特許第6386162号(P6386162)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6386162回転機械の羽根車、コンプレッサ、過給機及び回転機械の羽根車の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6386162
(24)【登録日】2018年8月17日
(45)【発行日】2018年9月5日
(54)【発明の名称】回転機械の羽根車、コンプレッサ、過給機及び回転機械の羽根車の製造方法
(51)【国際特許分類】
   F04D 29/28 20060101AFI20180827BHJP
   F02B 39/00 20060101ALI20180827BHJP
   C23C 18/36 20060101ALI20180827BHJP
   C23C 18/31 20060101ALI20180827BHJP
【FI】
   F04D29/28 Q
   F04D29/28 R
   F04D29/28 N
   F02B39/00 Q
   F02B39/00 U
   C23C18/36
   C23C18/31 A
【請求項の数】12
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2017-507241(P2017-507241)
(86)(22)【出願日】2015年3月25日
(86)【国際出願番号】JP2015059092
(87)【国際公開番号】WO2016151793
(87)【国際公開日】20160929
【審査請求日】2017年4月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】316015888
【氏名又は名称】三菱重工エンジン&ターボチャージャ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000785
【氏名又は名称】誠真IP特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】新井 貴
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 大剛
(72)【発明者】
【氏名】室野 亘
(72)【発明者】
【氏名】山口 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】鳥越 泰治
(72)【発明者】
【氏名】井上 亜希
(72)【発明者】
【氏名】紺野 勇哉
【審査官】 木村 麻乃
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−163345(JP,A)
【文献】 特開2004−176082(JP,A)
【文献】 特開2007−245567(JP,A)
【文献】 特開2010−209292(JP,A)
【文献】 特開2010−202900(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04D 29/28
C23C 18/31
C23C 18/36
F02B 39/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転機械の羽根車であって、
Al又はAl合金によって構成される前記羽根車の基材と、
前記基材を覆うように設けられて前記羽根車の表面層を形成する無電解めっき皮膜と、を備え、
前記無電解めっき皮膜は、アモルファス構造を有し、且つ、前記無電解めっき皮膜中におけるP含有率が5重量%以上11重量%以下であるNi−P系合金であることを特徴とする回転機械の羽根車。
【請求項2】
前記無電解めっき皮膜は、15μm以上60μm以下の膜厚を有することを特徴とする請求項1に記載の回転機械の羽根車。
【請求項3】
前記無電解めっき皮膜は、500HV以上700HV以下のビッカース硬さを有することを特徴とする請求項1又は2に記載の回転機械の羽根車。
【請求項4】
前記無電解めっき皮膜の破断延性は歪み0.5%以上であることを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載の回転機械の羽根車。
【請求項5】
前記羽根車は、過給機のコンプレッサ羽根車であることを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項に記載の回転機械の羽根車。
【請求項6】
請求項1乃至5の何れか1項に記載の羽根車によって形成されるコンプレッサ羽根車を有するコンプレッサ。
【請求項7】
請求項6に記載のコンプレッサと、
前記コンプレッサを駆動するためのタービンと、
を備えることを特徴とする過給機。
【請求項8】
前記コンプレッサは、内燃機関の吸気路に設けられ、
前記タービンは、前記内燃機関からの排気によって駆動されるように構成され、
前記コンプレッサの上流側において、前記排気の一部が前記吸気路に循環されるように構成されたことを特徴とする請求項7に記載の過給機。
【請求項9】
回転機械の羽根車の製造方法であって、
Al又はAl合金によって構成される前記羽根車の基材を覆うように、前記羽根車の表面層として無電解めっき皮膜を形成するステップを備え、
前記無電解めっき皮膜は、アモルファス構造を有し、且つ、前記無電解めっき皮膜中におけるP含有率が5重量%以上11重量%以下であるNi−P系合金であることを特徴とする回転機械の羽根車の製造方法。
【請求項10】
前記無電解めっき皮膜が形成された前記羽根車から試験片を切り出し、該試験片を用いて前記無電解めっき皮膜の破断延性を評価するステップをさらに備えることを特徴とする請求項9に記載の回転機械の羽根車の製造方法。
【請求項11】
前記試験片は、前記羽根車のハブのブレード根元部を前記ハブの背面側に投影した領域を前記ハブの背面から採取することを特徴とする請求項10に記載の回転機械の羽根車の製造方法。
【請求項12】
前記破断延性が閾値を下回る場合、前記無電解めっき皮膜のめっき条件を変更するステップをさらに備えることを特徴とする請求項10又は11に記載の回転機械の羽根車の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、回転機械の羽根車、該羽根車を備えたコンプレッサ、過給機及び該羽根車の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用内燃機関、特にディーゼルエンジンなどでは、排気再循環(EGR)システムが多く採用されている。EGRシステムを採用した内燃機関に設けられた過給機のコンプレッサには、排気ガスの一部が導入されるため、コンプレッサ羽根車に排気ガス中に含まれる液滴などによるエロージョン(浸食)が発生しやすい。そのため、耐エロージョン対策として、Al合金などで製造されたコンプレッサ羽根車にNi−P系めっきを施工している。
また、過給機のコンプレッサ羽根車には、高速回転で発生する遠心力による応力と、Ni−P系めっき皮膜とAl合金との熱伸び差とによる応力とが発生する。そのため、めっき皮膜には耐エロージョン性だけでなく、耐き裂性(疲労強度)及び耐剥離性(堺面強度)が要求される。
一旦、めっき皮膜にき裂が発生すると、その後、該き裂は母材に進展し、母材の破損につながる。
【0003】
特許文献1には、EGRシステムを採用した舶用ディーゼル機関に設けられた過給機のコンプレッサ羽根車に、耐エロージョン性及び耐コロージョン(腐食)性を向上させるため、Ni−P系合金めっきを施工することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2014−163345号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
めっき皮膜の耐エロージョン性を向上させるために、めっき膜厚を増加することが考えられるが、めっき皮膜を増加しすぎると、めっき膜が母材界面から剥離しやすくなり、かつめっき膜表面の疲労き裂発生のリスクが増大する。一方、めっき膜厚を減らすと、疲労き裂発生のリスクは減るが、耐エロージョン性が低下するおそれがある。
このように、耐エロージョン性と耐き裂性とは両立しにくい関係にあり、これらの性質を両立させることは容易ではない。
【0006】
かかる従来技術の課題に鑑み、本発明の少なくとも一実施形態は、回転機械の羽根車において、めっき皮膜の形成によって、耐エロージョン性と耐き裂性(疲労強度)とを両立させるめっき皮膜の形成を可能にすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)本発明の少なくとも一実施形態に係る回転機械の羽根車は、
回転機械の羽根車であって、
Al又はAl合金によって構成される前記羽根車の基材と、
前記基材を覆うように設けられて前記羽根車の表面層を形成する無電解めっき皮膜と、を備え、
前記無電解めっき皮膜は、アモルファス構造を有し、且つ、前記無電解めっき皮膜中におけるP含有率が5重量%以上11重量%以下であるNi−P系合金である。
【0008】
前記構成(1)によれば、前記無電解めっき皮膜は、アモルファス構造を有するため、高強度となり、耐エロージョン性を向上できる。また、前記無電解めっき皮膜のP含有率が5重量%以上11重量%以下としたことで、高いビッカース硬さを有しつつ、良好な耐き裂性(疲労強度)を実現でき、これにより、羽根車のき裂の発生を抑制できる。
また、前記無電解めっき皮膜は、膜厚など均一な皮膜形成が可能となるため、広範囲にわたってめっき皮膜の前記特性を均一に発揮できる。
【0009】
(2)幾つかの実施形態では、前記構成(1)において、
前記無電解めっき皮膜は、15μm以上60μm以下の膜厚を有する。
前記無電解めっき皮膜の膜厚が15μm未満では、耐エロージョン性及び耐き裂性を十分に発揮することが難しい。他方、60μmを超える膜厚としても耐エロージョン性や耐き裂性の向上効果は限定的であるし、逆に、めっき処理に要する時間が長くなり、高コストとなる。
前記構成(9)によれば、前記無電解めっき皮膜の膜厚を15μm以上とすることで、耐エロージョン性及び耐き裂性を発揮でき、かつ60μm以下とすることで、めっき処理を低コスト化できる。
【0010】
(3)幾つかの実施形態では、前記構成(1)又は(2)において、
前記無電解めっき皮膜は、500HV以上700HV以下のビッカース硬さを有する。
前記構成(3)によれば、前記無電解めっき皮膜は、500HV以上のビッカース硬さを有するため、耐エロージョン性を発揮でき、他方、700HV以下のビッカース硬さであるため、優れた耐き裂性を実現できる。
【0011】
(4)幾つかの実施形態では、前記構成(1)〜(3)の何れかにおいて、
前記無電解めっき皮膜の破断延性(繰り返しではなく1回)が歪み0.5%以上である。
前記構成(4)によれば、歪み0.5%以上の破断特性を有すれば、耐疲労破断性の高いめっき皮膜を形成でき、低サイクル疲労試験で許容繰返し数を満足することができる。これにより、羽根車のき裂の発生を抑制でき、羽根車を長寿命化できる。
【0012】
(5)幾つかの実施形態では、前記構成(1)〜(4)の何れかにおいて、
前記羽根車は、過給機のコンプレッサ羽根車である。
前記構成(5)によれば、前記構成の羽根車を高速回転する過給機のコンプレッサ羽根車として用いることで、該コンプレッサ羽根車の耐エロージョン性及び耐き裂性(疲労強度)を向上できる。これによって、長寿命のコンプレッサ羽根車を実現できる。
【0013】
(6)本発明の少なくとも一実施形態に係るコンプレッサは、
前記構成(1)〜(5)の何れかの羽根車によって形成されるコンプレッサ羽根車を有する。
前記構成(6)によれば、高い耐エロージョン性及び耐き裂性(疲労強度)を有するコンプレッサ羽根車を備えることで、コンプレッサの長寿命化が可能になる。
【0014】
(7)本発明の少なくとも一実施形態に係る過給機は、
前記構成(6)のコンプレッサと、
前記コンプレッサを駆動するためのタービンと、
を備えている。
前記構成(7)によれば、高い耐エロージョン性及び耐き裂性(疲労強度)を有するコンプレッサ羽根車を有するコンプレッサを備えることで、高速回転に長期間耐え得る長寿命の過給機を実現できる。
【0015】
(8)幾つかの実施形態では、前記構成(7)において、
前記コンプレッサは、内燃機関の吸気路に設けられ、
前記タービンは、前記内燃機関からの排気によって駆動されるように構成され、
前記コンプレッサの上流側において、前記排気の一部が前記吸気路に循環されるように構成される。
前記構成(8)のように、例えば、EGRシステムを採用した内燃機関に設けられる過給機では、過給機のコンプレッサに液滴を含みエロージョン性が高い排気を含む吸気が導入される。
これに対し、前記構成(8)によれば、前記構成(7)を有する過給機は、前記構成(6)を有し、耐エロージョン性及び耐き裂性(疲労強度)が向上したコンプレッサを備えているので、高速回転に長期間耐え得る長寿命な過給機を実現できる。
【0016】
(9)本発明の少なくとも一実施形態に係る回転機械の羽根車の製造方法は、
回転機械の羽根車の製造方法であって、
Al又はAl合金によって構成される前記羽根車の基材を覆うように、前記羽根車の表面層として無電解めっき皮膜を形成するステップを備え、
前記無電解めっき皮膜は、アモルファス構造を有し、且つ、前記無電解めっき皮膜中におけるP含有率が5重量%以上11重量%以下であるNi−P系合金である。
【0017】
前記(9)の方法により製造された羽根車は、表面に前記無電解めっき皮膜が形成される。該無電解めっき皮膜は、アモルファス構造を有するため、高強度となり、良好な耐エロージョン性を有する。また、前記無電解めっき皮膜のP含有率が5重量%以上11重量%以下であるため、高いビッカース硬さを有しつつ、良好な耐き裂性(疲労強度)を実現できる。
また、前記無電解めっき皮膜は、膜厚など均一な皮膜形成が可能となるため、広範囲にわたってめっき皮膜の前記特性を均一に発揮できる。
【0018】
(10)幾つかの実施形態では、前記(9)の方法において、
前記無電解めっき皮膜が形成された前記羽根車から試験片を切り出し、該試験片を用いて前記無電解めっき皮膜の破断延性を評価するステップをさらに備える。
めっき処理条件、例えば、めっき処理時におけるめっき処理液に対する被めっき処理物の総面積や、めっき処理液の流れと被めっき処理物との相対速度等によって、めっき皮膜の硬さや延性が変化する。
前記(10)の方法によれば、無電解めっき皮膜が形成された羽根車から切り出した試験片を使って評価するので、実物の羽根車における無電解めっき皮膜の破断延性を正確に評価できる。
【0019】
(11)幾つかの実施形態では、前記(10)の方法において、
前記試験片は前記羽根車のハブのブレード根元部を前記ハブの背面側に投影した領域を前記ハブの背面から採取する。
羽根車には、回転によって発生する遠心力などに起因した応力が発生するが、図14にも示すように、羽根車のブレード根元部は最も大きな応力が発生する場所である。
前記構成(11)によれば、試験片を前記ハブのブレード根元部を前記ハブの背面側に投影した領域をハブの背面側から採取することで、最も厳しい応力条件下での破断延性を把握できる。
【0020】
(12)幾つかの実施形態では、前記(10)又は(11)の方法において、
前記破断延性が閾値を下回る場合、前記無電解めっき皮膜のめっき条件を変更するステップをさらに備える。
前記(12)の方法によれば、前記破断延性の結果に基き、前記めっき皮膜のめっき条件を変更することで、前記無電解めっき皮膜の破断延性を閾値以上とすることができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明の少なくとも一実施形態によれば、羽根車の耐エロージョン性と耐き裂性(疲労強度)とを同時に向上でき、これによって、羽根車及び該羽根車が設けられる機器類の長寿命化が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】一実施形態に係る過給機を備えたディーゼルエンジンの系統図である。
図2】一実施形態に係るコンプレッサ羽根車の模式的断面図である。
図3】無電解めっき皮膜のP含有率と耐エロージョン性との関係を示す線図である。
図4】無電解めっき皮膜のP含有率とLCF破断寿命との関係を示す線図である。
図5】LCF試験の繰り返し荷重の一例を示す線図である。
図6】無電解めっき皮膜の結晶構造と耐エロージョン性との関係を示す線図である。
図7】無電解めっき皮膜の結晶構造とLCF破断寿命との関係を示す線図である。
図8】無電解めっき皮膜の膜厚と耐エロージョン性との関係を示す線図である。
図9】無電解めっき皮膜の腐食試験結果を示す線図である。
図10】無電解めっき皮膜の破断延性を示す線図である。
図11】試験片に対する破断延性の試験方法を示す説明図である。
図12】一実施形態に係るコンプレッサ羽根車の製造方法を示す工程図である。
図13】コンプレッサ羽根車からの試験片の切り出し部を示し、(A)はコンプレッサ羽根車の側面視断面図であり、(B)は同じく正面図である。
図14】コンプレッサ羽根車に発生する歪み分布を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、添付図面を参照して本発明の幾つかの実施形態について説明する。ただし、実施形態として記載され又は図面に示されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は、本発明の範囲をこれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
例えば、「ある方向に」、「ある方向に沿って」、「平行」、「直交」、「中心」、「同心」或いは「同軸」等の相対的或いは絶対的な配置を表す表現は、厳密にそのような配置を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の角度や距離をもって相対的に変位している状態も表すものとする。
例えば、「同一」、「等しい」及び「均質」等の物事が等しい状態であることを表す表現は、厳密に等しい状態を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の差が存在している状態も表すものとする。
例えば、四角形状や円筒形状等の形状を表す表現は、幾何学的に厳密な意味での四角形状や円筒形状等の形状を表すのみならず、同じ効果が得られる範囲で、凹凸部や面取り部等を含む形状も表すものとする。
一方、一つの構成要素を「備える」、「具える」、「具備する」、「含む」、又は「有する」という表現は、他の構成要素の存在を除外する排他的な表現ではない。
【0024】
図14は、車両用内燃機関に設けられた過給機のコンプレッサ羽根車であって、従来のNi−P系めっき皮膜が施されたコンプレッサ羽根車100に生じるひずみ分布をハブ102の背面102aに投影した解析結果を示したものである。図14から、バブ102のうち、ブレード104の根元部を投影した領域102bに最も大きな歪み、即ち、応力が発生することがわかる。この応力は、主として、過給機の高速回転で発生する遠心力によって発生するものであり、これにNi−P系めっき皮膜とAl合金などで構成された母材との熱伸び差によって発生するものが加わっている。
【0025】
本発明の少なくとも一実施形態に係る過給機12は、図1に示すように、車両用内燃機関、例えば、EGRシステムを採用したディーゼルエンジン10に設けられる。
過給機12は、ディーゼルエンジン10の排気路20に設けられ、排気eによって回転する排気タービン14と、排気タービン14と回転軸13を介して連動するコンプレッサ16とを備えている。コンプレッサ16は吸気路22に設けられ、吸気aをディーゼルエンジン10に供給する。排気の一部はコンプレッサ16の上流側の吸気路22に循環される。
【0026】
例示的な実施形態として、図1に示すように、高圧EGRシステム24は、排気タービン14の上流で排気路20から分岐し、コンプレッサ16の上流側の吸気路22に接続された高圧EGR路26を有する。
高圧EGRシステム24において、ディーゼルエンジン10から排出された排気eの一部は、高圧EGR路26を介してディーゼルエンジン10の入口側で吸気路22に戻される。
例示的な構成では、高圧EGR路26にEGRクーラ28及びEGRバルブ30が設けられる。
【0027】
例示的な実施形態として、低圧EGRシステム32は、排気タービン14の下流側で排気路20から分岐し、コンプレッサ16の上流側の吸気路22に接続された低圧EGR路34を有する。
低圧EGRシステム32において、ディーゼルエンジン10から排出された排気eの一部は、低圧EGR路34を介してコンプレッサ16の入口側の吸気路22に戻される。
例示的な構成では、低圧EGR路34にEGRクーラ36及びEGRバルブ38が設けられる。
【0028】
例示的な実施形態として、コンプレッサ16の上流で吸気路22にエアクリーナ40が設けられ、コンプレッサ16の下流側で吸気路22にインタクーラ42が設けられる。
また、排気タービン14を跨ぐように、排気路20に排気バイパス路20aが接続されている。排気バイパス路20aにウェイストバルブ44が設けられ、ウェイストバルブ44の開度を調整するアクチュエータ44aが設けられる。
さらに、排気タービン14の下流側の排気路20に、排気中の粒子状物質を捕捉するDPFフィルタ48と、排気中のNOxをNOに酸化し、NOの酸化作用でDPFフィルタ48に捕捉された粒子状物質を燃焼させる酸化触媒46が設けられる。
【0029】
本発明の少なくとも一実施形態に係るコンプレッサは、例えば、図1に示す過給機12に設けられるコンプレッサ16である。コンプレッサ16は、コンプレッサハウジング(不図示)の内部で回転軸13の一端に設けられたコンプレッサ羽根車50を備えている。コンプレッサ羽根車50は、例えば、図13に示すような構成を有する。
コンプレッサ羽根車50は、図2に模式的に示すように、Al又はAl合金で構成される基材52の表面に、無電解めっき皮膜54が形成されている。無電解めっき皮膜54は、アモルファス構造を有し、かつ皮膜中におけるP含有率が5重量%以上11重量%以下のNi−P系合金で構成されている。
【0030】
無電解めっき皮膜54は、アモルファス構造を有するため、高強度となり、高い耐エロージョン性を発揮できると共に、P含有率が5重量%以上11重量%以下であるため、高いビッカース硬さを有しつつ、良好な耐き裂性(疲労強度)を実現できる、これにより、耐エロージョン性及び耐き裂性の両立が可能になる。
また、無電解めっき皮膜54は無電解めっき皮膜であるため、膜厚など均一な皮膜形成が可能となり、広範囲においてめっき皮膜の前記2つの特性を均一に発揮できる。
図2に示すように、吸気aには液滴Lなどの異物が混入している場合がある。例えば、図1に示す低圧EGRシステム32を採用する場合、水滴Lを含む排気eが低圧EGR路34を介して循環されて吸気aとともにコンプレッサに供給される。このように、吸気a中に異物(例えば、液滴L)が混ざっている場合においても、無電解めっき皮膜54は良好な耐エロージョン性及び耐き裂性を有するため、排気eに対して浸食されにくく、且つき裂の発生を抑制できる。
【0031】
図3は、無電解めっき皮膜54のP含有率と耐エロージョン性との関係を示す試験結果であり、図4は、無電解めっき皮膜54のP含有率と低サイクル疲労(LCF)試験の破断寿命との関係を示す試験結果である。低サイクル疲労(LCF)とは、塑性変形を与えるような大きな繰り返し荷重を部材に加えたときに該部材に発生する疲労破壊を言う。
図5は、LCF試験においてコンプレッサ羽根車に加えられる繰り返し荷重の一例を示し、横軸は時間を、縦軸は該コンプレッサ羽根車を備えた過給機の回転数を示している。該過給機の回転数の増減により無電解めっき皮膜54に加えられる繰り返し荷重が増減する。
【0032】
図3及び図4に示すように、P含有率が11重量%を超えると耐エロージョン性が急激に低下し、LCF破断寿命は、P含有率が5重量%未満であるか、又は11重量%を超えると低下する。
以上の結果を踏まえて、無電解めっき皮膜54では、耐エロージョン性及びLCF破断寿命を両立させる観点から、P含有率は5重量%以上11重量%以下としている。
【0033】
図6は、無電解めっき皮膜54の結晶構造の違いと耐エロージョン性との関係を示す試験結果であり、図7は、無電解めっき皮膜54の結晶構造の違いとLCF破断寿命との関係を示す試験結果である。これら図中の「結晶化」は、アモルファス構造を有する無電解めっき皮膜54を熱処理などによって結晶化させたことを示している。
図6及び図7に示すように、無電解めっき皮膜54が結晶化すると、耐エロージョン性及びLCF破断寿命が急激に低下する。
これらの結果を踏まえて、無電解めっき皮膜54は、耐エロージョン性及びLCF破断寿命を改善する観点から、アモルファス構造としている。
【0034】
例示的な実施形態では、無電解めっき皮膜54は、15μm以上60μm以下の膜厚を有する。無電解めっき皮膜54の膜厚が15μm未満では、耐エロージョン性及び耐き裂性を十分に発揮することが難しい場合がある。他方、60μmを超える膜厚としても、耐エロージョン性や耐き裂性の改善効果は限定的であり、逆に、めっき処理に要する時間が長くなり、高コストとなる。
従って、無電解めっき皮膜54の膜厚を15μm以上とすることで、耐エロージョン性及び耐き裂性を発揮でき、かつ60μm以下とすることで、めっき処理を低コスト化できる。
【0035】
図8は、無電解めっき皮膜54の膜厚と耐エロージョン性との関係を示す試験結果である。図9は、無電解めっき皮膜54の耐食性と膜厚との関係を示す試験結果である。
図8に示すように、無電解めっき皮膜54の膜厚が1〜2μm程度では耐エロージョン性を発揮できず、膜厚が15〜60μmの範囲では高い耐エロージョン性を発揮できる。図9中のラインA、B及びCは、腐食環境が異なる場合の無電解めっき皮膜54の腐食の進行度を示している。図9から、無電解めっき皮膜54の膜厚が15μm以上のとき、最も厳しい腐食環境でも要求寿命を満足できることがわかる。
【0036】
例示的な実施形態では、無電解めっき皮膜54は500HV以上700HV以下のビッカース硬さを有する。この場合、無電解めっき皮膜54は、500HV以上のビッカース硬さを有するため、耐エロージョン性を発揮でき、他方、700HV以下のビッカース硬さであるため、高い耐き裂性を実現できる。
【0037】
例示的な実施形態では、図10に示すように、前記構成を有する無電解めっき皮膜54の破断延性歪みが0.5%以上であると、LCF破断試験の破断寿命は、許容繰り返し回数をクリアーでき亀裂が発生しない。
これによって、前記構成を有する無電解めっき皮膜54は、耐疲労破断の高いめっき皮膜であるため、羽根車のき裂の発生を抑制でき、羽根車を長寿命化できる。
破断延性は、例えば、図11に示すような試験によって測定する。図11において、断面長方形の平板状の試験片Tの両端を、無電解めっき皮膜54が形成された面を下方にして支持台60の上に載置する。次に、圧子62を試験片Tの軸方向真ん中上面に当て下方へ荷重Fを付加し、所定の歪みを生じさせる。この操作をめっき皮膜が破断するまで荷重を変えて行う。
【0038】
前記構成のコンプレッサ羽根車50を高速回転する過給機12のコンプレッサ羽根車として用いることで、コンプレッサ羽根車50の耐エロージョン性を向上でき、かつき裂の進展を抑制でき、コンプレッサ16及びコンプレッサ16を備えた過給機12を長寿命化できる。
また、過給機12が低圧EGRシステム32を備えたディーゼルエンジン10に設けられ、コンプレッサ16に液滴を含みエロージョン性が高い排気を含む吸気aが導入される場合でも、高速回転に長期間耐えることができ、長寿命化できる。
【0039】
本発明の少なくとも一実施形態に係る回転機械の羽根車の製造方法は、図12に示すように、Al又はAl合金によって構成されるコンプレッサ羽根車50を覆うように、コンプレッサ羽根車50の表面に無電解めっき皮膜54を形成するステップ(S14)を備えている。
無電解めっき皮膜54は、アモルファス構造を有し、且つ、無電解めっき皮膜54中におけるP含有率が5重量%以上11重量%以下であるNi−P系合金である。
【0040】
前記方法により製造されたコンプレッサ羽根車50は、表面に無電解めっき皮膜54が形成される。無電解めっき皮膜54は、アモルファス構造を有するため、高強度となり、良好な耐エロージョン性を有する。また、P含有率が5重量%以上11重量%以下であるため、高いビッカース硬さを有しつつ、良好な耐き裂性(疲労強度)を有する。
また、無電解めっき皮膜54は、膜厚など均一な皮膜形成が可能となるため、めっき皮膜全域で高い耐エロージョン性及び耐き裂性(疲労強度)を均一に発揮できる。
【0041】
例示的な実施形態では、図12に示すように、ステップS14に先立って、無電解めっき皮膜54が形成されたコンプレッサ羽根車50から試験片を切り出し、該試験片を用いて無電解めっき皮膜54の破断延性を評価するステップS12をさらに備える。
即ち、図13に示すように、コンプレッサ羽根車50から試験片Tを切り出し、試験片Tを用いて破断延性を測定する。
めっき処理条件、例えば、めっき処理時におけるめっき処理液に対する被めっき処理物の総面積や、めっき処理液の流れと被めっき処理物との相対速度等によって、めっき皮膜の硬さや延性が変化する。
無電解めっき皮膜54が形成されたコンプレッサ羽根車50から切り出した試験片Tを使って破断延性を評価するので、実際に製造されたコンプレッサ羽根車50における無電解めっき皮膜54の破断延性を正確に把握できる。
【0042】
例示的な実施形態では、図13に示すように、試験片Tはコンプレッサ羽根車50のハブ56のブレード根元部をハブ56の背面56a側に投影した領域56bをハブ56の背面56aから採取する。
コンプレッサ羽根車50には、回転によって発生する遠心力などに起因した応力が発生するが、図14にも示すように、ハブ56のブレード根元部は最も大きな応力が発生する場所である。
試験片Tを前記領域56bから採取することで、最も厳しい応力条件下での破断延性を把握できる。
【0043】
例示的な実施形態では、図12に示すように、測定した破断延性が閾値を下回る場合(S16)、無電解めっき皮膜54を形成しためっき条件(例えば、めっき処理液の流れと被めっき処理物との相対速度、めっき時間等)を変更するステップS18をさらに備えている。
これによって、破断延性の結果に基き、無電解めっき皮膜54のめっき条件を変更することで、無電解めっき皮膜54の破断延性を閾値以上とすることができる。
【0044】
例示的な実施形態では、図12に示すように、ステップS12に先立って切り出した試験片Tの前処理S10を行う。
前処理S10は、例えば、試験片Tの表面に付着した油脂類をアルカリ液などを使って除去するアルカリ脱脂ステップS10aと、脱脂後の試験片Tに対し、酸液又はアルカリ液を用いて表面に形成された不動態膜(アルミナ膜)を除去するエッチング処理S10bと、エッチング処理後、酸などに溶解しにくいCやSiが黒い微粉末状となって残るスマットを除去するスマット除去ステップS10cとを行う。
【0045】
めっき皮膜形成ステップS14では、例示的な実施形態として、まず、試験片Tの表面にZnをめっきし、次に、Ni−P系合金をZnと置換させて、無電解めっき皮膜54を形成する。
例示的な実施形態では、めっき膜厚形成ステップS14の後、試験片Tの表面仕上げを行うステップS20及び仕上げ後の試験片Tを検査する検査ステップS22を行う。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明の少なくとも一実施形態によれば、回転機械の羽根車に、良好な耐エロージョン性と良好な耐き裂性(疲労強度)とを両立できる無電解めっき皮膜を形成でき、これによって、該羽根車及び該羽根車を備えた機器類を長寿命化できる。
【符号の説明】
【0047】
10 ディーゼルエンジン
12 過給機
13 回転軸
14 排気タービン
16 コンプレッサ
20 排気路
22 吸気路
24 高圧EGRシステム
26 高圧EGR路
28、36 EGRクーラ
30、38 EGRバルブ
32 低圧EGRシステム
34 低圧EGR路
40 エアクリーナ
42 インタクーラ
44 ウェイストバルブ
44a アクチュエータ
46 酸化触媒
48 DPFフィルタ
50、100 コンプレッサ羽根車
52 基材
54 無電解めっき皮膜
56、102 ハブ
56a、102a 背面
58、104 ブレード
60 支持台
62 圧子
C き裂
S 歪み
a 吸気
e 排気
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14