特許第6386228号(P6386228)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6386228
(24)【登録日】2018年8月17日
(45)【発行日】2018年9月5日
(54)【発明の名称】無菌作業システム
(51)【国際特許分類】
   A61L 2/20 20060101AFI20180827BHJP
   F24F 7/06 20060101ALI20180827BHJP
   F24F 7/007 20060101ALI20180827BHJP
【FI】
   A61L2/20 106
   F24F7/06 C
   F24F7/007 B
【請求項の数】1
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-12663(P2014-12663)
(22)【出願日】2014年1月27日
(65)【公開番号】特開2015-139492(P2015-139492A)
(43)【公開日】2015年8月3日
【審査請求日】2016年11月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000253019
【氏名又は名称】澁谷工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090169
【弁理士】
【氏名又は名称】松浦 孝
(74)【代理人】
【識別番号】100086852
【弁理士】
【氏名又は名称】相川 守
(74)【代理人】
【識別番号】100124497
【弁理士】
【氏名又は名称】小倉 洋樹
(74)【代理人】
【識別番号】100147762
【弁理士】
【氏名又は名称】藤 拓也
(72)【発明者】
【氏名】所村 正晴
(72)【発明者】
【氏名】船塚 拓哉
【審査官】 齊藤 光子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−143726(JP,A)
【文献】 特開平03−039081(JP,A)
【文献】 特開2012−029859(JP,A)
【文献】 特開2012−044964(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L2/00−28
A61L9/00−04
B65D81/00
F24F7/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部が無菌状態に維持される無菌作業室と、外部から無菌作業室に搬入される物品に付着している微生物を除去するための除染操作室とを備えた無菌作業システムにおける除染操作方法であって
前記除染操作室は、閉鎖可能な入口部が設けられた第1操作室と、第1操作室に連接されるとともに閉鎖可能な出口部が設けられた第2操作室と、これら第1操作室と第2操作室を連通させる閉鎖可能な連通部とを備え
前記第1操作室には、除染ガスを供給する除染ガス供給通路が接続されるとともに、前記第1操作室および前記第2操作室には、清浄気体を供給するとともに排気させる給排気手段が接続され、前記給排気手段により第1操作室と第2操作室の圧力を調節する圧力調節手段が構成され、
前記連通部を開放して第1操作室と第2操作室を連通させる際は、前記入口部および出口部を閉鎖するとともに、前記圧力調節手段によって第2操作室から第1操作室へ気流を生じさせ、
前記無菌作業室に外部から物品を搬入する場合には、前記第1操作室に物品を収容して第1の除染操作として除染ガスを第1操作室に充満させて、前記無菌作業室に搬入する物品および前記第1操作室の内壁面に作用させた後、前記連通部を通して第1操作室から第2操作室に物品を移すとともに、第1操作室に清浄気体を供給して第1操作室に残留する除染成分を除去し、第2操作室で第2の除染操作として清浄気体を第2操作室に供給して、前記物品に残留する除染成分を除去した後、無菌作業室に物品を搬入することを特徴とする無菌作業システムにおける除染操作方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外部雰囲気から隔離されて無菌状態に維持される無菌作業室内において、例えばヒト細胞・組織の培養作業等の作業を行うための無菌作業システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来無菌作業システムは、例えば特許文献1に開示されているように、内部が無菌状態に維持される無菌作業室と、この無菌作業室に連結されるパスボックスとに区画されている。無菌作業室とパスボックスの間に形成された連通部と、パスボックスの外壁に設けられた入口部とは、それぞれ開閉部材によって密閉可能である。無菌作業室に搬入される物品の表面は、まずパスボックス内において除染ガス(除染蒸気)によって付着している微生物が除去される。その後、パスボックス内にエアレーションが施されて、物品とパスボックスの内壁面に残留する除染成分が除去されると、パスボックスと無菌作業室が連通されて、物品は無菌作業室へ移される。
【0003】
このような従来の無菌作業システムによれば、パスボックスの内部に除染蒸気を充満させて微生物の除去を行っており、物品のみならず物品搬入のために外部環境に開放されたパスボックスの内壁面も無菌化し、その状態を維持してパスボックスを無菌作業室と連通させるため、一般環境よりも若干清浄度の高いグレードD程度の環境に設置して、ヒト細胞・組織の培養作業を実施することが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−51351号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
パスボックスにおけるエアレーションは、物品と内壁面の両者に対する除染蒸気の除去が完了するまで行うことが必要であり、除染蒸気の濃度が低くなると、その後の濃度の低下速度が緩くなるため、除去作業の時間が長くかかるという問題があった。また、搬入する物品が細胞等を収容した培養容器の場合は、除染蒸気の供給およびエアレーションにより、適切でない温度状態に長時間曝されることの悪影響が懸念される。さらに、このような培養容器は十分な気密性を有していないため、気体化された除染媒体が内部に流入して影響を及ぼすことの懸念もあった。
【0006】
本発明は、無菌作業室に搬入する物品の除染操作に要する時間を短縮すること、また搬入する物品に応じて適切な除染媒体や除染方式を選択可能とすることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、内部が無菌状態に維持される無菌作業室と、外部から無菌作業室に搬入される物品に付着している微生物を除去するための除染操作室とを備えた無菌作業システムにおける除染操作方法である。除染操作室は、閉鎖可能な入口部が設けられた第1操作室と、第1操作室に連接されるとともに閉鎖可能な出口部が設けられた第2操作室と、これら第1操作室と第2操作室を連通させる閉鎖可能な連通部とを備え、第1操作室には、除染ガスを供給する除染ガス供給通路が接続されるとともに、第1操作室および第2操作室には、清浄気体を供給するとともに排気させる給排気手段が接続され、給排気手段により第1操作室と第2操作室の圧力を調節する圧力調節手段が構成される。本発明に係る無菌作業システムにおける除染操作方法は、連通部を開放して第1操作室と第2操作室を連通させる際は、入口部および出口部を閉鎖するとともに、圧力調節手段によって第2操作室から第1操作室へ気流を生じさせ無菌作業室に外部から物品を搬入する場合には、第1操作室に物品を収容して第1の除染操作として除染ガスを第1操作室に充満させて、無菌作業室に搬入する物品および第1操作室の内壁面に作用させた後、連通部を通して第1操作室から第2操作室に物品を移すとともに、第1操作室に清浄気体を供給して第1操作室に残留する除染成分を除去し、第2操作室で第2の除染操作として清浄気体を第2操作室に供給して、物品に残留する除染成分を除去した後、無菌作業室に物品を搬入することを特徴としている。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、無菌作業室に搬入する物品の除染操作に要する時間を短縮し、また搬入する物品に応じて適切な除染媒体や除染方式を選択可能とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明に係る第1の実施形態を適用した無菌作業システムの各構成要素を示す配置図である。
図2図1に示す無菌作業システムにおいて、除染ガスおよび清浄気体を供給し、また排出するための流体供給回路を示す図である。
図3】第1の実施形態を適用した無菌作業システムの作用を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下図面を参照して本発明の第1の実施形態である無菌作業システム100を説明する。図1は無菌作業システム100の概略的な構成を示している。無菌作業システムは、内部が無菌状態に維持される無菌作業室10を内部に形成したアイソレータ11を備え、無菌作業室10の入口側には、無菌作業システムの外部から無菌作業室10に搬入される物品に付着している微生物を除去するための除染操作室30が内部に形成されたパスボックス110が連結されて構成されている。除染操作室30は第1操作室31と第2操作室32に区画される。無菌作業室10の除染操作室30とは反対側には、無菌作業室10において処理されたヒト細胞・組織を培養するためのインキュベータ20が着脱可能である。なお、第1操作室31と第2操作室32は、1つのパスボックス110の内部を仕切って区画してもよいが、独立した2つのパスボックス110を連結して構成してもよい。
【0013】
無菌作業室10の壁部には、無菌作業室10の外部に設けられたクリーンブース(図示せず)から無菌作業室10内の物品に対して種々の処理を行うためにグローブ12、13が設けられる。除染操作室30の第1操作室31と第2操作室32にも同様に、それぞれグローブ34、35が設けられる。
【0014】
第1操作室31は第2操作室32に対して無菌作業室10とは反対側に位置し、第1操作室31の入口部36は第1閉鎖部材37によって閉鎖可能である。第2操作室32は第1操作室31に連接され、第1操作室31と第2操作室32を連通させる連通部38は第2閉鎖部材39によって閉鎖可能である。また第2操作室32の出口部40、すなわち無菌作業室10との接続部分は、第3閉鎖部材41によって閉鎖可能である。
【0015】
これら無菌作業室10、第1操作室31、第2操作室32は、後に詳述する圧力調節手段により各々の内部圧力が調節されるように構成され、各室の圧力関係は、第1操作室31は外部環境よりも圧力が高く、第2操作室32は第1操作室31よりも圧力が低く、無菌作業室10は第1操作室31よりも圧力が高く、全体として外部環境よりも陽圧となるように制御される。このように、中間の第2操作室32の圧力を低く維持することで、無菌作業室10と第1操作室31の間で雰囲気の流動を遮断している。これにより仮に無菌作業室10と第1操作室31が連通状態となった場合でも、外部環境の汚染された雰囲気が無菌作業室10に流入することを阻止するとともに、ウィルス等の病原体が無菌作業室10から外部環境に流出することを防止できる。
【0016】
インキュベータ20が取り付けられる場合、インキュベータ20は接続部21を介して無菌作業室10に連結される。無菌作業室10と接続部21の間の仕切り壁の開口は第1開閉部材22によって開閉され、接続部21とインキュベータ20の間は、インキュベータ20に設けられた第2開閉部材23によって開閉される。
【0017】
図2を参照して、無菌作業室10と除染操作室30と接続部21に対して、除染ガス(除染蒸気)と清浄気体を給排気するための流体供給回路の構成を説明する。本実施形態において除染ガスは過酸化水素蒸気であり、ボトル60には過酸化水素水溶液が貯溜される。過酸化水素水溶液は除染剤供給通路61に設けられたポンプ62によってボトル60から蒸発器63に一定量ずつ供給され、蒸発器63による加熱により蒸発して過酸化水素蒸気となる。蒸発器63の吸入口には循環通路72が接続され、発生した過酸化水素蒸気は循環通路72に設けた循環ブロア74の作動によって蒸発器63から送気される。蒸発器63の吐出口に接続された除染ガス供給通路64は、無菌作業室10、第1操作室31、第2操作室32にそれぞれ開閉バルブ65、66、67を介して接続される。
【0018】
無菌作業室10の天面には気体供給室14が設けられ、除染ガス供給通路64の第1分岐通路64aが接続される。気体供給室14内にはHEPAフィルタ15が取り付けられ、気体供給室14に供給された過酸化水素蒸気はHEPAフィルタ15を通って無菌作業室10に供給される。
【0019】
同様に、第1操作室31の天面にも気体供給室42が形成され、気体供給室42には除染ガス供給通路64の第2分岐通路64bが接続される。また、気体供給室42にもHEPAフィルタ43が設けられ、気体供給室42に供給された過酸化水素蒸気はHEPAフィルタ43を通って第1操作室31に供給される。第2操作室32に関しても同様に、過酸化水素蒸気は除染ガス供給通路64の第3分岐通路64cから気体供給室44に供給され、HEPAフィルタ45を通って第2操作室32に供給される。
【0020】
接続部21は開閉バルブ24とHEPAフィルタ25を介して除染ガス供給通路64に接続される。すなわち除染ガス供給通路64を通る過酸化水素蒸気はHEPAフィルタ25を通って接続部21の内部空間に供給される。
【0021】
除染ガス供給通路64の第4分岐通路64dには、循環ブロア74の送気方向下流側に配置されることで、循環ブロア74の作動時に除染ガス供給通路64から排気させて送気量を減少させ、無菌作業室10と第1操作室31と第2操作室32の圧力を低下させるよう調節するための圧力調節バルブ70が設けられる。なお、第4分岐通路64dの開放端には触媒71が設けられ、無菌作業システム100の外部への有害成分の流出防止が図られている。
【0022】
無菌作業室10の下面には気体排出室16が設けられ、気体排出室16内にはHEPAフィルタ17が取り付けられる。気体排出室16は、蒸発器63の吸入口に連結される循環通路72に接続され、循環通路72には開閉バルブ73が設けられる。したがって無菌作業室10内の気体は循環ブロア74の送気作用によりHEPAフィルタ17を介して気体排出室16に排出され、循環通路72を通って蒸発器63に還流される。
【0023】
同様に、第1操作室31の下面に形成された気体排出室46にはHEPAフィルタ47が設けられ、また第2操作室32の下面に形成された気体排出室48にはHEPAフィルタ49が設けられる。気体排出室46、48は循環通路72の第1および第2分岐通路72a、72bに接続され、第1および第2分岐通路72a、72bにはそれぞれ開閉バルブ75、76が設けられる。したがって第1操作室31内、第2操作室32内の気体はHEPAフィルタ47、49を介して気体排出室46、48に排出され、循環通路72を通って蒸発器63に還流される。
【0024】
循環通路72の第3分岐通路72cには、循環ブロア74の送気方向上流側に配置されることで、循環ブロア74の作動時に外気を流入させて送気量を増加させ、無菌作業室10と第1操作室31と第2操作室32の圧力を上昇させるよう調節するための圧力調節バルブ78が設けられる。第3分岐通路72cの開放端は、HEPAフィルタ79を介して無菌作業システムの外部に開放している。
【0025】
無菌作業室10、第1操作室31および第2操作室32に清浄気体を供給するための構成を説明する。無菌作業室10の気体供給室14には第1気体供給通路80が接続される。第1気体供給通路80には給気ブロア81が設けられ、給気ブロア81と気体供給室14の間には風量調整弁82が設けられる。第1気体供給通路80の開放端には触媒83が設けられる。
【0026】
このような構成により、風量調整弁82を開放するとともに給気ブロア81を作動させることで、第1気体供給通路80から気体供給通路14に外部から気体が流入され、この気体がHEPAフィルタ15により清浄化されて無菌作業室10に供給される。また風量調整弁82の開度または給気ブロア81の送風量を調節することで、無菌作業室10への給気量を増減させることができる。
【0027】
第1操作室31の気体供給室42には給気ファン51が設けられ、給気ファン51には第2気体供給通路84が接続される。第2気体供給通路84には風量調整弁85が設けられ、第2気体供給通路84の開放端には触媒86が設けられる。同様に、第2操作室32の気体供給室44には給気ファン52が設けられ、給気ファン52には第3気体供給通路87が接続される。第3気体供給通路87には風量調整弁88が設けられ、第3気体供給通路87の開放端には触媒89が設けられる。
【0028】
このような構成により、風量調整弁85を開放するとともに給気ファン51を作動させることで、第2気体供給通路84から気体供給室42に外部から気体が流入され、この気体がHEPAフィルタ43により清浄化されて第1操作室31に供給される。また風量調整弁85の開度または給気ファン51の送風量を調節することで、第1操作室31への給気量を増減させることができる。同様に、風量調整弁88を開放するとともに給気ファン52を作動させることで、第3気体供給通路87から気体供給室44に外部から気体が流入され、この気体がHEPAフィルタ45により清浄化されて第2操作室32に供給される。また風量調整弁88の開度または給気ファン52の送風量を調節することで、第2操作室32への給気量を増減させることができる。
【0029】
無菌作業室10、第1操作室31、第2操作室32および接続部21から気体を排出するための構成を説明する。無菌作業室10の気体排出室16には第1気体排出通路90が接続され、第1気体排出通路90には排気ブロア91が設けられる。排気ブロア91と気体排出室16の間には風量調整弁92と触媒93が設けられる。
【0030】
このような構成により、風量調整弁92を開放するとともに排気ブロア91を作動させることで、無菌作業室10からHEPAフィルタ17および気体排出室16を通過した気体が第1気体排出通路90により外部に排出される。また風量調整弁92の開度または排気ブロア91の送風量を調節することで無菌作業室10からの排気量を増減させることができる。これら排気量を増減させる風量調整弁92、排気ブロア91と、給気量を増減させる風量調整弁82、給気ブロア81とによって、無菌作業室10用の給排気手段が構成される。
【0031】
第1操作室31の気体排出室46には排気ファン53が設けられ、排気ファン53には第2気体排出通路94が接続される。第2気体排出通路94には風量調整弁95と触媒96が設けられる。同様に、第2操作室32の気体排出室48には排気ファン54が設けられ、排気ファン54には第3気体排出通路97が接続される。第3気体排出通路97には風量調整弁98と触媒99が設けられる。
【0032】
このような構成により、風量調整弁95を開放するとともに排気ファン53を作動させることで、第1操作室31からHEPAフィルタ47および気体排出室46を通過した気体が第2気体排出通路94により外部に排出される。また風量調整弁95の開度または排気ファン53の送風量を調節することで第1操作室31からの排気量を増減させることができる。これら排気量を増減させる風量調整弁95、排気ファン53と、給気量を増減させる風量調整弁85、給気ファン51とによって、第1操作室31用の第1給排気手段が構成される。同様に、風量調整弁98を開放するとともに排気ファン54を作動させることで、第2操作室32からHEPAフィルタ49および気体排出室48を通過した気体が第3気体排出通路97により外部に排出される。また風量調整弁98の開度または排気ファン54の送風量を調節することで第2操作室32からの排気量を増減させることができる。これら排気量を増減させる風量調整弁98、排気ファン54と、給気量を増減させる風量調整弁88、給気ファン52とによって、第2操作室32用の第2給排気手段が構成される。
【0033】
さらに、無菌作業室10用の給排気手段、第1操作室31用の第1給排気手段、第2操作室32用の第2給排気手段は、それぞれの給気量と排気量を増減させることにより、各々の無菌作業室10内、第1操作室31内、第2操作室32内の圧力を調節することが可能であり、これら接続される全ての給排気手段を含めて本無菌作業システム100の圧力調節手段が構成される。これら各給排気手段の動作は図示しない制御手段により相互に関連づけて制御される。これにより、各室の圧力を予め設定された所定範囲に維持するとともに、各室間の圧力関係を予め設定された所定状態に維持することができる。
【0034】
接続部21の除染ガス供給通路64とは反対側には気体排出通路26が接続される。気体排出通路26には開閉バルブ27が設けられ、また気体排出通路26の開放端には触媒28が設けられる。
【0035】
次に、図2図3を参照して本実施形態の作用を説明する。なお、図3では、インキュベータ20、接続部21の図示を省略している。
【0036】
無菌作業室10内、第1操作室31内、第2操作室32内はいずれも、事前に過酸化水素蒸気が供給されるとともにエアレーションが施されて除染が実施され、さらに、無菌作業室10用の給排気手段、第1操作室31用の第1給排気手段、第2操作室32用の第2給排気手段により各々に給気と排気が行われて、外部環境に対して陽圧とすることで内部が無菌状態に維持されるとともに、無菌作業室10内の圧力が最も高く、次いで第1操作室31内の圧力が高くなるように圧力調節手段により圧力が制御されている。
【0037】
第1閉鎖部材37が開放され、無菌作業室10において作業に要する物品Aが第1操作室31に搬入されるとき、第1操作室31と第2操作室32の間の連通部38は第2閉鎖部材39によって閉鎖され、また第2操作室32の出口部40は第3閉鎖部材41によって閉鎖されている。物品Aが入口部36から第1操作室31内に搬入されると、第1閉鎖部材37が閉鎖され、第1操作室31は外部から気密を保って遮断される(ステップ(1))。この状態においては、第1操作室31は第1閉鎖部材37が開放されることで外部環境と連通されるが、第1操作室31は圧力調節手段によって内部が陽圧に維持されているため外部環境の雰囲気が流入することはない。また第2閉鎖部材39は閉鎖されており、第2操作室32が外部環境と連通することはない。
【0038】
ステップ(2)では第1操作室31に収容された物品Aに対して第1の除染操作が行われる。すなわち、開閉バルブ66、75が開放されるとともに循環ブロア74が作動され、蒸発器63において生じる過酸化水素蒸気が第2分岐通路64bを通って第1操作室31に供給され、第1分岐通路72aを介して蒸発器63に還流される。これとともに風量調整弁85、95が閉鎖されて給気ファン51、排気ファン53が停止され、第1操作室31内の圧力は圧力調節バルブ70、78の開閉制御動作により制御されて陽圧に維持される。第1操作室31では過酸化水素蒸気が充満して物品Aに作用し、これにより物品Aの表面、および第1閉鎖部材37が開放されることにより外部雰囲気に暴露された第1操作室31の内壁面の微生物が除去される。
【0039】
所定量の過酸化水素蒸気の供給が完了すると、第1操作室31で初期エアレーションが実行される。このとき、過酸化水素水溶液を送るポンプ62の作動は停止するが、所定時間の間は開閉バルブ66、75を開放するとともに循環ブロア74を作動させて配管内のエアレーションを行う。また風量調整弁85、95が所定の開度に開放されるとともに給気ファン51と排気ファン53が所定風量で作動される。これにより、圧力状態を維持しながら第1操作室31には、第2気体供給通路84を介して流入される無菌作業システム100の外部環境の空気が、HEPAフィルタ43で清浄化されて供給されるとともに、第1操作室31内の過酸化水素成分を含む気体が第2気体排出通路94を通って、触媒96で有害成分が除去されて無菌作業システム100の外部に排出される。初期エアレーションは室内の過酸化水素成分の残留濃度が所定濃度に低下するまで行われる。なお、このときの給気量と排気量は、除染操作中ではない通常の各室間で圧力関係を維持する場合よりも大きくなるように調節される。
【0040】
ステップ(3)では、第2閉鎖部材39が開放されて物品Aは第1操作室31から連通部38を通して第2操作室32へ移される。この際の物品Aの移動は、連通部38を開放して第1操作室31と第2操作室32を連通させるとともに、入口部36と出口部40を閉鎖して行われる。この直前において、第2操作室32では風量調整弁88,98が所定開度で開放され、給気ファン52、排気ファン54が所定送風量で作動されて、第2操作室32の内部圧力を第1操作室31より低い陽圧に維持した状態にあり、第1操作室31では初期エアレーションが継続されている。本実施形態では、この状態から第2閉鎖部材39の開放動作に伴って、風量調整弁85、98を閉鎖し、また給気ファン51と排気ファン54を停止させるとともに、風量調整弁88、給気ファン52による給気量を、風量調整弁95、排気ファン53による排気量よりも大きくなるように圧力調節手段で調節する。
【0041】
したがって、第2閉鎖部材39が開放される際には、第2操作室32の上部から第1操作室31の下部に向けて強い気流が生じており、第1操作室31内の除染成分を含んだ雰囲気が第2操作室32に流入することを阻止している。これにより、第2閉鎖部材39の開放動作に伴って第1操作室31の気体が引き込まれることを防ぎ、第1操作室31に残留している除染成分が第2操作室32に流入することはない。また、この間も第2操作室32と第1操作室31の外部環境に対する陽圧状態は維持されている。
【0042】
このように第2操作室32から第1操作室31へ向かう気流を生じさせるため、この例では、風量調整弁88、95を開放するとともに風量調整弁85、98を閉鎖し、また給気ファン52と排気ファン53を駆動するとともに給気ファン51と排気ファン54を停止させている。しかし他の例として、給気ファン51、52と排気ファン53、54を全て駆動するとともに、風量調整弁85、98を相対的に小さい開度で開放してもよい。つまり、第2操作室32の給気量を第1操作室31の給気量よりも大きくし、かつ第1操作室31の排気量を第2操作室32の排気量よりも大きくすることにより、第2操作室32内の圧力が第1操作室31内の圧力よりも高くなり、第2操作室32から第1操作室31へ向かう気流が発生するように調節すればよい。なお、この場合でも第1操作室31と第2操作室32の供給量の合計が排気量の合計よりも大きくなるようにして、外部環境よりも陽圧となるようにする。
【0043】
ステップ(3)の後、ステップ(4)では第2閉鎖部材39が閉鎖され、第2操作室32において第2の除染操作として物品Aを対象とした個別エアレーションが行われる。このとき、第1操作室31に関しては、風量調整弁85、95が所定開度で開放され、給気ファン51と排気ファン53が所定送風量で作動されて、初期エアレーションに引き続いて内壁面を対象にエアレーションが再開される。また第2操作室32に関しては、風量調整弁88、98が所定開度で開放され、給気ファン52と排気ファン54が所定送風量で作動される。このときの給気量と排気量は、無菌作業室10、第1操作室31との圧力関係を維持するときよりも大きくなるよう制御され、換気効率を高め、短時間に大量の新鮮な気体を物品Aに触れさせることにより、短時間に物品Aから除染成分を除去するようにしている。また、この間も第1操作室31、第2操作室32とも外部環境よりも陽圧に維持されている。
【0044】
第2操作室32における個別エアレーションが完了すると、ステップ(5)が実行され、第3閉鎖部材41が開放されて物品Aは無菌作業室10へ搬入される。このとき、第1操作室31に関しては、風量調整弁85、95の開放状態が維持されるとともに、給気ファン51と排気ファン53が継続して駆動され、エアレーションが引き続き行われる。一方、第2操作室32に関しては、風量調整弁88、98の開度および給気ファン52と排気ファン54の送風量が調節されて、給気量と排気量が低減されて通常の圧力関係を維持する場合の制御に戻される。
【0045】
ステップ(5)の後、第3閉鎖部材41が閉塞され、無菌作業室10において物品Aが使用される。
【0046】
上述した第1操作室31における第1の除染操作(ステップ(2))、あるいは無菌作業室10、第1操作室31および第2操作室32に対して除染ガスを供給するとき、つまり循環ブロア74によって送気させるとき、これらの無菌作業室10、第1操作室31、第2操作室32における圧力制御は、図示しない制御手段により作動を制御される圧力調節バルブ70、78からなる制御調節手段により調節される。すなわち圧力が設定値よりも高くなったときは圧力調節バルブ70が開放されて、第4分岐通路64dから気体が放出され、圧力が設定値よりも低くなったときは圧力調節バルブ78が開放されて、第3分岐通路72cから外気が導入されて各室の圧力が外部環境よりも陽圧に維持される。
【0047】
内部が除染済みのインキュベータ20を連結する場合は、無菌作業室10と連通させる前に、接続部21の内部空間に除染ガスを供給して外部環境に暴露されていた部分の除染が行われる。はじめにインキュベータ20の第2開閉部材23を設けた正面を接続部21に密着させて連結し、接続部21に密封された内部空間を形成する。次に無菌作業室10の第1開閉部材22、インキュベータ20の第2開閉部材23が閉鎖された状態で、圧力調節バルブ78を開放して循環ブロア74を作動させ、蒸発器63で発生させた過酸化水素蒸気を除染ガス供給通路64に送るとともに、開閉バルブ24を開放させて接続部21の内部空間に過酸化水素蒸気を供給する。これにより外部環境に暴露されていた第1開閉部材22の外側とその周辺および第2開閉部材23の外部とその周辺を含む接続部21の内部空間全域の微生物が除去される。その後、開閉バルブ27を開放するとともに、ポンプ62による蒸発器63への過酸化水素水溶液の供給を停止した状態で循環ブロア74により送風し、エアレーションを所定時間行う。これら一連の除染作業が終了すると、作業者がグローブ12に手を差し入れてグローブ操作により第1開閉部材22を開放してから第2開閉部材23を開放し、無菌作業室10からインキュベータ20内に培養容器等の物品を収容する。
【0048】
以上のように本実施形態では、無菌作業室10に搬入される物品Aに付着している微生物を除去するための除染操作室30を第1操作室31と第2操作室32に区画し、第1操作室31において第1の除染操作として物品Aに対して過酸化水素蒸気(除染ガス)による除染操作を行った後、物品Aを第2操作室32に移して第2の除染操作として物品Aを対象とした個別エアレーションを行っている。この第2操作室32におけるエアレーションの対象は物品Aのみであり、第1操作室31では、第2操作室32とは独立にエアレーションが行われる。すなわち、除染操作を行った除染操作室30において、物品と除染操作室30の両者に対してエアレーションを行う必要がなく、物品Aに対する除染操作とエアレーションに要する時間を短縮することができる。
【0049】
次に第2の実施形態を説明する。上述したように第1の実施形態は、第1操作室31における第1の除染操作では、物品Aに充満させた過酸化水素蒸気からなる除染ガスを作用させ、第2操作室32における第2の除染操作では、物品Aを対象に個別エアレーションを行って残留する除染成分を除去するように構成されている。これに対して第2の実施形態では、第1操作室31における第1の除染操作では、第1の除染媒体を用いて物品Aに付着した微生物を除去し、第2操作室32における第2の除染操作では、第2の除染媒体を用いて物品Aに付着した微生物を除去する。
【0050】
すなわち、物品Aが細胞を収容した培養容器の場合には、加熱により気化された除染ガスによる除染操作では、細胞が急激な温度変化に曝されることによる悪影響が懸念され、また、培養容器が密封性を有していない場合には、除染ガスが内部に流入して細胞の培養に影響を及ぼすおそれもある。そこで、第2の実施形態においては、液状の除染媒体を物品の表面に噴霧したり、不織布等に含ませて拭き取るようにしている。この場合、除染ガスを用いた除染操作の場合のように、外部環境に暴露される除染操作室30の内部を含めた微生物除去は行われないが、本実施形態においては除染操作室30を第1操作室31と第2操作室32に区画して、外部環境に暴露されて物品が収容された第1操作室31と無菌作業室10の間に第2操作室32を設け、さらに、第1操作室31と第2操作室32を連通させる際は、圧力調節手段によって第2操作室32から第1操作室31へ気流を生じさせるようにしているため、外部雰囲気に暴露された第1操作室31と無菌作業室10が直接的に連通することはなく、第1操作室31の雰囲気が第2操作室32や無菌作業室10に流入することはない。これにより、グレードD程度の外部環境に対して、それよりも清浄度が高く維持される第1操作室31をグレードC、第2操作室32をグレードBとし、無菌作業室10をグレードAとすることができる。
【0051】
なお、第2の実施形態で使用される除染媒体としては、アルコール(消毒用エタノール)、オキシドール(過酸化水素水溶液)、過酢酸、次亜塩素酸ナトリウム等の常温で液体の一般的な消毒液や殺菌剤を用いることができる。
【0052】
第2の実施形態は第1の実施形態と併用され、物品として細胞を収容した培養容器のように、除染媒体として過酸化水素蒸気のような気体の除染媒体が使用できない場合や、除染方式として高温に曝すことのできない場合に用いられる。具体的には、第1実施形態と同じ無菌作業システム100において、無菌作業室10、第1操作室31、第2操作室32はそれぞれ内部が除染されて、外部環境よりも高い陽圧に維持されて無菌性を保っており、無菌作業室10が最も圧力が高く、次いで第1操作室31の圧力が高くなるように各室の圧力関係が維持されている状態において、図3のステップ(1)と同様に、第1閉鎖部材37を開放して培養容器のような物品Aを第1操作室31に収容する。次にステップ(2)では、外部の作業者がグローブ34に手を差し入れて物品Aをアルコールを染みこませた不織布で拭いて、表面に付着した微生物を除去する。これが第2の実施形態における第1の除染操作である。
【0053】
次にステップ(3)では、第1の実施形態と同様に、第1閉鎖部材37、第3閉鎖部材41は閉鎖した状態で、第2閉鎖部材39を開放して物品Aを第2操作室32に移動させる。この際も、第1の実施形態の場合と同じく、第1操作室31、第2操作室32の各給排気手段の作動により、第2操作室32の上部から第1操作室31の下部に向けて強い気流を生じさせるようになっており、物品Aを収容する際に外部環境に開放された第1操作室31内の雰囲気が第2操作室32に流入しないようになっている。その後のステップ(4)では第2閉鎖部材39を閉鎖してから、外部の作業者がグローブ35に手を差し入れて物品Aを過酢酸溶液を染みこませた不織布で拭いて、表面に付着した微生物を除去する。これが第2の実施形態における第2の除染操作である。
【0054】
このように第1操作室31での第1の除染操作と第2操作室32での第2の除染操作とで、使用する除染媒体の種類を異ならせることにより、耐性の異なる様々な種類の微生物や菌、ウィルスを網羅して除去することが可能となる。物品Aからこれら微生物等を十分に除去することができたらステップ(5)に進み、第3閉鎖部材41を開放して無菌作業室10に物品Aを搬入する。
【0055】
このような第2の実施形態においては、物品の搬入時に外部環境に暴露される除染操作室30の内部を物品の除染に伴って除染してはいないが、除染操作室30を第1操作室31と第2操作室32に区画するとともに、第1操作室31と第2操作室32を連通させる際は、第1操作室31に向けて第2操作室32から気流を生じさせて雰囲気の移動を阻止しているため、外部環境に開放された第1操作室31の雰囲気が第2操作室32に流入せず、第1の実施形態と同じく無菌操作室10への微生物および菌やウィルスの侵入を確実に回避することができる。したがって、グレードD程度の環境に設置した無菌作業システム100において、搬入する物品の除染に除染ガス以外の適切な除染媒体および除染方式を採用することが可能となる。また、第1操作室31で除染処理をした後、第2操作室32で異なる種類の除染媒体を用いて再度除染処理を行うため、高い除染効果が得られる。
【0056】
なお、第1、第2の実施形態に対応する本発明の無菌作業システム100の構成としては、無菌作業室10と第1操作室31、第2操作室32からなるものに限らず、第1操作室31の前段や無菌作業室10と第2操作室32の間に、さらに直接の連通を回避するエアロック室のような中間的な室を設けることもできる。また、各室の圧力関係についても、第2操作室32を第1操作室31よりも圧力を低く維持するものに限らず、無菌作業室10よりも圧力が低く外部環境に対して陽圧であれば、第1操作室31と第2操作室32を同圧としてもよく、また第2操作室32を第1操作室31より高い圧力として、無菌作業室10から段階的に圧力が低下されるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0057】
10 無菌作業室
30 除染操作室
31 第1操作室
32 第2操作室
36 入口部
38 連通部
40 出口部
51、52 給気ファン(圧力調節手段)
53、54 排気ファン(圧力調節手段)
85、88、95、98 風量調整弁(圧力調節手段)
A 物品
図1
図2
図3