(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6385950
(24)【登録日】2018年8月17日
(45)【発行日】2018年9月5日
(54)【発明の名称】耐裂性複合積層体
(51)【国際特許分類】
B32B 5/12 20060101AFI20180827BHJP
B32B 5/28 20060101ALI20180827BHJP
B64C 1/00 20060101ALI20180827BHJP
B64C 3/00 20060101ALI20180827BHJP
【FI】
B32B5/12
B32B5/28 A
B64C1/00 B
B64C3/00
【請求項の数】15
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2015-545501(P2015-545501)
(86)(22)【出願日】2013年12月2日
(65)【公表番号】特表2016-506312(P2016-506312A)
(43)【公表日】2016年3月3日
(86)【国際出願番号】US2013072662
(87)【国際公開番号】WO2014088962
(87)【国際公開日】20140612
【審査請求日】2016年12月2日
(31)【優先権主張番号】13/692,424
(32)【優先日】2012年12月3日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】500520743
【氏名又は名称】ザ・ボーイング・カンパニー
【氏名又は名称原語表記】The Boeing Company
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(74)【代理人】
【識別番号】100163522
【弁理士】
【氏名又は名称】黒田 晋平
(74)【代理人】
【識別番号】100154922
【弁理士】
【氏名又は名称】崔 允辰
(72)【発明者】
【氏名】パトリック・ウッダード
(72)【発明者】
【氏名】マックス・キスマートン
(72)【発明者】
【氏名】フランシス・イー・アンドリュース
【審査官】
岩本 昌大
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2011/142920(WO,A1)
【文献】
特表2013−532075(JP,A)
【文献】
特開平09−001713(JP,A)
【文献】
特開2013−231402(JP,A)
【文献】
米国特許第05866272(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00−43/00
B29C 70/00−70/88
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
母材と、
前記母材の中に埋め込まれた補強繊維であって、第1の複数の前記補強繊維(315A)が3°〜8°の範囲の配向と平行であり、第2の複数の前記補強繊維(315B)が−3°〜−8°の範囲の配向と平行であり、第3の複数の前記補強繊維(315C)が10°〜40°の範囲の配向と平行であり、第4の複数の前記補強繊維(315D)が−10°〜−40°の範囲の配向と平行であり、第5の複数の前記補強繊維(315E)が90°の配向と平行であり、前記配向が所定の軸線に対するものである、補強繊維と、
を備える、複合積層体。
【請求項2】
前記第1の複数の前記補強繊維(315A)が5°の配向を有し、前記第2の複数の前記補強繊維(315B)が−5°の配向を有する、請求項1に記載の複合積層体。
【請求項3】
前記第3の複数の前記補強繊維(315C)が30°の配向を有し、前記第4の複数の前記補強繊維(315D)が−30°の配向を有する、請求項1又は2に記載の複合積層体。
【請求項4】
請前記第3の複数の前記補強繊維(315C)が20°の配向を有し、前記第4の複数の前記補強繊維(315D)が−20°の配向を有する、請求項1から3のいずれか一項に記載の複合積層体。
【請求項5】
前記補強繊維が集合的に全体の体積を有し、前記第1の複数の前記補強繊維(315A)が第1の体積を有し、前記第2の複数の前記補強繊維(315B)が第2の体積を有し、前記第1の体積及び前記第2の体積が集合的に前記全体の体積の30〜60%を備える、請求項1から4のいずれか一項に記載の複合積層体。
【請求項6】
前記補強繊維が集合的に全体の体積を有し、前記第3の複数の前記補強繊維(315C)が第3の体積を有し、前記第4の複数の前記補強繊維(315D)が第4の体積を有し、前記第3の体積及び前記第4の体積が集合的に前記全体の体積の30〜60%を備える、請求項1から5のいずれか一項に記載の複合積層体。
【請求項7】
前記複合積層体が、航空機(400)の外装の一部分であり、前記所定の軸線が、前記複合積層体上の引張りの軸線である、請求項1から6のいずれか一項に記載の複合積層体。
【請求項8】
両方とも同一の配向を有する補強繊維を有する前記複数の補強繊維の2つが、異なる配向を有する補強繊維を有する複数の補強繊維の少なくとも1つによって分離され、前記複合積層体が中央平面を有し、前記複数の補強繊維が前記中央平面について対称的に配置されている、請求項1から7のいずれか一項に記載の複合積層体。
【請求項9】
複合積層体を製造する方法であって、母材の中に補強繊維を埋め込むステップを備え、第1の複数の前記補強繊維(315A)が3°〜8°の範囲の配向と平行であり、第2の複数の前記補強繊維(315B)が−3°〜−8°の範囲の配向と平行であり、第3の複数の前記補強繊維(315C)が10°〜40°の範囲の配向と平行であり、第4の複数の前記補強繊維(315D)が−10°〜−40°の範囲の配向と平行であり、第5の複数の前記補強繊維(315E)が90°の配向と平行であり、前記配向が所定の軸線に対するものである、方法。
【請求項10】
前記補強繊維を埋め込むステップが、5°の配向を有するように前記第1の複数の前記補強繊維(315A)を配置するステップと、−5°の配向を有するように前記第2の複数の前記補強繊維(315B)を配置するステップと、を備える、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記補強繊維を埋め込むステップが、30°の配向を有するように第3の複数の前記補強繊維(315C)を配置するステップと、−30°の配向を有するように第4の複数の前記補強繊維(315D)を配置するステップと、を備える、請求項9又は10に記載の方法。
【請求項12】
前記補強繊維を埋め込むステップが、20°の配向を有するように前記第3の複数の前記補強繊維(315C)を配置するステップと、−20°の配向を有するように前記第4の複数の前記補強繊維(315D)を配置するステップと、を備える、請求項9から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記補強繊維を埋め込むステップが、
前記第1の複数の補強繊維(315A)の第1の体積を提供するステップ、及び前記第2の複数の補強繊維(315B)の第2の体積を提供するステップであって、前記第1の体積及び前記第2の体積が集合的に前記補強繊維の全体の体積の30〜60%を備えるステップと、
前記第3の複数の補強繊維(315C)の第3の体積を提供するステップ、及び前記第4の複数の補強繊維(315D)の第4の体積を提供するステップであって、前記第3の体積及び前記第4の体積が集合的に前記補強繊維の全体の体積の30〜60%を備えるステップと
を含む、請求項9から12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記複合積層体を航空機(400)の翼(410)外装の少なくとも一部分内に形成するステップを更に備え、前記所定の軸線が、引張りの軸線である、請求項9から13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
両方とも同一の配向を有する補強繊維を有する前記複数の補強繊維の2つが、異なる配向を有する補強繊維を有する複数の補強繊維の少なくとも1つによって分離され、前記複合積層体が、中央平面を有し、前記複数の補強繊維が前記中央平面について対称的に配置されている、請求項9から14のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
繊維補強された複合積層体が、軽量、向上した耐性、及び高い強度対重量比など、1つ又は複数の所望の特徴を一般的に示すので、様々な用途の中で使用されている。複合物品の1つの問題は、特に物体が十分な質量及び/又はエネルギーを伴って複合物品に衝突して、実質的又は完全に複合材を貫通する大きいノッチ又は孔を生成する場合、繊維の配向に沿った制御されない裂けが発生する可能性があることである。そのような損傷は、いくつかの場合に些細であり、又は主要な問題点とさえなり得るが、複合物品が、例えば航空機の翼外装である場合、そのような損傷は破局的結果をもたらす可能性がある。
【背景技術】
【0002】
したがって当技術分野では、物体によって衝突される場合に、繊維の配向に沿った制御されない裂けを示さない複合物品に対する要求が存在する。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0003】
本発明の概要は、発明を実施するための形態の中で以下に更に説明する簡単な形態で、概念から精選されたものを紹介するために提供される。特許請求する主題の範囲を限定するためにこの発明の概要を使用することを意図しない。本明細書に説明する概念及び技術は、改良された複合積層体、その複合積層体を作製する方法、及びその積層体を使用する少なくとも1つの実施例を提供する。
【0004】
複合積層体が、母材の中に埋め込まれた多数の補強繊維を有する。一応用では、第1の複数の補強繊維が3°〜8°の範囲の配向と略平行であり、第2の複数の補強繊維が−3°〜−8°の範囲の配向と略平行であり、第3の複数の補強繊維が10°〜40°の範囲の配向と略平行であり、第4の複数の補強繊維が−10°〜−40°の範囲の配向と略平行であり、第5の複数の補強繊維が約90°の配向と略平行である。
【0005】
複合積層体を製造する方法は母材の中に補強繊維を埋め込み、第1の複数の補強繊維が3°〜8°の範囲の配向と略平行であり、第2の複数の補強繊維が−3°〜−8°の範囲の配向と略平行であり、第3の複数の補強繊維が10°〜40°の範囲の配向と略平行であり、第4の複数の補強繊維が−10°〜−40°の範囲の配向と略平行であり、第5の複数の補強繊維が約90°の配向と略平行であり、配向が所定の軸線に対するものである。
【0006】
航空機は、胴体と、胴体に作動可能に結合されている翼組立体と、胴体又は翼組立体の少なくとも選択された部分の中に組み込まれた複合積層体とを有する。複合積層体は、母材の中に埋め込まれた補強繊維を有し、第1の複数の補強繊維が3°〜8°の範囲の配向と略平行であり、第2の複数の補強繊維が−3°〜−8°の範囲の配向と略平行であり、第3の複数の補強繊維が10°〜40°の範囲の配向と略平行であり、第4の複数の補強繊維が−10°〜−40°の範囲の配向と略平行であり、第5の複数の補強繊維が約90°の配向と略平行であり、配向が所定の軸線に対するものである。
【0007】
母材は、限定しないが、例えば、エポキシ樹脂、ポリマー、金属又はセラミックであることができる。一構成では、繊維は概ね以下の略配向、5°、−5°、30°、−30°、及び90°を有するように配置される。別の構成では、繊維は概ね以下の略配向、5°、−5°、20°、−20°、及び90°を有するように配置される。
【0008】
考察された形態、機能及び利点は、本開示の様々な構成の中で独立して実施可能であり、又は他の構成の中に組み合わせることができ、その追加の詳細は、以下の説明及び図面を参照することによって理解され得る。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】例示的な複合パネルの中の例示的な大きいノッチ損傷の図である。
【
図2】いくつかの複合テストパネルの引張り強度とアルファプライ又はアルファ繊維のパーセンテージとの間の関係を示す図である。
【
図3】大きいノッチ損傷による長手方向の耐裂性を改善するために本明細書に開示する、修正された一例示的複合積層体の部分的分解等角図である。
【
図4】複合積層体から構成される外装の一部分を有する例示的な航空機の図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下の詳細な説明は、複合積層体、その複合積層体を作製する方法、及びその積層体の用途に向けたものである。以下の詳細な説明の中で、本明細書の一部を形成し、図面、特定の構成又は実施例として図示される添付の図面に参照がなされる。いくつかの図面を通して、同じ符号は同じ要素を表す。
【0011】
複合積層体は、炭素繊維強化ポリマーとしても知られており、エポキシ樹脂、ポリマー、金属又はセラミックなどの母材の中に埋め込まれた炭素補強繊維を含む。単に「樹脂」とも呼ばれることが多いポリマー樹脂は、限定しないが、エポキシ、ポリマー、ポリエステル、ビニルエステル又はナイロンを含む。これらの複合積層体は、高い強度対重量比を提供し、限定ではなく実施例として、航空宇宙用途、自動車、セールボート、運動具、自転車、オートバイ、電子機器用筐体、及び他の軍事用、産業用及び民生用用途の中で使用されることが多い。繊維は、断面繊維方向ではなく、長手方向に強度を提供するので、通常積層体は、異なる方向の繊維の層を備え、典型的には引張りの軸線に対して0°、±45°及び90°の層を備える。そのような複合積層体は、例えば、一体に接着される多数の層又はプライから形成可能であり、各層は、母材の中に埋め込まれた複数の繊維である。
【0012】
複合積層体にとって理想的な環境の中では、他の物体による大きな衝撃は最小であるか、又は存在しないであろう。しかし、実際の環境では、霰など気候に関連する大気現象、エンジンなどの他の構成要素の故障、又は敵の発射体又は敵からの榴散弾などに至るまで異なる原因から、航空機などに対して他の物体による重大な衝撃が予想され得る。いくつかの物体は、単一のプライに対して小さい損傷を招くというよりもむしろ、多くのプライに損傷を引き起こす場合が多く、すべてのプライを貫通することすら起こり得る。考察の都合上、限定ではないが、このタイプの損傷は、本明細書で「大きいノッチ」損傷と呼ぶことができる。いくつかの従来の複合積層体は、引張りの方向に概ね平行な方向に、積層体の長手方向の裂けによって大きいノッチ損傷を広げるという性質を示す。したがって、そのような大きいノッチ損傷が発生する場合、損傷の領域に亘って通常存在する引張りが、積層体の完全な、及び/又は機能上の破損を招く可能性があり、そのような破損が例えば翼又は胴体の特定の部品の中で発生する場合、航空機の損傷など、破局的な結果を伴う可能性がある。例えば、航空機の翼の外装内の裂けが、航空機翼内のストリンガに向かって広がる場合、そのとき裂けはストリンガによって阻止され得る。しかし、裂けがストリンガに平行に広がる場合、そのとき裂けを阻止するものが存在せず、翼が故障する可能性がある。
【0013】
「プライの裂けを抑制し、又は遅らせるための補強繊維配向を含む複合物品」と題する米国特許第7,807,249号、「多軸積層体複合構造及びその形成方法」と題する米国特許第2006/0222837号A1、「複合外装及びストリンガ構造、並びにその形成方法」と題する米国特許第2006/0243860号A1、及び「航空宇宙ビークル用複合補剛材」と題する米国特許第2011/0045232号A1は、Max U. Kismarton によるものであり、イリノイ州シカゴのボーイング社(The Boeing Company)に譲渡されている。これらの文献は、複合積層体を製造及び使用する様々な方法を開示する。
【0014】
図1は、例示的な複合パネル100の中の例示的な大きいノッチ損傷115の図である。パネル100は、多数のプライを備える。慣例により、引張りの軸線Tに沿って主に配向された繊維を有するプライは、「アルファ」プライ及び「アルファ」繊維と呼ばれ、その軸線に対して別の方向に主に配向された繊維を有するプライは、「ベータ」プライ及び「ベータ」繊維と呼ばれ、その軸線に対してやはり別の方向に主に配向された繊維を有するプライは、「ガンマ」プライ及び「ガンマ」繊維と呼ばれる。1つの典型的な複合材では、アルファプライは0°の角度の繊維配向を有し、ベータプライは±45°の角度の繊維配向を有し、ガンマプライは90°の角度の繊維配向を有し、プライの少なくとも10パーセントがこれら4つの方向のそれぞれに配向される。単一プライの中に異なる配向を有する繊維を配置することも可能である。例えば、アルファ繊維、及び/又はベータ繊維、及び/又はガンマ繊維を単一プライの中に埋め込むことができる。更に例えば、異なる配向を有する繊維を繊維布の中に紡ぐことができる。もちろん、多くの用途では、各配向の多数のプライが所望の強度又は他の特徴を達成することが必要である。多数の層は、限定しないが、樹脂などによって一体に接着されることも可能である。
【0015】
図1に示すように、アルファ層(図示せず、又は別個に符号を付さず)は、引張り力Tに平行である配向を有する平行な繊維105を有し、ガンマ層(図示せず、又は別個に符号を付さず)は、引張り力Tに垂直である配向を有する平行な繊維110を有し、ベータ層(図示せず又は別個に符号を付さず)は、プラス及びマイナス45°の配向を有する平行な繊維125A、125Bを有する。ベータ繊維125は、都合上及び図面を分かりやすくするためにパネル100の中に図示されていないが、インサート130として示されている。
【0016】
ここで、大きいノッチ損傷115を引き起こす物体による衝突が存在すると想定されたい。平行な繊維105Aは大きいノッチ損傷115で切断されてしまっていることが理解されよう。パネル100を横切る引張りTが存在する場合、そのとき引張りは切断されない平行な繊維105に沿っており、その結果、平行な繊維105が引張りに応答して伸張する。しかし、切断された平行な繊維105Aは大きいノッチ損傷115で終了し、その結果、平行な繊維105Aはその端部で自由になり、したがって同じ程度の引張りを受けなくなる。その結果、それらは伸張せず、又はそれらはごくわずか伸張するに過ぎない。切断されない平行な繊維105Aが伸張するが、しかし切断された平行な繊維105Aは伸張しないので、それらの間に剪断力が発達し、引張りTが十分に大きい場合は、伸張した繊維の長さと伸張しない繊維の長さとの相違によって、例示的な割れ目120によって示すように、切断された平行な繊維105Aは近傍の切断されない平行な繊維105から離れて剪断される。割れ目120は引張りの線に沿って広がることができ、結局は1つ又は複数のプライの全体の長さに亘って、パネル100の中に広がる可能性がある。これによってパネル100の強度が著しく低下する。引張りTと平行な繊維のパーセンテージが増えるに従って、この裂け破損の可能性がますます高くなる。
【0017】
大きいノッチの長手方向の裂けに対する現在の解決策は、より多くの45°の繊維を加えることである。45°の繊維は、航空機の中のストリンガに向かって裂けを導くように働き、そこで裂けが阻止されることになる。しかし、これらの45°のプライを更に加えることによって、係数を低下させ、重量を増加させる。より高い係数は、限定しないが例えば、ノッチのない引張り、充填された穴の引張り、エッジノッチ及び充填された穴の圧縮など、構造効率のいくつかの測定値を増加させる。より低い係数は、限定しないが例えば、フラッタリング、及び航空機又は他の車両又は構造体の様々な構成要素を統合することに伴う問題など、望ましくない結果を適宜有する可能性がある。したがって、係数を低下させることは望ましくなく、一方、特に重量を増加させることもまた望ましくない。
【0018】
図2は、いくつかの複合材テストパネルの引張り強度とアルファプライ又はアルファ繊維のパーセンテージとの間の関係を図示する。従来の積層体(0°、±45°、90°)の充填された穴の引張り強度が、アルファプライのパーセンテージが増加するにつれて直線的に上昇することが分かるであろう。しかし、限定しないが例えば、翼外装などの多くの用途では、0°方向の長手方向の裂けに対する危険性があるばかりでなく、捩じり力及びエンジンスラスト荷重などの不連続な翼弦方向の荷重を担持する能力を維持しなければならないので、この直線205の実質的な部分は使用することができない。アルファプライのパーセンテージが増加することは、同じ積層体厚さ及び重量が得られると仮定すると、ベータプライ及びガンマプライの数が対応して減少することを意味し、これによって捩じり及び翼弦方向の能力の低下を招く可能性がある。
【0019】
別の手法は、上記の文献の少なくとも1つの中で考察されるように、±5°、±45°、及び90°のプライを用いて修正された積層体を使用することである。直線210の部分から分かるように、修正された積層体の耐裂性もまた、アルファプライのパーセンテージが増加するにつれて直線的に上昇する。この手法が期待される結果を与えないことは、驚くべきことである。第1に、同じパーセンテージのアルファプライに対する直線205と比較すると、強度がより低いことに留意されたい。加えて、アルファプライパーセンテージが約50%に到達するとき、直線210が「屈曲部」210Aに到達し、及び/又は平らになり始めることに留意されたい。したがって、アルファプライのパーセンテージが増加することによって、長手方向及び翼弦方向の両方で強度に対する応答が減少する可能性がある。
【0020】
しかし、意外なことにベータプライの配向が45°ではなく10°〜40°に修正される場合、長手方向の強度が実質的に上昇するということが発見された。直線215によって示される強度が、同じアルファプライのパーセンテージに対して直線205又は直線210のいずれの強度よりも高いことは驚くべきことである。したがって、±5°のアルファプライは、大きいノッチ損傷を有する伸張されたパネルの中の長手方向の裂けに耐えるが、これらの修正されたベータプライもまた長手方向の強度を上昇させる。例えば、積層体が40%のアルファプライを含む場合、テストされる従来の積層体(205)の強度は、ちょうど90Ksi(重量キロポンド毎平方インチ)を超えていたが、テストされたアルファ修正積層体(210)の強度はより低く、約83Ksiであった。しかし、対照的に、アルファ及びベータ修正積層体215の強度はちょうど95Ksiを超えており、他のいずれの積層体よりも高かった。従来の積層体(205)は、アルファプライパーセンテージが45%近くになるまで、この強度に達しなかった。更に、アルファ修正積層体(210)は、アルファプライパーセンテージが60%近くになるまで、この強度に達しなかった。上記に述べたように、アルファプライのパーセンテージが高くなればなるほど、捩じり荷重及び翼弦方向の荷重に耐えるために利用可能であるベータプライ及びガンマプライのパーセンテージがより低くなる。しかし、アルファ及びベータ修正積層体215では、アルファプライの所与のパーセンテージが、従来の積層体又はアルファだけ修正された積層体に対するよりも高い長手方向の強度をもたらし、したがって、プライのより大きいパーセンテージが、所望の翼長方向の強度を提供するために利用できるようになる。
【0021】
図3は、大きいノッチ損傷状況での長手方向の裂けへの耐性を改善し、一方で同時に他の主な構造測定値(例えば、充填された穴の引張り、エッジノッチ及び軸受バイパス)に対する長手方向の強度を上昇させる、本明細書に開示する修正された一例示的な複合積層体300の部分的分解等角図である。積層体300は、層305(305A、305B、305C、305D及び305E)を有し、それらが1つの組310を構成する。層300は、層305の複数の組310を備えることができる。例えば、典型的な航空機翼は、60〜90個の層305を有することができる。層の数は、単に実施例として提供され、限定する意図はまったくなく、複合積層体に所望される特徴に依存して、より多くの層又はより少ない層を使用することができる。各層305A〜305Eは、それぞれ補強繊維315A〜315Eから構成され、層305内の繊維315は、互いに略平行であり、母材の中に埋め込まれ、母材は全体に305Mと表示されている。組310の中の層305の繊維315は、必須ではないが、好適には組310の中の他の層305の繊維315とは異なる方向に配向される。例えば、層305Cの中の繊維315Cは、層305A、305B、305D、305Eの各繊維315A、315B、315D、315Eとは異なる方向に配向される。本明細書に考察するように、繊維315の配向は引張りの軸320に対するものである。インサート325は、引張りの軸320に対する様々な繊維の配向の全体図を提供する。アルファプライは、長手方向の裂けに抵抗し、ガンマプライは積層体を安定させ、軸受性能を向上させ、横方向の性能を向上させ、修正されたベータプライは長手方向の性能を向上させ、一方で要求される積層体強度を維持するために必要なアルファプライパーセンテージを低減する。
【0022】
一構成では、プライ305Aの中の繊維315A(アルファ繊維)は、3°〜8°の配向を有し、プライ305Bの中の繊維315B(やはりアルファ繊維)は、−3°〜−8°の配向を有し、プライ305Cの中の繊維315C(ベータ繊維)は、10°〜40°の配向を有し、プライ305Dの中の繊維315D(やはりベータ繊維)は、−10°〜−40°の配向を有し、プライ305Eの中の繊維315E(ガンマ繊維)は、約90°の配向を有する。別の構成では、アルファ値は±5°である。別の構成では、ベータ値は±30°である。別の構成では、ベータ値は±20°である。別の構成では、アルファプライは±5°の配向を有し、ベータプライは±30°の配向を有し、ガンマプライは90°の配向を有する。別の構成では、アルファプライは±5°の配向を有し、ベータプライは±20°の配向を有し、ガンマプライは90°の配向を有する。
【0023】
一構成では、アルファプライ305A及び305Bは集合的に積層体300の体積の30〜60%を含む。別の構成では、ベータプライ305C及び305Dは集合的に積層体300の体積の30〜60%を含む。別の構成では、ガンマプライ305Eは積層体300の体積の10〜20%を含む。別の構成では、ベータプライ305C及び305Dは集合的に積層体300の体積の40%を含む。やはり別の構成では、アルファプライ305A及び305Bは集合的に積層体300の体積の約50%を含み、ベータプライ305C及び305Dは集合的に約40%を含み、ガンマプライ305Eは約10%を含む。本明細書に列挙するパーセンテージは、積層体内の補強繊維の全体積と比較して、特定の配向を含む補強繊維の体積を示す。
【0024】
複合積層体を作製する方法は当技術分野で良く知られており、本明細書では詳細に考察しない。しかし、本明細書に説明する特定の特徴を達成するために、本明細書で考察する特定の配向を含む複合積層体を作製することは当技術分野で知られていない。簡潔に述べると、本明細書で考察する配向を有する樹脂及び繊維は、載置され、次いで結果として生じた積層体は硬化される。所望であれば、いくつかの積層体が作製され、次いでその積層体が一体に接着され、硬化されることが可能である。好適には、90°のプライが積層体の中央平面から離れて配置される。更に、好適には、同じ配向を含むプライのグループが存在すべきではなく、好適には、一方の配向のプライを他方の配向プライから分散させるべきである。例えば、アルファプライをベータプライから分散させるべきである。更に、好適には、積層体は中央平面について対称的である。例えば、中央平面上方の第3のプライが−5°のプライである場合、そのとき中央平面下方の第3のプライもまた−5°のプライである。更に、1つの層が同じ配向、又は異なる配向の複数の層を含むことができることが理解されよう。
【0025】
図4は、複合積層体から構成された外装の一部分を有する例示的な航空機の図である。例示的な航空機400は、胴体405及び少なくとも1つの翼組立体410を有する。本明細書で説明する複合積層体は、特定の航空機400及びその予想される環境に所望され、又は適切であるように、胴体405、翼組立体410、又はその両方上の外装の部分又はすべてとして使用可能である。例えば、任意の大きいノッチ損傷が、典型的には翼組立体410上にある環境の中では、そのとき翼組立体410の外装の少なくとも一部分が本明細書で説明する複合積層体から構成されるであろう。本明細書で説明する複合積層体は、更に、外装の選択された部分上にのみ使用され得ることに更に留意すべきである。例えば、任意の大きいノッチの長手方向の裂けが通常、翼組立体410の下側の特定の領域415の中だけにある環境では、そのとき少なくともその領域は、本明細書で説明する複合積層体から構成されるであろう。
【0026】
更に、本開示は、以下の付則による実施形態を備える。
付則1
母材と、
前記母材の中に埋め込まれた補強繊維であって、第1の複数の前記補強繊維が3°〜8°の範囲の配向と略平行であり、第2の複数の前記補強繊維が−3°〜−8°の範囲の配向と略平行であり、第3の複数の前記補強繊維が10°〜40°の範囲の配向と略平行であり、第4の複数の前記補強繊維が−10°〜−40°の範囲の配向と略平行であり、第5の複数の前記補強繊維が約90°の配向と略平行であり、前記配向が所定の軸線に対するものである、補強繊維と
を備える、複合積層体。
【0027】
付則2
前記第1の複数の前記補強繊維が約5°の配向を有し、前記第2の複数の前記補強繊維が約−5°の配向を有する、付則1に記載の複合積層体。
【0028】
付則3
前記第3の複数の前記補強繊維が約30°の配向を有し、前記第4の複数の前記補強繊維が約−30°の配向を有する、付則1に記載の複合積層体。
【0029】
付則4
前記第3の複数の前記補強繊維が約20°の配向を有し、前記第4の複数の前記補強繊維が約−20°の配向を有する、付則1に記載の複合積層体。
【0030】
付則5
前記補強繊維が集合的に全体の体積を有し、前記第1の複数の前記補強繊維が第1の体積を有し、前記第2の複数の前記補強繊維が第2の体積を有し、前記第1の体積及び前記第2の体積が集合的に前記全体の体積の30〜60%を備える、付則1に記載の複合積層体。
【0031】
付則6
前記補強繊維が集合的に全体の体積を有し、前記第3の複数の前記補強繊維が第3の体積を有し、前記第4の複数の前記補強繊維が第4の体積を有し、前記第3の体積及び前記第4の体積が集合的に前記全体の体積の30〜60%を備える、付則1に記載の複合積層体。
【0032】
付則7
前記複合積層体が、航空機の外装の部分である、付則1に記載の複合積層体。
【0033】
付則8
前記所定の軸線が、前記複合積層体上の引張りの軸線である、付則1に記載の複合積層体。
【0034】
付則9
両方とも同一の配向を有する補強繊維を有する前記複数の補強繊維の2つが、異なる配向を有する補強繊維を有する複数の補強繊維の少なくとも1つによって分離されている、付則1に記載の複合積層体。
【0035】
付則10
前記複合積層体が、中央平面を有し、前記複数の補強繊維が前記中央平面について対称的に配置されている、付則1に記載の複合積層体。
【0036】
付則11
複合積層体を製造する方法であって、母材の中に補強繊維を埋め込むステップを備え、第1の複数の前記補強繊維が3°〜8°の範囲の配向と略平行であり、第2の複数の前記補強繊維が−3°〜−8°の範囲の配向と略平行であり、第3の複数の前記補強繊維が10°〜40°の範囲の配向と略平行であり、第4の複数の前記補強繊維が−10°〜−40°の範囲の配向と略平行であり、第5の複数の前記補強繊維が約90°の配向と略平行であり、前記配向が所定の軸線に対するものである、方法。
【0037】
付則12
前記補強繊維を埋め込むステップが、約5°の配向を有するように前記第1の複数の前記補強繊維を配置するステップと、約−5°の配向を有するように前記第2の複数の前記補強繊維を配置するステップとを備える、付則11に記載の方法。
【0038】
付則13
前記補強繊維を埋め込むステップが、約30°の配向を有するように第3の複数の前記補強繊維を配置するステップと、約−30°の配向を有するように第4の複数の前記補強繊維を配置するステップとを含む、付則11に記載の方法。
【0039】
付則14
前記補強繊維を埋め込むステップが、約20°の配向を有するように前記第3の複数の前記補強繊維を配置するステップと、約−20°の配向を有するように前記第4の複数の前記補強繊維を配置するステップとを含む、付則11に記載の方法。
【0040】
付則15
前記補強繊維を埋め込むステップが、
前記第1の複数の補強繊維の第1の体積を提供するステップ、及び前記第2の複数の補強繊維の第2の体積を提供するステップを備え、前記第1の体積及び前記第2の体積が集合的に前記補強繊維の全体の体積の30〜60%を備える、付則11に記載の方法。
【0041】
付則16
前記補強繊維を埋め込むステップが、
前記第3の複数の補強繊維の第3の体積を提供するステップ、及び前記第4の複数の補強繊維の第4の体積を提供するステップを備え、前記第3の体積及び前記第4の体積が集合的に前記補強繊維の全体の体積の30〜60%を備える、付則11に記載の方法。
【0042】
付則17
前記複合積層体を航空機の翼の外装の少なくとも一部分内に形成するステップを更に含む、付則11に記載の方法。
【0043】
付則18
前記所定の軸線が、引張りの軸線である、付則11に記載の方法。
【0044】
付則19
両方とも同一の配向を有する補強繊維を有する前記複数の補強繊維の2つが、異なる配向を有する補強繊維を有する複数の補強繊維の少なくとも1つによって分離される、付則11に記載の方法。
【0045】
付則20
前記複合積層体が中央平面を有し、前記複数の補強繊維が前記中央平面について対称的に配置されている、付則11に記載の方法。
【0046】
付則21
胴体と、
前記胴体に作動可能に結合されている翼組立体と、
前記胴体又は前記翼組立体の少なくとも選択された部分の中に組み込まれた複合積層体であって、前記複合積層体が母材の中に埋め込まれた補強繊維を備え、第1の複数の前記補強繊維が3°〜8°の範囲の配向と略平行であり、第2の複数の前記補強繊維が−3°〜−8°の範囲の配向と略平行であり、第3の複数の前記補強繊維が10°〜40°の範囲の配向と略平行であり、第4の複数の前記補強繊維が−10°〜−40°の範囲の配向と略平行であり、第5の複数の前記補強繊維が約90°の配向と略平行であり、前記配向が所定の軸線に対するものである複合積層体と
を備える航空機。
【0047】
付則22
前記翼組立体が翼外装を備え、前記複合積層体が前記翼外装の一部分である、付則21に記載の航空機。
【0048】
付則23
前記第1の複数の前記補強繊維が約5°の配向を有し、前記第2の複数の前記補強繊維が約−5°の配向を有する、付則21に記載の航空機。
【0049】
付則24
前記第3の複数の前記補強繊維が約30°の配向を有し、前記第4の複数の前記補強繊維が約−30°の配向を有する、付則21に記載の航空機。
【0050】
付則25
前記第3の複数の前記補強繊維が約20°の配向を有し、前記第4の複数の前記補強繊維が約−20°の配向を有する、付則21に記載の航空機。
【0051】
付則26
前記補強繊維が集合的に全体の体積を有し、前記第1の複数の前記補強繊維が第1の体積を有し、前記第2の複数の前記補強繊維が第2の体積を有し、前記第1の体積及び前記第2の体積が集合的に前記全体の体積の30〜60%を備える、付則21に記載の航空機。
【0052】
付則27
前記補強繊維が集合的に全体の体積を有し、前記第3の複数の前記補強繊維が第3の体積を有し、前記第4の複数の前記補強繊維が第4の体積を有し、前記第3の体積及び前記第4の体積が集合的に前記全体の体積の30〜60%を備える、付則21に記載の航空機。
【0053】
上記に基づいて、耐裂性複合積層体を提供するための技術が本明細書で開示されたことを理解すべきである。添付の特許請求の範囲は、必ずしも本明細書で説明する特定の形態、構成、働き又は手段に限定されないことを理解されたい。むしろ、特定の形態、構成、働き又は手段は、特許請求の範囲を実施する例示的な形態として開示される。
【0054】
上記に説明する主題は例示としてのみ提供されるのであって、限定するものとして解釈するべきではない。図示し、説明する実施例の構成及び用途に従わずに、かつ以下の特許請求の範囲の中に記載する本開示の真の精神及び範囲から逸脱せずに、様々な修正形態及び変形形態を本明細書で説明する主題に対して作製することができる。
【符号の説明】
【0055】
100 パネル
105 平行な繊維
105A 切断された平行な繊維
110 平行な繊維
115 大きいノッチ損傷
120 割れ目
125 ベータ繊維
125A 平行な繊維
125B 平行な繊維
130 インサート
205 従来の積層体の直線
210 アルファ修正された積層体の直線
210A 屈曲部
215 アルファ及びベータ修正された積層体の直線
300 積層体/層
305 層
305A 層/アルファプライ
305B 層/アルファプライ
305C 層/ベータプライ
305D 層/ベータプライ
305E 層/ガンマプライ
305M 母材
310 複数組の層
315 補強繊維
315A 補強繊維
315B 補強繊維
315C 補強繊維
315D 補強繊維
315E 補強繊維
320 引張りの軸/軸線
325 インサート
400 航空機
405 胴体
410 翼組立体
415 特定の領域