特許第6386257号(P6386257)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6386257樹脂フィルムの製造方法、及び樹脂フィルムロールの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6386257
(24)【登録日】2018年8月17日
(45)【発行日】2018年9月5日
(54)【発明の名称】樹脂フィルムの製造方法、及び樹脂フィルムロールの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 71/00 20060101AFI20180827BHJP
【FI】
   B29C71/00
【請求項の数】16
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2014-119265(P2014-119265)
(22)【出願日】2014年6月10日
(65)【公開番号】特開2015-231699(P2015-231699A)
(43)【公開日】2015年12月24日
【審査請求日】2017年5月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】000108410
【氏名又は名称】デクセリアルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100113424
【弁理士】
【氏名又は名称】野口 信博
(72)【発明者】
【氏名】前川 欣之
(72)【発明者】
【氏名】堀井 明宏
(72)【発明者】
【氏名】川村 智
(72)【発明者】
【氏名】林 弘志
(72)【発明者】
【氏名】須賀田 宏士
(72)【発明者】
【氏名】平田 一樹
【審査官】 中山 基志
(56)【参考文献】
【文献】 特開平08−142210(JP,A)
【文献】 特開2012−071540(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C71/00−71/04
B29C47/00−47/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂フィルムと間紙とを摺動可能に着きあわせて一体に搬送し、
上記樹脂フィルム及び上記間紙をロール状に巻回し、上記樹脂フィルムと上記間紙とが交互に積層された樹脂フィルムロールの製造方法において、
上記樹脂フィルムは環状オレフィン系樹脂組成物フィルムであり、上記間紙はPETであり、
上記樹脂フィルムがロール状に巻回された原反ロールが形成され、上記原反ロールの形成後、上記樹脂フィルムロールの形成工程までのリードタイムが48時間以内であり、
上記樹脂フィルムロールの形成後、96時間以上の保存時間を設け、
上記樹脂フィルムの表面粗さよりも上記間紙の表面粗さが粗く、
上記樹脂フィルムの表面粗さ(Ra1)と上記間紙の表面粗さ(Ra2)は、以下の関係を満たす樹脂フィルムロールの製造方法。
Ra2/Ra1=6〜40
【請求項2】
上記請求項1に記載の上記リードタイム及び上記保存時間に代えて、
上記リードタイムが15時間以内であり、
72時間以上の上記保存時間を設ける請求項1に記載の樹脂フィルムロールの製造方法。
【請求項3】
上記請求項1に記載の上記リードタイム及び上記保存時間に代えて、
上記リードタイムが3時間以内であり、
48時間以上の上記保存時間を設ける請求項1に記載の樹脂フィルムロールの製造方法。
【請求項4】
上記請求項1に記載の上記リードタイム及び上記保存時間に代えて、
上記リードタイムが2時間以内であり、
24時間以上の上記保存時間を設ける請求項1に記載の樹脂フィルムロールの製造方法。
【請求項5】
上記樹脂フィルムの表面粗さ(Ra1)は1〜3nmであり、
上記間紙の表面粗さ(Ra2)は、30〜40nmである請求項1〜4のいずれか1項に記載の樹脂フィルムロールの製造方法。
【請求項6】
樹脂フィルムと間紙とを摺動可能に着きあわせて一体に搬送し、
上記樹脂フィルム及び上記間紙をロール状に巻回し、上記樹脂フィルムと上記間紙とが交互に積層された樹脂フィルムロールの製造方法において、
上記樹脂フィルムは環状オレフィン系樹脂組成物フィルムであり、上記間紙は鏡面PETであり、
上記樹脂フィルムがロール状に巻回された原反ロールが形成され、上記原反ロールの形成後、上記樹脂フィルムロールの形成工程までのリードタイムが48時間以内であり、
上記樹脂フィルムロールの形成後、常温よりも高温の環境温度下において24時間以上の保存時間を設け、
上記樹脂フィルムの表面粗さ(Ra1)と上記間紙の表面粗さ(Ra2)は、以下の関係を満たす樹脂フィルムロールの製造方法。
Ra2/Ra1=0.8〜10
【請求項7】
上記樹脂フィルムの表面粗さ(Ra1)は1〜5nmであり、
上記間紙の表面粗さ(Ra2)は、4〜10nmである請求項6に記載の樹脂フィルムロールの製造方法。
【請求項8】
上記樹脂フィルムロールは、常温よりも高く、上記樹脂フィルムのガラス転移温度以下の温度環境下で保存される請求項1〜7のいずれか1項に記載の樹脂フィルムロールの製造方法。
【請求項9】
樹脂フィルムと間紙とを着きあわせて一体に搬送し、
上記樹脂フィルム及び上記間紙をロール状に巻回し、上記樹脂フィルムと上記間紙とが交互に積層された樹脂フィルムロールとし、
上記樹脂フィルムロールを所定時間、保存する樹脂フィルムの製造方法において、
上記樹脂フィルムは環状オレフィン系樹脂組成物フィルムであり、上記間紙はPETであり、
上記樹脂フィルムがロール状に巻回された原反ロールが形成され、上記原反ロールの形成後、上記樹脂フィルムロールの形成工程までのリードタイムが48時間以内であり、
上記樹脂フィルムロールの形成後、96時間以上の保存時間を設け、
上記樹脂フィルムの表面粗さよりも上記間紙の表面粗さが粗く、
上記樹脂フィルムの表面粗さ(Ra1)と上記間紙の表面粗さ(Ra2)は、以下の関係を満たす樹脂フィルムの製造方法。
Ra2/Ra1=6〜40
【請求項10】
上記請求項に記載の上記リードタイム及び上記保存時間に代えて、
上記リードタイムが15時間以内であり、
72時間以上の上記保存時間を設ける請求項に記載の樹脂フィルムの製造方法。
【請求項11】
上記請求項に記載の上記リードタイム及び上記保存時間に代えて、
上記リードタイムが3時間以内であり、
48時間以上の上記保存時間を設ける請求項に記載の樹脂フィルムの製造方法。
【請求項12】
上記請求項に記載の上記リードタイム及び上記保存時間に代えて、
上記リードタイムが2時間以内であり、
24時間以上の上記保存時間を設ける請求項に記載の樹脂フィルムの製造方法。
【請求項13】
上記樹脂フィルムの表面粗さ(Ra1)は1〜3nmであり、
上記間紙の表面粗さ(Ra2)は、30〜40nmである請求項9〜12のいずれか1項に記載の樹脂フィルムの製造方法。
【請求項14】
樹脂フィルムと間紙とを着きあわせて一体に搬送し、
上記樹脂フィルム及び上記間紙をロール状に巻回し、上記樹脂フィルムと上記間紙とが交互に積層された樹脂フィルムロールとし、
上記樹脂フィルムロールを所定時間、保存する樹脂フィルムの製造方法において、
上記樹脂フィルムは環状オレフィン系樹脂組成物フィルムであり、上記間紙は鏡面PETであり、
上記樹脂フィルムがロール状に巻回された原反ロールが形成され、上記原反ロールの形成後、上記樹脂フィルムロールの形成工程までのリードタイムが48時間以内であり、
上記樹脂フィルムロールの形成後、常温よりも高温の環境温度下において24時間以上の保存時間を設け、
上記樹脂フィルムの表面粗さ(Ra1)と上記間紙の表面粗さ(Ra2)は、以下の関係を満たす樹脂フィルムの製造方法。
Ra2/Ra1=0.8〜10
【請求項15】
上記樹脂フィルムの表面粗さ(Ra1)は1〜5nmであり、
上記間紙の表面粗さ(Ra2)は、4〜10nmである請求項14に記載の樹脂フィルムの製造方法。
【請求項16】
上記樹脂フィルムロールは、常温よりも高く、上記樹脂フィルムのガラス転移温度以下の温度環境下で保存される請求項9〜15のいずれか1項に記載の樹脂フィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂フィルムがロール状に巻回された樹脂フィルムロールの製造方法に関し、特にうねり痕が発生した場合に、間紙を介してロール状に巻回することによりうねり痕を消失させる樹脂フィルムロールの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光学フィルムや包装用フィルム等、各種フィルム製品は、フィルムを製造した後、ロール状に巻回され、フィルムロールとして仕掛保管をしたり、出荷したりすることが多い。フィルムをロール状に巻回する工程において、積層されたフィルム界面に空気が混入した場合、空気層が介在する領域とフィルム同士が密着している領域とが混在した状態で積層、加圧される。このため、フィルムは、空気混入領域とフィルム密着領域の境界に応じて形状が保持されるとともに外観上うねり痕として現れ、光学フィルムとしての品質を低下させる原因となっている。
【0003】
このようなうねり痕の発生防止策として、例えばフィルムの幅方向の端部に凹凸部を設ける方法や、基材の幅方向の端部にサイドテープを挿入することによって、フィルムを巻き取った際に隣接するフィルム同士の接触を防止する方法、あるいは樹脂にフィラーを添加する等によりフィルム表面に凹凸形状を付与してフィルム界面の密着を防止する方法等が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−272003号公報
【特許文献2】特開2002−18944号公報
【特許文献3】特開2009−86426号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したフィルムの幅方向の端部に凹凸部を設ける方法では、フィルムを巻回する前に凹凸部を形成する工程が必要となり、製造工数や製造設備の増加を招く他、フィルムの搬送時や加工時に生じる屈曲等により、凹凸部からフィルムの割れや切れが発生する恐れがある。
【0006】
また、凹凸部を形成したり、サイドテープを挿入したりすることによりフィルムの幅方向の端部のみでフィルム層間を浮かせる方法では、ロール状に巻回するとフィルムの幅方向の端部のみが接触しながら積層されていくことから、厚さが100μm未満といった剛性が低い薄膜フィルムの場合、中央部のテンションが維持できず、長尺に巻回すると中央部付近でフィルム同士が接触し、TD方向のムラや変形が発生する。
【0007】
さらに、樹脂にフィラーを添加する等によりフィルム表面に凹凸形状を付与する方法では、フィルム表面に凹凸加工を施すことにより光学特性の低下を招く。
【0008】
そこで、本発明は、樹脂フィルムに現れたうねり痕を消失させフィルムの特性を維持することができる樹脂フィルムロールの製造方法、樹脂フィルムの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した課題を解決するために、本発明に係る樹脂フィルムロールの製造方法は、樹脂フィルムと間紙とを摺動可能に着きあわせて一体に搬送し、上記樹脂フィルム及び上記間紙をロール状に巻回し、上記樹脂フィルムと上記間紙とが交互に積層された樹脂フィルムロールの製造方法において、上記樹脂フィルムは環状オレフィン系樹脂組成物フィルムであり、上記間紙はPETであり、上記樹脂フィルムがロール状に巻回された原反ロールが形成され、上記原反ロールの形成後、上記樹脂フィルムロールの形成工程までのリードタイムが48時間以内であり、上記樹脂フィルムロールの形成後、96時間以上の保存時間を設け、上記樹脂フィルムの表面粗さよりも上記間紙の表面粗さが粗く、上記樹脂フィルムの表面粗さ(Ra1)と上記間紙の表面粗さ(Ra2)は、以下の関係を満たす。 Ra2/Ra1=6〜40
また、本発明に係る樹脂フィルムロールの製造方法は、樹脂フィルムと間紙とを摺動可能に着きあわせて一体に搬送し、上記樹脂フィルム及び上記間紙をロール状に巻回し、上記樹脂フィルムと上記間紙とが交互に積層された樹脂フィルムロールの製造方法において、上記樹脂フィルムは環状オレフィン系樹脂組成物フィルムであり、上記間紙は鏡面PETであり、上記樹脂フィルムがロール状に巻回された原反ロールが形成され、上記原反ロールの形成後、上記樹脂フィルムロールの形成工程までのリードタイムが48時間以内であり、上記樹脂フィルムロールの形成後、50℃の環境温度下において24時間以上の保存時間を設け、上記樹脂フィルムの表面粗さ(Ra1)と上記間紙の表面粗さ(Ra2)は、以下の関係を満たす。 Ra2/Ra1=0.8〜10
【0011】
また、本発明に係る樹脂フィルムの製造方法は、樹脂フィルムと間紙とを着きあわせて一体に搬送し、上記樹脂フィルム及び上記間紙をロール状に巻回し、上記樹脂フィルムと上記間紙とが交互に積層された樹脂フィルムロールとし、上記樹脂フィルムロールを所定時間、保存する樹脂フィルムの製造方法において、上記樹脂フィルムは環状オレフィン系樹脂組成物フィルムであり、上記間紙はPETであり、上記樹脂フィルムがロール状に巻回された原反ロールが形成され、上記原反ロールの形成後、上記樹脂フィルムロールの形成工程までのリードタイムが48時間以内であり、上記樹脂フィルムロールの形成後、96時間以上の保存時間を設け、上記樹脂フィルムの表面粗さよりも上記間紙の表面粗さが粗く、上記樹脂フィルムの表面粗さ(Ra1)と上記間紙の表面粗さ(Ra2)は、以下の関係を満たす。 Ra2/Ra1=6〜40
また、本発明に係る樹脂フィルムの製造方法は、樹脂フィルムと間紙とを着きあわせて一体に搬送し、上記樹脂フィルム及び上記間紙をロール状に巻回し、上記樹脂フィルムと上記間紙とが交互に積層された樹脂フィルムロールとし、上記樹脂フィルムロールを所定時間、保存する樹脂フィルムの製造方法において、上記樹脂フィルムは環状オレフィン系樹脂組成物フィルムであり、上記間紙は鏡面PETであり、上記樹脂フィルムがロール状に巻回された原反ロールが形成され、上記原反ロールの形成後、上記樹脂フィルムロールの形成工程までのリードタイムが48時間以内であり、上記樹脂フィルムロールの形成後、24時間以上の保存時間を設け、上記樹脂フィルムの表面粗さ(Ra1)と上記間紙の表面粗さ(Ra2)は、以下の関係を満たす。 Ra2/Ra1=0.8〜10
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、間紙とが樹脂フィルムとが着きあわされて一体に搬送された後、ロール状に巻回され、樹脂フィルムロールが形成されると、樹脂フィルムと間紙とが積層されるとともに巻き締りによるテンションによってプレスされる。これにより、樹脂フィルムは、間紙との一体搬送、及び間紙と一体にロール状に巻回されることにより、うねり痕を消失させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、本発明が適用された樹脂フィルムロールの製造工程を示す側面図である。
図2図2は、本実施の形態に係る環状オレフィン系樹脂組成物フィルムの概略を示す断面斜視図である。
図3図3は、フィルム製造装置の一構成例を示す模式図である。
図4図4(A)はうねり痕が消失した樹脂フィルムに可視光を当てたときの反射光を示す図であり、図4(B)はうねり痕が残存した樹脂フィルムに可視光を当てたときの反射光を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明が適用された樹脂フィルムロールの製造方法、樹脂フィルムの製造方法について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々の変更が可能であることは勿論である。また、図面は模式的なものであり、各寸法の比率等は現実のものとは異なることがある。具体的な寸法等は以下の説明を参酌して判断すべきものである。また、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれていることは勿論である。
【0016】
本発明が適用された樹脂フィルムロール1は、図1に示すように、樹脂フィルム2と間紙2とが一体に巻回されることにより交互に積層された巻装体である。樹脂フィルムロール1は、樹脂フィルム2と間紙3とが摺動可能に着きあわされて一体に搬送し、次いで、樹脂フィルム2及び間紙3を着きあわされた状態で一体にロール状に巻回することにより製造される。
【0017】
樹脂フィルム2は、うねり痕が形成されている場合にも、間紙3と着きあわされて一体に搬送される過程で間紙3が摺動することによりうねり痕が均される。樹脂フィルム2は、この状態から、さらに間紙3と一体にロール状に巻回されることにより、間紙3と積層されるとともに巻き締りによるテンションによってプレスされる。これにより、樹脂フィルム2は、うねり痕を消失させることができる。
【0018】
[樹脂フィルム]
ここで、樹脂フィルム2としては、光学フィルムや包装用フィルム等に用いられる各種フィルムが挙げられる。ここでは、樹脂フィルム2として、環状オレフィン系樹脂にエラストマー等を添加分散させた環状オレフィン系樹脂組成物フィルムを例示する。環状オレフィン系樹脂は、その主鎖に環状のオレフィン骨格を持った非晶性で熱可塑性のオレフィン系樹脂であり、優れた光学特性(透明性、低複屈折性)を持ち、低吸水性とそれに基づく寸法安定性、高防湿性といった、優れた性能を有している。そのため環状オレフィン系樹脂からなるフィルムもしくはシートは、各種光学用途、例えば位相差フィルム、偏光板保護フィルム、光拡散板等、特にプリズムシート、液晶セル基板への用途に用いることができる他、防湿包装用途、例えば医薬品包装、食品包装等への展開も期待されている。
【0019】
また、環状オレフィン系の樹脂フィルム2は、図2に示すように、環状オレフィン系樹脂11に、ハードセグメンとソフトセグメントを有するスチレン系エラストマー12を所定の割合で添加分散することにより、光学特性(リタデーション、ヘイズ)に優れ、かつ十分な靭性を備える。
【0020】
[環状オレフィン系樹脂]
環状オレフィン系樹脂11は、主鎖が炭素−炭素結合からなり、主鎖の少なくとも一部に環状炭化水素構造を有する高分子化合物である。この環状炭化水素構造は、ノルボルネンやテトラシクロドデセンに代表されるような、環状炭化水素構造中に少なくとも一つのオレフィン性二重結合を有する化合物(環状オレフィン)を単量体として用いることで導入される。
【0021】
環状オレフィン系樹脂は、環状オレフィンの付加(共)重合体又はその水素添加物(1)、環状オレフィンとα−オレフィンの付加共重合体又はその水素添加物(2)、環状オレフィンの開環(共)重合体又はその水素添加物(3)に分類される。
【0022】
環状オレフィンの具体例としては、シクロペンテン、シクロヘキセン、シクロオクテン;シクロペンタジエン、1,3−シクロヘキサジエン等の1環の環状オレフィン;ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン(慣用名:ノルボルネン)、5−メチル−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、5,5−ジメチル−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、5−エチル−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、5−ブチル−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、5−エチリデン−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、5−ヘキシル−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、5−オクチル−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、5−オクタデシル−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、5−メチリデン−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、5−ビニル−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、5−プロペニル−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン等の2環の環状オレフィン;
【0023】
トリシクロ[4.3.0.12,5]デカ−3,7−ジエン(慣用名:ジシクロペンタジエン)、トリシクロ[4.3.0.12,5]デカ−3−エン;トリシクロ[4.4.0.12,5]ウンデカ−3,7−ジエン若しくはトリシクロ[4.4.0.12,5]ウンデカ−3,8−ジエン又はこれらの部分水素添加物(又はシクロペンタジエンとシクロヘキセンの付加物)であるトリシクロ[4.4.0.12,5]ウンデカ−3−エン;5−シクロペンチル−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、5−シクロヘキシル−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、5−シクロヘキセニルビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、5−フェニル−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エンといった3環の環状オレフィン;
【0024】
テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン(単にテトラシクロドデセンともいう)、8−メチルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン、8−エチルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン、8−メチリデンテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン、8−エチリデンテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン、8−ビニルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン、8−プロペニル−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エンといった4環の環状オレフィン;
【0025】
8−シクロペンチル−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン、8−シクロヘキシル−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン、8−シクロヘキセニル−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン、8−フェニル−シクロペンチル−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン;テトラシクロ[7.4.13,6.01,9.02,7]テトラデカ−4,9,11,13−テトラエン(1,4−メタノ−1,4,4a,9a−テトラヒドロフルオレンともいう)、テトラシクロ[8.4.14,7.01,10.03,8]ペンタデカ−5,10,12,14−テトラエン(1,4−メタノ−1,4,4a,5,10,10a−へキサヒドロアントラセンともいう);ペンタシクロ[6.6.1.13,6.02,7.09,14]−4−ヘキサデセン、ペンタシクロ[6.5.1.13,6.02,7.09,13]−4−ペンタデセン、ペンタシクロ[7.4.0.02,7.13,6.110,13]−4−ペンタデセン;ヘプタシクロ[8.7.0.12,9.14,7.111,17.03,8.012,16]−5−エイコセン、ヘプタシクロ[8.7.0.12,9.03,8.14,7.012,17.113,l6]−14−エイコセン;シクロペンタジエンの4量体などの多環の環状オレフィンが挙げられる。これらの環状オレフィンは、それぞれ単独であるいは2種以上組み合わせて用いることができる。
【0026】
環状オレフィンと共重合可能なα−オレフィンの具体例としては、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−へキセン、3−メチル−1−ブテン、3−メチル−1−ペンテン、3−エチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、4−メチル−1−へキセン、4,4−ジメチル−1−ヘキセン、4,4−ジメチル−1−ペンテン、4−エチル−1−へキセン、3−エチル−1−ヘキセン、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセン、1−テトラデセン、1−ヘキサデセン、1−オクタデセン、1−エイコセンなどの炭素数2〜20、好ましくは炭素数2〜8のエチレン又はα−オレフィンなどが挙げられる。これらのα−オレフィンは、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。これらのα−オレフィンは、環状ポリオレフィンに対して、5〜200%の範囲で含有されたものを使用することができる。
【0027】
環状オレフィン又は環状オレフィンとα−オレフィンとの重合方法及び得られた重合体の水素添加方法に、格別な制限はなく、公知の方法に従って行うことができる。
【0028】
環状オレフィン系樹脂11として、本実施の形態では、エチレンとノルボルネンの付加共重合体が好ましく用いられる。
【0029】
環状オレフィン系樹脂11の構造には、特に制限はなく、鎖状でも、分岐状でも、架橋状でもよいが、好ましくは直鎖状である。
【0030】
環状オレフィン系樹脂11の分子量は、GPC法による数平均分子量が5000〜30万、好ましくは1万〜15万、さらに好ましくは1.5万〜10万である。数平均分子量が低すぎると機械的強度が低下し、大きすぎると成形性が悪くなる。
【0031】
また、環状オレフィン系樹脂11には、前述の環状オレフィン系樹脂(l)〜(3)に極性基(例えば、カルボキシル基、酸無水物基、エポキシ基、アミド基、エステル基、ヒドロキシル基など)を有する不飽和化合物(u)をグラフト及び/又は共重合したもの(4)を含めることができる。上記環状オレフィン系樹脂(l)〜(4)は、二種以上混合使用してもよい。
【0032】
上記不飽和化合物(u)としては、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、無水イタコン酸、グリシジル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸アルキル(炭素数1〜10)エステル、マレイン酸アルキル(炭素数1〜10)エステル、(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリル酸−2−ヒドロキシエチル等が挙げられる。
【0033】
極性基を有する不飽和化合物(u)をグラフト及び/又は共重合した変性環状オレフィン系樹脂(4)を用いることにより金属や極性樹脂との親和性を高めることができるので、蒸着、スパッタ、コーティング、接着等、各種二次加工の強度を高めることができ、二次加工が必要な場合に好適である。しかし、極性基の存在は環状オレフィン系樹脂の吸水率を高めてしまう欠点がある。そのため極性基(例えば、カルボキシル基、酸無水物基、エポキシ基、アミド基、エステル基、ヒドロキシル基など)の含有量は、環状オレフィン系樹脂1kg当り0〜1mol/kgであることが好ましい。
【0034】
[スチレン系エラストマー]
スチレン系エラストマー12は、0℃〜100℃における貯蔵弾性率が100MPa未満である。すなわち、スチレン系エラストマー12の0℃〜100℃における貯蔵弾性率の最大値が100MPa未満である。また、より好ましい貯蔵弾性率は、20MPa以下である。0℃〜100℃における貯蔵弾性率が大きい場合、フィルムの面内リタデーションが大きくなってしまう。
【0035】
高分子の複屈折は、2種類の要因が絡んでいる。1つ目は、分子鎖が高度に配向することで発現する配向屈折である。配向屈折は、配向の度合いと高分子主鎖が持っている固有の値で決まる。2つ目は、応力による複屈折であり、外部より力を加えるとその歪をうけて複屈折が変化する。
【0036】
スチレン系エラストマー12は、外力が働いていな状態ではエネルギーの低い縮こまった糸鞠状の形態となるが、伸長やせん断などの外力が加わると、それによって分子鎖が引き伸ばされ一方向に配向するようになる。そして、主鎖とそれを横切る方向とで光学特性(屈折率)が異なり、分子鎖が高度に配向した製品はいわゆる複屈折現象を呈するようになる。
【0037】
本実施の形態では、0℃〜100℃におけるスチレン系エラストマー12の貯蔵弾性率が100MPa未満であるため、溶融時の流動性が高く、残留応力を小さくすることができ、また、分子鎖の配向度を小さく抑えることが可能である。それに加えて、スチレン部分のマイナスの屈折率とエチレン部分のプラスの屈折率を内在することで、固有屈折率を小さくできるものと考えられる。
【0038】
スチレン系エラストマー12の分子量は、GPC法による数平均分子量が5000〜30万、好ましくは1万〜15万、さらに好ましくは2万〜10万である。数平均分子量が低すぎると機械的強度が低下し、大きすぎると成形性が悪くなる。
【0039】
スチレン系エラストマー12は、スチレンとブタジエンもしくはイソプレン等の共役ジエンの共重合体、及び/又は、その水素添加物である。スチレン系エラストマー12は、スチレンをハードセグメント、共役ジエンをソフトセグメントとしたブロック共重合体である。ソフトセグメントの構造が、スチレン系エラストマー12の貯蔵弾性率を変化させ、ハードセグメントであるスチレンの含有率が、屈折率を変化させ、フィルム全体のヘイズを変化させる。スチレン系エラストマー12は、加硫工程が不用であり、好適に用いられる。また、水素添加をしたものの方が、熱安定性が高く、さらに好適である。
【0040】
スチレン系エラストマー12の例としては、スチレン/ブタジエン/スチレンブロック共重合体、スチレン/イソプレン/スチレンブロック共重合体、スチレン/エチレン/ブチレン/スチレンブロック共重合体、スチレン/エチレン/プロピレン/スチレンブロック共重合体、スチレン/ブタジエンブロック共重合体などが挙げられる。
【0041】
また、水素添加により共役ジエン成分の二重結合をなくした、スチレン/エチレン/ブチレン/スチレンブロック共重合体、スチレン/エチレン/プロピレン/スチレンブロック共重合体、スチレン/ブタジエンブロック共重合体(水素添加されたスチレン系エラストマーともいう。)などを用いてもよい。
【0042】
スチレン系エラストマー12の構造には、特に制限はなく、鎖状でも、分岐状でも、架橋状でもよいが、貯蔵弾性率を小さくするため、好ましくは直鎖状である。
【0043】
本実施の形態では、スチレン/エチレン/ブチレン/スチレンブロック共重合体、スチレン/エチレン/プロピレン/スチレンブロック共重合体、水素添加スチレン/ブタジエンブロック共重合体からなる群より選ばれる1種以上のスチレン系エラストマー12が好適に用いられる。特に、水素添加スチレン/ブタジエンブロック共重合体は、高い引裂き強度と、環境保存後のヘイズ上昇が小さいため、さらに好適に用いられる。水素添加スチレン/ブタジエンブロック共重合体のスチレンに対するブタジエンの比率は、環状オレフィン系樹脂との相溶性を損なわないために、10〜90%の範囲であることが好ましい。
【0044】
また、スチレン系エラストマー12のスチレン含有率は、20〜40mol%であることが好ましい。スチレン含有率を20〜40mol%とすることにより、ヘイズを小さくすることができる。
【0045】
環状オレフィン系樹脂組成物には、環状オレフィン系樹脂11、及びスチレン系エラストマー12の他に、その特性を損なわない範囲で、必要に応じて各種配合剤が添加されていてもよい。各種配合剤としては、熱可塑性樹脂材料で通常用いられているものであれば格別な制限はなく、例えば、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、可塑剤、滑剤、帯電防止剤、難燃剤、染料や顔料などの着色剤、近赤外線吸収剤、蛍光増白剤などの配合剤、充填剤等が挙げられる。
【0046】
このような構成からなる環状オレフィン系の樹脂フィルム2によれば、引裂き強度を60N/mm以上、好ましくは100N/mm以上、さらに好ましくは120N/mm以上とすることができる。また、ヘイズを15%以下、好ましくは2%以下とすることができる。引裂き強度が上記範囲より小さすぎると、製造時や使用時にフィルムの破壊が起きやすく不適である。また、ヘイズが高すぎると、使用上、初期設定の特性から逸脱し、本来目的の特性を満足しない。
【0047】
[環状オレフィン系樹脂フィルムの製造方法]
本実施の形態に係る環状オレフィン系の樹脂フィルム2の製造方法は、環状オレフィン系樹脂11と、0℃〜100℃における貯蔵弾性率が100MPa未満であるスチレン系エラストマー12とを溶融し、溶融された環状オレフィン系樹脂組成物を押出法により、フィルム状に押し出し、スチレン系エラストマー12が、環状オレフィン系樹脂11に分散されてなる環状オレフィン系樹脂フィルム2を得る。環状オレフィン系樹脂フィルム2は、無延伸のものでも、一軸延伸のものでも、二軸延伸のものでもよい。
【0048】
図3は、フィルム製造装置の一構成例を示す模式図である。このフィルム製造装置は、ダイ21と、ロール22とを備える。ダイ21は、溶融成形用のダイであり、溶融状態の樹脂材料23をフィルム状に押し出す。樹脂材料23は、例えば前述の環状オレフィン系樹脂組成物を含む。ロール22は、ダイ21からフィルム状に押し出された樹脂材料23を搬送する役割をもつ。また、ロール22は、その内部に媒体の流路を有し、それぞれ個別の温調装置により任意の温度に表面を調整可能である。また、ロール22の表面の材質は、特に限定されるものではなく、金属ゴム、樹脂、エラストマーなどを用いることができる。
【0049】
本実施の形態では、樹脂材料23として、前述の環状オレフィン系樹脂11と、スチレン系エラストマー12とを含有する環状オレフィン系樹脂組成物を用い、210℃〜300℃の範囲の温度で溶融混合する。溶融温度が高いほど短軸分散径が小さくなる傾向にある。
【0050】
フィルム状に押し出された樹脂材料23は、ロール22によって搬送された後、ロール状に巻回され樹脂フィルム2の原反ロール24が形成される。このとき、樹脂フィルム2は、フィルム界面に空気が混入することにより、空気層が介在する領域とフィルム同士が密着している領域とが混在した状態で積層、加圧される。このため、樹脂フィルム2は、空気混入領域とフィルム密着領域の境界に応じて形状が保持されるとともに外観上うねり痕として現れる。次いで、樹脂フィルム2は、原反ロール24から巻き出され、間紙3とともに一体に搬送されるとともに、ロール状に巻回されることにより樹脂フィルムロール1が製造される(図1参照)。
【0051】
[間紙]
間紙3は、所定の表面粗さを有するとともに可撓性を有し、樹脂フィルムロール1として巻回されたときに、巻出しを阻害しない材質のフィルムであり、例えばPETフィルムを用いることができる。間紙3の表面粗さは、樹脂フィルム2の表面粗さよりも粗い。そして、間紙3は、複数のガイドロールを経由しながら樹脂フィルム2と一体に搬送されると、樹脂フィルム2との間に空気を巻き込むことで密着することなく樹脂フィルム2と摺動し、これにより樹脂フィルム2の表面を均していく。
【0052】
この状態で、間紙3が樹脂フィルム2とともに一体にロール状に巻回され、樹脂フィルムロール1が形成されると、樹脂フィルム2と間紙3とが積層されるとともに巻き締りによるテンションによってプレスされる。これにより、樹脂フィルム2は、原反ロール24の製造時等に発生したうねり痕が、間紙3との一体搬送、及び間紙3と一体にロール状に巻回されることにより消失される。樹脂フィルム2は、樹脂フィルムロール1として仕掛け保管、あるいは出荷され、使用時には樹脂フィルムロール1より巻き出される。
【0053】
図4(A)は、原反ロール24から巻き出された環状オレフィン系樹脂フィルム2と、間紙3としてPETフィルムとを着きあわせて一体に搬送し、ロール状に巻回した後、当該樹脂フィルムロール1から巻き出した樹脂フィルムを示す図面である。図4(B)は、間紙3を介在させず、原反ロール24から巻き出された環状オレフィン系樹脂フィルム2のみをロール状に巻回した後、当該樹脂フィルムロールから巻き出した樹脂フィルムを示す図面である。
【0054】
図4(A)(B)の点線で囲む部分を対比すると、間紙3と一体に搬送、卷回した図4(A)に示す樹脂フィルムではうねり痕が消失し、反射光が略均一に映っている。一方、間紙3を介在させていない図4(B)に示す樹脂フィルムでは、うねり痕によって反射光が乱れ、不均一に現れていることが分かる。なお、図4では、便宜上、反射光の乱れによってうねり痕の有無を示しているが、これは、うねり痕そのものは、写真等では明確には映らないためである。うねり痕は、目視では明確に視認できるものである。
【0055】
[リードタイム]
ここで、樹脂フィルムロール1は、原反ロール24の形成後、樹脂フィルムロール1の形成工程までのリードタイムが長くなると、原反ロール24の形成時に発生したうねり痕が樹脂フィルム2の表面に固定されてしまう。そのため、樹脂フィルムロール1は、原反ロール24の形成後、樹脂フィルムロール1の形成工程までのリードタイムに応じて、所定時間以上、常温環境にて保存する必要がある。
【0056】
すなわち、間紙3が樹脂フィルム2とともに一体にロール状に巻回されると、樹脂フィルムロール1には巻き締りによるテンションが加わることから、間紙3との間に挟持されている樹脂フィルム2は、プレス効果によって、間紙3との一体搬送によっては取りきれないうねり痕を消失させることができる。
【0057】
そして、樹脂フィルムロール1の形成工程までのリードタイムが長くなると、原反ロール24の形成時に現れるうねり痕が固定されるため、このうねり痕を消失させるためには、樹脂フィルム2を間紙3の間で長時間プレスする必要がある。このため、原反ロール24の形成後、樹脂フィルムロール1の形成までのリードタイムに応じて、樹脂フィルムロール1は、保存時間を確保することが好ましい。
【0058】
[表面粗さ]
また、間紙3の表面粗さ(Ra)は、40nm以下とすることが好ましい。間紙3の表面粗さが40nmを超えると、うねり痕を消失させる反面、樹脂フィルム2の表面に粗さの粗い間紙3の表面が樹脂フィルム2に転写され、まだら模様が現れてしまい、フィルムの光学特性を損なってしまう。なお、本発明では、樹脂フィルム2の表面に現れる凹凸痕、ゆず肌模様等、間紙と巻き回すことで生じる模様を総称してまだら模様と称する。
【0059】
また、樹脂フィルム2の表面粗さ(Ra1)と上記間紙3の表面粗さ(Ra2)は、Ra2/Ra1=6〜40の関係を満たすことが好ましく、より好ましくは、Ra2/Ra1=10〜40である。樹脂フィルム2の表面粗さ(Ra1)と間紙3の表面粗さ(Ra2)とが、この関係を満たすことにより、樹脂フィルム2と間紙3との一体搬送時における摺動、及び巻回による積層プレスによって、効果的に樹脂フィルム2のうねり痕を消失させることができる。
【0060】
[他の樹脂フィルムロールの製造方法]
なお、樹脂フィルムロール1は、原反ロール24から巻き出した樹脂フィルム2と間紙3とを一体に搬送、巻回することにより形成する他にも、原反ロール24を作成することなく、樹脂フィルム2を製造後に間紙3と一体に搬送、巻回することにより製造してもよい。
【0061】
[高温保存]
また、樹脂フィルムロール1は、常温よりも高温の環境下で保存してもよい。上述したように、樹脂フィルムロール1は、原反ロール24の形成後、樹脂フィルムロール1の形成までのリードタイムに応じて保存時間を確保することにより、巻き締りによる圧力でうねり痕を修正する。しかし、リードタイムが長くなるとうねり痕が強固に固定されるため、常温環境下での保存ではうねり痕を低減させることはできても消失させるには至らない場合がある。そこで、樹脂フィルムロール1は、常温よりも高温の環境下で保存することにより、樹脂フィルム2に対するプレス効果を高め、うねり痕を修正させることができる。
【0062】
ここで、樹脂フィルムロール1の保存温度は、樹脂フィルムのガラス転移温度以下の温度が好ましい。ガラス転移温度よりも高い温度環境下で保存した場合、粗さの粗い間紙3の表面が樹脂フィルム2に転写され、まだら模様が現れる。また、常温よりも高温の環境下で保存する場合、ガラス転移温度以下の温度環境であっても保存時間が長時間にわたると、間紙3の表面が転写されてまだら模様が現れる恐れがあるため、保存時間に注意する必要がある。
【0063】
そこで、樹脂フィルムロール1は、表面粗さ(Ra2)が低い間紙3を樹脂フィルム2とともに巻回させ、常温よりも高温の環境下で保存することが好ましい。表面粗さ(Ra)が低い間紙3としては、例えば表面粗さ(Ra2)が4〜10nm、好ましくは4〜5nmのPETフィルム(いわゆる鏡面PET)等を用いることができる。
【0064】
なお、樹脂フィルム2として上述したオレフィン系樹脂組成物フィルムを用いた場合、その表面粗さ(Ra1)は1〜5nmであり、間紙3として、鏡面PETを用いた場合、その表面粗さ(Ra2)は4〜10nm、好ましくは4〜5nmであり、樹脂フィルム2の表面粗さ(Ra1)よりも間紙3の表面粗さ(Ra2)が粗い。
【0065】
このように、高度に平滑化された間紙3を用いることにより、樹脂フィルムロール1は、常温よりも高温の環境下で保存した場合においても間紙3の表面が転写されることがなく、まだら模様の発生を防止しつつ効果的にうねり痕を消失させることができる。
【実施例】
【0066】
[第1の実施例]
次いで、本発明の第1の実施例について説明する。第1の実施例では、樹脂フィルム2の原反ロール24の形成後、樹脂フィルム2と間紙3とを一体搬送し樹脂フィルムロール1に巻回するまでのリードタイムと、樹脂フィルムロール1の保存時間を変えて、うねり痕の消失の程度を目視にて官能評価した。
【0067】
樹脂フィルム2は、上述した環状オレフィン系樹脂組成物フィルムであり、溶融押出し製法によって厚さ50μm及び厚さ100μmの2種類形成し、それぞれロール状に巻回することにより原反ロール24を形成した。この際に、各樹脂フィルム2は、空気混入領域とフィルム密着領域との境界に応じて形状が固定され、境界線がうねり痕として現れた。また、各樹脂フィルム2の表面粗さ(Ra1)を計測したところ、1〜3nmの範囲であった。
【0068】
樹脂フィルム2と一体に搬送及び巻回する間紙3として、厚さ12μm、表面粗さ(Ra2)の範囲が30〜40nmのPETフィルム(東洋紡績社製:エステルフィルムES500)を用いた。樹脂フィルム2の表面粗さ(Ra1)と間紙3の表面粗さ(Ra2)の比は、Ra2/Ra1=10〜40である。
【0069】
これら原反ロール24から巻き出した樹脂フィルム2と間紙3とを着きあわせて、複数のガイドロールでガイドしながら一体に搬送し、ロール状に巻き取っていった。巻取テンションは、50μm厚の樹脂フィルム2においては100N、100μm厚の樹脂フィルム2においては280Nである。ライン速度は、いずれも100m/minである。
【0070】
樹脂フィルム2の原反ロール24の形成後、樹脂フィルム2と間紙3とを一体搬送し樹脂フィルムロール1に巻回するまでのリードタイムは、1時間、2時間、3時間、4時間、15時間、48時間とし、樹脂フィルムロール1の保存時間は、0時間、24時間、48時間、72時間、96時間、120時間とした。また、樹脂フィルムロール1は常温にて保存した。
【0071】
各保存時間が経過した後、樹脂フィルムロール1から樹脂フィルム2を巻き出して、うねり痕を観察した。その結果、うねり痕が完全消失した場合を〇、うねり痕が半分以上低減した場合を△、うねり痕の低減が半分以下の場合を×、うねり痕が殆ど消失しなかった場合を××とした。結果を表1に示す。
【0072】
【表1】
【0073】
表1に示すように、リードタイムが4時間以内の樹脂フィルムロール1においては、厚さ50μm及び厚さ100μmの2種類の樹脂フィルム2のいずれも、常温環境による保存時間が24〜72時間でうねり痕の修正を行うことができた。一方、リードタイムが15時間、あるいは48時間とした樹脂フィルムロール1では、常温環境によって120時間保管した場合にも、うねり痕の低減までとなった。
【0074】
[第2の実施例]
次いで、本発明の第2の実施例について説明する。第2の実施例では、第1の実施例において、うねり痕が低減するにとどまった樹脂フィルムのサンプルと同等の樹脂フィルムロール1に対して、50℃、ドライ環境下にて所定時間保存し、うねり痕の修正の可否、及び間紙3の表面が転写されることによるまだら模様の発生の有無について目視観察にて評価した。
【0075】
第2の実施例でも、樹脂フィルム2として、上述した表面粗さ(Ra1)が1〜3nm、厚さ50μm及び厚さ100μmの2種類の環状オレフィン系樹脂組成物フィルムを用いた。また、実施例2では、間紙3として厚さ16μm、表面粗さ(Ra2)が4〜5nmの鏡面PETフィルム(三菱樹脂社製:ダイヤホイル R340G16)を用いた。実施例2では、樹脂フィルム2の表面粗さ(Ra1)と間紙3の表面粗さ(Ra2)の比は、Ra2/Ra1=1.3〜5である。
【0076】
比較例1では、実施例2と同じ樹脂フィルム2を使用する一方、間紙3として厚さ12μm、表面粗さ(Ra2)が31〜39nmのPETフィルム(東洋紡績社製:エステルフィルムES500)を用いた。比較例1では、樹脂フィルム2の表面粗さ(Ra1)と間紙3の表面粗さ(Ra2)の比は、Ra2/Ra1=10〜40である。
【0077】
これら樹脂フィルム2の原反ロール24を形成後、間紙3と着きあわせて一体に搬送、巻回するまでのリードタイムは15時間と48時間とした。巻取テンションは、50μm厚の樹脂フィルム2においては100N、100μm厚の樹脂フィルム2においては280Nである。ライン速度は、いずれも100m/minである。
【0078】
また、樹脂フィルムロール1の形成後、50℃、ドライ環境下での保存時間は、0時間、24時間、48時間、72時間、96時間、120時間とした。各保存時間が経過した後、樹脂フィルムロール1から樹脂フィルム2を巻き出して、うねり痕の修正の可否、及びまだら模様の発生の有無を目視で観察した。その結果、うねり痕が完全消失した場合を〇、うねり痕が低減した場合を△、うねり痕が消失しなかった場合を×とした。同様に、まだら模様が発生しなかった場合を〇、まだら模様が現れた場合を×とした。
【0079】
【表2】
【0080】
表2は、リードタイム48時間、50℃、ドライ環境下での保存時間48以上時間における実施例2及び比較例1に係る各樹脂フィルム2における、うねり痕の修正の可否、及びまだら模様の発生の有無を目視で観察した評価結果である。
【0081】
表2に示すように、実施例2では、うねり痕を消失させるとともに、間紙3の表面のまだら模様も現れなかった。一方、比較例1では、うねり痕を消失させることはできたが、間紙3の表面のまだら模様が現れた。
【0082】
【表3】
【0083】
表3に、実施例2に係る樹脂フィルムロール1の保存時間とうねり痕の修正の可否との関係を示す。表3に示すように、実施例2に係る樹脂フィルムロール1は、リードタイムが15時間の場合、保存時間が24時間以上で、うねり痕を消失させることができた。また、実施例2に係る樹脂フィルムロール1は、リードタイムが48時間の場合でも、保存時間を48時間以上とすることで、うねり痕を消失させることができた。
【符号の説明】
【0084】
1 樹脂フィルムロール、2 樹脂フィルム、3 間紙、11 環状オレフィン系樹脂、12 スチレン系エラストマー、21 ダイ、22 ロール、23 樹脂材料、24 原反ロール
図1
図2
図3
図4