【文献】
スリーボンドテクニカルニュース編集委員会,スリーボンドテクニカルニュース,株式会社スリーボンド,1990年12月20日,32.,p.3,URL,https://www.threebond.co.jp/ja/techinical/technicalnews/pdf/tech32.pdf
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
また、近年では、微細な型、特に幅10mm以下の凹部等がある型(成形型)へのスラリーの注型性、ニアネット成形性(無加工で製品形状となる成形性)、脱型性に優れたセラミック成形体の製造方法が求められている。
【0006】
しかしながら、上述した従来技術では、成形型の形状や、成形型に入れるために必要なスラリーの特性については、流動性が良好との記載があるのみで、具体的な成形型の形状と粘度特性、およびこれらの関係などについては十分検討されていない。
【0007】
また、硬化後の硬化湿潤体の脱型性やそれと密接なつながりのある硬化湿潤体の硬度、さらには、ニアネット成形性やそれと密接なつながりのある加湿乾燥体の反りに関する記載もない。
【0008】
つまり、上述した従来技術では、セラミック製品を製造する際に用いられるセラミック成形体を作製する方法等については、十分に検討されていない。
本発明は、上述した課題を解決するためになされたものであり、その目的は、優れたセラミック製品を容易に製造することができるセラミック成形体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0030】
(1)本発明は、第1態様として、少なくともセラミック粉末とエポキシ樹脂と硬化剤とを分散、混合したスラリーを、成形型に流し込み、前記スラリーを
加湿しながら加熱することで硬化させて硬化湿潤体を作製し、前記成形型から前記硬化湿潤体を取り出し、その後、該硬化湿潤体を所定の湿度で乾燥させて加湿乾燥体を作製するセラミック成形体の製造方法
であって、前記セラミック粉末に加えて前記エポキシ樹脂と前記硬化剤とを化学量論的組成で混合して混合物とした30秒後に、前記混合物をずり速度10s
−1にて測定した時の常温での第1粘度が5Pa・s以下で、さらに10分経過した後に、前記混合物をずり速度10s
−1にて測定した時の常温での第2粘度と前記第1粘度との比(第2粘度(10分後)/第1粘度(30秒後))が1.3以下であることを特徴とする。
【0031】
本第
1態様では、
前記材料を混合物とした30秒後に、その混合物をずり速度10s−1にて測定した時の第1粘度が5Pa・s以下である。よって、スラリーの粘度が低く、微細な型(例えば幅10mm以下の凹部のある成形型)への注入が容易であるので、スラリーが流れ込まない欠陥が生じにくい。なお、ずり速度10s−1は、型の幅が10mm以下の場所に注型するときにかかるずり速度に相当する。
また、本第1態様では、更に10分経過した後に、その混合物をずり速度10s−1にて測定した時の常温での第2粘度と第1粘度の比(第2粘度(10分後)/第1粘度(30秒後))が1.3以下である。よって、スラリーの可使用時間、即ち注型できる時間が長く、生産効率が向上する。
つまり、本第1態様では、微細な型への注入が容易であるので、スラリーが流れ込まない欠陥が生じにくく、しかも、スラリーを注型できる時間が長く、生産効率が向上するという顕著な効果を奏する。
ここで、常温とは、25℃を示している(以下同様)。
なお、これとは別に、スラリーに溶剤を添加することによって、粘度を変化させ、上述した粘度特性としてもよい。しかし、溶剤が多いほどセラミック成形体から、乾燥、脱脂、焼成の工程を経てセラミック部品を作製する際の収縮が大きくなり、クラックの原因となるので、溶剤は少ない方が好ましく、理想的には無溶剤である。
なお、第1粘度の下限値としては、例えば1Pa・sが挙げられ、粘度の比の下限値としては、例えば1が挙げられる(以下同様)。
第1粘度が1Pa・sより小さい場合には、セラミック粉末が沈降し易いため、成形体の上下で密度差が生じ、成形性が低下する。粘度の比が1より小さい場合には、時間が経過することで粘度が低下するので、硬化反応が遅くなり成形性が低下する。
【0032】
(2)本発明は、第2態様として、前記硬化剤のアミン価が100以上、200以下であることを特徴とする。
本第2態様では、硬化剤のアミン価が100以上、200以下であるので、容易に、加湿乾燥体の反りを2.0mm以下、硬化湿潤体のゴム硬度を50°以上とすることができる。これにより、高いニアネット成形性と脱型性とを両立することができる。
なお、硬化剤のアミン価が100を下回る場合には、硬化収縮が大きくなるため、加湿乾燥体の反りが大きくなり、ニアネット成形性が低下する。一方、硬化剤のアミン価が200を上回ると、硬化剤をエポキシ樹脂に対して化学量論的組成で添加するためには添加量が多くなり、スラリーの粘度が上昇して微細な型への注入が困難になる。
なお、ゴム硬度については、「JIS K6301 スプリング式硬さ試験A形」により規定される。
(
3)本発明は、第
3態様として、前記セラミック粉末のセラミック材料として、アルミナを用いることを特徴とする。
アルミナは、ファインセラミックスの代表として、最も広く利用されている材料であり、機械的強度、電気絶縁性、(低い)高周波損失性、(高い)熱伝導率、耐熱性、耐摩耗性、耐食性が良好である。従って、アルミナを用いることにより、適用可能な産業分野が広がるという利点がある。
【0033】
(4)本発明は、第4態様として、前記セラミック粉末の平均粒子径が1μm以下であることを特徴とする。
本第4態様のように、微細な粉末を使用することにより、緻密な組織が得られる。なお、このことは、例えば「ゲルキャスティング成形法における任意形状付与に関する研究:平成22年度 名古屋工業大学 未来材料創成工学専攻 吉野浩一 博士論文」等により開示されている。
(5)本発明は、第5態様として、前記成形型に、幅10mm以下のところが存在することを特徴とする。
(6)本発明は、第6態様として、前記スラリーは、少なくともアルミナ粉末および分散剤に溶剤を添加し、混合および分散を行ったアルミナ分散液にエポキシ樹脂を混合し、さらに硬化剤を加え、混合したスラリーであることを特徴とする。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、本発明の実施形態について説明する。
[実施形態]
a)まず、本実施形態のセラミック成形体の製造方法を説明する。
【0036】
本実施形態では、以下の工程で、セラミック成形体を作製し、その後、このセラミック成形体からセラミック焼結体を作製した。
<分散混合工程>
まず、アルミナ粉末660g(AES−12 住友化学製 平均粒径:0.57μm BET比表面積:6.4m
2/g)に対し、分散剤:G−700(共栄社化学製)を3.3g(0.5重量%:外重量%)添加した。
【0037】
なお、平均粒径1.0μm以下のアルミナ粉末を用いることができる。
そして、イオン交換水を最終的な水分量が(全体の)36.6体積%となるように添加し、玉石とともにポットに入れ、回転し混合と分散を行った。
【0038】
<樹脂混合工程>
次に、前記分散混合工程で分散混合したアルミナ分散液に、エポキシ樹脂(ナガセケムテックス製EX−313 エポキシ当量:141、粘度0.15Pa・s)を47.3g投入し、10分間混合した。
【0039】
さらに、各種の硬化剤(T&K TOKA株式会社製)を化学量論的に必要な添加量を加え、さらに2分間混合を行い、その後2分間真空脱泡を行った。これでスラリーが完成した。
【0040】
<注型、硬化工程>
次に、
図1に示すように、前記スラリー(S)を、成形型1に流し込み、即ち平面視で長方形(幅5mm×長さ60mm)のフッ素樹脂でコートした金属製の注型に流し込み、上型2(ポリカーボネイト製)で封止した。
【0041】
その後、前記スラリーを、下記の条件で加熱して硬化を行った後、上型2を外して、成形型1から硬化湿潤体を取り出した。なお、この加熱による硬化によって、硬化湿潤体が形成される。
【0042】
加熱硬化条件:80℃×100%RH×5h
昇降温速度:5℃/h
なお、RHは、相対湿度である。
【0043】
<乾燥工程>
次に、前記硬化湿潤体を、下記の条件で乾燥して加湿乾燥体を作製した。
つまり、下記の加湿乾燥条件にて、硬化湿潤体の湿度を徐々に下げて乾燥した。
【0044】
加湿乾燥条件:80℃×80%RH×12h→80℃×60%RH×12h→80℃×40%RH×12h
昇降温速度:5℃/h
降湿速度:5%RH/h
<脱脂工程>
次に、前記加湿乾燥体を、下記の脱脂条件にて脱脂し、脱脂体を作製した。
【0045】
脱脂条件:400℃×2h
昇温速度:2.5℃/h
<焼成工程>
次に、前記脱脂体を、下記の焼成条件にて焼成して焼結させて、セラミック焼結体を作製した。
【0046】
焼成条件:1600℃×6h
昇温速度:25℃/h
上述した製造方法は、下記の実験例に示すように、優れたセラミック製品を容易に製造することができるセラミック成形体の製造方法である。
【0047】
例えば、ニアネット成形性と脱型性に優れ、さらには微細な型、特に幅10mm以下の場所がある成形型への充填性に優れるという顕著な効果を奏する。
b)次に、本実施形態のセラミック成形体の製造方法の効果を確認するために行った実験例について説明する。
【0048】
この実験例では、下記表1に示す硬化剤を用い、上述した実施態様の製造方法によって、下記表2に示すように、本発明の試料(実験例1〜5)を作製し、同表2に示す特性を調べた。
【0049】
具体的には、下記のようにして、各試料の「粘度」、「粘度比」、「加湿乾燥体の反り」、「ニアネット成形性」、「硬化湿潤体のゴム硬度」、「(硬化湿潤体の)脱型性」、「(スラリーの)充填性」を調べた。また、それらの結果から総合評価を行った。その結果を、同表2に記す。
【0050】
<粘度の測定方法>
粘度は、常温(25℃)において、ずり速度10s
−1にて測定した。なお、このずり速度は、注型する時のずり速度に相当する。
【0051】
粘度の測定装置:レオメーター(レオメトリック・サイエンティフィック社)
粘度の評価方法:クエット方式
治具寸法 :ボブ(φ25mm)/カップ(φ27mm)
スラリー投入量:8ml
<加湿乾燥体の反りの測定方法>
下記のサンプル形状の加湿乾燥体のサンプルを作製した。そして、下記の測定装置を用いて、その反りを求めた。
【0052】
サンプル形状:φ80mm×T(厚み)5mm
DEGIMICRO STAND(Nikon製 MS−1C)で、加湿乾燥体の厚み寸法を5点測定し、その最大値と最小値の差を反りとした。
【0053】
<ニアネット成形性>
下記のサンプル形状の硬化湿潤体のサンプルを作製し、そのサンプルを焼成してセラミック焼結体を作製した。そして、硬化湿潤体とセラミック焼結体との形状を測定して、ニアネット成形性を判定した。
【0054】
サンプル形状:φ80mm×T(厚み)5mm
具体的には、硬化湿潤体とセラミック焼結体の形状を測定し、セラミック焼結体が硬化湿潤体から相似形で収縮していた場合を○、変形し相似形でなかった場合を×とした。
【0055】
なお、相似形で収縮したか否かは、直交する2箇所の直径(ある直径とその直径の直交する直径の2箇所)と、厚さをノギスで測定することによって判定した。すなわち、セラミック焼結体の直交する2箇所の直径が等しく、且つ、硬化湿潤体の直径と比較し、厚さの変化と同じ割合で直径が収縮していた場合を、相似形で収縮したと判定した。一方、セラミック焼結体の直交する2箇所の直径が等しくない場合、もしくは、硬化湿潤体の直径と比較し、厚さの変化と同じ割合で直径が収縮していなかった場合を、変形し相似形でなかったと判定した。
【0056】
<ゴム硬度の測定方法>
下記のゴム硬度計を用い、前記ニアネット成形性の判定で用いた硬化湿潤体のサンプルを厚み方向に加圧して、ゴム硬度を測定した。
【0057】
ゴム硬度計 [テクロック製 形式:GS−706(JIS K6301 スプリング式硬さ試験A形)、測定範囲:0〜100°、目盛:1°、スプリングの精度:±8gf(±1°)]
<脱型性>
下記のサンプル形状の型を用いて、同寸法の硬化湿潤体を作製した。そして、硬化後に変形することなく型から取出すことができた場合を○、できなかった場合を×とした。
【0058】
サンプルの形状:φ50mm×T(厚み)10mm
<充填性>
幅5mm×長さ60mm×深さ5mmの型に、スラリーを深さ5mmまで充填した。そして、硬化させ、脱型し、充填性を評価した。
【0059】
隙間なく充填された場合を○、充填が不十分であった場合を×とした。
<総合評価>
ニアネット成形性、脱型性、充填性が全て○を◎とし、それらのうち×が1つのものを○とし、×が2つのものを×とした。
【0061】
なお、硬化剤の品番は、実験例1〜4は、T&K TOKA株式会社製の品番を示しており、実験例5は、化学物名を示している。
【0063】
上述した実験例から明らかなように、本発明の実験例1〜5では、優れた効果を奏することは明らかである。
(1)具体的には、実験例1〜5において、加湿乾燥体の反りを評価した結果、実験例1〜4は、反りが1.5mm以下と小さく、ニアネット成形性が良好であった。一方、実験例5は、加湿乾燥体の反りが3.3mm大きく、ニアネット成形性が不良であった。
【0064】
つまり、反りが2mm以下の場合には、ニアネット成形性に優れていることが分かる。
(2)また、硬化湿潤体のゴム硬度と脱型性とを評価した結果、実験例1〜3、5は、ゴム硬度が59°以上で脱型性が良好であった。一方、実験例4は脱型性が良くなかった。これは、実験例4は、硬化湿潤体のゴム硬度も46°と小さく、柔らかすぎて、脱型する際に崩れたためである。
【0065】
つまり、ゴム硬度が50°以上の場合には、脱型性に優れていることが分かる。
従って、ニアネット成形性と脱型性を両立できるのは、加湿乾燥体の反りが2mm以下で、硬化湿潤体のゴム硬度が50°以上の場合である。
【0066】
(3)
図2及び
図3は、それぞれ実験例1〜5のアミン価に対する硬化湿潤体のゴム硬度と加湿乾燥体の反りとの関係を示したものである。
この
図2から、アミン価が高い(実験例4)と、硬化湿潤体のゴム硬度が低い傾向にあることが分かる。これは、アミン価が高いと、架橋密度が低くなるためと考えられる。逆に、
図3に示すように、アミン価が低い(実験例5)と、架橋密度が高くなりすぎるため、硬化収縮が大きくなることが分かる。よって、アミン価が低いと、加湿乾燥体の反りが大きくなりニアネット成形性が低下する。
【0067】
これらの結果から、ニアネット成形性と脱型性の両方に優れる範囲は、アミン価で100〜200であることがわかる。
(4)また、実験例1〜3の間でも優劣があり、充填性において、特に実験例1が好適であった。実験例2、3は、初期の第1粘度が5Pa・s以上と高いと共に、第2粘度(10分後)/第1粘度(30秒後)>1.3であり、硬化剤添加後の粘度上昇が大きかったため、実験例1に比べて充填性が低いと考えられる。
【0068】
尚、本発明は前記実施形態や実験例になんら限定されるものではなく、本発明を逸脱しない範囲において種々の態様で実施しうることはいうまでもない。
(1)例えば使用するセラミック粉末の平均粒子径としては、1μm以下の範囲のものを適宜用いることができる。
【0069】
(2)セラミック粉末としては、アルミナ以外に、例えばジルコニア等を採用できる。
(3)エポキシ樹脂としては、硬化剤と反応して硬化する各種の樹脂を採用できる。例えば、グリシジルエーテル型エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、脂肪族エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂などを採用できる。
【0070】
(4)硬化剤としては、エポキシ樹脂と反応して硬化する各種の硬化剤を採用できる。例えば、一級、二級、三級アミン化合物、ポリアミド樹脂、イミダゾール類、ポリメルカプタン硬化剤、酸無水物類、ジシアンジアミドなどの潜在性硬化剤などを採用できる。