特許第6386268号(P6386268)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6386268
(24)【登録日】2018年8月17日
(45)【発行日】2018年9月5日
(54)【発明の名称】加飾成形体およびその製法
(51)【国際特許分類】
   A45D 33/18 20060101AFI20180827BHJP
   G09F 7/16 20060101ALI20180827BHJP
   B41M 3/06 20060101ALN20180827BHJP
【FI】
   A45D33/18 B
   G09F7/16 N
   G09F7/16 D
   G09F7/16 F
   !B41M3/06 C
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-133886(P2014-133886)
(22)【出願日】2014年6月30日
(65)【公開番号】特開2016-10569(P2016-10569A)
(43)【公開日】2016年1月21日
【審査請求日】2017年4月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】000158781
【氏名又は名称】紀伊産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079382
【弁理士】
【氏名又は名称】西藤 征彦
(74)【代理人】
【識別番号】100123928
【弁理士】
【氏名又は名称】井▲崎▼ 愛佳
(74)【代理人】
【識別番号】100136308
【弁理士】
【氏名又は名称】西藤 優子
(72)【発明者】
【氏名】井上 直明
(72)【発明者】
【氏名】岡田 親典
(72)【発明者】
【氏名】馬場 裕
(72)【発明者】
【氏名】中谷 春香
【審査官】 村山 睦
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−334122(JP,A)
【文献】 特開平10−003275(JP,A)
【文献】 特開2013−049250(JP,A)
【文献】 実開昭62−116873(JP,U)
【文献】 特開2005−153464(JP,A)
【文献】 特開2013−132880(JP,A)
【文献】 実開昭62−108000(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A45D 33/18
G09F 7/16
B41M 3/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明部材からなる透明層を有し、その片面に、上記透明層を部分的に露出させる透かし模様を有する不透明層が形成され、この透かし模様部分、もしくはこの透かし模様が形成された透明層の面とは反対側の面であって上記透かし模様に対峙する部分に、厚盛印刷による透明インクの厚盛部が70〜200μmの厚みで形成されており、上記透明層の、厚盛部が形成された面と反対側の面に、上記透明層へのインクジェット印刷による透明着色インク層と、これに重ねられる金属光沢層とで構成された着色層が設けられており、上記厚盛部および不透明層の透かし模様を通して、上記透明層の反対側の面に設けられた着色層が視認されるようになっていることを特徴とする加飾成形体。
【請求項2】
上記不透明層の透かし模様が、透明層に積層された不透明層をCO2レーザで除去してなる除去跡によって形成されている請求項1記載の加飾成形体。
【請求項3】
請求項1記載の加飾成形体を製造する方法であって、透明部材からなる透明層を有する成形体を準備する工程と、上記透明層の片面に、この透明層を部分的に露出させる透かし模様を有する不透明層を形成する工程と、この透かし模様部分、もしくはこの透かし模様が形成された透明層の面とは反対側の面であって上記透かし模様に対峙する部分に、厚盛印刷によって透明インクの厚盛部を70〜200μmの厚みで形成する工程と、上記透明層の、厚盛部が形成される面と反対側の面に、インクジェット印刷によって透明着色インク層を形成し、その透明着色インク層形成面に、別部材の一面に設けられた金属光沢層を重ねることにより、透明着色インク層と金属光沢層とで構成された着色層を設ける工程とを備え、上記厚盛部および不透明層の透かし模様を通して、上記透明層の反対側の面に設けられた着色層が視認されるようにしたことを特徴とする加飾成形体の製法。
【請求項4】
上記透かし模様を有する不透明層を形成する工程が、透明層に不透明層を積層する工程と、上記不透明層をCO2レーザで部分的に除去し、その除去跡によって透かし模様を形成する工程とを備えている請求項記載の加飾成形体の製法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成形面に、あたかも立体的な着色模様が付与されているかのように見える加飾成形体およびその製法に関するものである。
【0002】
化粧料を収容したコンパクト容器や口紅容器等には、単に機能性だけでなく、見栄えがよい、商品イメージを反映したデザインである、といった意匠性も要求される。このため、容器表面に、奇抜なデザインの着色模様を付与したり、緻密な凹凸模様を付与したりして、アイキャッチ効果を高め、他社商品との差別化を図ることが重要な課題となっている。
【0003】
ところで、最近、例えば図6に示すように、基材31上に印刷された文字や模様32の上に、紫外線(UV)硬化型透明インク33を厚肉に盛り上げて硬化することにより、文字等32を強調するようにしたもの(特許文献1)や、図7に示すように、基材31上に離形剤34を特定の印刷パターンで印刷し、離形剤34が印刷されていない部分に樹脂インク35を厚盛印刷することにより、厚盛印刷部分の輪郭を鮮明にして、そのレンズ効果を高めたもの(特許文献2)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実開昭62−116873号公報
【特許文献2】特開2002−205452号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、化粧料容器等の加飾成形体においても、表面に着色模様を付与し、その上に厚盛印刷を重ねることにより、着色模様を立体的に見せて、その印象を強調することが検討されているが、着色模様を構成する部分の材質によっては、厚盛印刷の透明樹脂と、その下の着色部分とが充分に接着一体化しない場合がある。このため、繰り返し手で触れたり他の容器と一緒にバッグに入れて携帯したりする化粧料容器に、上記厚盛印刷技術をそのまま適用して加飾を施すことは、問題があることが判明した。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みなされたもので、あたかも立体的な着色模様が付与されているかのように見え、しかもその模様が耐久性に優れている加飾成形体およびその製法の提供を、その目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するため、本発明は、透明部材からなる透明層を有し、その片面に、上記透明層を部分的に露出させる透かし模様を有する不透明層が形成され、この透かし模様部分、もしくはこの透かし模様が形成された透明層の面とは反対側の面であって上記透かし模様に対峙する部分に、厚盛印刷による透明インクの厚盛部が70〜200μmの厚みで形成されており、上記透明層の、厚盛部が形成された面と反対側の面に、上記透明層へのインクジェット印刷による透明着色インク層と、これに重ねられる金属光沢層とで構成された着色層が設けられており、上記厚盛部および不透明層の透かし模様を通して、上記透明層の反対側の面に設けられた着色層が視認されるようになっている加飾成形体を第1の要旨とする。
【0009】
また、本発明は、そのなかでも、特に、上記不透明層の透かし模様が、透明層に積層された不透明層をCO2レーザで除去してなる除去跡によって形成されている加飾成形体を第の要旨とする。
【0010】
そして、本発明は、上記第1の要旨である加飾成形体を製造する方法であって、透明部材からなる透明層を有する成形体を準備する工程と、上記透明層の片面に、この透明層を部分的に露出させる透かし模様を有する不透明層を形成する工程と、この透かし模様部分、もしくはこの透かし模様が形成された透明層の面とは反対側の面であって上記透かし模様に対峙する部分に、厚盛印刷によって透明インクの厚盛部を70〜200μmの厚みで形成する工程と、上記透明層の、厚盛部が形成される面と反対側の面に、インクジェット印刷によって透明着色インク層を形成し、その透明着色インク層形成面に、別部材の一面に設けられた金属光沢層を重ねることにより、透明着色インク層と金属光沢層とで構成された着色層を設ける工程とを備え、上記厚盛部および不透明層の透かし模様を通して、上記透明層の反対側の面に設けられた着色層が視認されるようにした加飾成形体の製法を第の要旨とする。
【0012】
さらに、本発明は、そのなかでも、特に、上記透かし模様を有する不透明層を形成する工程が、透明層に不透明層を積層する工程と、上記不透明層をCO2レーザで部分的に除去し、その除去跡によって透かし模様を形成する工程とを備えている加飾成形体の製法を第の要旨とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、透明層片面に、透かし模様を有する不透明層を形成し、その透かし模様部分、もしくは透明層を挟んでその反対側の部分に、透明インクの厚盛部を設けるとともに、その反対側の面に着色層を設けて、その厚盛部と透かし模様を通して、反対側の着色層が視認されるようにしたものである。この構成によれば、透かし模様部分の厚みと透明層の厚みを合わせた距離だけ離れて配置された着色層の色が、透明層を通過する光の反射効果と厚盛部におけるレンズ効果の相乗効果によって、あたかも厚盛部全体を着色しているかのように見える。しかも、上記厚盛部が、丸みを帯びて盛り上がった形状であるため、色水が盛り上がって成形体表面に載っているかのような印象となり、アイキャッチ効果の高いものとなる。
【0014】
しかも、上記厚盛部は、直接着色層と接しておらず、透明層の樹脂面と接しているため、着色層の材料との接着性に左右されることなく、透明層の樹脂面と強固に接着一体化する。したがって、透明層の表面から厚盛部が部分的に剥がれたり脱落したりすることがなく、長期にわたって、その美麗な外観が維持されるという利点を有する。なお、透明層と厚盛部との間に、透かし模様を有する不透明層が介在する場合であっても、厚盛部は、透かし模様の隙間に入り込んで透明層と接するため、仮に、不透明層と厚盛部の接着力が充分でない場合であっても、厚盛部は、透明層の樹脂面と強固に接着一体化するのであり、その接着強度が損なわれることはない。
【0015】
そして、本発明の加飾成形体、特に、上記着色層が、透明層へのインクジェット印刷による透明着色インク層と、これに重ねられる金属光沢層とで構成されているため、厚盛部と透かし模様を通して立体的に見える色模様が、インクジェット印刷によって付与された透明な色彩に金属光沢色が重なって、あたかも蒔絵や螺鈿の細工が施されているかのような印象を与え、より一層興趣に富むものとなる。
【0016】
また、本発明の加飾成形体、特に、上記厚盛印刷による厚盛部の厚みが、70200μmに設定されているため、厚盛部におけるレンズ効果が適度に作用して、反対側の面に設けられた着色層の色が厚盛部全体に反映される。したがって、とりわけ違和感なく、この厚盛部を、立体的な着色模様のように見せることができる。
【0017】
さらに、本発明の加飾成形体のなかでも、特に、上記不透明層の透かし模様が、透明層に積層された不透明層をCO2レーザで除去してなる除去跡によって形成されているものは、透かし模様の透けた部分が荒れてざらついた粗面になるため、この部分を通して見る着色層の色が、陰影のある落ち着いた色に見えて、高級感が得られる。また、レーザの照射領域を指示するための数値データと、厚盛印刷を行う領域を指示するための数値データを共用することができるため、製造工程における作業効率がよいだけでなく、微細な透かし模様に対しても、上記厚盛印刷領域を正確に位置合わせすることができるため、とりわけ美麗な外観が得られるという利点を有する。
【0018】
そして、本発明の加飾成形体の製法によれば、上記加飾成形体を、効率よく製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の一実施の形態を示す斜視図である。
図2図1のX−X′断面図である。
図3】上記実施の形態における蓋体の分解斜視図である。
図4】(a)〜(e)は、いずれも上記蓋体における模様の形成方法の説明図である。
図5】(a)、(b)は、ともに参考の形態の説明図、(c)は、他の実施の形態の説明図である。
図6】従来技術の一例を示す説明図である。
図7】従来技術の他の例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
つぎに、本発明を実施するための形態について説明する。ただし、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではない。
【0021】
図1は、本発明の一実施の形態であるコンパクト容器の斜視図であり、図2は、そのX−X′断面図である。これらの図において、1は本体部で、その内側の、向かって左側に設けられた凹部2には、ファンデーション等の化粧料が収容保持されるようになっている。また、向かって右側に設けられた凹部3には、化粧料を肌に塗布するためのパフが収容保持されるようになっている。
【0022】
また、4は、上記本体部1の上部開口を蓋する蓋体で、上記本体部1の後端部に、本体部1とのヒンジ連結(図示せず)によって回動自在に取りけられており、図1において鎖線で示すように、上方に開くようになっている。なお、蓋体4の内側面には、鏡5が貼着されている。
【0023】
上記蓋体4は、その分解斜視図である図3に示すように、後端部にヒンジ部6aが突設された蓋枠体6と、その上面に嵌合一体化される蓋板8と、その間に挟み込まれるオパール調の光沢シート7とで構成されている。そして、上記蓋板8は、透明アクリル樹脂成形体からなる透明層8aと、その裏面に形成された金属光沢層からなる不透明層8bで構成されており、その上面に、一見、着色された部分自体が突出しているかのように立体的に見える、薔薇の花と葉をデザイン化した特殊な着色模様Pが形成されている。
【0024】
上記蓋板8は、例えばつぎのようにして得ることができる。すなわち、まず、蓋板8となる透明層8aを賦形するための金型を用意し、透明層8aの形成材料である透明アクリル樹脂材料を射出成形することにより、図4(a)に示すように、所定形状が付与された透明層8aを得ることができる。
【0025】
つぎに、上記透明層8aの裏面に、アルミニウム蒸着によって、金属光沢層からなる不透明層8bを形成する。そして、図4(b)に示すように、この不透明層8bのうち、着色模様Pをつくろうとする領域の不透明層8bにCO2レーザを照射し、この部分の不透明層8bを除去加工することにより、着色模様Pと同一形状の透かし模様P′を形成する。このとき、上記透かし模様P′の透けた部分は、CO2レーザの照射跡によって、荒れてざらついた粗面となる。
【0026】
つぎに、図4(c)に示すように、上記透明層8aの、透かし模様P′が形成された面と反対側の、上記透かし模様P′に対峙する部分に、厚盛印刷によって無色透明インクの厚盛部9を形成する。そして、図4(d)に示すように、上記厚盛部9が形成された面と反対側の面の、透かし模様P′が形成された部分に、インクジェット印刷によって、透明着色インクからなる着色層10を形成する。このとき、上記着色層10の形状は、透かし模様P′の形状と完全に一致している必要はなく、透かし模様P′よりやや大きめに形成されていればよい。
【0027】
上記着色層10の色合いは、透明な厚盛部9と透かし模様P′とを通して、透明層8aの表側から見えるようになっており、その透かし模様P′の透かし部分のうち、薔薇の花の花びら先端の部分はピンクで、中心側に向かってイエローに変化するグラデーションがついた色合いに着色されている。また、薔薇の葉の部分は、濃淡のあるグリーンに着色されている(図1を参照)。
【0028】
このようにして着色層10が形成された蓋板8を、上面に、オパール調の光沢シート7を載置した蓋枠体6上に重ねて嵌合することにより、着色模様P付きの蓋体4を得ることができる(図3を参照)。
【0029】
上記蓋体4に付与された着色模様Pは、図4(e)に示すように、蓋板8の表面側に設けられた厚盛部9と透かし模様P′とを通して、その下の着色層10と、さらにその下に重ねられたオパール調の光沢シート7の色とが重なった、柔らかい光沢ある色合いによって、厚盛部9全体が着色されているかのように、盛り上がって見える。しかも、上記透かし模様P′の透けた部分が、CO2レーザの照射跡によって荒れてざらついた粗面になっているため、上記柔らかい光沢に微妙な陰影が付与されて、その色合いがより深みあるものになっている。そして、着色模様Pの周囲が、透明層8aを透かして見える、不透明層8bの金属光沢色であるため、上記厚盛部9の陰影が、透明層8aの厚み分だけ深い位置にある不透明層8bに映り込んで、より複雑な陰影を与えている。したがって、着色模様P全体が、浮き上がったような独特の立体感があり、しかも色合いに深みがあって上品で、あたかも蒔絵か螺鈿のような、高級感ある色模様となっている。
【0030】
そして、この構成によれば、上記厚盛部9が、直接着色層10と接するのではなく、透明層8aの樹脂面と接しているため、着色層10との接着性が問題とならず、透明層8aの樹脂面と強固に接着一体化する。したがって、厚盛部9が透明層8aの表面から部分的に剥がれたり脱落したりすることがなく、長期にわたって、その美麗な着色模様Pが維持されるという利点を有する。
【0031】
なお、上記の例において、蓋板8の透明層8aを構成する透明部材は、従来から容器等の成形品に用いられる透明部材であれば、どのようなものであってもよく、アクリル樹脂の他、例えばポリエステル(PET)、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン(ABS)樹脂、アクリロニトリル−スチレン(AS)樹脂、ポリカーボネート(PC)、ポリスチレン(PS)等があげられる。なかでも、硬さと透明性の点で、アクリル樹脂、ポリエテル樹脂が好適である。そして、上記透明層8aは、厚盛部9が形成された面と反対側の面に形成された着色層10とその下の光沢シート7とが重なった色を、その反対側から透かして見せるために透明でなければならないが、必ずしも無色である必要はなく、多少着色されていても、反対側が透けて見えていれば問題ない。以下に述べる「透明」も、特に断らない限り、着色の有無を問わず、その反対側が透けて見える程度に透明であればよい。
【0032】
そして、上記透明層8aの厚みは、この加飾成形体の用途や要求される強度等に応じて、適宜に設定されるが、なかでも、着色模様Pの盛り上がりと着色が、より自然に見える厚みに調製することが好ましい。すなわち、上記透明層8aの厚みが厚すぎると、加飾成形体全体が嵩張って好ましくないとともに、反対側の着色層10との距離が大きすぎて厚盛部9に映る色模様が自然に見えなくなるおそれがある。また、上記厚みが薄すぎると、厚盛部9に映る色模様の見え方に奥行きがなくなり立体感が乏しくなるおそれがある。したがって、本発明を、上記の例のように、コンパクトタイプの化粧料容器の蓋体4に適用する場合、上記透明層8aの厚みは、0.5〜5mmに設定することが好適である。
【0033】
一方、上記透明層8aの裏面に形成される不透明層8bは、上記の例では、アルニミウム蒸着によって形成された金属光沢層を用いたが、その材質は、金属に限らず、インク、塗料、着色シート等、樹脂成形体の加飾に用いられるものであれば、どのようなものであってもよい。ただし、上記透明層8aとの対比から、不透明でなければならない。そして、その形成方法は、蒸着、スパッタリング、メッキ、ホットスタンプ、コーティング、貼付等、その材質に応じて適宜の方法が採用される。また、金属箔等の金属光沢層や、単色や色模様からなる着色層を、転写シートから転写させるものであってもよい。なお、「不透明」とは、上記不透明層8bに透かし模様P′を形成したとき、その透かし部分をそれ以外の部分から区別して認識できる程度に透明でないことをいい、必ずしも完全に不透明である必要はない。
【0034】
そして、上記不透明層8bの色は、成形体への加飾のデザイン等に応じて選択されるが、なかでも、上記の例のように、金属光沢を有する色であることが好ましい。すなわち、着色模様Pを視認したとき、その厚盛部9の立体的な光の反射が、その周囲の、不透明層8bの金属光沢層においても反射し、より複雑な陰影を作って興趣に富むものとなるからである。
【0035】
上記不透明層8bの厚みは、その材質や全体の大きさにもよるが、例えば、上記の例のように、コンパクトタイプの化粧料容器の蓋体4に用いる場合、0.04〜50μmに設定することが好適である。すなわち、上記不透明層8bの厚みが薄すぎると、層を均一に形成することが容易でなく、逆に厚すぎると、加飾成形体全体が嵩高くなるとともに重くなって好ましくない。
【0036】
また、上記不透明層8bに透かし模様P′を形成する方法としては、上記の例のように、透かし模様P′を得ようとする部分にCO2レーザを照射して、その部分の不透明層8bを除去することが好適であるが、それ以外に、例えば、予めレーザ照射等によって透かし模様P′が形成された不透明層付きの転写シートを用いることができる。
【0037】
そして、上記不透明層8bの透かし模様P′の透かし部分の形状は、特に限定するものではないが、厚盛部9の幅が広すぎると、厚盛部9による立体的な陰影が全体的に乏しいものとなるおそれがあるため、幅の細い点や線からなる模様とすることが好ましい。これに合わせて、透かし模様P′も、その透かし部分の最大幅(図1においてWで示す)が0.1〜10mmとなる点や線からなる模様であることが好適である。
【0038】
また、上記透かし模様P′の反対側の面に形成される厚盛部9は、厚盛用の透明インクを、スクリーン印刷等によって厚盛印刷することによって得ることができる。上記透明インクとしては、例えば、アクリレート系、メタクリレート系、不飽和ポリエステル系等のUV硬化型透明インク、アクリレート系、エポキシ系、シリコーン系等の熱硬化型透明インク等があげられる。とりわけ、UV硬化型透明インクを用いると、簡単かつ効率よく厚盛部9を得ることができ、好適である。
【0039】
上記厚盛部9の厚み(図2においてHで示す)は、70〜200μmに設定することが必要である。すなわち、上記厚みHが厚すぎると、着色模様Pの部分が突出しすぎて見栄えが悪くなったり、突出先端に傷がついて美麗な外観が損なわれたりするおそれがあり、逆に、上記厚みHが薄すぎると、厚盛部9によるレンズ効果が不充分となり着色模様Pの立体感が乏しくなって、印象が弱くなるおそれがあるからである。
【0040】
さらに、上記厚盛部9と反対側に設けられる着色層10は、上記の例ではインクジェット印刷によって得られる透明着色層であり、その下に、オパール調の光沢シート7が重ねられるようになっている。この構成によれば、インクジェット印刷によって付与された透明な色彩に金属光沢色が重なって、あたかも蒔絵や螺鈿の細工が施されているかのような印象の着色模様Pが得られるそして、上記の例のように、着色層10を、インクジェット印刷によって形成すると、目的とする着色模様Pのデザインに応じた色(単色)や色模様を、簡単な設定で迅速に形成することができる
【0041】
なお、上記着色層10の他の例(参考の形態)として、例えばコーティングや印刷、蒸着等によって所望の着色層が形成された転写シートを用い、その着色層を、不透明層8bの表面に転写して、図5(a)に示すような着色層10とすることができる。また、転写シートを用いることなく、不透明層8bの表面に直接コーティングや印刷、蒸着等によって、所望の着色層10を形成することもできる。
【0042】
また、図2に示すように、蓋板8と蓋枠体6とを組み合わせた構成において、光沢シート7を挟み込むのではなく、蓋枠体6として、所望の色に着色したものや、マーブル調のものを用い、この蓋枠体6と蓋板8とを嵌合一体化させることにより、上記蓋枠体6の着色された上面部を着色層10として用いることができる(他の参考の形態)。この構成を図5(b)に示す。もちろん、本発明の他の実施の形態として、上記蓋枠体6の上面に、金属光沢層とインクジェット印刷による透明着色層とを組み合わせた着色層を形成しておき、その着色層の上に蓋板8を重ねて、嵌合一体化させるようにしてもよい。
【0043】
さらに、上記の例では、透明層8aの片面に、透かし模様P′を有する不透明層8bを形成し、その反対側の、透かし模様P′に対峙する部分に厚盛部9を形成したが、例えば図5(c)に示すように、厚盛部9を、不透明層8bの透かし模様P′が形成された部分に、重ねて形成するようにしてもよい。この場合も、着色層10は、厚盛部9が形成された面と反対側の面に形成する。この構成によれば、裏面側の着色層10の色を、厚盛部9と透かし模様P′とを通して視認することができ、上記一連の例と同様の効果を奏することができる。ただし、図5(c)の構成において、上記不透明層8bがアルミニウム蒸着層のように金属薄膜である場合には、その表面保護のために、不透明層8bの表面にハードコート層を設けることが好ましい。
【0044】
なお、上記のように、透かし模様P′が形成された部分に厚盛部9を設ける場合、不透明層8bにCO2レーザ照射して透かし模様P′を形成したものであると、透かし模様P′の透かし部分となる透明層8aの表面が、荒れてざらついた粗面となるため、厚盛部9との接着強度が低下するおそれがある。そこで、透かし模様P′に重ねて厚盛部9を設ける場合は、透かし模様P′が予め形成されている転写シートを利用して不透明層8bを形成したものであることが好ましい。あるいは、樹脂表面を荒らすことのないYAGレーザによって透かし模様P′を形成したものであることが好ましい。
【0045】
なお、これらの例は、本発明をコンパクト容器に適用したものであるが、本発明を適用する成形体は、容器に限らず、各種の樹脂成形体、あるいは樹脂成形体に他の部材を組み合わせた成形体等、特に限定するものではない。例えば、携帯電話、文房具、家電製品、各種ケース等に広く適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明は、あたかも立体的な着色模様が付与されているかのような興趣に富む外観を備え、しかもその模様が耐久性に優れ、長期にわたってその外観を維持することのできる加飾成形体およびその製法に利用することができる。
【符号の説明】
【0047】
4 蓋体
7 光沢シート
8 蓋板
8a 透明層
8b 不透明層
9 厚盛部
10 着色層
P 着色模様
P′ 透かし模様
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7