特許第6385969号(P6385969)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6385969
(24)【登録日】2018年8月17日
(45)【発行日】2018年9月5日
(54)【発明の名称】単相ブラシレスモータ
(51)【国際特許分類】
   H02K 29/03 20060101AFI20180827BHJP
   H02K 1/14 20060101ALI20180827BHJP
【FI】
   H02K29/03
   H02K1/14 Z
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2016-37496(P2016-37496)
(22)【出願日】2016年2月29日
(65)【公開番号】特開2017-158241(P2017-158241A)
(43)【公開日】2017年9月7日
【審査請求日】2017年4月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000114215
【氏名又は名称】ミネベアミツミ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(72)【発明者】
【氏名】鐘 艶
(72)【発明者】
【氏名】太郎田 敦
【審査官】 田村 惠里加
(56)【参考文献】
【文献】 特開平08−126280(JP,A)
【文献】 特開2003−193993(JP,A)
【文献】 特開昭58−207853(JP,A)
【文献】 特開2006−020459(JP,A)
【文献】 特開2007−306782(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 1/00−1/34,29/00−29/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステータと、
ステータに対して回転するロータと、を備え、
前記ステータは、
複数の突極を有するコアと、
前記複数の突極に巻き線されて形成されるコイルと、を備え、
前記ロータは、前記突極と半径方向に対向し、前記突極側の面に周方向に複数の磁極を有するマグネットを含み、
前記突極は、コイルが巻かれる基部と、前記基部より前記マグネット側に設けられ、前記基部よりも周方向に広がる先端部と、を含み、
前記先端部と前記ロータとの半径方向の隙間は、前記先端部の周方向の両端部のうちの前記ロータの回転方向の前側の第1端部と後側の第2端部とで異なっており、
前記ロータの回転軸に垂直な断面において、
前記基部の両側面のうちの前記ロータの回転方向の前側に位置する側面に実質的に平行で前記回転軸を通る第1直線と、前記回転軸と前記第1端部とを通る第2直線とがなす角が、前記第1直線と、前記回転軸と前記第2端部とを通る第3直線とがなす角よりも大きく、
前記基部は、前記第1直線と前記基部の両側面のうちの前記ロータの回転方向の後側の側面とが半径方向外側ほど離れるよう構成されることを特徴とする単相ブラシレスモータ。
【請求項2】
前記第1直線と前記第2直線とがなす角に対する前記第1直線と前記第3直線とがなす角の比が0.81〜0.99であることを特徴とする請求項1に記載の単相ブラシレスモータ。
【請求項3】
前記第1直線と前記第2直線とがなす角に対する前記第1直線と前記第3直線とがなす角の比が0.9であることを特徴とする請求項1に記載の単相ブラシレスモータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、単相ブラシレスモータに関する。
【背景技術】
【0002】
コイルが単一の相で構成された単相ブラシレスモータが知られている。単相ブラシレスモータでは、安定した起動を実現するために、ステータコアの突極とロータとの半径方向における隙間を突極の周方向の両端部で異ならせることがある。従来では、安定した起動の実現に加えてコギングトルクを低減するために、突極の周方向の両端部とロータとの半径方向における隙間が所定の関係を満たすよう構成された単相ブラシレスモータが提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2013−236464号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した従来の単相ブラシレスモータは、コギングトルクを低減することができ、ひいては振動およびそれに伴う騒音を低減できる。
【0005】
しかしながら、単相ブラシレスモータの振動・騒音を低減することへの要求が絶えることはなく、より振動・騒音を低減することが要求されている。単相ブラシレスモータの振動・騒音の原因の1つに、ステータコアの突極とマグネットとの間で生じる電磁力、特にその高調波成分を起振力とする電磁振動がある。本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、電磁力の高調波成分、ひいては電磁振動を低減できることを知見した。
【0006】
本発明は、こうした状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、電磁力の高調波成分を起振力とする電磁振動を低減でき、ひいては振動・騒音を低減することができるとともに、コギングトルクを低減できる単相ブラシレスモータを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明のある態様の単相ブラシレスモータは、ステータと、ステータに対して回転するロータと、を備える。ステータは、複数の突極を有するコアと、複数の突極に巻き線されて形成されるコイルと、を備える。ロータは、突極と半径方向に対向し、突極側の面に周方向に複数の磁極を有するマグネットを含む。突極は、コイルが巻かれる基部と、基部よりマグネット側に設けられ、基部よりも周方向に広がる先端部と、を含む。先端部とロータとの半径方向の隙間は、先端部の周方向の両端部のうちのロータの回転方向の前側の第1端部と後側の第2端部とで異なっており、ロータの回転軸に垂直な断面において、基部の両側面のうちのロータの回転方向の前側に位置する側面に実質的に平行で回転軸を通る第1直線と、回転軸と第1端部とを通る第2直線とがなす角が、第1直線と、回転軸と第2端部とを通る第3直線とがなす角よりも大きい。
【0008】
この態様によると、電磁力の高調波成分が低減される。
【0009】
なお、以上の構成要素の任意の組み合わせや、本発明の構成要素や表現を方法、装置、システムなどの間で相互に置換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、電磁力の高調波成分を起振力とする電磁振動およびそれに伴う騒音を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施の形態に係る単相ブラシレスモータを示す断面図である。
図2図1のステータコアの突極の1つとその周辺を拡大して示す拡大断面図である。
図3図3(a)はステータコアとマグネットとの間に生じる半径方向の電磁力の4の倍数の高調波成分を示し、図3(b)はステータコアとマグネットとの間に生じる回転方向の電磁力の4の倍数の高調波成分を示す図である。
図4】コギングトルクを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、各図面に示される同一または同等の構成要素、部材、工程には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、各図面における部材の寸法は、理解を容易にするために適宜拡大、縮小して示される。また、各図面において実施の形態を説明する上で重要ではない部材の一部は省略して表示する。
【0013】
図1は、実施の形態に係る単相ブラシレスモータ100を示す断面図である。図1では、ロータ20の回転軸Rに垂直な断面を示す。単相ブラシレスモータ100は、ステータ10と、ステータ10に対して回転するロータ20と、を備える。本実施の形態では、ロータ20は、矢印で示したD方向(すなわち図1では時計回りの方向)に回転する。ステータ10は、ステータコア11と、コイル12と、を含む。ロータ20は、ロータヨーク21と、マグネット22と、を含む。
【0014】
以降では、ロータ20の回転軸Rに平行な方向を軸方向とし、回転軸Rに垂直な平面上で回転軸Rを通る任意の方向を半径方向とし、半径方向において回転軸Rに近い方を内周側、回転軸Rから遠い方を外周側とし、回転軸Rに垂直な平面上において回転軸Rを中心とする円の円周に沿った方向を周方向として説明する。
【0015】
ステータコア11は、円環部13とそこから外周側に伸びる4本の突極14とを有する。ステータコア11は、例えば、複数枚の薄型電磁鋼板を積層しカシメにより一体化して形成される。ステータコア11の各突極14は、円環部13から外周側に伸びる基部15と、基部15よりもマグネット22側すなわち基部15よりも外周側に設けられ、基部15よりも周方向に広がる先端部16と、を含む。各基部15にはインシュレータ(不図示)を介してコイル12が巻回される。このコイル12に駆動電流が流れることにより突極14に沿って駆動磁束が発生する。
【0016】
ロータヨーク21は、軟磁性材料を用いて、略カップ状の所定の形状に形成される。マグネット22は、円筒状に形成され、ロータヨーク21の円筒状の内周面21aに接着固定される。マグネット22は、例えば、希土類磁石材料やフェライト磁石材料によって形成される。マグネット22にはその周方向に4極の駆動用着磁が施される。マグネット22は、ステータコア11の4本の突極14と所定の隙間を介して半径方向に対向する。したがって、実施の形態に係る単相ブラシレスモータ100は4極4スロット構造となっている。
【0017】
図2は、ステータコア11の突極14の1つとその周辺を拡大して示す拡大断面図である。図2では、コイル12の表示は省略している。図2において、第1直線L1は、基部15の両側面(すなわち第1側面15cおよび第2側面15d)のうちロータ20の回転方向(すなわちD方向)の前側に位置する第1側面15cに平行で回転軸Rを通る直線である。第2直線L2は、回転軸Rと、先端部16の周方向の両端部のうちロータ20の回転方向の前側に位置する端部(特に先端部16の外周面16cの周方向の第1端部E1)と、を通る直線である。第3直線L3は、回転軸Rと、先端部16の周方向の両端部のうちロータ20回転方向の後側に位置する端部(特に先端部16の外周面16cの周方向の第2端部E2)と、を通る直線である。
【0018】
基部15は、軸方向から見て略矩形状に形成される。具体的には、基部15は、外周側ほど、周方向の幅が広くなるよう形成される。基部15は特に、回転軸Rに垂直な断面において、第1直線L1よりもロータ20の回転方向の前側の第1部分15aは半径方向の位置によらずに周方向の幅が実質的に一定で、第1直線L1よりもロータ20の回転方向の後側の第2部分15bは外周側ほど周方向の幅が広くなるよう(別の言い方をすると基部15の第2側面15dと第1直線L1とが外周側ほど離れるよう)形成される。本実施の形態では特に、第2部分15bは、その内周側の端部の周方向の幅W2が第1部分15aの周方向の幅W1よりも狭く、外周側の端部の周方向の幅W3が第1部分15aの周方向の幅W1よりも広くなるよう形成される。
【0019】
先端部16は、軸方向から見て傘形状を有する。先端部16は、ロータ20の回転方向の後側の第2端部E2におけるロータ20との半径方向の隙間と、ロータ20の回転方向の前側の第1端部E1におけるロータ20との半径方向の隙間とが異なるように形成される。本実施の形態では、先端部16は、第2端部E2におけるロータ20との半径方向の隙間が、第1端部E1におけるロータ20との半径方向の隙間よりも広くなるよう形成される。より具体的には、本実施の形態では、先端部16は、第1端部E1から第2端部E2に向かうほどロータ20との半径方向の隙間が広くなるよう形成される。例えば、マグネット22の内周面22aを回転軸Rを中心とする円弧状に形成し、先端部16の外周面16cを回転軸Rとは異なる点を中心とする円弧状に形成することにより、これが実現される。
【0020】
また、先端部16は、第1直線L1よりもロータ20の回転方向の前側の第1部分16aの周方向の幅が、第1直線L1よりもロータ20の回転方向の後側の第2部分16bの周方向の幅よりも広くなるよう形成される。言い換えると、先端部16は、第1直線L1と第2直線L2とがなす角度θ1が、第1直線L1と第3直線L3とがなす角度θ2よりも大きくなるよう形成される。
【0021】
以上のように構成された単相ブラシレスモータ100の動作を説明する。駆動電流がコイル12に供給される。その駆動電流がコイル12を流れることにより、4本の突極14に沿って磁束が発生し、ロータ20が回転する。
【0022】
以上説明した本実施の形態に係る単相ブラシレスモータ100によると、先端部16は第1部分16aの周方向の幅が第2部分16bの周方向の幅よりも大きくなるよう形成される。言い換えると、先端部16は、角度θ1が角度θ2よりも大きくなるよう形成される。これにより、角度θ1と角度θ2とが等しい場合と比べて、電磁振動を低減できる。
【0023】
また、本実施の形態に係る単相ブラシレスモータ100によると、基部15は、外周側ほど、周方向の幅が広くなるよう形成される。また、基部15は、第2部分15bの内周側の端部の周方向の幅W2は第1部分15aの内周側の端部の周方向の幅W1よりも狭く、第2部分15bの外周側の端部の周方向の幅W3は第1部分15aの外周側の周方向の幅W1よりも広くなるよう形成される。これにより、電磁振動をより一層低減できる。
【0024】
本発明者らは、本実施の形態に係る単相ブラシレスモータ100による電磁振動の低減効果を確かめるため、単相ブラシレスモータ100と、比較例として、本実施の形態と略同じ構造の4極4スロット構造の単相ブラシレスモータについてシミュレーションを行った。単相ブラシレスモータ100と比較例に係る単相ブラシレスモータとの違いは、ステータコアの構成である。各ステータコアの構成は以下の通りである。
<本実施の形態に係る単相ブラシレスモータ100のステータコア11>
θ1=43°
θ2=39°
D1/D2=1.36
W1/D1=0.13
W2/D1=0.11
W3/D1=0.16
ここで、D1は円環部13の外径、D2は円環部13の内径である。
<比較例に係る単相ブラシレスモータのステータコア>
θ1=θ2=40°
D1/D2=1.36
W1/D1=0.15
W2/D1=0.12
W3/D1=0.15
【0025】
図3、4はシミュレーション結果を示すグラフである。図3(a)はステータコアとマグネットとの間に生じる半径方向の電磁力の4の倍数の高調波成分を示し、図3(b)はステータコアとマグネットとの間に生じる回転方向の電磁力の4の倍数の高調波成分を示す。図3(a)、(b)において縦軸は電磁力の振幅を示す。特に、図3(b)に示されるように、本実施の形態に係る単相ブラシレスモータ100では、比較例に係る単相ブラシレスモータに比べて、ステータコアとマグネットとの間に生じる回転方向の電磁力の4の倍数の高調波成分のうち、電磁力の振幅の大きい8次、12次、16次、20次の高調波成分における電磁力が低減されている。
【0026】
また、本発明者らは、ステータコア11の形状を種々変えながら電磁力を計算し、θ2/θ1が0.81〜0.99の範囲の場合、従来と同程度のトルクを得ることができ、かつ、電磁振動を低減できることを確認した。また発明者らは、θ2/θ1=0.9の場合は特に、従来と同程度のトルクを得ることができ、かつ、電磁振動を最も低減できることを確認した。
【0027】
図4は、コギングトルクを示す。図4において横軸は回転角度を示し、縦軸はコギングトルクを示す。図4に示されるように、本実施の形態に係る単相ブラシレスモータ100によると、比較例に係る単相ブラシレスモータに比べ、電磁力のみならず、コギングトルクも低減(図4の例では24%低減)することができる。
【0028】
以上、実施の形態に係る単相ブラシレスモータについて説明した。この実施の形態は例示であり、それらの各構成要素や各処理プロセスの組合せにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。以下変形例を示す。
(変形例1)
実施の形態では、ステータコア11の突極14の数が4本である場合について説明したが、これに限られない。ステータコア11の突極14の数は、例えば6本であってもよい。この場合にも、θ2/θ1が0.81〜0.99の範囲であれば、従来と同程度のトルクを得ることができ、かつ、電磁振動を低減できる。
【0029】
(変形例2)
実施の形態では、マグネット22がステータコア11の外側に位置する、いわゆるアウターロータ型の単相ブラシレスモータについて説明したが、これに限られない。たとえばマグネットがステータコアの内側に位置する、いわゆるインナーロータ型の単相ブラシレスモータであってもよい。
【0030】
(変形例3)
実施の形態では、ステータコア11が積層コアである場合について説明したが、これに限られない。例えば、ステータコア11はソリッドコアであってもよい。
【0031】
上述した実施の形態と変形例の任意の組み合わせもまた本発明の実施の形態として有用である。組み合わせによって生じる新たな実施の形態は、組み合わされる実施の形態および変形例それぞれの効果をあわせもつ。
【符号の説明】
【0032】
10 ステータ、 11 ステータコア、 12 コイル、 13 円環部、 14 突極、 15 基部、 16 先端部、 20 ロータ、 22 マグネット、 100 単相ブラシレスモータ、 R 回転軸。
図1
図2
図3
図4