(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
すべての反応生成物の質量百分率割合の総計が、顔料入り水性ベースコート材料の合計質量に対して、0.1〜30wt%である、請求項1から8のいずれか一項に記載の顔料入り水性ベースコート材料。
オレフィン性不飽和モノマーによってグラフトされておりヒドロキシル基をさらに含むポリウレタン樹脂、およびメラミン樹脂を含む、請求項1から9のいずれか一項に記載の顔料入り水性ベースコート材料。
ベースコート材料を用いて生産された塗料系における光学的欠陥に対する安定性を改良するために顔料入り水性ベースコート材料中に請求項11に記載の反応生成物を使用する方法。
【発明を実施するための形態】
【0013】
成分(a)
本発明の反応生成物は、下記の式(I)の少なくとも1つの特定の化合物(a)を用いて製造できる。
【0014】
X
1−Y−X
2 (I)
(式中、
X
1、X
2は互いに独立に、それぞれエポキシド基に対して反応性の官能基、または水素であり、ただし、2個の基X
1およびX
2のうちの少なくとも1つは、エポキシド基に対して反応性の官能基であり、
Yは、100〜2500g/molの数平均分子量を有する二価の脂肪族炭化水素ラジカル、芳香族炭化水素ラジカルまたは芳香脂肪族炭化水素ラジカルである。)
【0015】
2個の官能基X
1およびX
2のうちの少なくとも1つは、エポキシド基に対して反応性である。このことは、慣例的に選択される条件下で、上記官能基X
1およびX
2が、縮合反応または付加反応等の公知の機構に従ってエポキシド基と反応することを意味する。それゆえ、このようにすれば、化合物(a)は、化合物(b)に結合し得る。こうした官能基は、当業者に公知である。可能な例には、カルボキシル基、ヒドロキシル基、アミノ基およびチオール基が挙げられる。好ましいのが、ヒドロキシル基である。2個の基X
1およびX
2は、好ましくは同一である。したがって、2個の基X
1およびX
2は、特にヒドロキシル基である。
【0016】
ラジカルYは、100〜2500g/molの数平均分子量を有する二価の脂肪族炭化水素ラジカル、芳香族炭化水素ラジカルまたは芳香脂肪族炭化水素ラジカルである。そうではないと明記されていない限り、本発明との関連における数平均分子量は、蒸気圧浸透によって測定される。本発明との関連において、測定は、蒸気圧浸透圧計(Knauer製のモデル10.00)により、50℃のトルエンに溶かした一連の濃度の調査対象成分について実施し、実験における較正定数を使用機器に関して決定するための較正物質としてベンゾフェノンを用いた(ベンジルが較正物質として使用されたE.Schroeder、G.Mueller、K.−F.Arndt、「Leitfaden der Polymercharakterisierung」[Introduction to polymer characterization]、Akademie−Verlag、Berlin、47〜54頁、1982年に従った。)。それゆえ、この場合、成分(a)の数平均分子量が、記述したように測定され、次いでラジカルYの数平均分子量が、2個の官能基X
1およびX
2の分子量(X
1基およびX
2基に関して公知の実験式によって測定される)を差し引くことによって測定される。
【0017】
公知のように、脂肪族炭化水素ラジカルは、芳香族化合物ではない非環状または環状の飽和炭化水素ラジカルまたは不飽和炭化水素ラジカルである。芳香脂肪族炭化水素ラジカルは、脂肪族構造単位と芳香族構造単位の両方を含む炭化水素ラジカルである。
【0018】
ラジカルYは、好ましくは150〜2000g/molの数平均分子量、特に好ましくは200〜1000g/molの数平均分子量、非常に好ましくは200〜600g/molの数平均分子量を有する。
【0019】
好ましい一群の化合物(a)は、ダイマージオールであり、またはダイマージオール中に含有される。ダイマージオールは、かねて公知の種類の化合物であり、科学技術文献においてダイマー脂肪アルコールとして特定されてもいる。ダイマージオールは例えば、不飽和脂肪酸もしくは不飽和脂肪酸エステルをオリゴマー化し、続いて、酸基もしくはエステル基を水素化することによって製造された混合物であり、または、不飽和脂肪アルコールのオリゴマー化によって製造された混合物である。使用される出発物質は、不飽和C
12〜C
22脂肪酸もしくは不飽和C
12〜C
22脂肪酸エステルまたは不飽和C
12〜C
22脂肪アルコールであり得る。
【0020】
したがって、例えば、DE1198348は、280℃超の塩基性アルカリ土類金属化合物を用いた不飽和脂肪アルコールのダイマー化による、ダイマージオールの製造を記述している。ダイマージオールは、独国特許出願公開明細書DE−B−1768313によれば、ダイマー脂肪酸および/またはダイマー脂肪酸エステルの水素化によって製造することもできる。独国特許出願公開明細書DE−B−1768313において記述された上記の状況下ではヒドロキシル基への脂肪酸のカルボキシル基の水素化に加えて、ダイマー脂肪酸および/またはダイマー脂肪酸エステル中に依然として存在する何らかの二重結合の部分的な水素化または完全な水素化も行われる。しかしながら、水素化中に二重結合が完全に保持されるように水素化を実施することもできる。この場合、不飽和ダイマージオールが得られる。水素化は好ましくは、二重結合が可能な限り完全に水素化されるように実施される。
【0021】
ダイマージオール(ダイマー化脂肪酸またはダイマー酸としてもかねて知られている)を製造するために使用され得る上記ダイマー脂肪酸もまた、周知である。上記ダイマージオールは、不飽和脂肪酸のオリゴマー化によって製造された、対応する混合物である。上記ダイマージオールは、例えば、不飽和植物脂肪酸の触媒式ダイマー化によって製造することができ、使用される出発物質は、特に、不飽和C
12〜C
22脂肪酸である。結合は、ディールス−アルダー方式に主に従って進行するが、ダイマー脂肪酸の製造用に使用される脂肪酸中にある二重結合の数および位置に応じて、カルボキシル基同士の間に脂環式炭化水素基、線形脂肪族炭化水素基、分岐脂肪族炭化水素基、および加えて、C
6芳香族炭化水素基を有する主にダイマー生成物の混合物が結果として生じる。機構および/または任意に後続する水素化に応じて、脂肪族ラジカルは、飽和していてもよく、または不飽和であってもよく、芳香族基の割合もまた、変動し得る。それゆえ、カルボン酸基同士の間にあるラジカルは、例えば24個から44個の炭素原子を含有する。製造に関しては、18個の炭素原子を有する脂肪酸を用いることが好ましく、したがって、ダイマー生成物が36個の炭素原子を有することを意味する。
【0022】
ダイマージオールの製造の別の可能性は、国際特許出願WO91/13918によれば、シリカ/アルミナ触媒および塩基性アルカリ金属化合物の存在下で不飽和アルコールをダイマー化するものである。
【0023】
ダイマージオールの製造用に記述した方法とは独立に、C
18脂肪酸もしくはC
18脂肪酸エステルまたはC
18脂肪アルコールから製造されたダイマージオールを用いることが好ましい。こうしたダイマージオールを用いたときに主に形成されるのが、36個の炭素原子を有するダイマージオールである。
【0024】
上記に明示された技法によって製造されたダイマージオールもまた、種々の量のトリマートリオールおよび単官能性アルコールを有し得る。一般に、ダイマー分子の割合が70wt%超である場合、残り部分は、トリマー分子およびモノマー分子である。本発明の目的においては、上記ダイマージオールを使用するだけでなく、90wt%超のダイマー分子を有するより純粋なダイマージオールも使用することができる。特に好ましいのが、90〜99wt%超のダイマー分子を有するダイマージオールであり、ここで、二重結合および/または芳香族ラジカルが少なくとも部分的に水素化されたまたは完全に水素化されたダイマージオールが好ましい。したがって、「ダイマージオール」という関連用語の代替表現は、「脂肪アルコールのダイマー化によって製造できるダイマーを含む混合物」である。したがって、ダイマージオールの使用により、化合物(a)の使用は、自動的に実現される。このこともまた、本発明との関連において選択される指摘、すなわち、ダイマージオールが化合物(a)として使用されることの根拠となっている。このような根拠となる理由には、基X
1およびX
2がヒドロキシル基である化合物(a)が明確に、ダイマージオールとして特定した混合物の主要な構成成分であるという点がある。したがって、ダイマージオールが化合物(a)として使用される場合、このことは、対応する混合物の形態のこうした化合物(a)が、上記のように、モノマーおよび/またはトリマー分子および/または他の副生成物と一緒に使用されることを意味する。
【0025】
特に好ましいのが、98wt%以上程度のダイマー分子、1.5wt%以下のトリマー分子、ならびに0.5wt%以下のモノマー分子および他の副生成物から構成されたダイマー脂肪酸からの水素化によって製造できるダイマージオールである。
【0026】
ダイマージオールは、より好ましくは170〜215mg KOH/gのヒドロキシル価、非常に好ましくは195〜212mg KOH/gのヒドロキシル価、特に200〜210mg KOH/gのヒドロキシル価を有する。ヒドロキシル価の測定方法は、下記において後で明示する。特に好ましくは、ダイマージオールは、1500〜5000mPasの粘度、非常に好ましくは1800〜2800mPasの粘度(25℃、Brookfield、ISO2555)を有する。
【0027】
使用のための特に好ましいダイマージオールは、Croda製の商用製品Pripol(登録商標)2030、特にPripol(登録商標)2033またはBASF製の商用製品Sovermol(登録商標)908である。
【0028】
さらに好ましい化合物(a)は、芳香脂肪族モノアルコール、すなわち、ヒドロキシル基に加えて芳香族構造単位、および加えて、脂肪族構造単位も含むモノアルコールである。したがって、こうした化合物(a)において、X
1基およびX
2基のうちの1つのみが、エポキシド基、厳密にはヒドロキシル基に対して反応性の官能基であり、一方で他の基は、水素である。この意味で好ましい化合物(a)は、2個から24個の炭素原子、特に6個から18個の炭素原子を有する少なくとも1個の脂肪族基によって置換されているフェノールである。フェノールは、好ましくは、正確に1個の脂肪族基によって置換されている。脂肪族基は、好ましくは、非環状の線形基または分岐基である。脂肪族基は、好ましくは分岐している。好ましい置換フェノールは、例えば2−および/または4−ドデシルフェノール等のドデシルフェノールである。それゆえ、上記好ましい置換フェノールは、線形ドデシルラジカルまたは分岐ドデシルラジカル、好ましくは分岐ドデシルラジカルを有するフェノールである。したがって、この実施形態において、Yは、244g/molの(理論上の)分子量を有する芳香脂肪族ラジカルである。こうしたラジカルは、オリゴマーとしての特質またはポリマーとしての特質を有さない(こうしたラジカルは、相異なるサイズの分子の混合物ではなく、純粋に統計上の理由のためオリゴマー化または重合において常に発生する種類のものであるため)ため、実験による数平均分子量の測定は必要でない(または、理論上の数平均分子量が、見かけの分子量と明白に同一である)。こうした数平均分子量の測定との関連において、蒸気圧浸透による分子量の実測も原則として可能ではあるが、当然ながら不要である。
【0029】
成分(b)
本発明の反応生成物は、一般構造式(II)
【化2】
(式中、Rは、C
3〜C
6アルキレンラジカルである)の少なくとも1種の化合物(b)を用いて製造してもよい。添え字nは、いずれの場合においても、前記化合物(b)が100〜2000g/molのエポキシド当量質量を有するように選択すべきである。化合物(b)は、好ましくは150〜1200g/molのエポキシド当量質量、より好ましくは200〜600g/molのエポキシド当量質量、特に250〜450g/molのエポキシド当量質量を有する。
【0030】
本発明による使用のための化合物(b)において、n個のすべてのラジカルRを同一にしておくことも可能である。しかしながら、相異なる種類のラジカルRが存在することも同様に可能である。好ましくは、すべてのラジカルRが同一である。
【0031】
Rは、好ましくはC
3またはC
4アルキレンラジカルである。より好ましくは、Rは、C
4アルキレンラジカルであり、特にテトラメチレンラジカルである。
【0032】
対応する生成物の例は、Grilonit(登録商標)(Ems Chemie)の商標名で市販されている。
【0033】
反応生成物
本発明の反応生成物の製造に関して、特殊な点は存在しない。成分(a)と成分(b)とは、互いに常識的な反応によって結合することができる。したがって、エポキシド基に対して反応性の成分(a)の官能基は、成分(b)のエポキシド基と反応する。反応は例えば、バルクまたは一般的な有機溶媒との溶液中において、例えば50℃〜300℃の温度で実施することができる。当然ながら、アミン触媒、特に第三級アミン、アルカリ金属の水酸化物およびヨウ化物、アルカリ金属およびアルカリ土類金属のフルオロホウ酸塩、アンチモン酸塩および過塩素酸塩、および、テトラフルオロホウ酸、テトラクロロホウ酸、ヘキサフルオロアンチモン酸、ヘキサクロロアンチモン酸、ヘキサフルオロリン酸、過塩素酸および過ヨウ素酸のアルカリ金属塩およびアルカリ土類金属塩、亜鉛塩ならびにニッケル塩等、一般的な触媒も用いることができる。第三級アミンの他にも、アルカリ金属およびアルカリ土類金属、亜鉛ならびにニッケルの過塩素酸塩またはフルオロホウ酸塩、特に好ましくは第三級アミンならびに/またはアルカリ土類金属および亜鉛の過塩素酸塩等の中性金属塩を有することが好適である。非常に特に好ましいのが、特にN,N−ジメチルベンジルアミン等の第三級アミンである。
【0034】
本発明の反応生成物は、10mg KOH/g未満の酸価を有する。本発明の反応生成物は、好ましくは7.5mg KOH/g未満の酸価、非常に特に好ましくは5mg KOH/g未満の酸価を有する。酸価は、DIN EN ISO2114に従って測定される。本発明との関連において公定規格に言及する場合、この公定規格は当然ながら、出願日において現行だった規格のバージョンを意味し、または、現行バージョンが当該出願日において存在しない場合は当該出願日において最新の現行バージョンを意味する。
【0035】
得られる反応生成物は、500〜15000g/molの数平均分子量、好ましくは750〜10000g/molの数平均分子量、非常に好ましくは1000〜7500g/molの数平均分子量、特に1200〜5000g/molの数平均分子量を有する。1200〜2500g/molの範囲が、最も好ましい。
【0036】
本発明の反応生成物は、ヒドロキシ官能性であり、25〜250mg KOH/gのヒドロキシル価、特に50〜200mg KOH/gのヒドロキシル価、非常に好ましくは75〜150mg KOH/gのヒドロキシル価を有する。本発明との関連において、ヒドロキシル価は、電位差滴定によって測定される。より正確な詳細は、下記の実験の部において後で与える。
【0037】
反応において、成分(a)および成分(b)は、2.3対0.7から1.7対1.6のモル比、好ましくは2.2対0.8から1.8対1.6のモル比、非常に好ましくは2.1対0.9から1.8対1.5のモル比で使用される。正確に2対1の比が、非常に好ましい。
【0038】
反応生成物の製造おいて、好ましくは、化合物(b)のエポキシド基のすべてを、対応する基X
1およびX
2と反応させ、この結果、反応生成物がエポキシド基を含有しないようにする。この理由のため、化合物(a)もまた、いかなる比率においても、過剰にして使用される。すべてのエポキシド基の完全な反応が実施されたという事実は、反応生成物のエポキシド当量質量から把握することができる。エポキシド当量質量が最終的にもはや測定可能でない無限大に高い値をとる場合、エポキシド基のすべてが反応したと仮定することができる。こうした仮定との関連において、上記のエポキシド基の反応は、エポキシド指数(EI)の形態で記載することが適切であり、エポキシド指数は、物質1キログラム当たりに存在するエポキシド基のモル数を提示する。エポキシド指数は、次のように作り出される:EI=1000/エポキシド当量質量(DIN EN ISO3001も参照されたい)。反応生成物のエポキシド指数は、好ましくは0.01未満である。より特に好ましくは、反応生成物のエポキシド指数は、0.001未満である。
【0039】
上記に続けて言うと、上記の幅に収まる上記に提示した範囲のモル比は好ましくは、使用される少なくとも1種の化合物(a)が、X
1基とX
2基の両方がエポキシド基に対して反応性の官能基である化合物の場合にのみ当てはまる。この場合は実際、化合物(a)および化合物(b)の完全反応により、いかなる比率においても、もはやいかなるエポキシド基も存在しない生成物を形成することができる。
【0040】
化合物(a)がエポキシド基に対して反応性の1個のみの基を含有する場合、化合物(a)の化合物(b)に対するモル比は、本発明による上記に明示した限界内で、好ましくは少なくとも2対1である。したがって、この場合、化合物(a)の化合物(b)に対するモル比は、好ましくは2.3対0.7から2対1であり、特に好ましくは2.2対0.8から2対1であり、非常に好ましくは2.1対0.9から2対1であり、さらにより好ましくは2対1である。
【0041】
特に好ましい実施形態が、下記に明示されている。
【0042】
a) 本発明の反応生成物の特に好ましい一実施形態において、化合物(a)として、ダイマージオール(バージョンa1))または芳香脂肪族モノアルコール(バージョンa2))が使用される。
【0043】
b) 本発明の反応生成物の特に好ましい別の実施形態において、化合物(b)のラジカルRは、テトラメチレンラジカルであり、化合物(b)は、200〜600g/molのエポキシド当量質量を有する。
【0044】
c) 本発明の反応生成物の特に好ましい別の実施形態において、成分(a)および成分(b)は、2.1対0.9から1.8対1.5のモル比(バージョンa1))または2.1対0.9から2対1のモル比(バージョンa2))で使用される。
【0045】
d) 本発明の反応生成物の特に好ましい別の実施形態において、前記生成物は、50〜200mg KOH/gのヒドロキシル価を有する。
【0046】
e) 本発明の反応生成物の特に好ましい別の実施形態において、前記生成物は、1000〜7500g/molの数平均分子量を有する。
【0047】
上記の特に好ましい実施形態との関連において言及され得る本発明の反応生成物の好ましい実施形態の別の例は、a)からe)に提示した特徴のすべてを組み合わせて実現する(特徴a)およびc)は、それぞれ第1の実施形態または第2の実施形態を実現することを意図している)実施形態である。
【0048】
顔料入り水性ベースコート材料
本発明は、少なくとも1つの本発明の反応生成物を含む、顔料入り水性ベースコート材料にさらに関する。当然ながら、反応生成物に関して上記に記載された好ましい実施形態のすべては、反応生成物を含むベースコート材料にも同様に当てはまる。
【0049】
ベースコート材料は、自動車仕上げ塗装に場合にも、一般的な工業用塗装の場合にも使用される、着色作用のある中塗りコーティング材料である。このベースコート材料は一般に、焼き付けた(完全に硬化させた)サーフェーサーもしくはプライマーサーフェーサーによって前処理しておいた金属基体またはプラスチック基体に塗布し、または、このようにして塗布できない場合は時折、プラスチック基体に直接塗布されることもある。使用される基体は、既存の塗料系をさらに含んでいてもよく、こうした既存の塗料系には、任意に、(例えば研磨による)前処理も要求することができる。1つより多いベースコート塗膜を塗布することは、現在、すっかり慣例的になっている。したがって、上述のように1つより多いベースコート塗膜を塗布する場合、第1のベースコート塗膜は、こうした第2の塗膜のための基体を構成する。上記のように第1のベースコート塗膜が基体を構成する場合との関連において、焼き付けたサーフェーサー皮膜への塗布の代わりとして特にあり得る事柄は、硬化した電着塗膜型塗膜により被覆された金属基体に直接第1のベースコート材料を施与すること、および、第1のベースコート塗膜を別途硬化させることなく、第1のベースコート塗膜に直接第2のベースコート材料を施与することである。特に環境による影響からあるベースコート塗膜または一番上のベースコート塗膜を保護するために、少なくとも追加用クリアコート塗膜がベースコート塗膜または一番上のベースコート塗膜の上に施与される。こうした施与は一般に、ウェットオンウェットプロセスによって実施され、すなわち、ベースコート塗膜を硬化させることなく、クリアコート材料を塗布する。次いで最後に、硬化を一体的に実施する。硬化済み電着塗膜型塗膜上に1つのみのベースコート塗膜を生産し、次いでクリアコート材料を塗布し、次いでこれらの2つの塗膜を一体的に硬化させることもまた、現在、広く一般に実践されている。
【0050】
すべての本発明の反応生成物の質量百分率割合の総計は、顔料入り水性ベースコート材料の合計質量に対して、好ましくは0.1wt%〜30wt%であり、より好ましくは1wt%〜20wt%であり、非常に好ましくは1.5wt%〜15wt%であり、または2wt%〜12wt%でさえある。
【0051】
本発明の反応生成物の量が0.1wt%未満である場合、ピンホールに対する安定性のさらなる改良が達成されない可能性もあり得る。上記の量が30wt%超である場合、特定の状況下においては、例えばベースコート材料中の前記反応生成物の非相溶性等といった欠点が存在し得る。このような非相溶性は、例えば、不均一なレベリングがあったときにも、浮きまだらまたは沈殿があったときにも、明らかになり得る。
【0052】
好ましい反応生成物を特定の比率範囲で含むベースコート材料についての特段の定めがあり得る場合、次の事柄が当てはまる。当然ながら、好ましい群に含まれない反応生成物も依然としてベースコート材料中に存在し得る。この場合、特定の比率範囲は、好ましい群の反応生成物にのみ当てはまる。それでもやはり、好ましい群の反応生成物および好ましい群の一部ではない反応生成物からなる反応生成物の合計比率も同様に、特定の比率範囲に属することが好ましい。
【0053】
したがって、1.5〜15wt%の比率範囲および好ましい群の反応生成物に制限した場合、この1.5〜15wt%という比率範囲は最初に、好ましい群の反応生成物にのみ明確に当てはまる。しかしながら、上記のように制限した場合、好ましい群からの反応生成物および好ましい群の一部を形成しない反応生成物からなる元々包含されていたすべての反応生成物もまた、合計で1.5〜15wt%まで存在することが好ましいであろう。したがって、好ましい群の5wt%の反応生成物が使用される場合、好ましくない群の10wt%以下の反応生成物が使用され得る。
【0054】
本発明の目的においては、記載された原則は、記載されたすべてのベースコート材料の成分およびこれらの成分の比率範囲に対しても有効であり、例えば、顔料、結合剤としてのポリウレタン樹脂またはメラミン樹脂等の架橋剤に対しても有効である。
【0055】
本発明によって使用されるベースコート材料は、有色顔料および/またはエフェクト顔料を含む。このような有色顔料およびエフェクト顔料は当業者に公知であり、例えば、Roempp−Lexikon Lacke und Druckfarben、Georg Thieme Verlag、Stuttgart、New York、1998年、176頁および451頁で記述されている。顔料の割合は、例えば、顔料入り水性ベースコート材料の合計質量に対して1〜40wt%の範囲、好ましくは2〜30wt%の範囲、より好ましくは3〜25wt%の範囲に収まり得る。
【0056】
本発明との関連において好ましいベースコート材料は、物理硬化、熱硬化または熱と光化学的作用のある放射線の両方による硬化が可能なポリマーを結合剤として含む、ベースコート材料である。本発明との関連における「結合剤」は、関係するDIN EN ISO4618によれば、顔料および充填剤を含めない、コーティング組成物の不揮発性成分である。したがって、特定の結合剤は、下記においてこうした結合剤という表現が、例えば特定のポリウレタン樹脂のように、物理硬化、熱硬化または熱と光化学的作用のある放射線の両方による硬化が可能な特定のポリマーについて主に使用されているとしても、例えば一般的なコーティング加工用添加剤、本発明の反応生成物、または、下記で後述する一般的な架橋剤を含める。
【0057】
本発明の反応生成物の他にも、本発明の顔料入り水性ベースコート材料は、より好ましくは、少なくとも1つのポリウレタン樹脂を結合剤として含む。ポリウレタン樹脂を含むこうした種類のコーティング材料もまた、慣例的には、物理硬化してもよく、熱硬化してもよく、または熱と光化学的作用のある放射線の両方によって硬化してもよい。
【0058】
本発明との関連においては、「物理硬化」という用語は、ポリマー溶液またはポリマー分散物からの溶媒の消失による塗膜の形成を意味する。一般的に、架橋剤は、こうした物理硬化のためには必要でない。
【0059】
本発明との関連においては、「熱硬化」という用語は、母体となるコーティング材料(parent coating material)中に別個の架橋剤または自己架橋形成用結合剤を用いた状態で、熱により開始される、コーティング塗膜の架橋形成を意味する。架橋剤は、結合剤中に存在する反応性官能基と相補的な反応性官能基を含有する。上記のようなコーティング塗膜の架橋形成は一般的に、当業者によって、外部架橋形成と呼ばれている。相補的な反応性官能基、または自己反応性官能基、すなわち同じ種類の基と反応する基が結合剤分子中にすでに存在する場合、存在する結合剤により、自己架橋が形成されている。適切とされる相補的な反応性官能基および自己反応性官能基の例は、独国特許出願DE19930665A1、7頁、28行目から9頁、24行目によって公知である。
【0060】
本発明の目的においては、光化学的作用のある放射線は、近赤外線(NIR)と、紫外線等の電磁放射線、特に紫外線と、電子放射線等の粒子放射線とを意味する。紫外線による硬化は、一般的に、ラジカルまたはカチオン性光開始剤によって開始される。熱硬化および光化学的作用のある光による硬化が同時に用いられる場合、「二重硬化」という用語も使用される。
【0061】
本発明の目的においては、物理硬化するベースコート材料も好ましく、熱硬化するベースコート材料、または熱と光化学的作用のある放射線の両方によって硬化する、すなわち「二重硬化」によって硬化する、ベースコート材料も好ましい。
【0062】
熱硬化する好ましいベースコート材料は、結合剤としてのポリウレタン樹脂、好ましくはヒドロキシル含有ポリウレタン樹脂、および架橋剤としてのアミノプラスト樹脂またはブロック型もしくは非ブロック型ポリイソシアネート、好ましくはアミノプラスト樹脂を含む、ベースコート材料である。アミノプラスト樹脂の中でも特に、メラミン樹脂が好ましい。
【0063】
すべての架橋剤、好ましくはアミノプラスト樹脂ならびに/またはブロック型および/もしくは非ブロック型ポリイソシアネート、より特に好ましくはメラミン樹脂の質量百分率割合の総計は、顔料入り水性ベースコート材料の合計質量に対して、好ましくは1〜20wt%であり、より好ましくは1.5〜17.5wt%であり、非常に好ましくは2〜15wt%であり、または2.5〜10wt%でさえある。
【0064】
存在するのが好ましいポリウレタン樹脂は、イオン型親水性および/またはノニオン型親水性により安定化することができる。本発明の好ましい実施形態において、ポリウレタン樹脂は、イオン型親水性により安定化されている。好ましいポリウレタン樹脂は、線形であり、または分岐の場合を含む。より好ましくは、ポリウレタン樹脂は、そのポリウレタン樹脂の存在下でオレフィン性不飽和モノマーが重合されたポリウレタン樹脂である。このポリウレタン樹脂は、オレフィン性不飽和モノマーの重合に由来したポリマーと一緒に存在することが、このポリマーとポリウレタン樹脂とが互いに共有結合していなくても、可能である。しかしながら、ポリウレタン樹脂もやはり、オレフィン性不飽和モノマーの重合に由来したポリマーに同じように共有結合することができる。オレフィン性不飽和モノマーは、好ましくは、アクリレート基および/またはメタクリレート基を含有するモノマーである。使用すべきアクリレート基および/またはメタクリレート基を含有するモノマーは、アクリレート基またはメタクリレート基を含有しない他のオレフィン性不飽和化合物と組み合わせて使用することも同様に好ましい。ポリウレタン樹脂に結合するオレフィン性不飽和モノマーは、より好ましくは、アクリレート基またはメタクリレート基を含有するモノマーであり、これにより、ポリウレタン(メタ)アクリレートを生成する。非常に好ましくは、ポリウレタン樹脂は、ポリウレタン(メタ)アクリレートである。存在するのが好ましいポリウレタン樹脂は、物理硬化、熱硬化、または熱と光化学的作用のある放射線の両方による硬化が可能である。特に、上記ポリウレタン樹脂は、熱硬化または熱と光化学的作用のある放射線の両方による硬化が可能である。特に好ましくは、ポリウレタン樹脂は、外部架橋形成を可能にする反応性官能基を含む。
【0065】
適切な飽和または不飽和ポリウレタン樹脂は、例えば、
− 独国特許出願DE19914896A1、第1段、29行目から49行目、および第4段、23行目から第11段、5行目
− 独国特許出願DE19948004A1、4頁、19行目から13頁、48行目、
− 欧州特許出願EP0228003A1、3頁、24行目から5頁、40行目、
− 欧州特許出願EP0634431A1、3頁、38行目から8頁、9行目、または
− 国際特許出願WO92/15405、2頁、35行目から10頁、32行目
で記述されている。
【0066】
ポリウレタン樹脂は、好ましくは、当業者に公知の脂肪族化合物型ポリイソシアネート、脂環式化合物型ポリイソシアネート、脂肪族化合物−脂環式化合物型ポリイソシアネート、芳香族化合物型ポリイソシアネート、脂肪族化合物−芳香族化合物型ポリイソシアネートおよび/または脂環式化合物−芳香族化合物型ポリイソシアネートを用いて製造される。
【0067】
ポリウレタン樹脂を製造するためのアルコール成分として、比較的高い分子質量の飽和および不飽和ポリオールならびに低い分子質量の飽和および不飽和ポリオールを使用し、さらには任意に、当業者に公知な少量のモノアルコールも使用することが好ましい。使用される低い分子質量のポリオールは、特に、分岐の場合を導入するためのジオールおよび少量のトリオールである。比較的高い分子質量の適切なポリオールの例は、飽和またはオレフィン性不飽和ポリエステルポリオールおよび/またはポリエーテルポリオールである。比較的高い分子質量のポリオールは、特にポリエステルポリオールであり、特に、400〜5000g/molの数平均分子量を有するポリエステルポリオールである。
【0068】
親水性による安定化および/または水性媒体への分散性の増大を目的とした場合、存在するのが好ましいポリウレタン樹脂は、特定のイオン性基、および/またはイオン性基に変換され得る(潜在的にイオン性の基であり得る)基を含有してもよい。こうした種類のポリウレタン樹脂は、本発明との関連においては、イオン型親水性により安定化されたポリウレタン樹脂と呼ぶ。ノニオン型親水性による修飾基も同様に存在し得る。しかしながら、イオン型親水性により安定化されたポリウレタンが好ましい。より正確に言えば、修飾基は、代替的には、
− 中和剤および/もしくは第四級化用作用物質によってカチオンに変換され得る官能基、ならびに/またはカチオン性基(カチオン型修飾)、
または
− 中和剤によってアニオンに変換され得る官能基、および/もしくはアニオン性基(アニオン型修飾)、
ならびに/または
− ノニオン型親水性基(ノニオン型修飾)
である。
【0069】
当業者が認識しているように、カチオン型修飾のための官能基は例えば、第一級、第二級および/または第三級アミノ基、第二級スルフィド基(secondary sulfide group)および/または第三級ホスフィン基、特に第三級アミノ基および第二級スルフィド基(中和剤および/または第四級化用作用物質によってカチオン性基に変換され得る官能基)である。第一級、第二級、第三級および/または第四級アンモニウム基、第三級スルホニウム基ならびに/または第四級ホスホニウム基、特に第四級アンモニウム基および第三級スルホニウム基等のカチオン性基(当業者に公知の中和剤および/または第四級化用作用物質を用いて上記官能基から製造された基)もまた、言及すべきである。
【0070】
周知のように、アニオン型修飾のための官能基は、例えばカルボン酸基、スルホン酸基および/またはホスホン酸基、特にカルボン酸基(中和剤によってアニオン性基に変換され得る官能基)、および、カルボキシレート基、スルホネート基および/またはホスホネート基等のアニオン性基(当業者に公知の中和剤を用いて上記官能基から製造された基)である。
【0071】
ノニオン型親水性修飾のための官能基は、好ましくはポリ(オキシアルキレン)基、特にポリ(オキシエチレン)基である。
【0072】
イオン型親水性修飾は、(潜在的に)イオン性の基を含有するモノマーによって、ポリウレタン樹脂に導入することができる。ノニオン型修飾は例えば、ポリウレタン分子の側基または末端基としてポリ(エチレン)オキシドポリマーを組み入れることによって、導入される。親水性修飾は例えば、イソシアネート基に対して反応性の少なくとも1つの基、好ましくは少なくとも1つのヒドロキシル基を含有する化合物によって、導入される。イオン型修飾は、修飾基と少なくとも1つのヒドロキシル基とを含有するモノマーを用いて導入することができる。ノニオン型修飾を導入するためには、当業者に公知のポリエーテルジオールおよび/またはアルコキシポリ(オキシアルキレン)アルコールを使用することが好ましい。
【0073】
ポリウレタン樹脂は、好ましくは、グラフトポリマーであり得る。特に、ポリウレタン樹脂は、オレフィン性不飽和化合物、好ましくはオレフィン性不飽和モノマーによってグラフトされたポリウレタン樹脂である。この場合、後でポリウレタンは、例えばオレフィン性不飽和モノマーを主体とした側基および/または側鎖によってグラフトされる。特に、上記側鎖は、ポリ(メタ)アクリレートを主体とした側鎖である。本発明の目的におけるポリ(メタ)アクリレートは、アクリレート基および/またはメタクリレート基を含有するモノマーを含み、好ましくは、アクリレート基および/またはメタクリレート基を含有するモノマーからなる、ポリマーまたはポリマーラジカルである。ポリ(メタ)アクリレートを主体とした側鎖は、(メタ)アクリレート基含有モノマーを用いてグラフト重合中に構築された側鎖であると理解される。ここで、グラフト重合においては、グラフト重合で使用されるモノマーの合計量に対して50mol%超の(メタ)アクリレート基含有モノマー、特に75mol%超の(メタ)アクリレート基含有モノマー、特に100mol%の(メタ)アクリレート基含有モノマーを使用することが好ましい。
【0074】
記述された側鎖は、好ましくはポリウレタン樹脂一次分散物の製造後に、ポリマーに導入される。この場合、上記一次分散物中に存在するポリウレタン樹脂は、オレフィン性不飽和化合物とのグラフト重合を後で進行させるのに用いられる、オレフィン性不飽和側基および/またはオレフィン性不飽和末端基を含有してもよい。したがって、グラフトのためのポリウレタン樹脂は、不飽和ポリウレタン樹脂(A)であってもよい。この場合、グラフト重合は、オレフィン性不飽和反応物質のラジカル重合である。例えば、グラフト重合のために使用されるオレフィン性不飽和化合物は、少なくとも1つのヒドロキシル基を含有することも同様に可能である。この場合は最初に、ポリウレタン樹脂の遊離イソシアネート基との反応により、これらのヒドロキシル基を介してオレフィン性不飽和化合物をポリウレタン樹脂に結合させることも同様に可能である。こうした結合は、オレフィン性不飽和化合物と、ポリウレタン樹脂中に任意に存在するオレフィン性不飽和側基および/またはオレフィン性不飽和末端基とのラジカル反応の代わりに実施され、または、このラジカル反応に加えて実施される。上記の結合の後にはやはり、上記で先述したように、ラジカル重合を用いたグラフト重合が続く。オレフィン性不飽和化合物、好ましくはオレフィン性不飽和モノマーによってグラフトされたポリウレタン樹脂が、いかなる場合においても、結果として生じる。
【0075】
ポリウレタン樹脂(A)をグラフトするのに用いるのが好ましいオレフィン性不飽和化合物としては、このグラフトを目的とした場合に当業者が利用できる事実上すべてのラジカル重合可能なオレフィン性不飽和有機モノマーを使用することができる。いくつかの好ましいモノマーの種類が、例示として明示することができ、すなわち、
− (メタ)アクリル酸またはその他のα,β−エチレン性不飽和カルボン酸のヒドロキシアルキルエステル、
− アルキルラジカル中に最大20個の炭素原子を有する(メタ)アクリル酸アルキルおよび/またはシクロアルキルエステル、
− 少なくとも1個の酸基、特に例えば(メタ)アクリル酸等の正確に1個のカルボキシル基を含むエチレン性不飽和モノマー、
− 5個から18個の炭素原子を有するα位で分岐したモノカルボン酸のビニルエステル、
− (メタ)アクリル酸と、5個から18個の炭素原子を有するα位で分岐したモノカルボン酸のグリシジルエステルとの反応生成物、
− オレフィン(例えば、エチレン)、(メタ)アクリルアミド、ビニル芳香族炭化水素(例えば、スチレン)、塩化ビニル等のビニル化合物および/またはエチルビニルエーテル等のビニルエーテル等、さらなるエチレン性不飽和モノマー
を例示として明示することができる。
【0076】
(メタ)アクリレート基を含有するモノマーを使用することが好ましく、この結果、グラフトによって結合させる側鎖は、ポリ(メタ)アクリレートを主体とした側鎖になる。
【0077】
オレフィン性不飽和化合物とのグラフト重合を進行できるようにする、ポリウレタン樹脂中のオレフィン性不飽和側基および/またはオレフィン性不飽和末端基が、好ましくは特定のモノマーによって、ポリウレタン樹脂に導入される。これらの特定のモノマーは、オレフィン性不飽和基の他にも、例えば、イソシアネート基に対して反応性である少なくとも1つの基をさらに含む。ヒドロキシル基も好ましく、第一級アミノ基および第二級アミノ基も好ましい。ヒドロキシル基が特に好ましい。
【0078】
ポリウレタン樹脂中へのオレフィン性不飽和側基および/またはオレフィン性不飽和末端基の導入を可能にするものとして記述されたモノマーは当然ながら、後でオレフィン性不飽和化合物によってポリウレタン樹脂をさらにグラフトすることなく、用いることもできる。しかしながら、ポリウレタン樹脂は、オレフィン性不飽和化合物によってグラフトされるのが好ましい。
【0079】
存在するのが好ましいポリウレタン樹脂は、自己架橋形成および/または外部架橋形成用結合剤であってもよい。ポリウレタン樹脂は、好ましくは、外部架橋形成を可能にする反応性官能基を含む。この場合、顔料入り水性ベースコート材料中に少なくとも1つの架橋剤が存在することが好ましい。外部架橋形成を可能にする反応性官能基は、特に、ヒドロキシル基である。特に有利なことに、本発明の方法においては、ポリヒドロキシ官能性ポリウレタン樹脂を使用することが可能である。このようにポリヒドロキシ官能性ポリウレタン樹脂の使用が可能であることは、ポリウレタン樹脂が、分子1個当たりの平均で1個より多いヒドロキシル基を含有することを意味する。
【0080】
ポリウレタン樹脂は、ポリマー化学において慣例的な方法によって製造される。この方法は例えば、ポリイソシアネートとポリオールとを重合させてポリウレタンにすること、および、好ましくはこの後に続いて、オレフィン性不飽和化合物とグラフト重合させることを意味する。これらの方法は当業者に公知であり、個別に適合させることもできる。例示的な製造プロセスおよび反応条件は、欧州特許EP0521928B1、2頁、57行目から8頁、16行目に見出すことができる。
【0081】
存在するのが好ましいポリウレタン樹脂は、好ましくは200〜30000g/molの数平均分子量、より好ましくは2000〜20000g/molの数平均分子量を有する。上記ポリウレタン樹脂は、例えば0〜250mg KOH/gのヒドロキシル価をさらに有するが、特に20〜150mg KOH/gのヒドロキシル価をさらに有する。ポリウレタン樹脂の酸価は、好ましくは5〜200mg KOH/gであり、特に10〜40mg KOH/gである。
【0082】
ポリウレタン樹脂含量は、いずれの場合においても、ベースコート材料の塗膜形成固形分に対して、好ましくは5wt%から80wt%の間であり、より好ましくは8wt%から70wt%の間であり、非常に好ましくは10wt%から60wt%の間である。
【0083】
塗膜形成固形分とは、最終的に結合剤割合に相当するものであり、顔料および必要に応じた充填剤も存在しないベースコート材料の不揮発分質量割合を意味する。塗膜形成固形分は、次のように測定することができる。顔料入り水性ベースコート材料の試料(約1g)を50〜100倍の量のテトラヒドロフランと混合し、次いで約10分撹拌する。次いで、不溶性顔料およびすべての充填剤をろ過によって除去し、残留物を少しばかりのTHFによってすすぎ洗いし、得られたろ液からTHFをロータリーエバポレータによって除去する。ろ液の残留物を120℃で2時間乾燥させ、得られた塗膜形成固形分を量り取る。
【0084】
すべてのポリウレタン樹脂の質量百分率割合の総計は、顔料入り水性ベースコート材料の合計質量に対して、好ましくは2〜40wt%であり、より好ましくは2.5〜30wt%であり、非常に好ましくは3〜20wt%である。
【0085】
使用すべき顔料入り水性ベースコート材料は、本発明の反応生成物と異なる少なくとも1つのポリエステル、特に400〜5000g/molの数平均分子量を有するポリエステルを結合剤としてさらに含んでいてもよい。このようなポリエステルは、例えば、DE4009858の第6段、53行目から第7段、61行目、および第10段、24行目から第13段、3行目で記述されている。
【0086】
増粘剤も存在することが好ましい。適切な増粘剤は、シート状シリケートでできた群の無機増粘剤である。しかしながら、無機増粘剤に加えて、1つまたは複数の有機増粘剤も同様に使用することができる。これらの増粘剤は好ましくは、(メタ)アクリル酸−(メタ)アクリレートコポリマー増粘剤、例えば商用製品Rheovis ASS13(BASF)、およびポリウレタン増粘剤、例えばRheovis PU1250(BASF)からなる群より選択される。使用される増粘剤は、使用される結合剤と異なる。
【0087】
さらに、顔料入り水性ベースコート材料は、少なくとも1つの補助剤をさらに含んでいてもよい。このような補助剤の例は、残留物を伴うことなくまたは残留物を実質的に伴うことなく熱分解し得る塩、物理硬化、熱硬化および/または光化学的作用のある放射線による硬化が可能でポリウレタン樹脂と異なる結合剤としての樹脂、さらなる架橋剤、有機溶媒、反応性希釈剤、透明顔料、充填剤、分子の分散により溶かすことができる型の染料(molecularly dispersely soluble dye)、ナノ粒子、光安定剤、抗酸化剤、脱気剤、乳化剤、滑剤、重合阻害剤、ラジカル重合開始剤、付着促進剤、流動調整剤、塗膜形成助剤、たれ抑制剤(SCA:sag control agent)、難燃剤、防食剤、ワックス、乾燥剤、殺生物剤およびつや消し剤である。
【0088】
上記種類の適切な補助剤は、例えば、
− 独国特許出願DE19948004A1、14頁、4行目から17頁、5行目、
− 独国特許DE10043405C1、第5段、[0031]段落から[0033]段落
によって公知である。
【0089】
上記の適切な補助剤は、慣例的な公知の量で使用される。
【0090】
本発明のベースコート材料の固形分含量は、取り扱う事例の要件に応じて変動し得る。固形分含量は、塗布、特にスプレー塗布に必要な粘度によって主に導き出され、この結果、当業者ならば、当人の常識的な技術知識に基づいて調整することができ、任意に、いくつかの予備的な試験を用いてもよい。
【0091】
ベースコート材料の固形分含量は、好ましくは5wt%〜70wt%であり、より好ましくは8wt%〜60wt%であり、非常に好ましくは12wt%〜55wt%である。
【0092】
固形分含量(不揮発性部分、固形分含量)は、指定条件下で蒸発させたときに残留物として残留する、質量割合を意味する。本出願において、固形分含量は、そうではないと明記されていない限り、DIN EN ISO3251に従って測定される。こうした測定は、ベースコート材料を130℃で60分蒸発させることによって実施される。
【0093】
そうではないとの記載がない限り、上記試験方法は、例えば、ベースコート材料の合計質量の一部分として様々なベースコート材料の成分の割合を測定するためにも同様に用いられる。したがって、例えば、ベースコート材料に加えるべきポリウレタン樹脂の分散物にある固形分は、組成物全体の一部分としての上記ポリウレタン樹脂の割合を確認するために対応させて測定することもできる。
【0094】
本発明のベースコート材料は、水性である。このようなベースコート材料との関連において、「水性」という表現は、当業者に公知である。原則として、この「水性」という語句は、有機溶媒のみを主体としていないベースコート材料を意味しており、すなわち、原則として、この「水性」という語句は、有機溶媒のみを主体としていないベースコート材料を意味しており、すなわち、溶媒として有機系溶媒のみを含有するのではなく、溶媒としてかなりの量の水を含むという著しく異なる点がある、ベースコート材料を意味する。好ましくは、本発明における「水性」は、当該のコーティング組成物、特にベースコート材料が、いずれの場合においても、存在する溶媒(すなわち、水および有機溶媒)の合計量に対して少なくとも40wt%、好ましくは少なくとも50wt%、非常に好ましくは少なくとも60wt%という水の割合を有することを意味するものだと理解すべきである。好ましくは、水の割合は、いずれの場合においても、存在する溶媒の合計量に対して40〜90wt%であり、特に50〜80wt%であり、非常に好ましくは60〜75wt%である。
【0095】
本発明によって用いられるベースコート材料は、ベースコート材料の生産用に慣例的で公知な混合処理用の組立体および混合技法を用いて生産してもよい。
【0096】
本発明の方法および本発明の多層皮膜型塗料系
本発明のさらなる一態様は、
(1) 顔料入り水性ベースコート材料を基体に塗布し、
(2) 段階(1)で塗付されたコーティング材料からポリマー塗膜が形成され、
(3) 得られたベースコート塗膜にクリアコート材料を塗布し、続いて、
(4) ベースコート塗膜を、クリアコート塗膜と一緒に硬化させる
多層皮膜型塗料系を生産するための方法であって、本発明の少なくとも1つの反応生成物を含む顔料入り水性ベースコート材料を段階(1)で使用することを含む、方法である。本発明の反応生成物および顔料入り水性ベースコート材料に関する上記すべての所見は、本発明の方法に対しても有効である。特に、こうした適用は、すべての好ましい特徴、非常に好ましい特徴および特に好ましい特徴にも当てはまる。
【0097】
前記方法は好ましくは、多層皮膜型有色塗料系、エフェクト塗料系および有色型エフェクト塗料系を生産するために用いられる。
【0098】
本発明によって使用される顔料入り水性ベースコート材料は、一般的に、サーフェーサーまたはプライマーサーフェーサーによって前処理しておいた金属基体またはプラスチック基体に塗布しる。前記ベースコート材料は、任意に、プラスチック基体に直接塗布することもできる。
【0099】
金属基体は、コーティング加工すべき場合、電着塗膜系によってさらにコーティング加工した後、サーフェーサーまたはプライマーサーフェーサーを塗布するのが好ましい。
【0100】
プラスチック基体は、コーティング加工する場合、サーフェーサーまたはプライマーサーフェーサーによってさらに前処理した後、塗布するのが好ましい。このような前処理のために最も頻繁に用いられる技法は、火炎処理、プラズマ処理およびコロナ放電の技法である。火炎処理を使用するのが好ましい。
【0101】
上記のように硬化済み電着塗膜系および/またはサーフェーサーによってすでにコーティング加工済みの金属基体には、本発明の顔料入り水性ベースコート材料を、例えば5〜100マイクロメートルの範囲、好ましくは5〜60マイクロメートルの範囲に収まる、自動車産業において慣例的な塗膜厚さにして、塗布してもよい。こうした塗布は、スプレー塗布方法、例えば圧縮空気スプレー塗り、エアレススプレー塗り、高速回転法、静電スプレー塗布(ESTA)を単独で用いて実施され、または、ホットスプレー塗布、例えば熱風式スプレー塗りと組み合わせて用いて実施される。
【0102】
顔料入り水性ベースコート材料は、塗布した後、公知の方法によって乾燥させることができる。例えば、好ましい(1成分型)ベースコート材料は、室温で1〜60分フラッシュした後、好ましくは30〜90℃という任意に若干高くした温度で乾燥させることができる。本発明との関連におけるフラッシュおよび乾燥は、その結果として塗料がより乾燥した状態になるが硬化には至らない、または完全に架橋されたコーティング塗膜が形成されるには至っていない、有機溶媒および/または水の蒸発を意味する。
【0103】
次いで、商用クリアコート材料を同様に一般的な方法によって塗布するが、塗膜厚さはやはり、慣例的な範囲内、例えば5〜100マイクロメートルである。
【0104】
クリアコート材料は、塗布後、例えば室温で1〜60分フラッシュすることができ、任意に乾燥させてもよい。次いで、クリアコート材料を、塗布した顔料入りベースコート材料と一緒に硬化させる。この手順の途中では、架橋反応が起きて、例えば、本発明の多層皮膜型有色塗料系および/または多層皮膜型エフェクト塗料系が基体上に生成される。硬化は好ましくは、60℃から200℃の温度で熱により実施される。好ましくは、熱硬化するベースコート材料は、さらなる結合剤としてのポリウレタン樹脂および架橋剤としてのアミノプラスト樹脂またはブロック型もしくは非ブロック型ポリイソシアネート、好ましくはアミノプラスト樹脂を含む、ベースコート材料である。アミノプラスト樹脂の中でも特に、メラミン樹脂が好ましい。
【0105】
特定の一実施形態において、多層皮膜型塗料系を生産するための方法は、
金属基体に電着塗膜材料を電気泳動塗布し、続いて電着塗膜材料を硬化させることにより、金属基体上に硬化済み電着塗膜型塗膜を生産する工程、
(i)水性ベースコート材料を電着塗膜型塗膜に直接塗布すること、または(ii)電着塗膜型塗膜に2つ以上のベースコート材料を連続的に直接塗布することにより、硬化済み電着塗膜型塗膜上に直接(i)ベースコート塗膜または(ii)相互に直接連なっている複数のベースコート塗膜を生産する工程、
(i)1つのベースコート塗膜または(ii)一番上のベースコート塗膜にクリアコート材料を直接塗布することにより、(i)ベースコート塗膜または(ii)一番上のベースコート塗膜上に直接クリアコート塗膜を生産する工程であって、
(i)1つのベースコート材料または(ii)少なくとも1つのベースコート材料は、本発明のベースコート材料である、工程、
ベースコート塗膜(i)またはベースコート塗膜(ii)、および加えて、クリアコート塗膜を一体的に硬化させる工程
を含む。
【0106】
それゆえ、後に挙げた方の実施形態において、上記の標準的な方法に比較すると、通例のサーフェーサーを塗布し、別途硬化させることがなくなっている。別途硬化させる代わりに、電着塗膜型塗膜に塗布された塗膜のすべてを一体的に硬化させ、これにより、操作全体がはるかにずっと経済的になる。それでもやはり、このようにすれば、特に本発明の反応生成物を含む本発明のベースコート材料を使用する方法により、ピンホールを事実上有さず、したがって、特に外見が極めて優れた多層皮膜型塗料系が生産される。このような多層皮膜型塗料系が生産されることは、上記方法を用いた場合は最終の硬化工程において、特に大量の有機溶媒および/または水が上記多層皮膜型塗料系から脱出しなければならず(実際、サーフェーサー塗膜を別途硬化させることがなくなっているため)、これにより、基本的なピンホールの形成しやすさが大きく増大するため、特に驚くべきことである。
【0107】
コーティング材料を基体に直接塗布すること、または、あらかじめ生産しておいたコーティング塗膜に直接塗布することは、次のように理解される。各コーティング材料は、当該コーティング材料から生産されたコーティング塗膜が基体(他のコーティング塗膜)上に配置され、基体(他のコーティング塗膜)と直接接触している状態になるような態様で、塗布される。したがって、特に、コーティング塗膜と基体(他のコーティング塗膜)との間には、他の皮膜が存在しない。「直接」という詳述がない場合、塗布されたコーティング塗膜は、基体(他の塗膜)上に配置されていても、直接接触している状態で存在する必要は必ずしもない。特に、さらなる皮膜が、コーティング塗膜と基体との間に配置されていてもよい。したがって、本発明との関連においては、次の事柄が事実としてある。「直接」に関する特段の定めが存在しないときは、「直接」に関する制限が明確に存在しない。
【0108】
プラスチック基体は、金属基体と基本的に同じ方法によってコーティング加工される。しかしながら、ここで、一般に、硬化は、30〜90℃という著しく低くした温度で実施される。したがって、二成分型クリアコート材料の使用が好ましい。さらに、上記との関連において、結合剤としてのポリウレタン樹脂を含み、ただし架橋剤を含まないベースコート材料の使用も、好ましい。
【0109】
本発明の方法は、金属基体および非金属基体、特にプラスチック基体、好ましくは自動車ボディまたはこれらの基体の成分を塗装するために使用することができる。
【0110】
さらに、本発明の方法は、OEM仕上げ塗装における二重仕上げ塗装のためにも使用することができる。この二重仕上げ塗装とは、本発明の方法によってコーティング加工されていた基体に対して、本発明の方法による2回目の塗装がさらに実施されることを意味する。
【0111】
本発明は、上記方法によって生産できる多層皮膜型塗料系にさらに関する。こうした多層皮膜型塗料系は以下、本発明の多層皮膜型塗料系と呼ぶ。
【0112】
本発明の反応生成物および顔料入り水性ベースコート材料に関する上記すべての所見は、前記多層皮膜型塗料系および本発明の方法に対しても有効である。こうした適用は特に、すべての好ましい特徴、より好ましい特徴および最も好ましい特徴にも当てはまる。
【0113】
本発明の多層皮膜型塗料系は、好ましくは、多層皮膜型有色塗料系、エフェクト塗料系および有色型エフェクト塗料系である。
【0114】
本発明のさらなる一態様は、段階(1)の前記基体が、欠陥を有する多層皮膜型塗料系である、本発明の方法に関する。したがって、こうした欠陥を有する基体/多層皮膜型塗料系は、補修すべきまたは余すところなく再コーティング加工すべき初期仕上げ塗膜である。
【0115】
本発明の方法は、多層皮膜型塗料系にある欠陥を適宜補修するのに適している。塗膜欠陥とは一般に、コーティング上およびコーティング内にある不具合であり、通常、形状または外観に応じて名付けられる。当業者ならば、このような塗膜欠陥に数多の種類があり得ることは、認識している。こうした塗膜欠陥の種類については、例えば、Roempp−Lexikon Lacke und Druckfarben、Georg Thieme Verlag、Stuttgart、New York、1998年、235頁、「Film defects」で記述されている。
【0116】
本発明の方法によって生産された多層皮膜型塗料系も同様に、上述の欠陥を有し得る。したがって、本発明の方法の好ましい一実施形態において、段階(1)の基体は、欠陥を呈した本発明の多層皮膜型塗料系である。
【0117】
好ましくは、上記多層皮膜型塗料系は、自動車OEM仕上げ塗装との関連で上記した本発明の方法により、自動車ボディ上または自動車ボディの部品上に生産される。上述の欠陥は、OEM仕上げ塗装の実施直後に発生した場合、直ちに補修される。したがって、「OEM自動車補修塗装」という用語も使用されている。少しばかりの欠陥にのみ補修が必要な場合、「スポット」のみが補修され、ボディ全体は、余すところなく再コーティング加工(二重コーティング)されるわけではない。先に挙げた方のプロセスは、「スポット補修」と呼ばれる。したがって、OEM自動車補修塗装において、本発明の多層皮膜型塗料系(初期仕上げ塗膜)にある欠陥を修復するために本発明の方法を使用することは、特に好ましい。
【0118】
本発明との関連において自動車補修塗膜の分野に言及する場合、言い換えると、欠陥の補修が局所的であり、指定された基体が、欠陥を有する多層皮膜型塗料系である場合、このことは当然ながら、こうした欠陥を有する基体/多層皮膜型塗料系(初期仕上げ塗膜)が一般に、上記のようにプラスチック基体または金属基体上に配置されていることを意味する。
【0119】
補修された部位と、初期仕上げ塗膜の残り部分とに色の差異がないようにすべく、欠陥を補修するために本発明の方法の段階(1)で使用される水性ベースコート材料は、欠陥(初期仕上げ塗膜)を有する基体/多層皮膜型塗料系を生産するために使用された水性ベースコート材料と同じであることが好ましい。
【0120】
したがって、本発明のポリマーおよび水性顔料入りベースコート材料に関する上記所見は、多層皮膜型塗料系にある欠陥を補修するための本発明の方法に関して論述されている使用にも有効である。このような適用は特に、記載されたすべての好ましい特徴、非常に好ましい特徴および特に好ましい特徴にも当てはまる。補修すべき本発明の多層皮膜型塗料系は、多層皮膜型有色塗料系、エフェクト塗料系および有色型エフェクト塗料系であるのがさらに好ましい。
【0121】
本発明の多層皮膜型塗料系にある上記欠陥は、本発明の上記方法によって補修することができる。こうした補修を目的とした場合、補修すべき多層皮膜型塗料系の表面は、最初に研磨してもよい。好ましくは、研磨は、初期仕上げ塗膜を部分的にサンディングすることによって実施され、または、初期仕上げ塗膜からベースコートおよびクリアコートのみをサンディングで取り除き、一般にベースコートおよびクリアコートの真下に位置するプライマー層およびサーフェーサー層はサンディングで取り除かないようにすることによって、実施される。このようにすれば、補修塗膜中に特殊なプライマーおよびプライマーサーフェーサーを新しく塗布することは、特に必要でない。こうした研磨の形態は、OEM自動車補修塗装の分野において特に確立されており、ここで、この理由としては、作業場での補修塗装とは著しく異なり、一般的に言えば、欠陥は、ベースコート領域および/またはクリアコート領域内にのみ発生するが、これらの領域の下に位置するサーフェーサー皮膜およびプライマー皮膜の領域内には特に発生しないという点がある。後に挙げたプライマー皮膜中にある欠陥の方が、作業場における補修塗膜の部門においては、見受けることになる可能性がより高い。例としては、引っかき傷等の塗料損傷が挙げられ、この塗料損傷は、例えば機械的効果によって生成されるものであり、しばしば、基体表面(金属基体またはプラスチック基体)に至るまで延在する。
【0122】
この研磨手順の後には、顔料入り水性ベースコート材料を、圧搾空気式噴霧により、初期仕上げ塗膜中の欠陥部位に塗布する。顔料入り水性ベースコート材料は、塗布した後、公知の方法によって乾燥させることができる。例えば、ベースコート材料は、室温で1〜60分乾燥させた後、30〜80℃という任意に若干高くした温度で乾燥させてもよい。本発明の目的におけるフラッシュおよび乾燥とは、それによってもコーティング材料がまだ完全には硬化していない状態である、有機溶媒および/または水の蒸発を意味する。本発明の目的においては、ベースコート材料は、結合剤としてのポリウレタン樹脂および架橋剤としてのアミノプラスト樹脂、好ましくはメラミン樹脂を含むのが好ましい。
【0123】
続いて、同様に通例の技法によって商用クリアコート材料を塗布する。クリアコート材料は、塗布後、例えば室温で1〜60分フラッシュすることができ、任意に乾燥させてもよい。次いで、クリアコート材料を、塗布された顔料入りベースコート材料と一緒に硬化させる。
【0124】
いわゆる低温焼付けの場合、好ましくは、硬化は、20〜90℃の温度で実施される。ここで、二成分型クリアコート材料を使用することが好ましい。上記のように、ポリウレタン樹脂がさらなる結合剤として使用され、アミノプラスト樹脂が架橋剤として使用される場合、上記温度では、ベースコート塗膜中でアミノプラスト樹脂によって形成される架橋がわずかしか存在しない。ここで、アミノプラスト樹脂は、硬化剤としての機能に加えて、可塑化のためにも役立つものであり、顔料の湿潤を補助することができる。アミノプラスト樹脂の他にも、非ブロック型イソシアネートも同様に使用することができる。使用されるイソシアネートの性質によっては、イソシアネートは、20℃程度の低さの温度で架橋する。
【0125】
高温焼付けと呼ばれるものの場合、硬化は好ましくは、130〜150℃の温度で実施される。ここで、一成分型クリアコート材料と二成分型クリアコート材料の両方が使用される。上記のように、ポリウレタン樹脂がさらなる結合剤として使用され、アミノプラスト樹脂が架橋剤として使用される場合、上記温度では、ベースコート塗膜中でアミノプラスト樹脂によって架橋が形成される。
【0126】
多層皮膜型塗料系にある欠陥を補修することを目的とした場合、言い換えると、基体が、欠陥を有する初期仕上げ塗膜、好ましくは欠陥を呈した本発明の多層皮膜型塗料系である場合、低温焼付けを用いるのが好ましい。
【0127】
本発明のさらなる一態様は、光学的欠陥、特にピンホールに対する安定性を改良するために顔料入り水性ベースコート材料中に本発明の反応生成物を使用する方法である。
【0128】
ピンホールに対する安定性の品質は原則として、ピンホール形成限界、および加えて、ピンホールの数を用いて測定してもよい。ピンホール形成限界およびピンホール形成限界の測定は、次のように記述してもよい。多層皮膜型塗料系の構築において、クリアコート塗膜の真下に配置されたベースコート塗膜の塗膜厚さは変動し、さらに、このベースコート塗膜は、別々に焼き付けられるのではなく、代わりに、クリアコート塗膜と一緒に焼き付けられる。このコーティング塗膜は例えば、電着塗膜型塗膜上に直接配置された塗膜、および/または、クリアコート塗膜の真下に直接配置された塗膜であってよい。前置きした事柄に続けて言うと、ピンホールの形成しやすさは、上記コーティング塗膜の厚さの増大に対応して塗膜から脱出する必要がある空気、有機溶媒および/または水の量も多くなっていくため、上記コーティング塗膜の厚さが増大するにつれて高まっていかなければならない。ピンホールが明白になるときの上記コーティング塗膜の塗膜厚さは、ピンホール形成限界と呼ばれる。ピンホール形成限界が高まるほど、ピンホールに対する安定性の品質が明確に向上していく。当然ながら、ピンホールの数もまた、ピンホールに対する安定性の品質の表出である。
【0129】
以下、本発明について例を用いて説明する。
【実施例】
【0130】
特定の成分に関する指定および測定方法
ポリエステル1(P1):
ブタノールではなくブチルグリコールを有機溶媒として用いて、DE4009858Aの第16段、37〜59行目にある例Dに従って製造しており、この結果、存在する溶媒は、ブチルグリコールおよび水である。対応するポリエステル分散物は、60wt%の固形分含量を有する。
【0131】
数平均分子量の測定:
数平均分子量を蒸気圧浸透によって測定した。測定は、蒸気圧浸透圧計(Knauer製のモデル10.00)を用いて、50℃のトルエンに溶かした一連の濃度の調査対象成分について実施し、実験における較正定数を使用機器に関して決定するための較正物質としてベンゾフェノンを用いた(ベンジルが較正物質として使用されたがE.Schroeder、G.Mueller、K.−F.Arndt、「Leitfaden der Polymer−charakterisierung」[Introduction to polymer characterization]、Akademie−Verlag、Berlin、47〜54頁、1982年に従った。)。
【0132】
ヒドロキシル価の測定:
ヒドロキシル価は、触媒としての4−ジメチルアミノピリジンの存在下において室温(20℃)のテトラヒドロフラン(THF)/ジメチルホルムアミド(DMF)溶液中で、無水酢酸によるR.−P.Krueger、R.GnauckおよびR.Algeier、Plaste und Kautschuk、20、274(1982年)の方法によって測定したが、アセチル化後に残った過剰な無水酢酸が完全に加水分解されたら、酢酸を、水酸化カリウムのアルコール溶液によって電位差逆滴定した。60分のアセチル化時間は、すべての場合において、完全な変換を保証するのに十分であった。
【0133】
酸価の測定:
酸価は、DIN EN ISO2114の方法により、THF/水(9体積部のTHFおよび1体積部の蒸留水)から構成された均一溶液中で、水酸化カリウムのエタノール溶液を用いて測定した。
【0134】
エポキシド当量質量の測定:
測定は、DIN EN ISO3001に従って実施した。
【0135】
固形分含量の測定:
測定は、130℃、60分、1.0gの初期質量において、DIN EN ISO3251に従って実施した。
【0136】
本発明の反応生成物(IR)の生産:
IR1:
アンカー型撹拌器、温度計および凝縮器を備え付けた4l容ステンレス鋼製反応器内に、405g/eqのエポキシド当量質量を有する810.0gのポリテトラヒドロフランジグリシジルエーテル(Grilonit F713、Ems Chemie製)および204mg KOH/g(2.0mol)のヒドロキシル価を有する1100gのダイマージオール(Pripol(登録商標)2033、Croda製)を溶媒なしで導入し、125℃に加熱した。上記反応器から取得した試料のエポキシド当量質量は、DIN EN ISO3001により、955g/molであると測定された。125℃に到達したら、5.4gのN,N−ジメチルベンジルアミン(BASF SE製)を加え、エポキシド基がもはや検出できなくなるまでバッチを12時間125℃に保持した。冷却により、室温において、粘性のある樹脂が生じた。
【0137】
数平均分子量(樹脂):1804g/mol
固形分含量:99.9%
g/molにおけるエポキシド当量質量:無数
酸価:0.0mg KOH/g
ヒドロキシル価:118mg KOH/gの固形分含量
粘度(オリジナル):602mPas、
(Brookfield製の回転粘度計、モデルCAP2000+、スピンドル3を用いて23℃で測定、せん断速度:5000s−1)
【0138】
IR2:
アンカー型撹拌器、温度計および凝縮器を備え付けた4l容ステンレス鋼製反応器内に、405g/eqのエポキシド当量質量を有する810.0gのポリテトラヒドロフランジグリシジルエーテル(Grilonit F713、Ems Chemie製)および214mg KOH/gのヒドロキシル価を有する524.8gのドデシルフェノール(ドデシルフェノールT、Sasol製)(2.0mol)を溶媒なしで導入し、125℃に加熱した。上記反応器から取得した試料のエポキシド当量質量は、DIN EN ISO3001により、669g/molであると測定された。125℃に到達したら、5.4gのN,N−ジメチルベンジルアミン(BASF SE製)を加え、エポキシド基がもはや検出できなくなるまでバッチを12時間125℃に保持した。冷却により、室温において、粘性のある樹脂が生じた。
【0139】
数平均分子量(樹脂):1300g/mol
固形分含量:99.8%
g/molにおけるエポキシド当量質量:無数
酸価:0.0mg KOH/g
ヒドロキシル価:84mg KOH/gの固形分含量
粘度(オリジナル):750mPas、
(Brookfield製の回転粘度計、モデルCAP2000+、スピンドル3を用いて23℃で測定、せん断速度:5000s
−1)
【0140】
水性ベースコート材料の生産
銀色型の比較用水系ベースコート1(C1)の生産
表Aの「水性相」以下に列記された諸成分を、記載されている順番で混ぜ合わせて、水性混合物を形成した。次の工程において、有機混合物を、「有機相」以下に列記された諸成分から製造した。有機混合物を水性混合物に加えた。次いで、合わせた混合物を10分撹拌したら、脱イオン水およびジメチルエタノールアミンを用いてpH8に調整し、回転粘度計(Mettler−Toledo製のRheomat RM180という機器)で測定して1000s−1のせん断荷重下において23℃で58mPasのスプレー用粘度に調整した。
【0141】
【表A】
【0142】
本発明の水系ベースコート材料1および2(I1およびI2)の生産
本発明の水系ベースコート材料I1を生産するために、比較用水系ベースコート材料1(C1)の生産用と同様にして、ポリエステルP1ではなくIR1を水性相中と有機相中の両方に用いて、塗料を生産した。ここで、100%形態(固形分含量に対して)のIR1を使用した。固形分割合(不揮発性部分)に対して、I1中に使用されたIR1の量は、C1中に使用されたポリエステルP1の量と同じだった。IR1と分散物P1の固形分含量が相異なることに起因して、IR1と分散物P1のブチルグリコールの量も相異なることは、ブチルグリコールを相応に加えることにより、配合物I1中で補償した。水系ベースコート材料I2の生産用の場合、手順は、I1と同じだったが、IR1の代わりに反応生成物IR2を使用した。
【0143】
表1では、水系ベースコート材料(WBM)C1ならびにI1およびI2中に使用されたポリエステルおよび反応生成物ならびに(水系ベースコート材料の合計量に対する)これらの比率が、概略として、さらに示されている。
【0144】
【表1】
【0145】
水系ベースコート材料C1とI1およびI2との比較
ピンホール形成限界およびピンホール計測数を測定するために、多層皮膜型塗料系を、下記の一般的方法によって生産した。
【0146】
コーティング加工後の塗膜厚さの差異を測定できるようにするために、30×50cmの寸法のカソード電着鋼板には長手方向の縁部の1つに、粘着剤ストリップを備え付けた。特定の水系ベースコート材料を、くさび形を形作るように静電塗布した。得られた水系ベースコート塗膜を室温で4分フラッシュし、続いて、強制換気オーブン内で70℃において10分中間的に乾燥させた。慣例的な二成分型クリアコート材料を、35マイクロメートルの塗膜厚さになるように、乾燥済み水系ベースコート塗膜に静電塗布した。得られたクリアコート塗膜を室温で20分フラッシュした。次いで、水系ベースコート塗膜およびクリアコート塗膜を、140℃の強制換気オーブン内で20分硬化させた。得られたくさび形状の多層皮膜型塗料系中にあるピンホールの目視評価後、ピンホール形成限界の塗膜厚さおよびこのピンホール形成限界の塗膜厚さを超えているときのピンホールの数(言い換えると、塗装済みシート上にあるピンホールの合計数)を確認した。この結果は、表2に見出すことができる。
【0147】
【表2】
【0148】
上記結果は、本発明の反応生成物または本発明の水系ベースコート材料を使用する方法が、比較用水系ベースコート材料C1に比較してピンホール形成限界を著しく上昇させ、同時に、ピンホール計測数も減少させるということを強調している。
【0149】
銀色型の比較用水系ベースコート材料2(C2)の生産
表Bの「水性相」以下に列記された諸成分を、記載されている順番で混ぜ合わせて、水性混合物を形成した。次の工程において、有機混合物を、「有機相」以下に列記された諸成分から製造した。有機混合物を水性混合物に加えた。次いで、合わせた混合物を10分撹拌したら、脱イオン水およびジメチルエタノールアミンを用いてpH8に調整し、回転粘度計(Mettler−Toledo製のRheomat RM180という機器)で測定して1000s
−1のせん断荷重下において23℃で58mPasのスプレー用粘度に調整した。
【0150】
【表B】
【0151】
本発明の水系ベースコート材料3(I3)の製造
I1およびI2の製造用と同じ用法により、本発明のベースコート材料I3(IR1を含有する)を、比較用ベースコート材料C2を主体としてポリエステル分散物P1を置き替えて生産した(表B)。ブチルグリコールを相応に加えることにより、相異なる固形分含量をポリエステル分散物P1に対して再度補償した。
【0152】
【表3】
【0153】
水系ベースコート材料C2とI3との比較
水系ベースコート材料C1およびI1〜I2を用いて生産された多層皮膜型塗料系に関する上記と同様にして、多層皮膜型塗料系を、水性ベースコート材料C2およびI3を用いて生産した。ピンホール形成限界およびピンホール計測数に関する評価もまた、同じ方法によって実施した。この結果は、表4に見出すことができる。
【0154】
【表4】
【0155】
上記結果はやはり、本発明の反応生成物または本発明の水系ベースコート材料を使用する方法が、比較用水系ベースコート材料C2に比較してピンホール形成限界を著しく上昇させ、同時に、ピンホール計測数も減少させるということを強調している。