特許第6386453号(P6386453)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6386453インスリン依存性糖尿病の治療に有用な幹細胞と膵臓細胞
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6386453
(24)【登録日】2018年8月17日
(45)【発行日】2018年9月5日
(54)【発明の名称】インスリン依存性糖尿病の治療に有用な幹細胞と膵臓細胞
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/10 20060101AFI20180827BHJP
   C12N 5/071 20100101ALI20180827BHJP
   C12N 15/12 20060101ALI20180827BHJP
   A61K 35/39 20150101ALI20180827BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20180827BHJP
【FI】
   C12N5/10
   C12N5/071
   C12N15/12ZNA
   A61K35/39
   A61P3/10
【請求項の数】5
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2015-520349(P2015-520349)
(86)(22)【出願日】2013年6月24日
(65)【公表番号】特表2015-522281(P2015-522281A)
(43)【公表日】2015年8月6日
(86)【国際出願番号】US2013047243
(87)【国際公開番号】WO2014004341
(87)【国際公開日】20140103
【審査請求日】2016年6月16日
(31)【優先権主張番号】61/664,259
(32)【優先日】2012年6月26日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】514326487
【氏名又は名称】セラクシス,インコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100091096
【弁理士】
【氏名又は名称】平木 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100118773
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 節
(74)【代理人】
【識別番号】100122389
【弁理士】
【氏名又は名称】新井 栄一
(74)【代理人】
【識別番号】100111741
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 夏夫
(74)【代理人】
【識別番号】100169971
【弁理士】
【氏名又は名称】菊田 尚子
(74)【代理人】
【識別番号】100144794
【弁理士】
【氏名又は名称】大木 信人
(72)【発明者】
【氏名】ラスト,ウィリアム,エル.
【審査官】 藤澤 雅樹
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2011/143299(WO,A1)
【文献】 特表2010−537663(JP,A)
【文献】 特表2011−519574(JP,A)
【文献】 特表2003−530102(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/128533(WO,A1)
【文献】 Cell Research (2009) Vol.19, pp.429-438
【文献】 Nature (2008) vol.455, pp.627-632
【文献】 Biochimica et Biophysica Acta (2010) Vol.1799, pp.228-235
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 5/00
C12N 15/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS/WPIX(STN)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インスリン依存性糖尿病を治療するのに好適である代理膵臓細胞の非多能性プロジェニターを含む組成物であって、前記プロジェニターが生存膵臓組織から採取されたものであり、かつ、(i)幹細胞の形態を有し、該形態が変化することなく培養にて増殖する能力を有し、(ii)既にリプログラミングされたものであるが、そのゲノム中に組み込まれたリプログラミング遺伝子を有しておらず、(iii)非動物起源の試薬だけを使うプロトコルに供されたときに膵臓系列へ分化可能であり、そして(iv)中胚葉系列へ分化することができないものである、前記組成物。
【請求項2】
インスリン依存性糖尿病を治療するのに好適である代理膵臓細胞の非多能性プロジェニターを含む組成物を作製する方法であって、
a. 非動物起源の試薬のみを用いる培養条件で生存ヒト膵臓組織から採取された一次ヒト細胞を培養するステップであって、該培養が9日未満の期間である、前記ステップ;次いで
b. リプログラミング遺伝子を用いて(a)からの一次ヒト細胞をリプログラミングし、ゲノムに組み込まれたリプログラミング遺伝子を有しないが幹細胞形態を有する、リプログラミングされた細胞を得るステップ;
c. 前記(b)で得たリプログラミングされた細胞のなかから、非動物起源の試薬のみを用いる培養条件で前記形態を失わないで増殖する能力について選択し、それにより増殖中のリプログラミングされた細胞を得るステップ;および次いで
d. 前記(c)で得た前記の増殖中のリプログラミングされた細胞のなかから、
(i)非動物起源の試薬だけを使うプロトコルのコースに供されたときに、生き残りかつ膵臓系列へ分化する能力、および
(ii)中胚葉系列へ分化できないこと
を特徴とする細胞集団を選択するステップ
を含み、
ここで、前記インスリン依存性糖尿病を治療するのに好適である代理膵臓細胞の非多能性プロジェニターは、前記工程(a)〜(d)を実行することにより、取得することができるものである、前記方法。
【請求項3】
インスリン依存性糖尿病を治療するのに好適である代理膵臓細胞を作製する方法であって、
a. 請求項1に記載の非多能性プロジェニターを、内胚葉系列への分化を駆動する成分の第1の組み合わせに曝し、それにより内胚葉細胞を得るステップであって、該第1の組み合わせは血清およびwntファミリーメンバーを除外する前記ステップ;および、次いで
b. 内胚葉細胞を膵臓の内分泌系列への分化を駆動する成分の組み合わせへ曝する、
工程を含み、
ここで、前記代理膵臓細胞は、前記工程(a)及び(b)を実行することにより取得されるものである、前記方法。
【請求項4】
プロジェニターがOct4およびNanogの発現を示す、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
リプログラミング遺伝子がOct4、Sox2、Klf4、およびMycからなる群から選択される、請求項2に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インスリン依存性糖尿病を治療するのに好適である代理膵臓細胞の非多能性プロジェニターを含む組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
A. 膵臓の内分泌細胞に対する満たされない要求
インスリン依存性糖尿病は膵臓のインスリン産生細胞の喪失を特徴とする疾患である。インスリン産生細胞は「β細胞」とも呼ばれ、通常、「ランゲルハンス島」と呼ばれる小さい球状構造中に存在し、膵臓全体に分散している。ヒトおよび動物において、機能性β細胞を含有する置換ランゲルハンス島の移植はインスリン依存性糖尿病を治癒し得ることが証明されている。この処置では、1以上の死亡器官ドナーの膵臓からランゲルハンス島を精製して身体の様々な部位の一つに注射する。いくつかのランゲルハンス島は処置に生き残って体内に常在し、そこでインスリンを作りかつ分泌する。この処置によって、移植したランゲルハンス島の寿命が尽きるまで、数年間、患者を十分治癒することができる。Shapiro(2011)およびRobertson(2010)を参照されたい。
【0003】
この処置は糖尿病を効果的に治療するが、存在するドナー膵臓が不十分であって、わずかな割合の糖尿病患者しか治療することはできない。かかる理由で、β細胞または膵臓ランゲルハンス島の代替供給源が必要とされる。
【0004】
B. 膵臓細胞の代替供給源
注目される置換膵臓細胞の有望な供給源は多能性幹細胞である。多能性幹細胞を胚から採取するか、またはすっかり分化した体細胞を胚様の状態に方向付けることにより、すなわち、成熟細胞を「リプログラミング」して胚から採取した細胞に似せることにより人工的に作製することができる。採取あるいはリプログラミングのいずれによっても、全ての多能性幹細胞は次の3つの特徴を共有する:
・幹細胞遺伝子の発現:これらは典型的に初期哺乳動物胚に発現される遺伝子を発現する。
・不死:これらは培養で理論的には無制限の量まで拡大できる。
・哺乳動物の全系列への成熟:全ての成熟器官は初期胚の三組織系列の1つから誘導される。これらは内胚葉(これから膵臓および他の腸器官が形成される)、中胚葉(これから筋肉および骨格が形成される)、および外胚葉(これから脳および皮膚が形成される)である。
Yamanaka(2012)、Plath(2011)、Lai(2011)、およびStover(2011)を参照されたい。
【0005】
多能性幹細胞を操作して膵臓細胞を形成するプロトコルが工夫されてきた。これらのプロトコルのいくつかは多能性幹細胞を分化してランゲルハンス島の胎児プロジェニターに似る形へ駆動することができる。Kroon(2008)およびRezania(2011)を参照されたい。しかし上記方式で、治療に用いることができる機能性インスリン産生細胞へのさらなる成熟が可能な膵臓細胞は得られていない。
【0006】
膵臓のプロジェニターを得る通常のプロトコルはいくつかの欠点がありまた不利である、しかし、それらのうちの重要な点は次の通りである:
・肝臓のプロジェニター集団は不純であり、非膵臓細胞が混入している。多能性幹細胞は3胚葉全てを形成するように素因化されている。それ故に、最も効率的なプロトコルでも非膵臓細胞と相互混合した膵臓細胞の集団を生じる。
・膵臓プロジェニターの集団は未成熟細胞により汚染されている。これらの細胞は不死の特性を保持しかつ患者への移植後に腫瘍を惹起しうる。
・膵臓プロジェニターは完全に機能的なインスリン産生β細胞に成熟することができない。
・細胞を培養するためのプロトコルは、規制機関が一般にヒト使用を認可しない試薬と手順を用いる。
Matveyenko(2010)、Tahamtani(2013)を参照されたい。また"Title 21, U.S. Code of Federal Regulations, part 1271"も参照されたい。
【0007】
C. 成熟膵臓の細胞不均一性
ランゲルハンス島は発生中の膵管より出芽するプロジェニター細胞から、胚形成の間に起原する。健康な個人の生涯においては、β細胞は専ら既存β細胞の複製を通して生産される。Dor(2004)を参照されたい。細胞複製のプロセスは体重増、妊娠、および膵臓傷害後の回復の期間中に、より速やかに起こる。これまで、培養で複製した単離β細胞はその成熟特性が失われる。Pagluca(2013)を参照されたい。
【0008】
膵臓幹細胞またはプロジェニター細胞は、系列トレース実験を通して成熟組織において同定されたことはない。それにも関わらず、多数の報文はいくつかの幹細胞特性を示すという哺乳動物の膵臓から単離した細胞を記載している。これらの細胞は管組織において、外分泌組織において、そしてランゲルハンス島自体において同定されている。例えば、Gong(2012)、Noguchi(2010)、およびCiba(2009)を参照されたい。これらは限定された複製能力を有することおよび誘導されてインスリンを発現することを記載している。
【0009】
さらに、多数の公開特許文献は、成熟膵臓から直接採取したと言われる成熟幹細胞を記載している。米国特許6436704、6815203、7544510、8110399および8377689、ならびに、また米国特許出願2004/0115805を参照されたい。
【0010】
これらの細胞集団は、患者を治療するのに必要な規模で製造されていないし、また、グルコースに応答して適当にインスリンを分泌することは示されてない。これらの理由で、これらの細胞集団は臨床成果を示していない。
【0011】
例えば、米国特許8377689は培養において複製しかつ誘導されてインスリンを発現する膵臓細胞を語っている。しかし、記載のように、これらの細胞は複製能力が限定され、かつ完全に機能性β細胞に成熟しないし、または、少なくとも、げっ歯類モデルの糖尿病を逆転する能力がなかった。すなわち、「糖尿病マウス」モデルで実際に得た結果が示すのは、「5週間以内に、高血糖(>400mg/dl)から正常近く(<300mg/dl)へ回復する一方、移植しなかった糖尿病マウスは研究期間を通して高血糖であった」、45列、18行、以下参照(強調されている)ことであると言われる。しかし、糖尿病マウスモデルにおいて、「正常」は約150mg/dlである一方、報じられた250mg/dlを超える持続的な読取値は安定な糖尿病状態の証明であると考えられる。例えば、Dang(2013)を参照されたい。
【0012】
このように、代理のβ細胞またはランゲルハンス島の移植による糖尿病を治療する戦略の可能性は、医薬等級の治療用膵臓細胞の拡大可能な供給源の必要性の故に、実現から遥かに遠のいている。
【0013】
この一連の研究は本明細書に記載の本発明と明確に異なるものである、何故なら、これらの研究は哺乳動物の膵臓からの幹細胞の単離に関わるからである。本発明は、膵臓または培養で操作して幹細胞特性を採択した他の供給源からの完全に成熟した非幹細胞の単離に関わるものである。本方法は、ヒト器官内の成熟細胞の遺伝子多様性を利用して、治療上有用な幹細胞になるように操作できる亜集団を同定することに依存する。成熟ヒト組織に存在する細胞の遺伝子多様性はごく最近理解されるようになったもので、成熟膵臓内の細胞不均一性に関する通常の理解は不完全である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】米国特許6436704
【特許文献2】米国特許6815203
【特許文献3】米国特許7544510
【特許文献4】米国特許8110399
【特許文献5】米国特許8377689
【特許文献6】米国特許米国特許出願2004/0115805
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】Shapiro, A.M. 2011 Curr Opin Organ Transplant 16(6), 627-31
【非特許文献2】Robertson, R.P. 2010 Endocrinol Metab Clin N Am 39, 655-67
【非特許文献3】Yamanaka, S. 2012 Cell Stem Cell 10, 678-84
【非特許文献4】Plath, K. 2011 Nat Rev Genet. 12(4), 253-65
【非特許文献5】Lai, M.I. 2011 J Assist Reprod Genet 28, 291-301
【非特許文献6】Stover, A.E., et al. 2011 Methods Mol Biol 767, 391-8
【非特許文献7】Kroon, E., et al. 2008 Nat Biotechnol 26(4), 443-52
【非特許文献8】Rezania, A., et al. 2012 Diabetes 61(8), 2016-29
【非特許文献9】Matveyenko, A.V., et al. 2010 Am J Physiol Endocrinol Metab 299, E713-20
【非特許文献10】Tahamtani, Y., et al 2013 Stem Cells and Dev 22(9), 1419-32
【非特許文献11】Title 21, U.S. Code of Federal Regulations, part 1271
【非特許文献12】Dor Y., et al. 2004 Nature 429(6987), 41-6
【非特許文献13】Pagluca, F.W. and Melton, D.A. 2013 Dev 140, 2472-83
【非特許文献14】Gong J, et al. 2012 J Mol Histol 43(6), 745-50
【非特許文献15】Noguchi H, et al. 2010 Cell Transplant 19(6), 879-86
【非特許文献16】Ciba P, et al. 2009 Ann Anat 191(1), 94-103
【非特許文献17】Dang T.T., et al. 2013 Biomaterials 34, 5792-801
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0016】
記載したように、膵臓細胞を作製する現行技法は有効な代理膵臓細胞、すなわち、哺乳動物の身体部位に移植され在住して生来の膵臓細胞の機能を遂行できる細胞を得ることができない。本発明は、医薬等級、すなわち、米国FDAおよび/または他のかかる規制機関がヒトへの使用を許容する代理膵臓細胞および細胞含有組成物を提供することにより、この短所および他の不利益を克服する。例えば、参照によりその全てが本明細書に組み込まれる[Title 21, U.S. Code of Federal Regulations, part 1271]を参照されたい。
【0017】
ヒト細胞療法について、一般に、全世界の規制機関の認可基準は使用する細胞の安全性と有効性を強調している。この文脈における主な安全性の関心事は(i)細胞の腫瘍形成傾向および(ii)細胞が接触しうる動物由来の試薬から毒性、免疫原性、または感染性粒子を伝達するリスクである。有効性判定基準には、その細胞集団が所与の細胞機能に対して有効でありかつ有効治療期間にわたって安定であることが含まれる。
【0018】
従って、代理膵臓細胞を含有する本発明の組成物は、(1)効力を低下するまたは望ましくない機能を果たす非治療細胞を含有しないが、その構成成分の治療細胞を含有し、(2)規定した非動物起源の成分を用いて国際的に認可された標準に従って培養され、そして(3)遺伝的に改変されたり、形質転換されたり、核型的に異常であることはなく、または、他の点では、不安定性もしくは腫瘍形成能のリスクが容認できないほど高いという特徴も持たない。
【0019】
本発明の態様の1つによれば、それ故に、代理膵臓細胞の非多能性プロジェニターを含む組成物が提供される。このプロジェニターは(i)そのゲノム中に組み込まれたリプログラミング遺伝子を有することなく、(ii)規定した試薬だけを用いるプロトコルに従って膵臓系列に分化し、そして(iii)実質的に中胚葉系列に分化できない。
【0020】
本発明の他の態様によってはまた、インスリン依存性糖尿病の治療に好適である代理膵臓細胞の非多能性プロジェニターを含む組成物を作製する方法も提供される。
本発明の方法は、
a. 最小の、規定した培養条件で生存膵臓組織からヒト細胞を採取するステップ;
b. 一次ヒト細胞を、約9日未満の期間、培養するステップ;次いで
c. リプログラミング遺伝子を用いて(b)からの一次ヒト細胞をリプログラミングし、ゲノムに組み込まれたリプログラミング遺伝子を有しないが幹細胞形態を有する、リプログラミングされた遺伝子を得るステップ;
d. 最初に、(c)で得たリプログラミングされた細胞のなかから、最小の、規定した培養条件で幹細胞形態を失うことなく増殖する能力について選択し、それにより増殖するリプログラミングされた細胞を得るステップ;
e. 第二に、増殖するリプログラミングされた細胞の中から(i)規定した試薬だけを用いるプロトコルのコースにおいて生き残りかつ膵臓系列に分化する能力を有すること、および(ii)中胚葉系列に分化する能力を実質的に持たないことを特徴とする細胞集団について選択し、これによって上記の非多能性プロジェニターを得るステップ
を含むものである。
【0021】
本発明の他の態様は、インスリン依存性糖尿病を治療するのに好適である代理膵臓細胞を含む組成物に関するものであって、ここで、(A)代理膵臓細胞は上記の非多能性プロジェニター由来であり、そして(B)前記組成物を含む細胞の約90%超がマーカーPdx1、Nkx6.1、およびNeuroD1を発現する。本発明はさらにかかる代理膵臓細胞を作製する方法であって、
a. 非多能性プロジェニターを、内胚葉系列への分化を駆動する第一の成分の組み合わせに曝してそれにより内胚葉細胞を得るステップであって、この第一の組み合わせは血清とwntファミリーメンバーを除外する前記ステップ;および、次いで、
b. 内胚葉細胞を膵臓内分泌系列への分化を駆動する成分の組み合わせへ曝し、それにより問題の代理膵臓細胞を得るステップ
を含むものである前記方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】ヒト器官からの細胞の採取を示す。すなわち、生存可能なヒト膵臓を断片に細かく切り刻み(A)、次いでこれをすすいで、コニカルチューブ中で沈降させる(B)。接着細胞(C)を72時間後に培養中に得た。提供された規定の培養条件において、細胞培養はそれぞれ上皮および繊維芽の形態を示す細胞の混合集団から成った。幹細胞または間葉細胞形態の確証はなかった。
図2】エピソームプラスミドのリプログラミング時の遺伝子組織を模式図で描いた。略語は次の通りである。CMV:サイトメガロウイルスプロモーター、2A:自己開裂ペプチド配列、WPRE:ウッドチャック肝炎ウイルス転写後応答エレメント、SV40ポリA:ポリアデニル化シグナル、OriP:複製起点、EBNA1:エプスタイン・バーウイルス由来核抗原1、p53shRNA:p53を標的化するスモールヘアピンRNA。
図3】リプログラミング後の細胞の光学顕微鏡写真を示す。位相差画像はリプログラミング後20日の幹細胞の形態を表す。
図4】幹細胞形態の提示について選択した細胞コロニーの培養における増殖を示す棒グラフである。図3に示した幹細胞に似る細胞の10コロニーを手作業で個々の培養容器に移した。増殖表面が幹細胞の集密層で覆われると、新しい培養容器に継代した。移した細胞の増殖を、開始時および3回の継続継代の終わりに存在する細胞数を数えて追跡した。細胞数は血球計を用いて手作業で数え、各クローンの倍加時間を計算した。選択した10クローンのうちの6クローンは最小規定培地にて増殖することができた。
図5図5は顕微鏡写真A〜Dは最小規定培地で増殖した上記6クローンに適用した選択の結果を記す。6クローンのうちの2クローンは最小規定試薬を用いる分化過程に生き残った。クローン9の細胞の一画分(<50%)だけが、その他は空の組織培養ディッシュの中で、小さい細胞のいかだを作って細胞の分化を生き残った(A、C)。免疫細胞蛍光は、Pdx1がこれらの細胞のいくつかの核で発現したが(A)、他では細胞質に見られた(C)。Nkx6.1も同様に核に発現されるように見えた(C)。クローン10の細胞の少なくとも80%は分化過程に生き残り、培養ディッシュにおいて細胞の集密単層(B、D)を作製した。Pdx1(B,D)およびNkx6.1(D)は細胞の>90%の核において発現された。それ故に、クローン9と10だけが分化過程を生き残った。クローン9は細々と生き残っていて、その細胞は膵臓遺伝子を適当に発現しなかった。このクローンは拒絶した。クローン10の細胞の80%は分化過程を生き残り、これらの細胞の90%超は適切に膵臓遺伝子を発現した。このクローンを選択した。
図6】遺伝子発現のRT-qPCR解析から得た結果を記すグラフを掲げる。クローン5〜9からの胚様体は分化の3日および10日に代表的な内胚葉、中胚葉および外胚葉である遺伝子を発現した。しかしクローン10は代表的な中胚葉を発現しなかった。分化と同時に、全ての胚様体は3日および10日に多能性関係遺伝子の発現がダウンレギュレーションした。結果をβ-アクチンに対して規準化し、0日培養(未分化)と比較して示す。誤差バーは3複製値の標準偏差を表す。
図7】クローン10は中胚葉系列への分化ができなかったことを立証する実験結果を示す棒グラフを表す。多能性幹細胞から高純度の心筋細胞集団を作製するプロトコルに従って、クローン5および10を中胚葉心筋細胞系列へ向かって分化させた。Xu (2009)を参照されたい。15日に、心臓特異的成長因子(Gata4、Nkx2.5)および構造タンパク質(αMHC)の遺伝子発現をRT-qPCRにより定量した。クローン5は心臓遺伝子の発現をアップレギュレートしたが、クローン10は未分化細胞に類似した心臓遺伝子発現レベルを維持した。その結果を図6に表す(上記の関係注釈を参照されたい)。
【発明を実施するための形態】
【0023】
好ましい実施形態の詳細な説明
A. 医薬等級の代理膵臓細胞を供給する本発明の手法
成人膵臓内に存在する多様な細胞のなかに、上記の治療細胞の誘導に利用できる細胞の亜集団を発見した。これらの細胞は膵臓幹細胞またはプロジェニター細胞でなく、むしろ、以下に詳しく記載した操作を受け入れる特定の遺伝特性を持つ多様な遺伝組成の成熟細胞集団のメンバーである。従って、本発明の一態様は、成熟器官から、本発明者らが同定した亜集団を含む多様な集団を維持する細胞を採取することである。以下の実施例1を参照されたい。
【0024】
本発明の他の重要な態様は、上述の多様な集団の幹細胞状態へのリプログラミングであり、これらの各細胞を拡大して分析および選択することができる(実施例2および3)。リプログラミングは、リプログラミング遺伝子の細胞ゲノム中への組み込みを起こさない、あるいは、他の点でヒト治療用細胞の規制認可を制限する方式で実施しなければならない。
【0025】
本発明のさらなる重要な態様は、リプログラミングした細胞集団のなかから、本発明者らが初めて明らかにした、医薬等級の代理膵臓細胞の供給源である独特の特性を有する幹細胞を選定することである。その選択判定基準は、通常の手法の目標である、多能性に対するものとは異なる。その結果、本発明によれば、多能性でないが改善された臨床効用を有する細胞が得られる(実施例4)。
【0026】
多能性幹細胞を誘導するために遺伝子のリプログラミングを用いるのは、非効率的なプロセスであり、わずか0.01〜0.0001%の多能性判定基準に適合する細胞のリプログラミングしかもたらさない。科学文献において、これらの細胞は「誘導型多能性幹細胞」またはiPS細胞と呼ばれる。通常の手法で多能性の判定基準に適合しない細胞は拒絶される;これらの細胞は通常、「不完全にリプログラミングされた」または「部分的にリプログラミングされた」と表示される。
【0027】
iPS細胞のコロニーの遺伝形質は、親細胞集団において非常に低頻度でしか存在しない特定の遺伝子変化を含有しうる。従って、リプログラミングのプロセスは、出発細胞集団のごく少数だけに表現される遺伝形質を同定しかつ選択しうる。
【0028】
(i)リプログラミングは非効率的なプロセスである、および(ii)iPS細胞の遺伝形質はしばしば出発集団を代表する細胞とは異なるという事実から、本発明者らは、特定の遺伝子改変が細胞のiPS細胞へのリプログラミングを成功させるように素因化しうると推測した。従って、本発明者らは、以前に不完全なリプログラミングとして拒絶された細胞が、それにもかかわらず、それらを本治療の目的にとって価値ある非iPS細胞表現型に素因化する稀な遺伝子改変をかくまいうることに気付いた。
【0029】
ヒト器官から新しく採取した細胞集団は、長時間培養された細胞集団よりはるかに広範囲の細胞多様性を有する。本発明者らは、上記の特定の臨床効用を持つ細胞を同定しかつ選択するために、遺伝子リプログラミングを新しく採取した細胞集団に適用した。こうして同定した細胞は(1)長期培養で複製せず代わりに消滅する、(2)幹細胞の形態を示さない、および(3)推定膵臓幹細胞を含有しない組織から単離し得る(推定膵臓幹細胞は膵管に存在すると仮定した)という事実により膵臓幹細胞でないことが立証される。以下の実施例1を参照されたい。
【0030】
成熟膵臓から採取した本発明の細胞はその単離に血清を必要としない、幹細胞形態を示さない、そして精製した膵臓細胞の亜集団の特定画分から単離する必要はない。これらは全て、例えば、米国特許8377689の記載と明確に対照をなす。
【0031】
本発明によれば、それ故に、新しいヒト膵臓組織を細胞の供給源に用いて、インスリン依存性糖尿病を治療できる代理膵臓細胞の供給源として素因化された非幹細胞集団を同定しかつ選択することができる。特に、以下に詳しく記載したように、細胞を採取の1週間以内に器官から幹細胞状態を採用するようにリプログラミングすることができる。
【0032】
得られる幹細胞を(1)上記のインスリン依存性糖尿病の治療にそれ自体受け入れられる膵臓の内分泌プロジェニター細胞へ効率的に分化し、そして(2)拡大可能でかつ規制機関により一般に受け入れられる最小培養条件で生き残りかつ分化する能力に基づいて選択した。この点に関する「効率的に」は、少なくとも約80%内分泌プロジェニター細胞;より好ましくは、少なくとも約90%内分泌プロジェニター細胞から成る細胞集団を分化過程の終わりに産生することを意味する。「内分泌プロジェニター細胞」はランゲルハンス島のホルモン産生細胞に成熟しうる細胞である。これらの細胞は、例えば、遺伝子Pdx1、Nkx6.1およびNeuroD1の同時発現を特徴とする。この点について「生き残る」は出発生存細胞集団の少なくとも約80%、そして好ましくは少なくとも90%が分化過程の終わりに生存している能力を示す。
【0033】
さらに特に、内胚葉系列向けての分化を駆動する化合物は多能性幹細胞にとって有毒である。通常のプロトコルは血清を使用して細胞生存率を向上し、それ故に;血清により細胞生存率は50%を超えることができる。しかし、血清は無規定の試薬であり、一般にヒト治療細胞の培養向けに規制機関にとって望ましくない。
【0034】
通常のプロトコルとは対照的に、本発明のプロトコルは血清を排除し、それにより得られる細胞はヒト細胞治療用に好適と考えることができる。また、通常のプロトコルはwnt(高価かつ極度に不安定である成長因子)を採用する。本発明はwntの使用を排除し、それにより一貫性がありかつ拡大可能なプロセスを提供する。
【0035】
本発明の方法は血清とwnt両方の使用を避けるので、多能性幹細胞の効率的分化を駆動する効果はない。他方、本発明による組成の細胞はこの新規の手法に応答して生き残るように選択される。このように、本発明により選択した細胞の約80%以上、好ましくは細胞の約90%以上が分化過程で生き残る。さらに、生き残る細胞のなかから約80%以上、好ましくは細胞の約90%以上が同時にPdx1、Nkx6.1およびNeuroD1、膵臓の内分泌系列のマーカーを発現する(例えば実施例3、最後の段落を参照されたい)。
【0036】
本発明の同定および選択過程の間に、多能性幹細胞の判定基準は無視され、そして本発明に従って作製される細胞は全く多能性でない;すなわち、これらの細胞は実質的に非膵臓系列に分化する能力を欠く。この文脈における「実質的に」は、分化した細胞の集団の少なくとも約5%、好ましくは少なくとも約10%、そしてより好ましくは、少なくとも約20%は非膵臓系列に特異的な特徴を示すことを意味する。
【0037】
例えば、本発明で産生した細胞を、通常3系列、すなわち、中胚葉、内胚葉および外胚葉の混合物を誘導するのに用いるプロトコルで処理した。3系列の混合物に分化する能力を実証するための通常のやり方で、1系列の分化を生じることなく他系列を支持する培地、例えば、血清を自発性増殖および分化を可能にする幹細胞クラスターの懸濁液に与える。かかる培養条件のもとでは、幹細胞クラスターは、提供された培養条件により特異的に導かれることなく、それらの遺伝プログラムによって分化しうる。こうして形成されるクラスターは、初期哺乳動物の胚との類似性の故に「胚様体」と呼ばれる。Rust(2006)を参照されたい。多能性細胞は、哺乳動物胚の様式に従って、全3胚原基:外胚葉、内胚葉、および中胚葉を含有する胚様体を産生しうる。しかし、多能性幹細胞とは異なり、本発明の細胞から作製した混合物は中胚葉系列の細胞を含まなかった(実施例4、例えば、第5段落を参照されたい)。
【0038】
本発明の細胞をまた、多能性幹細胞を中胚葉の系列の細胞である心筋細胞に分化させるのに通常用いるプロトコルでも処理した。再び、多能性幹細胞とは対照的に、本発明の細胞は分化プロトコルに応答して心筋細胞関係遺伝子を発現しなかった。視覚検査は、本発明に記載した細胞はどれも心筋細胞の典型的な拍動形態を示さないことを明らかにした。そして、約5%未満の細胞しか多能性幹細胞から心筋細胞を誘導する分野で用いられるプロトコルに応答しなかった(実施例4、例えば、第6および第7段落を参照されたい)。
【0039】
本発明により作製した幹細胞は、今まで記載されてない次の特性を有する。
・新しいヒト膵臓から誘導される新しい幹細胞集団を構成すること;
・インスリン依存性糖尿病を治療し得る代理膵臓細胞の実質的に純粋な(すなわち、≧80%または≧90%)集団へ効率的に分化するように素因化されること;
・外因性遺伝子のゲノム組込みを欠くこと;および
・ヒト使用について規制機関により容認されると一般に考えられること。
【0040】
本発明により得られる代理膵臓細胞はまた、今まで記載されてない特性を有する。これらの特性は次の通りである:
・実質的に治療細胞の純粋な(すなわち、≧80%または≧90%)集団を構成し、腫瘍化能力を持つ幹細胞に汚染されていないこと
・ヒト使用について規制機関により容認されると一般に考えられる試薬およびプロセスを用いて分化されたこと;および
・外因性遺伝子のゲノム組込みを欠くこと。
【0041】
B. 本発明の手法を実施する上での手引き
1. 多様性を犠牲にすることなく生来の膵臓細胞を得ること
器官から細胞を採取する現行の方法は長い時間をかけて培養する細胞を生じる。結果として、培養条件に適合する増殖性細胞の亜集団に好都合であり、集団を上回って均一な細胞培養を作製する。この現象はしばしば「培養ドリフト」と呼ばれ、10程度の少ない集団倍加で生じる。
【0042】
対照的に、本発明は、成熟器官から採取した細胞は長期間にわたって培養することはできず、好ましくは、1週間以下、5集団倍加未満であると明記している。これにより、その集団が培養条件に適合することを防止しかつ急速成長する細胞が集団を上回り、全体の集団多様性を低下する機会を最小化する。
【0043】
2. リプログラミング遺伝子の組込みまたは長期発現のない細胞のリプログラミング
4遺伝子、Oct4、Sox2、Klf4、およびMycは成熟細胞に幹細胞の特性を採択させうる。これらの「リプログラミング遺伝子」はリプログラミングする同じ細胞で発現されなければならない、そしてこれらは一般に該遺伝子を挿入するウイルスを介して宿主ゲノム中に送達され、そこで発現されうる。
【0044】
遺伝子を無作為にゲノム中に挿入された細胞はヒトへの移植が一般に規制機関により認可されない。その理由は、かかる改変を受けた細胞は遺伝子操作されない細胞より腫瘍形成能のリスクが高いからである。
【0045】
本発明はリプログラミング遺伝子をプラスミドに入れて送達し、遺伝子をゲノム中に組み込まない、それ故に、これらの発現は一時的にしか効果がない。核内において、プラスミドが運んだ遺伝子は宿主の核転写複合体により転写されうる。Takacs(2010)を参照されたい。
【0046】
好ましい実施形態においては、遺伝子をエピソームのプラスミドで送達する。「エピソームの」は細胞の核に持続しうるが、細胞の染色体中に組み込まれないプラスミドを意味する(Takacs、前掲)。エピソームのプラスミドは有糸分裂中に複製されないで分離されるので、徐々に細胞集団から希釈される。また、エピソームのプラスミドは核から削除されうるかまたは分解されうる。
【0047】
リプログラミングに通常用いられるmycファミリーメンバー、C-mycは公知の癌遺伝子である。好ましい実施形態において、本発明はC-mycの代わりに癌遺伝子でないL-mycを使用する。Nakagawa(2010)を参照されたい。
【0048】
3. 治療効用を持つ細胞の選択
リプログラミングされた細胞はリプログラミングされてない細胞から典型的な幹細胞形態を提示することにより識別可能である。典型的な幹細胞は小さくかつ円形であり、顕著な核と小さい細胞質を有し、そしてタイトなクラスターで成長する。
【0049】
これらのリプログラミングされた細胞の比較的小さいが識別可能な画分が、本発明による医薬等級代理膵臓細胞の供給源である。この画分は以下に詳細に記載した判定基準を満たすことにより同定することができる。
・規定した、非動物起源成分から成る培養条件で増殖する能力。
・実質的に純粋な膵臓細胞の集団、すなわち、膵臓の内分泌プロジェニターの特徴である遺伝子を発現しかつランゲルハンス島のホルモン産生細胞に成熟し得る細胞から少なくとも約80%、好ましくは少なくとも約90%構成される集団に分化することにより、最小分化プロトコルに応答する能力。
【0050】
従って、本発明のプロトコルは、ヒトの身体の幹細胞が膵臓の発生で辿りうる経路を再利用する分化経路に沿って、処理した細胞を駆動するように設計される。従って、プロトコルはヒト発生を十分忠実に模倣し、発生中のヒト胚または新生児から単離しうる膵臓細胞と区別できない膵臓細胞を産生するのに十分なようにヒト発生を模倣する。通常の技法とは対照的に、本発明によるプロトコルはまた、ただ、拡大可能な医薬等級を製造するプロセスの部分でありうる規定された非動物起源成分だけを用いる。すなわち、本発明のプロトコルは、これまで細胞生存を増進するために用いられた血清も、または、極度に不安定でかつ高価である成長因子のwntファミリーメンバーも使用しない。
・膵臓細胞の大集団が効率的に産生し得るように分化過程を生き残る集団の能力。
【0051】
記したように、「生き残る」は、分化過程の終わりに出発生存細胞集団の少なくとも約80%、そして好ましくは少なくとも約90%が生き残る能力を示す。
【0052】
膵臓細胞を形成するように素因化された細胞の本発明による選択は、ヒト身体の全3系列中への効率的な成熟を特徴とする多能性を有する細胞に対して選択する。特に、これらの判定基準に適合する上述の画分を構成する細胞は多能性でない、何故なら、これらは実質的に中胚葉系列の、すなわち、分化した細胞の少なくとも約5%、好ましくは少なくとも約10%、そしてより好ましくは少なくとも約20%が中胚葉系列に特異的な特徴を示す細胞に分化することができないからである。
【実施例】
【0053】
C. 実施例
1. 規定した非動物起源の試薬だけを用いる一次膵臓細胞の採取
ヒト膵臓を5X抗生物質/抗真菌剤(ペニシリン、ストレプトマイシン、アムフォテリシン;Life Technologies)を補充したDMEMで徹底的にすすいだ。その組織の小部分を直径2mm以下の断片に細かく切り刻んだ。細かく切り刻んだ組織を50mlのコニカルチューブに移して重力沈降させた(図1A、B)。培地を5X 抗生物質/抗真菌剤を補充した新鮮なDMEMで置換え、室温にて5分間インキュベートした。次いで培地を、DMEM/F12、L-アスコルビン酸-2-リン酸(64mg/L)、セレンNa(14μg/L)、インスリン(19.4mg/L)、NaHCO3(543mg/L)、トランスフェリン(10.7mg/L)、TGF beta1(2μg/L)、bFGF(10μg/L)、ヘパリン(50μg/L)、およびヒドロコルチゾン(100nM)から成る一次培地と置換えた。培地をpH 7.4および340 mOSMに調節した。
【0054】
先のプロトコルの変法は、EGF(100μg/L)、トロンビン(1U/ml)、およびヒドロコルチゾン(100nM)を補充したEssential8培地(Life Technologies)を用いた。他の変法では、ProdoLabs(Irvine、CA)から購入した膵臓組織画分を全ヒト膵臓の代わりに用いた;すなわち、前記膵臓組織はランゲルハンス島調製物と管調製物に分画されたものである。さらに他の変法では、皮膚パンチバイオプシーを用いた。これらの変法はその結果に実質的な変化を与えなかった。
【0055】
動物起源を含まないコラゲナーゼ、AFA等級(Worthington Biochemical)を50mg/mlの量だけ培地に加え、その培養フラスコを一晩37℃にて加湿インキュベーター内に置いた。翌日、残りの細胞凝集塊をトリチュレーションにより粉砕した。その溶液をコニカルチューブに移し、4分間、200XGにて遠心分離した。培地を吸引して細胞ペレットを一次培地に再懸濁した。次いで細胞を、CELLstart(Invitrogen)をプレコートした細胞培養フラスコに移し、そしてインキュベーターに戻した。24時間後、細胞はディッシュに接着し、増殖を開始していた(図1、画像Cを参照されたい)。
【0056】
このプロトコルの変法では、コラゲナーゼを1X TrypLE Select(Life Technologies)に置き換えた。さらなる変法では、CELLstartを1X VitronectinXF (Stem Cell Technologies)でコートしたディッシュに置き換えた。いずれの変法においても、実質的な変化は起こらなかった。
【0057】
細胞培養が増殖物表面全体で集密近くに増殖すると、TrypLE Select (Life Technologies)を加えて解離し、リプログラミング用に採取した。膵臓を受け取って開始するこのプロセスは9日を超えて続くことはなかった。過剰細胞は、製造業者の取扱説明書に従って、Synth-a-freeze CTS(Life Technologies)において凍結保存した。実質的変化を生じない変法では、過剰細胞を10% DMSOを補充した一次培地中で凍結保存した。
【0058】
2. 非組込み遺伝子ベクターと規定した非動物起源の試薬だけを用いる膵臓細胞のリプログラミング
細胞培養をTrypLE Selectを用いて単細胞に解離した。血球計を用いて、単細胞懸濁液を計数した。1.5E6細胞をコニカルチューブへ移し、4分間200XGにて遠心分離した。ペレットを、7.5μgのリプログラミングプラスミド1および12.5μgのリプログラミングプラスミド2を補充したSolution V(Lonza)に再懸濁し(図2)、そしてエレクトロポレーションキュベットに加えた。リプログラミングプラスミド1と2は非組込みプラスミドである。リプログラミングプラスミドに用いる遺伝子は、例えば、Takahashi(2006)により記載されている。L-mycを、公知の癌遺伝子であるC-mycの代わりに用いた。Nakagawa (2010)を参照されたい。そのキュベットをLonzaのNucleofector中に速やかに挿入し、そしてプログラムT-024を用いてエレクトロポレーションを行った。
【0059】
エレクトロポレーション処理した細胞をリプログラミング培地に希釈し、 CELLstartをプレコートしたディッシュに移した。リプログラミング培地は、DMEM/F12、L-アスコルビン酸-2-リン酸(64mg/L)、Naセレン(14μg/L)、インスリン(19.4mg/L)、NaHCO3(543mg/L)、トランスフェリン(10.7mg/L)、TGF beta1(2μg/L)、bFGF(10μg/L)、およびヘパリン(50μg/L)から構成された。培地をpH 7.4および340 mOSMに調節した。あるいは、エレクトロポレーション処理した細胞を、100ng/ml bFGF(Sigma)、100μM酪酸ナトリウム(Sigma)、および100 nMヒドロコルチゾン(Sigma)を補充したEssential 6培地(Life Technologies)に希釈した。
【0060】
培地を2日毎に更新した。任意に、培地に4〜10日に、2 mMバルプロ酸(Sigma)を補充した。細胞が集密になると、TrypLEを用いて継代した。20日に幹細胞形態を持つ細胞のコロニーが現れた(図 3)。
【0061】
3. インスリン依存性糖尿病の治療に有用な細胞の同定と選択
幹細胞形態の細胞の10コロニーを細胞小塊中の基質から手作業で解離し、CELLstartをプレコートした新しい組織培養ディッシュに移し、そしてリプログラミング培地を用いて培養した。このプロトコルの変法では、幹細胞形態のコロニーをビトロネクチンXF(Stem Cell Technologies)をプレコートした組織培養ディッシュに移した。
【0062】
こうして得た10コロニーのうち、6コロニーは形態変化なしに増殖し続けた。細胞集団の倍加時間を1〜3継代にわたって計算した(図4)。
【0063】
次いで増殖する細胞のコロニーを、CELLstartをプレコートした6ウエル組織培養ディッシュのウエルに移し、集密まで増殖した。集密近くで細胞を、膵臓系列への分化を駆動するプロトコルで処理した。あるいは細胞を、ビトロネクチンXF(Stem Cell Technologies)をプレコートした6ウエル組織培養ディッシュのウエルに移した。
【0064】
幹細胞の膵臓系列への分化を駆動する新規のプロトコル:培地を、0.2%ヒト血清アルブミン(HSA)、0.5 X N2(Life Technologies)、0.5 X B27(Life Technologies)、100ng/ml アクチビンA、および1μMワートマニン(Sigma)を補充したDMEM/F-12で置換えた。培地を2日後に新しくした。4日に細胞は内胚葉系列Sox17、HNF3β、およびHNF4αの特徴を持つ遺伝子を発現した。5日に、培地を、0.5% HSA、2μMレチノイン酸(Sigma)、50ng/ml Noggin、10ng/ml FGF7/KGF、および0.5%インスリン-トランスフェリン-セレン(BD Biosciences)を補充したIMDM/F-12で置換えた。培地を7日に新しくした。9日に培地を1% ITS、1XN2、および50ng/ml EGFを補充したDMEMで置換えた。培地を11日および13日に新しくした。15日に細胞は、内分泌膵臓が由来する膵臓細胞の特徴をもつ遺伝子Pdx1、Nkx6.1、およびNeuroDを同時に発現した。
【0065】
6コロニーのうち、2つは分化過程を生き残ることが出来た。生存は、分化過程を経た細胞の少なくとも80%が分化後に残ることと定義する。15日に2つの生き残る培養を4%パラフォルムアルデヒドを用いて固定し、免疫細胞蛍光染色を施した。タンパク質Pdx1およびNkx6.1の発現を、抗-Pdx1および抗-Nkx6.1抗体との一次インキュベーションおよび蛍光結合二次抗体とのインキュベーションにより可視化した。2つの培養のうち、ただ1つが、独占的に近いPdx1およびNkx6.1二陽性細胞から成るほとんど集密な培養を維持した(図5)。クローン10のいくつかの蛍光画像中の核を計数して、>95%の細胞がPdx1およびNkx6.1を発現したことが明らかになった。
【0066】
4. 多能性の試験
クローン5〜10を3つの一次胚葉層に分化させてこれらの幹細胞が多能性であるかを確認した。当業者が通常行う分化プロトコルは幹細胞の「胚様体」への分化を可能にする。[Rust 2006]を参照されたい。分化は遺伝子発現のRT-qPCR分析により評価した。
【0067】
クローン5〜10のそれぞれを含有する6ウエルディッシュの2ウエルを5分間、ディスパーゼ(Stem Cell Technologies)中で培養し、ピペットチップを用いて掻きとることにより手作業で解離した。細胞凝集塊を含有する培地をコニカルチューブに移し、90XGにて5分間遠心分離した。細胞ペレットをDMEM(Gibco)ですすいで、そして20%血清代替品(Invitrogen)および0.5% vol/volペニシリン/ストレプトマイシン (Gibco)を補充したBPMIに再懸濁した。
【0068】
細胞ペレット6ウエル低付着性ディッシュのウエルに移し、15日間培養した。培地を毎2〜3日に変えた。2日内に胚様体が形成を始めた。胚葉体のアリコートを0.3、および10日に採取し、RT-PCRにより分析した。全RNAをRNeasyキット(Qiagen)を用いて単離し、オンフィルターDNaseで処理し、UV吸収により定量した。製造業者の取扱説明書に従い、Moloneyマウス白血病ウイルス(M-MuLV)逆転写酵素(New England Biolabs)および無作為ヘキサマープライマーを用いて、全1μgのRNAをcDNAに変換した。
【0069】
定量PCRを、50ngの各逆転写酵素反応、250nMの各プライマーおよび1XSYBR緑色PCRマスターミックス(Bio-RAD)を用いて実施し、iCyclerサーモサイクラー(Bio-RAD)により分析した。プライマー対を表1に掲げる。発現は標準曲線に基づき、β-アクチンで正規化し、そして0日(未分化の細胞)と比較して計算した。
表1.RT-qPCRに使用するプライマー
【0070】
【表1】
【0071】
膵臓系列へ分化の高効率と中胚葉系列細胞へ分化の低効率との間の相関は明白である(図 6)。分化の進行につれて,全てのクローンは多能性関係遺伝子の発現が減少しかつ内胚葉および外胚葉関係遺伝子の発現が増加した。クローン5〜9は中胚葉関係遺伝子の増加を示した。クローン10は中胚葉関係遺伝子の有意な発現を示さなかった。
【0072】
この最後の結果を確認するために、クローン5とクローン10を多能性細胞の中胚葉心筋細胞への分化を駆動するようにデザインしたプロトコルで処理した(Xu 2009)。概要を説明すると、リプログラミング培地を用いることを除いて上記のように、クローンを低接着プレート上で継代して、細胞クラスターを形成した。一晩のインキュベーション後に、培地を、DMEM、1 X 非必須アミノ酸(Gibco)、2mML-グルタミン(Gibco)、5.5μg/mlトランスフェリン(Sigma)、5ng/ml亜セレン酸ナトリウム(Sigma)、0.1mMβメルカプトエタノール(Gibco)、および1Xペニシリン/ストレプトマイシン(Gibco)から成る培地で置換えた。培地を3〜4日毎に変えた。
【0073】
中胚葉心筋細胞を含有する自発性拍動細胞クラスターがクローン5の培養の12日頃に現れた。15日に、少なくとも50%の細胞が少なくとも1部位において自発的に収縮した。胚様体を15日に採取し、そして心筋細胞の代表的な遺伝子のRT-PCR分析を行った。心筋細胞遺伝子がクローン5にしっかりと、すなわち、非分化細胞と比較して少なくとも5倍発現された(図 7)。対照的に、クローン10の培養には分化の12日または15日のいずれにも自発的に拍動する細胞クラスターは存在しなかった。細胞クラスターの遺伝子発現のRT‐PCR分析は、心筋細胞遺伝子が未分化の幹細胞のレベルで発現しないことを表した。
【0074】
クローン10はこのように中胚葉の心臓系列細胞への実質的な分化ができなかった。自発的に拍動する細胞クラスターが同定されず、また、心筋細胞遺伝子が未分化細胞集団のレベルで発現されなかったので、約5%未満の細胞しか、多能性幹細胞を心筋細胞へ分化するために通常使われるプロトコルに応答しないと結論した。
【0075】
本発明の特定の実施形態を以上に考察したが、これらは説明のためだけであって、本発明を制限するものではない。本明細書を総括すると、本発明分野の業者には多くの本発明の変法が明らかになるであろう。本発明の全分野は、以下の請求項目ならびにその等価物の全範囲と本明細書ならびにかかる変法との両方を参照することにより決定されるべきである。
【0076】
引用文献
米国特許文献
【0077】
その他の文献
本発明は以下を包含する。
[1] インスリン依存性糖尿病を治療するのに好適である代理膵臓細胞の非多能性プロジェニターを含む組成物であって、前記プロジェニターが(i)そのゲノム中に組み込まれたリプログラミング遺伝子を有することなく、(ii)規定した試薬だけを使うプロトコルに従って膵臓系列へ分化し、そして(iii)実質的に中胚葉系列へ分化することができないものである前記組成物。
[2] インスリン依存性糖尿病を治療するのに好適である代理膵臓細胞の非多能性プロジェニターを含む組成物を作製する方法であって、
a. 最小の、規定した培養条件で生存ヒト膵臓組織からヒト細胞を採取するステップ;
b. その一次ヒト細胞を、約9日未満の期間、培養するステップ;次いで
c. リプログラミング遺伝子を用いて(b)からの一次ヒト細胞をリプログラミングし、ゲノムに組み込まれたリプログラミング遺伝子を有しないが幹細胞形態を有する、リプログラミングされた細胞を得るステップ;
d. 最初に(c)で得たリプログラミングされた細胞のなかから、最小の、規定した培養条件で前記形態を失わないで増殖する能力について選択し、それにより増殖中のリプログラミングされた細胞を得るステップ;および次いで
e. 第二に、その増殖中のリプログラミング細胞のなかから、
(i)規定した試薬だけを使うプロトコルのコースで生き残りかつ膵臓系列へ分化する能力、および
(ii)実質的に中胚葉系列へ分化できないこと
を特徴とする細胞集団を選択するステップ
を含み、それにより前記非多能性プロジェニターを得る前記方法。
[3] インスリン依存性糖尿病を治療するのに好適である代理膵臓細胞を含む組成物であって、(A)代理膵臓細胞が1に記載の非多能性プロジェニター由来であり、そして(B)前記組成物に含まれる細胞の約90%超がマーカーPdx1、Nkx6.1、およびNeuroD1を発現する前記組成物。
[4] インスリン依存性糖尿病を治療するのに好適である代理膵臓細胞を作製する方法であって、
a. 1に記載の非多能性プロジェニターを、内胚葉系列への分化を駆動する成分の第1の組み合わせに曝し、それにより内胚葉細胞を得るステップであって、成分の第1の組み合わせは血清およびwntファミリーメンバーを除外する前記ステップ;および、次いでb. 内胚葉細胞を膵臓の内分泌系列への分化を駆動する成分の組み合わせへ曝し、それにより前記代理膵臓細胞を得るステップ
を含むものである前記方法。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]