(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0001】
レーダビーコンは、電波を利用してその位置を知らせる船舶用の航路標識である。
その仕組みは、レーダビーコンが船舶レーダから発射されたパルス信号を受信すると直ちに同一周波数帯で応答信号を送信し、船舶レーダは受信した応答信号によって表示器(PPIスコープ)上にそのレーダビーコンの位置と応答信号の符号を表示させるものである。
【0002】
このレーダビーコンには、低速掃引型と周波数アジャイル型の2つの方式がある。両方式ともパルス信号を受信すると直ちに応答信号を送信するが、2つの方式では異なる周波数の応答信号を送信している。
低速掃引型は、受信したパルス信号の周波数とは無関係に、船舶レーダが使用している周波数帯(例えば9340MHz〜9470MHz)の周波数を数十秒周期で掃引しながら応答信号を送信する。一方、周波数アジャイル型は受信したパルス信号の周波数と同じ周波数で応答信号を送信する。
【0003】
低速掃引型は応答信号の周波数を掃引しているので、船舶レーダが発射したパルス信号の周波数と応答信号の周波数が一致している間だけ船舶レーダが応答信号を受信して表示する。つまり、応答信号の周波数がパルス信号の周波数と一致しない間は、レーダビーコンは不要な信号を発射することになる。一方、周波数アジャイル型はパルス信号の周波数と応答信号の周波数が同じなので、船舶レーダは常に応答信号を受信して表示する。このような理由で、近年低速掃引型は周波数アジャイル型に置き換えられている。
【0004】
ところで、従来の周波数アジャイル型レーダビーコン装置は、例えば特許文献1の
図2で開示されるような構成になっている。その
図2の構成において、アナログの周波数弁別器は入力する受信信号の周波数に応じた直流電圧を出力する。また、電圧制御発振器は入力する直流電圧に応じた周波数の信号を発振、出力している。
ここで、この従来のレーダビーコン装置の動作を説明する前に、レーダビーコン装置の動作の原理について、特許文献1、
図2に開示された装置以前のレーダビーコン装置である特許文献1の
図4に開示される構成を用いて説明する。
【0005】
図4の構成における動作で、周波数弁別器2は入力する受信信号の周波数に応じた直流電圧を出力し、その出力をA/D変換部10に入力し、直流電圧をデジタル値に変換して保持する(データ保持回路20)。また、電圧制御発振部4が受信信号と同じ周波数で発振するような制御電圧をD/A変換部14が出力するように、一定の決まりで直流電圧のデジタル値を変換してD/A変換部14に与える。このようにして、
図4のレーダビーコン装置は受信信号と同じ周波数の応答信号を送信する。
【0006】
上述の特許文献1の
図4に開示される構成では、周波数弁別器や電圧制御発振部はアナログ回路で構成されているので、温度や電源電圧の変動や経年変化によって特性が変化し、周波数弁別器の入力周波数対出力電圧特性や電圧制御発振部の入力電圧対出力周波数特性が変化する。そのために、例えばある温度、電源電圧では、周波数弁別器が受信信号の周波数に応じたある直流電圧を出力し、それに一定の変換を行って得られる制御電圧を電圧制御発振部に出力して受信信号と同じ周波数の信号を発振したとしても、温度や電源電圧が変化すると電圧制御発振部の発振周波数は受信周波数からずれてしまう問題がある。
【0007】
このような問題を解決するため、特許文献1の
図2のレーダビーコン装置は、電圧制御発振部4が発振する信号を周波数弁別器2に入力し、出力される直流電圧が受信信号を入力した時に出力される直流電圧と一致するように、電圧制御発振部4に与える制御電圧を調整する。そのために、周波数弁別器2の入力側と電圧制御発振部4の出力側に信号を切り替えるスイッチ1、6が設けてあり、制御電圧を調整するときは、スイッチ1、6を操作し、電圧制御発振部4が出力する発振信号を送信部9ではなく周波数弁別器2に入力するとともに、周波数弁別器2への入力信号を受信部8が出力する受信信号ではなく電圧制御発振部4が出力する発振信号に切り替える。
【0008】
通常は、周波数弁別器2に受信部8から受信信号が入力され、周波数弁別器2は受信信号の周波数に応じた直流電圧を出力する。この直流電圧をA/D変換部10でデジタル値に変換して保持する。また、このデジタル値を変換してD/A変換部14で制御電圧に変換して電圧制御発振部4に与え、制御電圧に応じた周波数の発振信号を出力する。
【0009】
ここで、特許文献1の
図4の原理的なレーダビーコン装置とは異なり、最初、スイッチ6を切換えて電圧制御発振部4は、発振信号を送信部9に入力せずに(つまり送信せずに)周波数弁別器2に入力し、その発振周波数に応じた直流電圧を得る。この直流電圧をA/D変換したデジタル値と、先ほど受信信号を周波数弁別器2に入力した時に得られたデジタル値が一致すると、電圧制御発振部4が発振する信号の周波数が受信信号と等しくなったことになる。そこで、受信信号と電圧制御発振部4の発振信号のそれぞれを周波数弁別器2で弁別した結果が異なる場合には、その結果が一致するように、D/A変換器部14に与えるデジタル値を調整する。値が一致した時点でD/A変換部14に与えるデジタル値の調整をやめて、電圧制御発振部4の発振信号を送信部9に入力して送信するように切り替える。
このように動作することで、温度や電源電圧が変化しても電圧制御発振部4の発振周波数と受信周波数との誤差がなくなり、応答信号の周波数を受信信号と一致させることを可能としている。
【0010】
さて、実際のレーダビーコン装置は、同じ時間帯に付近を航行する複数の船舶から到来する周波数の異なるレーダ信号に対して応答しなければならない。また、船舶レーダのメインローブ信号(アンテナの主方向に発射される信号)に対して一定値以上のレベル差があるサイドローブ信号(主方向以外の方向に発射される信号)にはレーダビーコン装置が応答しないようにしなければならない。
【0011】
このような機能を実現する周波数アジャイル型レーダビーコン装置は、例えば特許文献2の
図1及び
図2のような構成になっている。
その
図1において、周波数データ変換部1は例えば周波数弁別部(
図2の符号1−1参照)とA/D変換部(
図2の符号1−2参照)で構成されており、周波数弁別部1−1が受信信号の周波数に応じて出力する直流電圧のデジタル値(周波数データ)を出力する。周波数識別部2は周波数データ変換部1が出力する周波数データをもとに複数の周波数の異なるレーダ信号を区別し、送信元ごとに以下の処理を行う。
【0012】
送信元ごとに設けられた受信周波数保持部
図1の11、12(
図2、符号11〜13参照)は例えばRAMで構成されており、受信信号の周波数データを保持する。
同一周波数信号出力部4は、例えば送信元ごとのデータ保持回路(
図2、符号41、42参照)と演算回路(
図2、比較回路30、加算回路31参照)、D/A変換部(
図2、符号37参照)、電圧制御発振部(
図2、VCO、符号36参照)で構成されている。
【0013】
例えば、ある送信元への対応においては、担当するデータ保持回路41は受信周波数保持部11が出力する周波数データを初期値として出力し、当該送信元からの受信信号を周波数弁別した結果(すなわち受信周波数保持部11で保持している周波数データ)と、電圧制御発振部36の発振信号を周波数弁別した結果とが一致するように、D/A変換部37に与える周波数データを調整して保持する。
【0014】
このように、送信元ごとに受信周波数保持部やデータ保持回路を複数設けているので、同一時間帯に周波数の異なる複数の送信元からの信号を受信してもそれぞれに対して周波数データを調整することができ、受信信号と同じ周波数で応答することができる。なお、周波数の異なる複数の船舶レーダから全く同時に信号を受信すると周波数を正しく判別できないが、船舶レーダの信号はパルス繰返し周期(例えば1ms)に比べてパルス幅が非常に短い(例えば0.1μs)ので、複数の船舶レーダからの信号が衝突することはまず生じない。
【0015】
また、この特許文献2の
図1においてレベル識別部6は、例えば検波器とA/D変換器で構成され、その検波器が受信信号の振幅(レベル)に応じて出力する直流電圧のデジタル値(振幅データ)を出力する。
送信元ごとに設けられたメモリ21〜23はRAMであって、送信元ごとの振幅データの最大値を保持する。
【0016】
ピーク検出部7は、現在の受信信号の振幅データと、現在の受信信号の送信元にかかわる振幅データの最大値とを比較して、現在の受信信号の振幅が大きいときにはメモリの内容を現在の受信信号の振幅データに更新する。
【0017】
レベル比較部8は、現在の受信信号の振幅データと、現在の受信信号の送信元にかかわる振幅データの最大値よりも一定値だけ小さな値とを比較して、現在の受信信号の振幅データの方が小さい場合は現在の受信信号をサイドローブとみなし、信号を送信しないように制御する。
このようにして、複数の船舶レーダに対して、メインローブ信号に対して一定値以上のレベル差があるサイドローブ信号にはレーダビーコン装置が応答しないようにすることができる。
【0018】
しかし、特許文献1の
図4や特許文献2の
図1の周波数アジャイル型レーダビーコン装置には、帯域外送信を防止できないという別の問題がある。
一般に、無線機には法令で定められた送信帯域があり、この送信帯域外の信号を送信することは禁じられている。周波数アジャイル型レーダビーコン装置の送信帯域は船舶レーダと同じに定められている。
そこで、原理的なレーダビーコン装置では、電圧制御発振器が送信帯域の下限周波数と上限周波数を発振するような制御電圧のデジタル値をあらかじめ調べておいて、D/A変換器に与えるデジタル値がこの範囲外の場合は送信を中止し、送信帯域外での送信をしないようにしている。こうすることで、たとえ送信帯域外の周波数の信号を受信してしまった時でも、それに対して誤って同じ周波数で応答信号を送信することを防ぐことができる。
【0019】
しかし、実際には上述のように電圧制御発振器がアナログ回路で構成されており、温度や電源電圧の変動や経年変化によって特性が変化し、電圧制御発振器の入力電圧対出力周波数特性が変わってきている。そのため、ある条件で送信帯域に対応する制御電圧のデジタル値の範囲を調べておいても、条件が変化すると制御電圧の範囲も変わり、特に送信帯域の上限、下限の近傍では帯域外送信を正しく防ぐことができなくなる。
【0020】
このような問題点を解決するためには、レーダビーコン装置の例ではないが、特許文献3の
図2のような方法が提案されている。
この
図2では受信部の入力に温度や電源電圧で変動しない安定した無線周波数帯の基準周波数を発振する発振器12を設け、基準周波数を受信してアナログ回路の特性変化を補償するものである。
【0021】
そこで、周波数アジャイル型レーダビーコン装置の場合への適用は、例えば、特許文献1の
図2のレーダビーコン装置の受信部8に送信帯域の上限周波数と下限周波数を発振する2つの基準周波数発振器を設け、定期的にこの基準周波数の信号を周波数弁別器2に入力し、上述の方法で電圧制御発振部4が発振する信号の周波数が基準周波数と一致するようにD/A変換部14に与えるデジタル値を調整する。この調整を送信帯域の上限周波数と下限周波数の基準信号に対して行えば、送信帯域内となる制御電圧のデジタル値の範囲がわかる。
受信信号に対する応答動作の過程で求めた制御電圧のデジタル値がこの範囲外のときは送信を中止すれば、帯域外送信を防ぐことができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0023】
特許文献1の
図2や特許文献2の
図1、
図2に開示された従来のレーダビーコン装置は、電圧制御発振部で発振した信号をまず周波数弁別器に入力し、電圧制御発振部の発振信号の周波数が受信信号の周波数と一致するように電圧制御発振部の制御電圧を調整する。
その調整の結果、電圧制御発振部の発振周波数が受信信号の周波数と同じになると、今度は電圧制御発振部の発振信号を送信部に入力するようにスイッチを切り替える。
【0024】
ここで、電圧制御発振部の出力を周波数弁別器に接続した時の出力負荷インピーダンスと、送信部に接続した時の出力負荷インピーダンスは、接続する回路が違うために異なることとなる。すると、スイッチの切り替えで生じる負荷変動によって電圧制御発振部の発振周波数が変化する。このため、電圧制御発振部の出力を周波数弁別器に接続して、電圧制御発振部の発振信号の周波数が受信信号の周波数と同じになるように調整した後、電圧制御発振部を送信部に接続すると電圧制御発振部の発振周波数が変化してしまう。その結果、応答信号の周波数が受信信号の周波数とずれてしまう問題があった。
【0025】
また、受信信号と電圧制御発振部の発振信号のそれぞれを周波数弁別器で弁別した結果が一致するように、D/A変換部に与えるデジタル値を調整してから送信するので、船舶レーダから初めて信号を受信してから調整が終了するまでの間は当該局からのレーダ信号に応答できない問題があった。
【0026】
さらに、特許文献3の
図2のように基準信号発振器を設けてアナログ回路の特性を校正する方法では、安定的に周波数を発振する無線信号周波数の基準信号発振器は高価であるほか、定期的に基準信号を受信してアナログ回路の校正をしている間、受信信号を受信して応答するレーダビーコン装置本来のサービスができないという問題があった。
【0027】
そこで、本発明は上記のような問題点を解決するためになされたもので、温度や電源電圧の変動や経年変化、回路の負荷変動で応答信号の周波数が受信信号の周波数とずれてしまうことを防ぎ、またレーダ信号を受信し始めた最初からの応答を可能とし、さらに高価な無線信号周波数帯の基準信号発振器を使わず、並びにアナログ回路の校正のためのサービスの中止を必要としない周波数アジャイル型レーダビーコン装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0028】
本発明の第1の発明は、アナログ受信信号をデジタル値に変換してデジタル受信信号を出力するA/D変換器と、そのデジタル受信信号からデジタル受信信号を構成する受信周波数を求めるデジタル周波数弁別器と、求めた受信周波数を、応答信号を構成する応答周波数として設定する周波数設定部と、その設定された応答周波数により構成される応答信号を生成する直接デジタルシンセサイザ(DDS)を備え、その周波数設定部が、デジタル周波数弁別器が出力した受信周波数を、応答信号の応答周波数として直接にデジタルシンセサイザ(DDS)に設定することを特徴とする周波数アジャイル型レーダビーコン装置である。
【0029】
本発明の第2の発明は、第1の発明におけるデジタル周波数弁別器が、遅延素子と複素共役回路と複素乗算器と位相変換回路を備え、遅延素子を用いて受信信号から取り出された受信ベースバンド信号を一定時間遅延させた遅延受信ベースバンド信号から複素共役回路を用いて複素共役をとった信号、および受信ベースバンド信号の2つの信号の複素乗算を複素乗算器により計算し、その乗算結果を入力値として、直列接続された少なくとも2以上の遅延素子に入力し、さらに、前記直列接続された遅延素子の各々から得られた結果を用いて、前記位相変換回路による位相を周波数に変換する操作によって前記受信信号を構成する受信周波数を求めて出力する装置であることを特徴とする周波数アジャイル型レーダビーコン装置である。
【0030】
本発明の第3の発明は、第1又は第2の発明に記載の周波数アジャイル型レーダビーコン装置の運用方法であって、受信信号を発信する船舶レーダの空中線回転周期より十分に短い周期、且つ船舶レーダが発信する受信信号のパルス繰返し周期の1/10から10倍の周期で、第1又は第2の発明に記載の周波数アジャイル型レーダビーコン装置を間欠動作させることにより、そのレーダビーコン装置の消費電力を低減させることを特徴とする周波数アジャイル型レーダビーコン装置の運用方法である。
【発明の効果】
【0031】
本発明による周波数アジャイル型レーダビーコン装置は、周波数弁別器と送信信号源をデジタル回路で構成しているので、受信信号の周波数に合わせるための調整が不要になると共に、回路の校正のためには、従来の周波数アジャイル型は動作の停止を必要としていたが、本発明では回路の校正自体を実行せずに済むために連続動作を可能とする。
また、レーダ信号を受信し始めた最初から応答することができ、応答信号の周波数が基準信号と同等の精度なので、周波数弁別器が出力する周波数が帯域外の周波数のときは送信しないようにすれば、誤って帯域外の周波数で応答することもない。さらに、短い時間間隔での間欠動作が可能であり、間欠動作させることによって消費電力を低減することを可能である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
[実施形態1]
図1は、本発明に係る周波数アジャイル型レーダビーコン装置の一例を示す原理構成図である。
図1において、11は局部発振器、12は第1のミキサ、13は第2のミキサ、21は検波器、22は比較器、32は第2のA/D変換器(ADC)、33はデジタル周波数弁別器、34は周波数設定部、35は直接デジタルシンセサイザ(DDS)、36は基準発振器、37はオンオフ制御部、S1は受信信号、S2は応答信号、S3はトリガー信号、S4は局部発振信号、S5は受信中間周波信号(受信IF信号)、S6はS5をデジタル化した信号、S7は受信周波数、S8は基準発振信号、S9は送信IF信号、S10は局部発振信号、v1は受信信号の信号レベルに応じた直流電圧である。
【0034】
受信信号S1は、検波器21で信号レベルに応じた直流電圧v1に変換され、比較器22で閾値と比較される。
その信号レベルが閾値を上回ると、比較器22はトリガー信号S3を出力する。また、受信信号S1は第1のミキサ12で局部発振器11が出力する局部発振信号S4と混合され、受信中間周波信号(受信IF信号)S5に周波数変換される。
デジタル周波数弁別器33は、受信IF信号S5をA/D変換器32でデジタル化した信号S6から受信周波数S7を求める。
【0035】
周波数設定部34は、比較器22からのトリガー信号S3を受けるとデジタル周波数弁別器33が出力する受信周波数S7に対応する周波数を直接デジタルシンセサイザ(DDS)35が出力するように周波数設定を行う。また、オンオフ制御部37は比較器22からのトリガー信号S3によってDDS35に対してあらかじめ定められた符号に従ってオンオフ変調を行うように制御する。
【0036】
ここで、DDS35は基準発振器36が発振する基準発振信号S8を元にして動作クロックを生成し、オンオフ制御部37の指示に従って、周波数設定部34が設定した周波数の信号をオンオフ変調して出力する。DDS35が出力する送信IF信号S9は第2のミキサ13で局部発振器11が出力する局部発振信号S10と混合され、無線周波(RF)信号に周波数変換されて応答信号S2となる。
局部発振器11が第1のミキサ12に出力する局部発振信号S4と、第2のミキサ13に出力する局部発振信号S10の周波数が同じ場合、DDS35は受信信号S1と同じ周波数の信号を出力する。
【0037】
以上のように、本発明の
図1の周波数アジャイル型レーダビーコン装置は、デジタル周波数弁別器33によって受信信号S1の受信周波数S7を、デジタル演算によって求めているので、その周波数弁別特性は演算精度で決まり、温度や電源電圧には影響されず、経年変化もない。
また、DDS35は基準発振信号S8を元に動作しているので、DDSが生成する信号の周波数精度は基準発振信号の周波数精度と同じになる。
そこで、基準発振器を温度補償型水晶発振器のような高精度、高安定なものにすれば、DDSが生成する信号に対する温度や電源電圧、経年変化の影響はほとんど無視できる。
【0038】
このように、
図1の周波数アジャイル型レーダビーコン装置は、デジタル周波数弁別器33と送信信号源(DDS35、基準発振器36)をデジタル回路で構成しているので、応答信号の周波数が演算精度で受信信号の周波数と同じになり、受信信号の周波数に合わせるための調整が不要になり、回路の校正によってサービスを中止することがなくなる。
また、レーダ信号を受信し始めた最初から応答することができる。さらに、応答信号の周波数は基準信号と同等の精度なので、周波数弁別器が出力する周波数が帯域外の周波数のときは送信しないようにすれば、誤って帯域外の周波数で応答することもない。
【0039】
[実施形態2]
さて、レーダビーコンが船舶レーダからのパルス信号を受信してから応答信号を送信するまでの応答遅れ時間には厳しい規格がある。その応答遅れが大きいと船舶レーダは実際よりも物標との距離が長いと認識し、レーダの表示器上に実際のレーダビーコンの位置よりも遠くに表示されてしまうためである。
【0040】
図4は受信信号に対する応答信号の応答遅れを示す説明図である。
受信後の応答遅れは「ITU−R勧告 M.824−2」の付属書1、及び「IALA勧告 R−101」の表1に示された規格で、0.7μs以下となっていると同時に、同規格において、受信周波数帯域は9300MHz〜9500MHz、又は2900MHz〜3100MHzの帯域幅200MHz、受信信号周波数に対する応答信号周波数の誤差は受信信号のパルス幅0.2μs以上の場合1.5MHz以下となっている。
【0041】
この規格は、デジタル周波数弁別の手法で一般的なFFT(高速フーリエ変換)では実現できない。なぜなら、周波数弁別器の誤差を1.5MHz以下とするためにはFFTの周波数ビン幅は3MHz以下となる。すると、200MHzの帯域は67個以上の周波数ビンから構成されることになり、FFTの点数は一般的な2のべき乗にすると128点以上になる。信号処理のクロックを例えば200MHzとすると最大応答遅れの0.7μsは140クロック相当であり、128点のFFTを実行することができない。
【0042】
しかし、上述のように船舶レーダの信号は、パルス繰返し周期に比べてパルス幅が非常に短く、複数の船舶レーダからの信号が衝突することはまず起きない。すなわち、レーダビーコンが受信する信号は単一周波数信号であることを前提にすると、以下のような手法でデジタル周波数弁別器が実現できる。
【0043】
図2に、本発明に係るデジタル周波数弁別器の構成図を示す。
図2において、101は遅延素子、102は複素共役回路、103は複素乗算器、104は累算器、105は位相変換器、110は加算器、111〜11Nは遅延素子、S6はデジタル受信ベースバンド信号(複素ベースバンド信号)、S6
iは受信ベースバンド信号の複素共役、S6
dは遅延受信ベースバンド信号、S7は受信周波数、R1は複素乗算結果、R111・・・R11Nは各遅延素子の出力である。
【0044】
図2は
図1のデジタル周波数弁別器33の一構成例を示したもので、受信信号S1を周波数変換してA/D変換したデジタル受信ベースバンド信号(複素ベースバンド信号)S6が入力され、その受信周波数S7を出力する。
デジタル受信ベースバンド信号S6は、遅延素子101で一定時間遅延させられて遅延受信ベースバンド信号S6
dに加工され、複素共役回路102で、その遅延受信ベースバンド信号の複素共役S6
iを出力する。
【0045】
複素乗算器103は、デジタル受信ベースバンド信号S6と複素共役回路102の出力信号S6
iとの複素乗算を計算する。その複素乗算結果R1は、累算器104で(N+1)個の結果が累算される。
累算器104は、N個の縦続接続された遅延素子111、112、…、11Nと加算器110から成り、入力された複素乗算結果R1と各遅延素子111、112、…、11Nの出力R111、R112、・・・、R11Nを加算器110で加算する。
その累算結果は、位相変換器105で複素数の位相に変換される。なお、累算器104は加算によって信号のSN比を改善するためのもので、入力信号のSN比が十分よければ累算器104はなくてもよい。
【0046】
以上の構成で受信信号の周波数が計算できる理由を以下で説明する。
受信ベースバンド信号I、Qデータは、(I
n、Q
n)と表し、K+1個の連続した受信ベースバンド信号について、隣接する標本の複素共役と複素乗算を行い、得られたK個の複素乗算結果を累算するもので、先ず、一つの複素乗算は下記(1)〜(4)式に示すように計算される。
【0048】
上記(4)式から、複素乗算結果の位相は第1の遅延素子の遅延時間の間の受信ベースバンド信号の位相の変化を表している。遅延時間は一定なので、この位相は受信ベースバンド信号の周波数に比例することになる。
図2の構成では下記(5)式に示すように、K個累算することになる。
【0050】
そして、(Xa、Ya)を位相変換器105の位相変換回路に入力し、その位相を求める。
位相変換回路は、例えば、さまざまな(Xa、Ya)の値に対して位相を出力する周波数変換テーブルをあらかじめ作成しておき、計算された(Xa、Ya)をアドレスとしてテーブルを読み出すことで実現できる。
【0051】
今、200MHzの受信帯域幅の信号をA/D変換する標本化クロックを200MHzとすると、この構成によれば、複素乗算、累算、位相変換(テーブルの読み出し)合わせて数十クロックで周波数を計算できる。
【0052】
[実施形態3]
図3は、船舶レーダのサイドローブ信号に応答しない機能を持たせた、本発明の周波数アジャイル型レーダビーコン装置の実施例の構成図である。
図3においては、
図1と同じ要素には同じ符号設け、23は第1のA/D変換器、24は振幅メモリ、25はピーク検出部、26はサイドローブ検出部、31は直交ミキサ、dv1は直流電圧v1のデジタル値、S6aはアナログ受信ベースバンド信号、S7
maxは受信周波数に応じた振幅の最大値である。
【0053】
検波器21の出力する受信レベルに応じた直流電圧v1は比較器22で閾値と比較されトリガー信号S3を出力するとともに、第1のA/D変換器23でデジタル値dv1に変換する。
一方、第1のミキサ12が出力する受信中間周波信号S5は、直交ミキサ31でアナログ受信ベースバンド信号S6aに周波数変換されて第2のA/D変換器32でデジタル受信ベースバンド信号S6となり、デジタル周波数弁別器33に入力され、受信周波数S7が求められる。
【0054】
次にデジタル周波数弁別器33が出力する受信周波数S7に応じた周波数が応答周波数として周波数設定部34によりDDS35に設定される。また、デジタル周波数弁別器33が出力する受信周波数S7をアドレスとして、その受信周波数に応じた振幅の最大値を記憶する振幅メモリ24を参照し、この振幅メモリ24が出力する振幅の最大値S7
maxと第1のA/D変換器23が出力する受信信号の信号レベルに応じた直流電圧v1のデジタル値dv1とをピーク検出部25で比較し、受信レベルのデジタル値が第1のA/D変換器23で保持していた最大値よりも大きい場合、振幅メモリ24の内容を受信レベルのデジタル値dv1で更新する。こうして、受信周波数S7に応じた振幅の最大値が常に振幅メモリ24に保持されるようにする。
【0055】
サイドローブ検出部26は、振幅メモリ24が出力する振幅の最大値S7
maxから一定値だけ小さい閾値と第1のA/D変換器23が出力する受信レベルのデジタル値dv1とを比較し、受信レベルのデジタル値が閾値より小さい場合はサイドローブ信号と判定して、オンオフ制御部37によりDDS35の出力をオフにして応答信号を送信しないように制御する。
受信レベルのデジタル値が閾値より大きい場合は、オンオフ制御部37が比較器22からのトリガー信号S3によってDDS35に対してあらかじめ定められた符号に従ってオンオフ変調を行う。
【0056】
なお、
図3において、検波器21は無線周波信号を検波するように構成しているが、第1のミキサ12で周波数変換した中間周波信号を検波するようにしてもよい。また、中間周波信号を直交ミキサ31で直交復調してから第2のA/D変換器32でデジタル値にしているが、第2のA/D変換器32で中間周波信号をデジタル値にした後、デジタル直交復調して受信ベースバンド信号を得てもよい。
【0057】
[実施形態4]
レーダビーコン装置は、船舶レーダの空中線が回転する周期(約2.5秒)で、空中線がレーダビーコン装置に正対している期間(約10ms弱)、船舶レーダから十〜数十回パルス信号を受信する。
図4はレーダビーコン装置における受信信号に対する応答信号の応答遅れを示す説明図で、
図5は本発明に係るレーダビーコン装置の動作状態の説明図である。
レーダビーコン装置は
図4に示した応答遅れが規格を満たす限り、
図5(b)の応答信号1のように受信したパルス信号すべてに応答してもよいし、
図5(c)の応答信号2のように受信したパルス信号の一部だけに応答してもよい。
【0058】
図3のレーダビーコン装置は、
図5(b)の応答信号1のように、すべての信号に応答する。
そこで、
図3のレーダビーコン装置を、
図3に図示しないマイコンによって
図5(d)の動作休止周期のように数msの周期で間欠動作させれば、装置全体の平均消費電力を低減しながら
図5(c)の応答信号2のような応答が得られる。
【0059】
従来の特許文献1のレーダビーコン装置では、受信信号と電圧制御発振器の発振信号のそれぞれを周波数弁別器で弁別した結果が一致するように、D/A変換器に与えるデジタル値を調整してから送信するので、このような短い周期の間欠動作は不可能だったが、この発明によれば間欠動作が可能となり、その間欠動作により消費電力の低減が可能である。
【0060】
以上のように、本発明による周波数アジャイル型レーダビーコン装置は、周波数弁別器と送信信号源をデジタル回路で構成しているので、受信信号の周波数に合わせるための調整が不要になり、回路の校正によってサービスを中止することがなくなる。また、レーダ信号を受信し始めた最初から応答することができる。
さらに、応答信号の周波数が基準信号と同等の精度なので、周波数弁別器が出力する周波数が帯域外の周波数のときは送信しないようにすれば、誤って帯域外の周波数で応答することもない。そのうえ、短い時間で間欠動作させることによって消費電力の低減が可能である。