特許第6386344号(P6386344)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6386344
(24)【登録日】2018年8月17日
(45)【発行日】2018年9月5日
(54)【発明の名称】自動車用ホイールの装飾方法
(51)【国際特許分類】
   B60B 3/00 20060101AFI20180827BHJP
   C25D 7/00 20060101ALI20180827BHJP
   C25D 5/48 20060101ALI20180827BHJP
【FI】
   B60B3/00 A
   C25D7/00 T
   C25D5/48
【請求項の数】3
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2014-230080(P2014-230080)
(22)【出願日】2014年11月12日
(65)【公開番号】特開2016-94043(P2016-94043A)
(43)【公開日】2016年5月26日
【審査請求日】2017年8月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】506121320
【氏名又は名称】株式会社スーパースター
(74)【代理人】
【識別番号】100134050
【弁理士】
【氏名又は名称】岩崎 博孝
(72)【発明者】
【氏名】山田 勝弘
【審査官】 田々井 正吾
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−298781(JP,A)
【文献】 特許第5610049(JP,B1)
【文献】 特開平04−353001(JP,A)
【文献】 特開平03−097894(JP,A)
【文献】 特開平06−155310(JP,A)
【文献】 特開2006−143205(JP,A)
【文献】 特開2000−016001(JP,A)
【文献】 特開平07−118890(JP,A)
【文献】 特開平11−332429(JP,A)
【文献】 実開昭48−110258(JP,U)
【文献】 特開2004−017738(JP,A)
【文献】 特開2002−274101(JP,A)
【文献】 特開2007−069405(JP,A)
【文献】 特開2000−273655(JP,A)
【文献】 遠藤豊春,金属素材のめっき前処理,表面技術,一般社団法人表面技術協会,2013年12月,Vol.64 No.12,pp.612-616
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60B 3/00
C25D 5/48
C25D 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
最終メッキ層としてのクロームメッキ層の下地として下地メッキ層を形成する工程の後に
当該下地メッキ層の表面に部材を押し当てることによって機械的に線状の凹凸を形成する工程を設け、その後、
前記線状の凹凸が形成された前記下地メッキ層の上に、前記線状の凹凸が残るようにク
ロームメッキ層を形成する工程と、を経る
ことを特徴とする自動車用ホイールの装飾方法。
【請求項2】
請求項1において、
前記線状の凹凸を形成する工程と前記クロームメッキ層を形成する工程の間に、
電解脱脂工程と、
酸活性処理工程を経る
ことを特徴とする自動車用ホイールの装飾方法。
【請求項3】
請求項1又は2において、
前記部材は、不織布表面処理剤である
ことを特徴とする自動車用ホイールの装飾方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車の技術分野に関し、特に詳しくは、自動車用ホイールの装飾技術に関する。
【背景技術】
【0002】
以前から、自動車に予め装着されているホイールに飽き足らず、好みのホイールに付け替えて楽しむユーザーが一定数存在する。ユーザーの趣味趣向は様々であるが、自動車用ホイールという性質上、ディスク面(車両装着時に外部から視認できる部分)の形態(形状、模様、色彩)によって、他人と差別化を図るより他ないのが実情である。
【0003】
また、このようなユーザーの嗜好を反映して、インターネット上で自分の車に様々な形態のホイールを仮想的に装着して、購入前の検討を楽しむことができるウェブサイトも存在している(非特許文献1を参照)。
【0004】
このような状況下、ユーザーは今までにない、他人とは違うホイールを求める傾向にある。その需要を満たすべく、様々な趣向で装飾されたホイールが登場している。
【0005】
近年、意図的にホイール表面に線状のキズ(凹凸)を付し、その線状のキズをデザインとして利用しているホイールが一部登場しており、当該分野の取引者・需要者の間では「ブラッシュド加工」として親しまれ始めている(非特許文献2を参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】ドレスアップスーパーフェアのWebサイト(http://dressup.autobacs.com/dressup.php)
【非特許文献2】アルミホイールリペアサービス ブラッシュド加工のページ(http://www.do-blog.jp/otaru-radiator/category/104)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、ブラッシュド加工は、ホイールの表面に意図的に線状のキズ(凹凸)を付する為、そのまま放置するとサビや塗装の剥離を誘発する。よって、最終仕上げとしてクリア塗装が施される(非特許文献2を参照)。
【0008】
出願人は、このブラッシュド加工をクロームメッキ処理したホイールに適用したいと考えた。クロームメッキは、見た目美しく鏡のように光を反射するため、高級自動車用ホイールの装飾方法として従来から利用されている。このクロームメッキが施されたホイールの一部にブラッシュド加工を採り入れることによって、ホイール全体が一様に光を反射するのではなく、ブラッシュド加工により線状のキズが付されて光の反射が抑えられた部分を意図的に作ることによって、ホイール全体の立体感を際立たせ、スポーク等の輪郭を明確に表現することができるのである。
【0009】
しかしながら、クロームメッキ後にその表面に線状のキズ(凹凸)を付した場合、クロームメッキの耐久性が失われる。よって、非特許文献2で記載されている通り、キズを付した後に少なくともクリア塗装を施さない限り、現実的に商品として提供できるレベルでの耐久性を確保することは難しい。
【0010】
一方、クロームメッキの特徴は、その曇りのない鏡のような光の反射であるが、クリア塗装を施すと、クリア層によって光の反射率が低下し、本来のクロームメッキの美しさが損なわれてしまう。理論的には線状の凹凸を付した部分のみクリア塗装することも可能であるが、マスキングの工程等が必須となるため工程が複雑化しコストが大幅に上昇する。更に、クリア塗装した部分としていない部分の境界がディスク面に露出することになるため、この境界部分から、クリア層の劣化・剥離が誘発されるという問題もある。
【0011】
そこで本発明は、最終仕上げとしてクリア塗装を利用することなく、クロームメッキによる装飾と線状の凹凸加工(ブラッシュド加工)による装飾を両立させた装飾方法を提供する事をその課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するべく、本願発明は、最終メッキ層としてのクロームメッキ層の下地として下地メッキ層を形成する工程と、当該下地メッキ層の表面に線状の凹凸を形成する工程と、前記線状の凹凸が形成された前記下地メッキ層の上に、前記線状の凹凸が残るようにクロームメッキ層を形成する工程と、を経ることを特徴とする。
【0013】
出願人は、クロームメッキ後に線状の凹凸を付するという根本的な発想を転換し、線状の凹凸を付してからクロームメッキを施すというアイデアに想到したのである。これにより、本来のクロームメッキの高い耐候性を発揮できると共に、線状のキズ(凹凸)加工面を保護するためにクリア塗装を施す必要もない。即ち、クリア層の存在による光の反射率の低下を招くことがないので、本来のクロームメッキの輝きを放ちながら、その一部に線状のキズ(凹凸)が残存しているので、ホイール全体の立体感を際立たせ、スポーク等の輪郭を明確に表現することができるのである。更にホイール表面は、線状のキズ(凹凸)加工を施した部分も含めクロームメッキが施されているので、ホイール表面にメッキ層の境界が存在せず、当該境界部分からクロームメッキ層の劣化・剥離が進行することもない。即ち、クロームメッキ本来の高い耐候性・耐久性を漏れなく発揮させることも可能となっている。
【0014】
また、前記線状の凹凸を形成する工程と前記クロームメッキ層を形成する工程の間に、電解脱脂工程と、酸活性処理工程を経ることが望ましい。
【0015】
これらの工程を経ることによって、線状のキズ(凹凸)加工時に付着した油分等を取り除き、クロームメッキをより安定的に定着させることが可能となる。更に、同時に凹凸の溝に残存する微細な研磨粒子等も取り除くことができる。
【0016】
また、前記線状の凹凸は、不織布表面処理剤を押し当てて形成することが望ましい。
【0017】
不織布表面処理剤とは、不織布が基材となりその不織布に研磨剤が固着されたものであるが、これを利用することによって、不織布自体がクッションの役割を果たすので、表面に均一に線状のキズを付加することができると共に、ホイール表面のエッジ部分を過度に研磨することを防止することが可能となっている。
【発明の効果】
【0018】
本発明を適用することで、最終仕上げとしてクリア塗装を利用することなく、クロームメッキによる装飾と線状の凹凸加工(ブラッシュド加工)による装飾を両立させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明に係る装飾方法により装飾された自動車用ホイール表面の部分断面図である。
図2】本発明に係る装飾方法の手順の一例を示したフローチャートである。
図3】本発明に係る装飾方法により装飾された自動車用ホイールの部分拡大写真である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、添付図面を参照しつつ、本発明の実施形態の一例である装飾方法について説明を加える。なお、図面理解容易の為、各部の大きさや寸法を誇張して表現している部分があり、実際の製品と必ずしも一致しない部分があることを付記しておく。また各図面は符号の向きに見るものとし、当該向きを基本に上下左右、手前、奥と表現する。
【0021】
〈自動車用ホイールの装飾手順〉
最初に自動車用ホイール本体(地金)に対して、メッキ処理を施す前の前処理(メッキ前処理)を施しておく(S1)。例えば電解脱脂や、酸活性化処理など一般的に行われている前処理である。
【0022】
続いて、ニッケルメッキ層104を形成するためのニッケルメッキ処理(S2)、銅メッキ層106を形成するための銅メッキ処理(S3)、半光沢ニッケルメッキ層108を形成するための半光沢ニッケルメッキ処理(S4)、光沢ニッケルメッキ層110を形成するための光沢ニッケルメッキ処理(S5)、マイクロポーラスニッケルメッキ層112を形成するためのマイクロポーラスニッケルメッキ処理(S6)を順に行う。なお、本実施形態においては、これらニッケルメッキ処理(S2)、銅メッキ処理(S3)、半光沢ニッケルメッキ処理(S4)、光沢ニッケルメッキ処理(S5)、マイクロポーラスニッケルメッキ処理(S6)の一連の工程が、「最終メッキ層としてのクロームメッキ層の下地としての下地メッキ層を形成する工程」に想到する。もちろんここで説明した下地メッキ層は一例に過ぎず、異なるパターンで下地メッキ層を形成することを除外するものではない。
【0023】
続いて、不織布表面処理剤(不織布を基材とし、この不織布に研磨剤が固着されたもの)を、マイクロポーラスニッケルメッキ層112に対して押し当て、マイクロポーラスニッケルメッキ層112の表面に線状のキズ(凹凸)を形成する(ブラッシュド加工(S7))。ここでは、ホイール本体100を固定した上で不織布表面処理剤を動かしてもよいし、ホイール本体100を動かしながら(例えば回転させながら)不織布表面処理剤を固定して押し当てるようにしてもよい。なお、不織布表面処理剤を利用することによって、基材である不織布自体がクッションの役割を果たすので、マイクロポーラスニッケルメッキ層112の表面に均一に線状のキズ(凹凸)を形成することができると共に、ホイール表面のエッジ部分を過度に研磨することを防止している。
【0024】
続いて、電解脱脂処理(S8)及び酸活性処理(S9)を行い、マイクロポーラスニッケルメッキ層112の表面に付着している油分、薄い酸化膜を除去する。更に、これらの処理は溶液に浸漬して行われるので、これらの処理と同時に、凹凸の溝に残存する微細な研磨粒子等(不織布表面処理剤由来の研磨粒子やマイクロポーラスニッケルメッキ層112の研磨クズ等)も取り除くことができる。
【0025】
最後に、クロームメッキ層114を形成する為のクロームメッキ処理(S10)を行い、工程は全て完了する。
【0026】
なお、クロームメッキ処理(S10)では、マイクロポーラスメッキ層112に形成した線状のキズ(凹凸)を全て埋めてしまわない程度、即ち、クロームメッキ処理(S10)後も、クロームメッキ層114の表面に線状のキズ(凹凸)が残る程度に行う。最終工程であるクロームメッキ処理(S10)によって、マイクロポーラスメッキ層112の表面に形成されていたキズ(凹凸)はやや丸みを帯びて角が取れたようになり、従来のブラッシュド加工に比べて見た目柔らかな金属表面の装飾(図3α部分)が実現している。この柔らかなブラッシュド加工は、単に最終工程としてクリア層を形成するだけでは実現することができず、本発明に係る装飾方法を用いてはじめて実現できる特有の有利な効果である。
【0027】
また、本来のクロームメッキの高い耐候性を発揮できると共に、線状のキズ(凹凸)加工面を保護するためにクリア塗装を施す必要もない。即ち、クリア層の存在による光の反射率の低下を招くことがないので、本来のクロームメッキの輝きを放ちながら(例えば図3β部分)、その一部に線状のキズ(凹凸)が残存しているので(図3α部分)、ホイール全体の立体感を際立たせ、スポーク等の輪郭を明確に表現することができるのである。更にホイール表面は、線状のキズ(凹凸)加工を施した部分も含め全体にクロームメッキが施されているので、ホイール表面にメッキ層の境界が存在せず、当該境界部分からクロームメッキ層の劣化・剥離が進行することもない。即ち、クロームメッキ本来の高い耐候性・耐久性を漏れなく発揮させることも可能となっている。
【符号の説明】
【0028】
100・・・自動車用ホイール本体(地金)
104・・・ニッケルメッキ層
106・・・銅メッキ層
108・・・半光沢ニッケルメッキ層
110・・・光沢ニッケルメッキ層
112・・・マイクロポーラスニッケルメッキ層
114・・・クロームメッキ層
図1
図2
図3