【文献】
Journal of the American Chemical Society,2009年,Vol.131, No.15,p.5564-5572
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
対象においてアンドロゲン受容体(AR)陽性腫瘍細胞を阻害するための薬学的組成物であって、治療に十分な量の請求項1〜7のいずれか一項記載のオリゴベンズアミドペプチド模倣化合物を含む、薬学的組成物。
【発明の概要】
【0006】
本発明者らは、ペプチド構造の制限なしにARシグナル伝達を調節する能力を有する安定な小分子の必要性を認識した。本発明は、安定であり、ARシグナル伝達に関与する分子と相互作用可能であるが、ペプチド構造の制限のない、小分子のクラスを提供する。これらの小分子としては、標的分子中のヘリックスセグメントを表すα-ヘリックス模倣体が挙げられる。
【0007】
オリゴベンズアミドペプチド模倣化合物は少なくとも2個の置換されていてもよいベンズアミドを含み、各置換ベンズアミドはベンゼン環上に1個の置換基を有する。オリゴベンズアミドペプチド模倣化合物は、種々の生理学的結果を及ぼすタンパク質-タンパク質、タンパク質-ペプチド、またはタンパク質-薬物相互作用を調節する。
【0008】
本発明の別の態様は、少なくとも2個の置換されていてもよいベンズアミドのうち1個に接続される第3の置換されていてもよいベンズアミドの付加であり、第3の置換されていてもよいベンズアミドはベンゼン環上の1個の置換基を含みうる。本発明はまた、ベンゼン環上に1個の置換基を有する少なくとも2個の置換されていてもよいベンズアミドを含むオリゴベンズアミドペプチド模倣化合物を提供する。
【0009】
一局面では、本発明は、式(A)または(B)の化合物を提供する:
式中、
R
1およびR
2はそれぞれ独立してC
1〜C
10アルキル、C
1〜C
10アルケニル、C
1〜C
10アルキニル、置換されていてもよいC
1〜C
15アリールアルキル、-(CH
2)
n-COOR、-(CH
2)
n-CONRR'、-(CH
2)
n-NRR'、-(CH
2)
n-NH(C=NH)NRR'、-(CH
2)
n-NRCOR'、-(CH
2)
n-NRCOOR'、-(CH
2)
n-OR、-(CH
2)
n-SR、-(CH
2)
n-SO
mR、-(CH
2)
n-PO
mRであり、nおよびmは0〜6の任意の数でありうるものであり、RおよびR'はH基、C
1〜C
10アルキル基、C
1〜C
10アルケニル基、C
1〜C
10アルキニル基または置換されていてもよいC
1〜C
15アリールアルキル基でありうるものであり、
Xは-NO
2または-NHC(O)CH
2R
3であり、R
3は-NO
2、-Z、C
1〜C
10アルキル、C
1〜C
10アルケニル、C
1〜C
10アルキニルまたはC
1〜C
15アリールアルキルであり、いずれも-COOR、-CONRR'、-NRR'、-NH(C=NH)NRR'、-NRCOR'、-NRCOOR'、-OR、-SR、-SO
nRまたは-PO
nRで置換されていてもよく、nは0〜6の任意の数でありうるものであり、RおよびR'はH基、C
1〜C
10アルキル基、C
1〜C
10アルケニル基、C
1〜C
10アルキニル基または置換されていてもよいC
1〜C
15アリールアルキル基でありうるものであり、Zは下記式であり:
Yは-(CH
2)
nCOOR
4、-(CH
2)
nCONR
4R
5、-(CH
2)
nNR
4R
5、-(CH
2)
n-NR
4R
5、-(CH
2)
n-NH(C=NH)NR
4R
5、-(CH
2)
n-NR
4COR
5、-(CH
2)
n-NR
4COOR
5、-(CH
2)
n-OR
4、-(CH
2)
n-SR
4、-(CH
2)
n-SO
mR
4、-(CH
2)
n-PO
mR
4であり、nおよびmは0〜6の任意の数でありうるものであり、
R
4およびR
5は-H基、C
1〜C
10アルキル基、C
1〜C
10アルケニル基、C
1〜C
10アルキニル基または置換されていてもよいC
1〜C
15アリールアルキル基より独立して選択され、
式中、
R
1、R
2およびR
3はそれぞれ独立してC
1〜C
10アルキル、C
1〜C
10アルケニル、C
1〜C
10アルキニル、置換されていてもよいC
1〜C
15アリールアルキル、-(CH
2)
n-COOR、-(CH
2)
n-CONRR'、-(CH
2)
n-NRR'、-(CH
2)
n-NH(C=NH)NRR'、-(CH
2)
n-NRCOR'、-(CH
2)
n-NRCOOR'、-(CH
2)
n-OR、-(CH
2)
n-SR、-(CH
2)
n-SO
mR、-(CH
2)
n-PO
mRであり、nおよびmは0〜6の任意の数でありうるものであり、RおよびR'はH基、C
1〜C
10アルキル基、C
1〜C
10アルケニル基、C
1〜C
10アルキニル基または置換されていてもよいC
1〜C
15アリールアルキル基、あるいは下記式でありうるものであり:
X'は-NO
2または-NHC(O)CH
2R
3であり、R
3は-NO
2、-Z'、C
1〜C
10アルキル、C
1〜C
10アルケニル、C
1〜C
10アルキニルまたはC
1〜C
15アリールアルキルであり、いずれも-COOR、-CONRR'、-NRR'、-NH(C=NH)NRR'、-NRCOR'、-NRCOOR'、-OR、-SR、-SO
nRまたは-PO
nRで置換されていてもよく、nは0〜6の任意の数でありうるものであり、RおよびR'はH基、C
1〜C
10アルキル基、C
1〜C
10アルケニル基、C
1〜C
10アルキニル基または置換されていてもよいC
1〜C
15アリールアルキル基でありうるものであり、Z'は下記式であり:
Y'は-(CH
2)
nCOOR
4、-(CH
2)
nCONR
4R
5、-(CH
2)
nNR
4R
5、-(CH
2)
n-NR
4R
5、-(CH
2)
n-NH(C=NH)NR
4R
5、-(CH
2)
n-NR
4COR
5、-(CH
2)
n-NR
4COOR
5、-(CH
2)
n-OR
4、-(CH
2)
n-SR
4、-(CH
2)
n-SO
mR
4、-(CH
2)
n-PO
mR
4であり、nおよびmは0〜6の任意の数でありうるものであり、
R
4およびR
5は-H基、C
1〜C
10アルキル基、C
1〜C
10アルケニル基、C
1〜C
10アルキニル基または置換されていてもよいC
1〜C
15アリールアルキル基より独立して選択される。
【0010】
特に、Xは-NO
2でありうるものであり、さらに定義は以下の通りでありうる。
R
1およびR
2はC
1〜C
10アルキル、C
1〜C
10アルケニルまたはC
1〜C
10アルキニルであり、
R
1およびR
2は置換されていてもよいC
1〜C
15アリールアルキルであり、
R
1およびR
2は-(CH
2)
n-NRR'基または-(CH2)
n-NH(C=NH)NRR'基であり、nは0〜6の任意の数でありうるものであり、RおよびR'はH、C
1〜C
10アルキル、C
1〜C
10アルケニル、C
1〜C
10アルキニルまたは置換されていてもよいC
1〜C
15アリールアルキルでありうるものであり、
R
1およびR
2は-(CH
2)
n-COOR、-(CH
2)
n-CONRR'、-(CH
2)
n-NRCOR'、-(CH
2)
n-NRCOOR'、-(CH
2)
n-SO
mR、-(CH
2)
n-PO
mRであり、nおよびmは0〜6の任意の数でありうるものであり、RおよびR'はH、C
1〜C
10アルキル、C
1〜C
10アルケニル、C
1〜C
10アルキニルまたは置換されていてもよいC
1〜C
15アリールアルキルでありうるものであり、
R
1およびR
2は-(CH
2)
n-OR、-(CH
2)
n-SRであり、RはH、C
1〜C
10アルキル、C
1〜C
10アルケニル、C
1〜C
10アルキニルまたは置換されていてもよいC
1〜C
15アリールアルキルでありうるものであり、
R
1は置換されていてもよいC
1〜C
15アリールアルキルであり、R
2はC
1〜C
10アルキル、C
1〜C
10アルケニルまたはC
1〜C
10アルキニルであり、
R
1はC
1〜C
10アルキル、C
1〜C
10アルケニルまたはC
1〜C
10アルキニルであり、R
2は置換されていてもよいC
1〜C
15アリールアルキルであり、
R
1は-(CH
2)
n-NRR'または-(CH2)
n-NH(C=NH)NRR'であり、R
2は-(CH
2)
n-COOR、-(CH
2)
n-SO
mR、-(CH
2)
n-PO
mRであり、nおよびmは0〜6の任意の数でありうるものであり、RおよびR'はH基、C
1〜C
10アルキル基、C
1〜C
10アルケニル基、C
1〜C
10アルキニル基または置換されていてもよいC
1〜C
15アリールアルキル基でありうるものであり、
R
1は-(CH
2)
n-COOR、-(CH
2)
n-SO
mR、-(CH
2)
n-PO
mRであり、R
2は-(CH
2)
n-NRR'または-(CH2)
n-NH(C=NH)NRR'であり、nおよびmは0〜6の任意の数でありうるものであり、RおよびR'はH基、C
1〜C
10アルキル基、C
1〜C
10アルケニル基、C
1〜C
10アルキニル基または置換されていてもよいC
1〜C
15アリールアルキル基でありうるものであり、あるいは、
R
1またはR
2はイソプロピル、イソブチル、n-ブチル、sec-ブチルまたはn-ペンチルより独立して選択される。
【0011】
特に、X'は-NO
2でありうるものであり、さらに定義は以下の通りでありうる。
R
1、R
2およびR
3はC
1〜C
10アルキル、C
1〜C
10アルケニルまたはC
1〜C
10アルキニルであり、
R
1、R
2およびR
3は置換されていてもよいC
1〜C
15アリールアルキルであり、
R
1、R
2およびR
3は-(CH
2)
n-NRR'基または-(CH2)
n-NH(C=NH)NRR'基であり、nは0〜6の任意の数でありうるものであり、RおよびR'はH、C
1〜C
10アルキル、C
1〜C
10アルケニル、C
1〜C
10アルキニルまたは置換されていてもよいC
1〜C
15アリールアルキルでありうるものであり、
R
1、R
2およびR
3は-(CH
2)
n-COOR、-(CH
2)
n-CONRR'、-(CH
2)
n-NRCOR'、-(CH
2)
n-NRCOOR'、-(CH
2)
n-SO
mR、-(CH
2)
n-PO
mRであり、nおよびmは0〜6の任意の数でありうるものであり、RおよびR'はH、C
1〜C
10アルキル、C
1〜C
10アルケニル、C
1〜C
10アルキニルまたは置換されていてもよいC
1〜C
15アリールアルキルでありうるものであり、
R
1、R
2およびR
3は-(CH
2)
n-OR、-(CH
2)
n-SRであり、RはH、C
1〜C
10アルキル、C
1〜C
10アルケニル、C
1〜C
10アルキニルまたは置換されていてもよいC
1〜C
15アリールアルキルでありうるものであり、
R
1は置換されていてもよいC
1〜C
15アリールアルキルであり、R
2およびR
3はC
1〜C
10アルキル、C
1〜C
10アルケニルまたはC
1〜C
10アルキニルであり、
R
1およびR
2はC
1〜C
10アルキル、C
1〜C
10アルケニルまたはC
1〜C
10アルキニルであり、R
3は置換されていてもよいC
1〜C
15アリールアルキルであり、
R
1はC
1〜C
10アルキル、C
1〜C
10アルケニルまたはC
1〜C
10アルキニルであり、R
2およびR
3は置換されていてもよいC
1〜C
15アリールアルキルであり、
R
1およびR
2は置換されていてもよいC
1〜C
15アリールアルキルであり、R
3はC
1〜C
10アルキル、C
1〜C
10アルケニルまたはC
1〜C
10アルキニルであり、
R
1およびR
3はC
1〜C
10アルキル、C
1〜C
10アルケニルまたはC
1〜C
10アルキニルであり、R
2は置換されていてもよいC
1〜C
15アリールアルキルであり、
R
1およびR
3は置換されていてもよいC
1〜C
15アリールアルキルであり、R
2はC
1〜C
10アルキル、C
1〜C
10アルケニルまたはC
1〜C
10アルキニルであり、
R
1およびR
2は-(CH
2)
n-NRR'または-(CH2)
n-NH(C=NH)NRR'であり、R
3はC
1〜C
10アルキル、C
1〜C
10アルケニルまたはC
1〜C
10アルキニルであり、nは0〜6の任意の数でありうるものであり、RおよびR'はH、C
1〜C
10アルキル、C
1〜C
10アルケニル、C
1〜C
10アルキニルまたは置換されていてもよいC
1〜C
15アリールアルキルでありうるものであり、
R
1はC
1〜C
10アルキル、C
1〜C
10アルケニルまたはC
1〜C
10アルキニルであり、R
2およびR
3は-(CH
2)
n-NRR'または-(CH2)
n-NH(C=NH)NRR'であり、nは0〜6の任意の数でありうるものであり、RおよびR'はH、C
1〜C
10アルキル、C
1〜C
10アルケニル、C
1〜C
10アルキニルまたは置換されていてもよいC
1〜C
15アリールアルキルでありうるものであり、
R
1およびR
2は-(CH
2)
n-NRR'または-(CH2)
n-NH(C=NH)NRR'であり、R
3は置換されていてもよいC
1〜C
15アリールアルキルであり、nは0〜6の任意の数でありうるものであり、RおよびR'はH、C
1〜C
10アルキル、C
1〜C
10アルケニル、C
1〜C
10アルキニルまたは置換されていてもよいC
1〜C
15アリールアルキルでありうるものであり、
R
1は置換されていてもよいC
1〜C
15アリールアルキルであり、R
2およびR
3は-(CH
2)
n-NRR'または-(CH2)
n-NH(C=NH)NRR'であり、nは0〜6の任意の数でありうるものであり、RおよびR'はH、C
1〜C
10アルキル、C
1〜C
10アルケニル、C
1〜C
10アルキニルまたは置換されていてもよいC
1〜C
15アリールアルキルでありうるものであり、
R
1およびR
2は-(CH
2)
n-COOR、-(CH
2)
n-CONRR'、-(CH
2)
n-NRCOR'、-(CH
2)
n-NRCOOR'、-(CH
2)
n-SO
mR、-(CH
2)
n-PO
mRであり、R
3はC
1〜C
10アルキル、C
1〜C
10アルケニルまたはC
1〜C
10アルキニルであり、nおよびmは0〜6の任意の数でありうるものであり、RおよびR'はH、C
1〜C
10アルキル、C
1〜C
10アルケニル、C
1〜C
10アルキニルまたは置換されていてもよいC
1〜C
15アリールアルキルでありうるものであり、
R
1はC
1〜C
10アルキル、C
1〜C
10アルケニルまたはC
1〜C
10アルキニルであり、R
2およびR
3は-(CH
2)
n-COOR、-(CH
2)
n-CONRR'、-(CH
2)
n-NRCOR'、-(CH
2)
n-NRCOOR'、-(CH
2)
n-SO
mR、-(CH
2)
n-PO
mRであり、nおよびmは0〜6の任意の数でありうるものであり、RおよびR'はH、C
1〜C
10アルキル、C
1〜C
10アルケニル、C
1〜C
10アルキニルまたは置換されていてもよいC
1〜C
15アリールアルキルでありうるものであり、
R
1およびR
2は-(CH
2)
n-COOR、-(CH
2)
n-CONRR'、-(CH
2)
n-NRCOR'、-(CH
2)
n-NRCOOR'、-(CH
2)
n-SO
mR、-(CH
2)
n-PO
mRであり、R
3は置換されていてもよいC
1〜C
15アリールアルキルであり、nおよびmは0〜6の任意の数でありうるものであり、RおよびR'はH、C
1〜C
10アルキル、C
1〜C
10アルケニル、C
1〜C
10アルキニルまたは置換されていてもよいC
1〜C
15アリールアルキルでありうるものであり、
R
1は置換されていてもよいC
1〜C
15アリールアルキルであり、R
2およびR
3は-(CH
2)
n-COOR、-(CH
2)
n-CONRR'、-(CH
2)
n-NRCOR'、-(CH
2)
n-NRCOOR'、-(CH
2)
n-SO
mR、-(CH
2)
n-PO
mRであり、nおよびmは0〜6の任意の数でありうるものであり、RおよびR'はH、C
1〜C
10アルキル、C
1〜C
10アルケニル、C
1〜C
10アルキニルまたは置換されていてもよいC
1〜C
15アリールアルキルでありうるものであり、
R
1およびR
3は-(CH
2)
n-NRR'または-(CH2)
n-NH(C=NH)NRR'であり、R
2は-(CH
2)
n-COOR、-(CH
2)
n-CONRR'、-(CH
2)
n-NRCOR'、-(CH
2)
n-NRCOOR'、-(CH
2)
n-SO
mR、-(CH
2)
n-PO
mRであり、nおよびmは0〜6の任意の数でありうるものであり、RおよびR'はH、C
1〜C
10アルキル、C
1〜C
10アルケニル、C
1〜C
10アルキニルまたは置換されていてもよいC
1〜C
15アリールアルキルでありうるものであり、
R
1およびR
3は-(CH
2)
n-COOR、-(CH
2)
n-CONRR'、-(CH
2)
n-NRCOR'、-(CH
2)
n-NRCOOR'、-(CH
2)
n-SO
mR、-(CH
2)
n-PO
mRであり、R
2は-(CH
2)
n-NRR'または-(CH2)
n-NH(C=NH)NRR'であり、nおよびmは0〜6の任意の数でありうるものであり、RおよびR'はH、C
1〜C
10アルキル、C
1〜C
10アルケニル、C
1〜C
10アルキニルまたは置換されていてもよいC
1〜C
15アリールアルキルでありうるものであり、
R
1、R
2またはR
3はイソプロピル、イソブチル、n-ブチル、sec-ブチルまたはn-ペンチルより独立して選択され、あるいは、
R
1、R
2またはR
3は下記式である。
【0012】
あるいは、Xは-NHC(O)CH
2R
3でありうるものであり、R
3は-NH
2またはC
1〜C
10アルキルでありうるものであり、-COOHで置換されていてもよい。あるいは、X'は-NHC(O)CH
2NH
2でありうる。
【0013】
YまたはY'は特に-NH
2でありうる。
【0014】
本発明の具体的化合物としては下記式が挙げられる。
【0015】
薬学的に許容される担体、緩衝剤または希釈剤に分散した上記の化合物のいずれかを含む、薬学的組成物も提供される。
【0016】
別の態様では、対象においてアンドロゲン受容体(AR)陽性腫瘍細胞を阻害する方法であって、治療に十分な量の上記のオリゴベンズアミドペプチド模倣化合物を該対象に投与する段階を含む方法が提供される。
【0017】
AR陽性腫瘍細胞はがん細胞、白血病細胞または骨髄腫細胞でありうる。がん細胞は前立腺がん細胞または乳がん細胞でありうる。ペプチド模倣体は細胞送達ドメインに融合しうる。投与は静脈内、動脈内、腫瘍内、皮下、局所もしくは腹腔内投与、または局在、限局、全身もしくは連続投与を含みうる。阻害は該腫瘍細胞の成長停止、該腫瘍細胞のアポトーシス、および/または該腫瘍細胞を含む腫瘍組織の壊死を誘導することを含みうる。
【0018】
投与は、手術、化学療法、放射線療法、ホルモン療法、毒素療法、免疫療法および寒冷療法などの第2の抗がん治療を行うことをさらに含みうる。第2の抗がん治療は、前記化合物の投与前、前記化合物の投与後、または前記化合物と同時に行うことができる。
【0019】
対象はヒトでありうる。化合物を約0.1〜100mg/kgもしくは約1〜約50mg/kg、または約10mg/kgで投与することができる。化合物を毎日、例えば7日間、2週間、3週間、4週間、1ヶ月、6週間、8週間、2ヶ月、12週間または3ヶ月投与することができる。化合物を週1回、例えば2週間、3週間、4週間、6週間、8週間、10週間または12週間投与することができる。
【0020】
本方法は、前記化合物を投与する段階の前に前記対象の前記腫瘍細胞中のAR駆動遺伝子発現を評価する段階をさらに含みうるか、または前記化合物を投与する段階の後に前記対象の前記腫瘍細胞中のAR駆動遺伝子発現を評価する段階をさらに含みうる。
【0021】
本発明は、治療有効量のオリゴベンズアミド化合物、またはオリゴベンズアミド化合物を有するその塩、溶媒和物もしくは誘導体と1つもしくは複数の薬学的に許容される担体とを含む、薬学的組成物を提供する。オリゴベンズアミド化合物は、2個または3個の置換されていてもよいベンズアミド(例えば置換および/または非置換ベンズアミド)と、エーテル結合、チオエーテル結合、アミン結合、アミド結合、カルバメート結合、尿素結合ならびに炭素-炭素(単、二重および三重)結合を含む化学結合によって個々に各置換ベンズアミドに結合した1個の置換基とを含む。
【0022】
特許請求の範囲および/または明細書において「含む(comprising)」という用語と併せて使用する場合の「a」または「an」という単語の使用は、「1つ」を意味しうるが、「1つまたは複数」、「少なくとも1つ」および「1つまたは2つ以上」の意味とも一致している。
【0023】
本明細書において使用する「またはその組み合わせ」という用語は、その用語に先行する列挙された項目のすべての順列および組み合わせを意味する。例えば、「A、B、Cまたはその組み合わせ」は、A、B、C、AB、AC、BCまたはABCの少なくとも1つを含むように、かつ特定の文脈において順序が重要である場合はBA、CA、CB、CBA、BCA、ACB、BACまたはCABも含むように意図されている。当業者は、文脈から別途明らかではない場合、通常は任意の組み合わせにおける項目または事項の数が限定されないということを理解するであろう。
【0024】
本明細書および特許請求の範囲において使用する「含む(comprising)」(ならびにcomprisingの任意の形態、例えば「comprise」および「comprises」)、「有する(having)」(ならびにhavingの任意の形態、例えば「have」および「has」)、「含む(including)」(ならびにincludingの任意の形態、例えば「includes」および「include」)または「含有する(containing)」(およびcontainingの任意の形態、例えば「contains」および「contain」)という用語は、包括的または開放的であり、さらなる列挙されない要素または方法段階を排除しない。
【0025】
[本発明1001]
式(A)または(B)の化合物:
式中、
R
1およびR
2はそれぞれ独立してC
1〜C
10アルキル、C
1〜C
10アルケニル、C
1〜C
10アルキニル、置換されていてもよいC
1〜C
15アリールアルキル、-(CH
2)
n-COOR、-(CH
2)
n-CONRR'、-(CH
2)
n-NRR'、-(CH
2)
n-NH(C=NH)NRR'、-(CH
2)
n-NRCOR'、-(CH
2)
n-NRCOOR'、-(CH
2)
n-OR、-(CH
2)
n-SR、-(CH
2)
n-SO
mR、-(CH
2)
n-PO
mRであり、nおよびmは0〜6の任意の数でありうるものであり、RおよびR'はH基、C
1〜C
10アルキル基、C
1〜C
10アルケニル基、C
1〜C
10アルキニル基、または置換されていてもよいC
1〜C
15アリールアルキル基でありうるものであり、
Xは-NO
2または-NHC(O)CH
2R
3であり、R
3は-NO
2、-Z、C
1〜C
10アルキル、C
1〜C
10アルケニル、C
1〜C
10アルキニル、またはC
1〜C
15アリールアルキルであり、いずれも-COOR、-CONRR'、-NRR'、-NH(C=NH)NRR'、-NRCOR'、-NRCOOR'、-OR、-SR、-SO
nR、または-PO
nRで置換されていてもよく、nは0〜6の任意の数でありうるものであり、RおよびR'はH基、C
1〜C
10アルキル基、C
1〜C
10アルケニル基、C
1〜C
10アルキニル基、または置換されていてもよいC
1〜C
15アリールアルキル基でありうるものであり、Zは
であり、
Yは-(CH
2)
nCOOR
4、-(CH
2)
nCONR
4R
5、-(CH
2)
nNR
4R
5、-(CH
2)
n-NR
4R
5、-(CH
2)
n-NH(C=NH)NR
4R
5、-(CH
2)
n-NR
4COR
5、-(CH
2)
n-NR
4COOR
5、-(CH
2)
n-OR
4、-(CH
2)
n-SR
4、-(CH
2)
n-SO
mR
4、-(CH
2)
n-PO
mR
4であり、nおよびmは0〜6の任意の数でありうるものであり、
R
4およびR
5は-H基、C
1〜C
10アルキル基、C
1〜C
10アルケニル基、C
1〜C
10アルキニル基、または置換されていてもよいC
1〜C
15アリールアルキル基より独立して選択され、あるいは
式中、
R
1、R
2およびR
3はそれぞれ独立してC
1〜C
10アルキル、C
1〜C
10アルケニル、C
1〜C
10アルキニル、置換されていてもよいC
1〜C
15アリールアルキル、-(CH
2)
n-COOR、-(CH
2)
n-CONRR'、-(CH
2)
n-NRR'、-(CH
2)
n-NH(C=NH)NRR'、-(CH
2)
n-NRCOR'、-(CH
2)
n-NRCOOR'、-(CH
2)
n-OR、-(CH
2)
n-SR、-(CH
2)
n-SO
mR、-(CH
2)
n-PO
mRであり、nおよびmは0〜6の任意の数でありうるものであり、RおよびR'はH基、C
1〜C
10アルキル基、C
1〜C
10アルケニル基、C
1〜C
10アルキニル基、または置換されていてもよいC
1〜C
15アリールアルキル基、あるいは
でありうるものであり、
X'は-NO
2または-NHC(O)CH
2R
3であり、R
3は-NO
2、-Z'、C
1〜C
10アルキル、C
1〜C
10アルケニル、C
1〜C
10アルキニル、またはC
1〜C
15アリールアルキルであり、いずれも-COOR、-CONRR'、-NRR'、-NH(C=NH)NRR'、-NRCOR'、-NRCOOR'、-OR、-SR、-SO
nR、または-PO
nRで置換されていてもよく、nは0〜6の任意の数でありうるものであり、RおよびR'はH基、C
1〜C
10アルキル基、C
1〜C
10アルケニル基、C
1〜C
10アルキニル基、または置換されていてもよいC
1〜C
15アリールアルキル基でありうるものであり、Z'は
であり、
Y'は-(CH
2)
nCOOR
4、-(CH
2)
nCONR
4R
5、-(CH
2)
nNR
4R
5、-(CH
2)
n-NR
4R
5、-(CH
2)
n-NH(C=NH)NR
4R
5、-(CH
2)
n-NR
4COR
5、-(CH
2)
n-NR
4COOR
5、-(CH
2)
n-OR
4、-(CH
2)
n-SR
4、-(CH
2)
n-SO
mR
4、-(CH
2)
n-PO
mR
4であり、nおよびmは0〜6の任意の数でありうるものであり、
R
4およびR
5は-H基、C
1〜C
10アルキル基、C
1〜C
10アルケニル基、C
1〜C
10アルキニル基、または置換されていてもよいC
1〜C
15アリールアルキル基より独立して選択される。
[本発明1002]
式(A)の化合物としてさらに定義される、本発明1001の化合物。
[本発明1003]
式(B)の化合物としてさらに定義される、本発明1001の化合物。
[本発明1004]
Xが-NO
2である、本発明1002の化合物。
[本発明1005]
X'が-NO
2である、本発明1003の化合物。
[本発明1006]
R
1およびR
2がC
1〜C
10アルキル、C
1〜C
10アルケニル、またはC
1〜C
10アルキニルである、本発明1004の化合物。
[本発明1007]
R
1およびR
2が、置換されていてもよいC
1〜C
15アリールアルキルである、本発明1004の化合物。
[本発明1008]
R
1およびR
2が-(CH
2)
n-NRR'基または-(CH2)
n-NH(C=NH)NRR'基であり、nが0〜6の任意の数でありうるものであり、かつRおよびR'がH、C
1〜C
10アルキル、C
1〜C
10アルケニル、C
1〜C
10アルキニル、または置換されていてもよいC
1〜C
15アリールアルキルでありうる、本発明1004の化合物。
[本発明1009]
R
1およびR
2が-(CH
2)
n-COOR、-(CH
2)
n-CONRR'、-(CH
2)
n-NRCOR'、-(CH
2)
n-NRCOOR'、-(CH
2)
n-SO
mR、-(CH
2)
n-PO
mRであり、nおよびmが0〜6の任意の数でありうるものであり、かつRおよびR'がH、C
1〜C
10アルキル、C
1〜C
10アルケニル、C
1〜C
10アルキニル、または置換されていてもよいC
1〜C
15アリールアルキルでありうる、本発明1004の化合物。
[本発明1010]
R
1およびR
2が-(CH
2)
n-OR、-(CH
2)
n-SRであり、RがH、C
1〜C
10アルキル、C
1〜C
10アルケニル、C
1〜C
10アルキニル、または置換されていてもよいC
1〜C
15アリールアルキルでありうる、本発明1004の化合物。
[本発明1011]
R
1が、置換されていてもよいC
1〜C
15アリールアルキルであり、かつR
2が、C
1〜C
10アルキル、C
1〜C
10アルケニル、またはC
1〜C
10アルキニルである、本発明1004の化合物。
[本発明1012]
R
1が、C
1〜C
10アルキル、C
1〜C
10アルケニル、またはC
1〜C
10アルキニルであり、かつR
2が、置換されていてもよいC
1〜C
15アリールアルキルである、本発明1004の化合物。
[本発明1013]
R
1が-(CH
2)
n-NRR'または-(CH2)
n-NH(C=NH)NRR'であり、R
2が-(CH
2)
n-COOR、-(CH
2)
n-SO
mR、-(CH
2)
n-PO
mRであり、nおよびmが0〜6の任意の数でありうるものであり、かつRおよびR'がH基、C
1〜C
10アルキル基、C
1〜C
10アルケニル基、C
1〜C
10アルキニル基、または置換されていてもよいC
1〜C
15アリールアルキル基でありうる、本発明1004の化合物。
[本発明1014]
R
1が-(CH
2)
n-COOR、-(CH
2)
n-SO
mR、-(CH
2)
n-PO
mRであり、R
2が-(CH
2)
n-NRR'または-(CH2)
n-NH(C=NH)NRR'であり、nおよびmが0〜6の任意の数でありうるものであり、かつRおよびR'がH基、C
1〜C
10アルキル基、C
1〜C
10アルケニル基、C
1〜C
10アルキニル基、または置換されていてもよいC
1〜C
15アリールアルキル基でありうる、本発明1004の化合物。
[本発明1015]
R
1、R
2、およびR
3がC
1〜C
10アルキル、C
1〜C
10アルケニル、またはC
1〜C
10アルキニルである、本発明1005の化合物。
[本発明1016]
R
1、R
2、およびR
3が、置換されていてもよいC
1〜C
15アリールアルキルである、本発明1005の化合物。
[本発明1017]
R
1、R
2、およびR
3が-(CH
2)
n-NRR'基または-(CH2)
n-NH(C=NH)NRR'基であり、nが0〜6の任意の数でありうるものであり、かつRおよびR'がH、C
1〜C
10アルキル、C
1〜C
10アルケニル、C
1〜C
10アルキニル、または置換されていてもよいC
1〜C
15アリールアルキルでありうる、本発明1005の化合物。
[本発明1018]
R
1、R
2、およびR
3が-(CH
2)
n-COOR、-(CH
2)
n-CONRR'、-(CH
2)
n-NRCOR'、-(CH
2)
n-NRCOOR'、-(CH
2)
n-SO
mR、-(CH
2)
n-PO
mRであり、nおよびmが0〜6の任意の数でありうるものであり、かつRおよびR'がH、C
1〜C
10アルキル、C
1〜C
10アルケニル、C
1〜C
10アルキニル、または置換されていてもよいC
1〜C
15アリールアルキルでありうる、本発明1005の化合物。
[本発明1019]
R
1、R
2、およびR
3が-(CH
2)
n-OR、-(CH
2)
n-SRであり、RがH、C
1〜C
10アルキル、C
1〜C
10アルケニル、C
1〜C
10アルキニル、または置換されていてもよいC
1〜C
15アリールアルキルでありうる、本発明1005の化合物。
[本発明1020]
R
1が置換されていてもよいC
1〜C
15アリールアルキルであり、かつR
2およびR
3がC
1〜C
10アルキル、C
1〜C
10アルケニル、またはC
1〜C
10アルキニルである、本発明1005の化合物。
[本発明1021]
R
1およびR
2が、C
1〜C
10アルキル、C
1〜C
10アルケニル、またはC
1〜C
10アルキニルであり、かつR
3が、置換されていてもよいC
1〜C
15アリールアルキルである、本発明1005の化合物。
[本発明1022]
R
1が、C
1〜C
10アルキル、C
1〜C
10アルケニル、またはC
1〜C
10アルキニルであり、かつR
2およびR
3が、置換されていてもよいC
1〜C
15アリールアルキルである、本発明1005の化合物。
[本発明1023]
R
1およびR
2が、置換されていてもよいC
1〜C
15アリールアルキルであり、かつR
3が、C
1〜C
10アルキル、C
1〜C
10アルケニル、またはC
1〜C
10アルキニルである、本発明1005の化合物。
[本発明1024]
R
1およびR
3が、C
1〜C
10アルキル、C
1〜C
10アルケニル、またはC
1〜C
10アルキニルであり、かつR
2が、置換されていてもよいC
1〜C
15アリールアルキルである、本発明1005の化合物。
[本発明1025]
R
1およびR
3が、置換されていてもよいC
1〜C
15アリールアルキルであり、かつR
2が、C
1〜C
10アルキル、C
1〜C
10アルケニル、またはC
1〜C
10アルキニルである、本発明1005の化合物。
[本発明1026]
R
1およびR
2が-(CH
2)
n-NRR'または-(CH2)
n-NH(C=NH)NRR'であり、R
3がC
1〜C
10アルキル、C
1〜C
10アルケニル、またはC
1〜C
10アルキニルであり、nが0〜6の任意の数でありうるものであり、RおよびR'がH、C
1〜C
10アルキル、C
1〜C
10アルケニル、C
1〜C
10アルキニル、または置換されていてもよいC
1〜C
15アリールアルキルでありうる、本発明1005の化合物。
[本発明1027]
R
1がC
1〜C
10アルキル、C
1〜C
10アルケニル、またはC
1〜C
10アルキニルであり、R
2およびR
3が-(CH
2)
n-NRR'または-(CH2)
n-NH(C=NH)NRR'であり、nが0〜6の任意の数でありうるものであり、かつRおよびR'がH、C
1〜C
10アルキル、C
1〜C
10アルケニル、C
1〜C
10アルキニル、または置換されていてもよいC
1〜C
15アリールアルキルでありうる、本発明1005の化合物。
[本発明1028]
R
1およびR
2が-(CH
2)
n-NRR'または-(CH2)
n-NH(C=NH)NRR'であり、R
3が置換されていてもよいC
1〜C
15アリールアルキルであり、nが0〜6の任意の数でありうるものであり、かつRおよびR'がH、C
1〜C
10アルキル、C
1〜C
10アルケニル、C
1〜C
10アルキニル、または置換されていてもよいC
1〜C
15アリールアルキルでありうる、本発明1005の化合物。
[本発明1029]
R
1が、置換されていてもよいC
1〜C
15アリールアルキルであり、R
2およびR
3が-(CH
2)
n-NRR'または-(CH2)
n-NH(C=NH)NRR'であり、nが0〜6の任意の数でありうるものであり、かつRおよびR'がH、C
1〜C
10アルキル、C
1〜C
10アルケニル、C
1〜C
10アルキニル、または置換されていてもよいC
1〜C
15アリールアルキルでありうる、本発明1005の化合物。
[本発明1030]
R
1およびR
2が-(CH
2)
n-COOR、-(CH
2)
n-CONRR'、-(CH
2)
n-NRCOR'、-(CH
2)
n-NRCOOR'、-(CH
2)
n-SO
mR、-(CH
2)
n-PO
mRであり、R
3がC
1〜C
10アルキル、C
1〜C
10アルケニル、またはC
1〜C
10アルキニルであり、nおよびmが0〜6の任意の数でありうるものであり、かつRおよびR'がH、C
1〜C
10アルキル、C
1〜C
10アルケニル、C
1〜C
10アルキニル、または置換されていてもよいC
1〜C
15アリールアルキルでありうる、本発明1005の化合物。
[本発明1031]
R
1がC
1〜C
10アルキル、C
1〜C
10アルケニル、またはC
1〜C
10アルキニルであり、R
2およびR
3が-(CH
2)
n-COOR、-(CH
2)
n-CONRR'、-(CH
2)
n-NRCOR'、-(CH
2)
n-NRCOOR'、-(CH
2)
n-SO
mR、-(CH
2)
n-PO
mRであり、nおよびmが0〜6の任意の数でありうるものであり、かつRおよびR'がH、C
1〜C
10アルキル、C
1〜C
10アルケニル、C
1〜C
10アルキニル、または置換されていてもよいC
1〜C
15アリールアルキルでありうる、本発明1005の化合物。
[本発明1032]
R
1およびR
2が、-(CH
2)
n-COOR、-(CH
2)
n-CONRR'、-(CH
2)
n-NRCOR'、-(CH
2)
n-NRCOOR'、-(CH
2)
n-SO
mR、-(CH
2)
n-PO
mRであり、R
3が、置換されていてもよいC
1〜C
15アリールアルキルであり、nおよびmが、0〜6の任意の数でありうるものであり、かつRおよびR'が、H、C
1〜C
10アルキル、C
1〜C
10アルケニル、C
1〜C
10アルキニル、または置換されていてもよいC
1〜C
15アリールアルキルでありうる、本発明1005の化合物。
[本発明1033]
R
1が、置換されていてもよいC
1〜C
15アリールアルキルであり、R
2およびR
3が、-(CH
2)
n-COOR、-(CH
2)
n-CONRR'、-(CH
2)
n-NRCOR'、-(CH
2)
n-NRCOOR'、-(CH
2)
n-SO
mR、-(CH
2)
n-PO
mRであり、nおよびmが、0〜6の任意の数でありうるものであり、かつRおよびR'が、H、C
1〜C
10アルキル、C
1〜C
10アルケニル、C
1〜C
10アルキニル、または置換されていてもよいC
1〜C
15アリールアルキルでありうる、本発明1005の化合物。
[本発明1034]
R
1およびR
3が-(CH
2)
n-NRR'または-(CH2)
n-NH(C=NH)NRR'であり、R
2が-(CH
2)
n-COOR、-(CH
2)
n-CONRR'、-(CH
2)
n-NRCOR'、-(CH
2)
n-NRCOOR'、-(CH
2)
n-SO
mR、-(CH
2)
n-PO
mRであり、nおよびmが0〜6の任意の数でありうるものであり、かつRおよびR'がH、C
1〜C
10アルキル、C
1〜C
10アルケニル、C
1〜C
10アルキニル、または置換されていてもよいC
1〜C
15アリールアルキルでありうる、本発明1005の化合物。
[本発明1035]
R
1およびR
3が-(CH
2)
n-COOR、-(CH
2)
n-CONRR'、-(CH
2)
n-NRCOR'、-(CH
2)
n-NRCOOR'、-(CH
2)
n-SO
mR、-(CH
2)
n-PO
mRであり、R
2が-(CH
2)
n-NRR'または-(CH2)
n-NH(C=NH)NRR'であり、nおよびmが0〜6の任意の数でありうるものであり、かつRおよびR'がH、C
1〜C
10アルキル、C
1〜C
10アルケニル、C
1〜C
10アルキニル、または置換されていてもよいC
1〜C
15アリールアルキルでありうる、本発明1005の化合物。
[本発明1036]
Xが-NHC(O)CH
2R
3であり、かつR
3が-NH
2またはC
1〜C
10アルキルであり、-COOHで置換されていてもよい、本発明1002の化合物。
[本発明1037]
X'が-NHC(O)CH
2NH
2である、本発明1003の化合物。
[本発明1038]
R
1またはR
2がイソプロピル、イソブチル、n-ブチル、sec-ブチルまたはn-ペンチルより独立して選択される、本発明1002の化合物。
[本発明1039]
R
1、R
2またはR
3がイソプロピル、イソブチル、n-ブチル、sec-ブチルまたはn-ペンチルより独立して選択される、本発明1003の化合物。
[本発明1040]
R
1、R
2またはR
3が
である、本発明1003の化合物。
[本発明1041]
YまたはY'が-NH
2である、本発明1001の化合物。
[本発明1042]
である、本発明1001の化合物。
[本発明1043]
対象においてアンドロゲン受容体(AR)陽性腫瘍細胞を阻害する方法であって、治療に十分な量の本発明1001に示すオリゴベンズアミドペプチド模倣化合物を該対象に投与する段階を含む、方法。
[本発明1044]
前記化合物が式(A)のものである、本発明1043の方法。
[本発明1045]
前記化合物が式(B)のものである、本発明1043の方法。
[本発明1046]
前記化合物が
である、本発明1043の方法。
[本発明1047]
AR陽性腫瘍細胞ががん細胞、白血病細胞または骨髄腫細胞である、本発明1043の方法。
[本発明1048]
がん細胞が前立腺がん細胞または乳がん細胞である、本発明1047の方法。
[本発明1049]
前記ペプチド模倣体が細胞送達ドメインに融合している、本発明1043の方法。
[本発明1050]
投与が静脈内、動脈内、腫瘍内、皮下、局所または腹腔内投与を含む、本発明1043の方法。
[本発明1051]
投与が局在、限局、全身、または連続投与を含む、本発明1043の方法。
[本発明1052]
阻害が前記腫瘍細胞の成長停止、前記腫瘍細胞のアポトーシス、および/または前記腫瘍細胞を含む腫瘍組織の壊死を誘導することを含む、本発明1043の方法。
[本発明1053]
第2の抗がん治療を前記対象に行う段階をさらに含む、本発明1043の方法。
[本発明1054]
第2の抗がん治療が手術、化学療法、放射線療法、ホルモン療法、毒素療法、免疫療法および寒冷療法である、本発明1053の方法。
[本発明1055]
第2の抗がん治療が、前記化合物を投与する段階の前に行われる、本発明1053の方法。
[本発明1056]
第2の抗がん治療が、前記化合物を投与する段階の後に行われる、本発明1053の方法。
[本発明1057]
第2の抗がん治療が前記化合物と同時に行われる、本発明1053の方法。
[本発明1058]
前記対象がヒトである、本発明1043の方法。
[本発明1059]
前記化合物が約0.1〜約100mg/kgで投与される、本発明1043の方法。
[本発明1060]
前記化合物が約1〜約50mg/kgで投与される、本発明1059の方法。
[本発明1061]
前記化合物が1日1回投与される、本発明1043の方法。
[本発明1062]
前記化合物が1日1回で7日間、2週間、3週間、4週間、1ヶ月、6週間、8週間、2ヶ月、12週間、または3ヶ月投与される、本発明1061の方法。
[本発明1063]
前記化合物が週1回投与される、本発明1043の方法。
[本発明1064]
前記化合物が週1回で2週間、3週間、4週間、6週間、8週間、10週間、または12週間投与される、本発明1043の方法。
[本発明1065]
前記化合物を投与する段階の前に前記対象の腫瘍細胞中のAR駆動遺伝子発現を評価する段階をさらに含む、本発明1043の方法。
[本発明1066]
前記化合物を投与する段階の後に前記対象の腫瘍細胞中のAR駆動遺伝子発現を評価する段階をさらに含む、本発明1043の方法。
[本発明1067]
薬学的に許容される担体、緩衝剤または希釈剤に分散した本発明1001に示す化合物を含む、薬学的組成物。
本発明のこれらのおよび他の態様は、以下の説明および添付図面と併せて考慮される際により良く認識および理解されるであろう。しかし、以下の説明が、本発明の各種態様およびその数多くの具体的詳細を示すにもかかわらず、限定としてでなく例示として示されるものと理解すべきである。多くの置換、修正、追加および/または再編を、本発明の真意を逸脱することなく本発明の範囲内で行うことができ、本発明はすべてのそのような置換、修正、追加および/または再編を含む。本明細書に記載の任意の方法または組成物を本明細書に記載の任意の他の方法または組成物に関して実行することができると想定される。
【発明を実施するための形態】
【0028】
発明の詳細な説明
上記で論じたように、PELP-1とARとの間の相互作用は発がんにおいて役割を果たすと考えられる。PELP-1がそのLXXLLモチーフを経由してARに結合すると考えられることから、本発明者らは、ARとPELP-1との相互作用を競合的に破壊するための合理的設計アプローチによるビスベンズアミド系ペプチド模倣体を開発しようとした。
【0029】
ビスベンズアミドは、ヘリックスのi位およびi+4位に対応する2個のアルキル基(R
1〜2)を含有する。D2と称するビスベンズアミドは、2個のイソブチル基を有しており、LXXLLモチーフのi位およびi+4位の2個のロイシンの側鎖基をエミュレートするものであり、1つのヘリックスターンで隔てられたロイシンを提示する。LXXLLモチーフをペプチドおよびペプチド模倣体で標的化する以前の試みは、ロイシン間の間隔がインビボでの機能活性に最適でなかったことから成功しなかった。
【0030】
本発明のペプチド模倣体はインビトロおよびインビボ条件下で無毒である。これらのペプチド模倣体の開発は、ARシグナル伝達を標的化する薬物の開発における大飛躍に相当する。興味深いことに、これらの合成分子は、核へのARのアンドロゲン誘導性移行を防ぐものであり、AR核移行を遮断するペプチド模倣薬の最初の例の1つにおそらく相当する。本発明者らは、ヘリックス面、およびロイシンの提示の改善以外にも、インビトロとインビボとの両方での前立腺がん細胞増殖に対するこの系の効力を証明した。したがって、本発明者らは、既存の技術と対照的なものとして、前立腺がん、およびアンドロゲン受容体が関与する他のがんに対する活性ペプチド模倣体を開発および検査した。
【0031】
特定のペプチド模倣体D2は前立腺がん細胞に対して無毒であり、前立腺がん細胞に入り込み、ゲノム経路を経由してアンドロゲン受容体シグナル伝達を選択的に標的化する。この合成ペプチド模倣体D2がインビトロでAR-PELP-1相互作用、ARの核移行、AR媒介性ゲノムシグナル伝達、および前立腺がん細胞のDHT媒介性増殖を遮断可能であることが示されている。D2のIC
50は約40nMであるようである。ARまたはPELP-1の過剰発現がD2媒介性遮断を克服しうることから、D2ペプチド模倣体の効果はAR-PELP-1相互作用の遮断に特異的であるようである。本発明者らはついに、D2の腫瘍内または腹腔内投与が、ヌードマウスの皮下に埋め込まれた前立腺がん細胞の成長を著しく抑止することができることを示した。これに比べて、対照ペプチド模倣体または対照溶媒のいずれかの投与は、インビトロまたはインビボで前立腺がん細胞の成長に効果を示さない。さらに、本発明者らはD2の数百個の変種を作成および検査し、同様または同等の効力を有する関連ペプチド模倣体を同定した。
【0032】
これらの発見は刺激的なものであり、前立腺がんにおけるARシグナル伝達経路を標的化する潜在的に実行可能な方法に相当する。これらのペプチド模倣体はペプチドの利点(例えば高い効力および選択性、小さい副作用)と小有機分子の利点(例えば高い酵素安定性、経口バイオアベイラビリティ、有効な細胞透過性)との両方を有する。さらに、強固なオリゴベンズアミド骨格を有するペプチド模倣体を使用する新規プラットフォームは、最適なAR相互作用のために決定的に重要である適当なヘリックス構造における選択されるアミノ酸側鎖の提示を可能にする。
【0033】
I. 定義
本発明の理解を容易にするために、いくつかの用語を以下で定義する。本明細書に定義される用語は、本発明に関連性のある領域における当業者が一般的に理解する意味を有する。「a」、「an」および「the」などの用語は、唯一の実体のみを指すのではなく、その具体例が例示のために使用可能な一般的クラスを含むように意図されている。本明細書における用語法は本発明の特定の態様を記述するために仕様されるが、それらの使用は、特許請求の範囲において概説される場合を除いて本発明を限定するものではない。
【0034】
本明細書において使用する「アルキル」という用語は、約1〜20個の炭素を有する分岐または非分岐炭化水素鎖を示し、「低級アルキル」は、約1〜10個の炭素を有する分岐または非分岐炭化水素鎖を示す。非限定的な例としてはメチル、エチル、プロピル、n-プロピル、イソプロピル、ブチル、n-ブチル、sec-ブチル、イソブチル、t-ブチル、1-メチルプロピル、ペンチル、イソペンチル、sec-ペンチル、2-メチルペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、オクタデシルなどが挙げられる。アルキルは、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチルおよびシクロヘキシルなどのシクロアルキルを含む。別途指定されない限り、これらの基は、そのような鎖に一般的に結合する1個または複数の官能基、例えばヒドロキシル、ブロモ、フルオロ、クロロ、ヨード、メルカプトまたはチオ、シアノ、アルキルチオ、ヘテロシクリル、アリール、ヘテロアリール、カルボキシル、カルボアルコイル(carbalkoyl)、カルボキサミジル(carboxamidyl)、アルコキシカルボニル、カルバモイル、アルキル、アルケニル、アルキニル、ニトロ、アミノ、アルコキシ、アミド、イミノ、イミド、グアニジノ、ヒドラジド、アミノオキシ(aminoxy)、アルコキシアミノなどで置換されて、トリフルオロメチル、3-ヒドロキシヘキシル、2-カルボキシプロピル、2-フルオロエチル、カルボキシメチル、シアノブチルなどのアルキル基を形成してもよい。
【0035】
本明細書において使用される「アリール」という用語は、約4〜20個の炭素原子を有する少なくとも1個の芳香環を形成する炭素原子の鎖、例えば、いずれも置換されていてもよいフェニル、ナフチル、ビフェニル、アントラセニル、ピレニル、テトラヒドロナフチルなどを示す。アリールは、ベンジル、フェネチルおよびフェニルプロピルなどのアリールアルキル基も含む。アリールは、置換されていてもよい5員または6員炭素環式芳香環を含有する環系であって、二環式であり、多環式であり、架橋し、かつ/または縮合しうる系を含む。系は、芳香族または部分もしくは完全飽和である環を含みうる。環系の例としてはフェニル、ナフチル、ビフェニル、アントラセニル、ピレニル、イミダゾリル、トリアゾリル、テトラゾリル、オキサゾリル、チオフェニル、ピリジル、ピロリル、フラニル、キノリル、キノリニル、インデニル、ペンタレニル、1,4-ジヒドロナフチル、インダニル、ベンゾイミダゾリル、ベンゾチオフェニル、インドリル、ベンゾフラニル、イソキノリニルなどが挙げられる。別途指定されない限り、この基は、そのような鎖に一般的に結合する1個または複数の官能基、例えばヒドロキシル、ブロモ、フルオロ、クロロ、ヨード、メルカプトまたはチオ、シアノ、シアノアミド、アルキルチオ、複素環、アリール、ヘテロアリール、カルボキシル、カルボアルコイル、カルボキサミジル、アルコキシカルボニル、カルバミル、アルキル、アルケニル、アルキニル、ニトロ、アミノ、アルコキシ、アミド、イミノ、イミド、グアニジノ、ヒドラジド、アミノオキシ、アルコキシアミノなどで置換されて、ビフェニル、ヨードビフェニル、メトキシビフェニル、アントリル、ブロモフェニル、ヨードフェニル、クロロフェニル、ヒドロキシフェニル、メトキシフェニル、ホルミルフェニル、アセチルフェニル、トリフルオロメチルチオフェニル、トリフルオロメトキシフェニル、アルキルチオフェニル、トリアルキルアンモニウムフェニル、アミノフェニル、アミドフェニル、チアゾリルフェニル、オキサゾリルフェニル、イミダゾリルフェニル、イミダゾリルメチルフェニルなどのアリール基を形成してもよい。
【0036】
本明細書において使用する「アルケニル」という用語は、少なくとも1個の炭素-炭素二重結合(sp
2)を有する上記の約1〜50個の炭素を有する置換されていてもよい直鎖および分岐炭化水素を含む。アルケニルとしてはエテニル(またはビニル)、プロパ-1-エニル、プロパ-2-エニル(またはアリル)、イソプロペニル(または1-メチルビニル)、ブタ-1-エニル、ブタ-2-エニル、ブタジエニル、ペンテニル、ヘキサ-2,4-ジエニルなどが挙げられる。二重結合と三重結合との混合物を有する炭化水素、例えば2-ペンテン-4-イニルは、本明細書においてアルキニルに分類される。アルケニルはシクロアルケニルを含む。シス体およびトランス体、または(E)体および(Z)体が本発明内に含まれる。別途指定されない限り、これらの基は、そのような鎖に一般的に結合する1個または複数の官能基、例えばヒドロキシル、ブロモ、フルオロ、クロロ、ヨード、メルカプトまたはチオ、シアノ、アルキルチオ、ヘテロシクリル、アリール、ヘテロアリール、カルボキシル、カルボアルコイル、カルボキサミジル、アルコキシカルボニル、カルバモイル、アルキル、アルケニル、アルキニル、ニトロ、アミノ、アルコキシ、アミド、イミノ、イミド、グアニジノ、ヒドラジド、アミノオキシ、アルコキシアミノなどで置換されて、トリフルオロメチル、3-ヒドロキシヘキシル、2-カルボキシプロピル、2-フルオロエチル、カルボキシメチル、シアノブチルなどのアルキル基を形成してもよい。
【0037】
本明細書において使用する「アルキニル」という用語は、少なくとも1個の炭素-炭素三重結合(sp)を有する上記の約1〜50個の炭素を有する置換されていてもよい直鎖および分岐炭化水素を含む。アルキニルとしてはエチニル、プロピニル、ブチニルおよびペンチニルが挙げられる。二重結合と三重結合との混合物を有する炭化水素、例えば2-ペンテン-4-イニルは、本明細書においてアルキニルに分類される。アルキニルはシクロアルキニルを含まない。別途指定されない限り、これらの基は、そのような鎖に一般的に結合する1個または複数の官能基、例えばヒドロキシル、ブロモ、フルオロ、クロロ、ヨード、メルカプトまたはチオ、シアノ、アルキルチオ、ヘテロシクリル、アリール、ヘテロアリール、カルボキシル、カルボアルコイル、カルボキサミジル、アルコキシカルボニル、カルバモイル、アルキル、アルケニル、アルキニル、ニトロ、アミノ、アルコキシ、アミド、イミノ、イミド、グアニジノ、ヒドラジド、アミノオキシ、アルコキシアミノなどで置換されて、トリフルオロメチル、3-ヒドロキシヘキシル、2-カルボキシプロピル、2-フルオロエチル、カルボキシメチル、シアノブチルなどのアルキル基を形成してもよい。
【0038】
本明細書において使用する「アルコキシ」という用語は、アルキル基を分子の残りに連結させる末端酸素を有する約1〜50個の炭素を有する置換されていてもよい直鎖または分岐アルキル基を含む。アルコキシとしてはメトキシ、エトキシ、プロポキシ、イソプロポキシ、ブトキシ、t-ブトキシ、ペントキシなどが挙げられる。別途指定されない限り、アルコキシは、エーテル結合によって接続される任意の置換アルキル基、例えばアミノブトキシ、カルボキシエトキシ、ヒドロキシエトキシなども含む。「アミノアルキル」、「チオアルキル」および「スルホニルアルキル」はアルコキシに類似したものであり、アルコキシの末端酸素原子をそれぞれNH(またはNR)、SおよびSO
2で置き換えたものである。ヘテロアルキルはアルコキシ、アミノアルキル、チオアルキルなどを含む。
【0039】
上記の基のいずれかについて、修飾語Cn〜Cn'は、基の炭素原子の最小数と最大数との両方を定義する。例えば、「C
2〜C
10アルキル」は、2〜10個の炭素原子(例えば2、3、4、5、6、7、8、9もしくは10個、またはその中で導出可能な任意の範囲、例えば3〜10個の炭素原子)を有するアルキル基を意味する。
【0040】
本明細書において使用される「薬学的に許容される」という用語は、一般に安全で、無毒であり、かつ生物学的にもその他の点でも望ましくないということがない薬学的組成物を調製する上で有用であることを意味し、獣医学的使用およびヒトでの薬学的使用に許容されることを含む。
【0041】
本明細書において使用される「薬学的に許容される塩」という用語は、上記定義のように薬学的に許容されかつ所望の薬理活性を有する、本発明の化合物の塩を意味する。そのような塩としては、塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸などの無機酸、または酢酸、プロピオン酸、ヘキサン酸、ヘプタン酸、シクロペンタンプロピオン酸、グリコール酸、ピルビン酸、乳酸、マロン酸、コハク酸、リンゴ酸、マレイン酸、フマル酸、酒石酸、クエン酸、安息香酸、o-(4-ヒドロキシベンゾイル)安息香酸、桂皮酸、マンデル酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、1,2-エタンジスルホン酸、2-ヒドロキシエタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p-クロロベンゼンスルホン酸、2-ナフタレンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、カンファースルホン酸、4-メチルビシクロ[2.2.2]オクタ-2-エン-1-カルボン酸、グルコヘプトン酸、4,4'-メチレンビス(3-ヒドロキシ-2-エン-1-カルボン酸)、3-フェニルプロピオン酸、トリメチル酢酸、tert-ブチル酢酸、ラウリル硫酸、グルコン酸、グルタミン酸、ヒドロキシナフトエ酸、サリチル酸、ステアリン酸、ムコン酸などの有機酸と共に形成される酸付加塩が挙げられる。
【0042】
薬学的に許容される塩は、存在する酸性プロトンが無機塩基または有機塩基と反応可能な場合に形成可能な塩基付加塩も含む。許容される無機塩基としては水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化アルミニウムおよび水酸化カルシウムが挙げられる。許容される有機塩基としてはエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、トロメタミン、N-メチルグルカミンなどが挙げられる。
【0043】
II. オリゴベンズアミドおよび合成方法
本発明は、タンパク質媒介性機能の刺激または阻害のいずれかを導く特異的なタンパク質相互作用を可能にする適当な三次元配向において対応するタンパク質リガンドの本質的官能基を提示する、合成分子を提供する。
【0044】
ペプチド模倣体(ペプチドミメティクスとしても知られる)は、天然ペプチドのペプチド骨格を欠く小分子化合物である。この修飾にもかかわらず、それらは、標的タンパク質に相補的な特徴的三次元パターンにおいて本質的な化学官能基(すなわちファルマコフォア)を提示することで対応する受容体または酵素と相互作用する能力を依然として保持する(Marshall, 1993; Ahn et al., 2002)。これにより、ペプチド模倣体はペプチドの利点(例えば高い効力および選択性、小さい副作用)と小有機分子の利点(例えば高い酵素安定性および経口バイオアベイラビリティ)とを潜在的に併せ持つ。
【0045】
α-ヘリックスを模倣するために、本発明は、構造が強固であり、α-ヘリックスと同様に置換基を配置して配向させる、オリゴベンズアミド足場を提供する。例えば、強固なトリスベンズアミド上での置換は、理想的α-ヘリックスのi位、i+4位およびi+7位に見られるアミノ酸の側鎖に対応する3個の官能基(R
1〜3)の容易な配置を可能にした。さらに、本発明者らは、標的タンパク質のα-ヘリックスセグメントを表すいくつかのトリスベンズアミドを調製する容易な合成経路を開発した。参照により本明細書に組み入れられる米国特許出願公開第2009/0012141号は、種々のオリゴベンズアミド化合物およびその合成方法を開示している。
【0046】
より具体的には、本発明は、2個または3個の置換されていてもよいベンズアミド、いわゆる「ビス」および「トリス」ベンズアミドを含む、例示されるオリゴベンズアミドペプチド模倣化合物を提供する。さらに、エステル結合、チオエステル結合、チオアミド結合、トランス-エチレン結合、エチル結合、メチルオキシ結合、メチルアミノ結合、ヒドロキシエチル結合、カルバメート結合、尿素結合、イミド結合、ヒドラジド結合、アミノオキシ結合、または当業者に公知の他の結合を含む、置換されていてもよいベンズアミドの間の結合は、必要に応じて変動しうる。また、オリゴベンズアミドペプチド模倣化合物はアミノ酸、オリゴペプチド、置換されていてもよいアルキル、または当業者に公知の他の構造に結合しうる。
【0047】
置換ベンズアミド上での置換は一般にベンゼン環上であり、各ベンゼン環の2位、3位、4位、5位または6位上でありうる。置換は各ベンズアミド環上の同一位置においてでもよく、各ベンゼン環上の異なる位置においてでもよい。例えば、置換はエーテル結合、チオエーテル結合、アミン結合、アミド結合、カルバメート結合、尿素結合、ならびに炭素-炭素(単、二重および三重)結合を含む化学結合によってベンズアミド環に接続され、置換は置換されていてもよいアルキル基、低級アルキル基、アルコキシ基、アルコキシアルキル基、ヒドロキシ基、ヒドロキシアルキル基、アルケニル基、アミノ基、イミノ基、ニトレート基、アルキルアミノ基、ニトロソ基、アリール基、ビアリール基、架橋アリール基、縮合アリール基、アルキルアリール基、アリールアルキル基、アリールアルコキシ基、アリールアルキルアミノ基、シクロアルキル基、架橋シクロアルキル基、シクロアルコキシ基、シクロアルキル-アルキル基、アリールチオ基、アルキルチオ基、アルキルスルフィニル基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、アリールスルフィニル基、カルボキサミド基、カルバモイル基、カルボキシル基、カルボニル基、アルコキシカルボニル基、ハロゲン基、ハロアルキル基、ハロアルコキシ基、ヘテロアリール、複素環、アリール複素環、複素環化合物、アミド、イミド、グアニジノ、ヒドラジド、アミノオキシ、アルコキシアミノ、アルキルアミド、カルボン酸エステル基、チオエーテル基、カルボン酸、ホスホリル基、またはその組み合わせを含む。
【0048】
本発明はまた、少なくとも2個の置換されていてもよいベンズアミドを含み、各置換ベンズアミドがベンゼン環上に1個の置換を有する、オリゴベンズアミドペプチド模倣化合物を提供する。置換は、エーテル結合、チオエーテル結合、アミン結合、アミド結合、カルバメート結合、尿素結合、ならびに炭素-炭素(単、二重および三重)結合を含む化学結合によってオリゴベンズアミドペプチド模倣化合物のベンゼン環に個々に結合している。置換は置換されていてもよいアルキル基、低級アルキル基、アルコキシ基、アルコキシアルキル基、ヒドロキシ基、ヒドロキシアルキル基、アルケニル基、アミノ基、イミノ基、ニトレート基、アルキルアミノ基、ニトロソ基、アリール基、ビアリール基、架橋アリール基、縮合アリール基、アルキルアリール基、アリールアルキル基、アリールアルコキシ基、アリールアルキルアミノ基、シクロアルキル基、架橋シクロアルキル基、シクロアルコキシ基、シクロアルキル-アルキル基、アリールチオ基、アルキルチオ基、アルキルスルフィニル基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、アリールスルフィニル基、カルボキサミド基、カルバモイル基、カルボキシル基、カルボニル基、アルコキシカルボニル基、ハロゲン基、ハロアルキル基、ハロアルコキシ基、ヘテロアリール、複素環、アリール複素環、複素環化合物、アミド、イミド、グアニジノ、ヒドラジド、アミノオキシ、アルコキシアミノ、アルキルアミド、カルボン酸エステル基、チオエーテル基、カルボン酸、ホスホリル基、またはその組み合わせを一般に含む。
【0049】
米国特許出願公開第2009/0012141号は、例えば本明細書の
図2における本発明のα-ヘリックス模倣化合物を調製するための合成スキームを提供する。その文献における具体例は、4-アミノ-3-ヒドロキシ安息香酸化合物7から出発し、これをN-Ac保護メチルエステル化合物8に変換することで作製された15個のα-ヘリックス模倣化合物を示す。当業者に公知である種々のアルキルハロゲン化物および塩基(例えばNaOH)を使用して、様々なアルキル基がヒドロキシル基に導入された。アルキル化反応後、塩基(LiOHのような)を使用してメチルエステル化合物9が加水分解され、カップリング試薬(BOPのような)を使用して4-アミノ-3-ヒドロキシ安息香酸メチル化合物10が遊離安息香酸にカップリングされて、ヘリックスのi位に対応する1個のアルキル基を含有するベンズアミド化合物11が得られた。オリゴベンズアミド化合物を合成するためにこれらの工程が繰り返された。当業者は、そのような方法の、本明細書に開示される化合物などの他の化合物の合成におけるさらに広範な応用性を理解するであろう。
【0050】
II. 薬学的製剤および処置方法
A. 製剤
本発明の活性組成物は、古典的な薬学的製剤を含み得る。本発明のこれらの組成物の投与は、標的組織が任意の一般的経路を経由して接近可能である限り、その経路を経由して行われる。これは経口、経鼻、頬側、経膣または局所を含む。あるいは、投与は皮内、皮下、筋肉内、腹腔内または静脈内注射によるものでもよい。通常、そのような組成物は上述の薬学的に許容される組成物として投与される。直接腫瘍内投与、腫瘍の灌流、あるいは、例えば局在的もしくは限局的な脈管構造もしくはリンパ系中または切除済みの腫瘍床(例えば術後カテーテル)中の腫瘍に対する局在投与または限局投与が特に関心の対象となる。実質的にあらゆる腫瘍について、全身送達も想定される。これは、微小がんまたは転移性がんを攻撃するために特に重要であるとわかる。
【0051】
また、活性化合物を遊離塩基または薬理学的に許容される塩として投与することができ、ヒドロキシプロピルセルロースなどの界面活性剤と好適に混合された水中で調製することができる。分散液をグリセリン、液体ポリエチレングリコールおよびその混合物中、ならびに油中で調製することもできる。普通の貯蔵および使用条件下で、これらの製剤は、微生物の成長を防ぐ保存料を含有する。
【0052】
注射液剤用に好適な薬学的形態としては、滅菌水溶液剤または水性懸濁液剤、および滅菌注射用溶液剤または懸濁液剤の即時調製用の滅菌散剤が挙げられる。いずれの場合でも、形態は滅菌されていなければならず、容易なシリンジ注入可能性が存在する限りにおいて流動的でなければならない。それは製造条件および貯蔵条件下で安定でなければならず、細菌および真菌などの微生物の汚染作用に対して保存されなければならない。担体は、水、エタノール、ポリオール(例えばグリセリン、プロピレングリコールおよび液体ポリエチレングリコールなど)、その好適な混合物、ならびに植物油を例えば含有する溶媒または分散媒でありうる。例えば、レシチンなどのコーティングの使用、分散液の場合の必要な粒径の維持、および界面活性剤の使用により、適当な流動性を維持することができる。微生物の作用の阻止をさまざまな抗菌剤および抗真菌剤、例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸、チメロサールなどによってもたらすことができる。多くの場合、等張剤、例えば糖または塩化ナトリウムを含むことが好ましい。注射用組成物の長期吸収を組成物中での吸収遅延剤、例えばモノステアリン酸アルミニウムおよびゼラチンの使用によってもたらすことができる。
【0053】
所要量の活性化合物を適切な溶媒中に、上記で列挙した各種の他の成分を必要に応じて組み入れた後、濾過滅菌を行うことで、滅菌注射用溶液が調製される。一般に、塩基性分散媒および上記で列挙した成分のうち必要な他の成分を含有する滅菌媒体に各種の滅菌有効成分を組み入れることで、分散液は調製される。滅菌注射用溶液の調製用の滅菌粉末の場合、好ましい調製方法は、有効成分と任意のさらなる所望の成分との粉末を、既に滅菌濾過したその溶液から得る、真空乾燥および凍結乾燥技術である。
【0054】
本明細書において使用される「薬学的に許容される担体」は、あらゆる溶媒、分散媒、コーティング、抗菌剤および抗真菌剤、等張剤および吸収遅延剤などを含む。薬学的に活性な物質用のそのような媒体および薬剤の使用は当技術分野において周知である。任意の従来の媒体または薬剤が有効成分と適合しない場合を除いて、治療用組成物中でのその使用が想定される。補足的な有効成分も組成物に組み入れることができる。
【0055】
本発明の組成物は中性形態または塩形態で調剤することができる。薬学的に許容される塩としては、例えば塩酸もしくはリン酸などの無機酸、または酢酸、シュウ酸、酒石酸、マンデル酸などの有機酸によって形成される、(タンパク質の遊離アミノ基によって形成される)酸付加塩が挙げられる。また、遊離カルボキシル基によって形成される塩は、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化アンモニウム、水酸化カルシウムまたは水酸化第二鉄などの無機塩基、およびイソプロピルアミン、トリメチルアミン、ヒスチジン、プロカインなどの有機塩基から誘導されうる。
【0056】
調剤時点で、溶液剤は、剤形と適合する様式で、かつ治療上有効な量で投与される。患者または対象に投与される本発明の組成物の実際の投与量は、体重、状態の重症度、処置される疾患の種類、以前のまたは同時の治療介入、患者の特発性、および投与経路などの身体的および生理的要因により決定することができる。いずれにせよ、投与を担う開業医は、組成物中の有効成分の濃度、および個々の対象に適切な用量を決定する。
【0057】
薬学的ペプチド模倣体組成物は、治療有効量のオリゴベンズアミドペプチド模倣化合物、またはオリゴベンズアミドペプチド模倣化合物に基づくその塩、溶媒和物もしくは誘導体と1つもしくは複数の薬学的に許容される担体とを含む。例えば、ビスまたはトリスベンズアミドペプチド模倣体組成物は、1つまたは複数のさらなる有効成分、希釈剤、賦形剤、活性薬剤、潤滑剤、保存料、安定剤、湿潤剤、乳化剤、浸透圧に影響を与えるための塩、緩衝剤、着色料、香味料、芳香物質、浸透促進剤、界面活性剤、脂肪酸、胆汁酸塩、キレート剤、コロイド、およびそれらの組み合わせを含んでもよい。薬学的ペプチド模倣化合物は、経口投与、皮膚科学的投与、経皮投与または非経口投与に、溶液剤、乳剤、リポソーム含有製剤、錠剤、カプセル剤、ゲルカプセル剤、液体シロップ剤、ソフトゲル剤、坐薬、浣腸剤、パッチ剤、軟膏剤、ローション剤、クリーム剤、ゲル剤、ドロップ剤、スプレー剤、液剤または散剤の形態で適応しうる。
【0058】
B. 前立腺がん
前立腺がんは、男性生殖器系内の腺である前立腺においてがんが発生する疾患である。2007年には約220,000件の新規症例が報告され、27,000件超の死亡がこの悪性腫瘍に起因した。前立腺の細胞が変異して制御不能に増殖し始める際にそれは生じる。これらの細胞は前立腺から身体の他の部分、特に骨およびリンパ節に拡散(転移)しうる。前立腺がんは疼痛、排尿困難、勃起不全および他の症状を引き起こしうる。
【0059】
前立腺がんの有病率は世界中で大きく異なる。有病率は国ごとに大きく異なるが、南アジアおよび東アジアで最も一般的ではなく、欧州でより一般的であり、米国で最も一般的である。American Cancer Societyによれば、前立腺がんはアジア人男性で最も一般的ではなく、黒人男性で最も一般的であり、白人男性の数字はその中間である。しかし、これらの高有病率は検出率の増大によって影響されることがある。
【0060】
前立腺がんは50歳を超える男性で最も頻繁に発生する。前立腺は男性生殖器系において独占的であることから、このがんは男性でのみ起こりうる。それは米国の男性で最も一般的ながんの種類であり、肺がんを除けば最も多くの男性の死因となるがんである。しかし、前立腺がんを発生させる多くの男性は症状を決して示さず、何の治療も受けず、最終的に他の原因で死亡する。遺伝学および食事を含む多くの要因が前立腺がんの発生に関係している。
【0061】
前立腺がんスクリーニングは、疑われていないがんを発見する試みである。スクリーニング検査は生検などのより具体的な追跡検査につながりうるものであり、そこでは前立腺の小片がより綿密な研究のために除去される。2006年時点での前立腺がんスクリーニングの選択肢としてはデジタル直腸診および前立腺特異抗原(PSA)血液検査が挙げられる。前立腺がんのスクリーニングは、スクリーニングの利点が追跡診断検査およびがん処置の危険性を上回るかどうか明らかでないことから、問題がある。
【0062】
前立腺がんはゆっくりと成長するがんであり、比較的高年齢の男性で非常に一般的である。実際、大部分の前立腺がんは、症状を引き起こす地点まで成長することは決してなく、前立腺がんを有する大部分の男性は、前立腺がんが彼らの生命に影響を与える前に他の原因で死亡する。PSAスクリーニング検査は、決して生命を脅かすものにならないこれらの小さながんを検出することができる。PSA検査をこれらの男性において行うことは、さらなる検査および処置を含む過剰診断につながることがある。前立腺生検などの追跡検査は疼痛、出血および感染症を引き起こすことがある。前立腺がん処置は、尿失禁および勃起不全を引き起こすことがある。したがって、PSAスクリーニングの前に診断手順および処置の危険性および利点を慎重に考慮することが必須である。
【0063】
前立腺がんスクリーニングは50歳以降に一般に開始するが、これは人種的背景により変動しうる。したがって、American Academy of Family PhysiciansおよびAmerican College of Physiciansは、医師がスクリーニングの危険性および利点を議論し、個々の患者の好みに基づいて決定することを推奨している。公式に推奨されるカットオフ値は存在しないが、多くの医療提供者は、年齢が進行して平均余命が減少するに従って前立腺がん治療が有害無益になることがあるという懸念が理由で、75歳を超える男性においてPSAのモニタリングを停止している。
【0064】
デジタル直腸診(DRE)は、試験者がグローブ付きの潤滑させた指を直腸に挿入して前立腺のサイズ、形状および手触りを点検する手順である。不規則な、硬いまたはでこぼこの区域は、がんを含んでいることがあるためさらなる評価が必要である。DREは前立腺の背面のみを評価するが、前立腺がんの85%は前立腺のこの部分において生じる。DREにおいて感知可能な前立腺がんは一般に比較的進行している。DREの使用は、唯一のスクリーニング試験として使用した場合、前立腺がん死を予防することが決して示されなかった。
【0065】
PSA検査は、前立腺が産生する酵素である前立腺特異抗原の血中レベルを測定する。具体的には、PSAは、カリクレインと同様のセリンプロテアーゼである。その正常な機能は、射精後のゼラチン状の精液を液化することで、精子が子宮頸部をより容易に進むことを可能にすることである。
【0066】
4ng/mL(ナノグラム毎ミリリットル)未満のPSAレベルが正常であると一般に考えられるが、50歳未満の個人においてはカットオフ値2.5が正常値の上限として時々使用され、一方、4ng/mLを超えるレベルは異常であると考えられる(しかし、65歳を超える男性において、各検査室の基準範囲に応じて最大6.5ng/mLのレベルが許容されることがある)。4〜10ng/mLのPSAレベルは正常よりも高い前立腺がんの危険性を示すが、危険性はこの6ポイントの範囲内では上昇しないようである。PSAレベルが10ng/mLを超える際に、がんとの関連は強くなる。しかし、PSAは完璧な検査ではない。前立腺がんを有する一部の男性は上昇したPSAを有さず、上昇したPSAを有する大部分の男性は前立腺がんを有さない。
【0067】
PSAレベルはがん以外の多くの理由で変化しうる。高PSAレベルの2つの一般的な原因は、前立腺の腫脹(良性前立腺肥大(BPH))および前立腺の感染症(前立腺炎)である。また、それは射精後24時間およびカテーテル挿入後数日間上昇しうる。PSAレベルは、BPHまたは脱毛症を処置するために使用される薬物を使用する男性において低下する。これらの薬物、フィナステリド(プロスカル(Proscar)またはプロペシア(Propecia)として販売)およびデュタステリド(アボダート(Avodart)として販売)は、PSAレベルを50%以上減少させることができる。
【0068】
単純なPSAスクリーニングの欠点を回避するために、PSAを評価するいくつかの他の方法が開発された。年齢特異的基準範囲の使用は、検査の感度および特異性を改善する。PSA速度と呼ばれるPSAの経時的上昇速度は、4〜10ng/mlのPSAレベルを有する男性を評価するために使用されていたが、有効なスクリーニング検査であることが2006年時点で証明されていない。PSAレベルと、超音波または磁気共鳴画像診断により測定される前立腺のサイズとを比較することも検討された。PSA密度と呼ばれるこの比較は、高コストであり、かつ、有効なスクリーニング検査であることが2006年時点で証明されていない。血中PSAは遊離していることもあれば、他のタンパク質に結合していることもある。遊離または結合しているPSAの量を測定することは、さらなるスクリーニング情報を提供することができるが、2006年時点では、これら測定値の有用性に関する疑問により、それらの広範な使用が限定されている。
【0069】
ある男性が前立腺がんの症状を有する場合、またはスクリーニング検査が癌の危険性の増大を示す場合、より侵襲的な評価が提案される。前立腺がんの診断を完全に確認することができる唯一の検査は、生検、すなわち顕微鏡検査用の前立腺の小片の除去である。しかし、生検前に、いくつかの他の手段を使用して、前立腺および尿路に関するさらなる情報を集めることがある。膀胱鏡検査は、尿道に挿入される薄い可撓性の撮像管を使用して膀胱の内側から尿路を示す。経直腸超音波検査は、直腸中のプローブから音波を使用して前立腺の像を作り出す。
【0070】
がんが疑われる場合は生検が提案される。生検の間、泌尿器科医は前立腺から直腸を経由して組織試料を得る。生検銃は特別な中空針(通常は前立腺の各側面に3〜6本)を挿入し、1秒未満で除去する。前立腺生検は外来診療で日常的に行われ、入院をほとんど必要としない。男性の55パーセントが前立腺生検の間に不快感を報告している。
【0071】
次に組織試料を顕微鏡下で検査することで、がん細胞が存在するかどうかを決定し、かつ発見された任意のがんの微視的な特徴を評価する。がんが存在する場合、病理医は腫瘍の悪性度を報告する。悪性度は、腫瘍組織がどの程度正常前立腺組織と異なるかを伝えるものであり、腫瘍がどれだけの速さで成長しそうであるかを示唆する。グリーソンシステムが、前立腺腫瘍を2〜10に悪性度決定するために使用され、グリーソンスコア10は最大の異常を示す。病理医は、顕微鏡下で観察される最も一般的なパターンに1〜5の数を割り当てた後、2番目に一般的なパターンに同じことを行う。これら2つの数字の合計がグリーソンスコアである。Whitmore-Jewett病期が、時々使用される別の方法である。腫瘍の悪性度が、処置推奨を決定するために使用される主な要因の1つであることから、腫瘍の適切な悪性度決定は決定的に重要である。
【0072】
前立腺がんを評価する重要な部分は、病期、すなわちがんがどの程度拡散しているかを決定することである。病期を知ることは、予後を確定することに役立ち、治療を選択する際に有用である。最も一般的なシステムは4病期TNMシステムである(腫瘍/リンパ節/転移の略)。その構成要素としては腫瘍のサイズ、関与するリンパ節の数、および任意の他の転移の存在が挙げられる。
【0073】
任意の病期決定システムにより行われる最も重要な区別は、がんが依然として前立腺に限局されているか否かである。TNMシステムにおいて、臨床的T1およびT2がんは前立腺にのみ見られ、一方、T3およびT4がんは他の場所に拡散している。いくつかの検査を使用して拡散の証拠を探すことができる。これらとしては、骨盤内での拡散を評価するためのコンピュータ断層撮影、骨への拡散を探す為の骨スキャン、ならびに、前立腺被膜および精嚢を綿密に評価するための直腸内コイル磁気共鳴画像診断が挙げられる。骨スキャンは、転移する多くの他のがんに見られることとは反対の、骨転移の区域内の骨密度の増大による造骨性の外観を明らかにするはずである。
【0074】
前立腺がんは手術、放射線療法、ホルモン療法、たまに化学療法、プロトン療法、またはこれらの何らかの組み合わせによって処置することができる。男性の年齢および基礎的な健康、ならびに拡散の程度、顕微鏡下での外観、および初期処置に対するがんの応答が、疾患の予後を決定する上で重要である。前立腺がんが比較的高年齢の男性の疾患であることから、多くの人は、ゆっくりと進行する前立腺がんが拡散しうるかまたは症状を引き起こしうる前に他の原因で死亡する。これにより処置の選択が難しくなる。局在化した前立腺がん(前立腺内に含まれる腫瘍)を治療的意図で処置するか否かの決定は、患者の生存および生活の質に関する予想される有利な効果と有害な効果との間の患者のトレードオフである。
【0075】
「積極的サーベイランス」とも呼ばれる慎重な経過観察とは、侵襲的処置なしの観察および定期的モニタリングを意味する。慎重な経過観察は、初期のゆっくりと成長する前立腺がんが比較的高年齢の男性に見られる場合にしばしば使用される。慎重な経過観察は、手術、放射線療法またはホルモン療法の危険性が可能性のある利点を上回る場合にも提案されうる。症状が発生する場合、またはがんの成長が加速する徴候(例えば急速に上昇するPSA、反復生検でのグリーソンスコアの増大など)がある場合、他の処置を開始することがある。初期腫瘍について慎重な経過観察を選択する大部分の男性は最終的に腫瘍進行の徴候を示し、3年以内に処置を開始する必要があることがある。慎重な経過観察を選択する男性は手術および放射線照射の危険性を回避するが、転移(がんの拡散)の危険性は増大することがある。比較的低年齢の男性では、積極的サーベイランスの試みは処置を完全に回避することを意味しないことがあるが、当然数年以上の遅延を可能としうるものであり、その間、生活の質への積極的処置の影響を回避することができる。これまでの公表データは、慎重に選択された男性がこのアプローチによって治癒の窓口を見逃すことがないことを示唆している。また、観察期間の間に年齢の進行によって発生するさらなる健康問題によって、手術および放射線療法を受けることがより困難になることがある。
【0076】
臨床的に治療不要な前立腺腫瘍は、推奨されるガイドライン(異常DREおよび高PSA)に従わない生検を医師が誤って指示する際に偶然発見されることが多い。泌尿器科医は、PSAが他の理由、すなわち前立腺炎などのために上昇していないことを点検しなければならない。腫瘍が臨床的に治療不要である(異常DREまたはPSAなし)場合に慎重な経過観察を選択した患者について、泌尿器科医は年1回の生検をしばしば推奨する。腫瘍の小さなサイズをこうしてモニタリングすることができ、患者は腫瘍が腫脹する場合にのみ手術を受けることを決断することができ、腫脹は数年かかることもあれば決して起こらないこともある。
【0077】
前立腺の外科的除去、すなわち前立腺摘除術は、初期前立腺がんの、または放射線療法に応答できなかったがんの一般的な処置である。最も一般的な種類は、外科医が腹部切開を通じて前立腺を除去する場合の根治的恥骨後式前立腺摘除術である。別の種類は、外科医が陰嚢と肛門との間の皮膚である会陰の切開を通じて前立腺を除去する場合の根治的会陰式前立腺摘除術である。根治的前立腺摘除術は、腹部の一連の小さな(1cm)切開を通じて腹腔鏡下で手術ロボットの支援ありまたはなしで行ってもよい。
【0078】
根治的前立腺摘除術は、前立腺を超えて拡散していない腫瘍に有効であり、治癒率はPSAレベルおよびグリーソン悪性度などの危険因子に依存する。しかし、それは前立腺がん生存者の生活の質を著しく改変する神経損傷を引き起こすことがある。最も一般的な重大合併症は尿制御の損失およびインポテンツである。両合併症の報告される有病率は、どのように評価されるか、誰によって評価されるか、および術後どれほどの期間評価されるか、ならびに設定(例えば学術的シリーズ対コミュニティベースまたは人口ベースのデータ)に応じて大きく異なる。陰茎の感覚、およびオーガズムに達する能力は通常は無事なままであるが、勃起および射精はしばしば損なわれる。シルデナフィル(バイアグラ)、タダラフィル(シアリス)またはバルデナフィル(レビトラ)などの薬物はある程度の能力を回復しうる。臓器限局性の疾患を有する大部分の男性では、より限定的な「神経温存」技術が尿失禁およびインポテンツを回避することに役立つことがある。
【0079】
根治的前立腺摘除術は伝統的に、がんが小さい場合に単独で使用されてきた。断端陽性または局在的に進行した疾患が病理に見られる場合、アジュバント放射線療法が生存率の向上をもたらすことがある。また、がんが放射線療法に応答していない場合、手術が提案されることがある。しかし、放射線療法が組織変化を引き起こすことから、放射線照射後の前立腺摘除術は合併症のより高い危険性を示す。
【0080】
「TURP」と一般的に呼ばれる経尿道的前立腺切除術は、膀胱から陰茎への管(尿道)が前立腺腫脹により遮断される場合に行われる外科手技である。TURPは一般に良性疾患向けであり、前立腺がんの決定的な処置としては意図されていない。TURPの間、小さな管(膀胱鏡)を陰茎内に配置し、遮断を行う前立腺を切除する。
【0081】
がんが前立腺を超えて拡散した転移性疾患において、精巣の除去(精巣摘出術)を行うことで、テストステロンレベルを減少させ、がんの成長を制御することができる。
【0082】
放射線療法(radiotherapy)としても知られる放射線療法は、前立腺がん細胞を死滅させるために電離放射線を使用する。γ線およびX線などの電離放射線は、組織に吸収される際に細胞中のDNAを損傷し、これによりアポトーシスの可能性が増大する。前立腺がんの処置では2つの異なる種類の放射線療法、すなわち体外照射療法および近接照射療法が使用される。
【0083】
体外照射療法は、ビームとして前立腺に向けられる高エネルギーX線を生成するために直線加速器を使用する。強度変調放射線療法(IMRT)と呼ばれる技術を使用して、腫瘍の形状と一致するように放射線を調整することで、膀胱および直腸の損傷を減らしながら前立腺および精嚢により多い線量を投与することを可能にすることができる。体外照射療法は、数週間にわたって放射線治療センターへの毎日の来診によって一般に行われる。新たな種類の放射線療法は伝統的な処置よりも副作用が少ないことがあり、これらの1つはトモセラピーである。
【0084】
永久挿入近接照射療法は、低度〜中等度のリスク特徴を示す患者に一般的な処置選択肢であり、外来診療で行うことができ、相対的に低い罹患率を伴う良好な10年予後と関連している。それは、放射性物質(ヨウ素
125またはパラジウム
103などの)を含有する約100個の小さな「シード」を脊椎麻酔または全身麻酔下で針によっての皮膚を通じて腫瘍内に直接配置することを包含する。これらのシードは、短距離しか移動することができない比較的低エネルギーのX線を放射する。シードは最終的には不活性になるが、前立腺に永久にとどまる。埋め込まれたシードを有する男性からの他の物質に曝露される危険性は一般にわずかであると認められる。
【0085】
放射線療法は前立腺がん処置において一般的に使用される。それは初期がんについて手術の代わりに使用してもよく、前立腺がんの進行病期において有痛性の骨転移を処置するために使用してもよい。放射線療法単独ではがんを治癒する可能性が比較的低い場合、中等度リスク疾患について放射線処置をホルモン療法と併用してもよい。一部の放射線腫瘍医は、中等度〜高度のリスク状況について体外照射療法と近接照射療法とを併用する。1つの研究は、局在化した前立腺がんを有する患者において、6ヶ月のアンドロゲン抑制療法と体外照射療法との併用が、放射線照射のみと比べて向上した生存率を示すことを発見した。他の放射線腫瘍医は、体外照射療法、近接照射療法およびホルモン療法の「三様式」併用を使用する。
【0086】
放射線療法のそれほど一般的ではない用途は、がんが脊髄を圧迫する場合、または時として術後、例えばがんが精嚢中、リンパ節中、前立腺被膜、もしくは生検材料の断端に見られる場合である。
【0087】
医学的問題によって手術が比較的危険である男性には放射線療法がしばしば提案される。放射線療法は、前立腺に限局された小さな腫瘍を手術とほぼ同様に治癒するようである。しかし、2006年時点でいくつかの問題、例えば、放射線を骨盤の残りに投与すべきか否か、吸収線量をどの程度とすべきか、およびホルモン療法を同時に行うべきか否かが未解決のままである。
【0088】
処置に入って数週間後に放射線療法の副作用が起こる可能性がある。両種類の放射線療法は、放射線性直腸炎による下痢および直腸出血、ならびに尿失禁およびインポテンツを引き起こすことがある。症状は経時的に改善される傾向がある。体外照射療法を受けた男性は、後に結腸がんおよび膀胱がんを発生させる危険性が高まる。
【0089】
凍結手術は、前立腺がんを処置する別の方法である。それは根治的前立腺摘除術よりも侵襲的でなく、全身麻酔はそれほど一般的には使用されない。超音波ガイダンスの下で、金属ロッドを会陰の皮膚を通じて前立腺に挿入する。高純度アルゴンガスを使用してロッドを冷却し、ロッドは周囲組織を-196℃(-320°F)に凍結させる。前立腺細胞内の水分が凍結する際に細胞は死滅する。温かい液体で満たされたカテーテルによって尿道は凍結から保護される。凍結手術が引き起こす尿制御に関する問題は他の処置よりも一般に少ないが、インポテンツは最大90パーセントの確率で起こる。前立腺がんの初期処置としてかつ経験ある凍結外科医の手で使用される場合、凍結手術は、根治的前立腺摘除術およびあらゆる形態の放射線照射を含むすべての他の処置よりも優れた10年生化学的無病率を示す。また、凍結手術は、放射線療法後の再発がんについて根治的前立腺摘除術よりも優れていることが示された。
【0090】
ホルモン療法は、前立腺中で産生され、大部分の前立腺がん細胞の成長および拡散に必要なホルモンであるジヒドロテストステロン(DHT)を前立腺がん細胞が得ることを遮断するために、薬物または手術を使用する。DHTを遮断することは、しばしば前立腺がんを成長停止させ、さらには収縮させる。しかし、ホルモン療法に最初に応答するがんは通常1〜2年後には耐性を有するようになることから、ホルモン療法は滅多に前立腺がんを治癒しない。したがって、ホルモン療法は通常、がんが前立腺から拡散した場合に使用される。また、がんの再発を予防することを支援するために、放射線療法または手術を受けた特定の男性に対してそれを行うこともある。
【0091】
前立腺がんのホルモン療法は、身体がDHTを産生するために使用する経路を標的化する。精巣、視床下部、ならびに脳下垂体、副腎および前立腺を包含するフィードバックループはDHTの血中レベルを制御する。第一に、低血中レベルのDHTは、ゴナドトロピン放出ホルモン(GnRH)を産生するように視床下部を刺激する。次にGnRHは黄体形成ホルモン(LH)を産生するように脳下垂体を刺激し、LHはテストステロンを産生するように精巣を刺激する。最後に、精巣からのテストステロンおよび副腎からのデヒドロエピアンドロステロンは、さらなるDHTを産生するように前立腺を刺激する。ホルモン療法は、この経路を任意の地点で妨害することでDHTのレベルを減少させることができる。
【0092】
ホルモン療法のいくつかの形態が存在する。精巣摘出術は、精巣を除去する手術である。精巣が身体のテストステロンの大部分を作っていることから、精巣摘出術後にテストステロンレベルは低下する。今や前立腺は、DHTを産生するためのテストステロン刺激を欠くだけでなく、DHTに変換される十分なテストステロンを有さない。
【0093】
抗アンドロゲン薬は、フルタミド、ビカルタミド、ニルタミドおよび酢酸シプロテロンなどの薬物であり、前立腺がん細胞内のテストステロンおよびDHTの作用を直接遮断する。
【0094】
DHEAなどの副腎アンドロゲンの産生を遮断する薬物としてはケトコナゾールおよびアミノグルテチミドが挙げられる。副腎が身体のアンドロゲンの約5%しか作らないことから、これらの薬物は、精巣が作る95%のアンドロゲンを遮断可能な他の方法との併用でのみ一般に使用される。これらの併用方法はアンドロゲン完全遮断(TAB)と呼ばれる。TABは抗アンドロゲン薬を使用して実現してもよい。
【0095】
GnRH作用を2つの方法のうち1つで妨害することができる。GnRHアンタゴニストはLHの産生を直接抑制し、一方、GnRHアゴニストはLHを初期刺激効果後の下方制御のプロセスを通じて抑制する。GnRHアンタゴニストの一例はアバレリクスであり、一方、GnRHアゴニストとしてはリュープロリド、ゴセレリン、トリプトレリンおよびブセレリンが挙げられる。最初にGnRHアゴニストはLHの産生を増大させる。しかし、薬物の恒常的な供給が身体の自然な産生リズムと合致しないことから、LHおよびGnRHのいずれの産生も数週間後に減少する。
【0096】
2006年時点で、最も成功したホルモン処置は精巣摘出術およびGnRHアゴニストである。GnRHアゴニストは、それらの比較的高いコストにもかかわらず、美容的および感情的理由で精巣摘出術よりも優先的にしばしば選ばれる。最終的に、アンドロゲン完全遮断は、単独で使用される精巣摘出術またはGnRHアゴニストよりも優れていることが証明されうる。
【0097】
各処置は、特定の状況でその使用を制限する不都合を有する。精巣摘出術は低リスクの手術であるが、精巣を除去する心理的影響は著しいことがある。テストステロンの損失は顔面紅潮、体重増加、性欲の損失、乳房の腫脹(女性化乳房)、インポテンツおよび骨粗鬆症も引き起こす。GnRHアゴニストは精巣摘出術と同一の副作用を最終的に引き起こすが、処置のはじめにより悪い症状を引き起こすことがある。GnRHアゴニストを最初に使用する場合、テストステロンの急上昇が転移性がんによる骨痛の増大につながることがあり、したがってこれらの副作用を軽減するために抗アンドロゲン薬またはアバレリクスがしばしば加えられる。エストロゲンは、心血管疾患および血餅の危険性を増大させることから、一般的には使用されない。抗アンドロゲン薬はインポテンツを一般的には引き起こさず、骨および筋肉の質量の損失を通常はそれほど引き起こさない。ケトコナゾールは長期使用による肝損傷を引き起こすことがあり、アミノグルテチミドは皮疹を引き起こすことがある。
【0098】
進行期前立腺がんの緩和ケアは、寿命を延長すること、および転移性疾患の症状を軽減することに重点を置く。疾患進行を遅延させ、症状を延期するために、化学療法を提案することがある。最も一般的に使用されるレジメンは、化学療法薬ドセタキセルとプレドニゾンなどの副腎皮質ステロイドとを併用する。ゾレドロン酸などのビスホスホネートは、ホルモン不応性転移性前立腺がんを有する患者において、骨折などの骨合併症、または放射線療法の必要性を遅延させることがわかった。
【0099】
転移性疾患による骨痛はモルヒネおよびオキシコドンなどのオピオイド鎮痛剤で処置される。骨転移に向けられる体外照射療法は疼痛軽減を与えることがある。ストロンチウム
89、リン
32またはサマリウム
153などの特定の放射性同位体の注射も骨転移を標的化するものであり、疼痛を軽減するために役立つことがある。
【0100】
前立腺がんの高密度焦点式超音波療法(HIFU)は、前立腺の組織を切除/破壊するために超音波を利用する。HIFU手技の間、音波を使用して前立腺組織を加熱し、これによりがん細胞を破壊する。本質的には、超音波を前立腺の特定区域に正確に集中させることで、他の組織または臓器に影響する危険性を最小限にしながら前立腺がんを除去する。音波の焦点での温度は100℃を超えることがある。超音波を集中させる能力は、失禁とインポテンツとの両方の相対的に低い発生率につながる(それぞれ0.6%および0〜20%)。国際的研究によれば、他の手技と比較した場合、HIFUは高い成功率を副作用の危険性減少と共に示す。Sonablate 500 HIFU機械を使用した研究は、10g/ml未満の前処置PSA(前立腺特異抗原)を受けた患者の94%が3年後に無がんであったことを示した。しかし、HIFUの多くの研究は、HIFU装置の製造者、または製造者の諮問委員会のメンバーによって行われた。
【0101】
HIFUは、中枢神経系の腫瘍を破壊する目的で1940年代および1950年代に最初に使用された。それ以後、HIFUは脳、前立腺、脾臓、肝臓、腎臓、乳房および骨中の悪性組織を破壊する上で有効であることが示された。今日、前立腺がんのHIFU手技は経直腸プローブを使用して行われる。この手技は10年を超えて行われており、現在は日本、欧州、カナダ、および中南米の一部で使用が承認されている。
【0102】
米国ではまだ使用が承認されていないが、多くの患者がカナダおよび中南米の施設でHIFU手技を受けている。現在はSonablate 500またはAblathermを使用する治療が利用可能である。Sonablate 500はインディアナ州インディアナポリスのFocus Surgeryによって設計され、世界中の国際HIFUセンターにおいて使用されている。
【0103】
また、いくつかの薬物およびビタミンが前立腺がんを予防することに役立つことがある。2つの栄養補助食品、すなわちビタミンEおよびセレンが、毎日摂取されると前立腺がんを予防することに役立つことがある。また、発酵大豆および他の植物源からのエストロゲン(フィトエストロゲンと呼ばれる)が前立腺がんを予防することに役立つことがある。選択的エストロゲン受容体調節薬トレミフェンが初期治験において見込みを示した。テストステロンからジヒドロテストステロンへの変換を遮断する2つの薬物、すなわちフィナステリドおよびデュタステリドも何らかの見込みを示した。2006年時点で、一次予防のためのこれらの薬物の使用は以前として試験段階にあり、この目的では広く使用されていない。これらの薬物の問題は、比較的低悪性度の前立腺腫瘍の発生を優先的に遮断することで、比較的高悪性度のがんの可能性が相対的に高くなり、あらゆる全体的な生存率の改善が無効になることがあるということである。緑茶は保護的でありうるが(そのポリフェノール含有量が理由で)、データは雑多なものである。緑茶誘導体の2006年の研究は、前立腺がんの危険性が高い患者におけるその疾患の予防に有望であることを示した。2003年に、The Cancer Council AustraliaのGraham Gilesが率いるオーストラリアの研究チームは、男性による頻繁なマスターベーションが前立腺がんの発生を予防することに役立つようであると結論づけた。Journal of the National Cancer Instituteに公表された最近の研究は、1週間に7回を超えて総合ビタミン剤を摂取することでこの疾患に罹患する危険性が増大しうることを示唆している。この研究はこの増大(ほぼ2倍)の原因である正確なビタミンを強調することはできなかったが、彼らはビタミンA、ビタミンEおよびβ-カロテンがその核心に存在しうることを示唆している。総合ビタミン剤を摂取する人々はラベルに記された一日量を決して超えないように勧告される。科学者は健康でバランスの取れた繊維が豊富な食物、および肉の摂取を減らすことを推奨している。Journal of the National Cancer Instituteに公表された2007年の研究は、カリフラワー、ブロッコリー、または他のアブラナ科の野菜の1つを週1回を超えて食べた男性が、これらの野菜を滅多に食べなかった男性よりも前立腺がんを発生させる可能性が40%低かったことを発見した。科学者は、この現象の理由が、抗アンドロゲン特性および免疫調節特性を有するこれらの野菜中のジインドリルメタンと呼ばれる植物性化学物質に関係があると考えている。この化合物は現在、National Cancer Instituteが前立腺がんの天然治療薬として調査中である。
【0104】
C. 乳がん
乳がんとは、乳房組織に由来し、乳管の裏層、または乳管に乳を供給する小葉に最も一般的に由来する、がんを意味する。乳管に由来するがんは乳管がんとして知られ、小葉に由来するがんは小葉がんとして知られる。異なる病期(拡散)、侵攻性および遺伝学的体質によって多くの異なる種類の乳がんが存在し、生存率はこれらの要因に応じて大きく変動する。生存率を予測するためにコンピュータ処理モデルが利用可能である。最善の処置によって、かつ病期決定に応じて、10年無病生存率は98%から10%まで変動する。処置としては手術、薬物(ホルモン療法および化学療法)、ならびに放射線照射が挙げられる。
【0105】
世界的に、乳がんは女性の全がん発生件数の10.4%を構成し、2番目に一般的な種類の非皮膚がん(胃がんに次いで)、および5番目に一般的ながん死の原因となっている。2004年には、乳がんは世界中で519,000件の死亡を引き起こした(がん死の7%、全死亡の約1%)。乳がんは男性よりも女性において約100倍一般的であるが、男性は診断の遅延が理由で比較的不良な予後を示す傾向がある。
【0106】
一部の乳がんは成長にホルモンであるエストロゲンおよびプロゲステロンが必要であり、それらのホルモンの受容体を有する。手術後、それらのがんは、それらのホルモンに干渉する薬物、通常はタモキシフェン、および卵巣または他の場所におけるエストロゲンの産生を遮断する薬物で処置され、これは卵巣を損傷し、受胎能を終了させることがある。手術後、低リスクのホルモン感受性乳がんをホルモン療法および放射線照射のみで処置することができる。ホルモン受容体のない乳がん、または腋窩中のリンパ節に拡散した乳がん、または特定の遺伝学的特性を発現させる乳がんは比較的危険性が高く、より侵襲的に処置される。米国において一般的である1つの標準的レジメンは、CAとして知られるシクロホスファミド+ドキソルビシン(アドリアマイシン)であり、これらの薬物はがん中のDNAを損傷するが、急速に成長する正常細胞中のDNAも損傷して、重大副作用を引き起こす。時々ドセタキセルなどのタキサン薬が加えられ、したがってこのレジームはCATとして知られる。タキサンはがん細胞中の微小管を攻撃する。欧州において一般的な同等の処置はシクロホスファミド、メトトレキサートおよびフルオロウラシル(CMF)である。トラスツズマブ(ハーセプチン)などのモノクローナル抗体は、HER2変異を有するがん細胞に使用される。手術によって見逃されたがん細胞を制御するために放射線が手術台に通常は印加され、これにより生存が通常は延長されるが、心臓への放射線曝露が後年に損傷および心不全を引き起こすことがある。
【0107】
スクリーニング技術(以下でさらに論じる)はがんの可能性を決定する上で有用であるが、スクリーニングで検出された塊が、単純な嚢胞などの良性の代替物とは逆にがんであるか否かを確認するには、さらなる検査が必要である。
【0108】
臨床設定において、乳がんは、臨床的乳房検査(訓練された医師による乳房検査)、マンモグラフィーおよび穿刺吸引細胞診の「三重検査」を使用して一般的に診断される。スクリーニングにも使用されるマンモグラフィーおよび臨床的乳房検査はいずれも、塊ががんであることのおおよその可能性を示すことができ、任意の他の病変を同定することもできる。穿刺吸引細胞診(FNAC)は、必要であればドクターズオフィスにおいて局所麻酔を使用して行うことがあり、塊からわずかな体液を抽出しようとすることを包含する。透明な体液であれば塊ががんである可能性は非常に低くなるが、血性の体液であれば顕微鏡下でのがん細胞の検査に送られることがある。これら3つの手段を一緒に使用することで良好な精度で乳がんを診断することができる。
【0109】
生検の他の選択肢としては、乳房の塊の一部が除去されるコア生検、および塊全体が除去される摘出生検が挙げられる。
【0110】
さらに、真空補助下乳房生検(VAB)は、女性のマンモグラフィーで検出された乳房病変を有する患者において系統的レビューに従って乳がんを診断することに役立ちうる。この研究において、乳がんの診断における真空補助下乳房生検の概略推定値は以下の通りであった。感度は98.1%(95% CI=0.972〜0.987)であり、特異度は100%(95% CI=0.997〜0.999)であった。しかし、異型乳管過形成(ADH)および非浸潤性乳管がん(DCIS)の過小評価率はそれぞれ20.9%(95% CI=0.177〜0.245)および11.2%(95% CI=0.098〜0.128)であった。
【0111】
乳がんスクリーニングとは、比較的早期の診断を実現する目的で、乳がんでなければ健康である女性を乳がんについて検査することを意味する。早期検出が予後を改善すると仮定される。臨床的乳房検査および乳房自己検査、マンモグラフィー、遺伝学的スクリーニング、超音波、および磁気共鳴画像診断を含むいくつかのスクリーニング検査が使用されている。
【0112】
臨床的乳房検査または乳房自己検査は、塊または他の異常について乳房を触診することを包含する。塊は、発見されるほど大きくなる時までに数年間をかけて成長していた可能性が高く、すぐに検査なしで発見されるほど大きくなるであろうことから、研究の証拠は、いずれかの種類の乳房検査の有効性を裏付けるものではない。乳がんのマンモグラフィースクリーニングは、任意の特徴的ではない腫瘤または塊について乳房を検査するためにX線を使用する。高リスクの女性、例えばがんの強力な家族歴を有する女性において、マンモグラフィースクリーニングが比較的若い年齢で推奨されており、さらなる検査としては、BRCA遺伝子について検査する遺伝学的スクリーニング、および/または磁気共鳴画像診断を挙げることができる。
【0113】
時々、乳がんは最初に手術で、次に化学療法、放射線照射またはその両方で処置される。処置は、予後および再発危険性に従って侵襲性を増大させて行われる。ステージ1のがん(およびDCIS)は優れた予後を示し、化学療法または放射線照射ありまたはなしで腫瘤摘出術で一般に処置される。しかし、侵攻性のHER2+がんはトラスツズマブ(ハーセプチン)レジームでも処置すべきである。進行性のより不良な予後、およびより大きな再発危険性を伴うステージ2および3のがんは、外科手術(リンパ節除去ありまたはなしの腫瘤摘出術または乳房切除術)、放射線照射(時々)、および化学療法(HER2+がんではトラスツズマブを追加)で一般に処置される。ステージ4の転移性がん(すなわち遠方部位に拡散)は治癒可能ではなく、手術、放射線照射、化学療法および標的化治療からのすべての処置の様々な組み合わせによって管理される。これらの処置はステージ4の乳がんの生存期間中央値を約6ヶ月増大させる。
【0114】
D. 卵巣がん
卵巣がんは、卵巣の異なった部分から生じるがん性成長である。大部分(90%超)の卵巣がんは「上皮性」として分類されており、卵巣の表面(上皮)から生じると考えられた。しかし、最近の証拠は、卵管も一部の卵巣がんの源となる可能性があることを示唆している。卵巣および卵管が互いに密接に関連していることから、これらの細胞が卵巣がんを模倣しうると仮定される。他の種類は卵細胞(胚細胞腫瘍)または支持細胞(性索/間質)から生じる。
【0115】
2004年に、米国では25,580件の新たな症例が診断され、16,090名の女性が卵巣がんで死亡した。危険性は年齢によって増大し、妊娠によって減少する。寿命リスクは約1.6%であるが、罹患した第一度近親者がいる女性は5%の危険性を有する。変異BRCA1またはBRCA2遺伝子を有する女性は特定の変異に応じて25%〜60%の危険性を有する。卵巣がんは、女性におけるがんによる死亡の第5位の原因であり、婦人科がんによる死亡の第1位の原因である。
【0116】
卵巣がんは非特異的症状を引き起こす。ステージIおよびIIのがんがステージIIIおよびIVのがんに進行すると仮定すると(但しこれは証明されていない)、早期の診断がより良い生存率をもたらすと考えられる。卵巣がんを有する大部分の女性は、1つまたは複数の症状、例えば、腹痛または腹部不快感、腹部腫瘤、腹部膨満、背痛、尿意切迫、便秘、疲労および一連の他の非特異的症状、ならびに骨盤痛、異常膣出血または不随意の体重減少などのより特異的な症状を報告している。腹腔内での体液の蓄積(腹水症)がありうる。
【0117】
卵巣がんの診断は身体所見検査(内診を含む)、血液検査(CA-125および時々他のマーカーについて)および経膣的超音波検査で開始する。診断は、腹腔を検査し、生検材料(顕微鏡分析用の組織試料)を採取しかつ腹部体液中のがん細胞を探すために、手術によって確認しなければならない。通常、処置は化学療法および手術、ならびに時々放射線療法を包含する。
【0118】
大部分の場合、卵巣がんの原因は不明のままである。比較的高年齢の女性、およびこの疾患を有する第一度または第二度近親者がいる女性は、増大した危険性を示す。遺伝性の形態の卵巣がんは、特定の遺伝子(最も特筆すべきはBRCA1およびBRCA2であるが、遺伝性非ポリポーシス結腸直腸がんの遺伝子も)の変異によって引き起こされうる。不妊の女性、ならびに子宮内膜症と呼ばれる状態を有する女性、一度も妊娠したことのない女性、および閉経後エストロゲン補充療法を使用している女性は増大したリスク下にある。併用経口避妊薬の使用は防御因子となる。また、卵管が外科的に遮断された(卵管結紮)女性においても危険性は比較的低い。
【0119】
卵巣がんは、病理報告において得られる腫瘍の組織診に従って分類される。組織診は、臨床処置、管理および予後の多くの局面を決定する。卵巣上皮がんとしても知られる表層上皮性・間質性腫瘍は、最も一般的な種類の卵巣がんである。それは漿液性腫瘍、子宮内膜性腫瘍および粘液性嚢胞腺がんを含む。エストロゲンを産生する顆粒膜細胞腫瘍および男性化するセルトリ・ライディッヒ細胞腫瘍または男性化細胞腫を含む性索間質腫瘍は卵巣がんの8%を占める。胚細胞腫瘍は卵巣腫瘍の約30%を占めるが卵巣がんのわずか5%しか占めない。というのも、大部分の胚細胞腫瘍が奇形腫であり、大部分の奇形腫が良性である(奇形腫を参照)ためである。胚細胞腫瘍は若い女性および少女において起こる傾向がある。予後は胚細胞腫瘍の特定の組織診に依存するが、全体的に好ましい。混合腫瘍は、腫瘍組織診の上記クラスの1つを超える要素を含む。
【0120】
卵巣がんは、体内の他の場所の原発性がんからの転移の結果である二次がんでもありうる。卵巣がんの7パーセントは転移によるものであり、一方、残りは原発性がんである。一般的な原発性がんは乳がんおよび胃腸がんである(一般的な誤りは、任意の胃腸がんからのすべての腹膜転移をクルーケンベルクがんと名づけることであるが、これは原発性胃がんに由来する場合にしか当てはまらない)。表層上皮性・間質性腫瘍は腹膜(腹腔の裏層)に由来しうるものであり、この場合、卵巣がんは原発性腹膜がんに二次的であるが、処置は、腹膜を包含する原発性表層上皮性・間質性腫瘍と基本的には同一である。
【0121】
卵巣がんの病期決定はFIGO病期決定システムによるものであり、手術後に得られる情報を使用し、手術は腹式子宮全摘術、(通常は)両方の卵巣および卵管、(通常は)大網の除去、ならびに細胞病理向けの骨盤(腹膜)洗浄を含みうる。AJCC病期はFIGO病期と同一である。AJCC病期決定システムは、原発性腫瘍の程度(T)、近傍のリンパ節への転移の非存在または存在(N)、および遠隔転移の非存在または存在(M)を記述する。
【0122】
AJCC/TNM病期決定システムは卵巣がんの3つのカテゴリーT、NおよびMを含む。Tカテゴリーは3つの他のサブカテゴリーT1、T2およびT3を含み、それぞれ腫瘍が発生した場所(卵巣の一方または両方、卵巣の内側または外側)に従って分類されている。卵巣がんのT1カテゴリーは、卵巣に限局されていて卵巣の一方または両方を冒しうる卵巣腫瘍を記述する。サブサブカテゴリーT1aは、一方の卵巣にのみ見られ、被膜が無事なままであり、骨盤から採取される体液には見ることができないがんを病期決定するために使用される。被膜を冒しておらず、卵巣の内側に限局されており、骨盤から採取される体液には見ることができないが両方の卵巣に影響しているがんをT1bと病期決定する。T1cカテゴリーは、一方または両方の卵巣を冒しうるものであって、卵巣の被膜を通じて成長しているかまたは骨盤から採取される体液に存在している、腫瘍の種類を記述する。T2はより進行した病期のがんである。この場合、腫瘍は一方または両方の卵巣中で成長しており、子宮、卵管または他の骨盤組織に拡散している。ステージT2aは、子宮もしくは卵管(またはその両方)に拡散しているが、骨盤から採取される体液には存在しないがん性腫瘍を記述するために使用される。ステージT2bおよびT2cは、子宮および卵管以外の骨盤組織に転移していて、骨盤から採取される体液に見ることができないがん、ならびに、骨盤組織のいずれか(子宮および卵管を含む)に拡散しているだけでなく、骨盤から採取される体液にも見ることができる腫瘍をそれぞれ示す。T3は、腹膜に拡散したがんを記述するために使用される病期である。この病期は、転移性腫瘍(身体の他の区域に位置するが卵巣がんによって引き起こされる腫瘍)のサイズに関する情報を与える。これらの腫瘍は非常に小さいことがあり、顕微鏡下でのみ見えることがあり(T3a)、見えるが2センチメートル以下の大きさであることがあり(T3b)、2センチメートルよりも大きいことがある(T3c)。
【0123】
この病期決定システムは、近傍のリンパ節に転移したかまたは転移していないがんを記述するNカテゴリーも使用する。Nカテゴリーは2つしかなく、N0は、がん性腫瘍がリンパ節を冒していないことを示し、N1は、腫瘍に近いリンパ節の関与を示す。AJCC/TNM病期決定システムのMカテゴリーは、卵巣がんが肝臓または肺などの遠隔臓器に転移したか否かに関する情報を与える。M0は、がんが遠隔臓器に拡散しなかったことを示し、M1カテゴリーは、身体の他の臓器に拡散したがんについて使用される。AJCC/TNM病期決定システムは、TxおよびNxサブカテゴリーも含み、これらは、不十分なデータが理由で腫瘍の程度を記述することができないこと、および、同じ理由でリンパ節の関与を記述することができないことをそれぞれ示す。
【0124】
卵巣がんも、任意の他の種類のがんと同様に、病期決定以外に悪性度決定が行われる。腫瘍の組織学的悪性度は、その細胞が顕微鏡下でどの程度異常または悪性に見えるかの尺度となる。がんが拡散する可能性を示す4つの悪性度が存在し、悪性度が高くなるほどこれが起こる可能性が高くなる。グレード0は、非浸潤腫瘍を記述するために使用される。グレード0がんは境界悪性腫瘍とも呼ばれる。グレード1腫瘍は、高分化型である(正常組織に非常に類似して見える)細胞を有しており、最良の予後を示す腫瘍である。グレード2腫瘍は中分化型とも呼ばれており、正常組織に類似した細胞で構成されている。グレード3腫瘍は、最悪の予後を示し、それらの細胞は異常であり、低分化型と呼ばれる。
【0125】
卵巣がんの徴候および症状は大部分の時点で存在しないが、それらは存在する場合、非特異的である。大部分の場合、患者が診断を受けるまで症状は数ヶ月間持続する。
【0126】
プライマリーケアクリニックを訪問した1,709名の女性の前向き症例対照研究は、腹部膨満、腹部サイズ増大および尿症状の組み合わせが卵巣がんを有する女性の43%に見られたが、プライマリーケアクリニックを訪問した女性では8%にしか見られなかったことを発見した。
【0127】
通常、正確な原因は不明である。卵巣がんを発生させる危険性はいくつかの要因に影響されるようである。ある女性が有する子どもの数が多いほど、卵巣がんの危険性は低下する。また、低年齢の初回妊娠、比較的高年齢の最終妊娠、および低用量のホルモン避妊薬の使用が防御効果を示すことがわかった。卵巣がんは卵管結紮後の女性において減少する。
【0128】
経口避妊薬の使用と卵巣がんとの間の関係は、45件の症例対照研究および前向き研究の結果の概要に示された。累積的に、これらの研究は卵巣がんの防御効果を示す。経口避妊薬を10年間使用した女性は卵巣がんの危険性の約60%の減少を示した(大きな研究サイズを考慮して統計的に有意な信頼区間でリスク比は0.42であり、予想通りであった)。これは、250名の女性が経口避妊薬を10年間服用する場合、1件の卵巣がんが予防されることを意味する。この研究は、この主題に関してこれまで最大の疫学的研究である(45件の研究、卵巣がんを有する20,000名超の女性、および約80,000名の対照)。
【0129】
クエン酸クロミフェンなどの妊娠促進薬の使用との関連は問題になっている。1991年の分析は、薬物の使用が卵巣がんの危険性を増大させる可能性を提起した。それ以後、いくつかのコホート研究および症例対照研究が行われたが、そのような関連の決定的な証拠は示されなかった。不妊集団の出産歴が「正常な」集団と異なることから、それは複雑な研究トピックのままである。
【0130】
一部の女性において遺伝学的因子が重要であるという格好の証拠がある。BRCA1またはBRCA2遺伝子の特定の変異の保有者は特に危険性がある。BRCA1およびBRCA2遺伝子は卵巣がんの5%〜13%を占め、特定の集団(例えばアシュケナージ系ユダヤ人女性)は、しばしば一般的な集団よりも早期の年齢で乳がんと卵巣がんとの両方の高い危険性がある。乳がんの個人歴または乳がんおよび/もしくは卵巣がんの家族歴を有する患者は、特に若い年齢で診断を受けた場合、高い危険性を示すことがある。
【0131】
子宮がん、結腸がんまたは他の胃腸がんの強力な家族歴は、卵巣がんを発生させる比較的高いリスクをもたらす、遺伝性非ポリポーシス結腸直腸がんとして知られる症候群(HNPCC、リンチ症候群としても知られる)の存在を示すことがある。卵巣がんの強力な遺伝学的危険性を有する患者は、出産の完了後に予防的、すなわち防止的卵巣摘除術の使用を検討することがある
[要引用]。International Cancer Genome Consortiumのメンバーであるオーストラリアは、卵巣がんの全ゲノムをマッピングする試みを主導している。
【0132】
早期(I/II)の卵巣がんは、拡散して後期(III/IV)に進行するまでは診断困難である。これは、大部分の症状が非特異的であり、したがって診断にほとんど役に立たないためである。
【0133】
卵巣悪性腫瘍が診断可能なもののリストに含まれる場合、限られた数の臨床検査が指示される。全血球算定(CBC)および血清電解質検査をすべての患者において行うべきである。
【0134】
血清BHCGレベルを、妊娠の可能性があるあらゆる女性において測定すべきである。さらに、血清α-フェトプロテイン(AFP)および乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)を、卵巣腫瘍が疑われる少女および思春期女性において測定すべきである。というのも、患者が若いほど悪性胚細胞腫瘍の可能性が高くなるためである。
【0135】
CA-125と呼ばれる血液検査が鑑別診断および疾患の経過観察に有用であるが、その許容不能な低感度および低特異度が理由で、早期卵巣がんをスクリーニングする有効な方法であることがそれ自体では示されなかった。しかし、これが現在利用可能である唯一の広く使用されているマーカーである。
【0136】
現在の研究は、精度を向上させるために腫瘍マーカーのプロテオミクスと疾患の他の指標(すなわち放射線学および/または症状)とを組み合わせる方法を検討している。そのようなアプローチの課題は、卵巣がんの非常に低い集団有病率が、非常に高い感度および特異度で検査しても依然としていくつかの偽陽性結果につながる(すなわち、がんが手術中に見つからない外科手技が行われる)ことを意味するということである。しかし、プロテオミクスの寄与は依然として初期段階にあり、さらなる洗練が必要である。プロテオミクスに関する現在の研究は、個人に合わせての治療に向けてのパラダイムシフトの始まりを表している。
【0137】
内診、ならびにCTスキャンおよび経膣的超音波検査を含む画像診断が必須である。身体所見検査は、腹囲および/または腹水(腹腔内の体液)の増大を明らかにすることがある。内診は卵巣腫瘤または腹部腫瘤を明らかにすることがある。内診は、卵巣のより良好な触診のための直腸膣コンポーネントを含みうる。非常に若い患者では、磁気共鳴画像診断が直腸診および膣内診よりも好まれることがある。
【0138】
卵巣がんを決定的に診断するには、腹部内を調べる外科手技が必要である。これは開放性手技(開腹、腹壁を通じた切開)または鍵穴手術(腹腔鏡検査)でありうる。この手技の間、疑わしい区域は除去され、顕微鏡分析に送られる。腹腔からの体液もがん細胞について分析されることがある。がんが存在する場合、この手技はその拡散を決定することもある(腫瘍病期決定の一形態である)。
【0139】
子どもがいたことのある女性は子どもがいたことのない女性よりも卵巣がんを発生させる可能性が低く、また、母乳栄養は特定の種類の卵巣がんの危険性を減少させることがある。卵管結紮および子宮摘出術は危険性を減少させ、両卵管および卵巣の除去(両側卵管卵巣摘除術)は卵巣がんだけでなく乳がんの危険性も劇的に減少させる。5年間以上の経口避妊薬(受胎調節ピル)の使用は、後年の人生での卵巣がんの危険性を50%減少させる。
【0140】
卵管結紮は、卵巣がんを発生させる可能性を最大67%減少させると考えられ、一方、子宮摘出術は、卵巣がんを得る危険性を約3分の1減少させうる。さらに、いくつかの研究によれば、アセトアミノフェンおよびアスピリンなどの鎮痛薬は、卵巣がんを発生させる危険性を減少させるようである。しかし、情報は一貫しておらず、この問題についてさらなる研究を続ける必要がある。
【0141】
卵巣がんに関する女性の日常的スクリーニングはどの専門医協会も推奨しておらず、この専門医協会としてはU.S. Preventive Services Task Force、American Cancer Society、American College of Obstetricians and GynecologistsおよびNational Comprehensive Cancer Networkが挙げられる。これは、スクリーニングを経た女性について生存率の改善を示した試みがないためである。任意の種類のがんのスクリーニングは、正確かつ信頼できるものでなければならず、すなわち、その疾患を正確に検出する必要があり、がんを有さない人々において偽陽性結果を示してはならない。これまで、これらの基準を満たすことがわかった卵巣スクリーニングの技術は存在しない。しかし、英国などの数ヶ国において、卵巣がんの危険性の増大を示す可能性が高い女性(例えばこの疾患の家族歴を有する場合)に医師を通じて個人的スクリーニングを提案されることがあるが、これは早期にこの疾患を必ずしも検出するものではない。
【0142】
研究者は、卵巣がんをスクリーニングする異なる方法を評価している。日常的スクリーニングに単独または併用で潜在的に使用される可能性があるスクリーニング検査としてはCA-125マーカーおよび経膣的超音波検査が挙げられる。医師は女性の血液中のCA-125タンパク質のレベルを測定することができる。高レベルは卵巣がんの徴候である可能性があるが、これは必ずしもそうではない。また、卵巣がんを有するすべての女性が高CA-125レベルを有するわけではない。経膣的超音波検査は、超音波プローブを使用して膣の内側から卵巣をスキャンすることで、腹部をスキャンするよりも明らかな画像を与えることを包含する。UK Collaborative Trial of Ovarian Cancer Screeningは、CA-125血液検査と経膣的超音波検査とを併用するスクリーニング技術を検査中である。
【0143】
スクリーニングの目的は、成功裏に処置される可能性が高くなる早期に卵巣がんを診断することにある。しかし、この疾患の発生は完全には理解されておらず、早期がんが必ずしも後期疾患に発達しないことがあると主張されている。どのスクリーニング技術でも慎重に考慮する必要がある危険性および利点が存在し、医療当局は、任意の卵巣がんスクリーニングプログラムを紹介する前にこれらを評価する必要がある。
【0144】
卵巣がんスクリーニングの目標は、ステージIでこの疾患を検出することにある。いくつかの大きな研究が進行中であるが、どの研究も有効な技術を同定していない。しかし2009年に、UK Collaborative Trial of Ovarian Cancer Screening(UKCTOCS)による初期結果は、年1回のCA-125検査と超音波画像診断とを併用する技術が早期にこの疾患を検出することに役立つことを示した。しかし、このアプローチが実際に生命を救うことに役立つか否かはまだ明らかではない。この試みの最終結果は2015年に公開される見込みである。
【0145】
外科的処置は、高分化型であって卵子に限局されている悪性腫瘍には十分でありうる。卵巣に限局されるより侵攻性の高い腫瘍には化学療法の追加が必要になることがある。進行した疾患を有する患者には、外科的縮小と併用化学療法レジメンとの併用が標準的である。境界悪性腫瘍は、卵巣の外側への拡散後であっても、手術で十分に管理され、化学療法は有用であるとは見なされない。
【0146】
手術は好ましい処置であり、鑑別診断用の組織検体をその組織診を経由して得るためにしばしば必要である。通常、婦人科腫瘍専門医が行う手術は、改善された結果をもたらす。生存率の改善は、一般的婦人科医および一般的外科医に比べて、婦人科腫瘍専門医によるこの疾患の病期決定が正確であること、および腹部内の腫瘍の侵襲的な外科的切除の速度が速いことに起因する。
【0147】
手術の種類は、診断した際にがんがどの程度拡散しているか(がん病期)、ならびに推定されるがんの種類および悪性度に依存する。外科医は一方の卵巣(一側卵巣摘除術)または両方の卵巣(両側卵巣摘除術)、卵管(卵管摘除術)および子宮(子宮摘出術)を除去することがある。いくつかの非常に早期の腫瘍(ステージ1、低悪性度または低リスクの疾患)では、特に受胎能を保存したいと望む若い女性において、関与する卵巣および卵管のみが除去される(「一側卵管卵巣摘除術」USOと呼ばれる)。
【0148】
完全な切除が実行可能ではない進行悪性腫瘍において、できるだけ多くの腫瘍が除去される(減量手術)。この種類の手術が成功する(すなわち、直径1cm未満の腫瘍が残る[「最適減量」])場合、予後は、大きな腫瘤(直径1cm超)が残る患者に比べて改善している。最小限に侵襲的な外科手技は、手術の合併症をより少なくしながら非常に大きな(10cm超)腫瘍の安全な除去を促進することができる。
【0149】
化学療法は数十年間、卵巣がんの一般的標準治療となっているが、プロトコールが非常に変わりやすい。適切であれば、化学療法は、手術後に任意の残りの疾患を処置するために使用される。これは腫瘍の組織診に依存するものであり、いくつかの種類の腫瘍(特に奇形種)は化学療法に感受性がない。いくつかの場合、最初に化学療法を、続いて手術を行う理由があることがある。
【0150】
成功した最適減量を受けたステージIIIC上皮性卵巣腺がんを有する患者について、最近の臨床治験は、生存期間中央値が腹腔内(IP)化学療法を受けた患者において著しく長いことを示した。この治験の患者はIP化学療法に対する比較的低い遵守を報告し、患者の半数未満がIP化学療法の全6つのサイクルを受けた。この高い「脱落」率にもかかわらず、群全体(IP化学療法処置を完了しなかった患者を含む)は、静脈内化学療法を単独で受けた患者よりも平均的に長く生存した。
【0151】
一部の専門医は、IP化学療法の毒性および他の合併症が、現在開発中の改善されたIV化学療法薬では不要になると考えている。
【0152】
IP化学療法は卵巣がんの第一選択処置の標準治療として推奨されているが、この推奨の根拠には意義が唱えられている。
【0153】
生命維持臓器が照射野にある際に高線量を安全に送達することができないことから、放射線療法は進行病期には有効ではない。したがって、これらの卵巣がん処置に関連する問題に生命維持臓器が耐えることができないことがあることから、放射線療法はそのような病期では一般に回避される。
【0154】
通常、卵巣がんは予後不良を示す。卵巣がんには任意の明らかな早期検出またはスクリーニング検査がなく、したがって大部分の症例が進行病期に到達するまで診断されないということから、卵巣がんは過度に致命的である。このがんを示す女性の60%超が、卵巣を超えて既に拡散したステージIIIまたはステージIVがんを既に有している。卵巣がんは、腹腔内の天然の体液に細胞を流し込む。次にこれらの細胞は、子宮、膀胱、腸、および腸壁大網の裏層を含む他の腹部(腹膜)構造上に植え付けられて、がんが疑われる前であっても新たな腫瘍成長を形成することがある。
【0155】
卵巣がんの全病期の5年生存率は45.5%である。疾患早期に診断が行われる症例では、がんが原発部位に依然として限局されている場合、5年生存率は92.7%である。
【0156】
E. 脳がん
脳腫瘍は、頭蓋内の固形新生物、すなわち脳または中心脊柱管内の腫瘍(細胞の異常成長として定義される)である。脳腫瘍は頭蓋内または中心脊柱管中のすべての腫瘍を含む。それらは、通常は脳それ自体(ニューロン、グリア細胞(アストロサイト、オリゴデンドロサイト、上衣細胞、ミエリンを産生するシュワン細胞)、リンパ組織、血管)、脳神経、脳外膜(髄膜)、頭蓋骨、脳下垂体、および松果体のいずれかにおける異常で制御されない細胞分裂によって作り出されるか、または他の臓器に一次的に位置するがんから拡散している(転移性腫瘍)。
【0157】
任意の脳腫瘍は、頭蓋内腔の限られた空間内でのその侵入性および浸潤性が理由で、本質的に重大で生命を脅かすものである。しかし、脳腫瘍(悪性のものであっても)は必ずしも致命的ではない。脳腫瘍または頭蓋内新生物はがん性(悪性)または非がん性(良性)でありうるが、悪性または良性新生物の定義は、体内の他の種類のがん性または非がん性新生物に一般的に使用されるものとは異なる。その脅威レベルは、腫瘍の種類、その位置、そのサイズおよびその発生状態のような要因の組み合わせに依存する。脳が頭蓋骨によって十分に保護されていることから、脳腫瘍の早期検出は、診断ツールが頭蓋腔に向けられる場合にのみ起こる。通常、検出は、腫瘍の存在が原因不明の症状を引き起こした進行期に起こる。
【0158】
原発性(真性)脳腫瘍は、子どもの後頭蓋窩および大人の大脳半球の前方3分の2に一般的に位置するが、脳の任意の部分を冒しうる。
【0159】
脳がんの予後はがんのタイプに基づいて変動する。髄芽腫は化学療法、放射線療法および外科的切除による良好な予後を示し、一方、多形性膠芽腫は侵襲的放射線化学療法および手術によっても12ヶ月の生存期間中央値しか示さなかった。脳幹グリオーマは任意の形態の脳がんの最も不良な予後を示し、腫瘍への放射線照射と副腎皮質ステロイドとから典型的になる治療でも大部分の患者は1年以内に死亡する。しかし、脳幹グリオーマの一種である限局性
[5]は例外的な予後の可能性があるようであり、長期生存が頻繁に報告されている。
【0160】
多形性膠芽腫は悪性脳腫瘍の最も致死性が高く最も一般的な形態である。放射線療法、化学療法および外科的切除からなる侵襲的な集学的療法を使用する場合でも、生存期間中央値はわずか12〜17ヶ月である。多形性膠芽腫の標準的治療は、腫瘍の最大外科的切除、これに続く外科手技の2〜4週間後のがんを除去するための放射線療法からなる。化学療法がこれに続く。膠芽腫を有する大部分の患者は、病気中に症状を緩和するために副腎皮質ステロイド、典型的にはデキサメタゾンを服用する。実験的処置としてはガンマナイフ放射線手術、ホウ素中性子捕捉療法および遺伝子導入が挙げられる。
【0161】
乏突起膠腫は、不治であるがゆっくりと進行する悪性脳腫瘍である。それらは外科的切除、化学療法および/または放射線療法で処置されうる。選択された患者において疑われる低悪性度乏突起膠腫について、一部の神経腫瘍医は、対症療法のみを伴う慎重な経過観察の過程を選択する。1p/19q共欠失を伴う腫瘍は特に化学感受性があることがわかっており、1つの情報源は、乏突起膠腫が最も化学感受性の高いヒト固形悪性腫瘍の1つであることを報告している。最大16.7年の生存期間中央値が低悪性度乏突起膠腫について報告された。
【0162】
任意の脳腫瘍について特異的なまたは唯一の臨床的症状または徴候は存在しないが、症状の組み合わせの存在、および感染症または他の原因の対応する臨床的徴候の欠如は、頭蓋内新生物の可能性に対して診断調査を再び向けるための指標でありうる。
【0163】
診断は、患者の医学的前駆症状および現在の症状の明らかな見通しを得るために、患者の問診でしばしば始まる。臨床調査および検査室調査は、感染症を症状の原因として排除することに役立つ。この段階での検査としては眼科検査、耳鼻科(もしくはENT)検査および/または電気生理学的検査を挙げることができる。脳波記録法(EEG)の使用は脳腫瘍の診断においてしばしば役割を果たす。
【0164】
腫大、または脳からの脳脊髄液(CSF)の通過の閉塞は、頭蓋内圧の増大の(早期)徴候を引き起こすことがあり、これは臨床的に頭痛、嘔吐または意識変容状態、ならびに子どもにおいて頭蓋骨の直径の変化および泉門の膨隆に変換される。内分泌機能異常などの比較的複雑な症状は、医師に脳腫瘍を排除しないように警告するはずである。
【0165】
両耳側視野欠損(視交叉の圧迫による)または瞳孔散大、ならびに、認知障害および行動障害(判断力障害、記憶喪失、認識欠如、空間識障害を含む)、性格変化または感情変化、不全片麻痺、知覚鈍麻、失語症、運動失調、視野障害、嗅覚障害、聴覚障害、顔面神経麻痺、複視などの局所神経症状、あるいは、振戦、身体の一側の麻痺である片麻痺、またはてんかんの負の病歴を有する患者における(てんかん性)発作などのより重度の症状のゆっくりとした進行または突然の発症のいずれかが起こることで、脳腫瘍の可能性が上昇するはずである。
【0166】
画像診断は脳腫瘍の診断において中心的役割を果たす。最近、気脳撮影および脳血管撮影などの侵襲的であり危険であることもある早期画像診断法は放棄され、コンピュータ断層撮影(CT)スキャンおよび特に磁気共鳴画像診断(MRI)などの非侵襲的高分解能技術に取って代わられている。新生物は、CTまたはMRI結果において異なった色の腫瘤(突起とも呼ばれる)としてしばしば示される。
【0167】
良性脳腫瘍は、頭蓋CTスキャンで低密度(脳組織よりも暗い)腫瘤病変としてしばしば示される。MRIにおいて、それらはT1加重スキャンで低強度(脳組織よりも暗い)もしくは等強度(脳組織と同じ強度)のいずれか、またはT2加重MRIで高強度(脳組織よりも明るい)として現れるが、この出現は変わりやすい。
【0168】
大部分の悪性原発性および転移性脳腫瘍において、時として特徴的なパターンでの造影剤の取り込みがCTスキャンまたはMRIスキャンのいずれかで示されうる。病巣周囲浮腫、または圧迫区域、または脳組織が浸潤過程によって圧迫された場所もT2加重MRIで高強度として現れるものであり、散在性新生物の存在を示す可能性がある(不明確な輪郭)。これは、これらの腫瘍が血液脳関門の正常な機能を破壊してその透過性の増大を導くためである。しかし、亢進パターンのみに基づいて高悪性度グリオーマを低悪性度グリオーマと対比して診断することは不可能である。
【0169】
多形性膠芽腫および未分化星状細胞腫は、薬物抵抗性発作に関連する陽性検査結果を含む遺伝学的急性肝性ポルフィリン症(PCT、AIP、HCPおよびVP)に関連している。これらの腫瘍の薬物処置に関連する原因不明の合併症は、診断未確定の神経性ポルフィリン症について医師に注意を喚起するはずである。
【0170】
脳腫瘍の決定的な診断は、脳生検または開放性手術のいずれかで得られる腫瘍組織試料の組織学的検査によってのみ確認されうる。組織学的検査は、適切な処置および正確な予後を決定するために必須である。病理医が行うこの検査は、典型的には3つの段階、すなわち、新たな組織の術中検査、調製された組織の予備顕微鏡検査、および免疫組織化学染色または遺伝学的分析後の調製された組織の追跡検査を有する。
【0171】
脳腫瘍を診断する際に、患者およびその家族に主治医が提示する処置選択肢を評価するために医療チームが形成される。脳の原発性固形新生物の位置を考慮すると、大部分の場合、「何もしない」という選択肢は通常提示されない。脳神経外科医が患者およびその親族に管理計画を提示する前に新生物の進行度を観察するには時間がかかる。これらの各種の処置が、新生物の種類および位置に応じて利用可能であり、生存の可能性を最も高くするように併用可能である。手術: できるだけ多くの腫瘍細胞を除去する目的での腫瘍の完全または部分切除; 放射線療法; および手術後に残ったがん細胞をできるだけ多く死滅させ、残留する腫瘍細胞をできるだけ長く非分裂性の休止状態にする目的での化学療法。
【0172】
原発性脳腫瘍での生存率は、腫瘍の種類、年齢、患者の機能状態、外科的腫瘍除去の程度、および各症例に特異的な他の要因に依存する。
【0173】
医学文献に記載の一次的かつ最も望ましい手順は、開頭術を経由した外科的除去(切除)である。最小限に侵襲的な技術は研究中であるが、決して一般的になっていない。手術の一次的な治療目的は腫瘍細胞をできるだけ多く除去することであり、完全な除去が最善の結果であり、腫瘍の細胞切除(「減量」)はそれと異なる。いくつかの場合、腫瘍へのアクセスは不可能であり、手術を邪魔または妨害する。
【0174】
多くの髄膜腫は、頭蓋底に位置するいくつかの腫瘍を除いてうまく外科的に除去することができる。大部分の下垂体腺腫は、鼻腔および頭蓋底を通じた最小限に侵襲的なアプローチ(経鼻的経蝶形骨性アプローチ)をしばしば使用して外科的に除去することができる。大きな下垂体腺腫の除去には開頭術(頭蓋骨の開放)が必要である。定位的アプローチを含む放射線療法が、手術不能な症例のために留保される。
【0175】
いくつかの現在の研究は、腫瘍細胞が蛍光を発するようにする化学物質(5-アミノレブリン酸)で腫瘍細胞を標識することにより脳腫瘍の外科的除去を改善することを目的としている。術後の放射線療法および化学療法は悪性腫瘍の治療標準の不可欠な部分である。「低悪性度」グリオーマの場合において、著しい腫瘍負荷の減少が外科的に実現できなかった際に、放射線療法を実行してもよい。
【0176】
脳の手術を受けたどの個人もてんかん発作に罹患する可能性がある。発作は非存在から重度の強直間代発作まで変動しうる。発作の発生を最小化または除去するように薬物が処方および投与される。
【0177】
一般に、多発性転移性腫瘍は手術よりもむしろ放射線療法および化学療法で処置される。そのような症例での予後は原発性腫瘍によって決定されるが、一般に不良である。
【0178】
放射線療法の目標は、正常脳組織を無傷のままにしながら腫瘍細胞を選択的に死滅させることにある。標準的な体外照射療法において、標準「分割」線量の放射線による複数回の処置が脳に加えられる。この過程は、腫瘍の種類に応じて合計10〜30回の処置で繰り返される。このさらなる処置は一部の患者に予後の改善および生存率の向上を与える。
【0179】
放射線手術は、周囲の脳への放射線量を最小化しながら腫瘍の部位に放射線を集中させるためにコンピュータ計算を使用する処置方法である。放射線手術は、他の処置の補助であることもあれば、いくつかの腫瘍の一次処置技術に相当することもある。
【0180】
放射線療法は腫瘍の切除後に、またはいくつかの場合では腫瘍の切除の代わりに使用することがある。脳がんに使用される放射線療法の形態としては体外照射療法、近接照射療法、およびより難しい症例ではガンマナイフ、サイバーナイフまたはNovalis Tx放射線手術などの定位放射線手術が挙げられる。
【0181】
放射線療法は続発性脳腫瘍の最も一般的な処置である。放射線療法の量は、がんに冒された脳の区域のサイズに依存する。従来の体外「全脳放射線療法」(WBRT)または「全脳放射線照射」は、他の続発性腫瘍が将来発生する危険性があると示唆されることがある。3つ未満の小さな続発性脳腫瘍を包含する症例では、定位放射線療法が通常は推奨される。
【0182】
化学療法を受けた患者は、腫瘍細胞を死滅させるように設計された薬物を投与される。化学療法は、最も悪性度の高い原発性脳腫瘍を有する患者において全体的生存率を改善することがあるが、患者の約20パーセントしか改善しない。放射線照射が発達中の脳に悪影響を示すことがあることから、化学療法が若い子どもにおいて放射線照射の代わりにしばしば使用される。この処置を処方するという決定は、患者の全体的健康、腫瘍の種類、およびがんの程度に基づく。薬物の毒性および多くの副作用、ならびに脳腫瘍における化学療法の不確実な予後によって、この処置は処置選択肢の系列のさらに下位に置かれるものであり、手術および放射線療法が好ましい。
【0183】
シャントは治癒としては使用されないが、脳脊髄液の遮断によって引き起こされる水頭症を減少させることで症状を軽減するために使用される。
【0184】
研究者は現在、遺伝子治療、高集中放射線療法、免疫療法および新規化学療法を含むいくつかの有望な新規処置を調査している。種々の新規処置が、脳腫瘍治療に特化したセンターにおいて調査ベースで利用可能になっている。
【0185】
F. 結腸直腸がん
結腸直腸がんは、より非公式には腸がんとして知られ、結腸、直腸または虫垂中の新形成を特徴とするがんである。結腸直腸がんは、肛門を冒す肛門がんとは臨床的に別個である。
【0186】
結腸直腸がんは腸の裏層で始まる。未処置のままであると、下側の筋肉層中に成長し、次に腸壁を通じて成長することがある。大部分は腸壁上での小さな成長、すなわち結腸直腸ポリープまたは腺腫として始まる。これらのマッシュルーム形の成長は通常良性であるが、一部は経時的にがんに発達する。通常、局在化した腸がんは結腸鏡検査を通じて診断される。
【0187】
大腸の壁内に限局される浸潤がんは(TNMステージIおよびII)は手術でしばしば治癒可能である。例えば、イングランドおよびウェールズにおいて、この病期で診断された患者の90%超が5年を超えてこの疾患を生き延びる。未処置のままであると、限局的リンパ節(ステージIII)に拡散する。イングランドおよびウェールズにおいて、この病期で診断された患者の約48%が5年を超えてこの疾患を生き延びる。遠隔部位に転移するがん(ステージIV)は通常は治癒不能ではなく、この病期で診断されたイングランドおよびウェールズの患者の約7%が5年を超えて生存する。
【0188】
結腸直腸がんは世界中で3番目に一般的に診断されるがんであるが、先進国ではさらに一般的である。結腸直腸がんで死亡する人々のうち半数以上が世界の先進地域に住んでいる。GLOBOCANは、2008年に123万件の結腸直腸がんの新たな症例が臨床的に診断され、この種類のがんで600,000人超が死亡したと推定した。
【0189】
結腸直腸がんの症状は、腸内の腫瘍の位置、およびそれが体内の他の場所に拡散したか否か(転移)に依存する。大部分の症状は他の疾患においても同様に起こりうるものであり、したがって、ここで言及したいずれの症状も結腸直腸がんの診断とはならない。症状および徴候は、局在性、体質性(全身を冒す)および転移性(他の臓器への拡散により引き起こされる)に分けられる。
【0190】
結腸直腸がんは、最も頻繁にはシグナル伝達活性を人為的に増大させるWntシグナル伝達経路の変異の結果として、胃腸管の結腸または直腸を覆う上皮細胞に由来する疾患である。変異は遺伝性または後天性でありうるものであり、腸陰窩幹細胞中でおそらく起こるはずである。すべての結腸直腸がんにおいて最も一般的に変異する遺伝子は、APCタンパク質を産生するAPC遺伝子である。APCタンパク質は、β-カテニンタンパク質の蓄積に対する「ブレーキ」である。APCがなければ、β-カテニンは高レベルまで蓄積して、核に移行し(移動し)、DNAに結合し、幹細胞の再生および分化に通常は重要であるが高レベルで不適切に発現される場合はがんを引き起こすことがある遺伝子の転写を活性化する。APCは大部分の結腸がんにおいて変異するが、一部のがんは、β-カテニンの分解を遮断するその変異(CTNNB1)が理由で増大したβ-カテニンを有し、あるいは、AXIN1、AXIN2、TCF7L2またはNaked cuticle(Nkd)遺伝子NKD1などのAPCに類似した機能を有する変異または他の遺伝子を有する。
【0191】
Wnt-APC-β-カテニンシグナル伝達経路の欠陥の他に、他の変異が起こって細胞ががんになるはずである。TP53遺伝子によって産生されるp53タンパク質は、通常は細胞分裂をモニタリングし、細胞がWnt経路の欠陥を示す場合は細胞を死滅させる。最終的には、細胞系はTP53遺伝子の変異を取得し、腺腫からの組織を浸潤がんに変換する。
【0192】
結腸直腸がんにおいて一般に不活性化される他のアポトーシスタンパク質はTGF-βおよびDCC(結腸直腸がんにおいて欠失)である。TGF-βは結腸直腸がんの少なくとも半分において不活性化変異を示す。TGF-βは不活性化されないこともあるが、SMADと名付けられた下流タンパク質は不活性化される。DCCは一般に、結腸直腸がんにおいてその染色体部分の欠失を示す。
【0193】
一部の遺伝子は発がん遺伝子であり、結腸直腸がんにおいて過剰発現される。例えば、通常は成長因子に応答して分裂するように細胞を刺激する、タンパク質KRAS、RAFおよびPI3Kをコードする遺伝子は、細胞増殖の過剰活性化を生じさせる変異を獲得することがある。腫瘍抑制因子PTENは、通常はPI3Kを阻害するが、変異して不活性化されることもある。
【0194】
結腸直腸がんは発生に多年を要することがあり、結腸直腸がんの早期検出は治癒の可能性を大きく向上させる。Institute of MedicineのNational Cancer Policy Boardは2003年に、結腸直腸がんスクリーニング方法を実行するささやかな試みであっても、20年間でがん死の29パーセント低下を生じさせると推定した。これにもかかわらず、結腸直腸がんスクリーニング率は低いままである。したがって、危険性の増大した個人において、この疾患のスクリーニングが推奨される。この目的に利用可能ないくつかの異なる検査がある。
【0195】
デジタル直腸診(DRE): 医師は潤滑させたグローブ付きの指を直腸に挿入して異常区域を触診する。それは、直腸の遠位部の触診されるほど大きい腫瘍を検出するのみであるが、初期スクリーニング検査としては有用である。
【0196】
便潜血反応検査(FOBT): 便中の血液の検査。2種類の検査、すなわちグアヤクベース試験(化学試験)および免疫化学試験を、便中の潜血を検出するために使用することができる。免疫化学試験の感受性は、特異性の許容不能な減少なしの化学試験のそれよりも優れている。
【0197】
内視鏡診断は、S状結腸鏡検査、すなわちポリープおよび他の異常を点検するために直腸および下部結腸に挿入される点灯プローブ(S状結腸鏡)の使用、または、結腸鏡検査、すなわち、がんによって引き起こされうるポリープおよび他の異常を探すために直腸および全結腸に挿入される結腸鏡と呼ばれる点灯プローブの使用を包含する。結腸鏡検査は、ポリープが手順の間に見つかった際に直ちに除去することができるという利点を有する。組織を生検用に採取することもある。米国では、結腸鏡検査またはFOBTプラスS状結腸鏡検査が好ましいスクリーニング選択肢である。
【0198】
結腸がん病期決定は、特定のがんの浸透量の推定値である。それは診断および研究目的で、かつ最良の処置方法を決定するために行われる。結腸直腸がんを病期決定するためのシステムは、局在浸潤の程度、リンパ節関与の程度、および遠隔転移が存在するか否かに依存する。
【0199】
決定的な病期決定は、手術を行って病理報告を検討した後でのみ行うことができる。この原理の例外は、最小限の浸潤を伴う悪性有茎性ポリープの結腸鏡ポリープ切除後である。直腸がんの術前病期決定を内視鏡超音波検査によって行うことができる。転移の補助的病期決定としては腹部超音波検査、CT、PETスキャンおよび他の画像診断が挙げられる。
【0200】
最も一般的な病期決定システムはAmerican Joint Committee on Cancer(AJCC)によるTNM(腫瘍/節/転移)システムである。TNMシステムは3つの分類に基づいて数を割り当てる。「T」は腸壁の浸潤の程度を示し、「N」はリンパ節関与の程度を示し、「M」は転移の程度を示す。通常、比較的広範な病期のがんが、予後によって群分けされるTNM値から導出される数I、II、III、IVとして言及され、より大きな数はより進行したがん、およびおそらくはより不良な予後を示す。
【0201】
処置はがんの病期に依存する。結腸直腸がんは、早期で見つかる(ほとんど拡散していない)場合、治癒可能でありうる。しかし、比較的後期で検出される場合(遠隔転移が存在する場合)、治癒可能である可能性は低くなる。
【0202】
手術が依然として一次処置である一方で、個々の患者の病期決定および他の医学的要因に応じて化学療法および/または放射線療法が推奨されることがある。
【0203】
主に高齢者が結腸がんに罹患することから、特に手術後に特定の患者をどのように侵襲的に処置するかを決定することは課題でありうる。臨床治験は、「年齢以外は適合した」高齢患者が手術後にアジュバント化学療法を受ける場合に経過が良好であることを示唆しており、したがって暦年齢だけでは侵襲的管理の禁忌とはならないはずである。
【0204】
手術は治癒手術、緩和手術、バイパス手術、便流変更手術または開閉手術に分類することができる。腫瘍が局在化している場合、外科的治癒処置が提案されることがある。ポリープ内で発生する非常に早期のがんは、結腸鏡検査の時点でポリープを除去すること(すなわちポリープ切除)によってしばしば治癒されることがある。
【0205】
結腸がんでは、比較的進行した腫瘍は、腫瘍を含む結腸の区分を十分な余裕をとって外科的に除去すること、ならびに、限局的再発を減少させるための腸間膜およびリンパ節の根治的一括切除(すなわち結腸切除術)を通常は必要とする。可能であれば、結腸の残った部分を吻合させて、機能する結腸を作り出す。吻合が可能でない場合はストーマ(人工開口部)を作り出す。直腸がんに対する治癒的手術としては直腸全間膜切除術(直腸低位前方切除術)または直腸腹会陰切除術が挙げられる。
【0206】
多発性転移の場合、原発性腫瘍の緩和的(非治癒的)切除が、腫瘍出血、浸潤、およびその異化効果によって引き起こされるさらなる罹患を減少させるために依然として提案される。しかし、孤立性肝転移の外科的除去は一般的であり、選択された患者において治癒的でありうる。化学療法の改善は、孤立性肝転移の外科的除去が提案される患者の数を増大させた。
【0207】
腫瘍が隣接する重要な構造に浸潤して切除が技術的に困難になる場合、外科医は、腫瘍をバイパスする(回腸横行結腸バイパス術)かまたはストーマを通じて近位便流変更を行うことを好むことがある。
【0208】
最悪の場合は、腫瘍が切除不可能で小腸が関与していることを発見する場合の「開閉」手術である。任意のさらなる手技は患者にとって有害無益であると一部では考えられている。これは、腹腔鏡検査およびより良い放射線画像診断の出現によって一般的でなくなっている。以前は「開閉」手技に供されていたこれらの症例の大部分は現在では事前に診断されて外科的に回避されている。
【0209】
腹腔鏡下結腸切除術は、切除のサイズを減少可能でありかつ術後痛を減少可能である最小限に侵襲的な技術である。
【0210】
あらゆる外科手技と同様に、結腸直腸手術は以下を含む合併症を生じさせることがある。創傷感染症、裂開(創傷の破裂)またはヘルニア、膿瘍もしくは瘻孔の形成および/または腹膜炎につながる吻合破裂、血腫形成ありまたはなしの出血、腸閉塞を生じさせる癒着。1997年に手術を受けた患者の5年研究は、再入院の危険性が直腸結腸全摘除術後で15%、結腸全摘除術後で9%、回腸造瘻術後で11%であることを発見した。小腸、尿管、脾臓または膀胱に最も一般的である隣接臓器損傷、ならびに心筋梗塞、肺炎、不整脈および肺塞栓症などの心肺合併症。
【0211】
化学療法は、転移発生の可能性を減少させるか、腫瘍サイズを縮小させるかまたは腫瘍成長を遅くするために使用される。化学療法は手術後に(アジュバント)、手術前に(ネオアジュバント)または一次治療として(緩和)しばしば適用される。ここで列挙される処置薬は、生存率を改善しかつ/または致死率を減少させることが臨床治験においてわかっており、米国食品医薬品局によって使用が承認された。結腸がんでは、手術後の化学療法は通常、がんがリンパ節に広がった場合(ステージIII)にのみ行われる。
【0212】
転移性疾患用の化学療法。一般的に使用される第一選択化学療法レジメンは、注入用5-フルオロウラシル、ロイコボリンおよびオキサリプラチン(FOLFOX)とベバシズマブとの組み合わせ、または注入用5-フルオロウラシル、ロイコボリンおよびイリノテカン(FOLFIRI)とベバシズマブとの組み合わせ、またはKRAS野生型腫瘍における同じ化学療法薬とセツキシマブとの組み合わせを包含する。
【0213】
American Society of Clinical Oncologyの2008年年次総会において、研究者は、KRAS遺伝子の変異を有する結腸直腸がん患者が、上皮成長因子受容体(EGFR)を阻害する特定の治療薬、すなわちアービタックス(セツキシマブ)およびベクチビックス(パニツムマブ)に応答しないことを発表した。ここでASCOによる推奨に従って、患者はこれらのEGFR阻害薬が提案される前にKRAS遺伝子変異について検査を受けるべきである。2009年7月に米国食品医薬品局(FDA)は、転移性結腸直腸がんの処置用に指示される2つの抗EGFRモノクローナル抗体薬(パニツムマブ(ベクチビックス)およびセツキシマブ(アービタックス))の表示を、KRAS変異に関する情報が含まれるように更新した。しかし、正常なKRASバージョンを有することで、これらの薬物が患者の利益になることが保証されるわけではない。
【0214】
放射線療法は、放射線腸炎につながる可能性があることから、結腸がんでは日常的には使用されず、結腸の特定部分を標的化することは困難である。直腸が結腸ほど大きくは移動せず、したがって標的化がより容易であることから、放射線照射は直腸がんにおいて使用することがより一般的である。
【0215】
American Cancer Societyの2006年の統計によれば、患者の20%超が診断時点で転移性(ステージIV)結腸直腸がんを示し、この群の最大25%が潜在的に切除可能な孤立性肝転移を示す。治癒的切除を経る病変は、現在では50%を超える5年生存予後を示している。
【0216】
肝転移の切除可能性は、術前画像診断(CTまたはMRI)、術中超音波検査、ならびに切除中の直接触診および可視化を使用して決定される。右葉に限局される病変は、右肝切除術(肝臓切除)による一括除去が許容される。中央肝葉または左肝葉の比較的小さな病変は解剖的「区域」ごとに切除されることがあり、一方、左肝葉の比較的大きな病変は肝3区域切除術と呼ばれる手技により切除される。比較的小さな非解剖的「楔形」切除による病変の処置は、比較的高い再発率に関連している。最初は外科的切除が許容されないいくつかの病変は、術前化学療法または免疫療法レジメンに有意な応答を示す場合、候補となることがある。治癒用の外科的切除が許容されない病変は、高周波アブレーション(RFA)、冷凍アブレーションおよび化学塞栓を含む様式で処置されることがある。
【0217】
結腸がんおよび肝臓への転移性疾患を有する患者は、長期手術に対する患者の適応度、結腸または肝臓のいずれかの切除を伴う手技で予想される困難、および潜在的に複雑な肝手術を行う手術の快適性に応じて、単回手術または段階的手術(結腸腫瘍が伝統的に最初に除去される)のいずれかで処置されうる。
【0218】
2009年に公表された研究は、アスピリンが無作為試験において結腸直腸新生物の危険性を減少させ、動物モデルにおいて腫瘍の成長および転移を阻害することを発見した。結腸直腸がんの診断後の生存率に対するアスピリンの影響は不明である。ステージI〜III(非転移性)結腸直腸がんと診断された1,279名の前向きコホートを含むいくつかの報告は、アスピリンを使用する患者のサブセットにおけるがん特異的生存率の著しい改善を示唆した。
【0219】
シメチジンは日本において、過剰発現シアリルルイスXおよびAエピトープをバイオマーカーとするステージIIIおよびステージIV結腸直腸がんを含む腺がん用のアジュバントとして調査中である。複数の小さな試験は、周術期にシメチジン処置を受けるsLeXおよびsLeAバイオマーカーを有する患者のサブセットにおける、いくつかの機構を通じた著しい生存率改善を示唆している。
【0220】
がん診断は、患者の心理的健康の膨大な変化を非常にしばしば生じさせる。カウンセリング、社会サービス支援、がん支援グループおよび他のサービスを与える様々な支援リソースを病院および他の機関から入手可能である。これらのサービスは、患者の医学的問題を患者の人生の他の部分に組み入れる困難の一部を緩和することに役立つ。
【0221】
G. 良性前立腺過形成
良性前立腺肥大(技術的には誤った名称)、良性前立腺腫脹(BEP)および腺線維筋腫性過形成としても知られる良性前立腺過形成(BPH)は、前立腺のサイズの増大を意味する。
【0222】
正確には、過程は肥大というよりもむしろ過形成の一種であるが、命名法は泌尿器科医の間でさえもしばしば互換的である。それは、前立腺の尿道周囲領域内の大きくかなり分散した小結節の形成を生じさせる、前立腺の間質細胞および上皮細胞の過形成を特徴とする。小結節は、十分に大きい場合に尿道を圧迫して尿道の部分的なまたは時々実質的に完全な閉塞を引き起こし、閉塞は尿の正常な流れを妨害する。それは排尿躊躇、頻尿、排尿障害(痛みを伴う排尿)、尿路感染症の危険性の増大、および尿閉の症状を導く。尿路感染症による臓器体積増大および炎症が理由で前立腺特異抗原レベルがこれらの患者において上昇することがあるが、BPHは前悪性病変であるとは考えられない。
【0223】
腺腫性前立腺成長は約30歳で始まると考えられる。男性の推定50%が50歳までに、80歳までに75%がBPHの組織学的証拠を示す。これらの患者の40〜50%においてBPHが臨床的に重大になる。
【0224】
良性前立腺過形成の症状は貯蔵または排尿として分類される。貯蔵症状としては頻尿、切迫(排尿を行う延期不可能なやむを得ない必要性)、切迫性尿失禁、および夜間の排尿(夜間多尿)が挙げられる。排尿症状としては尿線、排尿躊躇(尿流が始まるまで待つ必要があること)、間欠排尿(尿流が間欠的に開始および停止する場合)、排尿するためのいきみ、および尿滴下が挙げられる。通常、疼痛および排尿障害は存在しない。これらの貯蔵症状および排尿症状は、BPHの重症度を評価するために設計された国際前立腺症状スコア(IPSS)のアンケートを使用して評価される。
【0225】
BPHは、特に未処置のままであると進行性疾患となることがある。不完全な排尿は、膀胱残留物中の細菌のうっ滞、および尿路感染症の危険性の増大を生じさせる。残尿中の塩の結晶化により膀胱結石が形成される。急性または慢性と称される尿閉は別の進行形態である。急性尿閉は排尿する能力がないことであり、一方、慢性尿閉では残留尿量が徐々に増大し、膀胱が膨張する。慢性尿閉に罹患する一部の患者は、閉塞性尿路疾患と称される状態である腎不全に最終的に進行することがある。
【0226】
アンドロゲン(テストステロンおよび関連ホルモン)がBPHにおいて許容的役割を果たすと大部分の専門家は考えている。これは、アンドロゲンが、BPHの発生のためには存在しなければならないが、その状態を必ずしも直接引き起こすわけではないことを意味する。これは、去勢された少年が加齢する際にBPHを発生させないという事実に裏付けられている。他方で、外因性テストステロンを投与することは、BPH症状の危険性の有意な増大に関連しない。テストステロンの代謝産物であるジヒドロテストステロン(DHT)は前立腺成長の決定的に重要なメディエーターである。DHTは、前立腺中で循環テストステロンから酵素5α-レダクターゼ2型の作用によって合成される。この酵素は主に間質細胞に局在化しており、したがって、それらの細胞がDHTの合成の主要部位である。
【0227】
DHTは間質細胞上で自己分泌的に、または上皮細胞近傍に拡散することでパラ分泌的に作用しうる。これらの細胞の種類のいずれにおいても、DHTは、核アンドロゲン受容体に結合するものであり、上皮細胞および間質細胞に対して分裂促進的な成長因子の転写を示す。DHTは、テストステロンよりもゆっくりとアンドロゲン受容体から解離することから、テストステロンの10倍強力である。結節性過形成を引き起こす上でのDHTの重要性は、この状態を有する男性に5α-レダクターゼ阻害剤が投与されるという臨床観察に裏付けられている。5α-レダクターゼ阻害剤による治療は、前立腺のDHT含有量を著しく減少させ、したがって前立腺体積およびいくつかの場合ではBPH症状を減少させる。
【0228】
テストステロンは前立腺細胞増殖を促進するが、相対的に低レベルの血清テストステロンがBPHを有する患者に見られる。1つの小さな研究は、医学的去勢が血清および前立腺中ホルモンレベルを不均等に低下させ、前立腺中テストステロンおよびジヒドロテストステロンレベルに対して比較的小さい効果を示すことを示した。
【0229】
エストロゲンがBPHの病因において役割を果たしうるという何らかの証拠が存在するが、この効果は、エストロゲンそれ自体の直接的効果というよりもむしろ前立腺組織中でのエストロゲンからアンドロゲンへの限局的変換を通じて主に媒介されるようである。イヌのインビボ研究において、アンドロゲンレベルを有意に減少させたがエストロゲンレベルを不変のままにした去勢は、前立腺の著しい萎縮を引き起こした。ヒトにおける前立腺過形成と血清エストロゲンレベルとの間の相関を調べる研究は、一般に何も示さなかった。
【0230】
顕微鏡レベルでは、BPHは世界中の加齢した、特に70歳を超えた男性の大多数において見ることができる。しかし、臨床的に重大な症候性BPHの有病率は生活様式に応じて劇的に変動する。西側の生活様式を送る男性は、伝統的なまたは農村の生活様式を送る男性よりもはるかに高い症候性BPHの発生率を示す。これは中国での研究により確認されており、その研究は、農村地域の男性が症候性BPHの非常に低い有病率を示し、一方、西側の生活様式を採用する都市に住む男性がこの状態の急増した発生率を示したが、その発生率が西側に見られる有病率を依然として下回っていることを示している。
【0231】
直腸診(直腸を通じた前立腺の触診)は、通常は中葉を冒す前立腺の著しい腫脹を明らかにすることがある。多くの場合、前立腺悪性腫瘍を除外するために血液検査が行われる。前立腺特異抗原(PSA)レベルの上昇は、PSA密度および遊離型PSAの割合に関するPSA結果の再解釈、直腸診、ならびに経直腸超音波検査などのさらなる調査を必要とする。これらの併用される手段は早期検出を実現しうる。やはり悪性腫瘍および水腎症を除外するために、精巣、前立腺および腎臓の超音波検査がしばしば行われる。BPHのスクリーニングおよび診断手順は、前立腺がんに使用される手順と同様である。
【0232】
薬物は第一の処置選択肢としてしばしば処方され、この選択処置で成功を得られない多くの患者が存在する。これらの患者は、症状の持続的改善が得られないこともあれば、副作用が理由で薬物を服用することを停止することもある。手術に進む前に泌尿器科医のオフィスにおける処置選択肢が存在する。オフィスベースの治療の2つの最も一般的な種類は経尿道的マイクロ波温熱療法(TUMT)および経尿道的ニードルアブレーション法(TUNA)である。これらの手技はいずれも、十分な熱を作り出すために十分なエネルギーを送達することで前立腺中の細胞死(壊死)を引き起こすことに依存する。これらの治療の目標は、壊死組織が身体に再吸収される際に前立腺が収縮するように十分な壊死を引き起こすことで、尿道の閉塞を軽減することにある。これらの手技は局所麻酔によって通常は行われ、患者は同日に帰宅する。一部の泌尿器科医はこれらの手技の予後を研究して5年に及ぶその長期データを公表した。American Urological Association(AUA)の2003年の最も直近のBPH処置に関するガイドラインは、BPHを有する特定の患者について許容される代替案として、TUMTおよびTUNAを含む最小限に侵襲性の治療を列挙している。
【0233】
経尿道的マイクロ波温熱療法(TUMT)は1996年にFDAによって最初に承認され、第1世代システムはEDAP Technomedによるものであった。1996年以後、Urologix、Dornier、Thermatrix、CelsionおよびProstalundを含む他社がTUMT装置についてFDAの承認を受けた。TUMTに関して複数の臨床研究が公表された。すべての装置の基礎にある一般的原理は、尿道カテーテル中に存在するマイクロ波アンテナが尿道の前立腺内区域に配置されるというものである。カテーテルは、患者の体外の制御ボックスに接続されており、マイクロ波放射線を前立腺中に放出することで組織を加熱して壊死を引き起こすように通電される。それは1回の処置であり、使用されるシステムに応じて約30分〜1時間かかる。損傷組織が患者の体内に再吸収されるには約4〜6週間かかる。一部の装置は、尿道を取り囲む前立腺組織をマイクロ波エネルギーが加熱している間に尿道を保存するという意図で処置区域を通じてクーラントを循環させることを包含する。
【0234】
経尿道的ニードルアブレーション法(TUNA)は、異なる種類のエネルギー、高周波(RF)エネルギーで作動するが、装置が発生させる熱が前立腺組織の壊死を引き起こして前立腺を収縮させるというTUMT装置と同じ前提に沿って設計される。TUNA装置は、膀胱鏡とよく似た剛性のスコープを使用して尿道に挿入される。エネルギーは、装置の側面から尿道壁を通じて前立腺内に出現する2本のニードルを使用して前立腺中に送達される。ニードルベースのアブレーション装置は、局在化された区域を十分に高い温度に加熱して壊死を引き起こす上で非常に有効である。処置は1回のセッションで通常行われるが、前立腺のサイズによっては複数本のニードルを必要とすることがある。
【0235】
医学的処置が失敗して、患者がオフィスベースの治療を試みないことを選ぶか、または患者が経尿道的前立腺切除術(TURP)のより良い候補であると医師が決定する場合、手術を行う必要があることがある。一般にTURPは、手技を必要とする患者への前立腺介入のゴールドスタンダードと依然として考えられている。これは、尿道を通じて前立腺(の一部)を除去することを包含する。また、腫脹した前立腺のサイズを減少させるためのいくつかの新規方法が存在し、それらの一部はその安全性または副作用を完全に確定するほど長期には存在していない。これらとしては、残存物の損傷を回避しようとしながら過剰組織の一部を破壊または除去する各種の方法が挙げられる。経尿道的前立腺電気蒸散術(TVP)、レーザーTURP法、ビジュアルレーザーアブレーション法(VLAP)、エタノール注入法などが代替案として研究されている。
【0236】
Nd:YAGレーザーを前立腺組織に接触させることを包含するVLAP技術を初めとする、レーザーを包含するより新規の泌尿器科学の技術が過去5〜10年に出現した。GreenLight(KTP)レーザーを用いる光選択的前立腺蒸散術(PVP)と呼ばれる同様の技術が非常に最近出現した。この手技は高出力80ワットKTPレーザーを、前立腺に挿入される550マイクロメートルレーザーファイバーと共に包含する。このファイバーは、70度偏向角での内部反射を有する。それは組織を前立腺被膜まで蒸散させるために使用される。KTPレーザーは、ヘモグロビンを発色団として標的化し、通常は2.0mmの侵入深さ(ホルミウムの4倍の深さ)を有する。
【0237】
ホルミウムレーザー前立腺切除術(HoLAP)と称される別の手技も世界中で受容されている。KTPのように、HoLAP手技用の送達装置は、高出力100ワットレーザーからのビームをファイバー軸から70度の角度に向ける550um使い捨てサイドファイアリングファイバーである。ホルミウム波長は2,140nmであり、これはスペクトルの赤外部分の範囲内であり、裸眼には見えない。KTPは発色団としてのヘモグロビンに依存するが、ホルミウムレーザー用の発色団は標的組織内の水である。ホルミウムレーザーの侵入深さは<0.5mmであり、これにより、KTPのより深い侵入およびより小さいピーク出力でしばしば見られる、組織壊死に関連する合併症が回避される。
【0238】
HoLEP、すなわちホルミウムレーザー前立腺核出術は、TURPまたは開放性前立腺摘除術のいずれかに比べて少ない危険性を有すると報告されている別のホルミウムレーザー手技である。HoLEPはHoLAP手技と大部分同様であり、主な違いは、この手技がより大きな前立腺に対して通常行われるということである。レーザーは、組織を切除する代わりに前立腺の一部を切断し、これは次により小さな断片に切断され、洗浄液で洗い流される。HoLAP手技と同様に、手技の途中または後にほとんど出血が存在しない。
【0239】
KTPおよびホルミウムのいずれの波長でも1分当たり組織約1〜2グラムが切除される。
【実施例】
【0240】
III. 実施例
以下の実施例は、本発明の好ましい態様を示すために含まれる。当業者は、以下の実施例で開示される技術が、本発明の実行において十分に機能することを本発明者が発見した技術を代表するものであり、したがってその実行の好ましい様式を構成すると考えられうることを認識すべきである。しかし、当業者は、本開示に照らして、本発明の真意および範囲を逸脱することなく、開示されている具体的な態様に多くの変更を行い、なお類似または同様の結果を得ることができることを認識すべきである。
【0241】
結果
ARシグナル伝達がLXXLL構造モチーフを必要としうることから、本発明者らは最初に、PELP1上のLXXLL構造モチーフを潜在的標的として評価した。PELP1は、それが核内受容体に結合する際にヘリックス構造を採用する10個のそのようなLXXLLモチーフを含有する。トリスベンズアミドの強固で予め組織化された構造は、α-ヘリックスのi位、i+4位およびi+7位に見られるアミノ酸に対応する3個の官能基の配置を容易にする。逆に、ビスベンズアミド足場は、その2個の置換基(R
1〜2)を使用することで、i位およびi+4位に見られるアミノ酸の2個の側鎖を提示しうる。本発明者らは、その最初のペプチド模倣体を、全10個のPELP1 LXXLLモチーフを潜在的に標的化する遺伝学的LXXXLペプチド模倣体として設計することを決定した。最初のペプチド模倣体の設計は、ソフトウェアとして実行されたMM3力場を使用するMonte Carlo立体配座検索(5,000ステップ)を利用したものであり、最小エネルギー構造中の2個の官能基(R
1〜2)がヘリックスの対応する側鎖に十分に重ね合わせられることを示した。ヘリックスの1つの側面でのこれらのロイシンの機能的組織化および提示は、MacroModel(バージョン9、Schrodinger、ニューヨーク州ニューヨーク)を使用する分子モデリングによって確認された。
【0242】
ARに結合したLXXLL配列から誘導された短いペプチドのX線結晶構造は、LXXLLモチーフがα-ヘリックス構造を採用すること、ならびに、i位、i+3位およびi+4位の3個のロイシンの側鎖がARのAF2ドメイン内の疎水性ポケットと相互作用することを示した(
図4A)。ヘリックスのi位およびi+4位のアミノ酸残基の側鎖が現れる際に、ビスベンズアミド足場の強固で予め組織化された構造が2個の置換基を配置することができることから、本発明者らは、PELP1の全10個のLXXLLモチーフを潜在的に標的化するビスベンズアミド系ペプチド模倣体を設計した。また、LXXLLペプチド模倣体の設計は、ARとこの核内受容体ボックスを通じてARと相互作用する他の補助因子タンパク質との間の相互作用の遮断を可能にする。
【0243】
AR相互作用のための疎水性表面を組織化する、LXXLLモチーフのi位およびi+4位の2個のロイシンの側鎖を模倣するように、ビスベンズアミドD2の2個のイソブチル基を設計した。
図4Dに示すように、最小エネルギー構造は、D2の2個のイソブチル基が2個のロイシンの側鎖に十分に重ね合わせられることを示した。最初の化合物が、LXXLLモチーフのi位およびi+4位の2個のLeuの側鎖基をエミュレートする2個のイソブチル基を有するビスベンズアミドD2であった一方で、対照D1は2個のベンジル基を含有する(
図5)。他方、2個のベンジル基を含有するビスベンズアミド(D1)を対照として合成した(
図5)。AR相互作用のための疎水性表面を組織化する、LXXLLモチーフのi位およびi+4位の2個のロイシンの側鎖を模倣するように、ビスベンズアミドD2の2個のイソブチル基を設計した。他方、2個のベンジル基を含有するビスベンズアミド(D1)を対照として合成した(
図5)。
【0244】
LXXLLペプチド模倣体D2はDMSO中、室温および-70℃で長い貯蔵期間(60日)にわたって安定であった。長い有効期間以外に、D2はLNCaPの細胞溶解液中で7日間にわたって著しく安定であることがわかった(
図4E〜F)。
【0245】
図6は、D2がLXXLLモチーフに対して向けられてARとPELP1との相互作用をインビボで遮断可能であるという確認がLnCaP PCa細胞中での免疫共沈降実験から得られたことを示す。PCa細胞をD1ではなく100nM D2と共にプレインキュベートすることで、物理的に相互作用し合うDHT誘導性ARおよびPELP1の能力が遮断された。
【0246】
図7は、D2がAR-PELP1相互作用を用量依存的に遮断したことを示す。D2は、LAPC4、C4-2、VCAPおよびCWR22v1細胞中でARとPELP1とのDHTおよびE2誘導性相互作用を遮断することもできた。D2はARまたはPELP1のいずれかの安定性に悪影響を与えなかった。D2は、ARと一次構造上にLXXLLモチーフのないタンパク質であるhsp90との間の相互作用に影響することができなかった。AR-PELP1相互作用を遮断するD2の能力をPELP1の一過性過剰発現によって用量依存的に克服することができた。
【0247】
図8は、LNCaP細胞中のRNAレベルでのDHT誘導性TMPRSSおよびPSA遺伝子発現に対するD1およびD2の効果を評価するQPCR実験(左下パネル)、ならびにLAPC4細胞中のタンパク質レベルでのPSA、アンドロゲン受容体およびアクチンの発現に対するD1およびD2の効果により評価されるウエスタンブロット解析によって、これらの発見を確認する。DHTによって有意に上方制御された341個の転写物のうち、219個の遺伝子の発現レベルがD2による前処理によって減少してベースラインに戻った。これらの発見の確認はQPCRおよびウエスタンブロット解析によって得られた。
【0248】
図9は、D2がLAPC4細胞中のPSAルシフェラーゼプロモーター、またはLNCaP、CWR22v1およびLAPC4細胞系中の最小AREルシフェラーゼレポーターからのDHT誘導性転写を遮断することができたことを示す。ARE駆動プロモーターからのDHT誘導性転写を遮断するD2の能力は、PSAとTMPRSSとの両方のプロモーターのQPCR評価を使用してRNAレベルで確認された。さらに、D2は、CHiPアッセイで証明されたように、PSAプロモーター上でのDHT誘導性AR結合を遮断した。タンパク質レベルでは、D1ではなくD2がPSAタンパク質のDHT誘導性発現を遮断することができた。さらに、AREからのDHT誘導性転写の抑制を、ARまたはPELP1のいずれかの過剰発現によって克服することができた(
図4)。PELP1の過剰発現は、DHT誘導性転写のD2媒介性抑制をレスキューしてほぼベースラインまで戻すことができた。これらのデータは、D2が、少なくとも部分的にはAR-PELP1相互作用を遮断することでARゲノムシグナル伝達を遮断することができることを示した。
【0249】
D2による前処理は、LNCaP、LAPC4、C4-2、RWPE-1、CWR22v1、VCaP、MDAPCa 2bなどのARを含有する種々のPCa細胞系のDHT誘導性増殖を防止したがDU145またはPC3などのAR陰性PCa細胞系のDHT誘導性増殖は防止せず、一方、対照D1はいかなる活性も示さなかった(
図10)。これらのデータはBrdUアッセイ(CyQuant)を使用して確認された。D2は、MTTアッセイにおいてPCa細胞のDHT媒介性増殖をインビトロで用量依存的に(IC
50約40nM)有意に減少させることができた。前立腺がん細胞のDHT媒介性増殖に関するPELP1とARとの相互作用の重要性はレスキュー実験を使用して確認され、そこではLNCaP PCa細胞中でDHT媒介性増殖のD2抑制がPELP1の過剰発現によって克服された。最後に、異種移植片中の効果は、D2がインビボモデルであってもAR-PELP1相互作用を遮断する上で生物学的に活性であることを示した。
【0250】
図11に示すように、D2がPCa細胞のEGFまたはLPA誘導性増殖に対して効果を示さなかったことから、ステロイド誘導性増殖経路に対するD2の効果は特異的であるようである。この実験では、細胞を96ウェルプレート中に播種し(2〜10X103/ウェル)、フェノールレッドフリーRPMIおよび1%木炭剥離ウシ胎仔血清(CSF)による48時間のアンドロゲン除去に供した。次に細胞を正の対照としてのエタノール、EGFまたはDHTのいずれかで48時間処理した。処理の2時間前にペプチド模倣体を加えた。細胞増殖をMTT比色分析を使用して測定した。すべての実験を三つ組で行い、実験の平均値を示した。
【0251】
図12は、D2がerkのDHT媒介性非ゲノム活性化に対する効果を示さなかったことから、DHT誘導性ゲノム活性化に対するD2の効果が特異的であったことを示す。
図13は、D2による前処理が、対照D1またはDMSOに比べて、LnCaP細胞中でのAR-GFPから核へのDHT誘導性移行を遮断したことを示す。これらの発見は、LnCaP細胞からの核抽出物および細胞質抽出物の生化学的解析によって確認され、生化学的解析は、D1またはDMSOではなくD2による前処理がDHTの添加時にAR核移行を防止することを明らかにした。これらのデータは、LAPC4細胞中の内因性ARの評価によってさらに実証される。
【0252】
図14ではD2の2つの蛍光類似体が調製され、1つはD2のC末端にフルオレセイン部分を導入することで調製され(CF1-D2)、もう1つはN末端にそれを配置することで調製された(CF2-D2)。これらの蛍光類似体とのインキュベーション後、CF1-D2ではなくCF2-D2がLNCaP細胞に入り込むことがわかった。結果として、CF1-D2ではなくCF2-D2がPCa細胞のDHT誘導性増殖を遮断することができた。これらのデータは、ペプチド模倣体D2がPCa細胞に入り込むことで機能すること、および、このペプチド模倣体が細胞に入り込まない場合、ARシグナル伝達を遮断する能力を有さないことを確認する。
図15は共焦点研究を示し、共焦点研究は、ペプチド模倣体CF2-D2がPCa細胞に入り込むことで機能し、細胞内に広範に局在化されることを確認する。
【0253】
図16では、ウエスタンブロット解析においてD1は比較的高い濃度(500nM)でerk活性化を遮断し、一方、D2は比較的低い濃度で遮断する。D2、およびそれには劣るがD1は、確証された標的を前立腺がんにおいて標的化し、AR選択的モジュレーターとなる可能性を有し、新規の作用機序を示し、おそらくは治療の文脈で持続的効果を示す。
【0254】
図17は、
図19A〜Nの各誘導体の増殖アッセイを示す。このグラフは各化合物の有効性を表す。細胞を96ウェルプレート中に播種し(2〜10X10
3/ウェル)、フェノールレッドフリーRPMIおよび1%木炭剥離ウシ胎仔血清(CSF)による48時間のアンドロゲン除去に供した。次に細胞を正の対照としてのエタノールまたはDHTのいずれかで48時間処理した。処理の2時間前にペプチド模倣体を加えた。細胞増殖をMTT比色分析を使用して測定した。すべての実験を三つ組で行い、実験の平均値を示した。
【0255】
図18は、D2ペプチド模倣体の潜在的修飾を示す。
図19A〜Nは種々の試験化合物を示す。
図19Aは、x位およびy位の修飾を示し、修飾は、D2-4およびD2-5などの置換基がインビボで前立腺がん細胞の増殖に対して最大の活性を有することを明らかにする。
図19Bは、x位およびy位の修飾を示し、修飾は、D2-4などの置換基がインビボで前立腺がん細胞の増殖に対して良好な活性を有することを明らかにする。
図19Cは、x位およびy位の修飾を示し、修飾は、D2-CF2およびD2-5などの置換基がインビボで前立腺がん細胞の増殖に対して優れた活性を有することを明らかにする。
図19Dは、D2-11、D2-12およびD2-26などの置換基がインビボで前立腺がん細胞の増殖に対して良好な活性を有することを示す。
図19Eは修飾を示し、修飾は、D2-11、D2-23およびD2-26などの置換基がインビボで前立腺がん細胞の増殖に対して良好な活性を有することを明らかにする。
図19Fは修飾を示し、修飾は、D2、D2-30およびD2R11Nなどの置換基がインビボで前立腺がん細胞の増殖に対して良好な活性を有することを明らかにする(D2R11Nは水溶性である)。
図19Gは修飾を示し、修飾は、D2、D5-1、JHL05およびJHL04などの置換基がインビボで前立腺がん細胞の増殖に対して良好な活性を有することを明らかにする。
図19Hは修飾を示し、修飾は、TK6、TK6-R、TK-8、TK8R、TK9、TK9R、TK11およびTK11Rなどの置換基がインビボで前立腺がん細胞の増殖に対して良好な活性を有することを明らかにする。
図19Iは修飾を示し、修飾は、TK-ABA、TK-L2-AAC、TK-L2-AAB、TK-L2-ABB、TK-L2-ABC、TK-L2-BAA、TK-L2-BAB、TK-L2-CBBおよびTK-L2-CCBなどの置換基がインビボで前立腺がん細胞の増殖に対して良好な活性を有することを明らかにする。
図19Jは、TK-ABA、TK-L2-ACA、TK-L2-ABB、TK-L2-ABC、TK-L2-BAA、TK-L2-AACおよびTK-L2-ABCなどの置換基がインビボで前立腺がん細胞の増殖に対して良好な活性を有することを示す。
図19Kは、R1=nブチルおよびR2=nブチル、ならびにR1=イソブチルおよびR2=secブチル、ならびにR1=nプロピルおよびR2=イソブチルなどの置換基がインビボで前立腺がん細胞の増殖に対してD2よりも良好な活性を有することを示す。これら3種はD2よりも低濃度で働く。
図19Lは修飾を示し、修飾は、D29などの置換基がインビボで前立腺がん細胞の増殖に対して良好な活性を有することを明らかにする。
図19Mは、D2などの修飾がインビボで前立腺がん細胞の増殖に対して良好な活性を有することを示す。
図19Nは、D2およびD2-47などの置換基がインビボで前立腺がん細胞の増殖に対して良好な活性を有することを示す。図。
【0256】
図20はいくつかの最高活性化合物を示し、
図21〜
図22はその様々な活性を示す。
【0257】
まとめると、これらの結果は、ARとPELP1との機能的相互作用がARシグナル伝達に決定的に重要であるようであること、ならびに、合理的に設計されたLXXLLペプチド模倣体を使用してこの相互作用を遮断することでAR核移行、AR媒介性ゲノムシグナル伝達およびPCa細胞増殖に影響することができることを明らかに示している。したがって、この相互作用に影響するペプチド模倣体は、ARシグナル伝達を制御する上で有用である。
【0258】
本明細書において開示および特許請求したすべての組成および/または方法を、本開示に照らして、過度の実験なしに実施および実行することができる。本発明の組成物および方法を好ましい態様に関して説明してきたが、本発明の概念、真意および範囲を逸脱することなく、この組成および/または方法、ならびに本明細書に記載の方法の段階または段階の順序に変形を適用することができることは、当業者には明らかであろう。当業者に明らかなすべてのそのような同様の代用物および修正は、添付の特許請求の範囲により定義される本発明の真意、範囲および概念内にあると見なされる。
【0259】
参考文献
以下の参考文献は、本明細書に開示の参考文献を補足する例示的な手順上の詳細または他の詳細を示す限りにおいて、参照により本明細書に具体的に組み入れられる。
米国特許出願公開第2009/0012141号
Ahn et al., Mini-Rev. Med. Chem., 2:463-473, 2002.
Marshall, Tetrahedron, 49:3547-3558,. 1993.