【文献】
Ikeuchi M. et al.,High throughput embryonic body formation process using a novel device "TASCL".,日本生体医工学会大会プログラム・論文集(CD-ROM),2012年,Vol.51st,p. ROMBUNNO.OS3-06-3
【文献】
幹細胞クラスター培養のための細胞パターニングデバイスの開発,日本コンピュータ外科学会誌,日本,2008年10月31日,第10巻第3号,359−360
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
本体部分の外形が長方形または正方形であり、上記拡張部分が、前記長方形または正方形の4辺全体から外側に張り出し、かつ、互いにつながって、該本体部分を全周にわたって取り巻いている、請求項1または2記載の細胞培養用シート。
本体部分を複数有し、これら複数の本体部分のそれぞれの外形の4辺全体からそれぞれに拡張部分が外側に張り出し、これら拡張部分は、互いにつながって該複数の本体部分を互いに接続し、かつ、該複数の本体部分を全体的に取り巻いている、請求項1〜3のいずれか1項に記載の細胞培養用シート。
本体部分と拡張部分とが、互いに同じシリコーン樹脂組成物からなる一体的なシートとして連続しており、かつ、該シリコーン樹脂組成物は、硬化温度に加熱されるまでは半硬化状態のままとなっている性質を有するシリコーン樹脂組成物を、硬化温度に加熱して完全に硬化させて得られたものである、請求項1〜8のいずれか1項に記載の細胞培養用シート。
【発明を実施するための形態】
【0012】
先ず、本発明の細胞培養用シートの構成を、実施例を挙げながら説明する。
図1は、本発明による細胞培養用シートの構造の一例を示す図である。当該細胞培養用シートは、
図15(a)、(b)を参照して従来技術の説明で述べたように、液体中に分散した細胞を複数の集団へと分けて沈降させるための複数の貫通孔を有するものである。
図1では、説明のために貫通孔の数を9個(3行×3列)として大きく描いているが、実際には、後述のとおり、貫通孔の開口はより微細でありかつより多数である(例えば、一辺10mmの正方形の中に、20行×20列など)。他の図も同様であって、貫通孔や押し型の突起部の数を説明のために少なく描いている。
図1に示すように、当該細胞培養用シート1は、前記複数の貫通孔Yが設けられたシート状の本体部分11を有し、かつ、該本体部分11の外周のうちの少なくとも2つの部分かから外側に張り出したシート状の拡張部分12(12a、12b)を有する。
図1の例では、正方形の本体部分11の少なくとも一部の区間から拡張部分12が外側に張り出している。該拡張部分12の下面と本体部分11の下面11bとは互いに同一の面内にある。貫通孔Yは、従来の細胞培養用シートと同様、本体部分の一方の主面である上面11a内に存在する第一開口から他方の主面である下面11bの方へ移動するにつれて横断面の面積が減少する漏斗状部分Y1を少なくとも有する(貫通孔の形状の詳細については後述する)。
拡張部分が設けられたことによって、従来のシートに比べてより十分な密着力にて細胞培養時の基材に密着するので、細胞培養時に不用意に器具が当たっても、ずれや浮き上がりが抑制され、細胞培養の失敗が少なくなる。
【0013】
本体部分は、従来の細胞培養用シートであってもよいし、材料や貫通孔の形状を改善した細胞培養用シートであってもよい。
図1に示すように、本体部分には、細胞の集団化に必要な数だけ貫通孔が設けられており、その上面11aのほとんどの部分は、貫通孔Yの第一開口によって占められている。しかし、
図1(a)、(b)に示すように、本体部分の外周には、幅W11が0.5mm以下の縁部(即ち、外周縁部)が存在してもよい。本発明の細胞培養用シートの本体部分の主要部分は、貫通孔の第一開口が占める領域であるが、例えば製造上のマージンとして、その周囲をとりまく幅W11が0.5mm以下の縁部までは本体部分に含まれるものとする。従来品にも該縁部は存在したが、その下面の面積が微小であるために、基材への密着力が小さく、ずれや浮き上がりを抑制するほどの作用は示さない。
【0014】
本体部分に形成される貫通孔の数は特に限定はされないが、細胞培養などにおける細胞の集団化のためには、100個〜1000個程度の多数の貫通孔がシート面に配列された構造が好ましい。その場合の貫通孔の配列は、
図1のように行列状の配置とすれば、シート面の縁部などに無駄な領域が生じることなく、各貫通孔を密に配列することができるので好ましい。
貫通孔は、細胞粒子を受けるための漏斗状部分だけからなるものであってもよいが、
図1(b)に示すように、漏斗状部分Y1と、直管状部分Y2とを有し、これら2つの部分が共通の中心軸をもって上下で連結したものが好ましい。
漏斗状部分Y1は、本体部分11の上面11aに存在する第一開口から下面側へと移動するにつれて横断面の面積が減少する角錐台形である。
直管状部分Y2は、前記漏斗状部分Y1の下端部から下面11bに存在する開口(第二開口)に至る部分である。直管状部分の横断面形状は、従来のように四角形であってもよいが、5角形以上の多角形や円形であることが好ましい。直管状部分の横断面形状が5角形以上の多角形や円形であれば、直管状部分Y2内に沈降した細胞は、該横断面形状に従って基材上に好ましく分散する。このような作用の点からは、第二開口の横断面形状は、n角形(n≧8)がより好ましく、円形が最も好ましい。
【0015】
本体部分の上面に平面が存在すると、その平面に細胞が沈降して、細胞の集団化の妨げになる。よって、貫通孔の第一開口の形状は、長方形または正方形が好ましく、均等な斜面が得られる正方形がより好ましく、かつ、
図1に示すように、隣り合った第一開口の辺同士が互いに一致して接触する態様(隣り合った第一開口同士の間に平面が存在しない態様)が好ましい。
第一開口の形状が正方形である場合の該開口の一辺の長さは、特に限定はされないが、細胞培養における細胞の集団化のためには、0.1mm〜1mm程度が好ましく、0.2mm〜0.7mmがより好ましい長さである。第一開口の形状が長方形の場合には、前記正方形と同程度の開口面積であればよい。ただし、その短辺の最小値は前記正方形の1辺の長さの最小値と同程度が好ましい。
漏斗状部分Y1の中心軸方向の長さは、0.02mm〜0.8mm程度が好ましく、0.05mm〜0.5mmがより好ましい。
漏斗状部分Y1の対向する2つの斜面の開き角度(
図8(c)に示す角度θ)は、沈降する細胞を誘い込んで下方の直管状部分に落とすことができるものであればよく、30度〜120度が好ましい角度であり、45度〜90度がより好ましい角度である。
【0016】
第二開口の大きさは特に限定はされないが、第二開口の形状が円形の場合の直径は、細胞培養などにおける細胞の集団化のためには、0.01mm〜0.9mmが好ましく、0.05mm〜0.5mmがより好ましい寸法である。
【0017】
貫通孔の第一開口の形状が長方形または正方形であることを考慮すると、該第一開口が互いに隙間なく配置される本体部分の外形もまた長方形または正方形が単純で好ましい形状である。試料液を均一に分散させる点からは、本体部分の外形は、等方的な形状である正方形が好ましい。また、円形の皿内や、マイクロプレートのウェル内で使用することを考慮すると、拡張部分を含んだ当該細胞培養用シート全体の外形は、正方形や円形が好ましい形状である。また、当該細胞培養用シートを清浄に保つために清掃を行う点からも、当該細胞培養用シート全体の外形は、より単純な形状である正方形や円形が好ましい形状である。
本体部分の外形が正方形である場合、上記したサイズと数の貫通孔を配置する点からは、本体部分の外形の一辺の長さは、3mm以上が好ましく、3mm〜300mm程度、特には3mm〜100mm程度が汎用的でより好ましい範囲である。本体部分の外形が正方形以外の形状である場合には、前記の正方形の面積と同程度の面積が好ましい。
【0018】
本体部分の厚さは、特に限定はされないが、微小な細胞粒子の集団化のためには、各開口の大きさや、貫通孔の深さを考慮すると、0.1mm〜1mmが好ましい厚さであり、0.2mm〜0.6mmがより好ましい厚さである。
【0019】
上記したように、本体部分の外周には縁部が含まれていてもよく、その幅W11は0.5mm以下である。縁部の幅W11が、0.5mmを超える場合、その越えた部分が本願でいう拡張部分となる。該拡張部分の面積が小さいと、基材への密着力も小さく、拡張部分による基材への係留効果が十分に得られない場合がある。そこで本発明では、拡張部分の面積に下限を設け、それによって、細胞培養の際の基材への密着力を確保している。
本発明では、拡張部分の面積を、本体部分の面積の10%以上とすることを推奨する。「拡張部分の面積」、「本体部分の面積」とは、それぞれの外形によって決定される面積である。
【0020】
拡張部分の厚さは、特に限定はされないが、後述のように半硬化状態の1枚のシートから本体部分と拡張部分とを形成することを考慮すると、0.1mm〜1mmが好ましく、0.2mm〜0.6mmがより好ましい。
本体部分の厚さと拡張部分の厚さは、
図4(b)に示すように互いに異なっていてもよいし、
図4(c)に示すように、互いに同じであってもよい。また、拡張部分は本体部分よりも厚くてもよい。後述のように、半硬化状態の1枚の材料シートから本体部分と拡張部分とを形成する場合、本体部分は押し型を1枚の材料シートに押し込んで形成するので、本体部分では材料シートの樹脂が押しのけられて盛り上がり、よって、(本体部分の厚さ)>(拡張部の厚さ)となる。従って、本発明の細胞培養用シートを本発明の製造方法に従って、一枚の半硬化状態の材料シートから作る点からは、(本体部分の厚さ)>(拡張部の厚さ)が好ましい態様である。
図2は、本発明の細胞培養用シートを本発明の製造方法に従って形成した場合の、本体部分の厚さと拡張部の厚さとの関係を示した概略図(
図2(a))と、写真図(
図2(b))である。これらの図に示すように、1枚の均一な厚さの材料シートから本体部分と拡張部分とを形成する場合、本体部分では材料シートの樹脂が押しのけられて盛り上がる。よって、拡張部の厚さ(材料シートの厚さ)は、本体部分の厚さへと連続的に増加するので、両者の間に明確な境界線は現れない。
【0021】
拡張部分は、本体部分の外周のうちの少なくとも一部の区間に設ければよい。本体部分の全周の長さに対する該区間が占める割合R2の下限には限定はないが、R2は、20%以上が好ましく、40%以上がより好ましく、後述のとおり、100%が最も好ましい。本体部分の外周のうちのより多い部分に拡張部分を設けることで、本体部分の外周縁部をより基材の面に押さえ付けることができる。
また、本体部分の全周の長さに対する該区間が占める割合R2の増加に応じて、本体面積に対する拡張面積の割合R1を増加させることがより好ましい。その理由は、例えば、R2=25%の区間に拡張部分が設けられ、拡張面積の割合R1が10%であった場合に、R1を10%に固定したままで、R2を増加させると、拡張部分の張り出し長さが減少し、全体としては好ましい密着性を有していても、局所的には器具の接触に対抗し得ない場合が生じるからである。
本体部分の全周の長さに対する該区間が占める割合R2が100%である場合、本体面積に対する拡張面積の割合R1は、25%以上が好ましく、50%以上がより好ましく、100%以上が最も好ましい割合である。該割合R1の上限は、特に限定はされないが、2000%〜3000%程度が上限の一例である。拡張面積を過度に大きくすると、全体の面積が必要以上に大きくなり、シート全体が歪み易くなるので好ましくない。
一方、本体面積を小さくしていくと、拡張面積の下限(本体面積の10%)も小さくなり、拡張部分の効果が十分に得られなくなる。本体面積が過度に小さい場合には、拡張面積の下限は、必ずしも本体面積の10%とする必要はなく、10%よりも広い最低限の面積を確保することが好ましい。そのような最低限の面積は、例えば、10mm
2〜20mm
2程度である。
【0022】
図3の態様では、拡張部分12は、本体部分11の外周のうち互いに反対側の位置にある。
図3の例では、本体部分11の外形は正方形(長方形でもよい)であって、2つの拡張部分12a、12bは、互いに対向する2辺に設けられている。このような態様によって、本体部分は拡張部分に挟まれて基材面により好ましく密着する。この場合の拡張部分の面積の好ましい下限の実際の値は、例えば、10mm
2〜20mm
2程度である。
図4の態様は、より好ましい態様であって、本体部分の外周の全部から拡張部分が張り出している態様である。
図4の例では、本体部分11の外形が正方形(長方形でもよい)であり、上記拡張部分12が、前記正方形の4辺全体から外側に張り出し、かつ、互いにつながって、該本体部分11を全周にわたって取り巻いている。この態様によって、拡張部分が切れ目なく本体部分の外周を押え込むことができ、本体部分のずれだけでなく、浮き上がりも十分に抑制される。
図4の態様の場合の好ましい実施例の寸法を例示すると、本体部分は一辺が10mm〜30mmの正方形であって、拡張面積は本体面積の30%〜500%であり、細胞培養用シート全体の形状は一辺が12mm〜50mmの正方形である。この場合の拡張部分の面積の好ましい下限の実際の値は、例えば、25mm
2〜50mm
2程度である。これらの数値は、あくまでも一例であり、用途に応じた値とすればよい。
【0023】
拡張部分の外形は、長方形や正方形だけでなく、
図5(a)のような円形であってもよい。上記したように、
図5(a)のような円形の拡張部分12であれば、拡張部分に角部が無いので、当該細胞培養用シートを配置するための円形の皿やマイクロプレートの円形のウェルに好ましく配置できる。
【0024】
本発明の細胞培養用シートは、
図5(b)に示すように、本体部分を複数有していてもよい。
図5(b)の例では、複数の本体部分111、112、113、114のそれぞれの外形(図では正方形)の4辺全体からそれぞれに拡張部分が外側に張り出し、さらに、それらの拡張部分が互いにつながって1枚の拡張部分12となり、それによって、該複数の本体部分を互いに接続し、それら本体部分を全体的に取り巻いている。
図5(b)のような態様の場合、2つの本体部分がそれらの間の拡張部分を共有してもよい。また、本体部分同士の間の距離W1は、例外的に拡張部分の張り出しの長さの下限を下回っていてもよい。これは、拡張部分全体の外周部分が本体部分のずれや浮き上がりを十分に抑制し、本体部分同士も互いに相手の浮き上がりの抑制に寄与するからである。
【0025】
図6は、当該細胞培養用シートのより好ましい態様を示す図である。
図6の例では、
図1、
図3に示す態様と同様、貫通孔の第一開口の形状が正方形であり、互いに隣り合った貫通孔のそれぞれの第一開口は、それぞれの正方形の辺が互いに接している。また、拡張部分が本体部分を全周にわたって取り巻いている。
図6の例では、本体部分11の上面の外周縁部には、該本体部分の全ての貫通孔の第一開口を全体的に取り囲む壁部13が設けられている。該壁部は、本体部分の外周縁部と拡張部分とにまたがって設けられてもよく、また、拡張部分の上だけに設けられてもよい。
このような壁部を設けることで該壁部の内側が容器となり、よって、該壁部の内側に試料液を溜めることができ、皿やウェル全体に試料液を満たす必要が無くなり、少ない試料液で細胞の集団化と細胞集合体の培養が可能になる。
【0026】
より好ましい態様では、
図6(b)に示すように、該壁部13の内側の壁面131が、該本体部分の上面の外周に位置する貫通孔Yの第一開口(漏斗状部分Y1の開口部分)の辺の1つに平行に接近している。該壁部の内側の壁面131と第一開口との間の距離は、より短い方が好ましく、該第一開口の一辺の長さ以下が好ましい距離である。これにより、第一開口と該壁部の内側の壁面131との間の水平面は微小となる。よって、細胞が無駄に沈降するような広いスペースが存在せず、細胞集合体の培養の効率がより高くなる。該壁部の内側の壁面と第一開口との間の実際の距離は、培養すべき細胞の大きさを考慮すると、0.5mm以下が好ましく、0.3mm以下がより好ましく、0mmが最も好ましい。
尚、本体部分の上面に水平面が全く存在しない場合でも、貫通孔の第一開口によって規定される面が本体部分の上面である。
【0027】
図6(b)に示す例では、壁部13は、本体部分11から成形により一体的に盛り上がっている。壁部は、本体部分だけに形成されていてもよいし、本体部分を取り巻く拡張部分だけに形成されていてもよく、また、本体部分と拡張部分とにまたがって幅広く一体的に盛り上がっていてもよい。
また、壁部は、別途形成された壁部用部品を用いて形成してもよい。前記と同様、壁部は、本体部分だけに接着剤や溶着などによって結合されていてもよいし、本体部分を取り巻く拡張部分だけに結合されていてもよく、また、本体部分と拡張部分とにまたがった状態で両方に結合されていてもよい。
図6(c)に示す例では、別途形成された壁部用部品13aが、本体部分と拡張部分とにまたがって接合され壁部となっている。該壁部用部品13aは、本体部分の貫通孔に対して適切に位置合わせされている。この位置合わせの方法については後述する。
別途形成された壁部用部品を用いて壁部を形成する態様は、壁部の材料や寸法(高さや幅)を自由に選択できるので好ましい。
【0028】
本体部分の上面11aからの壁部の高さは、細胞の集団化を好ましく行うためには、1mm以上が好ましく、2mm以上がより好ましい。壁部の高さの上限は特に限定はされないが、10mm以下であれば無駄がなく操作の邪魔にならず、5mm以下がコンパクトでより好ましい。
【0029】
壁部用部品の材料は、特に限定はされないが、シリコーン樹脂、変性シリコーン樹脂、フェノール樹脂、ポリスチレン樹脂などの樹脂材料が好ましいものとして挙げられる。
後述する本発明の製造方法では、本体部分の材料として、硬化温度に加熱されるまでは半硬化状態のままとなっている二段階硬化型の性質を有する熱硬化性樹脂組成物(特に好ましくは、シリコーン樹脂組成物)が用いられる。よって、その場合には、壁部用部品の材料として、付加型か縮合型の架橋反応点を有する樹脂組成物(特に、シリコーン樹脂組成物)が好ましいものとして挙げられる。このような材料からなる壁部用部品を用い、本体部分の加熱硬化時に配置しておけば、接着剤などを用いることなく、両者を結合させる事が可能である。前記の架橋反応点を有する組成物としては、例えば、二液型の熱硬化性シリコーン樹脂であるSYLGARD184(登録商標)W/C(東レ・ダウコーニング株式会社製)などが挙げられる。
【0030】
本願発明の細胞培養用シートを用いた細胞培養では、培地(細胞が消費する栄養を含んだ液体)の交換や補充が必要となる場合がある。そのような場合、培地の抜き取りや注入には、ピペット(シリンジであってもよい)が用いられる。
しかしながら、
図6(a)〜(c)に示すように、壁部によって取り囲まれた本体部分の上面は、貫通孔の第一開口によってほとんど占められている。従って、ピペットの先端部は、1つまたは複数の貫通孔の第一開口の上方に位置することになる。そのような位置で培地の吸引や吐出を行うと、たとえピペットの先端を水平方向に向けても、培地の流れの勢いによって、貫通孔内の細胞が浮き上がり、他の貫通孔へと移動してしまい、培養成功率や回収個数が低下する。
そこで、本発明では、
図7に示すように、本体部分をとりまく壁部13の内側の壁面131の一部に、ピペットの先端部を配置し得る凹部14(以下、「ピペット用凹部」と呼ぶ)を設ける態様を提案する。ピペット用凹部14内にピペットの先端部を挿入し、培地の吸引や吐出を行うことによって、培地の流れが各貫通孔内に直接的に作用することが防止され、培養成功率や回収個数の低下が抑制される。尚、該ピペット用凹部を利用したピペットの操作時においても、拡張部分の有用性が発揮され、ピペットがピペット用凹部の内面に接触しても、本体部分がずれることがない。
【0031】
ピペット用凹部の大きさは、壁部の内側の面から貫通孔の第一開口までの距離によっても異なるが、
図7(a)に一点鎖線141Pによってピペットの先端部の外形を示すように、ピペットの先端部が第一開口上にはみ出さないよう、該ピペットの先端部を十分に収容し得る大きさが好ましい。
ピペット用凹部を上面から見たときの該凹部の形状(壁部の上面に現れる開口形状)は、
図7(a)に示すような半円形、
図7(b)に示すような一部が欠落した円形の他、U字形、C字形、コの字形、V字形などであってよい。ピペット用凹部の出口の角部には、適当な面取りや丸みをつけて、培地の流れがスムーズに広がって出て行くようにしてもよい。
ピペット用凹部を上面から見たときの凹部の形状が半円形や一部が欠落した円形の場合、その直径はピペットの先端部の外形によっても異なるが、0.5mm〜3mm程度が好ましく、2.0mm〜2.5mm程度がより好ましい範囲である。凹部の形状が、U字形、コの字形、V字形の場合には、それぞれの形状に応じて、ピペットの先端部を収容し得るように前記の値を修正すればよい。
1つの本体部分に設けられるピペット用凹部の数は、特に限定はされないが、通常の使用状態では、1つの本体に1つのピペット用凹部があればよい。
ピペット用凹部の位置は、本体部分の外形が正方形または長方形の場合には、
図7(a)に示すような一辺上のいずれかの位置(1辺の中央部など)であってもよいが、
図7(b)に示すような角部がより好ましい。ピペット用凹部の位置を角部とすることで、培地の流れが各貫通孔内に直接的に作用することを、より好ましく防止できる。
ピペット用凹部の底面(ピペット用凹部を上面から見たときに見える奥の面)141は、本体部分の上面11aと同じ面であってもよいし、本体部分の上面11aよりも高い面、または、本体部分の上面11aよりも低い面であってもよい。また、ピペット用凹部の底面141は、曲面であってもよいし、傾きを持った面であってもよい。ピペット用凹部の内面もまた、本体部分の上面11aから垂直にストレートに立ち上がった面のみならず、斜面や曲面などであってもよい。
【0032】
次に、本発明の細胞培養用シートの好ましい製造方法と、該製造方法と密接に関係する好ましい材料を説明する。
図8は、当該細胞培養用シートの好ましい製造方法を示した図である。
図8(a)に示すように、該製造方法では、貫通孔を形成するための突起部120を備えた押し型100と、該押し型に対向する基板200との間に、半硬化状態の材料シートX1を配置する。この半硬化状態の材料シートは、硬化温度に加熱されるまでは半硬化状態のままとなっている性質を有する熱硬化性樹脂組成物(特に好ましくは、シリコーン樹脂組成物)からなる材料シートである。該材料シートは、製造すべき細胞培養用シートの本体部分11となる本体部分領域11eと、拡張部分12となる拡張部分領域12eとを含んでいる。
そして、
図8(b)に示すように、押し型100を基板200に押し付けることによって、突起部120が該材料シートX1を貫通し基板200に達した状態として、本体部分領域11eに貫通孔Yを形成する(押圧工程)。さらに、該押し型100を基板200に押し付けた状態のままで、該材料シートX1を加熱して完全に硬化させ、当該細胞培養用シートXとする(硬化工程)。
材料シートは、完全硬化温度に加熱されるまでは半硬化状態で安定し、半硬化状態のシート状の物品として取扱い可能な状態となっている。半硬化状態の詳細については後述する。
図8(b)中の符号「X1(→X)」は、半硬化状態の材料シートX1が、加熱によって完全硬化したシート状の細胞培養用シートとなったことを示唆している。
【0033】
当該細胞培養用シートは、上記したように、極めて薄いシート状の本体に、中心間ピッチ0.1mm〜1.0mm程度にて、微細な貫通孔を密に配列した構造となっている。そのため、通常の樹脂成形では許容されるような微細な成形不良であっても、当該細胞培養用シートでは細胞の均一な分散の障害となってしまい問題となる。例えば、射出成形など従来の樹脂成形法では、微細な貫通孔を多数形成するために金型内に多数の突起部が設けられているので、それら多数の突起部同士の間に成形樹脂が十分に行き渡らず、気泡による欠落が含まれていたり、ヒケによる変形が発生するなど、貫通孔には種々の変形や寸法不良が生じており、細胞の均一な分散の障害となってしまう。
これに対して、上記した半硬化状態の材料シートを用いた製造方法によれば、押し型の突起部を材料シート内に押し込んだ状態で加熱硬化させるので、材料が行きわたらないということがなく、気泡の混入やヒケによる変形が抑制され、その結果、貫通孔や各部の寸法精度が向上する。このような半硬化状態の材料シートへの加工に起因して、各貫通孔の第二開口の直径の誤差は±10%以内、とりわけ±5%以内となり、また、第二開口に残膜(押し型の突起部と基板との間に、貫通不良として残った膜)を持った貫通孔の存在比率は5%以下、とりわけ1%以下となる。
さらには、成形前の材料の取扱いがより容易になり、また、成形時には打ち抜きカスが発生せず、
図8(c)に示すように、貫通孔Yが形成された本体部分11とその周囲の拡張部分12とを有する細胞培養用シートXを好ましく得ることができる。
【0034】
上記の製造方法において、材料シートとして使用可能な、半硬化状態とすることができる熱硬化性樹脂組成物について詳細に説明する。
熱硬化性樹脂組成物は、モノマー又はオリゴマー(プレポリマー)が不可逆的に重合(架橋)し硬化する樹脂組成物である。
半硬化状態とすることができる熱硬化性樹脂組成物としては、例えば、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、ジアリルフタレート樹脂、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂、ポリウレタン樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂等を含む組成物が挙げられる。その中でも、形成される貫通孔の精度の観点から、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂を含む組成物が好適であり、耐薬品性、耐候性、耐光性および耐熱性に優れる点からは、シリコーン樹脂組成物が特に好ましい。
よって、硬化温度に加熱されるまでは半硬化状態のままとなっている性質を有するシリコーン樹脂組成物からなるシートが好ましい材料シートである。
【0035】
熱硬化性樹脂組成物は、主成分として、重合(架橋)可能なモノマー又はオリゴマー(プレポリマー)を含むものである。また、これに加えて重合(架橋)反応を制御するための反応抑制剤、触媒等を含有していてもよい。また、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、ヘキサン、イソプロパノール、メチルイソブチルケトン、シクロペンタノン、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等の溶媒や公知の添加剤を含有していてもよく、溶媒や添加剤は、それぞれ単独で又は二種以上含有していてもよい。
【0036】
半硬化状態とすることができるシリコーン樹脂組成物、または、それを用い半硬化状態となった材料シートは、市販品であっても、公知の方法に従って形成したものでもよい。
公知の材料シートのなかでも、特開2010−159411号公報に記載された半硬化状のシリコーン樹脂シートは、縮合反応が可能な置換基を有するケイ素化合物、および、付加反応が可能な置換基を有するケイ素化合物を含有するシリコーン樹脂組成物(以下「混合型シリコーン樹脂組成物」と略称する場合がある)を縮合反応することにより得られるものであり、安定した半硬化状態を示し、耐光性と耐熱性に優れているので、本発明の製造方法には特に好ましい材料シートである。
前記特開2010−159411号公報の半硬化状のシリコーン樹脂シートは、Aステージと呼ばれる未硬化状態からBステージと呼ばれる半硬化状態への硬化(一段階目の硬化)と、Bステージ(半硬化状態)からCステージ(全硬化状態)への硬化(二段階目の硬化)とを、それぞれ別々の反応によって行うものである。
即ち、一段階目の硬化を縮合反応、二段階目の硬化を付加反応によって行うことにより、両反応の反応温度条件が異なることを利用して反応を制御し、それぞれの硬化を段階的に進めて、一段階目の硬化が終了した半硬化状態の樹脂シートを得ている。
さらに、二段階目の硬化反応が自然要因ではなく外的要因によって進行するものであるので、一段階目の硬化が終了した時点の状態、即ち、半硬化状態を維持することが可能となっている。
またさらに、各反応に関与する官能基の密度を制御することによって、半硬化物及び全硬化物の粘弾性、強靭性、タック等の物性を制御することが可能となっている。
なお、前記特開2010−159411号公報では、半硬化物、即ち、半硬化状態(Bステージ)の物を、〔溶剤に可溶なAステージと、完全硬化したCステージの間の状態であって、硬化、ゲル化が若干進行し、溶剤に膨潤するが完全に溶解せず、加熱によって軟化するが溶融しない状態である物のことを意味し、全硬化物(完全硬化物)とは、完全に硬化、ゲル化が進行した状態である物のことを意味する〕と規定している。
さらに、混合型シリコーン樹脂組成物は、縮合反応が可能な置換基を有するケイ素化合物および付加反応が可能な置換基を有するケイ素化合物のいずれとも反応し得る化合物を含有することが好ましい。
また、前記前記特開2010−159411号公報のシリコーン樹脂シートの他にも、SYLGARD184(登録商標)(東レ・ダウコーニング株式会社製)等が好ましいシリコーン樹脂組成物として挙げられる。SYLGARD184(登録商標)は、半硬化状態とするために反応抑制剤を添加した付加反応型シリコーン樹脂組成物であって、アルケニル基含有ポリオルガノシロキサン(アルケニル基を有するケイ素化合物)、オルガノハイドロジェンシロキサン(ヒドロシリル基を有するケイ素化合物)、1,3,5,7−テトラメチル−1,3,5,7−テトラビニルシクロテトラシロキサン(反応抑制剤)、白金触媒(反応触媒)、キシレン、エチルベンゼン等を含む。
【0037】
上記した各半硬化状態の熱硬化性樹脂組成物のそれぞれの硬化温度(樹脂が完全に硬化する温度)は、各樹脂組成物によって異なるが、当業者が通常用いる熱硬化性樹脂組成物を完全硬化させる際に用いる温度であればよく、樹脂の性質に基づき設定するものであればよい。
【0038】
上記製造方法は、半硬化状態の材料シートに対する成形加工を行うという特殊なプロセスに起因して、非常に薄いシートに微細な貫通孔が多数形成された製品(即ち、本発明の細胞培養用シート)を形成する場合には、〔ヒケや気泡の混入がなく、寸法のばらつきが小さく、未貫通(成形不良)が少ない〕というその特徴が十分に発揮される。よって、微細な貫通孔を多数形成する場合に特有の品質上の問題が解消される。
また、本発明によって、次のような種々の利点も得られる。成形材料がシート状であるために成形前の段階において液状材料に比べて材料の保管がし易い。型内に挿入する材料の分量が液状材料の場合には重量管理や体積管理であったのに対してシートの場合には厚さで管理することが可能になる。連続プロセスに展開しやすく生産性の向上を図ることができる。射出成形とは異なり、複雑な構造の金型が不要である。
なお、得られる細胞培養用シートの上下の面は、平面が代表的で好ましい態様であるが、需要に応じて曲面であっても、階段状となった面などであってもよい。そのようなシート面が得られるように、後述の押し型の本体の面や基板面を形成すればよい。
【0039】
本発明における押圧工程では、
図8(b)に示すように、押し型100を基板200に押し付けるときに、押し型の突起部120によって材料シートX1の材料部分を押しのけて突起部の周囲に排除し、押し型の先端面と基板面との間で材料が膜状に残らないように密着させた状態としたままで、該材料シートを加熱硬化させる。これによって、
図8(b)に示すように、当該細胞培養用シートの本体部分11の厚さtを押し型の突起部の高さhに応じて高い精度で制御できるので好ましい。
一方、押し型100を基板200に押し付けたときに、突起部120は材料シートX1を貫通しているが、押し型100の本体110が材料シートX1を圧縮しないという自由な状態で加熱硬化を行ってもよい。
図8(a)、(b)に示すように、材料シートX1の厚さt1は、押圧工程〜硬化工程においてどの程度の材料を押し型100で押しのけるかに応じて適宜決定すればよい。例えば、樹脂のはみ出し量を少なくするには、硬化後の本体部分11の厚さtは、突起部12の突起高さhによってほぼ決まるので、材料シートの厚さt1を、突起部12の突起高さhよりも必要量だけ(突起部の体積量を見込んだ分だけ)薄くしておくことが好ましい。例えば、材料シートの厚さt1は、押し型を基板に押し付けた状態(突起部によって材料を押しのけた、
図8(b)の状態)での厚さと比べて、10〜95%の厚さとしておくことが好ましく、20%〜90%の厚さとしておくことがより好ましい。
細胞培養用シートの外周に壁部を一体的に設ける場合、押し型の外周における材料シートの盛り上りを壁部として利用してもよいし、押し型などに段差を設け、外周に壁部が成形されるようにしてもよい。
【0040】
以下、
図8に示すような成形を行う場合について、押し型、基板、押圧工程、硬化工程などを詳細に説明する。
押し型は、
図8(a)に示すように、押し型の本体110と、突起部120とを少なくとも有する熱硬化性樹脂用の成形型であればよい。
押し型の各部を構成する材料は、熱硬化性樹脂用の成形型として使用可能な機械的強度(引張り強度、剛性、硬さなど)と耐熱性とを少なくとも有し、さらに耐薬品性、該押し型を形成するための加工性、繰り返しの耐久性や耐消耗性などを有する材料であればよい。このような材料としては、ニッケルやニッケル合金、炭素鋼などの金属材料や、アルミナ、ジルコニア、炭化ケイ素などのセラミックスが好ましい材料として挙げられる。
【0041】
押し型の本体110と突起部120とは、同じ材料によって一体的に形成されたものであってもよいし、押し型の本体に突起部となるピン状物を埋め込んだものであってもよい。上記したように非常に薄いシートに微細な貫通孔が多数形成された当該細胞培養用シートを成形する場合、押し型の突起部も微細なピン状物となり、別部品としての形成や型の組み立てが困難となる。よって、そのような場合には、押し型の本体と突起部とが一体的に形成された押し型が好ましい。
当該細胞培養用シートを成形するための微細な押し型において、押し型の本体と突起部とを一体的に形成する方法としては、特に限定はされず、従来公知の種々のパターン形成技術、微細加工技術を用いてよい。
【0042】
押し型の突起部の形状は、上記した貫通孔を形成し得る形状や寸法を持った型であればよい。上記した貫通孔の形状についての説明は、そのまま突起部の形状についての説明でもある(凹凸は互いに反転した関係にある)。ただし、抜き勾配や製造後の収縮などを考慮して、貫通孔の寸法に対して必要な修正を微量だけ加えてもよい。
突起部の形状は、第二開口が円形の場合、
図9に例示するように、各突起部12は、角錐台部y1と円柱部y2とが相貫的に結合した立体形状となる。
【0043】
押し型の本体は、細胞培養用シートの本体部分の上面を形成するための型としての面を少なくとも有しており、その面に突起部が設けられる。押し型の本体の厚さや成形用プレス装置への取り付け構造部分などは、使用時の周囲の装置構成に応じて適宜決定すればよい。押し型の本体は、例えば、厚さ5mm〜100mm程度の十分に厚い板状物であってもよいし、十分に厚い板状の支持体に表層として形成または接合された厚さ0.5mm〜3mm程度の薄い板状物であってもよい。
【0044】
基板は、細胞培養用シートの下面を形成する面を少なくとも有し、押し型からの押圧力を受けることができる機械的強度と、熱硬化性樹脂用の成形型として使用可能な耐熱性を少なくとも有する材料であればよい。
また、当該製造方法の好ましい態様では、基板に比較的大きな弾性を持った緩衝層を設ける態様を推奨する。例えば、押し型や基板の厚さ方向に関する寸法誤差や、成形用プレス装置の上下の型設置用プレートの設置面同士の間の距離の誤差などに起因して、押し型に設けられた複数の突起部の中には基板に接触できないものが存在し、貫通孔の不良(貫通不良)が発生する。このような誤差の影響は、製品シートがより薄くかつ貫通孔がより微細な場合により顕著に現れる。
これに対して、
図10に例示するように、基板200に比較的大きな弾性を持った緩衝層220を設けることによって、前記のような寸法誤差を該緩衝層220が吸収するので、圧力が分散し、押し型100の全ての突起部が基板面に接触することができ、貫通不良の発生を抑制することができる。
一方、本発明者らの研究によれば、単に基板の表面に緩衝層を設けただけでは該緩衝層に突起部が入り込み、シート状の本体部分のシート面に凹凸が生じたり、面内の圧力分布にバラツキが生じて、未貫通孔が形成されるといった問題が生じる。よって、押し型を受ける基板は凹凸やうねりが生じない硬い材料からなる層である方が好ましい。
以上のような比較的大きな弾性と、硬い性質という相反する特性を、基板に同時に与える点からは、
図10に示すように、基板200は、硬い材料からなる表層210と、比較的大きな弾性を有する緩衝層220とを有してなる積層体であることが好ましい態様である。
【0045】
前記緩衝層200は、硬化工程における完全硬化温度に対する耐熱性を有するものであればよく、例えば、プラスチック、ゴム等からなるものを用いることができる。緩衝層に用いられるゴムとしては、例えば、シリコーンゴム、フッ素ゴム、エチレン・酢酸ビニルゴム、アクリルゴム等が挙げられる。
緩衝層の厚さは、特に限定はされないが、シートがより薄くかつ貫通孔がより微細である場合には、0.1mm〜2mm程度が好ましく、0.3mm〜1mmがより好ましい。これにより、面内圧力分布をより均一にすることができ、貫通孔の形成が容易になり、貫通不良も減少する。
【0046】
前記表層210(または、緩衝層を設けず基板を単層とする場合にはその基板自体)は、加圧による押し型の突起部の変形を防止するために、突起部からの押圧を受けて適宜塑性変形する材料であることが好ましく、例えば、突起部よりも硬度の小さい金属(例えば、アルミニウム、銅、ステンレスなど)や、プラスチック(例えば、ポリイミド、シリコーン、ポリエステル、ポリカーボネートなど)等からなるものが好適に用いることができる。
また、硬度の高い金属からなる表層であっても、緩衝層上に設けられた薄い表層であれば、押し型の突起部が押し付けられたときに適量だけ変形し得るので、該突起部に損傷を与えることなく、また、硬い材料からなる表層としての役目をも果たすので好ましい。
【0047】
基板200の厚さは特に限定はされないが、上記積層体とする場合の表層の厚さは、50μm〜500μmが好ましく、100μm〜300μmがより好ましい。これにより、加圧分布をより均一にすることができ、貫通孔の形成が容易になる。
【0048】
上記した表層210と緩衝層220とからなる積層体は、押し型の背後にも設けてよく(その場合、表層は押し型に接する側に位置する)、それによって、緩衝層による寸法誤差の吸収や加圧力の均一性はより好ましくなる。
【0049】
上記したように、本発明で用いられる半硬化状態の熱硬化性樹脂組成物は、成形時にはシート状とされた物(材料シート)が用いられ、押し型100と基板200との間に配置される。
【0050】
材料シートは、上記した半硬化状態の熱硬化性樹脂組成物だけからなるシート状物であってもよいが、型への配置や取扱い性などの点からは、
図10に示すように、該材料シートX1がシート用基材Sを支持体として伴う積層シートとして押圧工程に提供される態様が好ましい。
この態様の場合、
図10に示すように、シート用基材Sが基板200の側となるように半硬化状態の材料シートX1を押し型100と基板200との間に配置することによって、押圧工程および硬化工程では、該シート用基材Sが押し型の突起部の先端と基板との間に介在する。該シート用基材Sには、貫通孔が形成されることはないが、押し型の突起部による押圧痕が残る場合がある。
【0051】
前記シート用基材の材料としては、支持体として有用な剛性と、熱硬化性樹脂組成物の硬化温度に対する耐熱性を有するものであればよく、例えば、ポリエステル(例、ポリエチレンテレフタレート(PET))、ポリイミド、ポリカーボネート、ポリオレフィン等が挙げられる。
該シート用基材の厚さは、特に限定はされないが、10μm〜300μm程度が好ましく、30μm〜200μm程度がより好ましい。
【0052】
前記シート用基材を用いる場合、材料シートを硬化させた後に剥離し易いように、該シート用基材の表面に剥離処理を施してもよい。
該剥離処理は、公知の熱硬化性樹脂成形における金型への離型処理を参照してもよく、例えば、フッ素処理やシリコーン処理などが挙げられる。
【0053】
本発明の製造方法を実施するための成形用プレス装置は、従来公知のものを用いてよい。
図10に示す例では、該成形用プレス装置によって、材料シートX1を押し型100と基板200との間に挟んだ状態で、所定の圧力にて押圧する構成例を示している(同図では上下の平行平板ステージ300、400だけを図示しており、駆動部は省略している)。上下の平行平板ステージ300、400の対向面の平行度は、緩衝層等によって許容できる圧力分布のバラツキ内に抑えることができる範囲であればよい。圧力分布のバラツキは、基板が緩衝層と表層とからなる場合、±10%以下であることが好ましく、±5%以下であることがより好ましい。
【0054】
また、成形用プレス装置としては、例えば、真空加圧ラミネータのダイヤフラムのように、対象形状に対して追従性がある加圧手段を用いれば、圧力分布のバラツキをより小さくすることができるので好ましい。
【0055】
硬化工程における硬化温度への加熱や、押圧工程における予備加熱など、材料シートを加熱する場合の加熱方法は、特に限定はされないが、上記した成形用プレス装置の上下の平行平板ステージに設けられた加熱手段(ヒーター)によって該平行平板ステージを加熱し、それによって押し型と基板とを加熱し、それによって材料シートを加熱するという方法や、押し型や基板に直接加熱手段を取り付けて材料シートを加熱する方法などが挙げられる。
【0056】
以下、上記製造方法の各工程に沿って加工内容をより詳細に例示する。
先ず、
図8(a)または
図10に示すように、押し型100と基板200との間に材料シートX1を配置する。
次に、
図8(b)に示すように、押圧工程において、押し型を基板に押し付けて、該材料シートX1に貫通孔を形成する。このとき、材料シートは変形および/または流動して、押し型100の突起部120が材料シートX1を貫通し基板に到達する。
以下、押し型を基板に押し付けることを加圧とも呼ぶ。加圧時には、材料シートにも加圧力が作用し、該材料シートに貫通孔が形成され、
図8(b)のような状態となる。該材料シートは熱硬化性樹脂製であるため、熱可塑性樹脂のような熱溶融はしにくいので、その流動には限界がある。材料シートの体積が押し型の突起部同士の間の空間の容積よりも過度に大きいと、成形後に樹脂が弾性によって復元し、貫通孔の精度が出ない場合がある。よって、条件(特に押し型の突起部同士の間の空間の容積と、材料シートの体積との関係)を正確に調整することが好ましく、とりわけ、材料シートの体積の変動に大きく関係する材料シートの厚さを正確に調整することが好ましい。
【0057】
押圧工程における加圧時の圧力は、特に限定されるものではないが、未貫通孔(突起部と基板面との間に隙間が生じる結果として形成される残膜)の発生を抑えるという点から、1MPa以上であることが好ましく、3MPa以上がより好ましい。また、押し型1の破損や基板3の変形を抑えるという点から、60MPa以下であることが好ましく、40MPa以下であることがより好ましい。
押圧工程における加圧は、押圧工程から硬化工程が終了するまで、連続的かつ継続的に行われる。
【0058】
押圧工程での加圧時における圧力分布のバラツキは、通常、±5%以下であることが好ましく、基板が緩衝層と表層とからなる場合は、該緩衝層による効果で許容できる圧力分布のバラツキが広がり、±10%以下であることが好ましく、±5%以下であることがより好ましい。
【0059】
押圧工程における加圧時間(突起部が基板に到達してから、硬化工程の加熱が開始されるまでの時間)は、加工すべき材料シートの性質等に合わせて設定すればよいが、概して、30秒〜600秒程度である。例えば、半硬化状態とした上記混合型シリコーン樹脂組成物の場合には、60秒〜500秒が好ましく、100秒〜300秒がより好ましい範囲である。本発明では押圧工程において加圧した状態のままで硬化工程を行う。
【0060】
押圧工程では、押圧の前に、急激な温度変化による樹脂への熱衝撃の緩和や生産性の向上を目的として、材料シートに予備加熱を加えてもよい。
予備加熱の温度は、半硬化状態の材料シートを硬化させない温度であればよく、材料によって異なるが、半硬化状態とした上記混合型シリコーン樹脂組成物では、40℃〜130℃程度が好ましく、50℃〜120℃程度がより好ましい。
予備加熱は、一時的に行ってもよく、また、押圧工程を通じて継続的に行ってもよい。
予備加熱は、押圧工程の前に行ってもよいし、材料シートを基板に接触させた後で行ってもよいし、材料シートを挟みこんだ後に行ってもよい。
予備加熱は、押し型と基板の一方または両方に直接的又は間接的に設置する加熱手段(例、公知のヒーター)により行ってもよい。
【0061】
半硬化状態の材料シートを押し型と基板との間に配置する際には、該材料シートの浮き、気泡の混入等を防ぐために、真空条件下で行ってもよいし、材料シートを予め基板上に配置し、十分に浮きや気泡を排除してから、押し型をセットしてもよい。
また、シート用基材と半硬化状態の材料シート(熱硬化性樹脂組成物層)との積層体をロールとして巻いておき、該ロールからシート用基材と半硬化状態の材料シートとを基板上に供給し、硬化後の製品シートをロールとして巻き取るという連続方式とすることでも、浮きや気泡を抑制することが可能である。
【0062】
硬化工程では、
図8(b)に示すように、押し型を基板に押し付けた状態のままで材料シートを硬化温度へと加熱して完全に硬化させる。
硬化温度は、半硬化状態の材料シートを完全に重合(架橋)させ完全硬化させることができる最低温度以上であって、かつ、樹脂組成物が分解して品質が低下しない範囲の温度であればよい。硬化温度は、当業者が通常用いる熱硬化性樹脂組成物を完全硬化させる際に用いる温度であればよく、樹脂の性質に基づき設定するものであればよい。
【0063】
硬化工程において、押圧工程での温度条件から硬化温度へ昇温させるための時間(昇温時間)は、特に限定されるものではないが、総じて30秒間〜900秒間程度が挙げられ、半硬化状態とした上記混合型シリコーン樹脂組成物の場合には、40秒間〜600秒間の範囲であることが好ましく、60秒間〜300秒間の範囲であることがより好ましい。
【0064】
昇温後に完全硬化温度を保持する時間(保持時間)は、樹脂の性質に基づき設定するものであればよく、特に限定されるものではないが、総じて30秒間〜900秒間程度が挙げられ、40秒間〜600秒間の範囲であることが好ましく、60秒間〜300秒間の範囲であることがより好ましい。
【0065】
硬化工程における加圧条件は、押圧工程における加圧条件と同等であればよく、上述した押圧工程における加圧条件の範囲内で変化させてもよい。硬化工程における加圧は、押圧工程からそのまま硬化工程の終始にわたって継続的に且つ連続的に行えばよい。
【0066】
押圧工程及び硬化工程は、異物除去、熱硬化性樹脂組成物の充填の観点から真空雰囲気下で行うことが好ましい。
【0067】
図8(c)に示すように、完全硬化した細胞培養用シートは、硬化工程後の高温の状態で取り出してもよいし、室温へと冷却してから取り出してもよい。
【0068】
図10に示すように、基板200が表層210と緩衝層220とを有する積層体である場合、該表層210が貫通孔の形成ごとに変形する場合がある。その場合には、押圧工程及び硬化工程を行うごとに適宜、表層を取り換えることが好ましい。よって、表層210と緩衝層220とは、容易に着脱できるように接着、または取り付け構造としておくことが好ましい。緩衝層は表層よりも長く繰り返し使用することが可能である。
【0069】
細胞培養用シートに壁部を形成する場合、特に、
図6(c)に示した壁部用部品13aを用いて形成する場合、既に硬化し完成された本体部分に対して、後で壁部用部品を接着剤などを用いて接合してもよいが、その場合には、第一開口と壁部用部品との位置合わせに高い精度を要し、組立てに手間がかかる。
そこで、本発明では、成形の段階において壁部用部品を押し型に対して型内で位置合わせすることで、第一開口と壁部用部品とを容易にかつ高い精度で位置合わせすることを提案する。
図11は、壁部用部品を型内で位置合わせする様子を示した断面図である。同図に示すように、別途成形した枠状の壁部用部品13aを半硬化の材料シートX1上に配置し、該壁部用部品13aに囲まれた中央領域に押し型100を配置し、加圧力Fにて押し型を押圧する。壁部用部品13aに囲まれた中央領域の形状(即ち、壁部用部品の中央の開口形状)は、押し型の外形と適当なはめあい関係となるように決定してよい。該はめあいの隙間の設定によっては、壁部の内側の壁面と第一開口との間の距離を0に近づけることも可能である。このような形成方法によって、壁部用部品を半硬化状態の材料シート上に容易にかつ正確に位置決めする事ができる。また、その後の硬化工程では、壁部用部品と材料シートとの界面で架橋が進行する場合には、特別な接着剤無しで両者は接合される。
【0070】
一方、
図12は、壁部を少なくとも本体部分から一体的に盛り上げて形成する場合の一例を示した図である。
図12に示す方法では、押し型100の付帯部品として、該押し型100の周囲を取り囲む枠状の押圧用部材100Bを用いる。押し型100と押圧用部材100Bとの間には、壁部を盛り上げるための隙間が設けられている。該押圧用部材100Bの材料は、金型部品用の金属が好ましい。
図12に示すように、押し型100と押圧用部材100Bを加圧力Fにて基板200へと押圧すると、押しのけられた材料シートが同図の矢印のように、押し型の周囲に盛り上り本体部分と一体的な壁部となる。
押圧用部材100Bによって薄く押しつぶされた材料シートは、後工程で切り離してもよいし、押しつぶした結果の厚さを調節して拡張部分として利用してもよい。
図11、
図12に例示した製造方法は、それぞれ好ましい一例であって、材料シートに最初から壁部のための盛り上り部分が形成されていてもよい。
【0071】
細胞の集団化それ自体の手順、液体の種類、細胞の種類については、例えば、特許文献1など従来技術を参照すればよい。
当該細胞培養用シートを用いて集団化を行うべき細胞としては、植物細胞であっても動物細胞であってもよく特に限定はされないが、例えば哺乳動物(ヒト、サル、マウス、ラット、モルモット、ハムスター、ウサギ、ネコ、イヌ、ヒツジ、ブタ、ウシ、ウマ、ヤギ等)由来の、膵管幹細胞、骨髄幹細胞、間葉系幹細胞、神経幹細胞、肝幹細胞、網膜神経細胞、癌細胞、骨軟骨細胞、歯胚細胞、筋芽細胞、心筋細胞、腎臓細胞、胚性幹細胞、体性幹細胞、前駆細胞、人工多能性幹細胞、神経細胞、肝細胞、血管内皮細胞、周皮細胞、表皮角化細胞、皮膚線維芽細胞、角膜上皮細胞などが挙げられる。
細胞の集団化の目的は、主としてその細胞の培養が挙げられるが、観察、試験、分化誘導、薬効評価、移植用組織作製、遺伝子導入などであってもよい。
【0072】
当該細胞培養用シートを用いて集団化を行うべき細胞の粒子径は、特に限定はされないが、顕微鏡(透過型電子顕微鏡、光学顕微鏡を含む)によって得られる粒子像のフェレー(Feret)径(1つの細胞粒子を挟む一定方向の二本の平行線の間隔、定方向径とも呼ばれる)で規定する場合、0.01μm〜50μm程度のものであれば、当該細胞培養用シートが有用となり、なかでも0.05μm〜30μm程度のものであれば、当該細胞培養用シートの有用性がより顕著となる。
【0073】
本発明による細胞培養用シートを用いて細胞培養を行う場合、当該細胞培養用シートは平坦な基材の上に配置され、該基材の上面が、当該細胞培養用シートの第二開口を塞いで各貫通孔の内の底面となる。
該基材の材料は、細胞培養の底面として利用可能な従来公知のものであればよく、ガラス、金属、プラスチック、細胞接着性の高い高分子ゲルなど、用途に応じて選択される。該基材の形態は、当該細胞培養用シートを配置し得る面積を持った、平板、皿、マイクロプレートのウェルなどが挙げられる。
【実施例】
【0074】
実施例1
本実施例では、次の4種類(a1)〜(d1)のサンプルを作製し、壁部および拡張部分の効果を確認した。本体部分の外形は、全て、一辺12mmの正方形である。
(a1)
図13(a)に示すように、本体部分11の全周に壁部13が設けられている。壁部は、
図12に示した方法によって形成した。壁部の高さは0.7mmであり、壁部の幅は0.5mmである。第一開口は壁部の内壁に接近しており、両者の間の平坦部の幅は0.1mm以下となっている。尚、このサンプル(a1)における外周の壁部(幅0.5mm)は、従来品の外周を取り巻くマージン部分に相当し本体部分に含まれるので、拡張部分ではない。よって、このサンプル(a1)は拡張部分を有していない点で、従来品としてのサンプルである。
(b1)
図13(b)に示すように、本体部分11の全周に拡張部分12が設けられており、壁部は無い。
(c1)
図14(a)に示すように、本体部分11の全周に拡張部分12が設けられ、かつ、拡張部分上に本体部分11を全周取り巻く壁部13bが設けられている。壁部は、壁部用部品を用い、手作業によって正確に位置合わせを行い、接着剤を用いて両者を接合した。壁部の高さは1.5mmであり、壁部の幅は2mmである。第一開口は壁部の内壁に接しておらず、両者の間には平坦部がある。このサンプルでは、平坦部の幅を変えて、0.5mm、1mm、1.5mmのものを作製した。
(d1)
図14(b)に示すように、本体部分11の全周に拡張部分12が設けられ、かつ、本体部分11を全周取り巻く壁部13aが設けられている。壁部は、
図11に示す方法で形成した。第一開口は壁部の内壁にほとんど接しており、両者の間の平坦部の幅は0.1mm以下となっている。このサンプルでは、壁部の高さと幅を変えて、〔高さ1.0mm、幅1.0mm〕、〔高さ1.5mm、幅1.5mm〕、〔高さ2.0mm、幅2.0mm〕のものを作製した。
また、拡張部分を持ったサンプル(b1)、(c1)、(d1)では、それぞれ、拡張部分の張り出しの長さを変えて、
〔張り出しの長さ4mm(即ち、拡張部分の外形は、一辺20mmの正方形)〕、
〔張り出しの長さ9mm(即ち、拡張部分の外形は、一辺30mmの正方形)〕、
〔張り出しの長さ14mm(即ち、拡張部分の外形は、一辺40mmの正方形)〕
のものを作製した。
【0075】
評価方法
上記細胞培養用シートのサンプル(a1)〜(d1)を用いて、試料液中に分散した幹細胞を集団化し、各貫通孔の底で胚様体(幹細胞の集合体)へと培養した。実際の操作では、各サンプルを培養皿の面上に配置し、試料液を本体部分の上へ滴下した。各貫通孔内に分かれた幹細胞が均質な胚様体となるまで培養し、完了後、シートを培養皿から剥離して胚様体を回収した。
この胚様体の形成において、(A)胚様体の均質性、(B)培養の利便性について評価を行った。培養の利便性は、胚様体の形成に必要な期間が数日から数週間を要する為、その間、培養が失敗しないような利用上の使い勝手の良さを評価したものである。
【0076】
(A)胚様体の均質性
下記表1は、各サンプルを用いて行なった細胞の集団化〜胚様体(細胞の集合体)の形成の結果得られた胚様体の均質性を目視で評価した結果と、胚様体の形成率を示す表である。胚様体の形成率とは、各サンプルに行列状に形成された貫通孔(24行×24列=576個)に対する、胚様体が成形された貫通孔の数の割合である。
表1に示すとおり、胚様体の均質性は、本体部分の外周に壁部があることが重要であり、更に、外周縁部の第一開口と壁部とができる限り接近していることが重要である事がわかった。
先ず、壁部が無いサンプル(b1)では、試料液を滴下した際に、液が一部の細胞と共に本体部分の外へ拡散し、胚様体の均質性が得られない。この為、胚様体の作製成功率は50%以下と著しく低くなってしまった。
一方、壁部を持ったサンプル(a1)、(c1)、(d1)は、滴下した試料液が拡散する事は無かった。しかし、サンプル(c1)のように貫通孔の第一開口と壁部との間に大きな隙間があるような場合は、その隙間の平面に細胞が沈降し、胚様体の形成に寄与しないことになり、形成率が低下した。この傾向は隙間のサイズが大きくなるにつれて顕著となり、0.5mm、1.0mm、1.5mmの隙間における各形成率は、それぞれ85%、70%、55%であった。
サンプル(a1)と(d1)は、貫通孔の第一開口と壁部との間にほとんど隙間が無い為、滴下した試料液中の細胞はほぼ全て貫通孔内ヘ分かれて落ちた事から、形成率は90%以上であった。
しかし、サンプル(a1)の壁部は、高さが0.7mm、幅が0.5mmと小さかった事から、細胞を含んだ試料液の一部が壁部から外へあふれた。その為、サンプル(d1)と比べるとやや形成率が低い。従って、滴下する試料液の量にもよるが、壁部の高さは1.0mm以上、幅も1.0mm以上がより好ましい。
【0077】
(B)培養の利便性
下記表1の下段の胚様体の培養成功率は、本実施例において要した胚様体が形成されるまでの7日間にわたる培養において、操作上のトラブル(培地交換などの操作時に器具が触れて、シートが培養ディッシュ上でずれたり、浮いたりする事によって液漏れが発生するなど)が起きず、胚様体の培養が完了した割合を示している。
表1の結果から明らかなように、拡張部分の存在が胚様体を安定的に培養する為に重要である事がわかった。サンプル(a2)のように拡張部分が無い細胞培養用シートでは、安定して培養する事ができず、サンプル(b2)〜(d2)のような拡張部分を持つ細胞培養用シート系では、基材上に密着した状態を維持できるので、安定した培養が可能であった。
また、拡張部分の面積も培養成功率に寄与している。表1には示していないが、拡張部分の外形が一辺40mmの正方形のように大きなサンプルでは、ほぼ100%安定して培養する事が可能であったのに対し、拡張部分の外形が一辺20mmの正方形のように、やや小さいサンプルでは、95%程度に低下した。これは拡張部分が小さいと、基材に密着する力も低いので、シートが浮き易くなったためと考えられる。
従って拡張部分の大きさは、一辺の長さが20mmの正方形以上、つまり本体部分から4mm以上張り出している事がより好ましい。
【0078】
【表1】
【0079】
実施例2
本実施例では、本体部分の面積に対する拡張部分の面積(拡張面積)の割合R1の好ましい下限値を確認した。
拡張面積の割合を変えた下記3種類(a2)〜(c2)のサンプルを作製し、拡張部分の効果を確認した。本体部分の外形は、全て、一辺12mmの正方形である。
(a2)実施例1における(a1)のサンプルと同様のサンプル。壁部の高さは0.7mm、壁部の幅は0.5mm、貫通孔の数は、24×24=576個である。このサンプルは拡張部分を有していない点で、従来品としてのサンプルである。
(b2)上記(a2)のサンプルの各壁部の幅を、拡張部分として外側に0.25mmだけ増大させて幅0.75mmとしたサンプル。シート全体の外形は一辺12.5mmの正方形である。拡張面積は、12.25mm
2であり、本体部分の面積144mm
2に対する拡張面積の割合は、約8.5%である。
(c2)上記(a2)のサンプルの各壁部の幅を、拡張部分として外側に0.5mmだけ増大させて幅1mmとしたサンプル。シート全体の外形は一辺13mmの正方形である。拡張面積は、25mm
2であり、本体部分の面積144mm
2に対する拡張面積の割合は、約17.4%である。
【0080】
〔本体部分の面積に対する拡張面積の割合の評価〕
実施例1と同様に細胞培養を行なった結果、(a2)のサンプル(拡張部分無し)の培養成功率は50%以下であり、(b2)のサンプル(拡張面積の割合8.5%)の培養成功率は70%程度であり、(c2)のサンプル(拡張面積の割合17.4%)の培養成功率は90%以上であった。
これらの培養成功率の差異は、7日間にわたる培養において、実施例1で述べた操作上のトラブルが原因として生じた差異である。
以上の結果から、自主的に決定すべき拡張面積の割合の下限を10%程度とすれば、70%を超える培養成功率が得られることがわかった。