(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6386359
(24)【登録日】2018年8月17日
(45)【発行日】2018年9月5日
(54)【発明の名称】手術室空調システム
(51)【国際特許分類】
A61G 10/02 20060101AFI20180827BHJP
F24F 13/068 20060101ALI20180827BHJP
F24F 13/06 20060101ALI20180827BHJP
F24F 7/10 20060101ALI20180827BHJP
F24F 7/06 20060101ALI20180827BHJP
【FI】
A61G10/02 Z
F24F13/068 B
F24F13/06 C
F24F7/10 Z
F24F7/06 B
【請求項の数】1
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2014-249853(P2014-249853)
(22)【出願日】2014年12月10日
(65)【公開番号】特開2016-106987(P2016-106987A)
(43)【公開日】2016年6月20日
【審査請求日】2017年11月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】591130076
【氏名又は名称】美和医療電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112531
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 浩二
(72)【発明者】
【氏名】浅野 隆二
【審査官】
井出 和水
(56)【参考文献】
【文献】
特開2013−148241(JP,A)
【文献】
特開2011−226770(JP,A)
【文献】
実開平4−8028(JP,U)
【文献】
特開2008−96052(JP,A)
【文献】
特開2003−139366(JP,A)
【文献】
特開平6−221639(JP,A)
【文献】
特開2011−200798(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61G 10/00 − A61G 10/04
F24F 7/06
F24F 7/10
F24F 13/06
F24F 13/068
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
手術台の直上の天井面に患者に向けて暖気を吹き出す患者向吹出口を設け、前記天井面の前記患者向吹出口の両側に施術者に向けて冷気を吹き出す施術者向吹出口を設け、前記各施術者向吹出口の開口面積は前記患者向吹出口の開口面積よりも狭く設定し、前記施術者向吹出口の両外側に手術室の天井面に沿って水平方向に冷気を吹き出す室壁向吹出口を設け、該手術室の壁面下部に該手術室内の空気を吸引する吸気口を設け、前記各施術者向吹出口から吹き出す冷気の吹出速度は前記患者向吹出口から吹き出す暖気の吹出速度よりも速くするように設定したことを特徴とする手術室空調システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は手術室を患者および施術者にとって理想の温度環境に空調する手術室空調システムに関する。
【背景技術】
【0002】
手術室の空調は、周知のように、外部から新鮮な空気を吸引し、Hepaフィルターを通過させて手術室に吹き出すとともに、手術室内の空気圧を外部に対し正圧に保つことにより常に清浄な状態が保持されるようにしている。
ところで、一般に手術室の中央には手術台が設置され、該手術台を医師、看護師等の数人の施術者が取り囲むようにして手術が行われるが、これらの施術者は全身を衛生服によって覆っているので体温が放熱され難い状況にあるとともに、手術室に装備されるME機器類の数は非常に多く、それらの機器類から放出される熱量が非常に大きいため空調装置によって冷房していても、多くの施術者は暑いと感じることが多い。一方、手術台上で横になっている患者は、身体を露出していて熱が放出され易いために、寒いと感じることが多く、冷房が効いていると冷え易いために、手術中の冷えで低体温症になることもあり、そうなると免疫力が低下して術後の回復が遅れるといった問題がある。
【0003】
手術室における空調のこのような問題を解決するべく、下記特許文献1に示された手術室は、手術台に向けて清浄空気を局所的に吹き出す清浄空気局所供給手段を設けると同時に、手術室の壁面に輻射冷暖房手段(即ち、輻射パネル)を設け、医師、看護師等の施術者をその輻射熱により冷暖房するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4750058号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に示されたように、手術室の壁面に輻射冷暖房手段を設けることによっては、たとえその輻射パネルの温度を低く設定したとしても施術者に対する冷房効果が十分に得られないという問題がある。要するに、輻射冷暖房手段は特に冷房能力が限定的であるので施術者の要望に十分に応じられないという問題がある。このため、やむを得ずこの手術室の空調装置の温度設定を低くして冷気が施術者に十分に当たるようにするほかなく、そうすると結局は患者をも無用に冷やしてしまうという問題がある。
本発明はこのような課題を解決しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そのために本発明に係る手術室空調システムは、手術台の直上の天井面に患者に向けて暖気を吹き出す患者向吹出口を設け、前記天井面の前記患者向吹出口の両側に施術者に向けて冷気を吹き出す施術者向吹出口を設け、前記各施術者向吹出口の開口面積は前記患者向吹出口の開口面積よりも狭く設定し、前記施術者向吹出口の両外側に手術室の天井面に沿って水平方向に冷気を吹き出す室壁向吹出口を設け、該手術室の壁面下部に該手術室内の空気を吸引する吸気口を設け、前記各施術者向吹出口から吹き出す冷気の吹出速度は前記患者向吹出口から吹き出す暖気の吹出速度よりも速くするように設定したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、手術室を患者および施術者にとって常に快適な環境に空調できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図2】本発明に係る手術室空調システムにおける吹出口の配置図。
【
図3】本発明に係る手術室空調システムの各吹出口の属性を示した表。
【
図4】本発明に係る手術室空調システムにおける吹出口の他の実施形態を示した配置図。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
次に本発明に係る手術室空調システムを図面とともに説明する。
図1に示したように、手術室1は、床面2と天井面3と壁面4に囲まれた空間であり、床面2の略々中央に手術台5が設置されている。そして該手術台5上に患者6が横になり、該手術台5の両側に配置された数人の施術者7によって手術が行われる。
【0010】
手術室1の天井面3には、前記手術台5の直上となるように患者6に向けて26℃以上の暖気を吹き出す患者向吹出口10が設けられる。
図2にこの患者向吹出口10およびその周囲に位置する吹出口の配置を示す。なお、該患者向吹出口10は、天井面3内に3つのチャンバ10a,10b,10cを手術台5の長手方向に沿うように直線状に並べて設けることにより形成される。該各チャンバ10a,10b,10cの吹出口は短辺の長さが約700mm、長辺の長さが約850mmの長方形状であり、該患者向吹出口10の開口面積はこの3つのチャンバ10a,10b,10cを合わせて1.785m
2である。なお、該各チャンバ10a,10b,10cの吹出口には暖気が真下に吹き出すようにガイドするルーバー(整流板)が設けられる。
【0011】
また、該患者向吹出口10の両側に施術者7に向けて20℃以下の冷気を吹き出す施術者向吹出口11,11′を設ける。該施術者向吹出口11,11′は天井面3内にそれぞれ3つのチャンバ11a,11b,11c,11a′,11b′,11c′を前記チャンバ10a,10b,10cと隣り合うように直線状に並べて設けることにより構成される。なお、該チャンバ11a,11c,11a′,11c′の吹出口は短辺の長さが約570mm、長辺の長さが約850mmの方形状であり、チャンバ11b,11b′の吹出口は短辺の長さが約540mm、長辺の長さが約850mmの方形状である。なお、該各チャンバ11a,11b,11c,11a′,11b′,11c′の吹出口に冷気が真下に吹き出されるようにガイドするルーバー(整流板)が設けられる。
該施術者向吹出口11,11′の開口面積は、
図3の表に示したように、チャンバ11a,11b,11cおよびチャンバ11a′,11b′,11c′ともに1.310m
2である。このように、該各施術者向吹出口11の開口面積は前記患者向吹出口10の開口面積よりも狭い。
【0012】
一方、室壁向吹出口12,12′は、前記チャンバ11aとチャンバ11cの外側、および前記チャンバ11a′とチャンバ11c′の外側にチャンバ12a,12b,12a′,12b′を設け、該各チャンバの吹出口に変向板14,14′を設けることにより、20℃以下の冷気が手術室1の天井面3に沿って水平方向に吹き出されるようにしている。該室壁向吹出口12,12′は、変向板14を設けることで、幅約25mm、長さ約850mmの横向きスリット状に形成され、該室壁向吹出口12,12′の開口面積は、
図3に示したように、ともに0.222m
2である。
【0013】
また、
図1に示したように、手術室1の壁面4の下部に吸気口13a,13bを開設するとともに、該壁面4の外側に冷暖コイル20、電気加熱器21、送風ファン22とからなる冷暖ユニット23aおよび冷暖ユニット23bをそれぞれ設け、一方の冷暖ユニット23aの送風ファン22と前記チャンバ10a,10b,10cとをダクト25aによって連通させるとともに、他方の冷暖ユニット23bの送風ファン22と前記チャンバ11a,11b,11c,11a′,11b′,11c′とをダクト25bによって連通させ、該冷暖ユニット23a,23bの送風ファン22を作動させることにより該手術室1内の空気が吸気口13から吸引され、その空気が冷暖コイル20、電気加熱器21を通過することによりそれぞれ所定の温度に加熱または冷却され、冷暖ユニット23aから前記チャンバ10a,10b,10cには暖気が送給され、冷暖ユニット23bから前記チャンバ11a,11b,11c,11a′,11b′,11c′には冷気が送給されるようにしている。
【0014】
そして、患者向吹出口10から例えば26℃以上の暖気が吹出速度0.23m/s、吹出量1500m
3/hにて吹き出され、施術者向吹出口11,11′からは例えば20℃以下の冷気が吹出速度0.27m/s、吹出量1283m
3/hにて吹き出され、室壁向吹出口12,12′からは例えば20℃以下の冷気が吹出速度1.42m/s、吹出量217m
3/hにて吹き出されるようにしている。
【0015】
このように、施術者向吹出口11から吹き出す冷気の吹出速度が患者向吹出口10から吹き出す暖気の吹出速度よりも速くなるように設定する。また、患者向吹出口10から吹き出す暖気の吹出量は、
図3の表に示したように、施術者向吹出口11,11′から吹き出す冷気の吹出量よりも多くなるようにするのがよい。また、これら冷気および暖気の温度は、患者向吹出口10,施術者向吹出口11,11′に設けられた温度センサの信号を前記冷暖ユニット23aおよび冷暖ユニット23bにフィードバックすることにより、患者向吹出口10から吹き出す暖気が施術者向吹出口11から吹き出す冷気よりも常に高くなるよう制御される。また、前記各吹出口内にはその暖気や冷気を無菌状態に清浄化するフィルターが設けられる。
【0016】
なお、室壁向吹出口12,12′からの冷気の吹出速度および吹出量は、この患者向吹出口10および施術者向吹出口11,11′の吹出速度設定および吹出量設定とは関係なく独自に設定することができる。
【0017】
このように構成した手術室空調システムでは、手術台5の真上にある広い患者向吹出口10から多量の暖気が低速で吹き出ることから、手術中の患者が温められる。即ち、両側の施術者向吹出口11,11′から冷気が吹き出ていてもその冷気よりも多量の暖気が患者向吹出口10から吹き出ることから手術中の患者6に暖気が到達し、しかもその暖気は低速で吹き出していることから、患者6付近における対流が少なく、患者6の皮膚から気化熱を奪う割合が少ないので、患者6が温められる。このため手術中に低体温化することによる悪影響を防ぐことができる。
一方、施術者7に対しては患者向吹出口10よりも狭い施術者向吹出口11,11′から冷気が高速で吹き出されることで、その冷風が施術者7に高速で当たり、暑いと感じている施術者7から汗を活発に蒸発させ多量の気化熱を奪うことから顕著な冷却効果が得られ、施術者の体温が下げられる。このため施術者は従来のような暑さを感じることなく快適に手術が続けられる。
【0018】
なお、患者向吹出口10から吹き出す暖気の温度、および、施術者向吹出口11,11′,室壁向吹出口12,12′から吹き出す冷気の温度は、室内の状況に合わせて適宜設定し得るが、患者向吹出口10から吹き出す暖気の吹出量を施術者向吹出口11,11′から吹き出す冷気の吹出量を多く設定することによっては暖気をより確実に手術中の患者6に到達させることができる。
そして、患者向吹出口10、施術者向吹出口11,11′から吹き出したこれらの暖気および冷気は、手術室1の床面2に下降し、前記吸気口13a,13bに吸引されて、再び該手術室1内を循環する。
【0019】
また、室壁向吹出口12,12′から吹き出した冷気は、手術室1の天井面3に沿って流れ、該天井面3を冷却した後、手術室1の壁面4に沿って降下し、前記吸気口13a,13bに吸引されて再循環する。このように室壁向吹出口12,12′を設けて冷気が吹き出すことで、天井面3および壁面4が冷却される。このため天井面3および壁面4の温度が下がり、該天井面3および壁面4から施術者7に輻射温熱が放射されるのが防止、或いは輻射温熱が放射されるのを緩和することができる。
なお、手術前の準備段階で該室壁向吹出口12,12′から冷気を吹き出しておき、天井面3および壁面4の温度を予め充分に下げておけば、該天井面3および該壁面4が手術中に施術者を放射冷却することから、該天井面3および該壁面4と相対している施術者は、前記施術者向吹出口11,11′から吹き出した冷気が直接当たることと、この放射冷却との双方の冷却作用により、暑い季節であっても快適な環境で手術を続けられる。
【0020】
一方、
図4は本発明に係る手術室空調システムの他の実施形態を示した吹出口の配置図であり、この実施形態では、チャンバ10a,10b,10cの両側だけでなく両端部側にもチャンバ16a,16bを設け、該チャンバ16a,16bの吹出口に変向板17を設け、室壁向吹出口16からも20℃以下の冷気が手術室1の天井面3に沿って水平方向に吹き出されるようにしている。このように天井面3に沿って四方に冷気が吹き出されるようにすることで、該手術室1の天井面3および壁面4をより効率的に冷却することができる。
【0021】
なお、患者向吹出口10から吹き出す暖気は、冷暖ユニット23aの冷暖コイル20によって冷却した後に電気加熱器21によって加温することにより、施術者向吹出口11,11′から吹き出す冷気よりも湿度が相対的に低くなるため、手術中に施術者の眼鏡、スコープ等が曇るのを防止するうえで効果がある。
【符号の説明】
【0022】
1 手術室
2 床面
3 天井面
4 壁面
5 手術台
6 患者
7 施術者
10 患者向吹出口
11,11′ 施術者向吹出口
12,12′,16 室壁向吹出口
13a,13b 吸気口
23a,23b 冷暖ユニット
25a,25b ダクト