【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 一般社団法人電子情報通信学会 電子情報通信学会技術報告研究信学技報 Vol.113 No.349 2013年12月6日発行 (刊行物等) 電子情報通信学会 応用音響研究会 2013年12月13日〜14日開催 (刊行物等) 2014 IEEE International Conference on Acoustics,Speech,and Signal Processing(ICASSP)2014年5月4日〜9日開催 (刊行物等) 2014 IEEE International Conference on Acoustics,Speech,and Signal Processing(ICASSP)予稿集(USB)2014年5月4日発行(配布)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記モデル化手段は位置が異なる複数の矩形窓でモデル化した音圧モデルを求め、前記導出手段は当該複数の矩形窓でモデル化した音圧モデルに従って前記空間フィルタ関数を導出する、請求項1記載の局所音響再生装置。
複数のスピーカを互いに間隔を隔てて直線状に配置した直線スピーカアレイを用いる局所音響再生装置のコンピュータによって実行される局所音響再生プログラムであって、前記局所音響再生プログラムは、前記コンピュータを、
再生位置における音圧を任意幅の矩形窓でモデル化して音圧モデルを求めるモデル化手段、
前記音圧モデルに基づいて前記複数のスピーカの各々の空間フィルタ関数を導出する導出手段、および
音源および前記空間フィルタ関数に基づいて前記複数のスピーカのための駆動信号を生成して、各スピーカを駆動する駆動手段
として機能させる、局所音響再生プログラム。
前記モデル化手段は位置が異なる複数の矩形窓でモデル化した音圧モデルを求め、前記導出手段は当該複数の矩形窓でモデル化した音圧モデルに従って前記空間フィルタ関数を導出する、請求項3記載の局所音響再生プログラム。
直線状に配置された多数のスピーカから成る直線スピーカアレイを用いて該直線スピーカアレイに対して任意の位置で任意の幅の局所に音響を再生する局所音響再生装置であって、
上記直線スピーカアレイのスピーカの並びに平行に音響が聞こえる幅を規定する幅規定手段と、
上記直線スピーカアレイのスピーカの並びに対して平行な位置で音響が聞こえる位置を規定する位置規定手段と、
上記幅規定手段および位置規定手段によって設定される幅および位置に基づいて空間フィルタ関数を解析的に導出する手段と、
上記空間フィルタ関数と音源とによって駆動信号を生成して上記直線スピーカアレイの各スピーカを駆動するスピーカ駆動手段とを備える、局所音響再生装置。
直線状に配置された複数のスピーカから成る直線スピーカアレイを用いて該直線スピーカアレイに対して任意の位置で任意の幅の局所に音響を再生する局所音響再生装置のコンピュータによって実行される局所音響再生プログラムであって、前記局所音響再生プログラムは、前記コンピュータを、
上記直線スピーカアレイのスピーカの並びに平行に音響が聞こえる幅を規定する幅規定
手段、
上記直線スピーカアレイのスピーカの並びに対して平行な位置で音響が聞こえる位置を規定する位置規定手段、および
上記幅規定手段および位置規定手段によって設定される幅および位置に基づいて空間フィルタ関数を解析的に導出する手段と、
上記空間フィルタ関数と音源とによって駆動信号を生成して上記直線スピーカアレイの各スピーカを駆動するスピーカ駆動手段として機能させる、局所音響再生プログラム。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
コントラスト最大化法を採用する非特許文献1では、各スピーカと制御点間の空間相関行列の逆行列演算を用いるが、音響逆問題は極めて悪条件であるため、計算により得られた解は不安定となる。この問題を解決するためには、空間相関行列の正則化が必要であるが、適切な正則化パラメータにも限界があり、さらにはパラメータ決定のためには各パラメータ毎の反復計算が必要となる。
【0006】
それに対して、非特許文献2のようなエネルギ差最大化法(Acoustic energy difference maximization: EDM)では、空間相関行列の逆行列ではなく、固有ベクトルの計算に基づくため、解の不安定という問題はなく、非特許文献1のものより高い精度で局所音響再生を実現している。
【0007】
しかし、この方法ではチューニング係数を周波数毎に決める必要があるため、正則化問題と同様、適切な係数を決めるための反復計算が必要となる。
【0008】
それゆえに、この発明の主たる目的は、新規な、局所音響再生装置およびプログラムを提供することである。
【0009】
この発明の他の目的は、煩瑣な計算を不要として、精度の高い局所音響再生を可能にする、局所音響再生装置およびプログラムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記の課題を解決するために、以下の構成を採用した。なお、括弧内の参照符号および補足説明等は、本発明の理解を助けるために後述する実施の形態との対応関係を示したものであって、本発明を何ら限定するものではない。
【0011】
第1の発明は、複数のスピーカを互いに間隔を隔てて直線状に配置した直線スピーカアレイを用いる局所音響再生装置であって、再生位置における音圧を任意幅の矩形窓でモデル化して音圧モデルを求めるモデル化手段、音圧モデルに基づいて複数のスピーカの各々の空間フィルタ関数を導出する導出手段、および音源および空間フィルタ関数に基づいて複数のスピーカのための駆動信号を生成して、各スピーカを駆動する駆動手段を備える、局所音響再生装置である。
【0012】
第1の発明では、局所音響再生装置(10:実施例において相当する部分を例示する参照符号。以下、同様。)は、複数のスピーカ(14
1、14
2、…、14
N)を互いに間隔(Δx)を隔てて直線状に配置した直線スピーカアレイ(12)を用いる。モデル化手段(16)は、たとえば、この直線スピーカアレイ(12)に平行な再生位置(y
b)における音圧(p)を任意幅(l
b)の矩形窓でモデル化して音圧モデル(たとえば、数[9])を求める。導出手段(16)は、この音圧モデル(p)に基づいて、たとえば空間フーリエ変換等の手法を用いて、複数のスピーカの各々の空間フィルタ関数(f
i:たとえば数[12])を解析的に導出する。そして、駆動手段(16)は、音源(s)および空間フィルタ関数(f
i)に基づいて複数のスピーカ(14
i)のための駆動信号(d
i)を生成し、その駆動信号(d
1、d
2、…、d
N)で各スピーカ(14
1、14
2、…、14
N)を駆動する。
【0013】
第1の発明によれば、空間フィルタ関数を解析的に導出できるので、煩瑣な計算は不要で、しかも高い精度でブライト領域およびダーク領域を設定して、局所音響再生を行うことができる。
【0014】
第2の発明は、第1の発明に従属し、モデル化手段は位置が異なる複数の矩形窓でモデル化した音圧モデルを求め、導出手段は当該複数の矩形窓でモデル化した音圧モデルに従って空間フィルタ関数を導出する、局所音響再生装置である。
【0015】
第2の発明では、モデル化手段(16)は、位置が異なる複数の矩形窓で音圧モデルを求め、導出手段(16)は、各音圧モデルに従って空間フィルタ関数を解析的に導出する。
【0016】
第2の発明によれば、ブライト領域が異なる、いわゆるマルチ局所音響再生が可能になる。
【0017】
第3の発明は、複数のスピーカを互いに間隔を隔てて直線状に配置した直線スピーカアレイを用いる局所音響再生装置のコンピュータによって実行される局所音響再生プログラムであって、局所音響再生プログラムは、コンピュータを、再生位置における音圧を任意幅の矩形窓でモデル化して音圧モデルを求めるモデル化手段、音圧モデルに基づいて複数のスピーカの各々の空間フィルタ関数(f)を導出する導出手段、および音源および空間フィルタ関数に基づいて複数のスピーカのための駆動信号を生成して、各スピーカを駆動する駆動手段として機能させる、局所音響再生プログラムである。
【0018】
第3の発明においても、第1の発明と同様の効果が期待できる。
【0019】
第4の発明は、第3の発明に従属し、モデル化手段は第1が異なる複数の矩形窓でモデル化した音圧モデルを求め、導出手段は当該複数の矩形窓でモデル化した音圧モデルに従って空間フィルタ関数を導出する、局所音響再生プログラムである。
【0020】
第4の発明においても、第2の発明と同様の効果が期待できる。
【0021】
第5の発明は、直線状に配置された多数のスピーカから成る直線スピーカアレイを用いて該直線スピーカアレイに対して任意の位置で任意の幅の局所に音響を再生する局所音響再生装置であって、直線スピーカアレイのスピーカの並びに平行に音響が聞こえる幅を規定する幅規定手段と、直線スピーカアレイのスピーカの並びに対して平行な位置で音響が聞こえる位置を規定する位置規定手段と、幅規定手段および位置規定手段によって設定される
幅および位置に基づいて空間フィルタ関数
を解析的に導出する手段と、空間フィルタ関数と音源とによって駆動信号を生成して直
線スピーカアレイの各スピーカを駆動するスピーカ駆動手段と、を備える、局所音響再生装置である。
【0022】
第5の発明では、局所音響再生装置(10)は、複数のスピーカ(141、142、…、14N)を互いに間隔(Δx)を隔てて直線状に配置した直線スピーカアレイ(12)を用いる。幅規定手段(16)は、たとえばブライト領域を設定すべき、直線スピーカアレイのスピーカの並び(x方向)に平行に音響が聞こえる幅(lb)を規定する。そして、位置規定手段(16)は、たとえばブライト領域を設定すべき、直線スピーカアレイのスピーカの並び(x方向)に平行に音響が聞こえる位置(xb)を規定する。
導出手段は、幅規定手段および位置規定手段によって設定される幅および位置に基づいて空間フィルタ関数を解析的に導出する。スピーカ駆動手段(16)は、
そのようにして導出した空間フィルタ関数(fi)およびたとえば音源ユニット(18)から与えられる音源(s)に基づいて駆動信号(di)を生成し、その駆動信号で各スピーカを駆動する。
【0023】
第5の発明によれば、幅および位置を規定することによって空間フィルタ関数を解析的に導出できるので、煩瑣な計算は不要で、しかも高い精度でブライト領域およびダーク領域を設定して、局所音響再生を行うことができる。
【0024】
第6の発明は、第5の発明に従属し、直線スピーカアレイからの距離を規定する距離規定手段をさらに備え、空間フィルタ関数はさらに距離規定手段によって設定される、局所音響再生装置である。
【0025】
第6の発明では、距離規定手段(16)は、直線スピーカアレイに直交する方向での直線スピーカアレイからの距離(y
b)を規定する。そして、空間フィルタ関数はさらにその距離規定手段によって設定され、駆動信号は、その空間フィルタ関数と音源とによって生成される。
【0026】
第6の発明によれば、距離規定手段によって距離を規定するので、精度がより高くなる。
【0027】
第7の発明は、直線状に配置された複数のスピーカから成る直線スピーカアレイを用いて該直線スピーカアレイに対して任意の位置で任意の幅の局所に音響を再生する局所音響再生装置のコンピュータによって実行される局所音響再生プログラムであって、局所音響再生プログラムは、コンピュータを、直線スピーカアレイのスピーカの並びに平行に音響が聞こえる幅を規定する幅規定手段、直線スピーカアレイのスピーカの並びに対して平行な位置で音響が聞こえる位置を規定する位置規定手段、および幅規定手段および位置規定手段によって設定される
幅および位置に基づいて空間フィルタ関数
を解析的に導出する手段と、空間フィルタ関数と音源とによって駆動信号を生成して直
線スピーカアレイの各スピーカを駆動するスピーカ駆動手段として機能させる、局所音響再生プログラムである。
【0028】
第7の発明においても、第5の発明と同様の効果が期待できる。
【0029】
第8の発明は、第7の発明に従属し、さらに、コンピュータを、直線スピーカアレイからの距離を規定する距離規定手段として機能させ、
導出手段は、さらに距離規定手段によって設定された距離を用いて上記空間フィルタ関数を導出する、局所音響再生プログラムである。
【0030】
第8の発明においても、第6の発明と同様の効果が期待できる。
【発明の効果】
【0031】
この発明によれば、空間フィルタ関数を解析的に導出できるので、煩瑣な計算なしに、精度の高い局所音響再生が行える。
【0032】
この発明の上述の目的,その他の目的,特徴および利点は、図面を参照して行う。以下の実施例の詳細な説明から一層明らかとなろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
図1はこの発明の一実施例の局所音響再生装置を示す概略図である。この実施例の局所音響再生装置10は、直線状にスピーカを多数配置した直線スピーカアレイ12を用いる。直線スピーカアレイ12は、複数(実施例では、N=64個)のスピーカ14
1、14
2、…、14
Nを所定間隔、たとえば5cm毎に直線状に配置したものであり、各スピーカ14は一例として1インチ(2.5cm)の口径を有する。ただし、これらの数値は適宜変更可能である。
【0035】
たとえばコンピュータからなる駆動装置(コンピュータ)16は、適宜の記憶媒体(メモリ、HDD、光ディスクやネットワークなどの音源ユニット18から与えられる音源s(ω)に基づく駆動信号d
1、d
2、…、d
Nを作成し、これらの駆動信号によって、各スピーカ14
1、14
2、…、14
Nが駆動される。
【0036】
なお、この発明が向けられる局所音響再生において、「音響」とは、音声、音楽その他、音に関する音信号を意味しており、上述の音源18から音信号を駆動装置16に与える。
【0037】
ただし、この実施例では、直線スピーカアレイ12の前に存在する聴取者P1、P2、P3、…のうち、一例として、聴取者P2にのみ音源sを聞かせ、他の聴取者には聞かせない、という局所音響再生を行う。ここで、音源sを聞かせる領域を
図1では「Bright(ブライト)」と表現し、聞かせない領域を「Dark(ダーク)」と表現する。ブライト領域では、その領域に存在する聴取者は、1人でも複数人でも、すべての聴取者が音源を聴取できる。
【0038】
このようなブライト領域およびダーク領域を形成するために、この実施例では、駆動装置すなわちコンピュータ16は、後に説明するように、スピーカ14毎の空間フィルタ関数F
iを計算し、その空間フィルタ関数と音源s(ω)とを乗算することによって、各スピーカのための駆動信号d
iを生成する。そして、生成した各スピーカ用の駆動信号d
1、d
2、…、d
Nで各スピーカ14
1、14
2、…、14
Nを駆動する。
【0039】
図2は、
図1実施例の前提としてのSDMによる音場再現を示す概略図である。ただし、
図1実施例は有限個のスピーカ14
1、14
2、…、14
Nからなる直線スピーカアレイ12を用いるが、以下の説明では、計算のために、無限に連続した直線スピーカ(無限直線二次音源)を想定して音場再現を考える。
【0040】
ただし、SDMについては、参考文献1(J. Ahrens, and S. Spors,“Sound field reproduction using planar and linear arrays of loudspeakers,”IEEE Trans. Audio, Speech, Lang. Process., vol. 18, no. 8, pp. 2038-2050, Nov. 2010.)に詳しい。
【0041】
無限直線二次音源はx軸上(y=0)にあると仮定し、z軸は省略する。周波数をfとし、角周波数をω=2πfとし、無限直線二次音源の位置x
0=[x,0]
Tにおける駆動信号をd(x0,ω)とすると,位置x=[x,y]
Tでの音圧p(x,ω)は、数[1]で与えられる。
【0042】
なお、以下の各式において、フーリエ変換前の関数をアルファベットの小文字で表現し、フーリエ変換後の関数を、「^(ハット)」を用いる代わりに、大文字で表現する。
【0043】
【数1】
【0044】
ここで、
【0045】
【数2】
【0046】
は、無限直線二次音源からの音声を伝達する特性を示す3次元グリーン関数であり、j=√−1であり、k=ω/cは波数を示し、cは音速を示す。ただし、ここでは、反射などは考慮していない。
【0047】
数[1]は、無限直線二次音源の前方の受音位置y
refにおける各スピーカからの音圧を合計した音圧pを示し、この数[1]をx軸方向に空間フーリエ変換すると、畳み込みの定理より、数3が得られる。
【0048】
【数4】
【0049】
ここで、k
xはx軸方向の空間周波数、D(k
x,ω)は駆動信号のフーリエ変換、G(k
x,y,ω)は3次元グリーン関数g
3D(x−x0,ω)の空間フーリエ変換であり、数[4]で表わされる。
【0050】
ただし、空間フーリエ変換については、たとえば、参考文献2(E. G. Williams, Fourier Acoustics: Sound Radiation and Nearfield Acoustic Holography, London: Academic Press, 1999.)を参照されたい。
【0051】
空間フーリエ変換することによって、受音位置における各方向からの波の成分量が得られる。
【0052】
【数4】
【0053】
H
0(2)およびk
0はそれぞれ0次の第2種ハンケル関数および0次の変形ベッセル関数を示す。
【0054】
したがって、
図2に示すようにx軸と平行に連続した受音位置(y=y
ref)における音圧の空間フーリエ変換をP(k
x,y
ref,ω)とすると、SDMでは、波数領域における無限直線二次音源の駆動信号D(k
x,ω)は、数[3]より、数[5]として解析的に求めることができる。つまり、受音位置y
refにおけるSDMに基づく無限直線二次音源からの音場が数[5]で求められる。つまり、SDMにおいて、数[5]のように、音圧pおよび伝達関数gをフーリエ変換することによって、駆動信号Dが求まることは既に、上記した参考文献1において公知である。
【0055】
【数5】
【0056】
以上を前提にして、次に、
図1実施例のように、駆動装置すなわちコンピュータ16によって、ブライト領域およびダーク領域を形成するための手法について、説明する。
【0057】
図2に示す無限直線二次音源を用いて、或る領域にのみ音源s(ω)を再現するための各スピーカのフィルタをf(x
0,ω)とすると、無限直線二次音源の駆動信号d(x
0,ω)は、数[6]として記述できる。
【0058】
【数6】
【0059】
ただし、
図1に示す音源ユニット18から供給される音源sは任意の音源であってよく、モノラル音源を想定している。
【0060】
この実施例では、数[6]において最適なフィルタf(x
0,ω)を設計することにより、音源s(ω)の
図1実施例のような局所音響再生を実現する。
【0061】
フィルタは音源に依存しないため,s(ω)=1とする。よって、フィルタf(x
0,ω)による受音位置y=y
refにおける音場の空間フーリエ変換は,数[3]により、数[7]となる。
【0062】
【数7】
【0063】
したがって、数[5]と同様に、波数領域の空間フィルタF(k
x,ω)は、数[8]となる。この数[8]で示す空間フィルタFは、スピーカ毎のフィルタ関数fを空間フーリエ変換した結果を示す。
【0064】
【数8】
【0065】
多点制御法において局所音響再生するためには、音の聞こえる場所の音圧を「1」とし、聞こえない場所を「0」としている。そこで、この実施例では、
図3に示すように、x=0を中心にy=y
bの距離に幅l
bの局所音響再生を実現するために、y=y
bにおける音圧p(x,y
y)を聞こえるところを「1」、聞こえないところを「0」とする音圧分布の矩形窓で以下のようにモデル化し、コンピュータ16は、数[9]に示す音圧モデルを求める。その意味で、数[9]に応じて音圧モデルを計算するコンピュータ16は、モデル化手段として機能しているということができる。
【0066】
【数9】
【0067】
この矩形窓は周波数に依存しないためωは省略できる。
【0068】
そして、矩形窓p(x,y
b)のx軸方向の空間フーリエ変換(参考文献2参照)は、数[10]の通りである。
【0069】
【数10】
【0070】
さらに、局所音響再生を任意の位置x
bで実現するためには、シフトの定理(参考文献2参照)により、数[10]は、数[11]となる。
【0071】
【数11】
【0072】
したがって、数[11]を数[8]に代入すると、波数領域における無限直線二次音源による局所再生フィルタF(k
x,ω)は、数[12]として解析的に導出できる。
【0073】
【数12】
【0074】
この空間フィルタリングにより、無限直線二次音源を用いて任意の位置[x
b,y
b]
Tに任意の幅l
bの領域の局所音響再生を実現できる。このように、駆動装置すなわちコンピュータ16は、無限直線二次音源の方向(実施例では、直線スピーカアレイ12のスピーカ14の並び方向)における位置x
bと窓幅l
bを設定することによって、空間フィルタを導出する。したがって、コンピュータ16は、位置規定手段および幅規定手段として機能しているということができる。さらに、駆動装置すなわちコンピュータ16は、直線スピーカアレイ12からの距離(y
b)を用いて、空間フィルタを導出する。したがって、コンピュータ16は、距離規定手段としても機能する。
【0075】
上記数[7]の前提として音源s=1としたが、実際に
図1の各スピーカ14
1、14
2、…、14
Nを駆動するためには、駆動装置すなわちコンピュータ16は、数[12]で導出した空間フィルタ関数fと音源sとによって数[13]に従って駆動信号dを生成する。
[数13]
d
i=s
if
i
そして、駆動装置すなわちコンピュータ16は、数[13]で各スピーカ毎に生成した駆動信号d
1、d
2、…、d
Nによって、スピーカ14
1、14
2、…、14
Nを駆動する。したがって、駆動装置すなわちコンピュータ16は、駆動手段として機能している。
【0076】
数[12]までは計算のために無限直線二次音源を想定したが、数[12]を用いた局所音響再生を
図1に示すように、有限個N(実施例では64個)のスピーカ14
1、14
2、…、14
Nを直線上に配置した直線スピーカアレイ12を用いて実現する。そのためには数[12]を離散化し、有限長で打ち切る必要がある。
【0077】
ここで、直線スピーカアレイ12のチャネル数(スピーカの個数)をNとし、素子間隔をΔxとすると、アレイ長はL=(N-1)Δxとなる.数[12]の離散逆フーリエ変換(IDFT)は、数[14]で得られる。
【0078】
【数14】
【0079】
ここで、x=nΔxであり、k
x=2πm=/NΔxであり、−N/2≦n≦N/2−1である。
【0080】
近接音響ホログラフィ(参考文献2)では、アレイの開口長の打ち切りによる誤差を低減するために、音圧収録面の開口長の両端に仮想的に「0」を挿入し、開口長の2倍以上の長さの面を用いて2N以上の点を用いてDFTを計算する。この方法と同様に、
図1実施例においても、
図5に示すように、音圧分布の矩形窓の長さをアレイ長の2倍である2Lとし、2N点を用いたIDFTにより数[14]を計算する。
【0081】
そして、得られた2Nチャネルの駆動信号のうち、中心のNチャネル分を実際の駆動信号として用いる。
図1実施例でいえば、128チャネルの駆動信号のうちの中心の64チャネル分を駆動信号dとする。このようにして、数[12]を離散逆フーリエ変換することによって、実際の駆動信号dを計算する。
【0082】
図1の実施例では、直線スピーカアレイ12からの音を聴取者P2(の領域)にのみ再生し、他の聴取者では聞き取れないようにした。つまり、聴取者P2のための1つのブライト領域を形成した。これによって、1つの音源を聴取者P2にのみ再生できる。
【0083】
これに対して、
図4の実施例では、2つの音源ユニット181および182を設け、各音源ユニット181および182から2つの音源s
1(ω)および音源s
2(ω)を駆動装置すなわちコンピュータ16に与える。他方、以下に説明する方法に従って、聴取者P2に対する第1のブライト領域と、聴取者P1に対する第2のブライト領域を設定する。そして、第1のブライト領域ではたとえば英語の音源s
1(ω)を再生し、第2のブライト領域ではたとえば日本語の音源s
2(ω)を再生する。したがって、この実施例は、先の
図1の実施例と同様に、たとえばパーソナルオーディオシステム、美術館やオリンピックなどでの多言語同時ガイド、その他バーチャルリアリティ技術などに応用可能である。
【0084】
また、特急列車や普通列車が共通に停車する駅のプラットホームにおいて、特急列車乗車予定者が並ぶ位置と普通列車のそれとが異なる場合が多々あるが、このような場合に、
図4に示す実施例を応用して、たとえば特急列車に乗る人P1に対して第1ブライト領域を設定して特急列車向けのアナウンス(音源s
1)を流し、それと同時に普通列車に乗る人P2に対して第2のブライト領域を設定して普通列車向けのアナウンス(音源s
2)を流すことによって、それぞれの乗車予定者が誤乗車することなく正しい列車に乗車することが可能となる。
【0085】
このように、M個の音源s
i(ω)をM箇所別々のブライト領域で再生するマルチ局所音響再生を実現するためには、
図2のように、数[12]で導出された各局所音響再生位置でのフィルタf
iと、対応する音源s
iの組み合わせs
i(ω)f
i(x
0,ω)の重ね合わせにより、駆動信号を数[15]で得る。つまり、
図4の実施例では、駆動装置すなわちコンピュータ16は、受音位置y=y
bにおいて、スピーカ14の配列方向すなわちx方向において異なる2つの位置において、矩形窓を設定し、それぞれの矩形窓について数[12]で導出した空間フィルタ関数と、音源ユニット181および182からの音源s
1およびs
2とで駆動信号d
iを生成する。
【0086】
【数15】
【0087】
つまり、数[15]に従って、
図4に示す実施例において、駆動装置すなわちコンピュータ16は、音源s
iと各スピーカ14
iの空間フィルタf
iによって各スピーカ14
1、14
2、…、14
Nのための駆動信号d
1、d
2、…、d
Nを生成して、各スピーカを駆動する。
【0088】
ただし、先の説明では、複数の音源を複数のブライト領域で局所的に再生するようにしたが、1つの音源を複数のブライト領域で局所的に再生する場合でも、
図4に示す実施例を利用可能であることは勿論である。つまり、
図4に示す実施例は、複数のブライト領域を個別に設定する実施例である。
【0089】
また、
図4では、2つのブライト領域が直線スピーカアレイ12から異なる聴取位置に設定されているように描かれているが、これは単に図解のためであり、実際には2つのブライト領域は同じ距離y=y
b上に設定されるものであることに留意されたい。
【0090】
ここで、コンピュータシミュレーションによって、この発明の有効性を検証する。局所音響再生精度を従来法の1つであるEDMと比較する。
【0091】
EDMではNチャネルのスピーカを用いてKチャネルの制御点を制御する。各スピーカ位置をx
spとし、制御点位置をx
coとすると、各スピーカと制御点間の空間相関行列は、
【0092】
【数16】
【0093】
として計算される。ここで、
【0094】
【数17】
【0095】
である。
【0096】
EDMでは、各スピーカと局所音響再生領域の制御点との空間相関行列をr
b(ω)、各スピーカと無音領域の制御点との空間相関行列をr
d(ω)とし、各スピーカのフィルタf(ω)は、
【0097】
【数18】
【0098】
の最大固有値に対応する固有ベクトルとして計算される。ここで、αはチューニング係数であり、角周波数ω毎に設定する。
【0099】
コンピュータシミュレーションによって、3次元自由音場を仮定した局所音響再生の精度を評価する。各スピーカは無指向性の点音源を仮定する。シミュレーション条件およびスピーカと局所音響再生制御ライン配置をそれぞれ表1および
図6に示す。スピーカアレイはx軸上にx=0を中心に配置される。x<0をブライト領域(x
b,
p=1)とし、x>0をダーク領域(x
d,p=0)とする。EDMでは、制御点をy=y
b(=2m)上にスピーカと平行して設置し、x<0の領域の32チャネルを局所音響再生の制御点x
bとし、残り半分の32チャネルを無音制御領域の制御点x
dとして数[17]を計算する。
【0100】
チューニング係数は予備検討により、x
b領域とx
d領域間でエネルギ差が最大となるように設定した。直線スピーカアレイを用いた場合、周波数に依存せず、α=0.9999で最大となった。
【0101】
【表1】
【0102】
たとえば
図1実施例の方法では、数[12]の窓関数の長さを2Lとし、2N=128点のIDFTにより数[14]を計算する。得られた128チャネルのd(x
0,ω)のうち、中心の64チャネルを実際の駆動信号として用いる。
【0103】
局所音響再生の位置による精度を評価するため、位置xにおける音圧レベルPSPL(x)を、数[19]のように定義する。
【0104】
【数19】
【0105】
ここで、p(x,ω)は位置x、角周波数ωの音圧である。
【0106】
また、局所音響再生領域x
bと無音制御領域x
d間の音圧レベルを評価するために、ブライト領域対ダーク領域比(Bright to dark ratio:BDR)を、数[20]のように定義する。
【0107】
【数20】
【0108】
それぞれの領域は
図5に示すようにy=y
bを中心とし、幅0.4m、長さはL/2=1.6mとして計算した。
【0109】
シミュレーション結果である音圧レベルの結果を
図7に示し、BDRの結果を
図8および
図9に示す。これらの結果より、特に1000Hz以上では実施例の方がEDMよりも精度よく局所音響再生を実現できることがわかる。また、
図8および
図9の結果より、EDMでは周波数が高くなるにつれて局所音響再生の幅が狭くなるのに対して、実施例では周波数に依存せず、設定した幅の局所音響再生を実現できることが確認できる。
【0110】
以上より、実施例に従った空間フィルタリングにより、設定した局所音響再生位置を効果的に制御することができる。
【0111】
なお、上で挙げた寸法などの具体的数値は、いずれも単なる一例であり、製品の仕様などの必要に応じて適宜変更可能である。