(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
従来、この種の装置として、例えば、インク滴を吐出して連続紙に画像を印刷するインクジェット印刷装置がある。
【0003】
このインクジェット印刷装置は、連続紙の幅方向に複数個のノズルを配置されたインクジェットヘッドを備え、このインクジェットヘッドからインク滴を吐出することで画像を形成する。しかしながら、各ノズルのインク吐出特性にはバラツキがあるので、その特性のバラツキを補正するシェーディング補正というものが一般的に行われている。具体的には、所定濃度の補正用チャートを印刷した後、その補正用チャートを光学的に読み取り、各ノズルに対応する部分の濃度を測定する。そして、所定濃度との差に応じてノズルごとに補正を行って、全てのノズルで同じ濃度の印刷結果となるようにしている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
ところで、インク滴吐出による用紙の膨潤、あるいは乾燥処理により、連続紙には、搬送時にコクリング(cockling)と呼ばれる波打ち現象が紙面に生じ、紙面に変形が生じることがある。連続紙に変形が生じていると、光学的に補正用チャートを読み取った際にその影響を受けるので、各ノズルに対応する部分の濃度に変形に応じた濃淡差が現れる。このような状態で測定した濃度値に基づいてシェーディング補正を行うと、過補正となって適切な補正ができない。変形の発生は、連続紙の前塗布の有無や紙厚などの印刷条件にある程度の相関があることが経験的にわかっているので、変形が発生しやすい印刷条件であるとオペレータが判断した場合には、シェーディング補正時の処理条件を変えて変形に起因する悪影響を抑制するようにしている。
【0005】
しかしながら、印刷条件だけでは変形が生じるかどうか判断できない場合があるので、変形の発生を検出する装置が提案されている(例えば、特許文献2)。この装置は、連続紙が巻かれた状態において光学的に変形を検出するようになっている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、このような構成を有する従来例の場合には、次のような問題がある。
すなわち、従来の装置は、連続紙を巻き取った状態で変形を判断するので、印刷装置のように搬送中に変形が生じる場合には適用することができない。したがって、連続紙に変形が生じたことを検出することができないという問題がある。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、読み取った補正用チャートに画像処理を施すことにより、印刷媒体に変形が生じたことを正確に検出することができる印刷装置及び印刷媒体の変形検出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、このような目的を達成するために、次のような構成をとる。
すなわち、請求項1に記載の発明は、複数個の記録素子が印刷媒体の幅方向に配置された印刷部を備えた印刷装置であって、前記複数個の記録素子の各々について記録濃度を補正するための補正用チャートを印刷媒体に印刷させる印刷手段と、前記印刷媒体に印刷された補正用チャートについて濃度情報を取得する補正用チャート濃度情報取得手段と、前記補正用チャートの濃度情報に基づいて、前記複数個の記録素子のうちの連続した記録素子の範囲について少なくとも二つの異なる個数を移動平均幅として設定し、前記複数個の記録素子ごとの濃度情報について前記移動平均幅ごとに濃度情報の移動平均値を求め、前記移動平均値のうち、小なる移動平均幅の移動平均値を実測データとし、大なる移動平均幅の移動平均値を実測データの平均値として標準偏差を求め、前記標準偏差を判定値とし、前記判定値が閾値より大きい場合には、前記印刷媒体に変形が生じていると判定する印刷媒体変形判定手段と、を備えているものである。
【0010】
[作用・効果]請求項1に記載の発明によれば、印刷媒体変形判定手段は、印刷手段で印刷され、補正用チャート濃度情報取得手段で取得された補正用チャートの濃度情報に基づいて、連続した記録素子の範囲について少なくとも二つの異なる個数を移動平均幅として設定する。そして、複数個の記録素子ごとの濃度情報について移動平均幅ごとに濃度情報の移動平均値を求め、小なる移動平均幅の移動平均値を実測データとし、大なる移動平均幅の移動平均値を実測データの平均値として標準偏差を求める。この標準偏差は、濃度情報の大なる移動平均幅の移動平均値に対する濃度情報の小なる移動平均幅の移動平均値の偏差を表しており、これらには元々複数個の記録素子に存在する濃度のバラツキが含まれているので、その偏差は、補正用チャートが印刷された印刷媒体に生じている変形に起因する。したがって、この標準偏差を判定値とし、この判定値が閾値よりも大きい場合には変形が生じていることを正確に判定できる。
【0011】
また、本発明において、前記印刷媒体変形判定手段は、前記小なる移動平均幅の移動平均値について濃度平均値を求め、前記濃度平均値に対する前記標準偏差の割合を前記判定値とすることが好ましい(請求項2)。
【0012】
印刷媒体の種類によっては、同じ濃度の補正用チャートを印刷しても、濃度情報が異なる場合がある。そのため印刷媒体の種類によって標準偏差が変動するので、判定値を標準偏差だけにすると、判定を誤る場合が生じ得る。そこで、小なる移動平均幅の移動平均値に基づいて濃度平均値を求め、この濃度平均値に対する標準偏差の割合を判定値とすることにより、印刷媒体の種類にかかわらず変形が生じていることを正確に判定できる。
【0013】
また、本発明において、前記印刷媒体変形判定手段が変形有りと判定した場合に、前記印刷媒体の変形に応じた移動平均幅の濃度情報により、前記複数個の記録素子の各々の記録濃度を補正する記録素子濃度補正手段をさらに備えていることが好ましい(請求項3)。
【0014】
印刷媒体変形判定手段が印刷媒体に変形があると判定した場合には、そのまま濃度情報に基づいて複数個の記録素子の各々の記録濃度を補正するシェーディング補正すると過補正となる。そこで、記録素子濃度補正手段が、変形に応じた移動平均幅の濃度情報により複数個の記録素子の各々の記録濃度を補正する。
【0015】
なお、変形に応じた移動平均幅の濃度情報とは、変形に起因する補正用チャートにおける濃淡差の周期よりも大きな移動平均幅の濃度情報のことをいう。変形に起因する補正用チャートにおける濃淡差の周期よりも小さな移動平均幅の濃度情報に基づいてシェーディング補正を行うと、その濃淡差の影響を受けるが、濃淡差の周期よりも大きな移動平均幅の濃度情報を用いることにより、変形の影響を抑制して精度よくシェーディング補正を行うことができる。
【0016】
また、請求項4に記載の発明は、複数個の記録素子が印刷媒体の幅方向に配置された印刷部を備えた印刷装置における印刷媒体の変形検出方法であって、前記複数個の記録素子の各々について記録濃度を補正するための補正用チャートを印刷媒体に印刷させる印刷過程と、前記印刷媒体に印刷された補正用チャートについて濃度情報を取得する濃度情報取得過程と、前記補正用チャートの濃度情報に基づいて、前記複数個の記録素子のうちの連続した記録素子の範囲について少なくとも二つの異なる個数を移動平均幅として設定し、前記複数個の記録素子ごとの濃度情報について前記移動平均幅ごとに濃度情報の移動平均値を求める移動平均値算出過程と、前記移動平均値のうち、小なる移動平均幅の移動平均値を実測データとし、大なる移動平均幅の移動平均値を実測データの平均値として標準偏差を求める標準偏差算出過程と、前記標準偏差を判定値とし、前記判定値が閾値より大きい場合には、前記印刷媒体に変形が生じていると判定する判定過程と、を実施することを特徴とするものである。
【0017】
[作用・効果]請求項4に記載の発明によれば、印刷過程で印刷された補正用チャートの濃度情報を濃度情報取得過程で取得する。移動平均値算出過程では、補正用チャートの濃度情報に基づいて、連続した記録素子の範囲について少なくとも二つの異なる個数を移動平均幅として設定し、複数個の記録素子ごとの濃度情報について移動平均幅ごとに濃度情報の移動平均値を求める。そして、標準偏差算出過程では、小なる移動平均幅の移動平均値を実測データとし、大なる移動平均幅の移動平均値を実測データの平均値として標準偏差を求める。この標準偏差は、大なる移動平均幅の移動平均値に対する小なる移動平均幅の移動平均値の偏差を表しており、これらには元々複数個の記録素子に存在する濃度のバラツキが含まれているので、その偏差は、補正用チャートが印刷された印刷媒体に生じている変形に起因する。したがって、判定過程では、この標準偏差を判定値とし、この判定値が閾値よりも大きい場合には変形が生じていることを正確に判定できる。
【0018】
また、本発明において、前記判定過程の前に、前記小なる移動平均幅の移動平均値について濃度平均値を求める濃度平均値算出過程と、前記前記濃度平均値に対する前記標準偏差の割合を算出する変動率算出過程と、を実施し、前記判定過程は、前記割合を前記判定値とすることが好ましい(請求項5)。
【0019】
濃度平均値算出過程では、小なる移動平均幅の移動平均値に基づいて濃度平均値を求め、変動率算出過程では、この濃度平均値に対する標準偏差の割合を求め、判定過程ではこれを判定値とする。これにより、印刷媒体の種類にかかわらず変形が生じていることを正確に判定できる。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係る印刷装置によれば、印刷媒体変形判定手段は、印刷手段で印刷され、補正用チャート濃度情報取得手段で取得された補正用チャートの濃度情報に基づいて、連続した記録素子の範囲について少なくとも二つの異なる個数を移動平均幅として設定する。そして、複数個の記録素子ごとの濃度情報について移動平均幅ごとに濃度情報の移動平均値を求め、小なる移動平均幅の移動平均値を実測データとし、大なる移動平均幅の移動平均値を実測データの平均値として標準偏差を求める。この標準偏差は、大なる移動平均幅の移動平均値に対する小なる移動平均幅の移動平均値の偏差を表しており、これらには元々複数個の記録素子に存在する濃度のバラツキが含まれているので、その偏差は、補正用チャートが印刷された印刷媒体に生じている変形に起因する。したがって、この標準偏差を判定値とし、この判定値が閾値よりも大きい場合には変形が生じていることを正確に判定できる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照して本発明の一実施例について説明する。
図1は、実施例に係るインクジェット印刷システムの全体を示す概略構成図であり、
図2は、連続紙と各印刷ヘッドとの平面視における位置関係を示す平面図である。
【0023】
実施例に係るインクジェット印刷システムは、給紙部1と、インクジェット印刷装置3と、排紙部5とを備えている。
【0024】
給紙部1は、ロール状の連続紙WPを水平軸周りに回転可能に保持し、インクジェット印刷装置3に対して連続紙WPを巻き出して供給する。排紙部5は、インクジェット印刷装置3で印刷された連続紙WPを水平軸周りに巻き取る。連続紙WPの供給側を上流とし、連続紙WPの排紙側を下流とすると、給紙部1はインクジェット印刷装置3の上流側に配置されており、排紙部5はインクジェット印刷装置3の下流側に配置されている。
【0025】
インクジェット印刷装置3は、給紙部1からの連続紙WPを取り込むための駆動ローラ7を上流側に備えている。駆動ローラ7によって給紙部1から巻き出された連続紙WPは、複数個の搬送ローラ9に沿って下流側の排紙部5に向かって搬送される。最下流の搬送ローラ9と排紙部5との間には、駆動ローラ11が配置されている。この駆動ローラ11は、搬送ローラ9上を搬送されている連続紙WPを排紙部5に向かって送り出す。
【0026】
なお、上述したインクジェット印刷装置3が本発明における「印刷装置」に相当し、連増資WPが本発明における「印刷媒体」に相当する。
【0027】
インクジェット印刷装置3は、駆動ローラ7と駆動ローラ11との間に、印刷ユニット13と、乾燥部15と、検査部17とを上流側からその順で備えている。乾燥部15は、印刷ユニット13によって印刷された部分の乾燥を行う。検査部17は、印刷された部分に汚れや抜け等がないかを検査する。また、検査部17は、後述する補正用チャートを読み取って、補正用チャートを濃度に関連する情報に変換する。
【0028】
印刷ユニット13は、インク滴を吐出する複数個の印刷ヘッド19を備えている。本実施例では、印刷ヘッド19に印刷ヘッド19が4個備えられている構成を例にとって説明する。ここでは、各印刷ヘッド19を、上流側から順に、印刷ヘッド19aと、印刷ヘッド19bと、印刷ヘッド19cと、印刷ヘッド19dとする。本明細書では、各印刷ヘッド19を区別する必要がある場合には、符号19にアルファベット(aなど)を付加するが、区別する必要がない場合には、符号19のみとする。各印刷ヘッド19は、それぞれインク滴を吐出する複数個のノズル21を備えている。
【0029】
複数個のノズル21は、連続紙WPの搬送方向と、連続紙WPの搬送方向と直交する方向(連続紙WPの幅方向)に配置されている。これらの印刷ヘッド19a〜19dは、少なくとも二色のインク滴を吐出し、連続紙WPに多色印刷が可能に構成されている。ここでは、例えば、印刷ヘッド19aがブラック(K)インクを吐出し、印刷ヘッド19bがシアン(C)インクを吐出し、印刷ヘッド19cがマゼンタ(M)インクを吐出し、印刷ヘッド19dがイエロー(Y)インクを吐出する。各印刷ヘッド19a〜19dは、搬送方向に沿って所定距離だけ離間して配置されている。
【0030】
なお、上述した印刷ヘッド19が本発明における「印刷部」に相当し、複数個のノズル21が本発明における「複数個の記録素子」に相当する。
【0031】
制御部25は、図示しないCPUやメモリ等によって構成されている。具体的には、制御部25は、印刷制御部27と、濃度情報取得部29と、移動平均算出部31と、標準偏差算出部33と、判定部35と、閾値記憶部37と、濃度平均値算出部39と、シェーディング補正データ生成部41とを備えている。
【0032】
印刷制御部27は、図示しない外部コンピュータから印刷データを受け取って、印刷処理用データに変換した後、駆動ローラ7,11を操作して連続紙WPを搬送させつつ、印刷処理用データに応じて印刷ヘッド19からインク滴を吐出させ、印刷データに基づく画像を連続紙WPに印刷させる。制御部25は、各ノズル21の各々について濃度を補正するための補正用チャートの印刷処理用データを予め記憶している。インクジェット印刷システムのオペレータが補正用チャートの印刷を指示すると、制御部25は、補正用チャートの印刷処理用データを読み出して、駆動ローラ7,11及び印刷ヘッド19を操作して補正用チャートを連続紙WPに印刷させる。具体的には、
図2に示すような補正用チャートCCがある。この補正用チャートCCは、例えば、連続紙WPの幅方向に沿った各ノズル21からは同じ印刷濃度となるようにインクが吐出され、連続紙WPの搬送方向に沿って所定幅の印刷の後、印刷濃度が徐々に低くなるように設定されている。
【0033】
なお、上述した印刷ヘッド19と印刷制御部27とが本発明における「印刷手段」に相当する。
【0034】
ここで
図3を参照する。なお、
図3(a)及び(b)は、シェーディング補正を説明する模式図である。
【0035】
印刷ヘッド19は、上述したように、連続紙WPの搬送方向と直交する方向に複数個のノズル21を備えている。複数個のノズル21の吐出特性にはバラツキがあるのが一般的であるので、
図3(a)に示すように、同じ濃度での印刷を指示しても複数個のノズル21には濃度値のバラツキが生じる。そこで、複数種類の濃度が異なる帯状パターン(例えば、100%、80%、60%、40%、20%、5%)を含む補正用チャートCCを連続紙WPに印刷させた後、検査部17で補正用チャートCCを読み取り、濃度情報取得部29で濃度に関連する情報を取得する。その濃度情報から各ノズル21の濃度値を読み取り、同じ濃度で印刷するように信号が与えられた際に、
図3(b)に示すように、濃度値が全ノズル21で同一となるような補正を行うためのシェーディング係数を求める。この処理を行うのがシェーディング補正データ生成部41であり、この結果を反映させつつ印刷データを印刷処理用データに変換し、印刷処理用データによる印刷を行うのが印刷制御部27である。
【0036】
なお、上記の検査部17及び濃度情報取得部29が本発明における「補正用チャート濃度情報取得手段」に相当し、印刷制御部27が本発明における「記録素子濃度補正手段」に相当する。
【0037】
ここで
図1に戻る。濃度情報取得部29は、検査部17で読み取った補正用チャートCCから全ノズル21についての濃度情報を取得する。移動平均算出部31は、連続紙WPの搬送方向と直交する方向に配置されたノズル21の濃度情報について、連続紙WPの搬送方向と直交する方向に配列されたノズル21のうち連続したノズル21の濃度情報の範囲において少なくとも二種類の個数のノズル21を移動平均幅として設定し、二種類の移動平均幅で濃度情報の移動平均値を算出する。ここでは、移動平均幅を、例えば、50個と500個の二種類とする。この移動平均幅は、二種類に限定されることなく、三種類以上であってもよい。但し、後述する処理には、そのうちの二種類を用いる。選択される二種類の移動平均幅は、判定のしやすさから、ノズル21のバラツキの周期や、コクリングなどの変形の周期などを勘案して設定することが好ましい。
【0038】
標準偏差算出部33は、各移動平均幅の移動平均値のうち、小なる移動平均幅の移動平均値を、標準偏差を算出する数式における実測データとして取り扱い、大なる移動平均幅の移動平均値を、標準偏差を算出する数式における平均値として取り扱って標準偏差を算出する。例えば、ここで、移動平均幅=50の移動平均値をDma1とし、移動平均幅=500の移動平均値をDma2とした場合、標準偏差SDは、次の式(1)によって算出される。
【0040】
判定部35は、濃度平均値算出部39からの濃度平均値と、標準偏差算出部33からの標準偏差SDとから求められる標準偏差SDに対する濃度平均値の割合(変動率)と、閾値記憶部37に予め記憶されている閾値とを比較する。その結果、変動率が閾値より大きい場合には連続紙WPにコクリングなどの変形が生じていると判定する。
【0041】
上記の濃度平均値は、濃度平均値算出部39が算出する。具体的には、小なる移動平均幅の移動平均値Dma1について次の式(2)によって濃度平均値Davを算出する。
【0043】
上記の判定部35で算出される変動率は、次の式(3)で算出される。
【0044】
変動率RV=(3SD/Dav)×100 [%] ……(3)
【0045】
上述した閾値は、予め連続紙WPに対する補正用チャートCCを印刷させ、コクリングなどの変形が生じている場合と変形なしの場合とのサンプルに基づいて適宜に決定すればよい。
【0046】
なお、上記の移動平均算出部31と、標準偏差算出部33と、判定部35と、濃度平均値算出部39とが本発明における「印刷媒体変形判定手段」に相当する。
【0047】
次に、
図4を参照して上述したインクジェット印刷システムにおける連続紙WPの変形を考慮したシェーディング補正動作について説明する。なお、
図4は、シェーディング補正動作を示すフローチャートである。
【0048】
ステップS1(印刷過程)
制御部25は、
図2に示すような補正用チャートCCを連続紙WPに対して印刷させる。
【0049】
ステップS2(濃度情報取得過程)
補正用チャートCCについて、検査部17と濃度情報取得部29により全ノズル21と対応づけられた濃度情報(生データ)を取得する。
【0050】
ここで
図5及び
図6を参照する。なお、
図5は、第1の種類の連続紙に印刷された補正用チャートを読み取った状態を示す模式図であり、
図6は、第2の種類の連続紙に印刷された補正用チャートを読み取った状態を示す模式図である。ここでは、比較しやすいように、コクリングなどの変形の生じやすさが異なる第1の種類の連続紙WPと第2の種類の連続紙WPを用いた例で説明する。
【0051】
図5の補正用チャートCCと
図6の補正用チャートCCとを比較すると、
図6では
図5に比較して縦縞状の濃度ムラが顕著になっている箇所があることがわかる。濃度ムラは複数個のノズル21における吐出特性のバラツキにより避けられないがが、それが顕著に表れるのはコクリングなどによる連続紙WPの変形に起因するムラである。この例では、第2の種類の連続紙WPにおいて変形に起因するムラが領域ck付近で生じている。
【0052】
ステップS3(移動平均値算出過程)
移動平均値算出部31は、濃度情報(生データ)について二種類の移動平均幅の移動平均値を算出する。ここでは、上述したように移動平均幅=50(個)のDma1と、移動平均幅=500(個)のDma2を算出する。
【0053】
ここで、
図7〜
図10を参照して具体的な算出結果を例示する。なお、
図7は、第1の種類の連続紙の濃度情報(移動平均幅=50)を示すグラフであり、
図8は、第1の種類の連続紙の濃度情報(移動平均幅=500)を示すグラフである。また、
図9は、第2の種類の連続紙の濃度情報(移動平均幅=50)を示すグラフであり、
図10は、第2の種類の連続紙の濃度情報(移動平均幅=500)を示すグラフである。
【0054】
ステップS4(標準偏差算出過程)
標準偏差算出部33は、二種類の移動平均幅の移動平均値に基づいて標準偏差SDを算出する。標準偏差SDの算出には、一般的な標準偏差の求め方とは若干異なる上述した(1)式を用いる。この標準偏差SDは、例えば、移動平均の説明に供する
図11に示すように、一般的な標準偏差の考え方とは相違する。つまり、ここでいう標準偏差SDは、長期移動平均値に対する短期移動平均値の差異gの偏りを表している。これらの二種類の移動平均値には元々全てのノズル21に存在する濃度のバラツキが含まれている。コクリングなどの変形は、複数個のノズル21の配置間隔よりは一般的に大きいので、短期の移動平均値にはその影響が現れやすいが、長期の移動平均値にはその影響が現れにくい。したがって、その偏差は、補正用チャートCCが印刷された連続紙WPに生じている変形に起因する。したがって、このようにして求めた標準偏差SDに基づいて連続紙WPにコクリングなどの変形が生じているか否かを判定できる。
【0055】
ステップS5(濃度平均値算出過程)
濃度平均値算出部39は、小なる移動平均幅Dma1の濃度平均値Davを上述した(2)式により算出する。
【0056】
ステップS6(変動率算出過程)
判定部35は、変動率RVを上述した(3)式により算出する。連続紙WPの種類によっては、同じ濃度の補正用チャートCCを印刷しても、濃度情報が大きく異なる場合がある。そのため連続紙WPの種類によって標準偏差SDが大きく変動するので、判定値を標準偏差だけにすると、判定を誤る場合が生じ得る。そこで、小なる移動平均幅の移動平均値Dma1に基づいて濃度平均値Davを求め、この濃度平均値Davに対する三倍の標準偏差SDである3σの割合である変動率RVを判定値とすることにより、連続紙WPの種類にかかわらず変形が生じていることを正確に判定できる。
【0057】
ステップS7(判定過程)
判定部35は、変動率RVと閾値との比較結果に基づいて処理を分岐する。変動率RVが閾値以下である場合には、ステップS8に処理を分岐し、変動率RVが閾値より大きい場合には、ステップS9に処理を分岐する。具体的な変動率などの算出結果を示す
図12に示すように、閾値を3程度にすれば、変動率RVで変形を正確に判定できることがわかる。
【0058】
ステップS8
シェーディング補正データ生成部41は、コクリングなどの変形を考慮しない通常のシェーディング係数を生成する。
【0059】
ステップS9
シェーディング補正データ生成部41は、連続紙WPにおけるコクリングなどの変形を考慮したシェーディング係数を生成する。具体的には、変形に応じた移動平均幅の濃度情報によるシェーディング係数の生成であり、濃度情報の大なる移動平均幅の移動平均値に基づいてシェーディング係数を生成する。
【0060】
なお、変形に応じた移動平均幅の濃度情報とは、変形に起因する補正用チャートCCにおける濃淡差の周期よりも大きな移動平均幅の濃度情報のことをいう。変形に起因する補正用チャートCCにおける濃淡差の周期よりも小さな移動平均幅の濃度情報に基づいてシェーディング補正を行うと、その濃淡差の影響を強く受けるが、濃淡差の周期よりも大きな移動平均幅の濃度情報を用いることにより、変形の影響を抑制して精度よくシェーディング補正を行うことができる。
【0061】
上述したようにして連続紙WPに補正用チャートCCを印刷させて予めシェーディング係数を生成し、その連続紙WPに対して製品の印刷を行う際には印刷制御部27がそのシェーディング係数により印刷を行う。これにより、連続紙WPにおけるコクリングなど変形を考慮して、複数個のノズル21の吐出特性に起因する濃度ムラを抑制した高品質の印刷が行われる。
【0062】
ここで、
図13及び
図14を参照する。なお、
図13は、3σのグラフであり、
図14は、変動率のグラフである。これらのグラフの凡例におけるL1〜L4は、第1の種類の連続紙WPのサンプルを表し、S1〜S4は、第2の種類の連続紙WPのサンプルを表す。
【0063】
図13は3σであり、これでも第1の種類の連続紙WPと第2の種類の連続紙WPとを判別可能であるが、
図14の変動率に比較すると、二種類の連続紙WPの間隔が狭くなっている。これは、3σを判定値とした場合に、閾値を設定することが難しく誤判定が生じる恐れがあることを示す。一方、
図14のように変動率では二種類の連続紙WPの間隔が
図13よりも広くなっており、閾値を設定することが容易であることがわかる。
【0064】
本実施例によると、制御部25は、印刷ヘッド19で印刷され、検査部17及び濃度情報取得部29で取得された補正用チャートCCの濃度情報に基づいて、連続したノズル21の範囲について少なくとも二つの異なる個数を移動平均幅として設定する。そして、複数個のノズル21ごとの濃度情報について移動平均幅ごとに濃度情報の移動平均値を求め、小なる移動平均幅の移動平均値Dma1を実測データとし、大なる移動平均幅の移動平均値Dma2を実測データの平均値として標準偏差SDを求める。この標準偏差SDは、大なる移動平均幅の移動平均値Dma1に対する小なる移動平均幅の移動平均値Dma2の偏差を表しており、これらには元々複数個のノズル21に存在する濃度のバラツキが含まれているので、その偏差は、補正用チャートCCが印刷された連続紙WPに生じている変形に起因する。したがって、この標準偏差SDを判定値とし、この判定値が閾値よりも大きい場合には変形が生じていることを正確に判定できる。したがって、ノズルの吐出特性を適切に補正でき、印刷品質を向上できる。
【0065】
本発明は、上記実施形態に限られることはなく、下記のように変形実施することができる。
【0066】
(1)上述した実施例では、濃度平均値Davに対する3倍の標準偏差SDの割合である変動率RVを判定値としたが、使用する連続紙WPの種類のよっては判定値を単に標準偏差SDとしてもよい。これにより、濃度平均値算出部39を構成上省略することができ、装置のコストダウンを図ることができる。
【0067】
(2)上述した実施例では、印刷装置としてインクジェット印刷装置3を例にとって説明したが、本発明はこの種の印刷装置に限定されるものではない。つまり、濃度のバラツキを補正する必要がある印刷装置であれば本発明を適用することができる。
【0068】
(3)上述した実施例では、印刷媒体として連続紙WPを例にとって説明したが、本発明はこれ以外の印刷媒体であっても適用できる。他の印刷媒体としては、例えば、フィルムや単票紙が挙げられる。