【実施例】
【0051】
(実施例1)
13族窒化物自立基板1としてのGaN自立基板を対象に、Geをドーパントとするドーパント導入処理を行い、その後、厚み方向におけるドーパントの濃度分布を評価した。以下においては、13窒化物自立基板1をGaN自立基板1とも称する。また、13族元素面1aのことをGa面1aと称し、15族元素面1bのことをN面1bと称することがある。
【0052】
初めに、フラックス法によりGaN自立基板1を作製した。具体的には、まず、直径2インチのサファイア下地基板上にGaN薄膜を備える種基板を作製した後、該種基板と、金属Gaと、金属Naと、四塩化ゲルマニウムとを円筒平底のアルミナ坩堝に充填した。さらに、該アルミナ坩堝を耐熱金属製の育成容器に入れて密閉した。当該容器を、揺動および回転が可能な結晶育成炉内において回転させながら所定の高温高圧状態で保持することで、金属Gaと、金属Naと、四塩化ゲルマニウムとからなる融液を撹拌しながら、サファイア基板上にキャリア濃度が約1×10
18[cm
−3]のGaN単結晶1を0.7mm程度の厚みに成長させた。室温まで徐冷した後、アルミナ坩堝内から、GaN厚膜が成長してなるサファイア下地基板を取り出し、さらにサファイア下地基板を除去することで、GaN自立基板1を得た。
【0053】
次に、得られたGaN自立基板1に対しドーパント導入処理を行った。具体的には、内径80mm、高さ45mmの円筒平底のアルミナ坩堝を用意し、その中に、作製したGaN自立基板1と、5gの金属Geと、95gの金属Gaとを充填した。このアルミナ坩堝を耐熱金属製の容器に入れて密閉した後、雰囲気制御機能付加熱炉内に配置し、1気圧のアルゴン雰囲気内でアニール温度である1000℃まで昇温加熱し、続いて、1000℃のまま50時間保持することにより、ドーパント源金属である金属Geと金属Gaとの混合融液によるアニールを行った。当該時間経過後、5時間かけて室温まで徐冷した。徐冷後、加熱炉から育成容器を取り出し、熱硫燐酸を用いて、金属を除去して、GaN自立基板1を回収した。
【0054】
最後に、回収したGaN自立基板1のGa面1aに対して機械研磨および機械化学研磨を施し、さらにはN面1bに対して機械化学研磨を施すことで、GaN自立基板1の厚みを0.5mmとした。
【0055】
ドーパント導入処理後のGaN自立基板1について、SIMSにより、厚み方向におけるGe原子の濃度分布を測定した。なお、参考のため、Si原子の濃度分布についても併せて測定した。具体的には、Ga面1aから深さ20nmの箇所と、N面1bから20nm、100nm、250nm、400nmの4箇所の計5箇所でのGeおよびSiの原子濃度を測定した。
【0056】
また、ドーパント導入処理後のGaN自立基板1を用いて、LED素子を作製し、その電気的特性を評価した。
図3は、本実施例においてGaN自立基板1を用いて作製したLED素子10の構成を例示する図である。
【0057】
LED素子10の作製は、GaN自立基板1を母基板とし、いわゆる多数個取りの手法により行った。具体的には、まず、MOCVD法によって、GaN自立基板1のGa面1aの側に、n型半導体層2としてのSiドープGaN層と、第1単位層3aとしてのIn
0.15Ga
0.85N層と第2単位層3bとしてのGaN層とを繰り返し交互に10層ずつ有する活性層3と、p型半導体層4としてのMgドープGaN層とを順次にエピタキシャル形成した。そして、フォトリソグラフィープロセスと電子ビーム蒸着法により、GaN自立基板1のN面1bの上に櫛歯状のカソード電極6のパターンを設け、さらに、電子ビーム蒸着法により、MgドープGaN層の上にアノード電極5のパターンを設けた。各層の形成条件は以下の通りである。なお、本実施の形態において、15族/13族ガス比とは、13族原料の供給量に対する15族原料の供給量の比(モル比)である。
【0058】
SiドープGaN層(n型半導体層2):
形成温度→1100℃;
リアクタ内圧力→100kPa;
15族/13族ガス比→2000;
13族原料に対するSi原料モル比→1×10
−4;
厚み→1000nm。
【0059】
In
0.15Ga
0.85N層(第1単位層3a):
形成温度→800℃;
リアクタ内圧力→100kPa;
15族/13族ガス比→10000;
全13族原料に対するTMIモル比→0.6;
厚み→2nm。
【0060】
GaN層(第2単位層3b):
形成温度→800℃;
リアクタ内圧力→100kPa;
15族/13族ガス比→20000;
厚み→5nm。
【0061】
MgドープGaN層(p型半導体層4):
形成温度→1000℃;
リアクタ内圧力→100kPa;
15族/13族ガス比→10000;
13族原料に対するMg原料モル比→1×10
−3;
厚み→100nm。
【0062】
なお、MgドープGaN層の形成後には、Mg活性化処理として、650℃の窒素ガス雰囲気中で5分間のアニール処理を行った。
【0063】
カソード電極6は、Ti/Al/Ti/Au多層電極として形成した。それぞれの電極層の厚みは、30nm、300nm、30nm、60nmとした。カソード電極6を形成の後には、合金化アニールを実施した。合金化アニールは、700℃の窒素雰囲気で30秒間行った。
【0064】
アノード電極5は、Ni/Au多層電極として形成した。それぞれの電極層の厚みは、30nm、300nmとした。アノード電極5を形成の後には、合金化アニールを実施した。合金化アニールは500℃の窒素雰囲気で、5分間行った。
【0065】
最後に、アノード電極5の形成までがなされた積層構造体をダイサーにより素子単位に分断して、複数のLED素子10を得た。
【0066】
LED素子10の電気的特性の評価としては、順方向電流が100mAおよび10μAのときの順方向電圧の測定と、逆方向電圧が−5Vのときの逆方向飽和電流の測定とを行った。測定サンプル数は10とした。
【0067】
(実施例2)
GaN自立基板1を対象に、Siをドーパントとするドーパント導入処理を行い、その後、厚み方向におけるドーパントの濃度分布を評価した。具体的には、アルミナ坩堝への充填物を、GaN自立基板1と、5gの金属Siと、95gの金属Gaとしたほかは、実施例1と同様とした。さらに、実施例1と同様に、LED素子10の作製と、該LED素子10の電気的特性の評価とを行った。
【0068】
(実施例3)
アニール処理を、5気圧の窒素雰囲気内で、アニール温度を1300℃とし、該アニール温度での保持時間を12時間として行うようにしたほかは、実施例1と同様のドーパント導入処理とドーパント濃度分布の評価とを行った。さらに、実施例1と同様に、LED素子10の作製と、該LED素子10の電気的特性の評価とを行った。
【0069】
なお、SIMSによるGeおよびSiの原子濃度の測定は、Ga面1aから深さ20nmの箇所と、N面1bから20nm、100nm、250nm、400nm、10μm、100μm、300μmの7箇所の計8箇所で行った。
【0070】
(実施例4)
アニール処理を、5気圧の窒素雰囲気内で、アニール温度を1300℃とし、該アニール温度での保持時間を12時間として行うようにしたほかは、実施例2と同様のドーパント導入処理とドーパント濃度分布の評価とを行った。さらに、実施例2と同様に、LED素子10の作製と、該LED素子10の電気的特性の評価とを行った。
【0071】
SIMSによるGeおよびSiの原子濃度の測定は、実施例3と同様の計8箇所で行った。
【0072】
(比較例1)
アニール時の融液がGeのみを含むようにするべく、アルミナ坩堝への充填物を、GaN自立基板1と、100gの金属Geとしたほかは、実施例1と同様の処理とドーパント濃度分布の評価とを行った。さらに、実施例1と同様に、LED素子10の作製と、該LED素子10の電気的特性の評価とを行った。
【0073】
(比較例2)
アニール時の融液がGeのみを含むようにするべく、アルミナ坩堝への充填物を、GaN自立基板1と、100gの金属Geとしたほかは、実施例3と同様のドーパント導入処理とドーパント濃度分布の評価とを行った。さらに、実施例3と同様に、LED素子10の作製と、該LED素子10の電気的特性の評価とを行った。
【0074】
(比較例3)
アルミナ坩堝への充填物を、GaN自立基板1の13族元素面1aおよび15族元素面1bのそれぞれに金属Si膜をスパッタ法にて10μmの厚みに形成したもののみとしたほかは、実施例4と同様のドーパント導入処理とドーパント濃度分布の評価とを行った。さらに、実施例4と同様に、LED素子10の作製と、該LED素子10の電気的特性の評価とを行った。なお、係る比較例3は、固体のドーパント源がGaN自立基板1と接触した状態でのアニール処理の効果を評価する目的で行ったものである。
【0075】
(比較例4)
実施例1と同様に作製したGaN自立基板1について、融液下でのアニール処理を行うことなく厚み方向におけるドーパントの濃度分布を評価した。また、実施例1と同様に、LED素子10の作製と、その電気的特性の評価とを行った。
【0076】
(ドーパント濃度分布の対比)
実施例1ないし実施例4、および、比較例1ないし比較例4のSIMS分析の結果を表1に示す。
【0077】
【表1】
【0078】
表1に示すように、アニール温度を1000℃とした実施例1および実施例2についてみれば、実施例1においてはGeの原子濃度が、実施例2においてはSiの原子濃度が、GaN自立基板1のN面1bから100nm以内の範囲で内部(例えばN面1bから250nm以深の範囲)よりも高くなっていた。特に、N面1bから20nmのところで顕著にGeまたはSiが存在していた。これに対して、Ga面1aの近傍におけるドーパント濃度は内部と変わらなかった。なお、基板内部およびGa面1aの近傍にGeが存在しているのは、自立基板作製時に四塩化ゲルマニウムを用いたことによるものである。
【0079】
また、アニール温度を1300℃とした実施例3および実施例4についてみれば、実施例3においては、N面1bから遠ざかるほど減少する傾向はみられるものの、いずれの評価位置においても、実施例1に比して、Geの原子濃度は顕著に高くなっていた。同様に、実施例4においても、N面1bから遠ざかるほど減少する傾向はみられるものの、いずれの評価位置においても、実施例2に比して、Siの原子濃度は顕著に高くなっていた。
【0080】
一方、比較例1ないし比較例4においては、比較例2においてN面1bから20nmのところで若干Ge濃度が高くなったほかは、GeおよびSiの濃度に測定箇所による差異は確認されなかった。
【0081】
実施例1ないし実施例4の結果とドーパント源金属と金属Gaとの混合融液中でのアニール処理を行わなかった比較例1および比較例2との結果の相違、および、実施例1ないし実施例4の結果と融液アニール処理を行わなかった比較例4との結果の相違は、ドーパント源金属と金属Gaとの混合融液中でのアニール処理が、N面1bの近傍におけるドーパントの濃度が他の部分のドーパントの濃度よりも高いGaN自立基板1の作製に有効であることを指し示すものである。なお、Ga面1aの近傍におけるドーパント濃度が内部と変わらないのは、研磨処理によってドーパントが導入された部分が除去されたことの効果であると考えられる。
【0082】
特に、実施例1ないし実施例4の結果と比較例1および比較例2の結果との相違は、ドーパント源金属と金属Gaとの混合融液の使用が、ドーパントの導入に、特に、表面近傍に対するドーパントの導入に効果的であり、ドーパント源金属のみの融液中でのアニール処理は、少なくともN面近傍へのドーパントの導入に関しては、十分な効果が得られないことを、指し示している。
【0083】
また、実施例2および実施例4と比較例3の結果との相違は、ドーパント源金属と金属Gaとの混合融液を使用する手法の方が、固体のドーパント源をGaN自立基板1に積層させた状態でアニール処理を行い固相熱拡散を生じさせる手法よりもドーパントの導入に効果的であることを示すものである。
【0084】
さらには、実施例3および実施例4の結果は、1300℃という高いアニール温度にて融液アニール処理をすることが、ドーパント導入処理の効果をより高めることを示すものと考えられる。
【0085】
(電気的特性の対比)
実施例1ないし実施例4、および、比較例1ないし比較例4の電気的特性の評価結果を表2に示す。なお、表2においては、10個のサンプルについての測定値の平均値を「電圧値」もしくは「電流値」として示すとともに、測定値のばらつきの程度を表す指標である3σ(σは標準偏差)の値も記載している。
【0086】
【表2】
【0087】
表2に示すように、順方向電流が100mAの時の順方向電圧については、実施例1ないし実施例4の値が比較例1ないし比較例4の値よりも小さくなった。一方で、順方向電流が10μAのときの順方向電圧と、逆方向電圧が−5Vのときの逆方向飽和電流の値については、実施例1ないし実施例4と比較例1ないし比較例4とでほぼ差異がなかった。
【0088】
係る結果は、実施例1ないし実施例4のLED素子においては寄生直列抵抗が低くなっていることを表している。このことは、N面1b近傍にドーパントを導入してドーパント濃度を高めたことが、LED素子における寄生直列抵抗の低下に有効であることを示している。