(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
超硬合金、サーメット、セラミックス、鋼、又は高速度鋼から造られる基体と、それにPVDプロセスで堆積される単層又は多層の耐摩耗保護被膜とを含み、前記耐摩耗保護被膜の少なくとも1層が、窒化チタンアルミニウム層TixAlyN(ただしx+y=1)であり、その層が、5重量%までの更なる金属を含有することができる工具であって、
前記TixAlyN層が、少なくとも40かつ最高で300の周期的に交互に存在するTix(A)Aly(A)N被膜(A)(ただしx(A)+y(A)=1)及びTix(B)Aly(B)N被膜(B)(ただしx(B)+y(B)=1)を有する多被膜副構造体であり、
被膜(B)中の前記Al濃度y(B)が、最高で70原子%(y(B)≦0.70)であり、かつ
被膜(B)中の前記Al濃度y(B)が、被膜(A)中の前記Al濃度y(A)よりも10〜25原子%高く(y(B)=(y(A)+0.10)〜(y(A)+0.25))、
前記Tix(A)Aly(A)N被膜(A)中のTi対Alの濃度比x(A):y(A)が、0.40:0.60〜0.60:0.40であり、
前記TixAlyN層が、2500〜4000のビッカース硬さ、長さ10μmにわたって測定される、1.0μm以下の平均表面粗さRa、及び380GPa〜470GPaの弾性係数(E−モジュラス)を有し、かつ、
前記Tix(A)Aly(A)N被膜(A)が、前記Tix(B)Aly(B)N被膜(B)より大きな厚さを有する、
ことを特徴とする、工具。
【背景技術】
【0002】
切削工具、特に金属切削工具は、例えば超硬合金、サーメット、セラミックス、鋼、又は高速度鋼から造られる基体からなる。工具寿命を増す又は切削特性を向上させるため、多くの場合、硬質材料から造られる単層又は多層耐摩耗保護被膜がCVD又はPVD法によって基体に堆積される。PVD法については、マグネトロンスパッタリング、アーク蒸着法(アークPVD)、イオンプレーティング、電子ビーム蒸着、及びレーザーアブレージョンといった様々な形態の中から選ばれる。マグネトロンスパッタリング及びアーク蒸着法は、工具を被覆するために最も頻繁に使用されるPVD法の一つに数えられる。これら個々のPVD法の形態には、更に非パルス又はパルスマグネトロンスパッタリング、あるいは非パルス又はパルスアーク蒸着法などの様々な改良法が存在する。
【0003】
PVD法のターゲットは、純金属、又は2種類以上の金属の組合せとすることができる。そのターゲットが複数種の金属を含む場合、それらすべての金属が、PVD法で堆積される層中に同時に取り込まれる。形成される層中におけるそれら金属の相互の相対的比率は、ターゲット中の金属の比率に左右されることになるが、幾種類かの金属は、特定の条件下でターゲットから大量に放出され、及び/又は、他の金属と比較して基材上により大量に蒸着されるため、そのPVD法の条件にもまた左右されることになる。
【0004】
特定の金属化合物を生成するためには、反応ガスをPVD法(プロセス)の反応チャンバーに供給する。そのような反応ガスは、例えば窒化物を生成するための窒素、酸化物を生成するための酸素、炭化物を生成するための炭素質化合物、又は、該当する混合化合物、例えば炭窒化物及びオキシ炭化物等を生成するためのガス混合物である。
【0005】
国際公開第96/23911A1号パンフレットは、基材上の耐摩耗保護層について記載している。この層は、基材上に直接被覆する超硬合金の被膜と、それに被覆する一連の10〜1000層の更なる個々の被膜とからなり、それは、個々の層の厚さが1〜30nmの金属硬質材料と共有結合性硬質材料とで交互に構成される。金属硬質材料と共有結合性硬質材料とからなる個々の被膜が周期的に交互に配置されることにより、耐摩耗保護層の機械的及び化学的特性の向上を意図する。
【0006】
国際公開第2006/041367A1号パンフレットは、超硬合金の基材と、PVD法で堆積される被膜とからなる被覆切削工具について記載しており、この被膜は、1.5〜5μmの厚さ及び4〜6GPa超の残留圧縮応力を有するTiAlN被膜を少なくとも1層含む。このTiAlNの被膜は、周知の被膜と比較して、基材により効果的に付着するとされる。
【0007】
欧州特許出願公開第2 298 954A1号明細書は、硬質材料の被膜、例えばTiAlN、TiAlCrN、又はTiAlCrSiNを、堆積中における基材のバイアス電圧を変化させるPVD法により基材に施す、被覆切削工具の生産方法について記載している。この方法により、耐摩耗性が向上され、寿命の長い工具が得られるとされる。
【0008】
フライス加工及び旋削加工のような金属加工工程においては、特に厳しい負荷が工具に課される。この種の工具において、重要なパラメータは、高い硬度、高い弾性係数(Eモジュラス、ヤング率)、及び低い表面粗さである。前述した用途のための周知の切削工具は、PVD法で堆積される被膜、典型的には、400GPa未満の弾性係数及び3500HVまでのビッカース硬さを有するTiAlNの被膜を備える。この種のTiAlN層をアーク法で堆積する場合、アルミニウムの低い融点により、層上及び層内に、いわゆる溶滴を形成する傾向があり、これは被膜の性能に悪影響を与える。堆積工程のパラメータを適切に選択することにより、PVD法において、硬さ及び弾性係数を増加させることができるが、これは、層中に約3GPaを超える高い残留圧縮応力を生じさせ、切れ刃の安定性に悪影響を与える。高応力下において、切れ刃が早い段階でチッピングを起こしやすく、それにより、工具の急激な摩耗が引き起こす。
【発明を実施するための形態】
【0012】
驚くべきことに、本発明のようなTiAlN層、すなわち、Ti対Alの濃度比が異なるTiAlN被膜を周期的に交互に重ねた被膜は、濃度比が交互に変化しない従来のTiAlNの被膜よりも高い硬度及び高い弾性係数を有し、その際、周知のTiAlN層において観察されるような、層中の残留圧縮応力を大幅に増加させることはないことを見出した。
【0013】
被膜(B)中の最高Al濃度y(B)は70原子%である。被膜(B)中の最高Al濃度y(B)が、被膜(A)中のAl濃度y(A)よりも10〜25原子%高いため、窒化チタンアルミニウム(Ti
xAl
yN)層全体のAl濃度は、70原子%未満である。Alの濃度が高すぎると、比較的軟質な相が形成され、不都合である。
【0014】
本発明者らは一つの理論に拘束されることを望むものではないが、被膜(A)よりも被膜(B)中のアルミニウムの濃度が高いことは、アルミニウムの方がチタンよりもサイズが小さいことにより、その面心立方格子において、より小さい格子定数となり、それによって、残留応力比の変動を生じると考えられる。これは、濃度比を交互に変化させることなく堆積される従来のTiAlN被膜よりも残留圧縮応力が低いことから明らかである。本発明による工具は、耐摩耗性がより高く、かつ寿命がより長いことによって区別され、特に、切れ刃における被膜のチッピングがより少ないことによって区別される。
【0015】
TiAlN層における本発明の被膜構造の有利な効果は、Ti対Alの濃度比が異なるTi
x(A)Al
y(A)N被膜(A)とTi
x(B)Al
y(B)N被膜(B)とを、周期的に交互に少ない層数で存在させた場合にも認められる。本発明のより好ましい実施形態では、耐摩耗保護被膜中の少なくとも1層のTi
xAl
yN層は、
少なくとも40の周期的に交互に存在するTiAlN被膜(A)とTiAlN被膜(B)
を有する。したがって、この実施形態においては、TiAlN層全体は、少なくとも
40のTiAlN被膜(A)と少なくとも
40のTiAlN被膜(B)を含む。すなわち、全部で少なくとも
80のTiAlN被膜を含む。
周期的に交互に存在するTiAlN被膜(A)とTiAlN被膜(B)
を40未満とすることは、従来技術よりも、高い硬度と弾性係数が得られるという、本発明の利点を享受できない。
【0016】
本発明は次の理論に拘束されるものではないが、本発明の利点は、とりわけ、局所的にきわめて限定された高い残留応力が、TiAlN被膜(A)とTiAlN被膜(B)が交互に存在する部分に沿って、その境界面に集中するものの、外見上は測定することができず、かつ被膜の基材との接着に影響を及ぼさないことに基づくものである考えられる。周期的に交互に存在するTi
x(A)Al
y(A)N被膜(A)とTi
x(B)Al
y(B)N被膜(B)の層の数が少なすぎると、被膜が交互に配列するによって得られる効果を得ることができない。
【0017】
本発明のさらに好ましい実施形態では、耐摩耗保護被膜中の少なくとも1層のTi
xAl
yN層が、多くとも
300の周期的に交互に存在するTiAlN被膜(A)とTiAlN被膜(B)を有する。したがって、この実施形態ではTiAlN層全体は、多くとも
300のTiAlN被膜(A)と多くとも
300のTiAlN被膜(B)、すなわち、全部で多くとも
600のTiAlN被膜を含む。周期的に交互に存在するTiAlN被膜(A)とTiAlN被膜(B)を
300超とすることは、きわめて高い経費と、関連する高いコストをかけなければ生産できない点で不利である。
【0018】
本発明のさらに好ましい実施形態では、Ti
x(A)Al
y(A)N被膜(A)が2〜40nm、好ましくは4〜15nmの範囲内の厚さを有し、かつTi
x(B)Al
y(B)N被膜(B)が1〜20nm、好ましくは2〜7nmの範囲内の厚さを有する。このTiAlN被膜(A)は、好都合にはTiAlN被膜(B)の1.5〜3.0倍の厚さ、好ましくは約2倍の厚さを有する。したがって、高いアルミニウム含量を有する、より薄いTiAlN被膜(B)は、高いアルミニウムの含有を伴い、より厚いTiAlN被膜(A)に続く。
【0019】
本発明は次の理論に拘束されるものではないが、本発明の利点は、とりわけ、より厚いTi
x(A)Al
y(A)N被膜(A)が、より薄いTi
x(B)Al
y(B)N被膜(B)における相の安定化を生み出すことに基づくものと考えられる。Alをより多く含むTi
x(B)Al
y(B)N被膜(B)においては、立方晶TiAlNに加えて、それよりもかなり低い硬さ及び強度を有する六方晶AlNも生成される危険性がある。これらの層が、上述した範囲のような薄い状態である場合、隣接しているTiをより多く含むより厚いTi
x(A)Al
y(A)N被膜(A)が、Alをより多く含むより薄いTi
x(B)Al
y(B)N被膜(B)における立方晶TiAlN相を安定化する。
【0020】
本発明による、Ti対Alの濃度比が異なり、周期的に交互に存在するTi
x(A)Al
y(A)N被膜(A)とTi
x(B)Al
y(B)N被膜(B)は、それらの薄さにもかかわらず透過型電子顕微鏡(TEM)によって検出することができる。この手法は、当分野における当業者に十分によく知られている。
【0021】
本発明のさらに好ましい実施形態では、Ti
x(A)Al
y(A)N被膜(A)中のTi対Alの濃度比x(A):y(A)は、0.40:0.60〜0.60:0.40である。より好ましくは、濃度比x(A):y(A)は、0.45:0.55〜0.55:0.45であり、特に好ましくは、x(A):y(A)は、約0.50:0.50である。Ti
x(A)Al
y(A)N被膜(A)におけるAlの比率が低すぎると、例えば、高温での金属加工の間又は温度変化の間における被膜の熱安定性、すなわち工具の耐久性に悪影響を与える。しかしながら、Ti
x(A)Al
y(A)N被膜(A)における過度に高いAl比率は、被膜の硬さ及び弾性係数に悪影響を与える。
【0022】
本発明によるTiAlN層は、次に述べるPVD法の1つ又は複数により堆積される。堆積される被膜中のアルミニウム濃度の変化は、好都合には、Ti対Alの異なる濃度比を有する様々なTiAl混合ターゲットをPVD装置中に配置し、周期的に基材をそれら様々な混合ターゲットに対向して導入することにより達成することができる。好ましくは、このようなTiAl混合ターゲットを用いる被膜は、アーク蒸着法、マグネトロン法、デュアルマグネトロン法、又はHIPIMS法によって堆積される。好適な混合ターゲットは、被膜(A)については、例えばTi及びAlを50:50の比で、また、被膜(B)については、例えばTi及びAlを33:67の比で含有する。混合ターゲットの濃度比を変えることにより、当然のことながら、堆積される被膜中のTi及びAlの濃度比を様々に変えることができる。別法では、アルミニウム含有量を増加させた混合ターゲットの代わりに、純アルミニウムターゲット又は高濃度アルミニウムターゲットもまた、マグネトロン法、デュアルマグネトロン法、又はHIPIMS法において使用することができる。アーク蒸着法において、純アルミニウムターゲット又は高濃度アルミニウムターゲットが不利であるのは、このPVD法は、低融点であるアルミを液滴にしてしまう危険性があるためである。
【0023】
本発明による工具の好ましい実施形態では、多層被膜構造を有するTiAlN層は、耐摩耗保護被膜の最も外側の層であり、金属加工中に、被加工物と接触する。別法では、このTiAlN層の上に、さらに、硬質材料の層を設けることもできる。
【0024】
さらに別の実施形態では、TiAlN層上の少なくとも一部の領域に、薄い摩耗検知層、好ましくは0.1〜1.5μmの厚さを有するTiN又はCrN層が設けられる。前述した類いの摩耗検知層は、それ自体、周知であり、主として装飾的な層として機能し、さらに/あるいは、工具がすでに使用されているか、どの程度使用されているか、使用中に生じた摩耗の程度を示す。この薄い摩耗検知層は、工具の使用中に検知可能に摩耗し、比較的激しい摩耗があった場合、その下にある、一般的には色が異なる耐摩耗保護層が現れる。
【0025】
本発明による工具の更なる好ましい実施形態では、TiAlN層は、ビッカース硬さ2500〜4000HV(0.015)、好ましくは3000〜3500HV(0.015)を有する。幾何学的に画定された切れ刃を用いる切削工程のうち、旋削及びフライス加工は、硬さ、靱性、耐摩耗性、及び熱安定性に関し、その工具材に課される最も厳しい要求を有するものであるので、本発明によるTiAlN層の高い硬さは、金属加工、とりわけ旋削及びフライス加工において際立った利点を有する。低すぎる硬さは、被膜の耐摩耗性が下がるという欠点を有する。高すぎる硬さは、被膜の靱性が低下し、かつ被膜が脆くなるという欠点を有する。
【0026】
本発明による工具の更なる好ましい実施形態では、TiAlN層は、380GPa〜470GPa、好ましくは420GPa〜460GPaの弾性係数を有する。機械加工中に外部から工具に応力が加わる場合、層及び基材中に機械的応力が生じ、その弾性係数を超える前記応力の程度は、導入される弾性変形と関係がある。層の弾性係数が低すぎる場合、使用中の工具の機械的変形時に、層の内部に低い応力が生じ、それにより、層が切削力のうちの僅かな割合しか吸収できないという欠点につながる。しかしながら、高すぎる弾性係数は、機械的変形を生じた際、過度に高い力が層全体に伝わり、その結果、層が早期に破損するおそれがある。
【0027】
すでに述べたように、特定の金属加工用途、特に旋削及びフライス加工、とりわけ断続切削による金属加工用途の場合、高い硬さと高い弾性係数の組合せは特に有利である。高い硬さは、高い耐摩耗性を保証する。しかしながら、高い硬さは、一般的に脆性の増大を伴う。高い弾性係数は、同時にその材料が比較的低い脆性を有すること、例えば断続切削中に断続的に発生する高い機械的応力を、よりよく補うことを保証する。本発明によるTiAlN層は、これらの有利な特性を有する工具の耐摩耗保護被膜として提供される。
【0028】
硬さ及びE−モジュラス(より正確には、いわゆる減少E−モジュラス(reduced E−modulus)は、ナノインデンテーションによって測定される。この測定法では、Vickersによるダイヤモンド圧子を層中に押し込み、測定中の荷重−変位曲線(force−displacement curve)を記録する。次いで、この曲線から試験体の機械的特性、とりわけ硬さ及び(減少)E−モジュラスを計算することができる。本発明による層の硬さ及びE−モジュラスを求めるに際し、Helmut Fischer GmbH,Sindelfingen,Germany製のFischerscope(登録商標)H100 XYpを使用した。くぼみの深さは層の厚さの10%を超えてはならない。そうでないと、基材の特性が測定値に誤差を生じさせるおそれがある。
【0029】
本発明の層における残留応力は、X線回折によって測定することができる。この点については、一次、二次、及び三次の残留応力に分けることができ、これら応力は、それらの範囲内、すなわち層の付着に与える影響の範囲内で異なる。それは、層中の一次及び二次残留応力が過度にならない、すなわち、せいぜい−5GPa(圧縮応力)であれば、層が工具に付着することにとって有利であることを示す。
【0030】
本発明による工具の更なる好ましい実施形態では、TiAlN層は、、1.0μm以下、好ましくは0.5μm以下の平均表面粗さRaを有し、そのRaは長さ10μmにわたって測定される。PVD法の堆積パラメータを適切に選択すると、堆積されるTiAlN被膜が溶滴になる頻度を顕著に減少させることができ、その結果、堆積層の平均表面粗さRaは小さくなる。したがって、後続する表面平滑化工程にかける手間を顕著に軽減しても、コーティング後に機械加工の最適条件を充分に達成できる。それにより、硬質で微細な材料による周知の噴射加工法、すなわち、研削又はブラシ研磨法が、層を堆積した後の工具の表面を平滑化するのに適している。
【0031】
工具の表面を平滑化するのに適した方法は、例えば直径70〜110μmのガラスビーズ50%及び直径40〜70μmのガラスビーズ50%からなるブラスト処理媒体を用いて、約2.5バールの圧力で行う、ガラスビーズによるウェットブラストである。その適切な噴射時間は、所望の表面平滑度を調べることによって決められる。フライス加工用の直径10mmのソリッド超硬合金工具において、噴射時間は、例えば、約10秒である。
【0032】
工具の表面を平滑化する更なる好適な方法は、ドラッグフィニッシングである。好適な研磨材は、例えばヤシ殻の粒状材料であり、研磨材としての微粒ダイヤモンド粉末と粘着性の油を含む。
【0033】
ウェットブラストは、後処理に特に適しており、例えば、粒度が280/320のコランダムを液体に溶かし、濃度を18%にした研磨材を用いる。ここで、噴射圧力は、約1.5〜2バールとするのが好都合であり、その噴射方向及び角度は、工具の種類及びサイズにより設定される。
【0034】
表面粗さについては、スローアウェイ切削インサートを、HOMMEL−ETAMIC GmbH,Schwenningen,Germany製の測定装置Hommel−ETAMIC TURBO WAVE V7.32で測定した(プローブ:TKU300−96625_TKU300/TS1、測定範囲:80μm、測定長:4.8mm、速度:0.5mm/秒)。
【0035】
本発明の更なる好ましい実施形態では、工具は、3〜10μmの範囲内、好ましくは5〜7μmの範囲内の刃半径を有する丸切れ刃を備える。切れ刃の半径が小さすぎると、刃がすぐに欠ける危険性がある。切れ刃の半径が大きすぎると、切削力が高くなりすぎ、工具寿命及びチップ形状に悪影響を与える。
【0036】
本発明による工具は、被覆ソリッド超硬合金工具として、又は被覆スローアウェイ切削インサートとして構成され得る。
【0037】
さらに、本発明の利点、特徴、及び実施形態を、次の実施例に基づいてより詳細に説明する。
【実施例】
【0038】
(実施例1:シャンク工具)
この実施例では、ソリッド超硬合金(SHM)エンドミル(いわゆる「Tough Guys」)に、本発明による被膜を、また、従来技術による比較用の被膜を施し、それらの被覆された工具を切削試験で比較した。
【0039】
1)ソリッド超硬合金(SHM)エンドミルの仕様
直径:10mm
切れ刃の数:4
切れ刃の長さ:直径の200%
ねじれ角:50
o
横断切れ刃のレーキ角:13.5
o
主切れ刃のレーキ角:10.5
o
基材:平均粒度が0.8μmのWCと10重量%のCo粘結剤を含む微粒子超硬合金
【0040】
被覆前に、先ず、ガラスビーズによるウェットブラストを基材に施して切れ刃を丸め、Rを7μmにした。
【0041】
2)本発明の被膜の生成
先ず、基材表面に、Ti−Al混合ターゲット(Ti:Al=50:50)を用いたア−ク蒸着法により、厚さ0.2μmのTiAlN中間被膜を堆積した(バイアス:100V、4Paの窒素、0.8A/cm
2の電流密度、蒸着温度:550℃)。その上に、本発明の耐摩耗保護被膜を、合計2μmの層厚で、これもまたアーク蒸着法によって堆積した。Ti:Alが50:50である4個のTi−Al混合ターゲットと、Ti:Alが33:67である2個のTi−Al混合ターゲットを同時に用いて堆積した(バイアス:60V、4.5Paの窒素、両方の種類のターゲットに対して0.8A/cm
2の電流密度、蒸着温度:550℃)。基材は回転テーブル上に導かれ、異なる種類のターゲットに対向させた。全体で、90層のTi
x(A)Al
y(A)N被膜(A)(ただしTi:Al=50:50)及び90層のTi
x(B)Al
y(B)N被膜(B)(ただしTi:Al=33:67)が、周期的に交互に堆積され、これらTi
x(A)Al
y(A)N被膜(A)は、それぞれ約15〜19nmの厚さを有し、またこれらTi
x(B)Al
y(B)N被膜(B)は、それぞれ約3〜6nmの厚さを有した。その後、最後に、最も外側の被膜を、Ti:Alが33:67であるTi−Al混合ターゲットを用いて、アーク蒸着法によって層厚0.1μmで堆積した(バイアス:40V、3.0Paの窒素、0.8A/cm
2の電流密度、蒸着温度:550℃)。
【0042】
3)比較被膜の生成
単層TiAlN耐摩耗保護被膜を、基材表面に、Ti:Alが33:67であるTi−Al混合ターゲットを用いて、アーク蒸着法によって合計2.5μmの層厚で堆積した(バイアス:80V、1.5Paの窒素、蒸着温度:550℃、2A/cm
2の電流密度)。
【0043】
4)切削試験1
これらの被覆工具をフライス加工試験で比較し、平均逃げ面摩耗V
b及び最大逃げ面摩耗V
bmaxを、各ケースの2回の試験からの平均として求めた。試験の結果を次の表1に示す。
【0044】
被加工物:1.7225/42CrMo4鋼(焼入れ、焼戻しにより約850N/mm
2)
切削条件:刃送りf
z=0.07mm
切削速度v
c=170m/分
切削幅a
e=4mm
切削深さa
p=8mm
CL5%による冷却(=冷却用潤滑油5%を含むエマルション)
【0045】
平均逃げ面摩耗V
b>0.2mm又は最大逃げ面摩耗V
bmax>0.25mmにおいて機械加工は中断され、その時の結果は(./.)によって表した。
【0046】
【表1】
【0047】
(実施例2:シャンク工具)
この実施例では、実施例1の場合と同様、ソリッド超硬合金(SHM)エンドミル(いわゆる「Tough Guys」)に、本発明による被膜を、また、従来技術による比較用の被覆を施し、それらの被覆された工具を切削試験で比較した。被覆されたエンドミルは、実施例1と比較して、形状を異なるものとした。
【0048】
被覆前に、先ず、ガラスビーズによるウェットブラストを基材にかけて切り刃を丸め、Rを7μmにした。
【0049】
1)ソリッド超硬合金(SHM)エンドミルの仕様
直径:3mm
切れ刃の数:3
切れ刃の長さ:直径の200%
ねじれ角:50
o
横断切れ刃のレーキ角:13.5
o
主切れ刃のレーキ角:10.5
o
基材:平均粒度が0.8μmのWCと10重量%のCo粘結剤を含む微粒子超硬合金
【0050】
2)切削試験2
これらの被覆工具をフライス加工試験で比較し、平均逃げ面摩耗V
b及び最大逃げ面摩耗V
bmaxを、各ケースの2回の試験からの平均として求めた。試験の結果を次の表2に示す。
【0051】
工作物:1.0503/C45鋼、強度約600N/mm
2
切削条件:刃送りf
z=0.02mm
切削速度v
c=141m/分
切削幅a
e=1.2mm
切削深さa
p=2.4mm
CL5%による冷却(=冷却用潤滑油5%を含むエマルション)
【0052】
平均逃げ面摩耗V
b>0.2mm又は最大逃げ面摩耗V
bmax>0.25mmにおいて機械加工は中断され、その時の結果は(./.)によって表した。
【0053】
【表2】
【0054】
(実施例3:シャンク工具)
この実施例では、被覆される工具基材は、実施例1の場合と同一である。同様に、先ず、基材表面に、Ti−Al混合ターゲット(Ti:Al=50:50)を用いたからアーク蒸着法により、厚さ0.2μmのTiAlN中間被膜を堆積した(バイアス:100V、4Paの窒素、0.8A/cm
2の電流密度、蒸着温度:550℃)。
【0055】
実施例1とは異なり、本発明の耐摩耗保護被膜を、Ti:Alが50:50である2個の混合ターゲットを用いて、アーク蒸着法によって合計2μmの層厚で堆積し(電流密度2A/cm
2)、また、TiAlN被膜(A)と周期的に交互に存在するTiAlN被膜(B)中のアルミニウム含有量を、2個のAlターゲットを用いて、デュアルマグネトロンスパッターリング(比出力13W/cm
2)によって増加させた(バイアス:80V、1.5Paの窒素、蒸着温度:550℃)。実施例2と同様に、90層のTi
x(A)Al
y(A)N被膜(A)(ただしTi:Al=50:50)及び90層のTi
x(B)Al
y(B)N被膜(B)(ただしTi:Al=33:67)が、周期的に交互に堆積され、これらTi
x(A)Al
y(A)N被膜(A)は、それぞれ約15〜19nmの厚さを有し、またこれらTi
x(B)Al
y(B)N被膜(B)は、それぞれ約3〜6nmの厚さを有した。
【0056】
(実施例4:スローアウェイ切削インサート)
この実施例では、強度が880N/mm
2である42CrMo4鋼からなる四角形の基礎形状を有するスローアウェイ切削インサートP2808に、本発明による被膜を、また、従来技術による比較用の被膜を施し、それらの被覆された工具を切削試験で比較した。
【0057】
被覆前に、先ず、コランダムによるウェットブラストを基材に施して切れ刃を丸め、Rを30μmにした。
【0058】
1)本発明による被膜の生成
先ず、基材表面に、Ti−Al混合ターゲット(Ti:Al=50:50)を用いたアーク蒸着法により、厚さ0.2μmのTiAlN中間被膜を堆積した(バイアス:100V、4Paの窒素、1.0A/cm
2の電流密度、蒸着温度:550℃)。その上に、本発明の耐摩耗保護被膜を合計2μmの層厚で、これもまたアーク蒸着法によって堆積した。Ti:Alが50:50である4個のTi−Al混合ターゲットと、Ti:Alが33:67である2個のTi−Al混合ターゲットを同時用いて堆積した(バイアス:60V、4Paの窒素、両方のターゲットに対して1.0A/cm
2の電流密度、蒸着温度:550℃)。基材は回転テーブル上に導かれ、それら異なる種類のターゲットに対向させた。全体で、90層のTi
x(A)Al
y(A)N被膜(A)(ただしTi:Al=50:50)及び90層のTi
x(B)Al
y(B)N被膜(B)(ただしTi:Al=33:67)が、周期的に交互に堆積され、これらTi
x(A)Al
y(A)N被膜(A)は、それぞれ約15〜19nmの厚さを有し、またこれらTi
x(B)Al
y(B)N被膜(B)は、それぞれ約3〜6nmの厚さを有した。その後、最後に、最も外側の被膜を、Ti:Alが33:67であるTi−Al混合ターゲットを用いて、アーク蒸着法により、層厚0.1μmで堆積した(バイアス:40V、3.0Paの窒素、0.8A/cm
2の電流密度、蒸着温度:550℃)。
【0059】
2)比較被膜の生成
多層被膜(60層の被膜)のTiAlN耐摩耗保護被膜を、基材表面に、Ti:Alが33:67であるTi−Al混合ターゲットを用いて、アーク蒸着法によって合計4.0μmの層厚で堆積した(蒸着温度:450℃、0.8A/cm
2の電流密度)。圧力及びバイアスは、30V及び窒素5Paから60V及び窒素2Paまで変化させた。次いで、厚さ0.1μmのTiN装飾被膜を、Tiターゲットを用いて、0.8Paの窒素、0.8A/cm
2の電流密度、及び100Vのバイアスで堆積した。
【0060】
3)切削試験3
これらの被覆工具をフライス加工試験で比較し、最大逃げ面摩耗V
bmaxを各ケースの2回の試験からの平均として求めた。試験の結果を次の表3に示す。
【0061】
被加工物:1.7225/42CrMo4鋼(焼入れ、焼き戻により約850N/mm
2)
切削条件:送りv
f=120mm/分
刃送りf
z=0.2mm
切削速度v
c=235m/分
フライス加工軌跡 6×800mm
フライス加工は冷却なし
【0062】
【表3】