(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6385918
(24)【登録日】2018年8月17日
(45)【発行日】2018年9月5日
(54)【発明の名称】成形物の製造方法
(51)【国際特許分類】
D01D 5/06 20060101AFI20180827BHJP
D01D 1/02 20060101ALI20180827BHJP
【FI】
D01D5/06 Z
D01D1/02
【請求項の数】11
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2015-506216(P2015-506216)
(86)(22)【出願日】2013年4月16日
(65)【公表番号】特表2015-520804(P2015-520804A)
(43)【公表日】2015年7月23日
(86)【国際出願番号】EP2013057931
(87)【国際公開番号】WO2013156489
(87)【国際公開日】20131024
【審査請求日】2016年2月10日
(31)【優先権主張番号】102012103296.3
(32)【優先日】2012年4月17日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】508291766
【氏名又は名称】リスト ホールディング アーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】100066061
【弁理士】
【氏名又は名称】丹羽 宏之
(74)【代理人】
【識別番号】100123559
【弁理士】
【氏名又は名称】梶 俊和
(74)【代理人】
【識別番号】100177437
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 英子
(74)【代理人】
【識別番号】100143340
【弁理士】
【氏名又は名称】西尾 美良
(72)【発明者】
【氏名】ディーナー,アンドレーアス
(72)【発明者】
【氏名】グルンダイ,アンドレーアス
(72)【発明者】
【氏名】トレツァック,オーリヴァ
【審査官】
相田 元
(56)【参考文献】
【文献】
特表平08−504223(JP,A)
【文献】
特表2011−512460(JP,A)
【文献】
特表平10−512009(JP,A)
【文献】
特表2013−528710(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01D 1/00−13/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロース、タンパク質、ポリラクチド、澱粉又はそれらの混合物のいずれか1つから成る原料を溶剤と混合して成形用溶液とし、前記成形用溶液から溶剤の一部を除去した後に紡糸設備(8)へ送給して成形物を製造する方法であって、
前記成形溶液は、垂直で円筒状の薄膜蒸発器(2)及び水平で円筒状の圧膜溶解器(4)に送給され、前記成形用溶液は圧膜溶解器(4)においてか、又は、圧膜溶解器(4)に直接接続された排出装置(5)であって、圧膜溶解器(4)から排出された前記成形用溶液が流入する排出装置(5)において、成形に必要な粘度となるよう希釈され、
前記圧膜溶解器(4)において生成した蒸気が、前記圧膜溶解器(4)に接続された連結器(9)を介して排出されることを特徴とする方法。
【請求項2】
前記溶剤は、三級アミンオキシド水溶液であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
薄膜蒸発器(2)は、原料と溶剤から成る懸濁液を受入れ、水分を蒸発させて前記溶剤を三級アミンオキシド2.5水和物に濃縮することを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項4】
圧膜溶解器(4)は、薄膜蒸発器(2)からの懸濁液の水分を蒸発させて前記三級アミンオキシドを0.8〜1.0の水和物に濃縮し、前記懸濁液を溶解させ且つ均質化することを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
薄膜蒸発器(2)及び/又は圧膜溶解器(4)は、80〜180℃において運転されることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
薄膜蒸発器(2)及び/又は圧膜溶解器(4)は、絶対圧20〜200ミリバールにおいて運転されることを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
薄膜蒸発器(2)及び/又は圧膜溶解器(4)の軸に沿って、絶えず温度制御が行われることを特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記成形用溶液は、紡糸液であり、前記紡糸液は、紡糸に必要な粘度となるように希釈剤により再希釈されることを特徴とする請求項1ないし請求項7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記希釈剤は、三級アミンオキシド水溶液であることを特徴とする請求項8に記載の方法。
【請求項10】
請求項1ないし請求項9のいずれか1項に記載の方法を実施する装置であって、
薄膜蒸発器(2)及び圧膜溶解器(4)は、連結部(3)を介して互いに連結されていることを特徴とする装置。
【請求項11】
薄膜蒸発器(2)及び圧膜溶解器(4)は、連結器を介して互いに連結されていることを特徴とする請求項10に記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、
セルロース、タンパク質、ポリラクチド、澱粉又はそれらの混合物のいずれか1つから成る原料を溶剤と混合して成形用溶液とし、その成形用溶液から溶剤の一部を除去した後に装置へ送給して成形物を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
本願では、「成形物」とは、天然又は人工の原料から製造された物体の全てを含む。通常、原料は型を用いて成型物とされる。例としてビスコースレーヨンについて説明するが、これに限定されるものではない。ビスコースレーヨンは、セルロースを原料とし、工業的にはビスコース法により製造される繊維である。ビスコースレーヨンの化学的性質は綿糸と同じである。
【0003】
ビスコースレーヨンと類似の製品にモーダルレーヨンがある。モーダルレーヨンはセルロースから成り、ビスコースレーヨンのように天然のパルプより製造される。しかし、やや異なった工程により、繊維強度が大きく及び性質が改善されている。
【0004】
ライオセルレーヨン(商品名)は、セルロース繊維に分類される。ライオセルレーヨンでは、パルプは、苛性ソーダとキサントゲン酸の誘導体による前反応は無く、変化せず直接に無毒の溶剤NMMO(N−メチルモルホリン−N−オキサイド)に溶解する。ライオセルレーヨンは、パルプの溶解度を下げて糸が形成されるように、希釈されたNMMO水溶液浴内において紡糸される。このため紡糸液はノズルを通して浴中に圧入される。このライオセルレーヨンの製法は、例えば特許文献1〜3に記載されている。紡糸液は例えば特許文献4又は5に記載されているように、垂直に作動する薄膜溶解器(Filmtruder:薄膜蒸発器の商標名)において製造されるか、又は例えば特許文献6又は7に記載されているように水平に作動する圧膜溶解器(混練反応器)において製造される。
特に特許文献8は、多段フラッシュ蒸発法の最後の段階に、真空ポンプが配置された薄膜蒸発器を備えていることを示している。薄膜蒸発器からの生成物は、直接に押出し機に到達し濾過装置へと形成される。
特許文献9にも、薄膜蒸発器にセルロース懸濁液を投入する同様の方法が開示されている。薄膜蒸発器では、水分の蒸発及びセルロースのN−オキサイドへの溶解が行われて、成形用溶液が著しく濃縮される。濃縮された成形用溶液は排出装置により取出される。
【0005】
これらの装置において周知の方法により、紡糸工程において必要な粘度を得るためにセルロース濃度を調整して紡糸液が製造される。
【0006】
ライオセルレーヨンを製造する紡糸液を製造する双方の装置は、溶剤NMMOによるパルプの溶解には最適ではない。垂直の薄膜溶解器は、熱伝達は良好であるが、所要量の天然繊維を完全な紡糸液とするため均質化するには、滞留時間が短い。水平の圧膜溶解器では、溶剤が繊維に浸み込み、均質化して良好な紡糸液と成る程に滞留時間は長い。
【0007】
しかしながら、今日では、ライオセルレーヨン用に紡糸液を工業的に製造するのに、双方の装置は用いられない。上述のように、2つの溶解器は最適ではないので、更に大きくする必要があるが、限度がある。50t/日以上の能力を有する装置は実現されていない。ビスコースレーヨン又はモーダルレーヨンを製造する技術が長く続き、競争力のあるものとするためには、100t/日の能力の製造ラインが必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】独国特許発明第1713486号明細書
【特許文献2】米国特許第3447939号明細書
【特許文献3】英国特許第8216566号明細書
【特許文献4】英国特許出願公開第08/875437号明細書
【特許文献5】米国特許第5888288号明細書
【特許文献6】独国特許発明第19837210号明細書
【特許文献7】国際公開第02/20885号パンフレット
【特許文献8】米国特許第5948905号明細書
【特許文献9】国際公開第94/06530号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
成形用溶液を垂直で円筒状の薄膜蒸発器及び水平で円筒状の圧膜溶解器に送給し、成形用溶液は圧膜溶解器においてか、又は圧膜溶解器から排出された後に、成形に必要な粘度となるよう希釈されることにより上記問題解決される。
【課題を解決するための手段】
【0010】
垂直な円筒状の薄膜蒸発器及び水平な圧膜溶解器に、成形用溶液を送って処理することにより、上記課題が解決される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】原料から成形物を製造する方法を示すブロック図
【発明を実施するための形態】
【0012】
2つの装置の溶解工程は、NMMO中のパルプに基づいて解析される。溶解工程は、条件が著しく異なった3つの区分に分割される。第一の区分では、溶解窓(Loserfenster)への到達、すなわちパルプの溶解が開始するまで、パルプと溶剤の懸濁液(スラリーとも言われる)から水分を蒸発させる。ここでは、NMMOは2.5水和物に相当する状態である。この区分では、水分を蒸発させるのに多量の熱エネルギーを必要とするが、セルロースはまだ溶解していないので、滞留時間を追加する必要はなく、溶液の粘度は低い。
【0013】
溶解窓へ到達した後の第二の区分は、粘度の激しい増加を伴う主溶解区分であり、水分を多くは要しないNMMOの1.5水和物が生ずる。
【0014】
第三の区分は、紡糸液が均質化され、NMMOは、水分が少ないのでパルプの濃度に応じて、0.8〜1.0の水和物となる。
【0015】
ここではそれぞれの溶解区分に対して必要な装置について述べる。第一の区分では、低粘度で短時間の滞留の間に、大量の水分を蒸発させるように、良好な熱伝達ができる薄膜蒸発器が用いられる。第二及び第三の区分では、高粘度、滞留時間が長く且つ水分の少ない溶液が、良好に均質化できる圧膜溶解器が用いられる。
【0016】
多段のパイロット設備用いての連続試験では、釣り合い取れた区分に分割できた。それに基づいて、より適切な区分の分割及び2つの装置の最適な連結、すなわち薄膜蒸発器及び圧膜溶解器を直接に連結すると本発明の課題は解決される。
【0017】
2つの装置は、その生成物の空間が直接に連結され、生成物の受渡し位置は内部に複雑な境界面として在り、一部の受渡しにより生成物の濃度変化が無くなる。薄膜蒸発器の滞留量が変わっても、圧膜溶解器は問題無く調整される。
【0018】
更に処理能力を高めるには、既に国際公開第2009/098073号パンフレットに開示の濃縮された溶液を考慮すればよい。これにより、セルロース溶液の濃縮と後工程の再希釈を組合せた二段の紡糸液の製造が可能となり、効率を高めることができる。
【0019】
既に国際公開第2009/098073号パンフレットに記載のように、成形用溶液及び/又は希釈剤の濃度は、光学的指標(屈折率)により調整される。このことは、成形用溶液に投入する前の希釈剤及び/又は希釈後の成形用溶液において行われる。希釈剤及び/又は成形用溶液の光学的指標は、1.45〜1.52の範囲にあることが好ましい。
【0020】
溶剤又は希釈剤としては、第三級アミン水溶液が好ましいが、これに限定されない。又、本発明は、パルプに限定されるものではなく、タンパク質、ポリラクチド又は澱粉、又はこれらの混合物でもよい。
【0021】
本発明による方法では、成形体を製造するとの副次的な意義がある。単繊維(Filamente)、フリース又はフィラメントヤーンなどの製造が好ましい。しかしながら、フィルム、中空繊維、膜なども製造できる。紡糸ノズル、スリットノズル又は中空繊維用紡糸ノズルを用いてセルロース溶液を所望の形状の成形体に形成できる。形成された溶液を凝固液に投入する前に、引っ張ってもよい
【実施例】
【0022】
以下、本発明の利点、特徴及び詳細について、図面を用いて説明する。
【0023】
セルロース又は予備混合したセルロース原料は、配管1を介して、薄膜蒸発器2に送給される。このような、垂直な円筒状の装置は、例えば特許文献4又は5に記載されている。
【0024】
懸濁液は、薄膜蒸発器において濃縮される。濃縮された懸濁液は、圧膜溶解器、好ましくは水平な混練反応器4に送給される。このような混練反応器は例えば、独国特許出願公開第19940521号明細書又は独国特許発明第4118884号明細書に記載されている。しかし、本発明ではこれらの薄膜蒸発器及び混練反応器には限定されない。本発明では、後工程の成形に混入させる再生原料を処理する全ての処理装置を含んでもよい。
【0025】
本実施例では、再生原料は、既に配管1から薄膜蒸発器に送給されたセルロース原料と混合されている溶剤、好ましくは三級アミンオキシド水溶液により処理される。
【0026】
薄膜蒸発器2において、加熱により、セルロース原料を失うことなく、懸濁液から水を蒸発させる。混練反応器4において、加熱により、原料を溶剤と共に激しく混合して、一部の水を溶剤から、すなわちセルロース原料の溶液から蒸発させて、比較的に高粘度の紡糸液を生成する。この紡糸液は、排出装置5により紡糸設備8に送られる。
【0027】
比較的に高粘度の紡糸液は、ライオセルレーヨンに最終加工する前に、紡糸できるセルロース溶液となるよう希釈される。希釈は、配管6を介して排出装置5内、又は排出装置5の前の混練反応器4の所望の位置で行われ且つ/又は分離して行われる。2つの希釈位置の組み合わせも考えられる。
【0028】
排出装置5から紡糸設備8へ送る前に、ポンプ7を通して成形用溶液を滞留させる。本発明の方法は以下のように実行される。
【0029】
配管1を介して、原料、特に再生した原料及び溶剤から成る懸濁液が薄膜蒸発器2に投入される。加熱被覆により外部から加熱して、原料を失うことなく懸濁液から水を激しく蒸発させる。
【0030】
濃縮された懸濁液は、薄膜蒸発器2から連結部3通って引き出され圧膜溶解器4に投入される。混練反応器である圧膜溶解器4において、加熱被覆により外部からの加熱、加熱された混練軸及び/又は混練部材(板状部材)により激しく混合させる。更に、混合自体及びそれによるせん断エネルギーによっても加熱される。
【0031】
溶剤の一部を蒸発させることにより、懸濁液は成形用溶液(紡糸液)に転換され、濃縮されて、排出装置5の直前の混練反応器4の末端では、成形用溶液は原14〜28%の原料を含んでいる。この成形用溶液は、紡糸には粘度が高すぎる。そこで、成形用溶液は、配管6からの希釈剤により希釈される。成形用溶液の濃度は、希釈剤を添加する前及び/又は後に光学的指標により調整される。この光学的指標は、屈折率とも言われる。この指標は、電磁波が2つ媒体の境界面に達した際の、屈折(方向の変化)と反射機能(反射及び全反射)を示している。
【0032】
更に、溶液の排出前又は排出中に、必要に応じて配管6を介して、成形用溶液又は混合物に添加剤を加えることも考えられる。添加剤又は添加剤の混合物は、希釈剤と共に供給してもよい。
【0033】
薄膜蒸発器2、又は混練反応器4において生成した蒸気は、連結器9を介して凝縮器10へ導入される。
【符号の説明】
【0034】
1 配管
2 薄膜蒸発器
3 連結部
4 混練反応器
5 排出装置
6 配管
7 ポンプ
8 紡糸設備
9 連結器
10 蒸発器