(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記スロットにおける開口端縁の周の電気的な長さは、前記アンテナ素子の設定された共振周波数を持つ電波の波長の2分の1あるいはその近傍の長さである請求項1に記載のアンテナ装置。
前記信号供給源に接続されていないダミーアンテナ素子が前記アンテナ素子と電気的に接続する位置に配置されている請求項1又は請求項2又は請求項3に記載のアンテナ装置。
前記金属部材における前記スロットの形成位置は、アンテナ素子の信号通電に起因して前記金属部材に誘起される電流の密度が高い部分である請求項1乃至請求項4の何れか一つに記載のアンテナ装置。
信号供給源に接続され当該信号供給源から供給される信号に基づいた電波を放射する等方性あるいは略等方性の指向性を持ち、かつ、多層基板の端縁領域において前記多層基板の互いに異なる層に形成されている複数の導体パターンが積層されている構成を備えるスプリットリング共振器アンテナであるアンテナ素子を金属部材により覆い、
前記金属部材には、前記アンテナ素子の電波に応じた電波を外部に放射する開口部であるスロットを前記多層基板の端面における前記アンテナ素子の形成領域に向き合って形成するアンテナ形成方法。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明に係る第1実施形態のアンテナ装置を備えた無線通信装置の外観を模式的に表す斜視図である。
【
図2】
図1に表されている無線通信装置の模式的な断面図である。
【
図3】第1実施形態のアンテナ装置を構成するアンテナ素子を説明する図である。
【
図4】アンテナ素子の信号通電に起因して回路基板に誘起される電流の通電方向を表す図である。
【
図5】アンテナ素子の信号通電に起因して筐体に誘起される電流の通電方向を説明する図である。
【
図6】筐体に収容されていない状態でのアンテナ素子の放射効率の一例を表すグラフである。
【
図7】筐体に収容されていない状態でのアンテナ素子のリターンロス特性の一例を表すグラフである。
【
図8】第1実施形態におけるアンテナ装置のアンテナ素子の放射効率の一例を表すグラフである。
【
図9】第1実施形態におけるアンテナ装置のアンテナ素子のリターンロス特性の一例を表すグラフである。
【
図10】金属筐体に収容されている状態でのアンテナ素子の放射効率の一例を表すグラフである。
【
図11】金属筐体に収容されている状態でのアンテナ素子のリターンロス特性の一例を表すグラフである。
【
図12】本発明に係る第2実施形態のアンテナ装置を備えた無線通信装置を説明する図である。
【
図13】ダミーアンテナ素子が設けられている場合と設けられていない場合におけるアンテナ装置の放射効率をそれぞれ表すグラフである。
【
図14】シミュレーションで用いた回路基板を説明する図である。
【
図15】ダミーアンテナ素子が設けられている場合と設けられていない場合におけるアンテナ装置の指向性をそれぞれ表す図である。
【
図16】スロットの形成位置の変化によるアンテナ装置の指向性の変化を表す図である。
【
図17】第2実施形態のアンテナ装置におけるダミーアンテナ素子が設けられている場合と設けられていない場合におけるアンテナ装置の指向性をそれぞれ表す図である。
【
図18】本発明に係るその他の実施形態を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本発明に係る実施形態を図面を参照しつつ説明する。
【0014】
<第1実施形態>
図1は、本発明に係る第1実施形態のアンテナ装置を備えた無線通信装置の外観を簡略化して表す斜視図である。
図2(a)は、
図1におけるA−A部分での断面図であり、
図2(b)は、
図1におけるB−B部分での断面図である。
【0015】
第1実施形態における無線通信装置1は、回路基板(プリント基板)2と、アンテナ素子3と、筐体4とを備えている。回路基板2は、多層基板であり、当該回路基板2には、アンテナ素子3に無線通信用の信号(電流)を供給する信号供給源(高周波回路)6を含む電気回路が形成されている。
【0016】
アンテナ素子3は、信号供給源6に接続され、当該信号供給源6から供給される信号に基づいた電波を放射する構成を備えている。第1実施形態では、アンテナ素子3は、回路基板2の端縁領域に形成されている。また、アンテナ素子3は、スプリットリング共振器アンテナにより構成されている。スプリットリング共振器アンテナは、等方性あるいは略等方性の指向性を持つ。なお、スプリットリング共振器アンテナは、SRR(Sprit Ring Resonator)アンテナとも記す。
【0017】
SRRアンテナにより構成されるアンテナ素子3は、例えば、
図3に表されるような複数の導体パターン8を有して構成されている。導体パターン8は、メタマテリアルにより構成され、環状の一部を切った形状を備えている。複数の導体パターン8は、回路基板2の互いに異なる層に、切れている部分(以下、スプリット部と記す)10の位置を合わせた状態で積層形成されることにより、多層化されている。
【0018】
アンテナ素子3(SRRアンテナ)の等価回路は、導体パターン8が持つインダクタンス成分(L)と、スプリット部10に生じるキャパシタンス成分(C)とによって、LC直列共振回路となる。
【0019】
このようなアンテナ素子3は、予め設定されている無線通信用の周波数を共振周波数として持つことができるように、導体パターン8の電気的な長さが設計されている。このため、信号供給源6から無線通信用の周波数を持つ信号が供給されることによって、アンテナ素子3が共振し、この共振によりアンテナ素子3から電波が放射される。なお、SRRアンテナの構成には様々な構成があり、上記した構成に限定されずに、適宜な構成のSRRアンテナがアンテナ素子3として採用される。
【0020】
筐体4は、回路基板2を収容する筐体であり、金属により構成されている金属部材である。第1実施形態では、筐体4は直方体状である。ここで、説明を容易にするために、筐体4において、回路基板2の端面に向き合う筐体部分を側壁とし、回路基板2の表裏のうちの一方の基板面に向き合う筐体部分を天壁とし、回路基板2の表裏のうちの他方の基板面に向き合う筐体部分を底壁とする。
【0021】
第1実施形態では、筐体4には、スリット(切れ目)状のスロット12が、側壁から天壁および底壁に向けて伸長形成されている。スロット12は、アンテナ素子3に最も近い筐体部分に形成されている。つまり、アンテナ素子3に信号(電流)が通電することにより、回路基板2に形成されているグラウンド層には電流が誘起されて流れる。また、筐体4には、グラウンド層の誘起電流に起因した誘起電流が流れる。スロット12は、筐体4において、その誘起電流の電流密度が高い部分に形成される。
【0022】
図4は、アンテナ素子3の通電による回路基板2の誘起電流を説明する図である。
図4の例では、信号供給源6からアンテナ素子3の導体パターン8に信号(電流)が供給されると、導体パターン8には、a方向に電流が流れる。この電流通電に起因して、回路基板2には、b方向の誘起電流が、アンテナ素子3が形成されている端縁部分に集中して通電する。
【0023】
図5(a)、(b)は、
図1におけるC−C部分からアンテナ素子3の形成領域側を見た筐体4の内部および回路基板2を模式的に表す図である。
図5(a)では、スロット12が筐体4に形成され、
図5(b)では筐体4にスロット12が形成されていない。アンテナ素子3の通電に起因して回路基板2にb方向の電流が誘起されると、その誘起電流に起因して筐体4にも電流が誘起される。
図5(b)に表されるように、筐体4にスロット12が形成されていない場合には、回路基板2における誘起電流の通電方向であるb方向とは逆向きのc方向の電流が筐体4の側壁に誘起される。これにより、回路基板2における誘起電流に基づいた電波と、筐体4における誘起電流に基づいた電波とが相殺され、電波は放射されない。
【0024】
これに対し、
図5(a)では、筐体4にスロット12が形成され、当該スロット12の長手方向は回路基板2における誘起電流の通電方向bに交差する方向である。このような場合には、回路基板2の誘起電流によりスロット12の開口端縁に沿うd方向の誘起電流が通電する。
【0025】
また、スロット12の開口端縁の周の電気的な長さは、予め設定された無線通信用の周波数を持つ電波の波長の2分の1(あるいは略2分の1)となっている。これにより、回路基板2の誘起電流に起因した電流がスロット12の開口端縁部分に通電することにより、当該スロット12の開口端縁部分は、無線通信用の周波数で共振し、スロットアンテナとして機能して電波が放射される。
【0026】
なお、スロット12の幅は、筐体4の強度や筐体4の内部へのごみの入り難さ等を考慮して、適宜設定される。また、スロット12は、開口端縁の周の電気的な長さや、筐体4の大きさによっては、筐体4の側壁のみに形成される場合もある。このように、スロット12が形成される筐体4の領域は限定されない。
【0027】
第1実施形態では、アンテナ素子3と、スロット12が形成されている金属部材である筐体4とによって、アンテナ装置が構成されている。
【0028】
第1実施形態のアンテナ装置および当該アンテナ装置を備えた無線通信装置1は、金属の筐体4にスロット12を形成することによって、金属の筐体4の内部にアンテナ素子3を収容しても、電波を放射することができる。このことは、発明者らの実験により確認されている。
【0029】
その実験では、筐体4に収容されていない状態と、スロット12が形成されていない筐体4に収容された状態と、スロット12が形成されている筐体4に収容された状態とにおけるアンテナ素子3(SRRアンテナ)についてアンテナ特性を調べた。この実験では、アンテナ特性として、リターンロス特性と放射効率がシミュレーションにより求められた。
【0030】
図6は、筐体4に収容されていない状態のアンテナ素子3の放射効率を表すグラフである。
図7は、筐体4に収容されていない状態のアンテナ素子3のリターンロス特性を表すグラフである。
図8は、スロット12が形成されている筐体4に収容された状態のアンテナ素子3の放射効率を表すグラフである。
図9は、スロット12が形成されている筐体4に収容された状態のアンテナ素子3のリターンロス特性を表すグラフである。
図10は、スロット12が形成されていない筐体4に収容された状態のアンテナ素子3の放射効率を表すグラフである。
図11は、スロット12が形成されていない筐体4に収容された状態のアンテナ素子3のリターンロス特性を表すグラフである。
【0031】
リターンロス特性とは、アンテナの性能を図る指標の一つである。アンテナにおける給電部(信号供給源から信号を受ける部分)において、アンテナ側のインピーダンスと、信号供給源側のインピーダンスとが近ければ近い程、当該給電部での信号反射が少なく、アンテナとしての性能が向上する。リターンロス特性は、その信号反射に関する特性を表している。リターンロス特性を表すグラフにおいて、リターンロスの値が小さい部分(谷となっている部分)が、アンテナが共振し電波の送受信が行われる周波数帯域である。例えば、アンテナが良好な無線通信を行うためには、アンテナが共振している周波数帯域においてリターンロスが−5dB(デシベル)以下であることが望ましいとされる。
【0032】
図6と
図7に表されているように、筐体4に収容されていない状態のアンテナ素子3は、設定の無線通信用の周波数である2400MHz(メガヘルツ)帯域において、リターンロスが−5dB(デシベル)以下というアンテナ特性を持つ。また、当該アンテナ素子3は、放射効率が−1dB付近であるというアンテナ特性を持つ。すなわち、このアンテナ素子3は、筐体4に収容されていない状態では、無線通信に良好なアンテナ特性を持つ。
【0033】
一方、このアンテナ素子3が、スロット12が形成されていない金属の筐体4に収容されると、
図10と
図11に表されるようなアンテナ特性になってしまう。つまり、無線通信用の2400MHz帯域において、放射効率が−175dB以下であり、リターンロス特性は零に近い値になってしまう。
【0034】
このような事態に対し、第1実施形態で説明したスロット12を筐体4に設けることにより、アンテナ素子3が筐体4に収容されている状態であっても、アンテナ素子3とスロット12による第1実施形態のアンテナ装置のアンテナ特性は、良好である。すなわち、無線通信用の2400MHz帯域において、
図8に表されるように放射効率は−2dB付近である。また、
図9に表されるようにリターンロス特性は−5dB以下である。このように、アンテナ素子3とスロット12により、第1実施形態のアンテナ装置は、筐体4に収容されていないアンテナ素子3と同様の良好なアンテナ特性を得ることができる。
【0035】
このように、第1実施形態のアンテナ装置の構成は、アンテナ特性の低下を懸念することなく、アンテナ素子3を金属の筐体4に収容することを可能にする。これにより、アンテナ素子3を収容する筐体4の強度強化や、筐体4のデザイン設計の自由度を高めることができる。
【0036】
また、第1実施形態のアンテナ装置を備えた無線通信装置の構成は、金属の筐体4を採用するので、機械的な強度の心配なく、屋外型の無線通信装置に適用できる。つまり、屋外型の無線通信装置は、屋内型の無線通信装置に比べて、移動や衝突などの衝撃を受ける機会が多く、筐体に対する耐久性が要求される。第1実施形態の無線通信装置は、アンテナ特性の低下を防止しつつ、筐体を金属により構成することができるので、屋外型の無線通信装置に有効である。
【0037】
さらに、第1実施形態では、アンテナ素子3として、SRRアンテナが採用されている。この構成も、アンテナ特性の低下を防止する効果に寄与する。すなわち、スロット12の開口端縁から放射される電波を強くするためには、スロット12の開口端縁に通電する誘起電流の量を多くする必要がある。スロット12の開口端縁に通電する誘起電流の量を多くするためには、スロット12が形成されている筐体4の側壁に向き合っている回路基板2の端縁に誘起電流が集中して生じることが望まれる。このことと、筐体4の内部における回路基板2の向きやアンテナ素子3の形成位置などの制約条件と、アンテナの指向性などを考慮すると、逆L型アンテナよりもSRRアンテナやダイポールアンテナをアンテナ素子3として採用することが好ましい。ただ、ダイポールアンテナは、アンテナ特性の低下を防止するためにグラウンドから離れる必要がある。このために、ダイポールアンテナには、アンテナ設置のための占有領域を広くとる必要があるという条件がある。このため、装置の小型化が図られる場合には、ダイポールアンテナをアンテナ素子3として採用することは適切でない。
【0038】
SRRアンテナは、小型化が容易なアンテナであり、また、等方性(略等方性も含む)のアンテナである。このことから、装置の小型化およびデザイン性と、アンテナ特性の向上等を考慮すると、アンテナ素子3としてSRRアンテナを採用することは有効である。
【0039】
さらに、第1実施形態では、アンテナ素子3は、信号供給源6が形成されている回路基板2に搭載されている(設けられている)。このため、信号供給源6とアンテナ素子3を接続する接続構成が容易となる。つまり、信号供給源6が形成されている回路基板2と、アンテナ素子3とが別体である場合には、信号供給源6とアンテナ素子3を接続する部品やケーブル等が必要となるが、第1実施形態では、そのような部品やケーブルが不要である。
【0040】
<第2実施形態>
以下に、本発明に係る第2実施形態を説明する。なお、第2実施形態の説明において、第1実施形態の無線通信装置を構成する構成部分と同一名称部分には同一符号を付し、その共通部分の重複説明は省略する。
【0041】
図12(a)は、第2実施形態のアンテナ装置を備えた無線通信装置の外観を簡略化して表す斜視図である。
図12(b)は、
図12(a)に表される上方側から見た無線通信装置の模式的な平面図である。第2実施形態のアンテナ装置は、第1実施形態における構成に加えて、ダミーアンテナ素子15を備えている。ダミーアンテナ素子15は、アンテナ素子3と同様の構成、つまり、SRRアンテナの構成を備えている。ただ、アンテナ素子3は信号供給源6に接続されているが、ダミーアンテナ素子15は信号供給源6に接続されていない。
【0042】
ダミーアンテナ素子15は、アンテナ素子3と同様の共振周波数を持つことができるように、導体パターン8の電気的な長さが設計されている。また、ダミーアンテナ素子15は、アンテナ素子3と電気的に接続することができる位置に配設されている。
図12の例では、アンテナ素子3とダミーアンテナ素子15は、回路基板2の端縁に沿って並設されている。
【0043】
ダミーアンテナ素子15は、アンテナ素子3と同様の共振周波数を持つことにより、信号供給源6からアンテナ素子3に信号が供給された場合に、アンテナ素子3との電気的な接続により、信号が供給されてアンテナ素子3と同様に共振する。
【0044】
図13は、放射効率を表すグラフである。
図13における鎖線Nは、ダミーアンテナ素子15が備えられておらずアンテナ素子3が単独で共振している場合におけるアンテナ素子3の放射効率を表している。また、実線Mは、ダミーアンテナ素子15が備えられアンテナ素子3に加えてダミーアンテナ素子15も共振している場合におけるアンテナ素子3とダミーアンテナ素子15による放射効率を表している。なお、
図13における放射効率は、アンテナ素子3とダミーアンテナ素子15が筐体4内に収容されていない状態での放射効率である。
【0045】
図13に表されているように、ダミーアンテナ素子15が備えられアンテナ素子3およびダミーアンテナ素子15が共振する構成は、ダミーアンテナ素子15の共振によって、アンテナ素子3が単独で共振する場合によりも放射効率を向上させることができる。
【0046】
第2実施形態では、筐体4に形成するスロット12の形成位置に関する条件が第1実施形態と異なっている。すなわち、第1実施形態では、スロット12は、筐体4において、アンテナ素子3に最も近い側壁部分(アンテナ素子3の信号通電に起因した誘起電流の密度が高い部分)に形成されている。これに代えて、第2実施形態では、スロット12の形成位置は、筐体側壁における誘起電流の密度が高い部分に限定されない。
【0047】
アンテナ素子3とスロット12の位置関係は電波の指向性に関与する。ここで、スロット12の形成位置の変化による電波の指向性の変化を具体例を利用して説明する。
図15〜
図17に表されるグラフは、それぞれ、回路基板2の基板面に平行な面内における電波の指向性を表すグラフであり、互いに条件が異なっている。
【0048】
つまり、
図15は、回路基板2が筐体4に収容されていない状態での電波の指向性を表す。
図15における実線Laは、回路基板2にアンテナ素子3とダミーアンテナ素子15が形成されている場合の電波の指向性を表している。点線Lbは、回路基板2にアンテナ素子3が形成されている(ダミーアンテナ素子15が形成されていない)場合の電波の指向性を表している。
【0049】
図16は、アンテナ素子3を備えた(ダミーアンテナ素子15を備えていない)回路基板2が筐体4に収容されている状態での電波の指向性を表す。
図16における実線Lcは、スロット12が筐体4における
図16の実線に表されているような位置に形成されている場合の電波の指向性を表す。点線Ldは、スロット12が筐体4における
図16の点線に表されているような位置に形成されている場合の電波の指向性を表している。
【0050】
図17は、回路基板2が収容されている筐体4における
図17の実線に表されている位置にスロット12が形成されている状態での電波の指向性を表す。
図17における実線Leは、回路基板2にアンテナ素子3とダミーアンテナ素子15が形成されている場合の電波の指向性を表す。点線Lfは、回路基板2にアンテナ素子3が形成されている(ダミーアンテナ素子15が形成されていない)場合の電波の指向性を表している。
【0051】
なお、
図15〜
図17に表される指向性に関与する回路基板2は、
図14に表されるような回路基板である。例えば、
図14における回路基板2の幅Haは80mm(ミリメートル)である。アンテナ素子3から回路基板2の側端縁までの間隔Hbは30mmであり、アンテナ素子3とダミーアンテナ素子15のそれぞれの幅Hcは15mmであり、アンテナ素子3とダミーアンテナ素子15との間隔Hdは10mmである。
【0052】
図15と
図17に表されているように、アンテナ素子3が形成されている回路基板2にダミーアンテナ素子15が形成される場合と、ダミーアンテナ素子15が形成されていない場合との指向性に大きな変化は見られない。これに対して、
図16に表されるように、筐体4に形成されるスロット12の形成位置が変化することにより、指向性が変化する。
【0053】
なお、回路基板2に形成されているアンテナ素子3(SRRアンテナ)に基づいた電波の指向性は、
図15〜
図17に表される例に限定されず、回路基板2に形成されている回路や回路部品等の影響に応じた指向性となるものである。
【0054】
第2実施形態では、スロット12は、アンテナに要求される指向性や、筐体4のデザインや回路基板2に搭載されている部品の配置などを考慮した適宜な筐体位置に形成される。
【0055】
第2実施形態では、スロット12の形成位置は、上述したように、アンテナ素子3の信号通電に起因した誘起電流の密度が高い筐体部分に限定されない。このため、スロット12が、アンテナ素子3の信号通電に起因した誘起電流の密度が高い筐体部分に形成されない場合には、スロット12がその誘起電流の密度が高い筐体部分に形成される場合に比べて、放射効率が低下する虞がある。しかし、第2実施形態では、アンテナ素子3と同様に共振するダミーアンテナ素子15を設けることにより、スロット12の形成位置に起因した放射効率の低下を抑制することができる。換言すれば、アンテナ素子3とダミーアンテナ素子15とスロット12による第2実施形態のアンテナ装置の構成は、放射効率の低下を防止しつつ、電波の指向性を制御することが可能となる。
【0056】
なお、この第2実施形態で説明したようにダミーアンテナ素子15が備えられている場合において、スロット12の形成位置が、第1実施形態と同様に、アンテナ素子3の信号通電に起因した誘起電流の密度が高い筐体部分であってもよい。この場合には、第1実施形態よりも放射効率を高めることができる。
【0057】
第2実施形態の構成は、第1実施形態と同様に、アンテナ特性の低下を懸念することなく、アンテナ素子3を金属の筐体4に収容できるので、無線通信装置のデザイン設計の自由度を高めることができる。特に、第2実施形態では、スロット12の形成位置に対する制約を第1実施形態より緩くしてもアンテナ特性の低下を防止できるので、無線通信装置のデザイン設計の自由度を第1実施形態よりも高めることができる。
【0058】
<その他の実施形態>
なお、本発明は第1と第2の実施形態に限定されず、様々な実施の形態を採り得る。例えば、第1と第2の実施形態では、筐体4は直方体状であるが、筐体4は直方体状に限定されず、様々な形態を採り得る。
【0059】
さらに、第1と第2の実施形態では、筐体4において、アンテナ素子3に最も近い部位が回路基板2の端面に向き合う筐体側壁であることから、スロット12は、筐体4の側壁に形成されている。これに代えて、例えば、アンテナ素子3に最も近い筐体部位が筐体4の天壁である場合には、スロット12は、筐体4の天壁に形成される。このように、スロット12の形成位置は、筐体4におけるアンテナ素子3の配置位置や、筐体4の形状に応じて定まるものであり、筐体4の側壁に限定されない。また、スロット12の開口形状は、
図1等の形状に限定されない。ただ、スロット12は、筐体4に誘起される誘起電流と異なる方向のスリットの長さが短くなると、アンテナ特性が悪くなる。このことを考慮すると、スロット12の開口形状は、筐体4に誘起される誘起電流と異なる方向に伸びるスリット部位を少なくとも有する形状とすることが好ましいと考えられる。
【0060】
さらに、第1と第2の実施形態では、アンテナ素子3はSRRアンテナであるが、アンテナ素子3は、SRRアンテナ以外の等方性アンテナであってもよい。
【0061】
さらに、第1と第2の実施形態では、アンテナ素子3は金属の筐体4に収容されることにより、筐体4である金属部材により覆われる構成である。これに代えて、例えば、
図18に表されるように、アンテナ素子3は、筐体4とは別の金属部材18により覆われる構成であってもよい。このように金属部材18に覆われたアンテナ素子3は、例えば、樹脂材料により構成される筐体に収容される。
【0062】
アンテナ素子3が金属部材18に覆われる場合には、金属部材18にスロット20が形成される。スロット20は、スロット12と同様に、開口端縁の周の長さがアンテナ素子3の共振周波数を持つ電波の波長の2分の1となるように設計される。また、スロット20は、金属部材18におけるアンテナ素子3に起因した誘起電流の密度が高い部分に形成される。あるいは、そのように誘起電流の密度が高い部分からずれた金属部材18の部分にスロット20が形成される場合には、金属部材18の内部に、第2実施形態で述べたようなダミーアンテナ素子を形成することが望ましい。
【0063】
第1と第2の実施形態では、スロット12は、アンテナ素子3の通電に起因して回路基板2(グラウンド)に誘起される電流の通電方向と直交あるいは略直交する方向に伸長形成された開口部である。これに代えて、スロット12は、回路基板2の誘起電流の通電方向とは異なる方向であれば、回路基板2の誘起電流の通電方向と直交以外の方向に伸長形成された開口部であってもよい。