(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
円周1箇所に切れ目(5)を有する円環状の全体形状を備え、リング本体(1)と、該リング本体(1)の第1端部(11)・第2端部(12)から周方向に延伸状に付設された第1凸部(21)・第2凸部(22)とを有するシールリングに於て、
上記切れ目(5)が開状態の円環状全体形状に、熱可塑性樹脂組成物にて一体に形成され、かつ、上記開状態における上記リング本体(1)は、上記切れ目(5)の中央点(P5)に対して 180°±30°の範囲内に曲率半径(R13)が最大寸法の部位(13)が存在し、該最大寸法の部位(13)から上記第1端部(11)・第2端部(12)の各々に向かって周方向(M1)(M2)に近づくに従って曲率半径(R1)(R2)が減少するように、設定され、かつ、上記第1端部(11)・第2端部(12)の曲率半径(R11)(R12)が最小寸法となるように設定され、上記第1凸部(21)と第2凸部(22)とが相互に重なりあった切れ目閉状態で全体形状が真円形となるように構成したことを特徴とするシールリング。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図示の実施の形態に基づき本発明を詳説する。
図3〜
図6に示すように、本発明に係るシールリングSは、円周1箇所に切れ目5を有
する円環状の全体形状を有している。そして、このシールリングSは、 360°よりも僅かに小さい中心角度を占めるリング本体1と、リング本体1の第1端部11と第2端部12から周方向に延伸状に第1凸部21・第2凸部22が付設されている。
図1と
図2に於て使用状態を示し、エアコンディショナー用の圧縮機2のスクロール圧縮機構3に適用されている場合を例示する。
【0011】
スクロール圧縮機構3は、主に、ハウジング4とハウジング4の上方に密着して配置される固定スクロール6と、固定スクロール6に噛合する可動スクロール7等から構成される。ハウジング4には、可動スクロール7の下面(背面)7Aと対向する平面部4Aにシール溝4Bが凹設され、このシール溝4Bに本発明のシールリングSが装入されている。
シールリングSは、可動スクロール7の背面7A、及び、ハウジング4の平面部4Aの間を密封(シール)して、背圧空間を形成する。(なお、
図2は
図1のY部の拡大図である。)
【0012】
そして、
図3〜
図6に示すように、切れ目5が開状態である全体形状に、熱可塑性樹脂組成物にて、一体形成する。
図3に於て、矢印Fは射出成形時の溶融樹脂の注入方向を示し、10は注入ゲート(跡)部であり、(図示省略した)切断刃にて可能な限り美しく切断したとしても、微小突部が残留形成される虞もあって、仕上げのために研削等の機械加工を行うこともあり得る。しかしながら、このような注入ゲート跡部10以外は、機械加工を省略して、射出成形面とすることが可能である。
【0013】
本発明のシールリングSを射出成形するのに好適な熱可塑性樹脂組成物としては、PES樹脂組成物を挙げ得る。射出成形品に、いわゆるバリが発生しにくい利点があり、さらに、熱膨張率が低く金型から取出した後の収縮性が低くシールリングSの寸法も高精度に維持され、前述の機械加工を省略可能となる利点がある。
【0014】
そして、
図3に示した如く、切れ目5が開状態の全体形状に、PES樹脂組成物等の熱可塑性樹脂組成物にて一体に形成されるのであるが、射出金型から取出した、切れ目5が開状態であるシールリングSのリング本体1は、切れ目5と反対側に曲率半径R
13が最大寸法である(最大寸法の)部位13を有し、かつ、この最大寸法の部位13から第1端部11・第2端部12の各々に向かって、周方向M
1,M
2に近づくに従って、曲率半径R
1,R
2がしだいに減少して、第1端部11・第2端部12の曲率半径R
11,R
12が最小寸法となるように設定され、さらに、(小さな突出寸法である)第1凸部21・第2凸部22の外周面の曲率半径は前記R
11,R
12と同一とする。
なお、前記曲率半径R
13,R
1,R
2,R
11,R
12は、
図3に示したように、中心点O
1から、リング本体1の外周面までの寸法とする。
【0015】
さらに、前記最大寸法の部位13について追加説明すると、
図3の平面図に於て、開状態のリング本体1は、切れ目5の中央の点(中心点)P
5に対して 180°±30°の範囲内に、最大寸法の部位13が存在する。つまり、
図3に示したθは30°であり、2θ=60°の範囲内に最大寸法の部位13を配設している。この最大寸法の部位13の中心角度は1°〜60°の範囲で選択すればよい。(なお、
図3に於て、L
0は中央点P
5を含んだ直径を示す線である。)
【0016】
このように、金型のキャビティの形状・寸法、及び、それから取出されたシールリングS(
図3参照)は、その外周縁形状が、切れ目5に対して 180°反対側における±θ(=±30°)の範囲内に、曲率半径R
13が最大寸法の部位13を配設し、この部位13から切れ目5に向かってしだいに減少する非真円形に設定する。
使用状態―――
図2に示すようにシール溝4Bに装着された状態―――では、第1凸部21と第2凸部22とが相互に重なり合って切れ目閉状態となるが、切れ目開状態下で上述した非真円形であることによって、弾性変形に伴って、中心点O
1から同一半径R
0の真円形になり、
図2に示したシール溝4Bのラジアル方向外側の内壁面14に対して密に接触する。切れ目開状態(
図3)から切れ目閉状態(
図7)へ変形する際、最大寸法の部位13が最も大きく曲率半径が減少するように変形し、第1端部11・第2端部12側はほとんど変形しない。従って、
図7に示した前記曲率半径R
0は、
図3に示した端部11,12の曲率半径R
11,R
12に相等しくなる。
【0017】
リング本体1の横断面形状は、矩形状である。本発明に於て、「矩形状」とは、
図2に示した正方形,長方形は勿論包含し、さらに、
図11に示したように基本矩形Gから1角部15を傾斜状直線L
15によって面取りした形状を含み、かつ、図示省略するが上記1角部15以外の残りの角部の一部乃至全部を小さく面取りした多角形状を含み、しかも、正方形又は長方形の4つの角部の内の少なくとも一つに、小アール部を有する形状をも包含すると、定義する。
図2に示す使用状態で、可動スクロール7の背面7A等の(可動側)被密封平面P
1に摺接する第1摺接面26と、シール溝4Bの内壁面14等の(固定側)被密封内周面P
2に摺接する第2摺接面27とを、有している。直交状の被密封平面P
1,被密封内周面P
2によって形成される隅部8に、受圧時に押付けられる。
【0018】
ところで、本発明は、PES樹脂組成物等の熱可塑性樹脂組成物を採用したことにより、
図2等に示した横断面を正方形,長方形としても(面取りを省略しても)、スクロール運動中にシールリングSの1角部15が、背面7Aと平面部4Aとの間隙9に、噛み込む等の不具合が生じない利点がある。但し、圧力,温度,運動速度・作動方向等,流体の特性等の使用条件が過酷な場合を考慮して、
図11等に示す面取り部16を形成するも好ましいときがある。この面取り16した横断面形状について追加説明すれば、
図11に示すように、2点鎖線にて示した基本矩形Gから1角部15を傾斜状直線L
15によって面取りする。(
図11ではC面取りを例示している。)
【0019】
次に、第1凸部21と第2凸部22は、
図12,
図13(A),
図14(A),
図15,
図16(A)に示す実施例に於ては、傾斜状直線にて2分割した5角形と3角形である。つまり、第1凸部21は、
図11に示した基本矩形Gの3個の角部17,18,19を残した5角形の横断面形状であり、また、第2凸部22は3角形の横断面形状であり、傾斜状の対応面23,24をもって、対応している。
また、
図11に示すように、リング本体1の横断面形状は、基本矩形Gから1角部15を傾斜状直線L
15によってC面取りした5角形である場合、
図13(B),
図14(B)に示す実施例では、第2凸部22には面取り部16を有する台形状とする。そして、その底面を対応面24として、第1凸部21の傾斜状の対応面23に対向させる。なお、
図14(B)に於て、実線をもって示すように、対応面23,24を面取り部16と平行としても良いが、同図中に2点鎖線をもって示す如く非平行としても好ましい。(このときは、第2凸部22は台形でなくなる。)
【0020】
次に、
図13(C)と
図14(C)に示した実施例に於ては、第1凸部21の形状は、既述の
図13(B),
図14(B)と同一であるが、第2凸部22は、頂部に小アール部35を有する三角形の断面形状とする。また、対応面23,24に関しては、既述の
図13(B),
図14(B)と同様である。
また、
図14(D)に示す実施例に於ては、
図14(C)で説明した小アール部35が、弧状凹部34に変更しても良いことを示している。それ以外は、
図14(D)と同様である。言い換えれば、
図14(B)では直線の面取り部16を有するのに対し、
図14(C)(D)では、曲線状の面取りを施している。
【0021】
次に、
図16に種々の実施例を示すが、
図16(A)は、既説の
図14(A)と同一の横断面形状を再掲したものであり、
図16(B)は、第1凸部21と第2凸部22の形状(3角形)を概略等しく設定したものである。また、
図16(A)(B)にあっては、第2凸部22の横断面形状が直角2等辺3角形状であるのに対し、
図16(C)(D)のように、横断面形状を不等辺3角形状とすることも好ましい。以上、
図16(A)(B)(C)(D)は、対応面23,24が(横断面形状に於て)直線である。
また、
図16(E)に示す実施例では、第1凸部21の横断面形状が、長方形乃至正方形の切欠部16Aを1角部に切欠形成し、第2凸部22は、この切欠部16Aに嵌合する長方形乃至正方形の横断面形状とし、対応面23,24が横断面L字状である。
また、
図16(F)に示す実施例では、第1凸部21の横断面形状が、4半円状等の曲線凹状切欠部16Bを1角部に切欠形成し、第2凸部22は、この切欠部16Bに嵌合する横断面4半円状等の扇型であり、対応面23,24が横断面円弧状曲線である。
なお、
図16(E)と(F)に示した両実施例の中間の切欠部の形状とするも自由である(図示省略)。さらに、
図14(C)又は(D)に示したような小アール部35・弧状凹部34を、
図16の各実施例における第2凸部22の直角頂部に形成するも、好ましい場合がある。
【0022】
そして、
図7〜
図10に示すように、第1凸部21と第2凸部22とが相互に重なり合った切れ目閉状態に於て、
図11に示した基本矩形Gから食み出さない寸法公差に、第1凸部21と第2凸部22の横断面各部寸法を設定する。
(
図12(A)に示した)分離線L
21に沿った傾斜状の対応面23のラジアル方向寸法H
23・アキシャル方向寸法T
23(
図12(B)参照)に対して、
図12(A)に示した分離線L
21に沿った傾斜状の対応面24のラジアル方向寸法H
24・アキシャル方向寸法T
24を、同一乃至僅かに小さく、設定する。
即ち、第1凸部21と第2凸部22とが相互に重なり合った切れ目閉状態で、重なり合った第1凸部21・第2凸部22の摺接面26,27を基本矩形Gに一致させた場合、対応面23,24相互間に間隙が形成されるように、第1凸部21と第2凸部22の断面形状と寸法を設定している(
図14,
図15,
図16参照)。
【0023】
本発明では、熱可塑性樹脂組成物の射出成形によって製造可能であるため、H
24≦H
23,T
24≦T
23のように寸法公差を(金型のキャビティの段階にて)容易に設定できる。
図17又は
図18は、H
24>H
23,T
24>T
23に仮に設定した場合に、不具合を生ずることを示した説明図である。即ち、使用状態において、被密封平面P
1と被密封内周面P
2によって形成された隅部8にシールリングSが押圧されるが、このとき第2凸部22は両面P
1,P
2に密接するが、第1凸部21がいずれか一面にのみ当接し、外部漏洩間隙K
1,K
2を発生し、矢印M
10,M
20方向に流体漏洩を生ずる。
【0024】
本発明では、この
図17,
図18のような不具合を、(前述のように、)H
24≦H
23,T
24≦T
23に設定して、第1凸部21と第2凸部22とが、相互に重なり合った切れ目閉状態で、基本矩形Gから食み出さないように、しかも、対応面23,24に間隙を有するように、構成して、防止している。
さらに、
図15に示したように、第1凸部21と第2凸部22とを、
図11の基本矩形Gの4辺に重なり合う(一致する)ようにした場合、分離線L
21に沿った対応2面―――対応面23と対応面24―――の間隙寸法εが最大となり、その最大間隙寸法ε
0を、10μm以上かつ 100μm以下に設定するのが望ましい。即ち、10μm≦ε
0≦ 100μmとするのが望ましい。上限値を越せば、流体漏れが急激に増加する。
【0025】
このように、切れ目閉状態であって、かつ、第1凸部21と第2凸部22とを、基本矩形Gの4辺に重なり合うように、分離線L
21に沿った対応2面23,24の間隙寸法εを最大とした状態で、最大間隙寸法ε
0を、10μm以上かつ 100μm以下に設定したので、対応2面23,24からの漏洩は抑制でき、かつ、第1凸部21と第2凸部22が基本矩形Gから食み出さず、一層密封性能も向上できる。
【0026】
図2にもどって説明すると、可動スクロール7がスクロール運動することで、相手部材―――被密封平面P
1,被密封内周面P
2―――へ摺接面26,27が接触(圧接)する。しかも、
図3〜
図10からも明らかなように、第1凸部21と第2凸部22にも連続面をもって、摺接面26,27が形成されている。
本発明では、この摺接面26,27も(既述した通り)機械加工の省略された射出成形面そのままであり、しかも、JIS B 0601に準じて測定されるその表面の算術平均粗さ(Ra)を、 0.1〜2に設定して、優れた密封性能と耐摩耗性を発揮させる。
また、本発明において射出成形すべき熱可塑性樹脂組成物としては、曲げ弾性率が1500MPa 以上、6000MPa 以下のものであればよく、例えば、ポリサルフォン系樹脂組成物、具体的には、PES(ポリエーテルサルフォン)樹脂組成物、PSU(ポリサルフォン)樹脂組成物、PPSU(ポリフェニルサルフォン)樹脂組成物が好ましい。特に、曲げ弾性率は2000MPa 以上、4000MPa 以下が望ましい。
【0027】
また、本発明に係るシールリングに好適なPES樹脂組成物としては、PES樹脂にグラファイト粉末等の層状結晶構造を有する化合物、及び/または、フッ素樹脂粉末等を添加したPES樹脂組成物である。このような添加によって、上述の曲げ弾性の範囲に特性を調整し易くなり、シールリングとしての耐摩耗性に優れ、耐熱・耐薬品性も良好で、十分な伸張性を有し、装着性及びシール性も良好であり、
図1に例示したエアコンディショナー用圧縮機等に好適である。
なお、他の熱可塑性樹脂組成物として、ポリアリ−レンサルファイド系樹脂組成物、具体的には、PPS(ポリフェニルサルファイド)樹脂に上記したグラファイト粉末等の層状結晶構造を有する化合物、フッ素樹脂粉末、及び/または、ガラス繊維、カーボンファイバ等の繊維状充填材を添加したPPS樹脂組成物も適用できる。
【0028】
本発明は、切れ目5が開状態の円環状全体形状に、熱可塑性樹脂組成物にて一体に形成され、かつ、熱可塑性樹脂組成物の注入ゲート跡部10以外は、機械加工の省略された射出成形面とすることができるので、(平面的に見て)重なった部位が無い形状であり、金型が製作し易く、さらに、(ほとんど乃至全く)機械加工が省略されて、加工工数が低減でき、(従来の切削や研削加工を要した製法に比べて)材料ロスも減少し、製造コストも低減可能となり、シール性や耐摩耗性の良好なシールリングが安定した高品質を保ちつつ大量生産できる。
【0029】
本発明は、以上述べたように、円周1箇所に切れ目5を有する円環状の全体形状を備え、リング本体1と、該リング本体1の第1端部11・第2端部12から周方向に延伸状に付設された第1凸部21・第2凸部22とを有するシールリングに於て;上記切れ目5が開状態の円環状全体形状に、熱可塑性樹脂組成物にて一体に形成され、かつ、上記開状態における上記リング本体1は、上記切れ目5の中央点P
5に対して 180°±30°の範囲内に曲率半径R
13が最大寸法の部位13が存在し、該最大寸法の部位13から上記第1端部11・第2端部12の各々に向かって周方向M
1,M
2に近づくに従って曲率半径R
1,R
2が減少するように、設定されて、上記第1凸部21と第2凸部22とが相互に重なりあった切れ目閉状態で全体形状が真円形となるように構成したので、金型製作が容易な切れ目5が開状態でありながら、第1凸部21と第2凸部22とが、重なり合った使用状態下では、真円形となって、円形内周面に対して優れた密封性能(シール性)を発揮する。
【0030】
また、熱可塑性樹脂組成物として、曲げ弾性率が1500MPa 以上、6000MPa 以下の熱可塑性樹脂組成物を用いたので、十分な伸張性を有し、シールリングとして好適な弾発力を発揮し、相手面との接触状況も優れ、密封性能(シール性)が優秀なものである。しかも、耐熱性・耐薬品性・耐摩耗性にも優れたシールリングを、初めて射出成形によって実用化を達成したものである。
また、相手部材への摺接面26,27の表面の算術平均粗さRaを、 0.1以上、2以下としたので、一層、優れた密封性能(シール性)を確保する。
【0031】
また、上記リング本体1の横断面形状は、矩形状であり、上記第1凸部21と第2凸部22は、上記リング本体1の矩形状の横断面を分離線L
21にて2分割した横断面形状であって;上記第1凸部21と第2凸部22とが相互に重なり合った切れ目閉状態で、上記第1凸部21と第2凸部22の対応面23,24相互間に間隙を有するので、
図17と
図18にて説明した矢印M
10,M
20方向の漏洩は著しく減少する。即ち、第1凸部21と第2凸部22との合せ目部位における密封性が改善できる。しかも、樹脂の射出成形にて、このような形状のシールリングを容易に安価に得ることができる。