特許第6385967号(P6385967)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6385967
(24)【登録日】2018年8月17日
(45)【発行日】2018年9月5日
(54)【発明の名称】ビールテイスト飲料用風味改善剤
(51)【国際特許分類】
   A23L 2/52 20060101AFI20180827BHJP
   C12G 3/06 20060101ALI20180827BHJP
   A23L 27/20 20160101ALI20180827BHJP
【FI】
   A23L2/52
   C12G3/06
   A23L27/20 D
【請求項の数】6
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2016-30931(P2016-30931)
(22)【出願日】2016年2月22日
(65)【公開番号】特開2017-147943(P2017-147943A)
(43)【公開日】2017年8月31日
【審査請求日】2017年8月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000214537
【氏名又は名称】長谷川香料株式会社
(72)【発明者】
【氏名】久保 和稔
(72)【発明者】
【氏名】福本 陽
(72)【発明者】
【氏名】黒木 康太
(72)【発明者】
【氏名】宮沢 紀雄
【審査官】 川合 理恵
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭55−11595(JP,A)
【文献】 Judith Michalski et al.,PERFUMER&FLAVORIST,2012年 1月,Vol.37,p.50-51
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 2/00
A23L 27/20
C12C 5/02
C12G 3/02
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
BIOSIS/MEDLINE/WPIDS/CAPLUS/EMBASE/FSTA(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)
【化1】
(式中、Rは炭素数3〜5の直鎖または分岐鎖状アルキル基を示し、Rは炭素数2〜4の直鎖または分岐鎖状アルキル基を示す。)
で表されるα,β−不飽和アルデヒドの少なくとも1種からなるビールテイスト飲料用風味改善剤。
【請求項2】
前記式(1)のα,β−不飽和アルデヒドが、2−ブチル−2−オクテナール、2−ブチル−2−ヘプテナール、2−プロピル−2−オクテナール、2−ブチル−2−ヘキセナール、2−エチル−2−オクテナール、2−プロピル−2−ヘプテナール、2−ブチル−5−メチル−2−ヘキセナールおよび2−イソブチル−2−オクテナールの少なくとも1種である請求項1に記載のビールテイスト飲料用風味改善剤。
【請求項3】
前記式(1)のα,β−不飽和アルデヒドが2−ブチル−2−オクテナールである請求項1に記載のビールテイスト飲料用風味改善剤。
【請求項4】
請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載のビールテイスト飲料用風味改善剤を含有することを特徴とするビールテイスト飲料用風味改善剤組成物。
【請求項5】
請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載のビールテイスト飲料用風味改善剤または請求項4に記載のビールテイスト飲料用風味改善剤組成物をビールテイスト飲料に添加することを特徴とするビールテイスト飲料の風味改善方法。
【請求項6】
風味改善がビールらしい穀物感の付与、増強または改良である請求項5に記載のビールテイスト飲料の風味改善方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビールテイスト飲料用風味改善剤およびこれをビールテイスト飲料に添加して、ビールテイスト飲料にビールらしい穀物感を付与、増強または改良する風味改善方法に関する。
【背景技術】
【0002】
最近の健康ブームなどを背景に、低糖質、低カロリー、低アルコール、糖質ゼロ又はノンアルコール等、機能性を訴求したビールテイスト飲料が数多く市販されている。
【0003】
これらのビールテイスト飲料は、ビールに比べて使用する麦芽量を下げ、他の糖質原料(麦、とうもろこし、こうりゃん、ばれいしょ、でんぷん、糖類など)を使用したり、糖質等の除去工程を加えたり、発酵方法を変えたり、ノンアルコールビールでは発酵工程を経ずに製造されるため、ビールに比べて風味に劣るという問題があり、ビールテイスト飲料の風味をビールの風味に近づける技術の開発が強く求められている。
【0004】
このような課題を解決するため、例えば、ビールテイスト飲料のアルコール感付与を目的として、ウンデカトリエン類やウンデカテトラエン類を添加する方法(特許文献1)、ダバナ抽出物および/またはトルーバルサム抽出物を配合する方法(特許文献2)が提案されている。また、ビールテイスト飲料のモルト感付与を目的として、麦芽エキスを添加する方法(特許文献3)、ホップ風味付与を目的として、バニリルエチルエーテル(特許文献4)、ミルセニルメチルエーテル(特許文献5)を添加する方法が提案されている。さらに発酵感付与を目的として、ビールテイスト飲料中のリナロールの濃度とアセトアルデヒドの濃度を調整する方法(特許文献6)、3−メチル−2−ブテン−1−チオール等の含硫化合物を添加する方法(特許文献7)、ビールらしいコク感の付与を目的として、高級アルコール類及びエーテル類からなるアルコール系成分、フラノン類及びラクトン類からなる甘味系成分、アルデヒド類からなるアルデヒド系成分を組み合わせて添加する方法(特許文献8)、(A)天然香料類、(B)エステル類、(C)アルコール類、(D)アルデヒド類、(E)ケトン類、(F)フェノール類、(G)エーテル類、(H)ラクトン類、(I)炭化水素類、(J)含窒素及び/又は含硫化合物類、(K)酸類、(L)苦味料、(M)酸味料、(N)甘味料、及び(O)辛味料から選ばれる1種以上を添加する方法(特許文献9)などが提案されている。
【0005】
これまで提案されている上記した方法は、発泡酒、新ジャンル、ノンアルコールビールなどのビールテイスト飲料に対して、アルコール感付与、モルト感付与、ホップ風味の付与、発酵感の付与、コク感の付与についてはそれなりに効果を発揮しているが、ビールが本来的に有しているビールらしい穀物感の付与、増強または改良に関しては満足する結果が得られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2015−50955号公報
【特許文献2】特開2014−45712号公報
【特許文献3】特開2005−13166号公報
【特許文献4】特開2004−229562号公報
【特許文献5】特開2004−187536号公報
【特許文献6】国際公開WO2010/079778号パンフレット
【特許文献7】国際公開WO2013/080357号パンフレット
【特許文献8】特開2013−81417号公報
【特許文献9】特開2015−27309号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、発泡酒、新ジャンル、ノンアルコールビールなどのビールテイスト飲料にビールらしい穀物感を付与、増強または改良することのできるビールテイスト飲料用風味改善剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上述の課題を解決すべく鋭意研究を行った結果、特定のα,β−不飽和アルデヒドをビールテイスト飲料に添加することにより、ビールらしい穀物感を付与、増強または改良できることを見いだし、本研究を完成するに至った。
【0009】
かくして、本発明は、
[1]下記式(1)
【0010】
【化1】
【0011】
(式中、Rは炭素数3〜5の直鎖または分岐鎖状アルキル基を示し、Rは炭素数2〜4の直鎖または分岐鎖状アルキル基を示す。)
で表されるα,β−不飽和アルデヒドの少なくとも1種からなるビールテイスト飲料用風味改善剤。
【0012】
[2]前記式(1)のα,β−不飽和アルデヒドが、2−ブチル−2−オクテナール、2−ブチル−2−ヘプテナール、2−プロピル−2−オクテナール、2−ブチル−2−ヘキセナール、2−エチル−2−オクテナール、2−プロピル−2−ヘプテナール、2−ブチル−5−メチル−2−ヘキセナールおよび2−イソブチル−2−オクテナールの少なくとも1種である[1]に記載のビールテイスト飲料用風味改善剤。
【0013】
[3]前記式(1)のα,β−不飽和アルデヒドが2−ブチル−2−オクテナールである[1]に記載のビールテイスト飲料用風味改善剤。
【0014】
[4][1]〜[3]のいずれかに記載のビールテイスト飲料用風味改善剤を含有することを特徴とするビールテイスト飲料用風味改善剤組成物。
【0015】
[5][1]〜[3]いずれかに記載のビールテイスト飲料用風味改善剤または[4]に記載のビールテイスト飲料用風味改善剤組成物をビールテイスト飲料に添加することを特徴とするビールテイスト飲料の風味改善方法。
【0016】
[6]風味改善がビールらしい穀物感の付与、増強または改良である[5]に記載のビールテイスト飲料の風味改善方法。
を提供するものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、発泡酒、新ジャンルまたはノンアルコールビールなどのビールテイスト飲料にビールらしい穀物感を付与、増強または改良できるビールテイスト飲料用風味改善剤、ビールテイスト飲料用風味改善剤組成物、ビールテイスト飲料の風味改善方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明についてさらに詳細に説明する。
【0019】
本発明の前記式(1)で表されるα,β−不飽和アルデヒドは既知の化合物であり、式(1)のα,β−不飽和アルデヒドに包含される2−ブチル−2−オクテナールは各種の果実、緑茶などから見出されており、例えば、パイナップル(J.Agric.Food Chem.,40(4),599−603,1992)、アップルジュース(Analyticaj Letters,47:1683−1696,2014)、マンゴ(J.Agric.Food Chem.53,2213−2223,2005)、ロンジン茶(J.Agric.Food Chem.56,2160−2169,2008)などの揮発性成分として報告されている。
【0020】
また、特開昭55−11595号公報には、式(1)のα,β−不飽和アルデヒドを食品又は飲料に配合することにより、肉性味覚を付与、改良又は改変し、または油で揚げた食品の油性・青物性の味覚特徴を付与、改良又は改変できることが示されている。
【0021】
本発明の式(1)のα,β−不飽和アルデヒドは、これまでビール、麦芽、ホップなどの揮発性成分として見出された報告はなく、ましてや、発泡酒、新ジャンル、ノンアルコールビールなどのビールテイスト飲料に極微量配合することにより、ビールらしい穀物感を付与、増強または改良できることはこれまで知られておらず、本発明者らが初めて見出したものである。
【0022】
本発明は、前記式(1)で表されるα,β−不飽和アルデヒド(以下、アルデヒド化合物ということがある。)の少なくとも1種からなるビールテイスト飲料用風味改善剤である。本発明で使用される前記式(1)で表されるα,β−不飽和アルデヒドの符号Rは、炭素数3〜5の直鎖または分岐鎖状アルキル基、すなわち、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基またはtert−ペンチル基を示し、符号Rは、炭素数2〜4の直鎖または分岐鎖状アルキル基、すなわち、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基またはtert−ブチル基を示す。好ましいアルデヒド化合物を具体的に挙げれば、2−ブチル−2−オクテナール、2−ブチル−2−ヘプテナール、2−プロピル−2−オクテナール、2−ブチル−2−ヘキセナール、2−エチル−2−オクテナール、2−プロピル−2−ヘプテナール、2−ブチル−5−メチル−2−ヘキセナールおよび2−イソブチル−2−オクテナールの少なくとも1種を挙げることができ、最も好ましくは、2−ブチル−2−オクテナールを挙げることができる。本発明のアルデヒド化合物は2種の幾何異性体(E−体、Z−体)が存在し、本発明ではそのいずれかまたは適宜な比率で混合した混合物としても使用することができる。本発明のアルデヒド化合物は、例えば、特開昭55−11595号公報に記載された方法で製造することができ、市販品としても購入することができる。
【0023】
本発明のアルデヒド化合物を、発泡酒、新ジャンル、ノンアルコールビールなどのビールテイスト飲料に配合することにより、ビールらしい穀物感を付与、増強または改良することができる。ここで、「ビールらしい穀物感」とは、ビールの香味の中でも、麦芽や米などビールに使用される穀物を想起させる香味を意味する。
【0024】
本発明のアルデヒド化合物をビールテイスト飲料に添加する場合、本発明のアルデヒド化合物を単独で使用しても良く、また、組み合わせて使用しても良い。ビールテイスト飲料に本発明のアルデヒド化合物を添加する濃度は、ビールテイスト飲料の種類により異なり一概にはいえないが、一般的には、ビールテイスト飲料に対して0.1ppt〜100ppb、好ましくは1ppt〜10ppb、さらに好ましくは10ppt〜1ppbの濃度を添加することにより、ビールテイスト飲料にビールらしい穀物感を付与、増強または改良することができる。
【0025】
本発明のアルデヒド化合物は、ビールテイスト飲料に単独で風味改善剤として配合することもできるが、他の素材と組み合わせた風味改善剤組成物として配合することもできる。かかる素材としては、麦芽エキストラクト、ホップエキストラクトなどの天然素材、あるいはビール、麦芽、ホップ等から見出されている香料化合物などを挙げることができる。麦芽エキストラクトとしては、例えば、特開2011−97855号公報に記載されている麦芽の酵素処理エキストラクト、麦芽の水および/またはエタノール抽出エキストラクトなどを挙げることができ、ホップエキストラクトとしては、例えば、特開2014−82976号公報に記載されているホップの酵母処理エキストラクト、ホップの水および/またはエタノール抽出エキストラクトなどを挙げることができる。香料化合物としては、例えば、「香料No.223平成16年(2004年)9月P.145−153」に記載されているビールの主要香気成分を挙げることができる。本発明のビールテイスト飲料の風味改善剤組成物には、前記した素材の他に、エタノール、グリセリン、プロピレングリコールなどの溶媒も配合することができる。本発明のアルデヒド化合物の風味改善剤組成物への添加率としては、10ppt〜10000ppm、好ましくは100ppt〜1000ppm、さらに好ましくは1ppb〜100ppm程度を例示することができ、ビールテイスト飲料に風味改善剤組成物として添加する場合の添加率は、ビールテイスト飲料の種類により異なり一概にはいえないが、一般的には、ビールテイスト飲料に対して0.01重量%〜0.1重量%の濃度を添加することにより、ビールテイスト飲料にビールらしい穀物感を付与、増強または改良することができる。
【0026】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。なお、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0027】
実施例1
市販のノンアルコールビールに2−ブチル−2−オクテナールを添加し、ビールらしい穀物感に対する添加効果を調べた。すなわち、2−ブチル−2−オクテナールを市販ノンアルコールビールに、下記表1に示した濃度で添加し、よく訓練された専門パネリスト12名により官能評価を行った。官能評価の評価基準は、ビールらしい穀物感について、感じない(1点)、やや感じる(2点)、感じる(3点)、強く感じる(4点)、非常に強く感じる(5点)の5段階で評価し、評価結果の平均点を表1に示した。
【0028】
【表1】
【0029】
表1の結果より、2−ブチル−2−オクテナールの濃度が0.1ppt〜100ppbの範囲で顕著に穀物感のスコアが向上しており、ノンアルコールビールへの2−ブチル−2−オクテナールの添加効果が確認された。
【0030】
実施例2
市販の発泡酒に2−ブチル−2−オクテナールを添加し、ビールらしい穀物感に対する添加効果を調べた。すなわち、2−ブチル−2−オクテナールを市販発泡酒に、下記表2に示した濃度で添加し、よく訓練された専門パネリスト12名により官能評価を行った。官能評価の評価基準は、実施例1と同様に評価し、評価結果の平均点を表2に示した。
【0031】
【表2】
【0032】
表2の結果より、2−ブチル−2−オクテナールの濃度が0.1ppt〜100ppbの範囲で顕著に穀物感のスコアが向上しており、発泡酒への2−ブチル−2−オクテナールの添加効果が確認された。
【0033】
実施例3
表3に示した配合割合で、本発明品1及び比較品1のビールテイスト飲料用風味改善剤組成物を調製した。
【0034】
【表3】
【0035】
※1:麦芽の75%エタノール水溶液による抽出エキストラクト
※2:ホップの75%エタノール水溶液による抽出エキストラクト
【0036】
実施例4
実施例3で調製した本発明品1および比較品1の風味改善剤組成物を市販の新ジャンル(第3のビール)に対してそれぞれ0.1重量%の濃度で添加して、専門パネリスト5名により官能評価を行った結果、5名のパネリストのすべてが、本発明品1を添加したものの方がビールらしい穀物感が強く感じられ、格段に優れていると評価した。
【0037】
実施例5
実施例3の表3の本発明品1の2−ブチル−2−オクテナールに代えて、2−ブチル−2−ヘプテナール(本発明品2)、2−プロピル−2−オクテナール(本発明品3)、2−ブチル−2−ヘキセナール(本発明品4)、2−エチル−2−オクテナール(本発明品5)、2−プロピル−2−ヘプテナール(本発明品6)、2−ブチル−5−メチル−2−ヘキセナール(本発明品7)および2−イソブチル−2−オクテナール(本発明品8)を使用した以外は本発明品1と同様に調製し、本発明品2〜本発明品8の風味改善剤組成物を調製した。
【0038】
実施例6
実施例5で調製した本発明品2〜本発明品8および比較品1の風味改善剤組成物を市販のノンアルコールビールに対してそれぞれ0.1重量%の濃度で添加して、専門パネリスト5名により官能評価を行った結果、5名のパネリストのすべてが、本発明品2〜本発明品8を添加したものの方が比較品1を添加したものに比べて、ビールらしい穀物感が強く感じられ、格段に優れていると評価した。