(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
針孔を有する針が装着された針棒を装着する針棒支持枠本体と、該針捧支持粋本体に併設され上下動且つ周方向に回転可能に支持された糸通し軸と、前記糸通し軸の下端に設けて前記針孔に対向して糸を緊張状態で保持する糸押え部と糸保持具と、前記糸通し軸の下端に設けて前記針孔に出没させて該針孔に糸を通す鈎を有する糸通し具とを備えたミシンにおいて、前記糸保持具は前記糸を案内し保持する糸保持面部と、該糸保持面部と共に前記糸を押圧しつつ挟持する糸押圧部材と、該糸押圧部材と前記糸保持面部で挟持された糸と交差するように設け、且つ前記糸が抜け出す通路を遮断するように設けた糸外れ防止部とからなり、糸通しする際に前記糸保持具の糸保持面部と前記糸押圧部材で挟持された糸が前記糸外れ防止部により糸が保持状態から外れることなく所定の方向に抜けるように規制してなることを特徴とする糸通し装置を備えたミシン。
前記糸保持具は、糸通し軸に固定され糸を保持する糸保持板を備えた糸保持ベース部材と、該糸保持ベース部材に装着して糸を押圧して保持する糸押圧部材とからなり、前記糸保持板は、一端を開口した溝の端面を糸を保持する糸保持面部とした保持溝部を形成し、前記糸押圧部材は、前記糸保持面部と糸を押圧挟持するバネ板部と前記糸が抜け出す通路を遮断する糸外れ防止のための突出片とを備え、該突出片を前記糸保持板の前記保持溝部で押圧保持された前記糸に交差するように設けたことを特徴とする請求項1に記載の糸通し装置を備えたミシン。
前記糸保持具は、糸通し軸に固定された糸保持ベース部材に形成されて糸を保持する糸保持板と、該糸保持板に装着して糸を押圧して保持する糸押圧部材とからなり、前記糸保持板は、一端を開口した溝の端面を糸を保持する糸保持面部として該糸保持面部に糸外れ防止のための突起部を備えた保持溝部を備え、前記糸押圧部材は、前記糸保持面部と糸を押圧挟持するバネ板部を備え、該バネ板部と前記糸保持板の糸保持面部で押圧保持された前記糸に交差するように前記糸保持面部に前記バネ板部とは、相互に干渉しないように前記突起部を設けたことを特徴とする請求項1に記載の糸通し装置を備えたミシン。
前記糸押圧部材の押え板部には、幅方向の少なくとも一端には、立上り片が形成されてなることを特徴とする請求項1,2,3,4,5又は6の何れか1項に記載の糸通し装置を備えたミシン。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、糸通し装置において、針孔を通過して出没するフックが、針を中心にしてフックの半体側に位置する糸を確実に捕捉するためには、糸が緊張した状態でなければならない。糸の緊張が維持されず、弛んだ状態のときには、フックが糸を捕捉することができなくなる。
【0006】
そのために、フックが糸を捕捉できるように、糸に緊張状態を与える装置が種々存在している。特許文献1では、糸通し作業において、糸に緊張を与える機構が開示されている。具体的には、一端を糸保持部(7)に保持された上糸NTは、その糸保持部(7)と糸係止部(5)との離隔が大きくなることによって、その間の上糸NTは緊張される。このとき、糸係止部(5)の回転により、糸掛け爪(63)は、糸保持部(7)との間の上糸NTの緊張を保持しつつ、糸供給源側に摺動し、糸供給源側の上糸NTのたるみを吸収しようとするものである。
【0007】
しかし、特許文献1に開示された糸の緊張機構では、機構が極めて複雑であり、針の周辺に構成部材が拡がって配置されている。また、糸に緊張を与える作業も極めて面倒である。また、糸の緊張維持についても、不安定であり、糸通し作業の途中で糸が弛んでしまうおそれも十分にある。
【0008】
さらに、糸を緊張させるための保持力を強くすると、今度はフックが糸を捕捉しても、緊張機構から糸が外れ難くなり、フックを破損してしまうなどの障害を引き起こす可能性もある。また、糸緊張機構によっては、糸が機構の各端縁箇所を通過するたびに、糸にササクレや毛羽立ちが発生することもある。
【0009】
そこで、本発明の目的は、ミシンの糸を縫針の針孔に挿通を確実に行うために糸に緊張を与える機構を極めて簡単な構成として、緊張した糸が弛み難く且つ糸通し完了後には装置から容易に引き離すことができるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
そこで、発明者は、上記課題を解決すべく、鋭意,研究を重ねた結果、請求項1の発明を、針孔を有する針が装着された針棒を装着する針棒支持枠本体と、該針捧支持粋本体に併設され上下動且つ周方向に回転可能に支持された糸通し軸と、前記糸通し軸の下端に設けて前記針孔に対向して糸を緊張状態で保持する糸押え部と糸保持具と、前記糸通し軸の下端に設けて前記針孔に出没させて
該針孔に糸を通す鈎を有する糸通し具とを備えたミシンにおいて、前記糸保持具は前記糸を案内し保持する糸保持面部と、該糸保持面部と共に前記糸を押圧しつつ挟持する糸押圧部材と、該糸押圧部材と前記糸保持面部で挟持された糸と交差
するように設け、且つ前記糸が抜け出す通路を遮断するように設けた糸外れ防止部とからなり、糸通しする際に前記糸保持具の糸保持面部と前記糸押圧部材で挟持された糸が前記糸外れ防止部により糸が保持状態から外れることなく所定の方向に抜けるように規制してなる糸通し装置を備えたミシンとしたことにより、上記課題を解決した。
【0011】
請求項2の発明を、前記糸保持具は、糸通し軸に固定され糸を保持する糸保持板を備えた糸保持ベース部材と、該糸保持ベース部材に装着して糸を押圧して保持する糸押圧部材とからなり、前記糸保持板は、一端を開口した溝の端面を糸を保持する糸保持面部とした保持溝部を形成し、前記糸押圧部材は、前記糸保持面部と糸を押圧挟持するバネ板部と
前記糸が抜け出す通路を遮断する糸外れ防止のための突出片とを備え、該突出片を前記糸保持板の前記保持溝部で押圧保持された前記糸に交差するように設けた請求項1に記載の糸通し装置を備えたミシンとしたことにより、上記課題を解決した。
【0012】
請求項3の発明を、前記突出片の先端の位置は、前記糸保持面部とした前記糸保持面部と同一位置としてなる請求項2に記載の糸通し装置を備えたミシンとしたことにより、上記課題を解決した。請求項4の発明を、前記突出片の先端の位置は、前記糸保持面部とした前記糸保持面部よりも下方に位置してなる請求項2に記載の糸通し装置を備えたミシンとしたことにより、上記課題を解決した。請求項5の発明を、前記突出片の先端の位置は、前記糸保持面部とした前記糸保持面部よりも上方に位置してなる請求項2に記載の糸通し装置を備えたミシンとしたことにより、上記課題を解決した。
【0013】
請求項6の発明を、前記糸保持具は、糸通し軸に固定された糸保持ベース部材に形成されて糸を保持する糸保持板と、該糸保持板に装着して糸を押圧して保持する糸押圧部材とからなり、前記糸保持板は、一端を開口した溝の端面を糸を保持する糸保持面部として該糸保持面部に糸外れ防止のための突起部を備えた保持溝部を備え、前記糸押圧部材は、前記糸保持面部と糸を押圧挟持するバネ板部を備え、該バネ板部と前記糸保持板の糸保持面部で押圧保持された前記糸に交差するように前記糸保持面部に
前記バネ板部とは、相互に干渉しないように前記突起部を設けた請求項1に記載の糸通し装置を備えたミシンとしたことにより、上記課題を解決した。
【0014】
請求項7の発明を、前記糸押圧部材の押え板部には、幅方向の少なくとも一端には、立上り片が形成されてなる請求項1,2,3,4,5又は6の何れか1項に記載の糸通し装置を備えたミシンとしたことにより、上記課題を解決した。
【0015】
請求項8の発明を、前記糸押圧部材の押え板部の底部は円弧形状としてなる請求項1,2,3,4,5,6又は7の何れか1項に記載の糸通し装置を備えたミシンとしたことにより、上記課題を解決した。
【発明の効果】
【0016】
請求項1の発明では、上糸に緊張を付与するために上糸を保持溝部に挿入するのみで、極めて簡単な作業となり、且つ緊張した上糸が糸外れ防止部によって、糸保持具から簡単に外れることを防止できると共に、糸通し作業が完了したときに上糸Nを糸保持具から外し易い構成にすることができる。さらに、糸通しする際に前記糸保持具の糸保持面部と前記糸押圧部材で挟持された糸が前記糸外れ防止部により糸が保持状態から外れることなく所定の方向に抜けるように規制することで、糸通しの際にフックに上糸が確実に引掛った状態を維持して、確実な糸通しを可能にし、針の糸通しが完了するときには、上糸は保持溝部から容易に外れ、作業効率を向上させることができる。
【0017】
請求項2の発明では、糸保持具は、糸保持ベース部材と、糸保持ベース部材に装着される糸押圧部材とからなり、前記糸保持ベース部材の糸保持板には水平方向に沿って溝状とした保持溝部が形成され、前記糸押圧部材は前記保持溝部の糸保持面部に糸を押え付けるバネ板部と、前記糸保持板の前面側で且つ上方から下方に向かって突出する突出片が形成されたものである。
【0018】
このような構成によって、ミシンの上糸の供給源から供給される上糸は、針棒に針止付近に設けられた糸掛け部を通過しつつ、上糸の端部を前記糸保持板の保持溝部に水平方向から挿入するのみで、バネ板部と保持溝部の糸保持面部にて挟持状態で固定される。さらに、上糸の端部を保持溝部に挿入する際には、上糸が突出片を通過することによって、保持溝部の終端付近に入り込んだ上糸は、突出片によって、容易に保持溝部から外れることを防止することができる。
【0019】
このように、糸保持具は、上糸に緊張を付与するために上糸を保持溝部に挿入するのみで、極めて簡単な作業となり、且つ緊張した上糸が糸保持具から簡単に外れることを防止できると共に、糸通し作業が完了したときに上糸Nを糸保持具から外し易い構成にすることができる。
【0020】
請求項3の発明では、糸押圧部材の突出片の先端の位置は、糸保持面部と同一位置としたことにより、糸保持具への上糸Nの挿入及び取り外しが極めて簡単にできる。請求項4の発明では、糸押圧部材の突出片の先端の位置は、糸保持面部よりも下方に位置することにより糸保持具から上糸Nが外れ難い構成にできる。請求項5の発明では、糸押圧部材の突出片の先端の位置は、糸保持面部よりも上方に位置するので、糸保持具から上糸Nを外し易い構成にすることができる。
【0021】
請求項6の発明では、請求項1及び請求項2と同等の効果を奏する。請求項7の発明では、糸押圧部材の押え板部には、幅方向の少なくとも一端には、立上り片が形成されたものであり、請求項8の発明では糸押圧部材の押え板部の底部は円弧形状としたものであり、上糸のササクレ又は毛羽立ちを防止することができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。以下の説明では、ミシンに対して作業者が位置する方向を前方とし、作業者から見て左右方向を左右方向として説明する。また、上糸Nが供給される側を上方として説明する。
【0024】
まず、本発明の構成は、
図1に示すように、主に、針棒支持枠本体1,針棒11,糸通し軸21,糸保持具A,糸通し具8とからなる。前記針棒支持枠本体1は、図示されないミシン本体内に装着され、縫い目形成のため針の上下運動と左右への揺動運動を行う。針棒支持枠本体1は、針棒11,糸通し軸21及びガイド軸22が装着されている。
【0025】
前記針棒支持枠本体1には、前記針棒11,糸通し軸21及びガイド軸22を支持するための複数の軸支持部1a,1a,…が形成されている。そして、針棒11,糸通し軸21及びガイド軸22は針棒支持枠本体1に対して上下方向に摺動自在に支持されている。
【0026】
針棒支持枠本体1には、図示されないモータ駆動部が備わっており、前記糸通し軸21及び前記ガイド軸22は、モータ駆動部にて駆動される。また、糸通し装置の駆動機構は、モータ駆動部による駆動に限定されるものではなく、他の駆動機構を使用してもよく、手動で駆動されるものであっても構わない。
【0027】
針棒支持枠本体1は、前述したように、図示されないミシンフレーム内に装着されており、針棒11を上下動及び布送り方向と直交する方向(左右)に揺動可能に支持している。針棒支持枠本体1の上方側には、バネの一端が取り付けられ、該バネの他端は、糸通し軸部21のレバーに取り付けられ、糸通し軸21及びガイド軸22は常時、上方に弾性付勢されている。針棒11は、先端部分に針9が取り付けられる棒状の部材である。
【0028】
針棒11には、針止13が備わっている。針止13は、針9を針棒11に固定して保持させるための部材であり、針棒11の先端(下端)部分に設けられている。針止13により、針9は、針孔9aがミシンの縫い方向(前後方向)を向くように、針棒11にネジ止め固定される。また、針止13には、糸掛け部14が設けられている。糸掛け部14には、上糸Nの供給源である糸駒から供給された上糸Nが係止されつつ通過する部位である。
【0029】
糸通し軸21の下端には、糸保持具A及び糸通し具8が取り付けられている。糸通し軸21は、糸保持具A及び糸通し具8の下降位置を規制する規制手段を具備している。該規制手段により糸保持具A及び糸通し具8が針9の針孔9aの位置に達すると、糸通し軸21と共に糸保持具A及び糸通し具8の下降が停止される〔
図2(A)参照〕。そして、次に、糸通し軸21の周方向に回動される。
【0030】
糸通し軸21は、前述したように、糸保持具A及び糸通し具8が装着され、これらを上下動及び回動させるための部材である。そして、糸通し軸21は、糸保持具A及び糸通し具8を、針止13近傍の高さ(待機位置)から針9の針孔9aに糸を通すことのできる位置(糸通し位置)までの範囲で上下動させる〔
図2(A)参照〕。
【0031】
ガイド軸22は、前記糸通し軸21と共に、糸保持具Aと後述する糸通し具8とを相互に逆方向に回動させる役目をなす部材である。ガイド軸22は、前記糸通し軸21と共に、針棒支持枠本体1に対して同一範囲内を上下方向に移動する〔
図2(A)参照〕。
【0032】
ガイド軸22の下端には、下面にガイド溝25aを有するガイド部材25が取り付けられている。ガイド部材25の長手方向一端には、糸通し軸21が回動自在に挿入されている。ガイド部材25は、水平方向に対して不動である。つまり、ガイド部材25は、長手方向の方向が決定されたものである。ガイド部材25には、第1リンク部材26,第2リンク部材27が連結されている〔
図1(A),(B),
図7(B)参照〕。
【0033】
ガイド部材25,第1リンク部材26及び第2リンク部材27は、糸通し軸21を中心として、糸保持具Aと糸通し具8とを相互に逆(反対)方向に回動させる役目をなす部材である〔
図7(B)参照〕。第2リンク部材27の長手方向一端には、上方に向かってガイドピン28が形成されている。
【0034】
該ガイドピン28は、第1リンク部材26の長手方向一端箇所と枢支連結する。具体的には、前記ガイドピン27は、第1リンク部材26の長手方向一端側に形成された枢支孔を貫通するようにして枢支連結される〔
図7(B)参照〕。そして、ガイドピン27は、そのままガイド部材25のガイド溝25aに挿入される。ガイドピン27は水平方向に摺動自在に挿入され、第1リンク部材26と第2リンク部材27との長手方向一端同士は、前記ガイド溝25aに沿って往復移動することができる。
【0035】
第1リンク部材26の長手方向他端には糸保持具Aが連結される。また、第2リンク部材27の長手方向他端には、糸通し具8がそれぞれ連結されている。糸保持具Aは、糸保持ベース部材4,糸押圧部材5及び糸押え部7とからなる。糸保持ベース部材4は、糸保持板41と、該糸保持板41の上下両端に形成された連結腕状部42,42とからなる。両連結腕状部42,42には、前記糸通し軸21が貫通する連結孔42a,42aが形成されており、該連結腕状部42,42に糸通し軸21が挿入且つ軸周方向に固定される。
【0036】
さらに、上方側の連結腕状部42には、枢支ピン45が形成されている〔
図2(B),(C)等参照〕。該枢支ピン45の位置は、前記連結孔42aを中心にして、前記糸保持板41が形成されている側とは反対側の位置に存在する。枢支ピン45は、前記第2リンク部材27と枢支連結されている。
【0037】
糸保持具Aは、糸通し作業を行う際に、上糸Nの端部を保持しながら該上糸Nに緊張を付与すると役目をなす部材である〔
図7(A),(C),(D)参照〕。糸保持ベース部材4の糸保持板41は、糸保持具Aが待機位置にあるときに、針9に対して前面から見て左側に位置するように設けられている。
【0038】
糸保持板41には、保持溝部43が形成されている〔
図3(A),(B)参照〕。該保持溝部43は、水平方向に形成された溝である。該保持溝部43には、底面部と上面とが存在し、底面は糸保持面部44となっている。該糸保持面部44は、保持溝部43内に挿入された上糸Nが後述するバネ板部51によって押圧されるための台となる部分である。
【0039】
糸保持溝部43を有する糸保持板41は、上糸Nをバネ板部51と共に挟持できる程度の肉厚を有するものであり、該保持溝部43の水平方向の一端側では、上糸Nが導入される開口を有する案内導入口43aが形成されている〔
図3(A),(B)参照〕。また、前記保持溝部43の開口する方向としては前述したような水平方向には限定されない。
【0040】
該案内導入口43aは、開口から保持溝部43の終端側に向かって次第に上下幅が狭くなるように形成され、略横V字形状に形成されたものである。上糸Nは、保持溝部43に滑りこませるように挿入されることで、糸保持ベース部材4に挟持される。
【0041】
糸押圧部材5は、バネ板部51と被覆装着部52とから構成されている。糸押圧部材5は、被覆装着部52を前記糸保持ベース部材4の糸保持板41に被覆するようにして装着する部材である。
【0042】
バネ板部51は、糸押圧部材5が糸保持ベース部材4に装着された状態で、保持溝部43の糸保持面部44上に弾性力を有して当接する〔
図3(C)乃至(D)参照〕。前記保持溝部43の案内導入口43aの上面側から糸保持面部44に向かって傾斜状に形成されたものである。バネ板部51は、具体的には、傾斜板部51aと押え板部51bとから構成されたものであり、押え板部51bは、平坦状な面として形成され、上糸Nを糸保持面部44に押え付ける役目をなすものである。
【0043】
押え板部51bの幅方向は、保持溝部43を有す糸保持板4の肉厚寸法と同一か又は僅かに小さく形成される〔
図3(D),
図4(B),(D)等参照〕。押え板部51bの幅方向とは、バネ板部51が糸保持板41に装着された状態で、該糸保持板41の厚さ方向と同一となる方向のことである。
【0044】
押え板部51bの幅方向の少なくとも一端には、立上り片51cが形成されることがある〔
図3(B),(D)参照〕。そして、立上り片51cは、押え板部51bの幅方向両端に形成されることもある。立上り片51cは、前記押え板部51bの幅方向端縁から折曲げにより一体的に形成されたものである。押え板部51bと立上り片51cとの折曲箇所は、断面略円弧状となるように形成されることが好ましい。
【0045】
さらに、押え板部51bは幅方向に沿う断面形状を略凹状の円弧状として形成することもある〔
図5(A)参照〕。このように、押え板部51bに立上り片51cが形成されたり、或いは押え板部51bの幅方向に沿う断面形状を円弧状とすることにより、保持溝部43を通過する上糸Nは、バネ板部51によって押え付けられた状態であっても、ササクレや毛羽立ちが形成されることを防止することができる。また、押え板部51bには、前記立上り片51cが形成されない単なる平坦形状とすることもある〔
図5(B)参照〕。
【0046】
糸保持具Aには、糸外れ防止部6が設けられている。該糸外れ防止部6は、前記保持溝部43内に挿入され、且つ前記糸押圧部材5と前記糸保持面部44で挟持された上糸Nと交差するような状態で糸保持具Aに備えられた部位である。そして、糸外れ防止部6は、保持溝部43内に挿入された上糸Nが容易に、保持溝部43から抜け出さないように上糸Nが保持溝部43から抜け出す通路を遮断する。また、糸外れ防止部6は、保持溝部43内の上糸Nが保持状態から所定の方向に抜けるように規制するものである。この所定の方向とは、つまり保持溝部43から糸通し具8の鈎81aの位置する方向である。
【0047】
糸外れ防止部6は、複数の実施形態が存在する。糸外れ防止部6の第1実施形態は、前記糸保持ベース部材4の外面側で且つ上方から下方に向かって突出する突出片61が形成されたものである〔
図1(C),
図2(A),(D),
図3(A),(D),
図4,
図5等参照〕。該突出片61の下端、すなわち先端の位置は、前記保持溝部43の糸保持面部44と同一位置で且つ保持溝部43内の上糸Nと交差するように設定される〔
図3(D)参照〕。突出片61は、前記糸押圧部材5に一体的に形成された部位であり、被覆装着部52の前面側被覆部の一部と連続形成されている。
【0048】
突出片61は、略逆三角形状に形成されており、案内導入口43a側における下片の傾斜角度は小さく形成され、保持溝部43内に導入される上糸Nが円滑に移動することができるようになっている。そして、保持溝部43の糸保持面部44の幅方向端縁と、突出片61との間を上糸Nが通過するときには、突出片61が外方に向かって上糸Nの太さの分量だけめくれるよう弾性変形する〔
図6(C),(D),
図7(A)参照〕。
【0049】
前記突出片61の下端位置は、前記保持溝部43の糸保持面部44と同一位置であるとしたが、これ以外の突出片61の変形例の第1タイプとして、該突出片6の先端の位置は、前記糸保持面部44よりも下方に位置することもある〔
図4(A),(B)参照〕。このタイプでは、突出片61の先端と、糸保持面部44の位置との重なり部分の量は、極めて僅かであり、突出片61の先端が糸保持面部44の位置を僅かに超える程度でよい。この第2タイプでは、収納空隙部54に収められた上糸Nが保持溝部43から最も外れ難い構成となる。
【0050】
また、突出片61の変形例の第2タイプとして該突出片61の先端の位置は、前記糸保持面部44よりも上方に位置するように構成されることもある〔
図4(C),(D)参照〕。ただし、この実施形態では、突出片61の先端と、糸保持面部44の位置との間隔は、上糸Nの直径よりも小さいことが必要である。この実施形態では、上糸Nを保持溝部43に挿入するときに、突出片61による抵抗が最も少なく、上糸Nを収納空隙部54内に挿入し易くできる。
【0051】
次に、糸外れ防止部6の第2実施形態としては、前記糸保持面部44上に突起部62として形成されると共に、該突起部62と、前記糸押圧部材5のバネ板部51とは、相互に干渉しない構成としたものである〔
図8(A)乃至(D)参照〕。
【0052】
具体的には、保持溝部43の底面部である糸保持面部44上の開放側寄りの部分に突起部62が形成される。該突起部62は、糸保持面部44を押圧するバネ板部51とは、相互に干渉しない構造である。つまり、突起部62とバネ板部51とは、接触しない位置関係にある。この構成としたものについても複数のタイプが存在する。
【0053】
その第1タイプとして、突起部62は、略直角三角形の山形形状に形成されたものである〔
図8(A)乃至(C)参照〕。突起部62は、保持溝部43開放(始端)側における形状は小さな傾斜角度となる緩やかな傾斜面であり、突起部62の保持溝部43の奥(終端)側における形状は垂直又は急な傾斜角度となる急傾斜となっている。また突起部62の頂部は略円弧状に形成されることが好ましい。
【0054】
つまり、上糸Nを保持溝部43の開放(始端)側から挿入するときに、上糸Nが突起部62の緩傾斜面に当接しつつ頂部を乗り越えて保持溝部43の奥側に移動することができる。したがって、上糸Nは、突起部62によって、保持溝部43内に挿入し易く、反体に該保持溝部43から外れ難い構成となっている。
【0055】
上糸Nを、糸保持面部44上に押さえ付けるバネ板部51の押え板部51bには、開口孔51dが形成されている。該開口孔51dの位置は、押え板部51bが糸保持面部44上に当接したときに、前記突起部62が挿入することができる位置にある。そして、押え板部51bが糸保持面部44上に当接しようとするときには、開口孔51dに突起部62が挿入する〔
図8(B),(C)参照〕。これによって、バネ板部51と突起部62とは、相互に接触することがなく干渉しない。
【0056】
したがって、バネ板部51の押え板部51bは、糸保持面部44上に当接することができ、上糸Nを糸保持面部44上に、バネ板部51の押え板部51bによって押圧挟持することができると共に、前記開口孔51dから突出する突起部62によって上糸Nが保持溝部43から簡単に外れてしまうことを防止することができる。前記突起部62の形状は、直角三角形状としたものであるが、この形状に限定されるものではなく、円弧山形形状,台形状,三角形状或いは半円形状等としてもよい。
【0057】
次に、第2タイプとしては、糸保持面部44の幅方向(糸保持板41の肉厚方向)両側箇所に突起部62がそれぞれ形成され、バネ板部51の押え板部51bが両突起部62,62の間に入り込むように構成したものである〔
図8(D)参照〕。バネ板部51の押え板部51bは、両突起部62,62の間に入り込み、相互に接触することなく、干渉しない構造である。突起部62の形状は、前記第1タイプにおける突起部62の形状と略同一である。
【0058】
次に、糸外れ防止部6の第3実施形態としては、糸保持面部44に切欠き或いは溝形状の切欠き部63が形成されたものである〔
図8(E),(F)参照〕。該切欠き部63は、断面略扁平V字形状又は直角三角形状の溝であり、糸保持面部44の幅方向(糸保持板41の肉厚方向)に沿って形成されたものである。
【0059】
切欠き部63は、具体的には保持溝部43の開口側で垂直状に形成され、保持溝部43の終端側に向かって緩い傾斜面に形成されている。上糸Nは、バネ板部51の押え板部51bによって糸保持面部44上に押圧挟持するが、上糸Nが保持溝部43の開口側に移動しても、前記切欠き部63内に収まり、保持溝部43から上糸Nが外れることを防止することができる。
【0060】
糸押え部7は、前記糸掛け部14と前記糸保持ベース部材4に掛け渡された上糸Nに当接する部材である。糸押え部7は、上糸Nに当接することで、該上糸Nの位置を糸道を適正となるようにガイドすると共に、前記糸押圧部材5によって上糸Nの端部が固定されることで上糸Nに緊張を付与させて、針9の針孔9aの前面側に緊張した上糸Nを配置させる役目をなす〔
図7(A),(C),(D)参照〕。
【0061】
すなわち、糸保持具A及び糸通し具8が待機位置から糸通し位置に移動する際に、糸押え部7が上糸Nに引掛かるようにして当接することにより、上糸Nは針9の針孔9aの前面側に位置するようにガイドされる。
【0062】
また、糸押え部7が上糸Nに当接することにより、針孔9aの前面で、上糸Nは略直線となるように緊張される。糸押え部7は、糸保持ベース部材4と所定の位置関係を保つように設けられている。
【0063】
糸押え部7には、上糸Nに当接する面の端部から水平方向に延びるように押え爪71が形成されている。押え爪71は、糸保持ベース部材4が糸掛け部14より下側に下降されるときに、最初に上糸Nに当接する部材である。また、押え爪71の下面は、先端に行くにしたがって下方に向かう傾斜面となるように形成されている。
【0064】
糸通し具8は、糸掛け部14と糸保持ベース部材4に掛けられた上糸Nを針9の針孔9aに通すための部材である。糸通し具8と、前記糸保持具Aとは、糸通し軸21を介して対向するように設けられている。糸通し具8は、以下に説明する通り、糸保持具Aが針9の前面に保持する上糸Nを、針9の後面から針孔9aに進入して引っ掛けた後に後退することで、針孔9aに上糸Nを通すことができる構成を有している。
【0065】
糸通し具8は、
図1(C)に示すように、フック板81と、2枚の糸通し案内板82,82とからなり、フック板81が両糸通し案内板82,82に挟持されつつホルダ83に取り付けられている。フック板81の先端には鈎81aが形成され、針9の後面側から針孔9aに遊挿して、糸保持具Aによって針の前面側で緊張状態にある上糸Nを引っ掛けて針孔9aに上糸Nを通す部材である。
【0066】
ホルダ83には回動孔83aが形成され、該回動孔83aに前記糸通し軸21が貫通する。このとき、ホルダ83は、同様に糸通し軸21に装着された糸保持ベース部材4の両連結腕状部42,42の間に位置するように構成されている。糸通し具8は、前記ガイド部材25,第1リンク部材26及び第2リンク部材27によって、糸通し軸21の軸周方向に回動する。
【0067】
次に、糸通し装置による糸通し動作を説明する。まず、上糸Nの供給源から該上糸Nを引出し、該上糸Nを糸掛け部14に通過させ、糸保持具Aの糸押え部7を当接させつつ、糸保持ベース部材4の保持溝部43内に上糸Nの端部を挿入する。このとき上糸N端部は突出片61を超えて収納空隙部54に上糸N端部が移動する(
図6参照)。該上糸N端部は糸押圧部材5のバネ板部51により保持溝部43内に固定される。
【0068】
モータ駆動部のモータが駆動され、糸通し軸21とガイド軸22が下方に移動し、両糸通し軸21とガイド軸22と共に、糸保持具A及び糸通し具8が待機位置から下方に移動する。糸保持具Aの下降が始まると、糸掛け部14と糸保持ベース部材4に掛けられた上糸Nに、糸掛け部14と糸保持ベース部材4の間に位置する糸押え部7の押え爪71の下面が当接する。
【0069】
糸押え部7により、糸掛け部14と糸保持ベース部材4に掛けられた上糸Nが緊張される〔
図7(A)参照〕。糸押え部7が、糸保持ベース部材4の糸保持位置より下方に設けられている場合には、糸保持位置と同じ高さに設けられている場合に比べ、より強く緊張される。また、押え爪71の先端部分が下方側に傾斜しているため、上糸Nが糸押え部7から外れることなく、糸押え位置である押え爪71の根元側に誘導されることとなる。
【0070】
モータ駆動部により、糸保持具A及び糸通し具8が針9の針孔9aに糸を通せる位置まで下方に移動される。糸通し位置まで下降された糸保持具Aにおいては、糸掛け部14と糸保持ベース部材4に掛けられた上糸Nは、糸押え部7により針9の針孔9aの前面に空間を介して位置するようにガイドされる。また、糸押え部7により、上糸Nは針孔9aの前面で略直線状に張られ、糸通し動作に充分な緊張状態を保つことができる〔
図7(A),(C),(D)参照〕。
【0071】
そして、そのまま、モータ駆動部が駆動を続けることで、糸通し具8のフック板81の先端が針孔9aに挿通し、鈎81aが緊張した上糸Nを係止すると、鈎81aは、針孔9aから抜け出し、上糸Nを針9の針孔9aに通すことができる〔
図7(B),(C)参照〕。
【0072】
本発明は、本縫ミシンや多針ミシンなどの各種ミシンに適用することができ、従来および将来利用可能なミシンに適用することが可能である。