(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6386112
(24)【登録日】2018年8月17日
(45)【発行日】2018年9月5日
(54)【発明の名称】建物
(51)【国際特許分類】
E04F 13/08 20060101AFI20180827BHJP
【FI】
E04F13/08 H
【請求項の数】5
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2017-19444(P2017-19444)
(22)【出願日】2017年2月6日
(62)【分割の表示】特願2013-92586(P2013-92586)の分割
【原出願日】2013年4月25日
(65)【公開番号】特開2017-75530(P2017-75530A)
(43)【公開日】2017年4月20日
【審査請求日】2017年2月15日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 公開日 平成24年12月1日 公開場所 ピオレ姫路(本館)(兵庫県姫路市駅前町188番1) (刊行物等) 掲載年月日 平成25年2月25日 掲載アドレス http://www.kobe−sc.co.jp/news/ (刊行物等) 掲載年月日 平成25年2月25日 掲載アドレス http://www.westjr.co.jp/press/article/2013/02/page_3320.html (刊行物等) 掲載年月日 平成25年2月26日 掲載アドレス http://www.kobe−np.co.jp/news/shakai/201302/0005771696.shtml
(73)【特許権者】
【識別番号】000003621
【氏名又は名称】株式会社竹中工務店
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】特許業務法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】本間 隆司
(72)【発明者】
【氏名】原 哲也
(72)【発明者】
【氏名】益田 康司
【審査官】
湊 和也
(56)【参考文献】
【文献】
特開2009−181060(JP,A)
【文献】
特開平08−158615(JP,A)
【文献】
特開平07−004066(JP,A)
【文献】
特開2007−308906(JP,A)
【文献】
特開2003−193602(JP,A)
【文献】
特開2010−281096(JP,A)
【文献】
特開2008−106589(JP,A)
【文献】
登録実用新案第3141819(JP,U)
【文献】
米国特許出願公開第2006/0179745(US,A1)
【文献】
Sippo Congress Center / Tabanlioglu Architects,[online],2012年 8月13日,[2018年1月12日検索],URL,https://web.archive.org/web/20120813174740/https://www.archdaily.com/262238/sipopo-congress-center-tabanlioglu-architects
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04F 13/08
E04B 2/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
建物外装面に、複数の外装パネルを並設し、前記外装パネルに光を照射自在な照明装置を設けてある建物であって、
前記複数の外装パネルは、壁状の建物下地の外側に配置されており、
互いに隣接する前記外装パネルの前記建物下地からの距離は、互いに異なっており、
隣接する前記外装パネル間に、互いの縁部どうしがパネル厚み方向に位置ずれしている段差部が設けてあり、
前記照明装置は、前記段差部における上段に位置する外装パネルの裏側に設置してあり、前記段差部から下段に位置する外装パネルの表面を照射自在に構成してある建物。
【請求項2】
前記上段に位置する外装パネルの周囲に、複数の前記下段に位置する外装パネルを配置してある請求項1に記載の建物。
【請求項3】
前記各外装パネルと前記建物下地との間に、前記建物下地に沿って連続する空間層を設けてある請求項1又は2に記載の建物。
【請求項4】
前記空間層には、前記建物下地に沿わせてデッキが設けてある請求項3に記載の建物。
【請求項5】
前記複数の外装パネルを並設した前記建物外装面の一部を開口させて、非常用進入口として構成してある請求項4に記載の建物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建物外装面に光を照射自在な照明装置を設けてある建物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の建物としては、照明装置を構成するに、建物外装面にそれぞれの発光面を向けた多数の光源を、建物外装面上に格子状に取り付けたものがあり、各光源による光の照射を制御して、建物外装面に、図形や映像イメージ等を表示できるようにしたものがあった(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実用新案登録第3141819号公報(
図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した従来の建物によれば、建物外装面から、多数の照明装置が突出した状態に露出し、その全容が現れているから、昼間の建物外装面において照明装置が目に付きやすく、壁面の意匠上、好ましくない問題点がある。
また、夜間の建物外装面においては、照明効果は期待できるものの、照明装置の存在が影となって浮き出るから、昼間にも増して目に付きやすくなり、壁面の意匠上、好ましくない問題点がある。
【0005】
従って、本発明の目的は、上記問題点を解消し、建物外装面において、昼夜を通してそれぞれに好ましい意匠性が得られる建物を提供するところにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
【0007】
【0008】
本発明の第1の特徴構成は、建物外装面に、複数の外装パネルを並設し、前記外装パネルに光を照射自在な照明装置を設けてある建物であって、
前記複数の外装パネルは、壁状の建物下地の外側に配置されており、互いに隣接する前記外装パネルの前記建物下地からの距離は、互いに異なっており、隣接する前記外装パネル間に、互いの縁部どうしがパネル厚み方向に位置ずれしている段差部が設けてあり、前記照明装置は、前記段差部における上段に位置する外装パネルの裏側に設置してあり、前記段差部から下段に位置する外装パネルの表面を照射自在に構成してあるところにある。
【0009】
本発明の第1の特徴構成によれば、建物外装面に並設した外装パネル間に、前記段差部を設けてあるから、昼間の建物外装面においては、各外装パネル相互による凹凸感が得られ、単に照明装置が露出しているだけの従来技術に比べて、外装パネルとその影とが織りなす良好な意匠性を醸し出すことができる。
また、夜間の建物外装面においては、上段に位置する外装パネルの裏側に隠された照明装置から、下段に位置する外装パネルの表面に対する間接照明を実施でき、昼間の凹凸感とは全く異なった凹凸感や、照明による描写効果が得られる。
以上の結果、建物外装面において、昼夜を通してそれぞれに好ましい意匠性が得られる。
【0010】
本発明の第2の特徴構成は、前記上段に位置する外装パネルの周囲に、複数の前記下段に位置する外装パネルを配置してあるところにある。
【0011】
本発明の第2の特徴構成によれば、「上段に位置する外装パネル」の裏側に設置した照明装置によって、周囲に配置した複数の「下段に位置する外装パネル」を照射することができ、「上段に位置する外装パネル」の周りを明るく照らすことができる。
また、上段と下段との相対配置を、「下段に位置する外装パネル」の更に下段に適応させることで、建物外装面での暗部をより少なくして、最も上段に位置する外装パネル以外は、全て照明対象として、建物外装面を全体的に明るく照らし出すことができる。
【0012】
本発明の第3の特徴構成は、前記各外装パネルと
前記建物下地との間に、前記建物下地に沿って連続する空間層を設けてあるところにある。
【0013】
本発明の第3の特徴構成によれば、前記空間層が、外部空間との間にあることで、断熱空間の役目を果たすことができ、建物内の空調効率を向上させることができる。
特に、空間層に位置する空気の上昇気流を利用できるようにすれば、煙突効果によって、暑い時期の建物温度の上昇を抑制でき、建物内の冷房効果を向上させることができる。
また、空間層を利用して、外装パネルや照明装置等のメンテナンスを実施することができ、建物内に立ち入らずにそれらの作業を実施できることで、建物内の独立性が向上する。この作用効果は、特に、継続した使用形態が各居室に適用されるテナントビル等に最適である。
【0014】
本発明の第4の特徴構成は、前記空間層には、前記建物下地に沿わせてデッキが設けてあるところにある。
【0015】
本発明の第4の特徴構成によれば、デッキを利用して、外装パネルや照明装置等のメンテナンス作業をより実施しやすくなる他、火災や地震等の災害時に、外部への避難通路として利用したり、建物内への消防隊の進入路として利用することができる。
即ち、前記空間層をより有効に利用できるようになる。
【0016】
本発明の第5の特徴構成は、前記複数の外装パネルを並設した前記建物外装面の一部を開口させて、非常用進入口として構成してあるところにある。
【0017】
本発明の第5の特徴構成によれば、非常用進入口によって、外部から前記空間層を通じて建物内に至る非常用進入経路を形成することができ、建物に生じた非常時に、遅延無く対応することができるようになる。
また、非常用進入口そのものの開口が、外装パネルが並設された建物外装面の景観に変化をもたらすことができ、意匠性の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図9】別実施形態の外装パネルの設置状況を示す要部斜視図
【
図10】別実施形態の外装パネルの設置状況を示す要部断面図
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1、
図2は、本発明の建物の一実施形態を示すもので、ここで説明する建物Bは、例えば、多数の店舗が入居するテナントビル等の商業施設を例に挙げて説明している。
但し、対象となる建物Bは、商業施設に限るものではなく、建物外装面を備えたものであれば、各種建物を対象とすることができる。
【0020】
建物Bは、その一つの建物外装面1に、照明設備を備えて構成してあり、例えば、色調を変化自在なカラー照明で建物外装面1を装飾したり、映像を、建物外装面1の全体に表出して演出することができるように構成されている。
【0021】
前記建物外装面1は、
図7、
図8に示すように、外壁(建物下地に相当)2の外側に、空間層3を挟んで設けられた建物外装体4で構成されている。
【0022】
外壁2は、例えば、ALC版等によって構成してあり、二階以上の階層部の大半は、前記建物外装体4で覆われている。
外壁2の一階部分には、
図1、
図2に示すように、複数の出入口2aが設けてある。
【0023】
空間層3は、
図7、
図8に示すように、人が外壁2に沿って通行できる幅員を備えており、上下階層にわたって連続した空間として構成されている。
また、空間層3には、後述する支持部材6によって支持されたデッキDが、建物Bの各階層毎に配置されている。このデッキDは、例えば、グレーチング等で構成してあり、建物外装体4(後述する外装パネルPや照明装置L等)のメンテナンス作業に利用したり、火災や地震等の災害時に、外部への避難通路として利用したり、建物内への消防隊の進入路として利用することができる。
【0024】
建物外装体4は、鉄骨製のフレーム5を備え、その表面側に複数の外装パネルPを縦横に並設して構成されている。
尚、フレーム5は、外壁2から突出する状態に設けられた支持部材6によって支持されている。この支持部材6は、例えば、H形鋼等で構成してあり、基端部は建物躯体に固定されている。
【0025】
外装パネルPは、
図4に示すように、矩形形状に形成してあり、裏面側には、補強部材となる枠体7が一体に取り付けてある。外装パネルPの固定は、この枠体7を前記フレーム5に対して取り付けることで実施されている。
また、隣接させる外装パネルP間には、互いの縁部どうしがパネル厚み方向に位置ずれしている段差部8が設けてある(
図6参照)。
尚、外装パネルPの全周部には、
図6に示すように、縁部金物10が装着してある。この縁部金物10は、外装パネルPの縁部の保護効果に加えて、パネル厚み方向での裏面側に突出しているフランジ部10aを備えていることで、外装パネルPの厚み方向の変形防止効果を高めている。
更には、このフランジ部10aを設けてあることで、段差部8における目隠し効果を期待することができ、後述する照明装置Lの光源が、段差部8を通して外部から直接的に見えるのを防止し、間接照明効果の向上を図っている。
【0026】
上述のとおり段差をつけた外装パネルPの配置パターンの一例を示すと、
図3に示すとおりである。図中の中央に、上段の外装パネルPaが配置してあり、その上段の外装パネルPaの4辺に沿って中段の外装パネルPbがそれぞれ配置してあり、中段の外装パネルPbの残りの3辺に沿って下段の外装パネルPcが配置してある。
即ち、上段の外装パネルPaの周囲に、複数の前記中段、下段に位置する外装パネル()を配置してある。
従って、上段の外装パネルPaと中段の外装パネルPbとの間、及び、中段の外装パネルPbと下段の外装パネルPcとの間に、それぞれ段差部8が形成されている。
【0027】
段差部8において上段側に位置する外装パネルPa(又はPb)の裏側には、
図6に示すように、下段側に位置する外装パネルPb(又はPc)の表面を段差部8を通して照射自在な照明装置Lが配置されている。
照明装置Lは、
図4に示すように、複数のLED光源をライン状に沿って配置したユニットとして構成してある。照明装置Lは、複数色(少なくとも光の三原色)のLED光源を備えており、照射色の組合せによってカラー照明を行うことができる。
図3に示す外装パネルPの配置パターンによれば、中段の外装パネルPbの表面には、上段の外装パネルPaの裏側に配置された照明装置Lから光が照射され、下段の外装パネルPcの表面には、中段の外装パネルPbの裏側に配置された照明装置Lから光が照射される。従って、多くの外装パネルPの内、上段の外装パネルPaを除く全ての外装パネルに光を照射することができ、照明による各種描写を良好に表現することができる。
【0028】
尚、照明装置Lの取り付けは、例えば、外装パネルPbや枠体7やフレーム5等、何れのものを対象に実施するものであってもよい。
【0029】
また、建物外装面1においてランダムな任意の位置に配置されている一部の外装パネルPには、
図2、
図5、
図7に示すように、建物外装面1の一部を開口させる切欠き部Wが形成してある。
切欠き部Wには、網体9が設置してある。また、切欠き部Wを備えた複数の外装パネルPの内の一部の外装パネルPにおいては、前記網体9が開閉自在に取り付けてあり、この部分は、非常用進入口Waとして使用することができる。尚、非常用進入口Waとして設定された切欠き部Wには、その近傍に、例えば、赤色等の非常灯(不図示)や、非常用進入口であることを示すマークを設置しておくのが好ましい。
また、切欠き部Wの背面側には、
図7に示すように、外壁2に光を照射自在な照明装置Sが取り付けてある。この照明装置Sによって外壁2の対象部を照明することで、建物外装面1において切欠き部Wのみが暗くなるのを防止でき、より良好な照明効果を得ることができる。更には、照明装置Sによる照射光の一部が、前記網体9によって反射されることで、切欠き部Wの照明効果をより引き立たせることができる。
尚、切欠き部Wを設けてある外装パネルPは、上段の外装パネルPa、中段の外装パネルPb、下段の外装パネルPcの何れに設けるものであってもよい。
【0030】
当該実施形態の建物Bによれば、昼間の建物外装面1においては、外装パネルPによる凹凸感が得られ、外装パネルPとその影とが織りなす良好な意匠性を醸し出すことができることに加えて、夜間の建物外装面1においては、外装パネルPの裏側に隠された照明装置Lによる照明作用によって、昼間の凹凸感とは全く異なった凹凸感や、映像等の描写効果が得られ、建物外装面1において、昼夜を通してそれぞれに好ましい意匠性が得られる。
また、前記空間層3を利用した各種メンテナンスが実施可能となる他、空間層3を避難通路や消防隊の進入路等にも利用することができるようになる。更には、空間層3そのものによる断熱効果で、建物内の冷暖房効率を向上させることが可能となる。そして、空間層3の下端側と上端側とに、外部と空間層3との空気を流通させる流通部を形成する等の方法で、空間層3に位置する空気の上昇気流を利用できるようにすれば、煙突効果によって、暑い時期の建物温度の上昇を抑制し易くなる。
【0031】
〔別実施形態〕
以下に他の実施の形態を説明する。
【0032】
〈1〉 建物は、多数の店舗が入居するテナントビル等の商業施設に限るものではなく、他の異なる用途で建設されている各種建物であってもよい。また、構造形式や、階層の数や、建物外装面1の形状等も、特に規定されるものではない。
【0033】
〈2〉 建物外装体4と建物下地(外壁)2との間は、先の実施形態で説明したように空間層3を設けることに限らず、建物下地2上に、空間を空けずに建物外装体4を設ける構成であってもよい。
また、その場合、下段側に位置する外装パネルPに替えて、
図10に示すように、建物下地2の表面によって代用するものであってもよい。つまり、外装パネルPのみで建物外装面1を構成することに限らず、外装パネルPと建物下地2とによって建物外装面1を構成するものであってもよい。
また、建物外装面1は、先の実施形態で説明した建物Bの壁面に限定されるものではなく、例えば、建物Bの屋根面や屋上面であってもよく、それらを含めて建物外装面1と総称する。
【0034】
〈3〉 外装パネルPは、先の実施形態で説明した矩形形状のものに限るものではなく、例えば、三角形や、5角形以上の多角形であったり、円形や楕円形や、それらを組み合わした形状や、幾何学形状のものであってもよい。
また、各外装パネルPの配列は、先の実施形態で説明した
図3に示すように、上段、中段、下段の配列に限るものではなく、例えば、2段の配列や、4段以上の多段配列であってもよい。例えば、ピラミッドのように、中央部に最上段の外装パネルPを配置して、その外周側に下段側の各外装パネルPを順次配置する配列を採用すれば、照明されない外装パネルPを最上段の一枚に絞ることができ、建物外装面1での照明表現を、より実施しやすくなる。
また、外装パネルPどうしは、建物下地2と平行に配置することに限らず、傾斜状態に配置してもよい。一例として、
図9に示すように、外装パネルPの対角線方向に傾斜する状態に配置するものであってもよく、この実施形態の場合は、照明されない外装パネルPを、傾斜下手側の角の一枚の外装パネルP(斜線を付してある外装パネル)に絞ることができる。
【0035】
尚、上述のように、図面との対照を便利にするために符号を記したが、該記入により本発明は添付図面の構成に限定されるものではない。また、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々なる態様で実施し得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0036】
1 建物外装面
2 外壁(建物下地に相当)
3 空間層
8 段差部
D デッキ
L 照明装置
P 外装パネル
Wa 非常用進入口