(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1は本発明の一実施形態のゴルフクラブヘッド10の外観図であり、ゴルフクラブヘッド10をフェース部11側から見た図である。
【0012】
ゴルフクラブヘッド10は中空体をなしており、その周壁が、フェース部11、クラウン部12、ソール部13及びサイド部14を構成している。フェース部11は、その表面がフェース面(打撃面)を形成する。フェース面にはバルジ及びロールが形成されている。クラウン部12はゴルフクラブヘッド10の上部を形成する。ソール部13はゴルフクラブヘッド10の底部を形成する。サイド部14はソール部13と、クラウン部12との間の部分を形成する。また、ゴルフクラブヘッド10はシャフトが取付けられるホゼル部15を備える。
【0013】
図1の矢印d1はフェース部11の上下方向を示し、矢印d2はトウーヒール方向を示す。トウ−ヒール方向は、例えば、ソール部13のトウ側端とヒール側端とを結ぶ方向或いはフェース−バック方向に直交する方向と規定することができる。フェース部11の上下方向は、ゴルフクラブヘッドを規定ライ角通りに接地した場合を基準とする。本実施形態の場合、ソール部13−クラウン部12の方向となる。
【0014】
ゴルフクラブヘッド10はドライバ用のゴルフクラブヘッドである。しかし、本発明はドライバ以外のフェアウエイウッド等も含むウッド型のゴルフクラブヘッドに適用可能である。特にロフト角度が20度以下のゴルフクラブヘッドに好適である。
【0015】
ゴルフクラブヘッド10は、金属材料から作成することができ、そのような金属材料としては、チタン系金属(例えば、6Al−4V−Tiのチタン合金等)、ステンレス、ベリリウムカッパー等の銅合金が挙げられる。
【0016】
ゴルフクラブヘッド10は、複数のパーツを接合して組み立てることができる。例えば、本体部材とフェース部材とから構成できる。本体部材は、クラウン部12、ソール部13、サイド部14及びフェース部11の周縁部分を構成し、フェース部11に相当する部分の一部に開口部が形成される。フェース部材は本体部材の開口部に接合される。
【0017】
フェース部11の表面には、複数の浅溝16、スコアライン17、20、点状の溝18及び19が形成されている。これらの構成を、
図1に加えて
図2(A)及び
図2(B)を参照して説明する。
図2(A)は、
図1のI−I線に沿うフェース部11の部分断面図及びその部分拡大図である。
図2(B)は、
図1のII−II線に沿うフェース部11の部分断面図である。
【0018】
複数の浅溝16は、フェース部11の上下方向(d1方向)に配列されている。本実施形態の場合、各浅溝16は、トウ−ヒール方向(d2方向)に延設された直線状の溝であり、互いに平行である。ゴルフクラブヘッド10を目標方向に向けて接地したとき、各浅溝16が水平になるように形成されている。本実施形態の場合、各浅溝16は、途切れのない直線状に形成されているが、途中の部位において途切れていてもよい。
【0019】
各浅溝16の深さD1は、0.025mm未満である。このため、ゴルフクラブヘッドの規則(R&Aルール)上、各浅溝16は、いわゆるスコアラインではなく、フェース面を粗面化する要素(例えばミリングによる要素)として扱われる。各浅溝16はフェース面の表面粗さを調整するために形成されている。したがって、深さD1は0.003mm以上であることが好ましい。また、各浅溝16の幅W1は0.05mm以上0.3mm以下であることが好ましい。幅Wは、上下方向(d1方向でフェース面の面方向。)の浅溝16の幅である。
【0020】
本実施形態の場合、浅溝16の断面の輪郭形状は楕円弧状である。しかし、浅溝16の断面の輪郭形状は、これに限られず、円弧状、三角形状、四角形状、台形状等、様々な輪郭形状を採用可能である。
【0021】
図2(A)に示すように、上下方向に隣接する浅溝16間には、ピッチPが設定されている。ピッチPによりフェース部11の表面の表面粗さを調整できる。ピッチPは等ピッチでもよいし、異なっていてもよい。いずれの場合も、溝間の各ピッチPを0.1mm以上、1mm以下の範囲内とすることが好ましい。ピッチPが0.1mmよりも小さいと、浅溝16間のフェース部11の耐久性が悪くなるおそれがある。ピッチPが1mmを超えると、ゴルフボールのバックスピン量の抑制効果が小さくなってしまうおそれがある。
【0022】
本実施形態の場合、複数の浅溝16は、フェース部11の中央部からトウ側及びヒール側の部分に渡って形成されている。
図1では、複数の浅溝16の形成領域をd2方向に仮想的に区画し、中央部をRc、トウ側の部分をRt、ヒール側の部分をRhと表記している。中央部Rcは、例えば、インパクトエリアとしてもよい。インパクトエリアは、規則(R&Aルール)上は、ドライビングクラブとフェアウェイウッドの場合、クラブフェースの中心を通り1.68インチ(42.67ミリメートル)の幅を有する帯状の部分とされる。
【0023】
本実施形態の場合、複数の浅溝16は、d1方向で上側(クラウン部12側)の浅溝16で相対的にd2方向の長さが長く、d1方向で下側(ソール部13側)の浅溝16で相対的にd2方向の長さが短くなっている。このため、複数の浅溝16の形成領域の外形形状は、カップ型をなしている。
【0024】
一般に、フェース部11はクラウン部12側でd2方向の幅が広く、ソール部13側でd2方向の幅が狭い。複数の浅溝16の形成領域の外形形状をカップ型とすることで、フェース部11の輪郭形状に沿って広範囲に浅溝16を形成することができる。
【0025】
浅溝16が広範囲に形成されることで、打撃時に打点のバラつきがあったとしても、ゴルフボールと浅溝16とが接触する可能性が高まり、バックスピン量の抑制効果を得られやすくなる。
図4に示すようにフェース部11の面積をS1、浅溝16の形成領域の面積をS2とすると、面積S2は面積S1の50%以上、特に60%以上であることが好ましい。面積S1を具体的な数値でいうと、ドライバ用のヘッドの場合、例えば4000mm
2前後であるが、フェース部の形状やヘッド体積の大小により数値は変動する。
【0026】
フェース部11の面積S1は、外観上、フェース部11と認識される範囲の面積とすることができる。フェース部11の範囲が明確でない場合、例えば、フェース部11と、クラウン部12、ソール部13及びサイド部14との境界(曲率が急激に変化する部分)を基準としてフェース部11の範囲を画定する。ホゼル部15側の境界については、既に画定したフェース部11とクラウン部12の境界の延長線と、既に確定したフェース部11とソール部13又はヒール側のサイド部14の境界の延長線と、から画定する。浅溝16の形成領域は、例えば、全浅溝16を包含する最小の領域として画定する。
図1の例の場合、浅溝16の形成領域は、最もクラウン部12側に位置する浅溝16と、最もソール部13側に位置する浅溝16と、これらの間に位置する各浅溝16の各端部を結ぶ仮想線とで囲まれるカップ型の領域として画定することができる。
【0027】
本実施形態の場合、フェース部11の表面には
図2(A)に示すように、表面処理によって被膜21が形成されている。複数の浅溝16を形成した場合、表面粗さが大きくなった結果、フェース部11が摩耗し易くなったり、外観が悪化するといった、品質の低下を生じる場合がある。表面処理によって被膜21を形成することで、このような品質の低下を抑制することが可能となる。被膜21の膜厚tは浅溝16の深さD1以下の膜厚とする。これにより浅溝16が被膜21で埋まってしまうことを回避できる。膜厚tは例えば1μm以上、10μm以下の範囲内とすることが好ましい。
【0028】
表面処理としては、例えば、イオンプレーティング処理や、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)処理を挙げることができる。これらの表面処理により例えば浅溝16を保護し、浅溝16の耐久性を向上することができ、またフェース部11の表面色を調色することができ、外観を向上できる。
【0029】
次に、スコアライン17、20について
図1、
図2(A)及び
図2(B)を参照して説明する。本実施形態の場合、スコアライン17、20を形成しているが、スコアライン17、20を形成しない構成も採用可能である。
【0030】
スコアライン17、20はトウ−ヒール方向に延びる直線状の溝であり、互いに平行に形成されている。スコアライン17の幅W2は例えば0.3mm以上、0.9mm以下とし、深さD2は例えば0.05mm以上、0.5mm以下とすることができる。スコアライン20についても同様である。
【0031】
本実施形態の場合、スコアライン17断面の輪郭形状は楕円弧状である。しかし、スコアライン17の断面の輪郭形状は、これに限られず、円弧状、三角形状、四角形状、台形状等、様々な輪郭形状を採用可能である。スコアライン20についても同様である。
【0032】
スコアライン20は、浅溝16の形成領域の直下に形成されており、最もソール部13側に位置する浅溝16と同等のd2方向の長さを有している。スコアライン20によりゴルファーは、打撃時にフェース部11の下限付近を視覚的に認識し易くなる。
【0033】
本実施形態の場合、スコアライン17は、浅溝16の形成領域のうち、中央部Rcには形成されておらず、トウ側の部分Rt、ヒール側の部分Rhに複数形成されている。スコアライン17を中央部Rcにも形成してもよいが、本実施形態の構成では、以下の利点がある。
【0034】
スコアライン17が形成されている部分Rt、部分Rhは、その結果として浅溝16の形成領域が中央部Rcよりも小さくなる。一般に、打撃時の打点がフェース部11のトウ側又はヒール側であった場合、中央の場合に比べてサイドスピン量が増加し、打球が左右に曲がり易くなる。ただし、サイドスピン量が増加したとしても、バックスピン量が多い方が打球の左右への曲がりを小さくすることができる。スコアライン17の形成により、部分Rt、部分Rhの浅溝16の形成領域を中央部Rcよりも小さくすることで部分Rt、部分Rhで打撃された場合に、バックスピン量を増加させることができる。この場合、飛距離は減少するが左右の曲がりを小さくすることができる。
【0035】
次に、点状の溝18及び19について
図1を参照して説明する。溝18、19の幅、深さはスコアライン17、20について上述した例と同様とすることができ、浅溝16よりも幅広で深さが深いものとすることができる。溝18、19の断面の輪郭形状も、スコアライン17、20について上述した例と同様とすることができる。なお、溝18及び19を形成しない構成も採用可能である。
【0036】
溝18は、フェース部11のd1方向及びd2方向の中央部に形成されており、本実施形態の場合、d2方向に離間して2つ形成されている。溝18の数は1つでも3以上であってもよい。溝18は、点状に限らず、直線状の溝やその他の形状であってもよい。溝18はフェース部11の図心を中心とした半径8mmの仮想円内、特に半径6mmの仮想円内に形成されることが好ましい。溝18によりゴルファーは、打撃時にフェース部11のセンタ付近を視覚的に認識し易くなる。
【0037】
また、溝18によってフェース部11の中央部の反発係数を調整することも可能である。ゴルフクラブヘッドの規則(R&Aルール)上、ドライバ用のゴルフクラブヘッドはフェース部の反発係数の上限が規定されている。フェース部11の反発係数は、その肉厚分布により調整することが可能である。フェース部11の肉厚分布により、フェース部11の中央での打撃による最大反発性能を抑えつつ、中央以外での打撃時の反発性能を向上させることが可能である。本実施形態のように、フェース部11の中央部に溝18を形成する事で、例えば、肉厚分布による調整で、フェース部11の中央の反発性能が下がり過ぎてしまった場合、溝18により反発性能を上げることができる。
【0038】
溝19はフェース部11のサイド部14側の周縁に形成されている。ゴルファーは、打撃時にフェース部11の周縁を視覚的に認識し易くなる。
【0039】
次に、浅溝16、スコアライン17及び20、溝18及び19の形成方法について説明する。浅溝16の形成方法としては、機械加工やレーザ加工、ケミカルミーリング、エッチング処理、プレス加工を挙げることができるが、好ましくはレーザ加工である。スコアライン17及び20、溝18及び19についても浅溝16と同様の形成方法を挙げることができるが、好ましくは機械加工であり、鋳造や鍛造により形成してもよい。
【0040】
加工の手順としては、例えば、中空体として形成ずみのゴルフクラブヘッドを数値制御式の加工装置に固定し、フェース部11に浅溝16等を加工することができる。
【0041】
また、別の加工の手順としては、ゴルフクラブヘッド10を複数のパーツを接合して組み立てる場合、平板状のフェース部材を数値制御式の加工装置に固定し、浅溝16等を加工する。浅溝16等の加工が完了したフェース部材には曲げ加工を施し、バルジ及びロールを形成する。その後、フェース部材を本体部材の開口部に接合する。この手順の場合、浅溝16等を形成する段階ではフェース部材が平板状であるため、浅溝16等をより高精度で加工できる。
【0042】
浅溝16、スコアライン17及び20、溝18及び19の形成順序としては、例えば、スコアライン17及び20、溝18及び19を先に形成する。その後、浅溝16を形成する。最後に表面処理を行って被膜21を形成する。
【0043】
以上述べたとおり、本実施形態では、浅溝16間のピッチPによりフェース部11の表面粗さを制御することができる。フェース部の表面粗さを調整する手法としては、サンドブラストやショットピーニングといった処理が知られているが、表面粗さを狙った粗さに制御することは必ずしも容易ではない。本実施形態では、浅溝16のピッチPを制御するだけであるので、表面粗さを制御することが比較的容易である。また、浅溝16は、規則(R&Aルール)上のスコアラインに該当しないので、スコアラインに関する制約は受けない。したがって、規則に適合させながら上記の利点を得ることができる。
【0044】
<第2実施形態>
上記第1実施形態では、浅溝16を直線状の溝として説明したが、浅溝16は他の形状の溝であってもよい。
図3(A)〜(D)はその一例を示す。
図3(A)及び(B)は、波形の浅溝16の例を示している。
図3(A)は三角波形状とした場合を示し、
図3(B)は正弦波形状とした場合を示している。ピッチPは、浅溝16の上下の中央部を基準としているが、ピッチPの基準は統一的に定められていればどのようなものでもよい。
【0045】
図3(C)は、浅溝16を円弧状の溝とした例を示している。この例ではピッチPを浅溝16の端部を基準としている。
【0046】
図3(D)は、三角波形状の浅溝16aと、正弦波形状の浅溝16bとを繰り返し形成した例を示している。浅溝16は、この例のように、形状が異なる溝を規則的に形成したものであってもよい。
【0047】
次に、上記第1実施形態では、ゴルフクラブヘッド10を目標方向に向けて接地したとき、各浅溝16が水平になるように形成したが、水平ではなくてもよい。
図3(E)はその一例を示す。同図は、ゴルフクラブヘッド10を目標方向に向けて接地したときの各浅溝16の形状を示しており、水平から傾斜している。