特許第6385904号(P6385904)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6385904
(24)【登録日】2018年8月17日
(45)【発行日】2018年9月5日
(54)【発明の名称】装軌式車両
(51)【国際特許分類】
   B62D 55/088 20060101AFI20180827BHJP
【FI】
   B62D55/088
【請求項の数】2
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-175607(P2015-175607)
(22)【出願日】2015年9月7日
(65)【公開番号】特開2017-52312(P2017-52312A)
(43)【公開日】2017年3月16日
【審査請求日】2017年4月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005522
【氏名又は名称】日立建機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002457
【氏名又は名称】特許業務法人広和特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100079441
【弁理士】
【氏名又は名称】広瀬 和彦
(72)【発明者】
【氏名】岩淵 雄太郎
【審査官】 諸星 圭祐
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−346205(JP,A)
【文献】 特開2013−189042(JP,A)
【文献】 特開2008−201356(JP,A)
【文献】 特開2007−138967(JP,A)
【文献】 特開2001−164600(JP,A)
【文献】 特開2002−173060(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2015/0061368(US,A1)
【文献】 国際公開第2016/066589(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 55/08−55/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
センタフレームと、該センタフレームの左,右方向の両端側に設けられ前,後方向に延びる左,右のサイドフレームと、該各サイドフレームの前,後方向の一側に設けられた遊動輪と、前記各サイドフレームの前,後方向の他側に設けられた駆動輪と、走行モータにより駆動され、該走行モータの回転を減速して前記駆動輪を回転させる減速装置と、前記遊動輪と前記駆動輪との間に巻回された履帯と備えられ
前記減速装置は、前記走行モータが設けられる固定側ハウジングと、該固定側ハウジングに対して回転可能に設けられ、前記走行モータによって駆動されることにより前記駆動輪を回転させる回転側ハウジングと、該回転側ハウジングに収容され前記走行モータの回転を減速する減速機構と、前記固定側ハウジングと前記回転側ハウジングとの間の隙間をシールするために当該隙間の径方向内側に設けられたフローティングシールとからなる装軌式車両において、
前記固定側ハウジングには、前記隙間を径方向外側から覆うカバー設けられ
該カバーは、前記隙間の周方向のうち前記履帯と前記駆動輪とが噛合している噛合部で、かつ前記駆動輪の回転中心を通り、前記サイドフレームの前,後方向に延びる仮想線よりも上部側に配置され
前記仮想線よりも下側部位は、前記隙間の径方向外側に開放する構成とし
前記サイドフレームの他側には、前記減速装置の前記固定側ハウジングを取付けるための減速装置ブラケットが備えられ、
前記カバーと前記固定側ハウジングとは、締結部材を用いて前記減速装置ブラケットに共締めされている構成としたことを特徴とする装軌式車両。
【請求項2】
センタフレームと、該センタフレームの左,右方向の両端側に設けられ前,後方向に延びる左,右のサイドフレームと、該各サイドフレームの前,後方向の一側に設けられた遊動輪と、前記各サイドフレームの前,後方向の他側に設けられた駆動輪と、走行モータにより駆動され、該走行モータの回転を減速して前記駆動輪を回転させる減速装置と、前記遊動輪と前記駆動輪との間に巻回された履帯とが備えられ、
前記減速装置は、前記走行モータが設けられる固定側ハウジングと、該固定側ハウジングに対して回転可能に設けられ、前記走行モータによって駆動されることにより前記駆動輪を回転させる回転側ハウジングと、該回転側ハウジングに収容され前記走行モータの回転を減速する減速機構と、前記固定側ハウジングと前記回転側ハウジングとの間の隙間をシールするために当該隙間の径方向内側に設けられたフローティングシールとからなる装軌式車両において、
前記固定側ハウジングには、前記隙間を径方向外側から覆うカバーが設けられ、
該カバーは、前記隙間の周方向のうち前記履帯と前記駆動輪とが噛合している噛合部で、かつ前記駆動輪の回転中心を通り、前記サイドフレームの前,後方向に延びる仮想線よりも上部側に配置され、
前記仮想線よりも下側部位は、前記隙間の径方向外側に開放する構成とし、
前記固定側ハウジングは、内部に前記走行モータを収容する筒部と、該筒部から径方向外側に突出する環状のフランジ部とからなり、
前記カバーは、前記固定側ハウジングの前記フランジ部に取付けられる取付板と、該取付板の径方向内側から前記隙間を覆うように前記回転側ハウジングに向けて延びる延出板と、該延出板の先端から径方向外側に向けて折曲げられた傾斜板とにより構成したことを特徴とする装軌式車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば不整地を走行するための履帯を備えた油圧ショベル、油圧クレーン等の装軌式車両に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、建設現場等の不整地を走行する油圧ショベル等の装軌式車両は、自走可能な下部走行体と、該下部走行体上に旋回可能に搭載された上部旋回体と、該上部旋回体に設けられた作業装置とを含んで構成されている。
【0003】
下部走行体は、センタフレームと、該センタフレームの左,右方向の両端側に設けられ前,後方向に延びる左,右のサイドフレームと、該各サイドフレームの前,後方向の一側に設けられた遊動輪と、各サイドフレームの前,後方向の他側に設けられた駆動輪と、走行モータにより駆動され、該走行モータの回転を減速して駆動輪を回転させる減速装置と、遊動輪と駆動輪との間に巻回された履帯とを備えている。
【0004】
減速装置は、走行モータが設けられる固定側ハウジングと、該固定側ハウジングに対して回転可能に設けられ、走行モータによって駆動されることにより駆動輪を回転させる回転側ハウジングと、該回転側ハウジングに収容され走行モータの回転を減速する減速機構と、固定側ハウジングと回転側ハウジングとの間の隙間をシールするために当該隙間の径方向内側に設けられたフローティングシールとからなっている。
【0005】
そして、固定側ハウジングまたは回転側ハウジングには、隙間を径方向外側から覆うカバーを設けている。このカバーは、土砂が隙間に侵入するのを抑制することにより、フローティングシールを保護している(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2013−189042号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、上述した特許文献1では、カバーを隙間の周方向の全周に亘って設けている。従って、一旦カバーの内側(隙間)に入り込んだ土砂は、カバーを取外さないと排出するのが困難である。
【0008】
本発明は上述した従来技術の問題に鑑みなされたもので、本発明の目的は、固定側ハウジングと回転側ハウジングとの間に設けられたフローティングシールに土砂圧が掛かるのを低減させた装軌式車両を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した課題を解決するため、本発明は、センタフレームと、該センタフレームの左,右方向の両端側に設けられ前,後方向に延びる左,右のサイドフレームと、該各サイドフレームの前,後方向の一側に設けられた遊動輪と、前記各サイドフレームの前,後方向の他側に設けられた駆動輪と、走行モータにより駆動され、該走行モータの回転を減速して前記駆動輪を回転させる減速装置と、前記遊動輪と前記駆動輪との間に巻回された履帯と備えられ、前記減速装置は、前記走行モータが設けられる固定側ハウジングと、該固定側ハウジングに対して回転可能に設けられ、前記走行モータによって駆動されることにより前記駆動輪を回転させる回転側ハウジングと、該回転側ハウジングに収容され前記走行モータの回転を減速する減速機構と、前記固定側ハウジングと前記回転側ハウジングとの間の隙間をシールするために当該隙間の径方向内側に設けられたフローティングシールとからなる装軌式車両に適用される。
【0010】
そして、本発明の特徴は、前記固定側ハウジングには、前記隙間を径方向外側から覆うカバー設けられ、該カバーは、前記隙間の周方向のうち前記履帯と前記駆動輪とが噛合している噛合部で、かつ前記駆動輪の回転中心を通り、前記サイドフレームの前,後方向に延びる仮想線よりも上部側に配置され、前記仮想線よりも下側部位は、前記隙間の径方向外側に開放する構成とし、前記サイドフレームの他側には、前記減速装置の前記固定側ハウジングを取付けるための減速装置ブラケットが備えられ、前記カバーと前記固定側ハウジングとは、締結部材を用いて前記減速装置ブラケットに共締めされている構成としたことにある。
また、本発明の特徴は、前記固定側ハウジングには、前記隙間を径方向外側から覆うカバーが設けられ、該カバーは、前記隙間の周方向のうち前記履帯と前記駆動輪とが噛合している噛合部で、かつ前記駆動輪の回転中心を通り、前記サイドフレームの前,後方向に延びる仮想線よりも上部側に配置され、前記仮想線よりも下側部位は、前記隙間の径方向外側に開放する構成とし、前記固定側ハウジングは、内部に前記走行モータを収容する筒部と、該筒部から径方向外側に突出する環状のフランジ部とからなり、前記カバーは、前記固定側ハウジングの前記フランジ部に取付けられる取付板と、該取付板の径方向内側から前記隙間を覆うように前記回転側ハウジングに向けて延びる延出板と、該延出板の先端から径方向外側に向けて折曲げられた傾斜板とにより構成したことにある。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、固定側ハウジングと回転側ハウジングとの間に設けられたフローティングシールの寿命を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の実施の形態による装軌式車両を備えた油圧ショベルを示す正面図である。
図2】下部走行体の減速装置を図1中の矢示II−II方向からみた断面図である。
図3図2中の固定側ハウジングと回転側ハウジングとの間の隙間、フローティングシール、カバー等を拡大して示す要部拡大の断面図である。
図4図2中の駆動輪、履帯、カバー等を矢示IV−IV方向からみた断面図である。
図5】カバーを単体で示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に係る装軌式車両の実施の形態を、油圧ショベルに適用した場合を例に挙げ、添付図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0014】
図1に示す油圧ショベル1は、自走可能な装軌式(クローラ式)の下部走行体2と、該下部走行体2上に旋回可能に搭載された上部旋回体3と、該上部旋回体3の前部側に俯仰動可能に設けられ、土砂等の掘削作業を行う作業装置4とを含んで構成されている。
【0015】
ここで、下部走行体2は、センタフレーム5と、センタフレーム5の左,右方向の両端側に設けられ前,後方向に延びる左,右のサイドフレーム6(図1中に左側のみ図示)と、各サイドフレーム6の前,後方向の前側に設けられた遊動輪7と、各サイドフレーム6の前,後方向の後側に設けられた駆動輪8と、走行モータ9により駆動され、走行モータ9の回転を減速して駆動輪8を回転させる後述の減速装置15と、遊動輪7と駆動輪8との間に巻回された履帯10とを備えている。
【0016】
履帯10は、駆動輪8が回転駆動されることにより、遊動輪7と駆動輪8との間で周回動作を行う。図2図4に示すように、履帯10は、ピン11により無端状に連結された左,右のトラックリンク12と、両端側が左,右のトラックリンク12にそれぞれ圧入され、内部にピン11が挿通されたブッシュ13と、左,右のトラックリンク12に取付けられたシュー14とにより構成されている。この場合、履帯10は、ブッシュ13が駆動輪8に噛合して案内されることにより周回動作を行う。そして、図4の点線に示した範囲が、履帯10と駆動輪8とが噛合する噛合部Aとなっている。
【0017】
減速装置15は、サイドフレーム6の後側に備えられた減速装置ブラケット6Aに取付けられている。この減速装置15は、駆動輪8を回転させて履帯10を周回駆動することにより、油圧ショベル1を走行させるものである。そして、減速装置15は、固定側ハウジング16、回転側ハウジング18、遊星歯車減速機構26,31、フローティングシール37等により構成されている。
【0018】
固定側ハウジング16は、減速装置ブラケット6Aに取付けられている。この固定側ハウジング16には、回転源としての走行モータ9が設けられる。ここで、固定側ハウジング16は、内部に走行モータ9を収容する筒部16Aと、筒部16Aから径方向外側に突出する環状のフランジ部16Bとにより構成されている。このフランジ部16Bには、周方向に離間して複数個のめねじ孔16B1が形成されている。そして、固定側ハウジング16は、フランジ部16Bのめねじ孔16B1に螺合された複数のボルト17により減速装置ブラケット6Aに固着されている。この場合、一部のボルト17は、本発明の締結部材を構成し、後述のカバー42を固定側ハウジング16のフランジ部16Bに取付けるのにも用いられる。
【0019】
また、減速装置ブラケット6Aから突出した筒部16Aの先端側には、後述の回転側ハウジング18を支持するハウジング支持部16Cと、後述する遊星歯車減速機構31のキャリア35が結合される雄スプライン部16Dとが設けられている。そして、フランジ部16Bとハウジング支持部16Cとの間には、後述の固定側シールリング38が取付けられる円筒状のシール装着部16Eが設けられている。図2および図3に示すように、シール装着部16Eの外周側は、固定側ハウジング16の径方向内側に向けて傾斜する環状の傾斜部16Fとなっている。この傾斜部16Fにより後述の隙間36の径方向外側の開口を広くすることができるので、隙間36内に侵入した土砂の排出性を向上させることができる。
【0020】
回転側ハウジング18は、固定側ハウジング16に対して回転可能に設けられている。この回転側ハウジング18は、全体として有蓋円筒状に形成され、その内部に後述の遊星歯車減速機構26,31を収容するものである。そして、回転側ハウジング18は、固定側ハウジング16に設けられたハウジング支持部16Cの外周側に配置される環状のフランジ部19と、該フランジ部19にボルト20を用いて固定され内周側に内歯21Aが形成された円筒状のドラム21と、該ドラム21を施蓋する円板状の蓋体22とにより大略構成されている。
【0021】
ここで、フランジ部19の内周側は、固定側ハウジング16のハウジング支持部16Cに軸受23を介して回転可能に取付けられ、フランジ部19の外周側には複数のボルト24を用いて駆動輪(スプロケット)8が固着されている。また、フランジ部19には、後述の回転側シールリング39が取付けられる円筒状のシール装着部19Aが設けられている。
【0022】
回転軸25は、走行モータ9の回転出力を導出するものである。この回転軸25の基端側は走行モータ9の出力軸に連結され、回転側ハウジング18内を軸方向に伸長している。そして、蓋体22の近傍に位置する回転軸25の先端部には、後述の太陽歯車27が一体形成されている。
【0023】
1段目の遊星歯車減速機構26は、回転側ハウジング18内の蓋体22側に収容されている。この遊星歯車減速機構26は、後述する2段目の遊星歯車減速機構31と協働して走行モータ9の回転を減速し、回転側ハウジング18のフランジ部19に固着された駆動輪8を大きなトルクをもって回転させるものである。そして、遊星歯車減速機構26は、本発明の減速機構を構成している。
【0024】
ここで、遊星歯車減速機構26は、回転軸25の先端部に一体形成された太陽歯車27と、該太陽歯車27とドラム21の内歯21Aとに噛合し、太陽歯車27の周囲を自転しつつ公転する複数の遊星歯車28(1個のみ図示)と、該遊星歯車28をピン29を介して回転可能に支持するキャリア30とにより構成されている。そして、遊星歯車減速機構26は、太陽歯車27の回転を減速し、遊星歯車28の公転をキャリア30を介して後述する2段目の太陽歯車32に伝達する。
【0025】
2段目の遊星歯車減速機構31は、回転側ハウジング18内の固定側ハウジング16側に収容され、回転軸25に遊嵌された状態で1段目のキャリア30にスプライン結合されている。この遊星歯車減速機構31は、遊星歯車減速機構26と共に本発明の減速機構を構成している。そして、遊星歯車減速機構31は、キャリア30を介して1段目の遊星歯車28の公転のみが伝達される太陽歯車32と、該太陽歯車32とドラム21の内歯21Aとに噛合し、太陽歯車32の周囲を自転しつつ公転する複数の遊星歯車33(1個のみ図示)と、該遊星歯車33をピン34を介して回転可能に支持するキャリア35とにより大略構成されている。
【0026】
そして、キャリア35は、固定側ハウジング16の雄スプライン部16Dにスプライン結合されている。これにより、キャリア35に支持された遊星歯車33の公転は、ドラム21の内歯21Aを介して回転側ハウジング18に伝達される。そして、回転側ハウジング18は、遊星歯車減速機構26,31によって2段減速された状態で、固定側ハウジング16に対して回転する構成となっている。
【0027】
ここで、回転側ハウジング18内には、遊星歯車減速機構26,31、軸受23等を潤滑するための潤滑油Lが充填され、この潤滑油Lは、後述のフローティングシール37によって回転側ハウジング18内に封止される構成となっている。
【0028】
隙間36は、固定側ハウジング16と回転側ハウジング18との間に形成されたものである。図2および図3に示すように、隙間36は、固定側ハウジング16のシール装着部16Eと、回転側ハウジング18のシール装着部19Aとの間で全周に亘って環状に形成されている。この場合、隙間36は、シール装着部16Eとシール装着部19Aとによりラビリンス構造をなしている。これにより、フローティングシール37まで土砂が侵入し難くなっている。また、隙間36は、固定側ハウジング16の傾斜部16Fにより径方向外側の開口を広く開放している。これにより、隙間36内に侵入した土砂の排出性を向上させている。
【0029】
フローティングシール37は、固定側ハウジング16と回転側ハウジング18との間で隙間36の径方向内側に設けられている。このフローティングシール37は、隙間36をシールして泥水、土砂等の異物が回転側ハウジング18内に侵入するのを阻止すると共に、回転側ハウジング18内に潤滑油Lを封止するとものである。図3に示すように、フローティングシール37は、後述の固定側シールリング38、回転側シールリング39、固定側Oリング40、回転側Oリング41により構成されている。
【0030】
固定側シールリング38は、固定側ハウジング16のシール装着部16Eの内周側に設けられている。この固定側シールリング38は、後述の回転側シールリング39と対をなすもので、例えば耐摩耗性、耐食性に優れた金属材料を用いて円筒状に形成されている。ここで、固定側シールリング38には、大径鍔部38Aが設けられ、該大径鍔部38Aの軸方向の端面は、環状な摺接面38Bとなっている。また、シール装着部16Eの内周面と対面する固定側シールリング38の外周面は、大径鍔部38Aに向けて徐々に拡径し、この外周面とシール装着部16Eの内周面との間には、後述の固定側Oリング40が設けられている。
【0031】
回転側シールリング39は、回転側ハウジング18のシール装着部19Aの内周側に設けられている。この回転側シールリング39は、固定側シールリング38と同一部品となっている。ここで、回転側シールリング39には、大径鍔部39Aが設けられ、該大径鍔部39Aの軸方向の端面は、固定側シールリング38の摺接面38Bに液密に摺接する環状な摺接面39Bとなっている。また、シール装着部19Aの内周面と対面する回転側シールリング39の外周面は、大径鍔部39Aに向けて徐々に拡径し、この外周面とシール装着部19Aの内周面との間には、後述の回転側Oリング41が設けられている。
【0032】
固定側Oリング40は、固定側ハウジング16のシール装着部16Eの内周面と固定側シールリング38の外周面との間に設けられている。この固定側Oリング40は、後述の回転側Oリング41と対をなすもので、例えばブタジエンゴム等の耐油性、弾性を有するゴム材料等を用いて環状に形成されている。そして、固定側Oリング40は、固定側ハウジング16のシール装着部16Eと固定側シールリング38との間をシールすると共に、固定側シールリング38を回転側シールリング39に向けて軸方向に常時押圧するものである。
【0033】
回転側Oリング41は、固定側Oリング40に対し軸方向に離間して設けられている。この回転側Oリング41は、固定側Oリング40との間で隙間36を挟んだ状態で、回転側ハウジング18のシール装着部19Aの内周面と回転側シールリング39の外周面との間に設けられている。そして、回転側Oリング41は、固定側Oリング40と同一部品からなり、フランジ部19のシール装着部19Aと回転側シールリング39との間をシールすると共に、回転側シールリング39を固定側シールリング38に向けて軸方向に常時押圧するものである。
【0034】
これにより、固定側シールリング38の摺接面38Bと、回転側シールリング39の摺接面39Bとは、それぞれ固定側Oリング40と回転側Oリング41とから付与される軸方向の押圧力によって適正に摺接し、固定側ハウジング16に対して回転側ハウジング18が回転するときに両者間を液密にシールすることにより、回転側ハウジング18内に潤滑油Lを封止する構成となっている。
【0035】
次に、カバー42について説明する。
【0036】
カバー42は、固定側ハウジング16のフランジ部16Bに設けられている。このカバー42は、隙間36に沿って円弧状に形成され、隙間36を径方向外側から覆うことにより、隙間36に土砂等の異物が侵入するのを抑制するものである。この場合、カバー42は、例えば円筒形状を約3分割に形成したものであり、隙間36の周方向を部分的に覆っている。即ち、隙間36は、周方向の一部分がカバー42によって覆われ、その他の部分は開放されている。カバー42が隙間36を覆う部分については、後述で説明する。そして、カバー42は、取付板43、延出板44、傾斜板45により断面略L字状に形成されている。
【0037】
取付板43は、固定側ハウジング16のフランジ部16Bに取付けられるものである。図3ないし図5に示すように、取付板43は、フランジ部16Bに沿って円弧状に形成され、フランジ部16Bのめねじ孔16B1に対応する位置にボルト挿通孔43Aが形成されている。そして、カバー42は、ボルト挿通孔43Aに挿通されたボルト17により、固定側ハウジング16のフランジ部16Bに取付けられる。
【0038】
この場合、ボルト17は、固定側ハウジング16を減速装置ブラケット6Aに取付けているものである。即ち、固定側ハウジング16とカバー42とは、共通のボルト17を用いて減速装置ブラケット6Aに共締めされている。これにより、既存の減速装置15の構造を変更することなく、カバー42を固定側ハウジング16に簡単に取付けることができる。
【0039】
延出板44は、取付板43の径方向内側から回転側ハウジング18に向けて延びている。この延出板44は、隙間36に沿うように湾曲状に形成され、隙間36の径方向外側を覆っている。延出板44の先端側には、径方向外側に向けて折曲げられた傾斜板45が設けられている。即ち、カバー42は、先端側が径方向外側に向けて拡径している。これにより、傾斜板45に堆積した土砂は、延出板44側へと導かれるので、傾斜板45と回転側ハウジング18との間の空間46から隙間36に向けて土砂が流れ落ちるのを低減させることができる。
【0040】
次に、カバー42の取付け位置について図4を参照して説明する。
【0041】
カバー42は、隙間36の周方向のうち履帯10のブッシュ13と駆動輪8とが噛合している噛合部Aで、かつ駆動輪8の回転中心を通りサイドフレーム6の前,後方向に延びる仮想線B−B(図4中の一点鎖線)よりも上部側に配置されている。そして、仮想線B−Bよりも下側部位は、隙間36の径方向外側に開放している。即ち、カバー42は、隙間36の周方向のうち、後側上方部位(図4中の右上方部位)のみを覆うものである。
【0042】
この場合、カバー42は、土砂堆積部位Cと土砂押固め部位Dとの重複部位Eを覆っている。土砂堆積部位Cは、隙間36の周方向のうち履帯10の周回駆動により巻込まれた土砂が堆積する部位である。即ち、土砂堆積部位Cは、仮想線B−Bよりも上側で、土砂の粘性、含水量等を考慮して予め実験的に定めることができる。
【0043】
また、土砂押固め部位Dは、履帯10の周回駆動により土砂堆積部位Cに堆積した土砂が隙間36に向かって押し固められる部位である。即ち、履帯10が周回駆動するときには、駆動輪8の突起が履帯10のブッシュ13(ピン11)を引っ張る状態と、該突起がブッシュ13と係合する状態とを繰り返す。従って、履帯10には、張力の変動が発生して振動する。これにより、隙間36の周方向のうち後側部位(図4中の右側部位)は、履帯10の振動と履帯10の巻込み等により、土砂が隙間36に向けて押し固められる土砂押固め部位Dとなる。
【0044】
即ち、土砂堆積部位Cと土砂押固め部位Dとの重複部位Eは、隙間36に土砂が侵入しやすい部位である。隙間36に土砂が侵入してフローティングシール37を押圧した場合、回転側Oリング41は、回転しているので周方向で比較的均一に土砂圧が掛かるが、固定側Oリング40は部分的に土砂圧が掛かることになる。従って、固定側シールリング38および固定側Oリング40は、回転側シールリング39および回転側Oリング41に比べて寿命が低下する虞がある。
【0045】
そこで、カバー42は、隙間36に土砂が侵入しやすい重複部位Eを覆う位置に配設されている。これにより、重複部位Eでの土砂の堆積を低減すると共に、履帯10による土砂の押し固めを抑制することができる。また、カバー42は、隙間36の全周の約1/3を覆うものであり、その他の部分は開放されている。これにより、隙間36と履帯10との間の空間を広くすることができるので、土砂の排出性を向上させることができる。
【0046】
本実施の形態による油圧ショベル1は、上述の如き構成を有するもので、次にその作動について説明する。
【0047】
オペレータが図示しない走行レバーを操作して走行モータ9を回転させると、この走行モータ9の回転が減速装置15の遊星歯車減速機構26,31によって2段減速され、回転側ハウジング18に伝達される。これにより、回転側ハウジング18が大きなトルクをもって回転し、この回転側ハウジング18に固定した駆動輪8が回転して、遊動輪7と駆動輪8とに巻回された履帯10が周回駆動されることにより、油圧ショベル1が走行する。
【0048】
この場合、フローティングシール37の回転側シールリング39は、回転側ハウジング18と一体に回転する。回転側シールリング39は、摺接面39Bを固定側シールリング38の摺接面38Bに摺接させることにより、回転側ハウジング18と固定側ハウジング16との間を液密にシールする。これにより、回転側ハウジング18内に潤滑油Lを保持し、この潤滑油Lによって軸受23、遊星歯車減速機構26,31等を適正に潤滑することができるので、回転側ハウジング18を円滑に回転させることができる。
【0049】
ところで、油圧ショベル1等の装軌式車両は、泥濘地等の不整地を走行するため、履帯10により巻込まれた土砂等の異物が固定側ハウジング16と回転側ハウジング18との間に堆積して隙間36に侵入する虞がある。そして、隙間36に侵入した土砂等がフローティングシール37を押圧すると、フローティングシール37の寿命が低下するという問題がある。
【0050】
この場合、上述した従来技術では、隙間の径方向外側を覆うカバーを設けている。しかし、カバーを隙間の全周に亘って設けているので、一旦カバーの内側(隙間)に入り込んだ土砂は、カバーを取外さないと排出するのが困難である。また、カバーを隙間の全周に亘って設けているので、履帯とカバーとの間の空間が狭くなり土砂がカバー上に堆積しやすくなる。これにより、カバーに掛かる土砂圧が大きくなり、カバー上の土砂の排出性が低下すると共に、カバーの寿命が低下するという問題がある。
【0051】
そこで、本実施の形態では、隙間36の周方向の一部分をカバー42で覆い、その他の部分を隙間36の径方向外側に開放させる構成としている。具体的には、図4に示すように、カバー42は、隙間36の周方向のうち履帯10と駆動輪8とが噛合している噛合部Aで、かつ駆動輪8の回転中心を通り、サイドフレーム6の前,後方向に延びる仮想線B−Bよりも上部側に配設されている。そして、仮想線B−Bよりも下側部位は、隙間36の径方向外側に開放する構成としている。
【0052】
この場合、カバー42は、履帯10により巻込まれた土砂が堆積しやすい土砂堆積部位Cと、土砂堆積部位Cに堆積した土砂が履帯10の振動、巻込み等により隙間36に向かって押し固められる土砂押固め部位Dとの重複部位Eを覆っている。即ち、隙間36のうち重複部位E以外の部位は、隙間36がラビリンス構造をなしているので、フローティングシール37まで土砂が侵入し難くなっている。しかし、重複部位Eでは、土砂が堆積しやすく、かつ堆積した土砂が履帯10の振動等により隙間36に向かって押圧されるので、隙間36に土砂が侵入してフローティングシール37を押圧する虞がある。従って、カバー42は、重複部位Eを含む隙間36の周方向の一部分を覆い、その他の部分を隙間36の径方向外側に開放させている。
【0053】
これにより、カバー42は、重複部位Eでの土砂の堆積を低減させると共に、履帯10による土砂の押し固めを抑制させることができるので、隙間36に土砂が侵入するのを抑制することができる。従って、フローティングシール37(特に、固定側シールリング38および固定側Oリング40)に土砂圧が掛かるのを低減させることができるので、フローティングシール37の寿命を向上することができる。
【0054】
また、仮想線B−Bよりも下側部位は、隙間36の径方向外側に開放する構成となっている。これにより、履帯10と隙間36との間の空間を広くすることができるので、履帯10により巻込まれた土砂の排出を効率よく行うことができる。さらに、隙間36は、固定側ハウジング16の傾斜部16Fにより径方向外側が広く開放されている。これにより、隙間36内に侵入した土砂の排出性を向上させることができるので、隙間36内に土砂が詰まるのを低減することができる。
【0055】
また、カバー42と固定側ハウジング16とは、ボルト17を用いて減速装置ブラケット6Aに共締めされている。即ち、カバー42は、固定側ハウジング16を減速装置ブラケット6Aに取付けるためのボルト17を用いて固定側ハウジング16のフランジ部16Bに取付けられている。これにより、既存の減速装置15にカバー42を容易に取付けることができると共に、カバー42の交換作業も容易に行うことができる。
【0056】
また、カバー42は、傾斜板45により先端側が径方向外側に向けて拡径している。これにより、傾斜板45に堆積した土砂は、延出板44側へと導かれるので、傾斜板45と回転側ハウジング18との間の空間46から隙間36に向けて土砂が流れ落ちるのを低減させることができる。従って、カバー42と隙間36との間に土砂が侵入するのを低減させることができ、ひいては隙間36に土砂が侵入するのを低減させることができる。
【0057】
また、カバー42は、隙間36の周方向の一部分を覆う構成となっているので、例えば円筒形状を分割して複数個のカバー42を製造することができ、コストを低減することができる。
【0058】
なお、上述した実施の形態では、カバー42を隙間36の周方向のうち履帯10と駆動輪8とが噛合している噛合部Aで、かつ駆動輪8の回転中心を通り、サイドフレーム6の前,後方向に延びる仮想線B−Bよりも上部側に配設して重複部位Eを覆い、仮想線B−Bよりも下側部位を隙間36の径方向外側に開放する構成とした場合を例に挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限らず、例えば重複部位Eのみをカバーにより覆い、その他の部位は隙間36の径方向外側に開放する構成としてもよい。
【0059】
また、上述した実施の形態では、固定側ハウジング16のシール装着部16Eの外周側に傾斜部16Fを形成することにより、隙間36の径方向外側を広く開放した場合を例に挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限らず、例えば回転側ハウジング18のシール装着部19Aの外周側に傾斜部を形成することにより、隙間36の径方向外側を広く開放させてもよい。
【0060】
また、上述した実施の形態では、装軌式車両として油圧ショベル1を例に挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限らず、例えば油圧クレーン等の他の装軌式車両にも広く適用することができる。
【符号の説明】
【0061】
1 油圧ショベル(装軌式車両)
5 センタフレーム
6 サイドフレーム
6A 減速装置ブラケット
7 遊動輪
8 駆動輪
9 走行モータ
10 履帯
15 減速装置
16 固定側ハウジング
16A 筒部
16B フランジ部
17 ボルト(締結部材)
18 回転側ハウジング
26 1段目の遊星歯車減速機構(減速機構)
31 2段目の遊星歯車減速機構(減速機構)
36 隙間
37 フローティングシール
42 カバー
43 取付板
44 延出板
45 傾斜板
A 噛合部
B−B 仮想線
C 土砂堆積部位
D 土砂押固め部位
E 重複部位
図1
図2
図3
図4
図5