(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6386238
(24)【登録日】2018年8月17日
(45)【発行日】2018年9月5日
(54)【発明の名称】熱接着性ショートカット繊維
(51)【国際特許分類】
D01F 6/04 20060101AFI20180827BHJP
B65D 77/00 20060101ALI20180827BHJP
B65D 30/02 20060101ALI20180827BHJP
D21H 13/14 20060101ALI20180827BHJP
【FI】
D01F6/04 G
B65D77/00 F
B65D30/02
D21H13/14
【請求項の数】5
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2014-41724(P2014-41724)
(22)【出願日】2014年3月4日
(65)【公開番号】特開2015-166509(P2015-166509A)
(43)【公開日】2015年9月24日
【審査請求日】2017年2月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000228073
【氏名又は名称】日本エステル株式会社
(72)【発明者】
【氏名】丸谷 純一
【審査官】
清水 晋治
(56)【参考文献】
【文献】
特開2000−201531(JP,A)
【文献】
特開昭59−009255(JP,A)
【文献】
特開昭63−092722(JP,A)
【文献】
米国特許第04477516(US,A)
【文献】
実開平03−106390(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01F 1/00−6/96
9/00−9/04
D21B 1/00−1/38
D21C 1/00−11/14
D21D 1/00−99/00
D21F 1/00−13/12
D21G 1/00−9/00
D21H 11/00−27/42
D21J 1/00−7/00
B65D 30/00−33/38
67/00−79/02
81/18−81/30
81/38
B01D 39/00−41/04
Japio−GPG/FX
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
湿式シートに用いる熱接着性ショートカット繊維であり、
該繊維は、該繊維を構成する熱可塑性重合体が融点120〜130℃である直鎖状低密度ポリエチレンのみによって構成されてなる単相の繊維であり、
直鎖状低密度ポリエチレンのメルトフローレートは25〜45g/10分であり、
該繊維の単繊維繊度は0.5〜1.5dtexであることを特徴とする熱接着性ショートカット繊維。
【請求項2】
請求項1記載の熱接着性ショートカット繊維と主体繊維とが混抄されてなることを特徴とする湿式シート。
【請求項3】
熱接着性ショートカット繊維を構成する直鎖状低密度ポリエチレンが溶融または軟化することにより、主体繊維を熱接着してなることを特徴とする請求項2記載の湿式シート
【請求項4】
請求項3記載の湿式シートにより構成されてなることを特徴とする嗜好性飲料抽出用バッグ。
【請求項5】
請求項3または4記載の湿式シートにより構成されてなることを特徴とする嗜好性飲料用フィルター。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ティーバッグやコーヒーフィルター等のバッグやフィルターの素材として使用されるシートを得る際に好適な熱接着性繊維に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ティーバッグやコーヒーフィルター等の嗜好性飲料抽出用バッグあるいはフィルターには、抄造した湿式不織布などの湿式シートが使われ、シートの素材には合成繊維が使用されている。このようなシートを得るには熱接着性能を持つ繊維が使用されており、熱接着性繊維を単独、あるいは、主体繊維となる繊維と混抄して、熱処理を施すことで、シートを製造することが知られている。
このような嗜好性飲料抽出用フィルター等に用いる熱接着性繊維としては、その熱バインダー成分が、イソフタル酸を共重合した低融点ポリエステルが配された繊維が知られている(特許文献1)。
【0003】
しかしながら、イソフタル酸を共重合した低融点ポリエステルは、柔らかい性質を有しているが、非晶性であることから、熱接着性繊維自体の熱収縮率が高いものである。すなわち、非晶性であるため、熱接着性繊維を製造する工程において、十分な延伸、熱セットを施すことができないために、熱収縮率の高い繊維しか得られにくく、その結果、得られる湿式シートは熱処理によって収縮しやすく、寸法安定性が良好ではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−128233号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記問題を解決すべく、嗜好性飲料を抽出するバッグを構成するシートに用いることができ、熱処理の際に収縮しにくく、寸法安定性が良好なシートを得ることを課題とする。
【0006】
本発明者は、この課題を達成するために検討した。そして、熱接着性繊維として、ポリエチレン繊維を適用することを考えた。ポリエチレン繊維は、機械的強度、電気特性、耐薬品性等に優れていることから産業資材用途に用いられることが多く、また、融点が高すぎないため、熱接着剤として良好に機能できると考えた。
【0007】
ポリエチレン繊維を得る方法としては、ゲル紡糸法が挙げられる。しかし、ゲル紡糸法は生産性が悪い上、有機溶剤を使用するため、環境への負荷が問題視されている。さらに、溶媒を用いることから、延伸工程において繊維が固化する前に相互融着が生じやすく、細繊度化し難いという欠点がある。また、特開2003−113566号公報には、溶融紡糸法により得られた単糸繊度1.5dtex未満のポリエチレン繊維からなる不織布が開示されている。しかしながら、繊維を得るにあたって、紡速300m/分、吐出量5g/分、延伸速度10m/分の条件で製造しており、ゲル紡糸法に対して環境負荷の低減や細繊度化は実現できているものの、生産速度が非常に遅く、生産性が良いとはいい難い。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記の課題を達成するために鋭意検討を行い、本発明に到達した。
【0009】
すなわち、本発明は、湿式シートに用いる熱接着性ショートカット繊維であり、
該繊維
は、該繊維を構成する熱可塑性重合体が融点120〜130℃である直鎖状低密度ポリエチレン
のみによって構成されてなる単相の繊維であり、
直鎖状低密度ポリエチレンのメルトフローレートは25〜45g/10分であり、
該繊維の単繊維繊度は0.5〜1.5dtexであることを特徴とする熱接着性ショートカット繊維。
【0010】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0011】
本発明は、湿式シートに用いる熱接着性ショートカット繊維であり、該繊維を構成する熱可塑性重合体が、直鎖状低密度ポリエチレン(以下、LLDPEと称することもある。)である。なお、本発明の熱接着性ショートカット繊維は、LLDPEが熱接着剤として機能するものであり、他の熱可塑性重合体と複合してなる複合型の繊維ではなく、LLDPEによって構成される単相の繊維である。LLDPEを用いることにより、紡糸速度500m/分以上での溶融紡糸が可能となり、生産性、操業性よくポリエチレン繊維を得ることができる。ポリエチレン樹脂として知られる高密度ポリエチレン(以下、HDPEと称する)では、溶融紡糸の際の引張りに耐えられない傾向にあり、そのため紡糸速度を速くすることができず、低紡糸速度でしか得られず、生産性に劣る。また、低密度ポリエチレン(LDPE)は、結晶性が低く耐熱性に劣るため、沸騰水等の熱水中での使用を考慮して、LLDPEは、本発明では選択しない。
【0012】
本発明に用いられるLLDPEの融点は120〜130℃である。融点が120℃未満では、例えば、ティーバッグ等は熱水中で使用するため、熱水中にてヒートシールした熱接着部分が、再度、軟化あるいは溶融して、ヒートシール部分のシール強度が低下し、内容物が漏れ出す恐れがある。一方、融点が130℃を超えると、低温で効率良くヒートシールしにくい。
【0013】
本発明に用いるLLDPEのメルトフローレート(MFR)は、25〜45g/10分である
。MFRは、ポリエチレンの標準の測定条件である190℃/2.16kgにて測定したものである。MFRの単位は、g/10分であり、MFRはキャピラリーレオメーターを用いて測定され、ポリマーを円筒容器内で溶融し、特定の一定圧力により規定のノズルから押し出し、押し出されたポリマーメルトの質量を時間の関数として検出する。MFRが25g/10分未満であると、溶融粘度が高く、溶融成型加工性が悪化し、紡糸困難となるため好ましくない。一方、MFRが45g/10分より大きくなると、溶融押出時の流動性が高くなり、単糸繊度分布が不均一になり、好ましくない。また、未延伸状態での伸度が高くなり、延伸工程で延伸むらが発生しやすくなるという問題が生じる。
【0014】
本発明の熱接着性ショートカット繊維の単繊維繊度は
、生産性、操業性、接着強度などを考慮し、0.5〜
1.5dtexである
。単繊維繊度が0.5dtex未満であると紡糸、引取工程において単糸切断が頻発し、操業性が悪化するとともに、得られる湿式シートの強力が劣る傾向となる
。
【0015】
熱接着性ショートカット繊維は、繊維長が1〜15mmであることが好ましく、より好ましくは3〜10mである。繊維長が1mm未満の場合、カットする際の摩擦熱により繊維同士の融着が発生し、水中での分散性が損なわれる傾向にある。一方、繊維長が大きくなり過ぎると、繊維が水中において再凝集を起こしやすくなり、得られる湿式シートの地合が悪化し均一なシートが得られにくく、場合によっては風合いも損なわれる傾向となる。
【0016】
なお、本発明の効果を損なわない範囲であれば、繊維を構成するLLDPE中に各種顔料、染料、撥水剤、吸水剤、難燃剤、安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、金属粒子、結晶核剤、滑剤、可塑剤、抗菌剤、香料その他の添加剤を混合してもよい。
次に、本発明の熱接着性ショートカット繊維の製造方法について説明する。LLDPEのチップを溶融紡糸機に供給して製糸し、紡出された糸条が冷却固化された後、紡糸油剤を付与する。そして、この糸条を集束して糸条束とし、延伸を施し、仕上げ油剤を付与した後、カットして短繊維とし、目的とするポリエチレンショートカット繊維を得る。LLDPEを用いているため、溶融紡糸の際の紡糸速度は、500m/分以上とすることができ、紡糸速度は500〜1000m/分の範囲がよい。
【0017】
本発明の熱接着性ショートカット繊維を用いて湿式シートを得る際には、他の主体となる繊維と所望の割合で混抄して得るとよい。すなわち、主体となる繊維と熱接着性ショートカット繊維とを水中に均一分散させてから金網などで抄き上げてシートとする。シート化したあとは、LLDPEを加熱溶融させることにより、構成繊維どうしの接触点で熱接着させて、寸法安定性の良好な湿式シートとすればよい。LLDPEを加熱溶融させる熱処理装置としては、加熱フラットローラー、ヤンキードライヤー、熱風乾燥器などの熱圧着装置が挙げられる。
【0018】
主体となる繊維としては、天然パルプ、合成パルプのいずれを用いてもよい。なお、主体となる繊維としては、LLDPEを熱接着成分として機能させるための熱処理温度にて、熱の影響を受けない繊維を選択する。
【0019】
得られた湿式シートは、公知の製袋加工方法等により所望の袋状等の形状として、嗜好性飲料抽出バッグやフィルターとする。製袋加工等においては、ヒートシーラーや超音波融着機を用いて、ヒートシールすることにより所望の形状とする。湿式シートには、LLDPEからなる熱接着性ショートカット繊維を含むため、製袋加工等を施す際に、シール部分にてLLDPEが溶融し、良好に熱シールされ、嗜好性飲料抽出バッグまたはフィルターを得ることができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、良好な生産性および紡糸操業性で、熱接着性ショートカット繊維を得ることができる。また、該熱接着性ショートカット繊維を用いて、湿式シートを得る際や、ヒートシール等により製袋加工を施す熱処理の際に、熱収縮しにくく、寸法安定性が良好な湿式シートを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】接着強力を測定するための試料作成について模式的に説明した図である。
【
図2】接着強力を測定について、模式的に説明した図である。
【実施例】
【0022】
次に、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
なお、実施例中の性能評価は、下記方法に従って測定したものである。
(1)MFR(g/10分)
ISO 1133記載の方法に基づき、ポリエチレンの標準条件(190℃/2.16kg)のもと測定した。
(2)融点(℃)
示差走査型熱量計(パ−キンエルマー社製 DSC−7型)を用い、昇温速度20℃/分で測定した。
(3)単糸繊度(デシテックス)
JIS L−1015の方法により測定した。
(4)紡糸操業性
未延伸糸1トン当たりの切糸の回数を評価し、○を合格とした。
○:切糸が1回/トン未満
×:切糸が1回/トン以上
(5)繊度分布
延伸前後における繊維束を繊維軸方向に対して垂直方向に切断したときの繊維径のばらつきを、キーエンス社製デジタルマイクロスコープVH−600を用いて目視にて評価し、○を合格とした。
○:繊維径が均一である
△:繊維径にややばらつきが見られる
×:極太部、極細部が散見され、繊維径にばらつきが見られる
(6)接着強力(常温下)
20mm×100mmの短冊状の試料を用意し、試料2枚を重ね、圧着幅25mm、圧力20kgf/cm
2、165℃×2秒で2枚の不織布を圧着した(
図1参照)。なお、圧着箇所については、短冊の長辺方向において、端部から10mmの個所から幅25mm圧着した。次いで、引張試験機(オリエンテック社製 テンシロンUTM−4−100型)を用いて、
図2に示すように圧着により貼り合せた箇所が中央にくるように、試料の両端を掴み、100mm/minで引張り、接着強度を測定した。なお、接着強度は、貼り合せサンプル3点を測定し、その平均値を接着強力とした。本発明においては、接着強度が3N以上を合格とした。なお、試料を掴んだ際のつかみ間隔(貼り合せた箇所を中央として、上のチャックから下のチャックまでの距離)は、100mmとした。
(7)接着強力(沸騰水下)
上(6)に記載されたと同様にして2枚の試料を圧着した後、沸騰水に1分間浸し、その後、上(6)と同様にして接着強力を測定した。本発明においては、接着強力が3N以上を合格とした。
【0023】
実施例1
融点125℃、MFR30g/10分であるLLDPEチップ(日本ポリエチレン製UJ−480)を、孔数429のノズルを用いて、吐出量190g/分、温度220℃として溶融紡糸し、捲取速度(紡糸速度)600m/分で巻き取って未延伸糸を得た。得られた未延伸糸を集束し、延伸速度90m/分、延伸倍率5.31倍で延伸し、ポリエーテルエステルアミドを主成分とする分散油剤を付与して、5mmにカットして、単繊維繊度1.5dtexのポリエチレンショートカット繊維を得た。
次いで、得られたポリエチレンショートカット繊維(30質量%)と、天然パルプ(70質量%)をパルプ離解機(熊谷理機工業製)に投入し、3000rpmにて1分間攪拌した。その後、得られた試料を抄紙機(熊谷理機工業製)にて、ポリエーテルエステルアミドを主成分とする分散油剤を添加した後、付帯の攪拌翼にて攪拌を行い、抄造し、抄造ウェブとした。そして、抄造ウェブを回転式乾燥機(熊谷理機工業製)にて150℃の温度で1分間熱処理を行い、坪量が40g/m
2の湿式シートを得た。
【0024】
実施例2
溶融紡糸において、吐出量276g/分、紡糸速度800m/分としたこと以外は、実施例1と同様にして湿式シートを得た。
【0025】
実施例3
MFRが45g/10分であるLLDPEチップを使用したこと以外は、実施例1と同様にして湿式シートを得た。
【0026】
実施例4
MFRが25g/10分であるLLDPEチップを使用したこと以外は、実施例1と同様にして湿式シートを得た。
【0027】
実施例5
融点127℃のLLDPEチップを使用したこと以外は、実施例1と同様にして湿式シートを得た。
【0028】
実施例6
融点121℃のLLDPEチップを使用したこと以外は、実施例1と同様にして湿式シートを得た。
【0029】
比較例1
融点133℃、MFR20g/10分の高密度ポリエチレン(HDPE)チップを使用したこと以外は、実施例1と同様にして紡糸を行ったところ、引張伸長率が低くなり、紡糸速度600m/分ではノズルから溶融押出される際に糸条にならず、紡糸できなかった。そのため、紡糸速度を300m/分まで下げ、吐出量も60g/分にしたところ、なんとか繊維を得ることはできた。
【0030】
実施例1〜6について評価結果を表1に示す。
【0031】
【表1】
【0032】
表1から明らかなように、実施例1〜6のポリエチレンショートカット繊維は紡糸操業性に優れており、また、得られた湿式シートは、地合いが良好であり、また、常温下においても、沸騰水下に晒したものであっても、ヒートシール性に優れたものであった。
【0033】
一方、比較例1は、HDPEを使用したため、紡糸速度600m/分ではノズルから溶融押出される際に連続糸条にならず、紡糸できず、300m/分まで紡糸速度を下げなければならなかったため、生産性に劣っていた。