特許第6385978号(P6385978)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6385978-フェライト系ステンレス鋼溶接用溶加材 図000006
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6385978
(24)【登録日】2018年8月17日
(45)【発行日】2018年9月5日
(54)【発明の名称】フェライト系ステンレス鋼溶接用溶加材
(51)【国際特許分類】
   B23K 35/30 20060101AFI20180827BHJP
   C22C 38/28 20060101ALN20180827BHJP
   C22C 38/00 20060101ALN20180827BHJP
【FI】
   B23K35/30 320B
   !C22C38/28
   !C22C38/00 302Z
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-88942(P2016-88942)
(22)【出願日】2016年4月27日
(65)【公開番号】特開2016-215280(P2016-215280A)
(43)【公開日】2016年12月22日
【審査請求日】2017年5月22日
(31)【優先権主張番号】特願2015-99800(P2015-99800)
(32)【優先日】2015年5月15日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】302040135
【氏名又は名称】日鐵住金溶接工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】503378420
【氏名又は名称】新日鐵住金ステンレス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120868
【弁理士】
【氏名又は名称】安彦 元
(72)【発明者】
【氏名】行方 飛史
(72)【発明者】
【氏名】三浦 利宏
(72)【発明者】
【氏名】水田 俊彦
(72)【発明者】
【氏名】秦野 正治
【審査官】 川口 由紀子
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭49−055539(JP,A)
【文献】 特開2014−065069(JP,A)
【文献】 特開2006−231404(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00−38/60
B23K 35/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶加材全質量に対する質量%で、
C:0.02%以下、
Si:0.1〜0.6%、
Mn:0.05〜0.4%、
Cr:13〜20%、
Al:2〜4%、
Ti:0.05〜0.4%
V及びNbの1種または2種の合計:0.005〜0.185%を含有し、
P:0.020%以下、
S:0.015%以下、
O:0.010%以下、
N:0.040%以下であり、
残部はFe及び不可避的不純物からなることを特徴とするフェライト系ステンレス鋼溶接用溶加材。
【請求項2】
溶加材全質量に対する質量%で、
Mo及びCuの1種または2種の合計:0.02〜0.5%を更に含有することを特徴とする請求項1に記載のフェライト系ステンレス鋼溶接用溶加材。
【請求項3】
溶加材全質量に対する質量%で、
Ni:0.01〜0.5%を更に含有することを特徴とする請求項1または2に記載のフェライト系ステンレス鋼溶接用溶加材。
【請求項4】
溶加材全質量に対する質量%で、
Sn:0.5%以下、B:0.005%以下の何れか1種以上を更に含有することを特徴とする請求項1乃至のうち何れか1項に記載のフェライト系ステンレス鋼溶接用溶加材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、暖房機器や厨房機器の燃焼機器部材、自動車の排気系部材及び燃料電池高温部材等に用いられるAl含有フェライト系ステンレス鋼のTIG溶接及びプラズマ溶接用のフェライト系ステンレス鋼溶接用溶加材に関する。
【背景技術】
【0002】
ストーブ等の暖房器具、電熱用材料または厨房機器の燃焼機器部材、自動車排気ガス浄化装置及び燃料電池高温部材として、フェライト系ステンレス鋼が使用されている。これら部材は優れた耐高温酸化性が求められる。さらに、各種形状への加工性も求められている。耐加工性及びAl23を主体とする酸化被膜によって耐高温酸化性を具備したAl含有のフェライト系ステンレス鋼が実用化されている。
【0003】
一方、フェライト系ステンレス鋼溶接用ワイヤは、従来から実用化されており、例えば特許文献1〜特許文献4には、耐熱性、耐食性、耐酸化性、高温環境下における耐久性等に優れた溶接金属が得られるフェライト系ステンレス鋼溶接用ワイヤの開示がある。
【0004】
しかし、特許文献1〜特許文献4に記載のフェライト系ステンレス鋼溶接用ワイヤは、Ar−CO2またはAr−O2のガスシールド中でのMAG溶接であり、スパッタの発生量が多く、溶接ビード表面に剥離性不良なスラグが生成するという問題点があった。また、Alの含有量が少ないので、溶接金属表面にAl23を主体とする酸化被膜を形成させることができないので耐高温酸化性が不十分であった。
【0005】
一方、フェライト系ステンレス鋼のTIG溶接用ワイヤ(溶加材)も実用化されており、例えば特許文献5には、溶接用ワイヤにMgとAlを適量含有させてOと結合させることによって溶接金属の組織を微細にして、溶接部の延性及び靭性を改善する技術の開示がある。しかし、特許文献5に記載の技術では、Mgを含んでいるので溶接ビード表面に剥離性不良なスラグが点在する。また、Al含有量が最大で0.5重量%と少ないので、溶接金属表面にAl23を主体とする酸化被膜を形成させることができないので耐高温酸化性が不十分であった。
【0006】
また、特許文献6には、溶接用ワイヤのTiとAlの比を限定することによって、溶け込み深さを増大し、NbとTiで溶接金属のC及びNを炭窒化物として固定し粒界腐食を防止する技術の開示がある。しかし、特許文献6に記載の溶接用ワイヤは、Alの含有量が最大で0.060質量%と少ないので、溶接金属表面にAl23を主体とする酸化被膜を形成させることができないので耐高温酸化性が不十分であった。
【0007】
さらに、特許文献7には、溶接ワイヤのNbとTiの合計とCとNの合計との比やMo、Cu成分の限定と共に、ワイヤ表面に付着した不純物を低減することによって、溶接部の耐食性に優れた溶接金属を得るという技術の開示がある。しかし、特許文献7に記載の溶接用ワイヤでは、Alが含まれていないので、溶接金属表面にAl23を主体とする酸化被膜を形成させることができないので耐高温酸化性が不十分であるという問題点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2003−320476号公報
【特許文献2】特開2006−231404号公報
【特許文献3】特開2012−11426号公報
【特許文献4】特開2014−46358号公報
【特許文献5】特開平9−225680号公報
【特許文献6】特開2006−263811号公報
【特許文献7】特開2008−132515号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで本発明は、上述した問題点に鑑みて案出されたものであり、暖房機器や厨房機器の燃焼機器部材、自動車の排気系部材及び燃料電池高温部材等に用いられるAl含有フェライト系ステンレス鋼のTIG溶接及びプラズマ溶接に適用して、溶接スラグの生成がなく、溶接金属の耐割れ性、耐高温酸化性及び延性に優れたフェライト系ステンレス鋼溶接用溶加材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、フェライト系ステンレス鋼を溶接した場合に、溶接スラグの生成がなく、溶接金属の耐高温酸化性及び延性に優れた溶接金属を得るべく、溶加材の成分組成について種々検討を行い、成分組成を適正化した。その結果、Mgを含まない構成とするとともに、Si、Mn、O、Al、Tiの含有率を最適化することにより、溶接ビード表面に剥離性不良な溶接スラグが形成されるのを防止し、Alの含有量を多めに設定することにより、溶接金属表面にAl23を主体とする酸化被膜をより好適に形成させるとともに更にSi、S、Mn、Tiの含有量を適用とすることで耐高温酸化性の向上を図ることができることを見出した。また、S、Mn、Ni等の含有量を最適化することで溶接金属の耐割れ性を向上させ、また上述した各成分の含有量を最適化することで延性に優れた溶接金属が得られることも見出した。
【0011】
即ち、本発明の要旨は、以下のとおりである。
(1)溶加材全質量に対する質量%で、C:0.02%以下、Si:0.1〜0.6%、Mn:0.05〜0.4%、Cr:13〜20%、Al:2〜4%、Ti:0.05〜0.4%、V及びNbの1種または2種の合計:0.005〜0.185%を含有し、P:0.020%以下、S:0.015%以下、O:0.010%以下、N:0.040%以下であり、残部はFe及び不可避的不純物からなることを特徴とするフェライト系ステンレス鋼溶接用溶加材。
【0013】
(2)溶加材全質量に対する質量%で、Mo及びCuの1種または2種の合計:0.02〜0.5%を更に含有することを特徴とする(1)に記載のフェライト系ステンレス鋼溶接用溶加材。
【0014】
(3)溶加材全質量に対する質量%で、Ni:0.01〜0.5%を更に含有することを特徴とする(1)または(2)に記載のフェライト系ステンレス鋼溶接用溶加材。
【0015】
(4)溶加材全質量に対する質量%で、Sn:0.5%以下、B:0.005%以下の何れか1種以上を更に含有することを特徴とする(1)乃至(3)の何れかに記載のフェライト系ステンレス鋼溶接用溶加材。
【発明の効果】
【0016】
本発明のフェライト系ステンレス鋼溶接用溶加材によれば、暖房機器や厨房機器の燃焼機器部材、自動車の排気系部材及び燃料電池高温部材等に用いられるAl含有フェライト系ステンレス鋼のTIG溶接及びプラズマ溶接に適用して、溶接スラグの生成がなく、溶接金属の耐割れ性、耐高温酸化性及び延性に優れた溶接金属が得られる。したがって、本発明によれば、溶接能率の向上及び溶接金属の品質向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の実施例における溶接試験の開先形状を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を適用したフェライト系ステンレス鋼溶接用溶加材の成分と、その成分の含有率及び各成分の限定理由について説明する。なお、各成分の含有量は、フェライト系ステンレス鋼溶接用溶加材全質量に対する質量%で表すこととし、その質量%を表わすときには単に%と記載して表すこととする。
【0019】
[C:0.02%以下]
Cは、溶加材中に含まれる不可避的不純物であるが、C含有量が0.02%を超えると溶接金属に高温割れが生じやすくなるとともに、溶接金属の延性が低下して加工性が不良となる。そのため、Cは少ないほど好ましいが、過度の低減は精錬コストの大幅な上昇を招くので、好ましくは0.0005%以上とする。
【0020】
[Si:0.1〜0.6%]
Siは、溶接金属と母材とのなじみを良好にするとともに、高温酸化性雰囲気で溶接金属表面のAl23被膜生成を促進する。Siが0.1%未満であると、溶接金属と母材とのなじみが不良となってアンダーカットが生じやすくなる。また、高温酸化性雰囲気で接金属表面のAl23被膜生成を促進できなくなるので、耐高温酸化性が不良となる。一方、Siが0.6%を超えると、溶接時に剥離性が不良なスラグが生成し、また、溶接金属の延性が低下して加工性が不良となる。したがって、Siは0.1〜0.6%とする。
【0021】
[Mn:0.05〜0.4%]
Mnは、溶接金属の耐高温割れ性を良好にする効果がある。Mnが0.05%未満であると、溶接金属に高温割れが生じやすくなる。一方、Mnが0.4%を超えると、溶接時に剥離性が不良なスラグが生成する。またMnが0.4%を超えると、高温酸化性雰囲気で溶接金属表面のAl23被膜生成を阻害するので、耐高温酸化性が不良となる。さらにMnが0.4%を超えると、溶接金属の延性が低下して加工性が不良となる。したがって、Mnは0.05〜0.4%とする。
【0022】
[Cr:13〜20%]
Crは、ステンレス溶接金属に必要な耐食性を向上する。またCrは、高温酸化性雰囲気で溶接金属表面のAl23被膜の密着性を良好にする効果がある。Crが13%未満であると、耐食性が低下する。一方、Crが20%を超えると、溶接金属の延性が低下して加工性が不良となる。したがって、Crは13〜20%とする。
【0023】
[Al:2〜4%]
Alは、高温酸化性雰囲気で溶接金属表面にAl23被膜を形成して耐高温酸化性を良好にする。Alが2%未満であると、高温酸化性雰囲気で溶接金属表面にAl23被膜の生成が不十分で、耐高温酸化性が不良となる。一方、Alが4%を超えると、溶接時に剥離性が不良なスラグが生成する。またAlが4%を超えると、溶接金属の延性が低下して加工性が不良となる。したがって、Alは2〜4%とする。
【0024】
[Ti:0.05〜0.4%]
Tiは、溶接金属中のCやNを炭窒化物として固定することによって、AlNの偏析を抑制する。その結果、Al23の生成を助長し、高温酸化性雰囲気で溶接金属表面のAl23被膜の密着性を改善する。Tiが0.05%未満であると、高温酸化性雰囲気で溶接金属表面のAl23被膜の密着性を改善する効果が得られない。一方、Tiが0.4%を超えると、溶接時に剥離性が不良なスラグが生成する。またTiが0.4%を超えると、溶接金属に固溶Tiが増加して延性が低下して加工性が不良となる。したがって、Tiは0.05〜0.4%とする。
【0025】
[P:0.020%以下]
Pは、不可避的不純物であるが、P含有量が0.020%を超えると溶接金属の延性を低下して加工性が不良となる。したがって、Pは0.020%以下とする。
【0026】
[S:0.015%以下]
Sは、不可避的不純物であるが、S含有量が0.015%を超えると溶接金属に高温割れが生じやすくする。また、高温酸化性雰囲気で溶接金属表面のAl23被膜生成を阻害して、耐高温酸化性が不良となる。したがって、Sは0.015%以下とする。
【0027】
[O:0.010%以下]
Oは、不可避的不純物であるが、O含有量が0.010%を超えると溶接時に前記Si、Mn、Al及びTiを酸化して、剥離性が不良なスラグを生成する。したがって、Oは0.010%以下とする。
【0028】
[N:0.040%以下]
Nは、不可避的不純物であるが、溶接金属の延性を低下して加工性が不良となる。したがって、Nは0.040%以下とする。
【0029】
[V及びNbの1種または2種の合計:0.005〜0.185%
V及びNbは、溶接金属中のCやNを炭窒化物として固定し、高温酸化性雰囲気で溶接金属表面のAl23被膜の密着性を改善する。V及びNbの1種または2種の合計が0.005%未満であると、高温酸化性雰囲気で溶接金属表面のAl23被膜の密着性を改善する効果が得られない。一方、V及びNbの1種または2種の合計が0.185%を超えると、溶接金属の延性を低下して加工性が不良となる。したがって、V及びNbの1種または2種の合計は0.005〜0.185%とする。
【0030】
[Mo及びCuの1種または2種の合計:0.02〜0.5%]
Mo及びCuは、溶接金属の耐食性を向上させる。Mo及びCuの1種または2種の合計が0.02%未満であると、溶接金属の耐食性を向上させる効果が得られない。一方、Mo及びCuの1種または2種の合計が0.5%を超えると、溶接金属の延性が低下して加工性が不良となる。したがって、Mo及びCuの1種または2種の合計は0.02〜0.5%とする。
【0031】
[Ni:0.01〜0.5%]
Niは、溶接金属の延性を向上して加工性を良好にする。Niが0.01%未満では、溶接金属の延性が向上せず加工性を改善する効果が得られない。一方、Niが0.5%を超えると、溶接金属に高温割れが生じやすくなる。したがって、Niは0.01〜0.5%とする。
【0032】
[Sn:0.5%以下、B:0.005%以下の1種以上]
Snは、溶接金属の粒界偏析元素であるとともにフェライト組織中の固溶強化元素としての作用も大きく、高温強度の上昇ならびにクリープ変形を抑制する。この効果を得るために、Snを0.5%以下の範囲で含有させることが望ましい。一方、Snが0.5%を超えると、溶接金属の延性が低下して加工性が不良となる。なお、Snの下限は、前記の効果を得るために0.005%とすることが好ましい。さらに、Snを含有させるより好ましい範囲は0.01〜0.3%とする。
【0033】
Bは、微量添加で高温での耐力の上昇やクリープ変形を抑制する作用を有し、特に母材よりも結晶粒径の大きくなる溶接金属のクリープ強さを顕著に上昇させる効果がある。この効果を得るために、Bを0.005%以下の範囲で含有させることが望ましい。一方、Bが0.005%を超えると、耐食性が低下する。なお、Bの下限はクリープ強さ上昇の効果を得るために0.0003%〜0.005%とすることが好ましい。さらに、Bを含有させるより好ましい範囲は0.0005〜0.003%とする。
【0034】
SnとBは、何れか1種のみを含有させても良いし、SnとBの両元素を含有させても良い。
【0035】
なお、本発明を適用したフェライト系ステンレス鋼溶接用溶加材の残部は、Fe及び不可避不純物である。
【実施例】
【0036】
以下、本発明の効果を実施例により具体的に説明する。
【0037】
表1に示す各種成分の溶加材W6、W10、W12〜W25、W27〜W28を試作して1mm径まで伸線して15kgのスプール巻きとした。
【0038】
【表1】
【0039】
各試作溶加材について、溶接試験、耐食性試験、耐高温酸化性試験及び延性(加工性)の調査を実施した。
【0040】
溶接試験は、図1に示すように板厚tが1.0mm及び2.0mmの鋼板1間においてギャップなしのI開先3を形成させ、裏面に銅当金2を当てた試験体により行った。鋼板1を構成する各成分は、表2に示すような鋼板1の全質量に対する質量%の含有率とされ、表3に示す溶接条件でTIG溶接した時のビード外観、スラグの生成状態及び高温割れの有無を外観観察により調査した。
【0041】
【表2】
【0042】
【表3】
【0043】
耐食性の調査は、板厚1.0mmの鋼板1に溶接した溶接部が試験片中央に位置するように幅60mm、長さ80mmの試験片を採取し、溶接の余盛を削除して全面を研磨した後、JIS Z 2371の塩水噴霧試験に準じて、100時間噴霧試験を実施し、溶接金属部が発銹するか否かで評価した。
【0044】
耐高温酸化性試験は、板厚2.0mmの鋼板1に溶接した溶接部の余盛を除去し、ビード長手方向に幅5mmで切断して、長さ40mmの試験片を採取して表面を研磨した後、高水蒸気・高酸素雰囲気下(50体積%H2O−20体積%CO2)で1050℃、300時間保持の加速酸化処理をして、溶接金属表面にAl23を主体とする酸化被膜を生成させた。次いで、750℃に30分保持する加熱及び室温まで降温して5分保持する冷却のサイクルを100回繰り返し、酸化被膜表面の酸化皮膜が剥離する個数を調査した。評価は、剥離した酸化被膜の個数が1cm2当たり10個以下を良好とした。
【0045】
延性(加工性)の評価は、JIS Z 2247に準じてエリクセン試験を実施した。なお、試験は板厚1.0mmの鋼板1に溶接した溶接部の余盛を削除し、溶接金属部が試験片の中央に位置するようにした。評価は、エリクセン試験を5回実施してエリクセリン値の平均値が6mm以上を良好とした。これらの結果を表4にまとめて示す。
【0046】
【表4】
【0047】
表1及び表4中、溶加材記号W6、W10、W12及びW24〜W25が本発明例、溶加材記号W13〜W23、W27及びW28は比較例である。本発明例である溶加材記号W6、W10、W12及びW24〜W25は、各成分が本発明において規定した範囲内であるので、ビード外観が良好で、スラグの生成及び高温割れがなく、耐食性試験で発銹することがなく、耐高温酸化性試験においても剥離する被膜数が少なく、エリクセリン試験でエリクセン値が高いなど極めて満足な結果であった。なお、Niを適量含む溶加材記号W10は、エリクセリン試験でエリクセン値が7mm以上得られた。またSn、Bを適量含むW24〜W25は、エリクセリン試験でのエリクセン値が何れも6mm以上であり、延性に優れたものとなっており、また耐食性試験において発錆は確認できなかった。
【0048】
比較例中溶加材記号W13は、Cが多いので、溶接時にクレータ割れが生じ、エリクセン値も低値であった。また、Niが少ないので、エリクセリン試験でエリクセン値を向上させる効果は得られなかった。
【0049】
溶加材記号W14は、Siが低いので、溶接金属のビード止端部のなじみが不良で、耐高温酸化性試験において剥離被膜数が多かった。また、VとNbの合計が多いので、エリクセリン試験でエリクセン値が低値であった。
【0050】
溶加材記号W15は、Siが多いので、溶接時にスラグが生成し、エリクセリン試験でエリクセン値が低値であった。また、Sが多いので、溶接時にクレータ割れが生じ、耐高温酸化性試験において剥離被膜数が多かった。
【0051】
溶加材記号W16は、Mnが少ないので、溶接時にクレータ割れが生じた。また、Nが多いので、エリクセリン試験でエリクセン値が低値であった。
【0052】
溶加材記号W17は、Mnが多いので、溶接時にスラグが生成し、耐高温酸化性試験において剥離被膜数が多く、エリクセリン試験でエリクセン値も低値であった。なお、VとNbの合計が少ないので、酸化被膜の密着性を向上する効果が得られず、耐高温酸化性試験において剥離被膜数を低減できなかった。
【0053】
溶加材記号W18は、Niが多いので、溶接時にクレータ割れが生じた。また、Crが少ないので、耐食性試験で発銹したので、耐高温酸化性試験及びエリクセン試験は中止した。なお、Cuが少ないので、耐食性を向上させる効果は得られなかった。
【0054】
溶加材記号W19は、Oが多いので、溶接時にスラグが生成した。また、Crが多いので、エリクセリン試験でエリクセン値が低値であった。
【0055】
溶加材記号W20は、Alが少ないので、耐高温酸化性試験において剥離被膜数が多かった。また、MoとCuの合計が多いので、エリクセリン試験でエリクセン値が低値であった。
【0056】
溶加材記号W21は、Alが多いので、溶接時にスラグが生成し、エリクセリン試験でエリクセン値が低値であった。
【0057】
溶加材記号W22は、Tiが少ないので、耐高温酸化性試験において剥離被膜数が多かった。また、Pが多いので、エリクセリン試験でエリクセン値が低値であった。
【0058】
溶加材記号W23は、Tiが多いので、溶接時にスラグが生成し、エリクセリン試験でエリクセン値が低値であった。
【0059】
溶加材記号W27は、Mnが少ないので、溶接時にクレータ割れが生じた。また、Snが多いので、延性が低下し、エリクセン試験でエリクセン値が低値であった。
【0060】
溶加材記号W28は、Oが多いので、溶接時にスラグが生成した。また、Bが多いので耐食性が劣化し、耐食性試験において発錆した。
【符号の説明】
【0061】
1 鋼板
2 銅当金
3 I開先
図1