【文献】
ESCUTI, Michael J et al.,Geometric-Phase Holograms,OPTICS & PHOTONICS NEWS,米国,WILLS Stewart et al.,2016年 2月,p.24-29
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記光学素子は、前記反射素子の下流側に配され、互いに整合面で整合し、互いの屈折率が予め定められた範囲で一致する複数の光学部材からなる反射型光学系であって、入射光の一部を透過し、他の一部を反射する曲面を有する反射型光学系を有し、
前記反射型光学系の下流側に配された四分の一波長板と、
前記四分の一波長板の下流側に配され、第1の直線偏光を反射し、第2の直線偏光を透過する反射型偏光板と
をさらに備え、
前記GPH素子は少なくとも前記反射型光学系の波長分散性を補償する前記逆分散性を有する請求項1に記載の光学装置。
前記外光について前記反射素子の上流側に配され、曲面を有し、前記曲面において入射光の一部を透過し、他の一部を反射する曲面ハーフミラーをさらに備える請求項1に記載の光学装置。
前記反射素子は、前記画像光の第1の偏光成分を反射するとともに、前記外光の第2の偏光成分を透過する偏光ビームスプリッタである請求項1から3のいずれか1項に記載の光学装置。
前記GPH素子は、前記画像光について前記反射素子よりも上流側に配された前記画像光学系の少なくとも一部の波長分散性を補償する前記逆分散性を有する請求項1から6のいずれか1項に記載の光学装置。
前記画像光学系は、前記GPH素子に重ねて配され、入射光のうちの特定の波長帯域の偏光状態を変調し、他の波長帯域の偏光状態を維持する偏光変換素子をさらに有する請求項1から7のいずれか1項に記載の光学装置。
前記偏光変換素子と前記GPH素子との間に配され、入射光の偏光状態を維持して出力する第1の状態と、入射光の偏光状態を反転した偏光状態に変換して出力する第2の状態とを切り替える偏光切替素子をさらに有する請求項8に記載の光学装置。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、発明の実施の形態を通じて本発明を説明するが、以下の実施形態は請求の範囲にかかる発明を限定するものではない。また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0008】
図1は、本実施形態に係る光学装置10の光学的な構成を示す概念図である。光学装置10は、画像光50を現実世界の外光40に重畳させて使用者の眼30に導く。光学装置10は、例えば視覚の拡張現実(AR)に用いられる。
【0009】
光学装置10は、画像光50を外光40に重畳させる画像重畳部100と、画像重畳部100よりも、画像光50の進行方向の下流側に配された光学系101とを備える。画像重畳部100は、上流側から順に、プロジェクタ110、GPH素子130および反射素子200を有する。光学系101は、上流側から順に、反射型ダブレット120、λ/4板300、反射型偏光板310および偏光板320を有する。
【0010】
反射素子200は、位相差板210と、位相差板210の下流側に重ねられた反射型偏光板220を有する。また、反射型ダブレット120は、互いに整合する曲面122で結合された一対のダブレット片121、123を有する。
【0011】
図2から
図4は、光学装置10を用いて使用者の眼30に映る像を説明する概略図である。まず、
図2は、外光40の一部である、現実の物体42の物体像54の一例を示す。物体像54は、光学装置10を用いない場合に使用者の眼30に映る像であるともいえる。
【0012】
図3は、画像光50の一例を示す。画像光50はプロジェクタ110で生成された画像、いわば仮想の像である。画像光50は静止画でも動画でもよいし、絵、写真、文字等のいかなる視覚的なコンテンツであってもよい。
【0013】
図4は、光学装置10により使用者の眼30に導かれる重畳画像56の一例を示す。重畳画像56においては、物体像54に画像光50による画像が重畳されている。これにより、視覚の拡張現実が実現されている。この場合に、物体像54は現実の物体42の像なので、光学装置10を用いない場合と同じ状態で使用者の眼30に導かれることが好ましい。すなわち、光学装置10を通しても、物体像54は光学的な拡大、縮小、歪等を受けないことが好ましい。
【0014】
図1の光学装置10が重畳画像56を使用者の眼30に導く手段についてさらに説明する。
図1には画像光50および外光40の偏光方向が併記されている。
図1に示す偏光方向は、紙面の上下関係を維持した状態で、光線が向かって来る方向から見た場合の電場の振動の軌跡を示している。
【0015】
外光40は非偏光である場合が多い。非偏光の外光40が反射型偏光板220に入射すると、反射型偏光板220は、互いに直交する直線偏光のうちの一方の直線偏光を反射し、他方の直線偏光を透過する。
図1の例において、反射型偏光板220で鉛直方向の直線偏光が反射し、水平方向の直線偏光が透過している。さらに、反射型偏光板220の反射面が外光40から眼30へ向かう直線に対して45°に傾いている。よって、鉛直方向の直線偏光は外光40から眼30へ向かう直線に対して直交する方向に反射される。
【0016】
反射型偏光板220を透過した外光40は、位相差板210で偏光方向の変調を受ける。
図1では位相差板210はλ/4板である。よって、位相差板210で水平方向の直線偏光から左回り(反時計回り、という場合もある)の円偏光に変調される。左回り円偏光の外光40は、反射型ダブレット120に入射する。
【0017】
反射型ダブレット120の一対のダブレット片121、123の間の曲面122は、偏光方向によらず、入射する光の強度の半分を反射し、残りの半分を透過するハーフミラーの機能を有する。よって、反射型ダブレット120に入射した左回り円偏光の外光40は、偏光の状態を維持して、半分の強度で透過する。残りの半分は上流側に反射されるので、眼30には導かれない。
【0018】
一対のダブレット片121、123は、互いの屈折率が予め定められた範囲で一致する。例えば、一対のダブレット片121、123は同じ材料で形成され、不純物等を要因とする公差の範囲で互いの屈折率が一致する。よって、曲面122を透過する前後で屈折が起こらないから、外光40は反射型ダブレット120からレンズ作用を受けない。すなわち、外光40は反射型ダブレット120で、光学的な拡大、縮小、歪等を受けない。
【0019】
反射型ダブレット120を透過した外光40は、λ/4板300に入射する。λ/4板300により、左回り円偏光の外光40は水平方向の直線偏光の直線偏光に変調される。
【0020】
水平方向の直線偏光の外光40は、反射型偏光板310に入射する。反射型偏光板310は、互いに直交する直線偏光のうちの一方の直線偏光を反射し、他方の直線偏光を透過する。
図1の例において、反射型偏光板310は垂直方向の直線偏光を反射し、水平方向の直線偏光を透過する。よって、水平方向の直線偏光の外光40は偏光方向を維持して反射型偏光板310を透過する。
【0021】
反射型偏光板310を透過した外光40は偏光板320に入射する。偏光板320は互いに直交する直線偏光の一方を吸収して、他方を透過する。
図1の例において、偏光板320は鉛直方向の直線偏光を吸収して、水平方向の直線偏光を透過する。よって、水平方向の直線偏光の外光40は偏光板320を透過して眼30に入射する。
【0022】
画像光50はプロジェクタ110で生成される。プロジェクタ110は例えば、光源と液晶パネル等から構成され、赤色、緑色および青色の3色からなるカラーの画像光50を出力する。画像光50の各色は時分割されて出力されてもよいし、互いに重畳されたり、画素単位で空間分割されて同時に出力されてもよい。さらに、プロジェクタ110は画像光50を左回りの円偏光で出力する。
【0023】
プロジェクタ110から出力された画像光50はGPH素子130に入射する。GPH素子130は、入射された円偏光の偏光方向を反転しつつ、回折現象を用いて、入射光にレンズ作用を及ぼす。よって、GPH素子130に入射した左回り円偏光の画像光50は、レンズ作用を受けつつ右回り(時計回りということがある)の円偏光に変調される。GPH素子130についてはさらに後述する。
【0024】
GPH素子130を透過した画像光50は、反射素子200の位相差板210に入射する。位相差板210はλ/4板の機能を有するので、右回り円偏光の画像光50は垂直方向の直線偏光に変調される。垂直方向の直線偏光の画像光50は反射型偏光板220で反射される。これにより、画像光50は眼30へ方向付けられ、結果として、外光40に重畳されることになる。さらに、反射された画像光50は再び位相差板210に入射するので、垂直方向の直線偏光の画像光50は右回り円偏光に変調される。
【0025】
位相差板210を透過した画像光50は、反射型ダブレット120に入射する。外光40と同様に、画像光50の半分の強度の部分が偏光状態に変調を受けず、かつ、拡大、縮小、歪等の光学的な影響も受けずに反射型ダブレット120を透過する。残りの半分は上流側に反射されるので、眼30には導かれない。
【0026】
反射型ダブレット120を透過した画像光50は、λ/4板300に入射する。λ/4板300に入射する画像光50は右回り円偏光なので、λ/4板300で鉛直方向の直線偏光に変調される。
【0027】
鉛直方向の直線偏光となった画像光50は反射型偏光板310に入射し、反射型偏光板310で反射される。反射型偏光板310で反射された画像光50は再びλ/4板300に入射する。反射型偏光板310で反射された画像光50は鉛直方向の直線偏光なので、λ/4板300で右回り円偏光に変調される。
【0028】
λ/4板300を透過した画像光50は、再び反射型ダブレット120に入射する。反射型ダブレット120の曲面122で画像光50の半分の強度の部分が下流側に反射される。この場合に、曲面122で反射するので画像光50はレンズ作用を受ける。この観点から、反射型ダブレット120は、少なくとも画像光50に対してレンズパワーを有する光学素子の一例となっている。
図1の例で、反射型ダブレット120は画像光50の反射光を平行光にしている。なお、反射によって円偏光の向きが左回りとなる。残りの半分は反射型ダブレット120を透過するので眼30には導かれない。
【0029】
反射型ダブレット120で反射された画像光50は再びλ/4板300に入射する。画像光50は左回り円偏光なので、λ/4板300を透過するときに水平方向の直線偏光に変調される。画像光50は再び反射型偏光板310に入射するが、今度は画像光50が水平方向の直線偏光であるので、反射型偏光板310を透過する。さらに、偏光板320も透過して、眼30に導かれる。
【0030】
図5は、
図1のGPH素子130を説明するために
図1の光学装置10と比較される比較例としての光学装置12の概念図である。光学装置12は、画像重畳部102にGPH素子130が設けられていない点を除いて光学装置10と光学的な構成は同一である。光学装置12において光学装置10と同一の構成には同じ参照番号を付して説明を省略する。
【0031】
画像光50はプロジェクタ110などの画像生成部により生成される。ここで、プロジェクタ110などの画像生成部にはレンズなどの光学部材が配されるので、画像光50はこれらの光学部材を透過や反射する過程で屈折が生じ、屈折に伴う屈折角の波長分散が表れる。
図5の例では、画像光50が反射型ダブレット120を透過してから反射して出射する過程で、当該波長分散により、反射型ダブレット120からの出射位置および出射角度が赤色R、緑色Gおよび青色Rでそれぞれ異なる。したがって、拡大虚像位置では大きな色収差となって、使用者に画像光50の色のにじみとして見えてしまうという不具合がある。
【0032】
外光40も反射型ダブレット120を透過するときにも波長分散が表れて、色ごとに出射位置は少し異なる。しかしながら、出射角度は同じであるし、拡大されない実像なので、使用者に外光40の色収差はほとんど感じられない。
【0033】
画像光50の色収差に対して、例えば、反射型ダブレット120のダブレット片121とダブレット片123とで屈折率を変えることで画像光50の波長分散性を抑える、いわゆる色消しレンズにすることが考えられる。しかしながら、その場合には、反射型ダブレット120は透過光に対してもレンズパワーを有することになる。したがって、外光40が反射型ダブレット120を透過するときに拡大、縮小、歪等の光学的な影響を受けるので、現実世界の像がぼやけたり、光学装置12を用いない場合と見た目の大きさが異なるなどの不自然さが生じる。
【0034】
そこで、光学装置10ではGPH素子130を用いる。これにより、少なくとも反射型ダブレット120で生じる画像光50の波長分散性を補償する。
【0035】
図6は、GPH素子130の波長分散性を説明する図である。GPH素子130のGPHはGeometric Phase Hologramの略であって、GPH素子130は、重合性液晶を特定のパターンに配向させたものである。これにより、
図6に示すように、円偏光が入射した場合に、入射した円偏光の偏光状態を反転した円偏光の1次回折光を特定の方向に出力する。
【0036】
この場合に各々の領域(図では領域XとYを例示した)の1次回折光が集光するように配向パターンを形成すれば、GPH素子130に凸レンズの機能を持たせることができる。より具体的には、同心円状であって、外側に行くほどピッチを小さくした配向パターンを設けることにより、GPH素子130が凸レンズとして機能する。さらに、配向のパターンによって、凸レンズ以外にも凹レンズなど所望のレンズパワーを持たせることができる。
【0037】
ここで、GPH素子130は回折現象を用いているので、屈折とは逆の波長分散が表れる。
図6に示した例では、緑色Gの集光点に対して赤色RはGPH素子130に近い側に集光し、青色Bは遠い側に集光する。
【0038】
したがって、光学装置10において、画像光50は入射するが外光40は入射しない位置にGPH素子130を配する。これにより、画像光50に対して生じる反射型ダブレット120の波長分散性を、それと逆の逆分散性を有するGPH素子130で予め逆の波長分散を生じさせることで補償する。さらにGPH素子130にレンズパワーを持たせることにより、光学装置10のレンズとしても用いることができる。
【0039】
なお、GPH素子130が反射型ダブレット120の波長分散性を補償するような逆分散性を有する例を説明した。これに代えて、GPH素子130で、光学装置10において反射型ダブレット120を含む光学系の全体が有する波長分散性か、または、反射型ダブレット120とは異なる光学素子の波長分散性を補償してもよい。この場合に、GPH素子130は、画像光50について反射素子200よりも上流側に配された光学系の少なくとも一部、例えばプロジェクタ110の直後にプロジェクタ110からの出力光を光学的に調整するレンズ、の波長分散性を補償してもよい。
【0040】
なお、GPH素子130には以下の光学的性質がある。右回り円偏光が入射したときに、出射される左回り円偏光の1次の回折角がθであるGPH素子130に対して、左回り円偏光が入射したときの、出射される右回り円偏光の1次の回折角は−θである。
【0041】
図7は、GPHユニット140を説明する図である。上記のGPH素子130において、材料やレンズパワー等が決まると、波長分散の特性がほぼ決まる。よって、単一のGPH素子130では所望の逆分散性を得られない場合がある。そこで、GPHユニット140では複数のGPH素子と偏光変換素子を組み合わせることで、所望の逆分散性を得る。
【0042】
GPHユニット140において、GPH素子142、144の間に偏光変換素子160が配される。偏光変換素子160は、入射光のうちの特定の帯域の偏光状態は変調するが、特定の帯域以外の偏光状態を維持する。
図7の例において、偏光変換素子160は赤色Rの帯域の偏光方向を反転する。一方、偏光変換素子160は、緑色Gおよび青色Bの帯域の偏光方向は維持する、すなわち、偏光方向を反転させない。
【0043】
図7において各光線の矢印の近くに記載された0、θ、d等は光線が進む角度を示している。各光線の矢印の近くのCはその光線が右回り(時計回り)円偏光であることを示し、Aはその光線が左回り(反時計回り)円偏光であることを示す。
【0044】
各GPH素子の下方に示されたθ等は、対応するGPH素子の左回り円偏光に対する回折角であり、波長分散を考慮したものが示されている。GPH素子142については、赤色Rの回折角がθであり、緑色Gの回折角がθ−dであり、青色Bの回折角がθ−2dである。また、GPH素子144はGPH素子142と光学的に同じ性質を有する。
【0045】
GPH素子142、144と偏光変換素子160とを
図7のように組み合わせると、GPHユニット140に角度0(法線方向)で入射した赤色Rの光線は、GPH素子142とGPH素子144の両方でθだけ回折し、結果として2θ方向に回折される。一方、0度で入射した緑色Gの光線はGPH素子142でθ−d方向に回折するが、GPH素子144に入射するときにはGPH素子142に入射したときと円偏光の回転方向が反対なので、GPH素子144での回折が−(θ−d)となり、結果として0度方向に出力される。0度で入射した青色Bの光線も同様に0度方向に出力される。このように、GPHユニット140は、同じ方向から入射する3色の光のうちいずれか1色の光線の方向を異なる方向に向けることができる。
【0046】
図8は、他のGPHユニット154を説明する図である。
図8に用いられている記号が示す内容は
図7に用いられているものと同じである。
【0047】
GPHユニット154において、GPH素子150、152の間に偏光変換素子164が配される。
図8の例において、偏光変換素子164は青色Bの帯域の偏光方向を反転する。一方、偏光変換素子164は、赤色Rおよび緑色Gの帯域の偏光方向は維持する、すなわち、偏光方向を反転させない。
【0048】
GPH素子150、152と偏光変換素子164とを
図8のように組み合わせると、GPHユニット140に角度2θで入射した赤色Rの光線は、GPH素子150でθ+2dだけ回折するが、GPH素子152に入射するときはGPH素子150に入射したときと円偏光の回転方向が反対なので、GPH素子152での回折が−(θ+2d)となり、結果として2θ方向に出力される。2θで入射した緑色Gの光線も同様に2θ方向に出力される。一方、0度で入射した青色Gの光線はGPH素子142でθだけ回折し、さらにGPH素子144でθだけ回折し、結果として2θ方向に出力される。このように、GPHユニット140は、異なる方向から入射する3色の光線の方向を同じ方向に向けることができる。
【0049】
上記の通り、GPHユニットにおけるGPH素子と偏光変換素子の組み合わせにより、GPHユニットの全体として、GPH素子単体に比較して赤色Rの回折角を小さくして、青色Gの回折角を大きくすれば、逆分散性を小さくすることができる。一方、GPHユニットの全体として、GPH素子単体に比較して赤色Rの回折角を大きくして、青色Gの回折角を小さくすれば、逆分散性を大きくすることができる。
【0050】
図9はさらに他のGPHユニット156を説明する図である。
図9において
図7および
図8と同じ参照番号を付したものは同じ光学的特性を有する。また、
図9に用いられている記号が示す内容は
図7に用いられているものと同じである。
【0051】
GPHユニット156は、6つのGPH素子142、144、146、148、150、152と、3つの偏光変換素子160、162、164を有する。GPH素子142、144の間に偏光変換素子160が配される。同様に、GPH素子146、148の間に偏光変換素子162が配され、GPH素子150、152の間に偏光変換素子164が配される。
【0052】
偏光変換素子162は緑色Gの帯域の偏光方向を反転する一方、赤色Rおよび青色Bの帯域の偏光方向は維持する。偏光変換素子160、164は
図7および
図8に説明したものと同じ光学的性質を有する。また、偏光変換素子の入力側に配されたGPH素子と出力側に配されたGPH素子との光学的特性は同一となっている。
【0053】
GPH素子142、144、146、148、150、152と偏光変換素子160、162、164とを
図9のように組み合わせれば、GPHユニット140に角度0(法線方向)で入射した赤色R、緑色Gおよび青色Bの光線がすべて2θで出射される。よって、
図9のGPHユニット156は逆分散性を有しない。さらに、各GPH素子における回折の角度をθから変えることで、所望の逆分散性を有するGPHユニット156を構成することができる。さらに、バンドパスフィルタを用いて赤色R、緑色Gおよび青色Bのそれぞれの色における狭い波長帯域を取り出してGPHユニット156と組み合わせることで所望の逆分散性を得るようにしてもよい。
【0054】
図10は、他の光学装置14を示す。光学装置14は、外光調整部340を設けた点を除いて光学装置10と同じ構成を有する。光学装置14において光学装置10と同じ構成には同じ参照番号を付して説明を省略する。
【0055】
外光調整部340は、外光40について反射素子200よりも上流側に配される。外光調整部340は透過率を調整することで、透過する外光40の強度を調整可能である。外光調整部340の一例は液晶シャッタである。
【0056】
ここで、外光調整部340が液晶シャッタのように偏光を利用して透過率を調整するものである場合には、外光調整部340から出力される外光40の偏光方向を、反射素子200を透過する偏光方向にすることが好ましい。これにより、外光調整部340から出力される外光40を効率よく用いることができる。
【0057】
なお、外光調整部340は液晶シャッタに代えて、偏光板を用いてもよい。この場合に偏光板の光学軸の方向に従って、透過する外光40のうち、反射素子200を透過する直線偏光成分の大きさが決まる。よって、偏光板と反射素子200との協働により外光40の強度を調整することができる。
【0058】
図11は、他の画像重畳部104を示す。画像重畳部104において、画像重畳部100と同じ構成には同じ参照番号を付して説明を省略する。画像重畳部104は、バックライト170と、偏光ビームスプリッタ172と、液晶パネル174と、λ/4板176と、GPH素子130と、反射素子200とを有する。
【0059】
バックライト170は時分割で非偏光の赤色、緑色および青色の光を出射する。偏光ビームスプリッタ172は、バックライトから入射した光のうちS偏光を反射して液晶パネル174へと方向付ける。
【0060】
液晶パネル174は2次元に配された複数の画素を有する。画素の各々は、偏光を利用して、入射光を反射する状態と吸収する状態とを切替可能である。これらの画素からの出力によりカラーの画像光50を得ることができる。液晶パネル174がデジタル階調方式の場合には、入射光を偏光方向を90°回転させている時間と回転させていない時間のデューティ比で階調を表現し、画像光50を水平方向の直線偏光で出力する。一方、液晶パネル174がアナログ階調方式の場合には、入射光の偏光方向を階調に合せた角度で回転した画像光50を出力する。
【0061】
画像光50のうちの水平方向の直線偏光の成分は偏光ビームスプリッタ172を透過して、λ/4板176に入射する。λ/4板176により画像光50は水平方向の直線偏光から左回り円偏光に変調されて、GPH素子130に入射する。
【0062】
図12は、さらに他の画像重畳部105を示す。画像重畳部105において、画像重畳部100、104と同じ構成には同じ参照番号を付して説明を省略する。画像重畳部105は、バックライト170と、偏光ビームスプリッタ172と、液晶パネル174と、λ/4板173、176とを有する。
【0063】
バックライト170は、画像重畳部104のバックライト170とは異なり、偏光ビームスプリッタ172の反対側に配される。偏光ビームスプリッタ172は、バックライトから入射した光のうち水平方向の直線偏光の成分を透過して液晶パネル174へ入射させる。
【0064】
液晶パネル174は、
図11の場合と同様に、入射光を反射する場合に偏光方向を回転した画像光50を出力する。画像光50のうち垂直方向の直線偏光の成分は偏光ビームスプリッタ172で反射して、λ/4板176に入射する。垂直方向の直線偏光の画像光50はλ/4板176で右回り円偏光に変調されて、反射型ダブレット120に入射する。
【0065】
一方、外光40のうち水平方向の直線偏光の成分は偏光ビームスプリッタ172を透過して、λ/4に入射する。水平方向の直線偏光の外光40はλ/4板176で左回り円偏光に変調されて、反射型ダブレット120に入射する。これにより、外光40に画像光50が重畳される。GPH素子130は、λ/4板173と液晶パネル174との間に配される。
【0066】
図13は、さらに他の画像重畳部106を示す。画像重畳部106において、画像重畳部100と同じ構成には同じ参照番号を付して説明を省略する。画像重畳部106は、プロジェクタ110、GPH素子130および反射素子200の組と、これと対称に配された、プロジェクタ112、GPH素子132および反射素子202の組とを有する。
【0067】
プロジェクタ112、GPH素子132および反射素子202の組は、画像光52を生成して外光40に重畳する。プロジェクタ112、GPH素子132および反射素子202の各々は、プロジェクタ110、GPH素子130および反射素子200と同じ機能を有するので説明を省略する。
【0068】
図14は、さらに他の画像重畳部107を示す。画像重畳部107において、画像重畳部100と同じ構成には同じ参照番号を付して説明を省略する。画像重畳部107は、プロジェクタ110、ミラー180および反射素子200の組と、プロジェクタ112、ミラー182および反射素子202の組とを有する。GPH素子130は上記二つの組で共用されている。
【0069】
プロジェクタ110からの画像光50は、ミラー180および反射素子200で反射されて、外光40に重畳される。同様に、プロジェクタ112で画像光52が生成され、ミラー182および反射素子202で反射されて、外光40に重畳される。
【0070】
なお、画像光50の光路は画像光52光と干渉しない光路にすることが好ましい。光路が干渉する場合には、ミラー182に代えて偏光状態によらず所望の比率で透過および反射するハーフミラーを設けてもよい。さらに、プロジェクタ、ミラーおよび反射素子の組の数は2つに限られず、3つ以上であってもよい。
【0071】
図15は、さらに他の画像重畳部108を示す。画像重畳部108において、画像重畳部100と同じ構成には同じ参照番号を付して説明を省略する。画像重畳部108は、プロジェクタ110とGPH素子130との間に、正立光学系190を有する。
【0072】
正立光学系190は、例えば正立結像レンズ、拡大光学系を有する。正立結像レンズは、SELFOC(登録商標)レンズや、複数枚のレンズアレイで構成された正立結像レンズ等である。拡大光学系はフレネルレンズ等である。なお、正立光学系190は、
図11から
図15のいずれの画像重畳部104等に用いられてもよい。
【0073】
図16は、他の光学装置16を示す。光学装置16において光学装置10と同じ構成には同じ参照番号を付して説明を省略する。
【0074】
光学装置16において、反射素子200の傾いている方向は光学装置10とは逆である。これにより、光学装置16において、反射素子200は画像光50を、外光40の上流側に反射する。
【0075】
外光40について反射素子200の上流側には、曲面ハーフミラー330が配される。曲面ハーフミラー330は曲面332を有し、偏光状態によらず入射光の半分の強度の部分を透過し、他の半分を曲面332で反射する。これにより、画像光50の半分の強度の部分を反射して曲面332でレンズ作用を施す。
図16の例では、反射した画像光50を平行光にしている。
【0076】
一方、外光40のうちの半分の強度の部分が、曲面ハーフミラー330を透過するが、曲面332でのレンズ作用を受けない。これにより、画像光50が外光40に重畳されて使用者の眼に導かれる。
【0077】
以上、いずれの実施形態においても、反射素子200は互いに直交する直線偏光の一方を反射して他方を透過する。これに代えて、偏光状態によらず入射光の半分の強度の部分を反射して残りの部分を透過するハーフミラーを用いてもよい。さらに、上記いずれの実施形態におけるハーフミラーも、反射と透過の比率が1:1であるが、これに代えて、任意の比率であってもよい。
【0078】
なお、上記いずれの実施形態においても反射素子200は外光40および画像光50の入射方向に対して45°に傾いているが、傾きの角度は45°以外であってもよい。また、上記いずれの実施形態においても、偏光状態を直線偏光と円偏光であるとして説明したが、設計公差等の理由により楕円偏光になる場合にも適用できる。
【0079】
なお、上記いずれの実施形態においても、反射型ダブレット120および曲面ハーフミラー330は画像光50を平行光にするレンズパワーを有する。しかしながら、反射型ダブレット120および曲面ハーフミラー330は他の大きさのレンズパワーを有していてもよい。
【0080】
さらに、上記いずれの実施形態においても、GPH素子130等と反射素子200等との間に、凸レンズなど他の光学的素子が配されていてもよい。
【0081】
上記いずれの実施形態においても、反射型ダブレット120に代えて、三つ以上の光学要素からなり、入射光の一部を透過し、他の一部を反射する曲面を有する反射型光学系が用いられてもよい。その場合に、光学要素は互いに整合面で整合しており、かつ、互いの屈折率が予め定められた範囲で一致、例えば等しい、ことが好ましい。または、反射型ダブレット120に代えて、互いの整合面が平面であり、整合していない方の面が互いに同じ曲率を有する反射型ダブレットを用いてもよい。
【0082】
図17は、本実施形態の光学装置10を利用した眼鏡型表示装置400の一例を示す。眼鏡型表示装置400は、光学装置10及び眼鏡型のフレーム402を備え、フレーム402により眼鏡と同様の形態で観察者に装着されてよい。
【0083】
眼鏡型表示装置400は、眼鏡の眼の位置に対応する部分の上部にプロジェクタ114、116を備え、プロジェクタ114、116は下方向に向けて左眼用及び右眼用の画像光を出力する。また、眼鏡型表示装置400の右眼側のリム404及び左眼側のリム406の内部に、反射素子204、206を含む光学装置10のプロジェクタ以外の部材が配される。これらにより、プロジェクタ114、116から出力された画像光を使用者のそれぞれの眼に導く。眼鏡型表示装置400は、更にレンズ等のその他の光学系を備えてもよい。
【0084】
眼鏡型表示装置400はプロジェクタ114、116を他の部分に設けてもよい。例えば、眼鏡型表示装置400はプロジェクタ114、116を、眼に対応する部分の下側、内側、又は、外側に設けてよい。また、図示しないが、光学装置10等及び眼鏡型表示装置400は、画像重畳部100等を制御するプロセッサ、及び、これらに電力を供給するバッテリー等の必要な要素を含んでよい。なお、眼鏡型表示装置400において左右の一方の眼に対して画像を重畳させる反射素子等を設け、他方に対しては画像を重畳させる反射素子等を設けない構成としてもよい。
【0085】
図18は、さらに他の光学装置18を示す。光学装置18は導光板352を利用して画像光50を現実世界の外光40に重畳させて使用者の眼30に導く。
【0086】
光学装置18はプロジェクタ110と、GPH素子130と、レンズ350と、導光板352と、偏向素子354、356とを有する。プロジェクタ110は画像光50を生成して拡散光として出射する。レンズ350は画像光50を眼30に集光させる。
【0087】
導光板352にはレンズ350から出射した画像光50が入射する。導光板352には偏向素子354が取り付けられている。偏向素子354は、導光板352に入射した画像光50の方向を、導光板352の中で全反射が起きるような方向へ偏向する。ここで、導光板352は入射した光を内部で全反射させて伝搬させるので、反射素子の一例になっているといえる。偏向素子354の例は、ミラー、ホログラム、回折素子、多層積層構造を有するハーフミラー等である。
【0088】
導光板352にはさらに偏向素子356が取り付けられている。偏向素子356は、導光板352の内部を全反射して偏向素子356に到達した画像光50の方向を眼30の方向へ偏向する。偏向素子356の例は、ホログラム、回折素子、多層積層構造を有するハーフミラー等である。
【0089】
以上の構成により、光学装置18において画像光50が外光40に重畳されて、使用者の眼30に導かれる。ここで、画像光50はプロジェクタ110およびレンズ350などにおいて屈折に伴う屈折角の波長分散が表れるが、本実施形態においてはGPH素子130を設けることにより、この波長分散性を補償する。これにより、導光板352を利用した光学装置18においても、使用者が感じる画像光50の色のにじみを抑えることができる。
【0090】
なお、導光板352を用いる光学装置18は画像の重畳において偏光を用いなくてもよい。よって、
図18においても偏光の方向の記載を省略した。また、光学装置18も左右の一方の眼に対して画像を重畳させる導光板等を設け、他方に対しては画像を重畳させる導光板等を設けない構成としてもよい。
【0091】
図19および
図20は、
図7のGPHユニット140の変形例であるGPHユニット157を説明する図である。GPHユニット157においてGPHユニット140と同じ構成には同じ参照番号を付して説明を省略する。
【0092】
GPHユニット157は、偏光変換素子160とGPH素子144との間に偏光切替素子165が配されている点が、GPHユニット140と異なる。偏光切替素子165は、光の波長に関わらず、入射光の偏光状態を維持して出力する第1の状態と、入射光の偏光状態を反転した偏光状態に変換して出力する第2の状態とを切り替え可能である。いずれの状態においても、偏光切替素子165は入射光の光線方向は偏向せずに、すなわち、そのまま維持して出力する。偏光切替素子165の一例として、電圧によって第1の状態と第2の状態とが切り替わる液晶パネルを、互いの遅相軸が直交する向きでλ/4板で挟んだものが挙げられる。
【0093】
図19は、偏光切替素子165が第1の状態にあり、それによってGPHユニット157が第1の状態にあることを示す。偏光切替素子165が上記の例のように液晶パネルを含む場合には、例えば第1の状態は当該液晶パネルに電圧が加えられている状態である。
【0094】
第1の状態において、偏光切替素子165は入射光の偏光状態を維持して出力する。よって、第1の状態において、GPHユニット157は偏光切替素子165の存在にも関わらずGPHユニット140と同じ光学的機能を有する。
【0095】
図20は、偏光切替素子165が第2の状態にあり、それによってGPHユニット157が第2の状態にあることを示す。偏光切替素子165が液晶パネルを含む場合には、例えば第2の状態は当該液晶パネルに電圧が加えられていない状態である。
【0096】
第2の状態において、偏光切替素子165は入射光の偏光状態を波長に関わらず反転した方向に変換して出力する。
図20の例において、赤色Rを左回り円偏光から右回り円偏光へ変換し、緑色Gおよび青色Bを右回り円偏光から左回り円偏光へ変換する。これにより、第2の状態において、GPHユニット157は第1の状態とは異なる偏光状態および偏向方向へRGBの光を出射する。
【0097】
以上の構成を有するGPHユニット157によれば、偏光切替素子165の状態を切り替えることにより、光学装置10に全体として生じる波長分散性を切り替えることができる。なお、偏光切替素子165に直線偏光が入力される場合には、偏光状態を反転させる第2の状態は、入力された直線偏光と直交する直線偏光を出力することに対応する。
【0098】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。上記実施の形態に、多様な変更または改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。その様な変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、請求の範囲の記載から明らかである。
【0099】
請求の範囲、明細書、および図面中において示した装置、システム、プログラム、および方法における動作、手順、ステップ、および段階等の各処理の実行順序は、特段「より前に」、「先立って」等と明示しておらず、また、前の処理の出力を後の処理で用いるのでない限り、任意の順序で実現しうることに留意すべきである。請求の範囲、明細書、および図面中の動作フローに関して、便宜上「まず、」、「次に、」等を用いて説明したとしても、この順で実施することが必須であることを意味するものではない。
没入型の仮想現実(VR)に用いられる光学装置は、そのままでは外光と画像とを重畳させる拡張現実(AR)には用いることができないという課題を解決するために、画像光(50)を外光(40)に重畳させて下流側に導く光学装置(10)であって、少なくとも前記画像光(50)に対してレンズパワーを有する光学素子(120)を含む画像光学系(100,101)と、前記画像光(50)の少なくとも一部を反射することで前記画像光(50)の少なくとも一部と前記外光(40)の少なくとも一部とを重畳させる反射素子(200)とを備え、前記画像光学系(101,101)は、前記光学素子(120)とは波長分散性が逆の逆分散性を有するGPH素子(130)を有する、光学装置(10)。