを第2の砒素除去剤とした。この第2の砒素除去剤を指して以下では「磁選後鉄粉」と呼ぶことにする。
この「磁選後鉄粉」は、概ね次のような組成を有していた。
鉄および酸化鉄:90wt%、酸化アルミニウム:2wt%、酸化珪素:6wt%、その他の成分:2wt%
また、この磁選後鉄粉をレーザー回折散乱式粒度分布測定器で測定した平均粒径(体積基準平均径)は、263μmであった。
【0026】
上記第1の砒素除去剤(生ショット廃砂)及び第2の砒素除去剤(磁選後鉄粉)について、以下に述べるような砒素吸着試験を行い、それぞれの砒素吸着性能を評価した。
【0027】
[砒素吸着試験(III価砒素の場合)]
三酸化二砒素(As
2O
3)を用いて砒素(III)水溶液を調製した。具体的には、水酸化ナトリウム水溶液に三酸化二砒素の粉末を溶解させ、これに希硫酸を加えてpH7に調整し、1ppmの砒素(III)水溶液を準備した。そして、この砒素(III)水溶液100mLに対し、砒素除去剤(生ショット廃砂又は磁選後鉄粉)10gを添加して混合液(液体/固体の比=10)とし、この混合液を振とう機により振とう回数毎分約200回転で1時間振とうした。その後、毎分約3000回転で20分間、遠心分離を行い、遠心分離後の上澄み液を孔径0.45μmのメンブランフィルターでろ過してろ液を回収した。そして、ろ液の砒素濃度をICP発光分光分析計で実測し、砒素除去剤による砒素の吸着濃度を算出した。
【0028】
[砒素吸着試験(V価砒素の場合)]
砒酸水素二ナトリウム・七水和物(Na
2HAsO
4・7H
2O)を用いて砒素(V)水溶液を調製した。具体的には、水酸化ナトリウム水溶液に砒酸水素二ナトリウム・七水和物の粉末を溶解させ、これに希硫酸を加えてpH7に調整し、1ppmの砒素(V)水溶液を準備した。そして、この砒素(V)水溶液100mLに対し、砒素除去剤(生ショット廃砂又は磁選後鉄粉)10gを添加して混合液(液体/固体の比=10)とし、この混合液を振とう機により振とう回数毎分約200回転で1時間振とうした。その後、毎分約3000回転で20分間、遠心分離を行い、遠心分離後の上澄み液を孔径0.45μmのメンブランフィルターでろ過してろ液を回収した。そして、ろ液の砒素濃度をICP発光分光分析計で実測し、砒素除去剤による砒素の吸着濃度を算出した。
【0029】
III価砒素の場合における砒素吸着試験の結果と、V価砒素の場合における砒素吸着試験の結果を表1に示す。なお、
図1、
図2の棒グラフは、表1中の吸着濃度をグラフ化したものである。
【0030】
【表1】
【0031】
表1及び
図1、
図2の結果から、III価砒素の吸着試験とV価砒素の吸着試験のいずれにおいても、磁選前の生ショット廃砂より磁選後鉄粉の方が、良好に砒素を吸着できることが確認された。これは、生ショット廃砂よりも磁選後鉄粉の方が鉄を多く含み、より多くの砒素を固定化できることによるものと考えられる。
【0032】
[砒素除去剤を用いた砒素含有土壌の浄化例]
泥水式シールド工法に本発明の土壌浄化方法を適用した事例について
図3を参照しつつ説明する。
図3に例示する汚染土壌浄化システムにおいてシールド機10はカッターヘッドを回転駆動させて切羽面の掘削を行い、カッターヘッドにより切削した切羽面の土砂すなわち掘削土を泥水と混合し、これを適宜な圧送ポンプと配管からなる排泥系統25により坑外に圧送する。こうして圧送した泥水は、固液分離装置11へ送られる。この固液分離装置11は、泥水と掘削土を分離する泥水処理装置であって、上述の泥水を、振動ふるい等により、掘削土由来の建設発生土(振動ふるい等にて抽出)と泥水とに分離する。
【0033】
固液分離装置11にて分離された上述の建設発生土については、一般残土として処分する。他方、固液分離装置11にて分離された上述の泥水は、送泥管や送泥ポンプ等の所定系統を介して調整槽12に供給される。
【0034】
一方、汚染土壌浄化を行う本実施形態の汚染土壌浄化システムは、砒素除去槽14、遠心分離機15、砒素除去剤タンク20、及びそれら各間における泥水、溶液等の移送系統を備えているものとする。また、上述したシールド機10による掘削の進行に伴い、余剰槽13には泥水が貯留されていき、一定基準量以上となった分の泥水が、汚染土壌浄化システムにおける砒素除去槽14に供給されるものとする。
【0035】
ここで、本実施形態の汚染土壌浄化方法において、余剰槽13から供給された泥水を砒素除去槽14にて貯留し、これに対し、砒素除去剤タンク20より取り出した所定量の砒素除去剤を投入し、撹拌する。ここでの砒素除去剤として本実施例では上述した第2の砒素除去剤(磁選後鉄粉)を用いた。なお、本発明の土壌浄化方法においては、上述した第2の砒素除去剤(磁選後鉄粉)でなく、上述した第1の砒素除去剤(生ショット廃砂)を用いてもよい。また、第1の砒素除去剤(生ショット廃砂)と第2の砒素除去剤(磁選後鉄粉)を併用してもよい。なお、砒素除去槽14は余剰槽13と所定の配管系統で結ばれている。
【0036】
こうした構成において、砒素除去剤添加工程を実行する場合、まず、余剰槽13から供給される泥水で当該砒素除去槽14を満たし、所定量の砒素除去剤を水と混合した砒素除去剤混合液を砒素除去槽14に投入し、撹拌作業を行う。その後も余剰槽13から泥水が供給される状況であれば、さらに砒素除去槽14に砒素除去剤を投入し撹拌作業を行う。
【0037】
また、上述の砒素除去槽14において、泥水と砒素除去剤との撹拌作業を所定時間継続し、泥水と砒素除去剤が十分に混合された後、この混合液である砒素除去剤添加泥水を遠心分離機15に供給し、当該砒素除去剤添加泥水から砒化鉄を含む砒素除去剤の分離を図る。
【0038】
上述の遠心分離機15としてはサイクロンを採用できる。サイクロンは、固体混じりの液体等を円筒容器に対して円周方向から渦を描く様に投入することで、比重の重い鉄粉(と掘削土)は遠心分離作用により円筒容器内壁に衝突させて回収し、液体(この場合、泥水)は円筒中心から排出させる機能を有している。
【0039】
続いて上述の遠心分離機15により、砒素除去剤添加泥水中から砒化鉄を含む砒素除去剤を分離させて得た上澄み泥水は、例えばプレスによって所定の減容、脱水を行ってケーキとした上で、砒素を含まない汚泥として搬出される。
【0040】
一方、上述の遠心分離処理により、反応後の砒素除去剤(砒化鉄を含む)を含む沈降物が回収される。この沈降物について磁選機等で砒素除去剤(砒化鉄を含む)が回収される。
【0041】
なお、本実施形態においては、掘削土が砒素を含む場合に対応したシステム構成と処理方法について説明したが、上述のように、砒素以外の、燐酸、シアン、フッ素、ホウ素、重金属などの汚染物質に対して本実施形態の汚染土壌浄化システム、汚染土壌浄化方法を適用するとしてもよい。その場合、汚染物質除去剤の使用量や撹拌時間など諸条件の値を該当汚染物質の性状に適用させることとなる。
【0042】
こうした本実施形態によれば、砒素、燐酸、シアン、フッ素、ホウ素、重金属などの汚染物質を含む掘削土を効率的かつ低コストで浄化可能となる。以上、本発明の実施の形態について、その実施の形態に基づき具体的に説明したが、これに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。