(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。
【0014】
<第1実施形態>
図1は、本発明の第1実施形態に係る自動二輪車10の概略構成を示すブロック図である。
図1に示す自動二輪車10は、電動モータ1と、制御装置2と、アクセルセンサ3とを備える。なお、自動二輪車10は、電気自動車であって、さらに、図示していないスタンドを備え、電動モータ1の始動時においてスタンドが立っている場合に電動モータ1の駆動を抑制する制御を行う。
【0015】
電動モータ1は、例えば図示してない車輪軸に直結するようにホイール内に設けられているインホイールモータであり、制御装置2とともに、自動二輪車10のエンジン(原動機)を構成する。電動モータ1は、例えば3相ブラシレスDC(直流)モータである。また、電動モータ1は、例えば電動モータ1のロータを構成する磁極の極性の変化を検出するセンサを備え、センサの検出出力またはセンサの検出出力に基づいて生成した回転数(単位時間当たりの回転数;回転速度)を表す信号を出力する。
【0016】
ここで、
図6および
図7を参照して、電動モータ1の構成例について説明する。
図6は、
図1に示す電動モータ1をダイレクトドライブ型インホイールモータとして構成した場合の構成例を示す図である。ダイレクトドライブ型インホイールモータは、減速機構を有せず、電動モータ1のロータを構成する複数のマグネット12が直接ホイール102に設けられている。この構成では、ホイール102がそのまま電動モータ1のロータとして機能する。電動モータ1のステータを構成するコイル11に電圧を印加して励磁することでホイール102およびタイヤ101が直接回転する。電動モータ1を
図6に示すようなダイレクトドライブ型インホイールモータとして構成した場合、回転中のタイヤ101が外力によって急に回転を停止した場合、単にコイル電圧に対してタイヤ101が回転しないだけなので機械的な負荷は少ない。
【0017】
一方、
図7は、
図1に示す電動モータ1を減速機構(ギア)付インホイールモータとして構成した場合の構成例を示す図である。電動モータ1のロータ13は複数のマグネット12を有するアウターロータとして構成されていて、ロータ13には一例として遊星歯車機構からなる減速機構103が結合されている。ホイール102は減速後の出力ロータとして機能する。この構成では、コイル11に電圧を印加して励磁し、ロータ13を回転させ、減速機構103を介して回転力がホイール102へ伝達される。電動モータ1を
図7に示すような減速機構付インホイールモータとして構成した場合、回転中のホイール102が外力によって急に回転を停止した場合、ロータ13は慣性で回り続けようとするため、減速機構103には入力側と出力側から逆向きの力がかかり、減速機構103に対して大きな負荷がかかる。
【0018】
次に
図1に示す制御装置2について説明する。
図1に示す制御装置2は、制御部21とモータ駆動回路22とを備える。制御部21は、アクセルセンサ3が出力したアクセルON(オン)/OFF(オフ)の状態を示す信号やアクセル開度を示す信号、電動モータ1の回転数を示す信号等に基づき駆動指令を生成して、モータ駆動回路22に対して出力する。モータ駆動回路22は、例えば3相インバータ回路から構成され、制御部21が出力した駆動指令に応じて図示していないバッテリから供給された直流電力を3相交流電力に変換して、出力信号として電動モータ1へ出力する。その際、制御部21は、モータ駆動回路22が有する複数のスイッチング素子をPWM(パルス幅変調)制御することで、電動モータ1の出力を可変制御する。
【0019】
アクセルセンサ3は、図示していないアクセルグリップの操作量を検出するセンサであり、検出したアクセル開度を示す信号や、アクセルがONしているかOFFしているかを示す信号を生成して、制御部21に対して出力する。
【0020】
次に、
図2を参照して
図1に示す制御装置2の動作例について説明する。
図2に示す動作例は、アクセルセンサ3の出力がアクセルOFFを示していて、制御部21が電動モータ1を停止させている状態で開始される。運転者がアクセルグリップを操作してアクセルセンサ3がアクセルONを出力すると、制御部21はアクセルセンサ3の出力信号に基づきアクセルONが検出されたと判定する(ステップS11でYES)。制御部21は、アクセル開度に因らず一定のPWM指令値を指定する駆動指令を出力することでモータ駆動回路22を制御し、電動モータ1(以下、単にモータともいう)の駆動を開始する(ステップS12)。ここでPWM指令値はPWMにおけるデューティ比の指示値である。
【0021】
次に、制御部21は、一定時間が経過するまで(ステップS14でYESとなるまで)、PWM指令値を一定値に固定したまま電動モータ1を駆動した状態でモータ回転数を複数回測定する(ステップS13)。
図3は、ステップS13でのモータ回転数の測定例を示した図である。
図3は、横軸を時間とし、縦軸をモータ回転数として、アクセルONのタイミングを0sとしてモータ回転数の変化を3種類の条件で模式的に描いた図である。3種類の条件は、自動二輪車10の駆動輪が空転する状態でアクセルがONされた場合、駆動輪が空転しない状態(駆動輪が地面に接触している状態)でアクセルがONされた場合であって、自動二輪車10が下り坂で停止している状態でアクセルがONされたときと、平地や上り坂でアクセルONされたときである。ステップS13とステップS14において、制御部21は、例えば
図3に示す一定時間T1が経過するまでの間、例えば一定の周期T2で丸印で示したようにモータ回転数を繰り返し測定する。一定時間T1は例えば数十ms〜数百msとすることができる。ステップS13での測定回数に限定はなく複数回であればよい。
【0022】
一定時間が経過すると(ステップS14でYESとなると)、制御部21は、ステップS13で測定したモータ回転数の上昇率を算出する(ステップS15)。例えば、測定回数が2回であれば2回分のモータ回転数の差分を算出することで制御部21はモータ回転数の上昇率を算出することができる。測定回数が3回以上であれば、例えば算出した複数の上昇率のうちの最大値や最小値を算出結果としたり、最大値や最小値を除いた残りの値の平均値を算出結果としたりすることができる。なお、上昇率は、回転加速度もしくは回転数の変化の傾きに対応する。また、ステップS15では、2回分のモータ回転数の差分を算出し、さらに2回の測定間隔に対応する時間で除した値を上昇率としてもよい。
【0023】
次に、制御部21は、ステップS15で算出したモータ回転数上昇率と、予め定めた上昇率閾値とを比較し、モータ回転数上昇率が上昇率閾値より大きいか否かを判定する(ステップS16)。
図3に示すように、駆動輪が空転している状態とそれ以外の状態とでは駆動開始の際の回転上昇率が異なる。すなわち、駆動輪が空転している状態の回転上昇率は、それ以外の状態の回転上昇率より大きい。よって、駆動輪が空転している状態とそれ以外の状態とを判別できるように上昇率閾値を設定することで、ステップS16で制御部21は駆動輪が空転しているのか否かを識別することができる。
【0024】
モータ回転数上昇率が上昇率閾値より大きいと判定した場合(ステップS16でYESの場合)、制御部21は、電動モータ1の制御を空転抑制制御へ移行する。一方、モータ回転数上昇率が上昇率閾値より大きくないと判定した場合(ステップS16でNOの場合)、制御部21は、電動モータ1の制御を通常走行における制御へ移行する。ここで、空転抑制制御は、例えばモータ回転数を一定の上限値以下に制限する速度制御である。制御部21は、例えば、次にアクセルOFFが検出されるまで空転抑制制御を継続する。また、通常走行における制御は、アクセル開度等に応じて電動モータ1の出力制御を行う通常の制御である。
【0025】
以上のように、第1実施形態の自動二輪車10によれば、スタンド状態を検出するスイッチ等を設けることなくスタンドが立っている場合に発生する駆動輪の空転状態を検出してエンジン駆動を抑制することができる。すなわち、第1実施形態の自動二輪車10によれば、スタンド状態を検出するスイッチ等を設けることなく、電動モータ1とその電動モータ1を制御する制御装置2とからなるエンジンの始動時においてスタンドが立っている場合にそのエンジンの駆動を抑制する制御を行うことができる。
【0026】
また、第1実施形態では、始動時に一定時間、アクセル開度によらず、一定のデューティ比のPWMで電動モータ1に通電する。このため、スタンドが立っていて無負荷状態である場合にモータ回転数の上昇率を一定とすることができる。例えば、アクセル開度に応じてPWMのデューティ比を変化させてしまう場合と比較して、第1実施形態では無負荷時の回転数上昇を一定の範囲で安定させることができる。また、回転数の上昇が安定しているのでモータ回転数上昇率の測定に要する時間も短縮することができる。この構成によれば、始動の際に、一定のデューティ比のPWMで電動モータ1に通電することで、誤検出を防止することができる。また空転検出時間を短縮することができるので電費の向上が期待できる。
【0027】
なお、第1実施形態では、スタンドが立っている場合に発生する駆動輪の空転状態を次のようにして検出する。すなわち、制御装置2は、アクセルONの入力を受けつけてから電動モータ1の駆動を開始し、電動モータ1の駆動開始の際の電動モータ1の動作状態が所定の条件を満たす場合に駆動輪が空転状態であることを検出する。具体的には、制御装置2は、電動モータ1の駆動開始の際に、アクセルONの入力を受けつけてから所定の期間(
図3の時間T1)、アクセル開度に因らず電動モータ1に対し一定の出力信号を出力し、所定の期間における電動モータ1の回転数の上昇度合いが所定の判定条件を満たす場合が、動作状態が所定の条件を満たす場合であるとして、エンジンの駆動を抑制する制御を行う。また、制御装置2は、所定の期間に電動モータ1の回転数を複数回測定し、それら複数回の測定結果に基づいて算出された電動モータ1の回転数の上昇率が上昇率閾値を越えた場合に、所定の期間における電動モータ1の回転数の上昇度合いが所定の判定条件を満たす場合であるとして、エンジンの駆動を抑制する制御を行う。
【0028】
なお、
図2および
図3を参照して説明した動作例は、一例であって、例えば
図3に示すようにモータ回転数を複数回測定する際にモータ回転数上昇率が上昇率閾値を一度でも越えた場合に駆動輪が空転状態であると判定することができる。この場合、制御部21は、時間T1の経過を待たずにエンジンの駆動を抑制する制御を開始することができる。また、電動モータ1の駆動開始の際の電動モータ1の動作状態が所定の条件を満たす場合の条件は、モータ回転数の上昇率に代えて(あるいは加えて)モータ回転数を用いた判定条件としてもよい。例えば、駆動を開始してから一定時間経過後の回転数を所定の閾値と比較することで空転状態の有無を推定するようにしてもよい。
【0029】
<第2実施形態>
図4は、本発明の第2実施形態に係る自動二輪車10aの概略構成を示すブロック図である。
図4において、
図1に示す構成と同一の構成には同一の符号を付け、対応する構成(すなわち一部が異なる構成)には符号の末尾に英字「a」を付加した符号を付けている。
図4に示す自動二輪車10aは、電動モータ1と、制御装置2aと、アクセルセンサ3とを備える。制御装置2aは、制御部21aとモータ駆動回路22aを備える。
図1に示す自動二輪車10と
図4に示す自動二輪車10aは、制御装置2の構成と制御装置2aの構成が一部異なる。
図1に示す制御装置2と比較して、
図4に示す制御装置2aでは、制御部21aがモータ電流に基づく判断を行うことと、モータ駆動回路22aが電源電流を測定した結果を電流測定値として制御部21aへ出力することが異なる。なお、自動二輪車10aは、制御装置2aの構成が一部異なることを除き第1実施形態の自動二輪車10と同じであり、電気自動車であって、さらに、図示していないスタンドを備え、電動モータ1の始動時においてスタンドが立っている場合に電動モータ1の駆動を抑制する制御を行う。
【0030】
次に、
図5を参照して
図4に示す制御装置2の動作例について説明する。
図5に示す動作例は、アクセルセンサ3の出力がアクセルOFFを示していて、制御部21aが電動モータ1を停止させている状態で開始される。運転者がアクセルグリップを操作してアクセルセンサ3がアクセルONを出力すると、制御部21aはアクセルセンサ3の出力信号に基づきアクセルONが検出されたと判定する(ステップS21でYES)。次に、制御部21aは、アクセルセンサ3の出力信号に基づきアクセル開度に応じた電動モータ1の駆動制御を開始する(ステップS22)。アクセル開度に応じた電動モータ1の駆動制御では、制御部21aが、所定の周期で、アクセル開度を測定し、測定したアクセル開度に応じてPWM指令値を決定し、決定したPWM指令値に基づく駆動指令をモータ駆動回路22aに対して出力する。
【0031】
次に、制御部21aは、モータ回転数を測定する(ステップS23)。次に、制御部21aは、ステップS23で測定したモータ回転数が所定の回転数下限値より大きいか否かを判定する(ステップS24)。回転数下限値は、電動モータ1が回転を開始したか否かを判定するための基準である。モータ回転数が回転数下限値より大きいと判定した場合(ステップS24でYESの場合)、制御部21aは、モータ電流を測定する(ステップS25)。ここで言うモータ電流は、図示していないバッテリからモータ駆動回路22aを通じてモータコイルへ流れ込む電流である。
【0032】
次に、制御部21aは、ステップS25で測定したモータ電流が所定の電流閾値より大きいか否かを判定する(ステップS26)。電流閾値は、電動モータ1が空転状態で負荷が小さい状態であるか否かを識別するための閾値である。モータ電流は負荷トルクに応じて変化するので、空転状態で負荷トルクが小さい場合、モータ電流は小さくなる。電流閾値は、空転状態と非空転状態とを判別できる値に設定する。
【0033】
モータ電流が所定の電流閾値より大きいと判定した場合(ステップS26でYESの場合)、制御部21aは、電動モータ1の制御を通常走行における制御へ移行する。一方、モータ電流が所定の電流閾値より大きくないと判定した場合(ステップS26でNOの場合)、制御部21aは、モータ回転数が回転数閾値より大きいか否かを判定する(ステップS27)。ステップS27の判定は、ステップS26で空転状態と判定された場合でも(ステップS26でNOの場合でも)、一定程度の回転であれば空転を抑制する制御せず、空転を継続させるための判定処理である。モータ回転数が回転数閾値より大きい場合(ステップS27でNOの場合)、制御部21aは、電動モータ1の制御を空転抑制制御へ移行する。一方、モータ回転数が回転数閾値より大きくない場合(ステップS27でNOの場合)、制御部21aは、モータ回転数を再度測定する(ステップS24)。
【0034】
なお、空転抑制制御と通常走行における制御の内容は第1実施形態と同一である。また、ステップS27の判定処理は省略してもよい。
【0035】
以上のように、第2実施形態の自動二輪車10aによれば、スタンド状態を検出するスイッチ等を設けることなくスタンドが立っている場合に発生する駆動輪の空転状態を検出してエンジン駆動を抑制することができる。すなわち、第2実施形態の自動二輪車10aによれば、スタンド状態を検出するスイッチ等を設けることなく、電動モータ1とその電動モータ1を制御する制御装置2aとからなるエンジンの始動時においてスタンドが立っている場合にそのエンジンの駆動を抑制する制御を行うことができる。
【0036】
その際、第2実施形態では、スタンドが立っている場合に発生する駆動輪の空転状態を次のようにして検出する。すなわち、制御装置2aは、アクセルONの入力を受けつけてから電動モータ1の駆動を開始し、電動モータ1の駆動開始の際の電動モータ1の動作状態が所定の条件を満たす場合に駆動輪が空転状態であることを検出する。具体的には、制御装置2aは、電動モータ1の駆動開始の際に、アクセルONの入力を受けつけてから電動モータ1に対してアクセル開度に応じた出力信号の出力を開始し、電動モータ1の回転数が所定の下限値以上となったときに電動モータ1の通電電流が所定の閾値を越えない場合が、動作状態が所定の条件を満たす場合であるとして、エンジンの駆動を抑制する制御を行う。
【0037】
なお、本発明の実施の形態は上記のものに限定されない。例えば、第1実施形態による回転数上昇率に基づく空転状態の判定処理と第2実施形態によるモータ電流に基づく空転状態の判定処理とを組み合わせて、両方またはいずれか一方の判定条件が満足した場合に空転状態であると判定するようにしてもよい。また、電動モータ1は、ブラシレスモータに限らず、ブラシ付きモータであってもよいし、同期モータに限らず、誘導モータ等であってもよい。また、本発明の実施形態は、自動二輪車に限らず、スタンドによって駆動輪が接地状態と非接地状態とに切り替えられる移動体(例えば駆動輪を非接地状態とするためのスタンドが用いられる電動車椅子等)に広く適用することができる。