特許第6385931号(P6385931)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6385931
(24)【登録日】2018年8月17日
(45)【発行日】2018年9月5日
(54)【発明の名称】手袋
(51)【国際特許分類】
   A41D 19/015 20060101AFI20180827BHJP
   A41D 19/00 20060101ALI20180827BHJP
【FI】
   A41D19/015 210A
   A41D19/00 Q
【請求項の数】4
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2015-527212(P2015-527212)
(86)(22)【出願日】2014年5月29日
(86)【国際出願番号】JP2014064338
(87)【国際公開番号】WO2015008545
(87)【国際公開日】20150122
【審査請求日】2016年12月22日
(31)【優先権主張番号】特願2013-151031(P2013-151031)
(32)【優先日】2013年7月19日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】591161900
【氏名又は名称】ショーワグローブ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120329
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 一規
(72)【発明者】
【氏名】岸原 英敏
【審査官】 佐々木 一浩
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−203012(JP,A)
【文献】 特開2001−303374(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/021494(WO,A1)
【文献】 特開2013−060683(JP,A)
【文献】 特開2013−067879(JP,A)
【文献】 米国特許第05070540(US,A)
【文献】 国際公開第2008/029703(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A41D 19/015
A41D 19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
着用者の手を覆う繊維製の手袋本体と、上記手袋本体の外面のうち少なくとも掌領域に積層される樹脂製又はゴム製のコート層とを備え、
上記手袋本体の編糸としてループヤーンが用いられ、
コート層表面にこのループヤーンに起因する凹凸形状が形成され、
上記ループヤーンが、芯糸と、上記芯糸に巻回された浮糸及び押え糸とを有し、
上記浮糸が、上記芯糸の周りにループを形成し、上記押え糸が、上記浮糸の巻回方向と反対方向に巻回され上記浮糸を固定し
上記ループヤーンの平均ループ外径が2mm以上4mm以下、
上記ループヤーンの平均ループ間距離が2mm以上5mm以下
上記ループヤーンの総繊度が200dtex以上900dtex以下であり、
上記コート層が、上記手袋本体外面に突起したループヤーンの少なくともループ部分に含浸し、
上記コート層表面の十点平均粗さ(Rz)が300μm以上1200μm以下である手袋。
【請求項2】
純曲げ試験における柔軟屈曲性(B値)が、0.85gf・cm/cm以下である請求項1に記載の手袋。
【請求項3】
上記ループヤーンに起因する凸部側面からの変位1mm時の押し曲げ荷重が、0.45N以下である請求項1又は請求項2に記載の手袋。
【請求項4】
The European Standard EN388;2003に準じ、EN ISO 12947−1で定める試験機Nu−Martindaleを用いた500回転摩耗後における上記コート層の透湿度が400g/m・24h以上である請求項1、請求項2又は請求項3に記載の手袋。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、手袋に関する。
【背景技術】
【0002】
手袋は、例えば工場等において、梱包作業や運搬作業に際して作業者が着用して使用される。この種の手袋としては、繊維製の手袋本体に樹脂製又はゴム製のコート層が滑り止めのために積層されたものが公知である。
【0003】
従来のコート層としては、ゴム等に滑り止め粒子を練り込んだものがあるが、表面の十点平均粗さ(Rz)が40μm〜90μmと凹凸が比較的小さく、また、被把持物に対して変形せず追従性が低いため、滑り止め効果が十分ではないおそれがある。さらに従来の滑り止めコート層は、滑り止め粒子と共にコート層の一部が脱落し、滑り止め効果が低下するという課題がある。
【0004】
これらの課題を解決するため、パイル編機で編成した繊維製の手袋を反転させ、外側表面をパイル地とし、その上に樹脂製又はゴム製のコート層を積層させた手袋が提案されている(特開2003−268611号公報)。この場合、表面の十点平均粗さ(Rz)は150μm〜230μmとなるが、まだ十分な滑り止め効果があるとは言えず、さらに高い滑り止め効果を持つ手袋が求められている。また外側表面をパイル地とした場合、外側表面の平均ループ間距離が短くループの数が多いため、柔軟屈曲性が悪く、手袋が硬くなる。さらに手肌に接する内側面にループがないため、保温性が劣るという課題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−268611号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、滑り止め効果が高く、優れた柔軟屈曲性と高い保温性とを併せ持つ手袋の提供を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するためになされた発明は、着用者の手を覆う繊維製の手袋本体と、上記手袋本体の外面のうち少なくとも掌領域に積層される樹脂製又はゴム製のコート層とを備え、上記手袋本体の編糸としてループヤーンが用いられ、コート層表面にこのループヤーンに起因する凹凸形状が形成されている手袋である。
【0008】
当該手袋は、手袋本体の編糸としてループヤーンを用いている。ループヤーンは、不均一に浮き糸が突起しており、この突起した浮き糸によりコート層の表面に適度の凹凸が形成されるため、当該手袋は優れた滑り止め効果を示す。また、ループヤーンの浮き糸は、押え糸によって芯糸に固定されるため、脱離しにくい。従って、当該手袋は使用による滑り止め効果の低下が生じにくい。
【0009】
また当該手袋は、手袋本体の編糸としてループヤーンを用いるため、手袋本体の内面と外面との両面に浮き糸が突起し、パイル編機で編成した片面ループ生地の手袋に比べ、空気層を多く含むことができる。このため、パイル編機で編成した生地を用いる場合よりも細い総繊度で同等以上の保温性を持たせることができる。従って、当該手袋は、柔軟屈曲性に優れながら高い保温性を有する。
【0010】
上記ループヤーンの平均ループ外径としては、1mm以上6mm以下が好ましい。上記平均ループ外径を上記範囲内とすることで、コート層の表面に適度の凹凸が形成され、より高い滑り止め効果が得られる。
【0011】
上記ループヤーンの平均ループ間距離としては、1mm以上10mm以下が好ましい。上記平均ループ間距離を上記範囲内とすることで、滑り止め効果及び保温性により優れる。
【0012】
上記ループヤーンの総繊度としては、100dtex以上1000dtex以下が好ましい。上記総繊度を上記範囲内とすることで、当該手袋は、柔軟屈曲性と保温性との双方に、より優れる。
【0013】
当該手袋は、上記コート層が上記手袋本体の内面まで含浸していないと良い。上記コート層が上記手袋本体の内面まで含浸していないことで、上記手袋本体の内面の風合いが保たれ、当該手袋の使用時の手触りが良くなる。
【0014】
当該手袋は、上記コート層が上記手袋本体の外面に突起したループヤーンの少なくともループ部分に含浸していると良い。上記コート層が少なくとも上記ループ部分に含浸していることで、当該手袋は、保温性及び柔軟屈曲性を維持したまま、高い滑り止め効果を示すことができる。
【0015】
上記コート層表面の十点平均粗さ(Rz)としては、300μm以上1200μm以下が好ましい。上記十点平均粗さ(Rz)を上記範囲内とすることで、当該手袋は、より高い滑り止め効果を確保できる。
【0016】
当該手袋の純曲げ試験により測定した柔軟屈曲性(B値)としては、0.85gf・cm/cm以下が好ましい。上記B値を上記上限以下とすることで、当該手袋は、より高い柔軟性を持ち、作業効率が高い手袋となる。
【0017】
当該手袋のループヤーンに起因する凸部側面からの変位1mm時の押し曲げ荷重としては、0.45N以下が好ましい。上記押し曲げ荷重を上記上限以下とすることで、当該手袋は、より高い追従性を持つ。
【0018】
当該手袋のThe European Standard EN388;2003に準じ、EN ISO 12947−1で定める試験機Nu−Martindaleを用いた500回転摩耗後における上記コート層の透湿度としては、400g/m・24h以上が好ましい。上記透湿度を上記下限以上とすることで、手袋装着時の蒸れ感が低くなり、当該手袋を長時間に渡り快適に装着することができる。
【0019】
ここで、ループヤーンとは、輪奈(ループ)を有する意匠撚糸を意味する。十点平均粗さ(Rz)とは、JIS B 0031(1994)で定義される十点平均粗さを意味する。平均ループ外径とは、ループ部分において浮き糸の中心線と芯糸の中心線とが囲む面積と等しい面積を持つ真円の直径の平均値を意味し、ループが撚り合っている場合は、撚りを戻したループを測定する。なお、面積は、例えばキーエンス製光学顕微鏡(VHX−900)を用いて測定することができる。平均ループ間距離とは、1のループが芯糸と交わる点とこのループに隣接するループが芯糸と交わる点との最短距離の平均値を意味する。総繊度とは、使用されている糸全ての繊度の合計値を表す。柔軟屈曲性(B値)とは、布1cm幅当たりの曲げ剛さを表し、曲率が0.5cm−1〜1.5cm−1の間での曲げモーメントの平均傾斜を示す数値である。変位1mm時の押し曲げ荷重とは、凸部を側面から押し曲げ、変位が1mmとなるのに必要な荷重を測定した数値である。
【発明の効果】
【0020】
以上説明したように、本発明による手袋は、手袋本体にループヤーンが用いられ、コート層表面にこのループヤーンに起因する凹凸形状が形成されている。このため、当該手袋は、滑り止め効果が高く、優れた柔軟屈曲性と高い保温性とを併せ持つ。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の一実施形態に係る手袋を甲側から見た模式図である。
図2図1の手袋の部分的断面図である。
図3】本発明の手袋に用いられるループヤーンの構造を示した模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施の形態を詳説する。
【0023】
図1及び図2の手袋は、ループヤーンで編まれた繊維製の手袋本体1と、上記手袋本体1の外面のうち、掌(指を含む)領域、その側部領域及び指先端領域に積層される樹脂製又はゴム製のコート層2とを備えている。
【0024】
<手袋本体>
上記手袋本体1に用いられるループヤーンについて、図3を用いて説明する。ループヤーンは、芯糸31、浮き糸32及び押え糸33の3糸からなる。芯糸31の周りに浮き糸32を輪奈(ループ)状に形成し、押え糸33によって反対方向の撚りをかけることでループの崩れが防止される構成となっている。上記ループヤーンは、ループをさらに撚り合わせて角状としてもよい。
【0025】
上記ループヤーンの繊維素材としては、アクリル、ポリエステル、ポリアミド(商品名ナイロン)、強化ポリエチレン、アラミド、ポリウレタン、ポリプロピレン等の合成繊維、綿、羊毛、麻、シルク等の天然繊維、又はレーヨンやキュプラ等の再生繊維を用いることができる。これらの繊維素材は単独で用いても良いが、併用や複合糸の形で利用しても良く、芯糸31、浮き糸32、押え糸33それぞれに適切な性質を有する繊維素材を使い分けることが好ましい。芯糸31としては、手にフィットすることが求められ、伸縮性があることが好ましく、また耐切創性があることが好ましい。伸縮性がある糸としては、スパンデックスを挙げることができ、耐切創性がある糸としては、高性能ポリエチレン(HPPE)を挙げることができる。浮き糸32としては、へたることなくループを保持することが求められ、糸にこしがあることが好ましい。このような糸としては、スパン糸や捲縮加工がされていない糸が相当し、例えばアクリル、ポリエステル、ポリアミド系繊維等が適している。押え糸33としては、細くて強く、かつ切れにくいことが求められる。このような糸としては、ポリエステルやポリアミド系繊維等が適している。
【0026】
上記ループヤーンの特徴としては、平均ループ間距離を長く設定することができる。このため、ループの数を少なくすることができ、柔軟屈曲性が良い。また、手袋本体1の内面と外面との両面に浮き糸32が突起し、パイル編機で編成した片面ループ生地の手袋に比べ、空気層を多く含むことができる。このため、パイル編機で編成した生地を用いる場合よりも細い総繊度で同等以上の保温性を持たせることができる。このようにループヤーンを用いる場合は、パイル編機で編成した生地の場合とは異なり、優れた保温性と優れた柔軟屈曲性とを併せ持つことができる。
【0027】
上記ループヤーンの総繊度の下限としては、100dtexが好ましく、200dtexがより好ましい。上記総繊度が上記下限未満である場合、保温性が低下するおそれがある。一方、上記総繊度の上限としては、1000dtexが好ましく、900dtexがより好ましい。上記総繊度が上記上限を超える場合、柔軟屈曲性が低下するおそれがある。
【0028】
上記浮き糸32の平均ループ外径の下限としては、1mmが好ましく、2mmがより好ましい。上記平均ループ外径が上記下限未満である場合、コート層2を積層した際にコート層2の表面に十分な高さの凹凸が得られず、滑り止め効果が不十分となるおそれがある。一方、上記平均ループ外径の上限としては、6mmが好ましく、4mmがより好ましい。上記平均ループ外径が上記上限を超える場合、手袋の編成不良が発生しやすくなるおそれがある。
【0029】
上記浮き糸32の平均ループ間距離の下限としては、1mmが好ましく、2mmがより好ましい。上記平均ループ間距離が上記下限未満である場合、コート層2を積層した際に平均ループ間距離が近すぎるためコート層2の表面に十分な凹部が得られず、滑り止め効果が不十分となるおそれがある。一方、上記平均ループ間距離の上限としては、10mmが好ましく、5mmがより好ましい。上記平均ループ間距離が上記上限を超える場合、保温性が低下するおそれがある。
【0030】
<コート層>
上記コート層2は、樹脂又はゴム組成物が上記手袋本体1に含浸することにより形成されている。
【0031】
上記樹脂又はゴム組成物(以下、コンパウンドともいう)は、主成分の樹脂又はゴム、溶媒及びその他の添加剤を含有する。この樹脂としては、例えば塩化ビニル、ポリウレタン、塩化ビニリデン、シリコーン、ポリビニルアルコール、塩素化ポリエチレン、エチレン−ビニルアルコール共重合体あるいはこれらを混合したもの等が挙げられる。これらの中でも塩化ビニル又は、ポリウレタンを用いることが好ましい。また、上記ゴムとしては、例えば天然ゴム、イソプレンゴム、アクリルゴム、クロロプレンゴム、ブチルゴム、ブタジエンゴム、フッ素ゴム、スチレン−ブタジエン共重合体、クロロスルホン化ポリエチレン、エピクロヒドリンゴム、ウレタンゴム、エチレン−プロピレンゴムあるいはこれらを混合したもの等が挙げられる。これらの中でも、天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム、クロロプレンゴム、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体等のジエン系ゴムを用いることが好ましく、天然ゴム、アクリロニトリルブタジエンゴムが経済面、加工面、弾性、耐久性、耐候性等の点で特に好ましい。
【0032】
上記溶媒としては、例えば水、有機溶媒等が挙げられる。特に、溶媒として水が好ましい。上記主成分がアクリロニトリルブタジエンゴムの場合、アクリロニトリルブタジエンゴムと水との混合物としては、例えばアクリロニトリル−ブタジエン系ラテックス(日本ゼオン株式会社製の「Nipol Lx−550」又は「Nipol Lx−551」、)等の市販のラテックスを好適に用いることができる。このようなラテックスを用いることによって、コート層2を容易かつ確実に形成することができる。
【0033】
上記添加剤としては、例えば架橋剤、加硫促進剤、老化防止剤、顔料、増粘剤等を適宜用いることができる。これらは単独で又は必要に応じて2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、通気性やグリップ性を出すために起泡剤、整泡剤、発泡剤等を添加し、コート層2を発泡コート層としても良い。
【0034】
上記コート層2は、上記手袋本体1の内面まで含浸していない。上記コート層2が上記手袋本体1の内面まで含浸していないことで、上記手袋本体1の内面の風合いが保たれ、当該手袋の使用時の手触りが良くなる。
【0035】
上記コート層2は、上記手袋本体1の外面に突起したループヤーンのループ部分に少なくとも含浸している。上記コート層2が上記ループ部分に含浸していることで、当該手袋は、保温性及び柔軟屈曲性を維持したまま、高い滑り止め効果を示す。
【0036】
<手袋>
当該手袋は、コート層表面にこのループヤーンに起因する凹凸を持つ。この凹凸が優れた滑り止め効果を発揮する。
【0037】
上記コート層表面の十点平均粗さ(Rz)の下限としては、300μmが好ましく、350μmがより好ましい。上記十点平均粗さ(Rz)が上記下限未満である場合、十分な滑り止め効果が得られないおそれがある。一方、上記十点平均粗さ(Rz)の上限としては、1200μmが好ましい。上記十点平均粗さ(Rz)が上記上限を超える場合、手袋の追従性が悪く作業効率が悪くなるおそれがある。
【0038】
当該手袋の動摩擦係数の下限としては、1.35が好ましく、1.4がより好ましい。上記動摩擦係数が上記下限未満である場合、手袋の滑り止め効果が不十分となるおそれがある。ここで、動摩擦係数とは、手袋の掌領域から切り取った試験片をASTM D1894に準拠して測定した値である。
【0039】
上記手袋の純曲げ試験における柔軟屈曲性B値の上限としては、0.85gf・cm/cmが好ましく、0.8gf・cm/cmがより好ましい。上記柔軟屈曲性が上記上限を超える場合、柔軟性が不足し、作業効率が悪化するおそれがある。
【0040】
当該手袋は使用により上記コート層2が摩耗すると、ループヤーンのループがコート層表面からわずかに露出する。これにより、高い透湿性が確保される。また、ループがわずかに露出しても、上記コート層2全体の摩耗強度や滑り止め効果が低下することがない。従って、当該手袋は、透湿性、摩耗強度及び滑り止め効果が、使用によって低下することなく維持される。
【0041】
当該手袋のループヤーンに起因する凸部側面からの変位1mm時の押し曲げ荷重の上限としては、0.45Nが好ましく、0.4Nがより好ましい。上記押し曲げ荷重が上記上限を超える場合、被把持物に対して変形せず追従性が低いため、滑り止め効果が十分に得られないおそれがある。
【0042】
当該手袋のループヤーンに起因する凸部の変位0.5mm時の押し曲げ荷重の上限としては、0.25Nが好ましく、0.2Nがより好ましい。上記押し曲げ荷重が上記上限を超える場合、被把持物に対して変形せず追従性が低いため、滑り止め効果が十分に得られないおそれがある。
【0043】
また、当該手袋のThe European Standard EN388;2003に準じ、EN ISO 12947−1で定める試験機Nu−Martindaleを用いた500回転摩耗後における上記コート層2の透湿度の下限としては、400g/m・24hが好ましく、450g/m・24hがより好ましい。上記透湿度が上記下限未満である場合、手袋装着時の蒸れ感が大きいため、長時間に渡り快適に装着することができないおそれがある。
【0044】
<製造方法>
次に、上記構成からなる当該手袋の製造方法を概説するが、本発明の製造方法はこれに限定されるものではない。
【0045】
上記手袋の製造方法は、手袋本体1を形成する工程、手袋本体1を凝固剤へ浸漬する工程、凝固剤に浸漬した手袋本体1をコンパウンドに漬け、熱により固化することでコート層2を形成する工程及びコート層2に残留する可溶性非ゴム成分をリーチングにより除去する工程を備える。
【0046】
上記手袋本体形成工程は、手袋編機によりループヤーンを手袋状に編製して、手袋本体1を形成する工程である。
【0047】
上記凝固剤浸漬工程は、上記手袋本体1を手型に被せ、凝固剤へ掌や指先の一部もしくは手袋本体1全体を浸漬する工程である。凝固剤としては、例えば塩化ナトリウム、塩化カルシウム、硝酸カルシウム、酢酸、クエン酸等を挙げることができる。これらは単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中でも短時間で凝固効果が得られる点で硝酸カルシウムが好ましい。また、上記凝固剤の溶媒としては、例えばメタノール、水等が挙げられる。
【0048】
上記熱固化工程は、凝固剤を十分に滴下させた後、コンパウンドに掌領域や指先の一部もしくは手袋本体1全体を浸し、熱により固化することでコート層2を形成する工程である。
【0049】
リーチング工程は、コート層2が形成された手袋本体1を温水中に所定の時間漬け、コート層2中に残留する可溶性非ゴム分を除去する工程である。
【0050】
リーチングは、コート層2に水分を含んだゲル状態、温度60℃〜95℃にて3〜10分間乾燥を実施した半架橋半加硫状態、又は温度120℃〜140℃にて20〜60分間加熱を実施した完全加硫状態のいずれの状態で行っても良い。
【0051】
上記リーチング工程は、手袋本体1をコンパウンドに浸漬した直後に水溶性の粒子物を塗布してから行っても良い。あるいは、上記リーチング工程は、手袋本体1をコンパウンドに浸漬した直後に表面がゲル状になるまで乾燥させ、トルエン、キシレン、ヘキサン、メチルエチルケトン等の溶剤に手袋本体1を浸漬させてから行っても良い。このように手袋本体1を溶剤に浸漬させると、コート層2表面の凹凸がさらに大きくなり、滑り止め効果が増大する。さらに当該手袋の柔軟性が増し、摩耗前から摩耗後と同程度の高い透湿性が得られる。
【0052】
当該手袋の手袋本体1は、両側にループヤーンのループを持っており、空気層が介在しているので、当該手袋の温度を高く上げるのに熱と時間とを要する。上記製造方法(凝固法)は高い熱を必要としないため、当該手袋の製造に適している。
【0053】
<利点>
当該手袋は、手袋本体1の編糸としてループヤーンを用いている。ループヤーンは、不均一に浮き糸32が突起しており、この突起した浮き糸32によりコート層2の表面に適度の凹凸が形成されるため、当該手袋1は優れた滑り止め効果を示す。また、ループヤーンの浮き糸32は、押え糸33によって芯糸31に固定されるため、脱離しにくい。従って、当該手袋は使用による滑り止め効果の低下が生じにくい。また、ループヤーンは、保温効果が高いため、薄い生地で同等以上の保温性を持たせることができるので、当該手袋は柔軟屈曲性を損なうことなく保温性を高められる。
【0054】
[その他の実施形態]
本発明は上記実施形態に限定されるものではない。例えば、上記実施形態では、上記コート層は、上記手袋本体に含浸していたが、上記手袋本体に実質的に含浸していなくとも良い。上記コート層が含浸していない場合であっても、突起した浮き糸によりコート層の表面に適度の凹凸が形成されることで、当該手袋は同様の効果を奏する。
【0055】
上記実施形態では、手袋本体としてループヤーンのみで編まれた手袋を説明したが、ループヤーンを手袋本体の一部に使用し、他の部分をループヤーン以外の公知の編糸、例えばウーリーナイロン、ポリエステル等で構成したものであってもよい。例えば、指先等の手袋の一部のみにループヤーンを使用した場合であっても、ループヤーンに起因する滑り止め効果が得られる。また、手袋本体は、内面又は外面の一部又は全部を起毛することで、保温性を高めてもよい。
【0056】
上記実施形態では、コート層が掌領域、その側部領域及び指先端領域に積層される場合を説明したが、コート層が積層される領域は、これに限定されるものではない。例えば、掌、手の甲共に手首までコートされるフルコートや手の甲を除きコートされるナックルコートを行っても良い。また、積層されるコート層は、1層の場合を説明したが、2層以上の多層コートであっても良い。
【0057】
上記実施形態では、当該手袋の製造方法として凝固法について説明したが、他の製造方法、例えば感熱法であってもよい。感熱法では、配合液に初めから感熱剤を添加しておき温度によってゲル化させることでコート層を形成する。
【実施例】
【0058】
以下、実施例によって当該発明をさらに具体的に説明するが、当該発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0059】
後述の9種類の手袋本体と3種類のコンパウンドとを用いて手袋を作成した。
【0060】
使用した各手袋本体は、以下の表1に示す通りである。下記の手袋本体は、全て起毛をしていない。
【0061】
【表1】
【0062】
使用した各コンパウンドの配合量は、以下の表2に示す通りである。
【0063】
【表2】
【0064】
手袋を作成した試作方法は、特に断りのない限り、以下に述べる方法である。まず、各手袋本体を手型に被せ、恒温器にて表面が60℃となるように準備した後、メタノール100質量部に対して硝酸カルシウム1質量部の凝固剤に漬ける。引き上げた手袋本体を滴下30秒に続き乾燥30秒を実施した後、コンパウンドへ掌領域のみ浸漬する。その後、90℃にて10分間乾燥し、離型してから30℃にて30分間のリーチングを行う。さらに、1分間脱水して手型に被せ、130℃にて40分間のキュアを実施する。このようにして手袋を成形する。
【0065】
(実施例1〜6)
実施例1〜6は、手袋本体A、B、C、D、E及びFそれぞれについて配合1のコンパウンドを用いて上述の試作条件にて試作したものである。
【0066】
(実施例7〜12)
実施例7〜12は、手袋本体A、B、C、D、E及びFそれぞれについて配合2のコンパウンドを用いて上述の試作条件にて試作したものである。
【0067】
(実施例13〜18)
実施例13〜18は、手袋本体A、B、C、D、E及びFそれぞれについて配合2のコンパウンドを用いて、コンパウンドへ掌領域のみ浸漬するまで上述の試作条件に従って処理を行った後、110℃にて10秒間表面を乾燥後すぐにキシレン溶剤100質量部に5秒浸漬し、さらに90℃にて10分間乾燥した後、離型して、30℃にて30分間のリーチング、1分間の脱水を経て、130℃にて40分間キュアを実施して試作したものである。
【0068】
(比較例1〜3)
比較例1〜3は、手袋本体G、H及びIそれぞれについて、配合1のコンパウンドを用いて、上述の試作条件にて試作したものである。
【0069】
(比較例4〜6)
比較例4〜6は、手袋本体G、H及びIそれぞれについて、配合2のコンパウンドを用いて、上述の試作条件にて試作したものである。
【0070】
(比較例7〜9)
比較例7〜9は、手袋本体G、H及びIそれぞれについて手袋本体を裏返して(パイル地上にコート層が積層されるようにして)、配合2のコンパウンドを用いて、上述の試作条件にて試作したものである。
【0071】
(比較例10)
比較例10は、手袋本体Gに、配合1のコンパウンドを用いて、コンパウンドへ掌領域のみ浸漬するまで上述の試作条件に従って処理を行った後、75℃にて10分間乾燥し、配合3のコンパウンドへ掌領域のみ浸漬し離型してから、30℃にて30分間のリーチング、1分間の脱水を経て、130℃にて40分間キュアを実施して試作したものである。
【0072】
実施例1〜18及び比較例1〜10について、以下の特性値を測定した。
【0073】
動摩擦係数は、手袋の掌領域から63.5mm×83.5mmを切り取った試験片を用いて測定した。測定方法は、ASTM D1894に準拠し、摩擦係数測定装置の移動重錘(摩擦面63.5mm×63.5mm)に試験片を取り付け、ステンレス板上にて150mm/分で移動距離130mm走行させ、その間の摩擦力を測定する。動摩擦係数は、均整な走行になってからの平均摩擦力を移動重錘の垂直抗力で除算して算出する。
【0074】
保温性は以下の手順で測定した。恒温器(ESPEC社製のパーフェクトオーブン「PV−211」)で金属製手型を60℃にて1時間保温する。次に金属製手型を取り出し、即座に測定対象の手袋を被せ、5分後に離型する。離型直後の掌中央部の温度を赤外線サーモグラフィ(日本アビオニクス株式会社製の「Handy Thermo TVS−200」)で測定した。
【0075】
柔軟屈曲性は、純曲げ試験によるB値を用いて測定した。具体的には、試験片として、手袋の指部から20mm×50mmを切り出し、純曲げ試験機(カトーテック株式会社製の「KES−FB2」)を用いて測定した。測定条件をSENS20及び曲率2.5cm−1として、指を曲げる方向と同方向に曲げて3回測定した。
【0076】
透湿度は、JIS L 1099A−1(塩化カルシウム法)に準拠して測定を実施した。
【0077】
摩耗損失は、The European Standard EN388;2003に準じ、EN ISO 12947−1で定める試験機Nu−Martindaleを用いて測定した。
【0078】
押し曲げ加重は、実施例9、実施例15、比較例4及び比較例10について、手袋の掌領域から20mm×40mmを切り取った試験片を用いて測定した。測定方法としては、試験片の凸部を側面から押し曲げ、変位が0.5mm及び1mmとなる時の荷重を測定する。測定には、荷重−変位測定ユニット(株式会社イマダ製の「FSA−0.5K2−2N」)を用いた。
【0079】
各評価結果を表3及び表4に示す。
【0080】
【表3】
【0081】
【表4】
【0082】
動摩擦係数は、数値が高いほど滑り止め効果が高いことを示す。ループヤーンを含む手袋である実施例は、従来の滑り止め粒子を含むコート層や裏返しパイル地を含むコート層を持つ比較例より高い値を示し、滑り止め効果が高いことが分かる。
【0083】
保温性は、5分後の温度が高いほど保温性が高いことを示す。例えば実施例1と比較例3とを比較すると、総繊度が501dtexの手袋であっても、総繊度が1027dtexと同等以上の保温性を有していることが分かる。総繊度が小さいほど厚みが薄くなることから、薄くとも高い保温性を有していることが分かる。
【0084】
柔軟屈曲性は、数値が低いほど柔軟であることを示す。実施例と比較例とを比べると、実施例の数値の方が低く、ループヤーンを用いた手袋の方が柔軟であることが分かる。
【0085】
透湿度は、数値が大きいほど、蒸れ感の低減効果が高いことを示す。実施例と比較例とを比べると、実施例では500回摩耗後に高い透湿度を示している。その数値は、外表面をパイル地とした比較例7〜9よりも大きい。ループヤーンを用いた手袋の方が、摩耗時に高い透湿性を発揮することが分かる。
【0086】
摩耗損失は、数値が高いほど耐摩耗強度が弱く摩耗しやすいことを示す。実施例と比較例とを比べると、配合剤と手袋本体が同一である場合、摩耗損失は同等で有り、実施例において摩耗強度の低下はないことが分かる。
【0087】
押し曲げ荷重は、数値が低いほど被把持物に対して変形しやすく追従性が高いことを示す。実施例と比較例とを比べると、実施例の数値の方が低く、ループヤーンを用いた手袋の方が、追従性が高いことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0088】
以上のように、本発明のループヤーンを用いた手袋は、滑り止め効果が高く、かつ、柔軟屈曲性に優れながら高い保温性を有する。このため、長時間の着用においても内部が蒸れず、良好な作業性、装着性を有している。従って、当該手袋は、例えば工場等における梱包作業や運搬作業に好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0089】
1 手袋本体
2 コート層
31 芯糸
32 浮き糸
33 押え糸
図1
図2
図3