(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
インペラシェルと、インペラシェルに対して外周部の全周に沿った溶接部にて溶接されるフロントカバーと、インペラシェル及びフロントカバーにより形成される内部空間に収容され、インペラ、タービン及びステータを具備して成る流体式動力伝達装置と、同じく前記内部空間に収容され、ロックアップ動作のため、内部油圧により駆動されて、フロントカバー対向面にクラッチフェーシングを介して係合され、入力側と出力側とを直接動力伝達するピストンプレートとを具備し、ロックアップ動作に際しては、クラッチフェーシングを介してのピストンプレートとフロントカバー対向面との係合は、その間の油膜を介しピストンプレートとフロントカバーとを滑らせるスリップロックアップ動作を経由して行なわれるようにされ、インペラシェルとフロントカバーとは相互に軸方向に嵌合される軸方向筒状突出部を夫々備え、前記溶接部は、インペラシェルとフロントカバーとの一方における径方向外側に位置する軸方向筒状突出部とインペラシェルとフロントカバーとの他方との突当面を全周において溶接するものであり、かつフロントカバーの前記軸方向突出部はフロントカバーのクラッチフェーシングとの前記対向面に近接位置する外周部からインペラシェルに向け突出するよう曲折されていて、フロントカバーのクラッチフェーシングとの前記対向面は前記溶接部と近接位置するようにされ、前記溶接部は、インペラシェルとフロントカバーとを、円周方向において間隔を置いた複数の箇所において接合し、かつ円周方向に延びるレーザ溶接部としての仮止め溶接部と、インペラシェルとフロントカバーとを前記仮止め溶接部も含めた全周において溶接するレーザ溶接部としての全周溶接部とから成り、前記仮止め溶接部は、全周溶接部の溶接時に各仮止め溶接部における溶肉の凝固状態が一部でいつも維持される円周方向長を有し、これによりフロントカバーのクラッチフェーシングとの前記対向面における円周方向の平面度を高め所期のスリップロックアップ動作を行ない得るようにしたトルクコンバータ。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
安定なスリップロックアップのためにクラッチフエーシングとフロントカバーとの間の油膜の圧力を一定にすることが必要であり、このためクラッチフエーシングと対向するフロントカバーの部位の平面度が重要であるが、インペラシェルとフロントカバーとの溶接は内部の密閉のため全周にて行う必要があり、その大きな入熱はクラッチフエーシングと対向するフロントカバーの部位に熱歪下でうねりを生じさせ、その平面度を悪化させる懸念があり、平面度の悪化はクラッチフエーシングとフロントカバーとの間における油膜の圧力の変動を大きくし、安定なスリップロックアップ動作を損なうことになる。特許文献2や特許文献3においてはインペラシェルとフロントカバーとは筒状部同士における挿入構造とし、アーク溶接は応力集中の起こり難い筒状部において行われており、この筒状部でのインペラシェルとフロントカバーとの溶接構造はクラッチフエージングと対向するフロントカバー面の平面度悪化やボス座面の平面度悪化の問題に対する幾分の対策となり得たが、入熱が大きいアーク溶接では上記問題に対する完全な対策たり得なかった。また溶接ビードによるトルクコンバータ隣接部品への干渉の問題があった。また、特許文献4は筒状のインペラシェルに対する板状のフロントカバーの接合のためのレーザ溶接の採用を示すが、それ以上のものではなく、もとより上記問題点を解決を意図したものではなく、また解決のための示唆を与え得るものでもなかった。
【0005】
本発明は本発明はこのような従来の問題点を解決し、インペラシェルとフロントカバーとの溶接時の入熱に係らず、クラッチフエーシングと対向したフロントカバーの部位の所期の平面度の維持を図ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1発明によれば、インペラシェルと、インペラシェルに対して外周部の全周に沿った溶接部にて溶接されるフロントカバーと、インペラシェル及びフロントカバーにより形成される内部空間に収容され、インペラ、タービン及びステータを具備して成る流体式動力伝達装置と、同じく前記内部空間に収容され、内部油圧により駆動されて、フロントカバー対向面にクラッチフェーシングを介して係合され、入力側と出力側とを直接動力伝達するピストンプレートとを具備し、インペラシェルとフロントカバーとは相互に軸方向に嵌合される軸方向筒状突出部を夫々備え、前記溶接部は、インペラシェルとフロントカバーとの一方における径方向外側に位置する軸方向筒状突出部とインペラシェルとフロントカバーとの他方との突当面を全周において溶接するレーザ溶接部であるトルクコンバータが提供される。好ましくは、レーザ溶接部は突当面より径方向内側の軸方向筒状突出部に一部食い込むように延設されており、また、レーザ溶接ビームは矩形断面のもの、特に、縦長が突当面に沿った方向に延びる細長矩形断面のものであることが好ましい。
【0007】
第1発明を実施するレーザ溶接方法にあっては、インペラシェルとフロントカバーとはその軸方向筒状突出部を軸方向にて嵌合し、インペラシェルとフロントカバーとの一方における径方向外側に位置する軸方向筒状突出部とインペラシェルとフロントカバーとの他方との対向面が突当られ、突当部に外周よりレーザビームを当て、全周に沿ってレーザ溶接することにより突当面間にレーザ溶接部を形成している。
【0008】
本発明の第2の発明によれば、また、インペラシェルと、インペラシェルに対して外周部の全周に沿った溶接部にて溶接されるフロントカバーと、インペラシェル及びフロントカバーにより形成される内部空間に収容され、インペラ、タービン及びステータを具備して成る流体式動力伝達装置と、同じく前記内部空間に収容され、内部油圧により駆動されて、フロントカバー対向面にクラッチフェーシングを介して係合され、入力側と出力側とを直接動力伝達するピストンプレートとを具備し、前記溶接部は、インペラシェルとフロントカバーとを、円周方向において間隔を置いた複数の箇所において接合し、かつ円周方向に延びる仮止め溶接部と、インペラシェルとフロントカバーとを前記仮止め溶接部も含めた全周において溶接する全周溶接部とから成るトルクコンバータが提供される。
【0009】
第2発明の実施である溶接構造を得るための溶接方法にあっては、第1段階の溶接工程として、インペラシェルとフロントカバーとは、円周方向において間隔を置いた複数の箇所にて溶接することで仮止めを行い、第2段階の溶接工程として、インペラシェルとフロントカバーとの接合部に沿った全周に沿ってかつ仮止めされた箇所についてはこれと重なるように溶接を行い、この第2段階の溶接に際して、第1段階の溶接工程で仮止めされた各箇所については、溶肉の凝固状態が一部でいつも維持されるように溶接が行われるようにされる。第1段階の溶接工程における各溶接箇所において溶肉は円周方向に沿って延在するようにされることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
第1発明におけるレーザ溶接の採用は、入熱の集中の結果、筒状部同士の溶接であり応力集中が生じ難いことも相俟って、ボスナットの座面や摩擦材の平面度悪化の問題が生ずることはない。そのため、溶接工程後の熱歪が低減され、クラッチフェーシングと摺動するフロントカバー面のうねりを低減することができる。そのため、所期のスリップロックアップ動作を行うことができ、燃料消費効率の向上を図ることができる。また、レーザ溶接はアーク溶接と異なりビードは生じないため、インペラシェルとフロントカバーとの筒状部同士のアーク溶接の場合にトルクコンバータ隣接部品への干渉の原因となり得るため必要であったビード研削といった事後の追加的作業を省くことができる。レーザ溶接部を突当部を超えて半径内側の軸方向突出部に一部貫入させた構造はせん断特性の向上に有利である。また、ビーム形状が矩形断面を呈するレーザ溶接はビーム幅の適当な選定によりインペラシェルとフロントカバーとの突当面の円周方向の避け得ない位置変動及び幅変動にかかわらず所期の品質の溶接接合を確保することができる。効率的なレーザエネルギ利用の観点からはレーザビームは縦長の矩形断面のものを採用し、矩形断面の縦長方向を突当面に沿った方向とさせる配置が好適である。レーザ溶接として半導体溶接を採用することにより、そのビーム強度の均一性により、より一層高い溶接品質を得ることができる。また、レーザビームを矩形断面とすることにより所望ビーム強度を確保しつつ許容公差範囲内で変化する突当部の全域をカバーし得る広い照射面積を確保することができ、インペラシェルとフロントカバーとの突当部の確実な溶接を行うことができる。
【0011】
第2発明によれば、インペラシェルとフロントカバーとの外周部の溶接は、第1段階としての、円周方向において間隔を置いた複数の箇所にて溶接することで仮止め溶接と、第2段階としての、全周での溶接との2段階で行われる。そのため、第1段階の各仮溶接部位に重ねて行われる第2段階の溶接はその各部位で溶肉の凝固状態が一部ではいつも維持されるように行われるため、第1段階の溶接部における各部位での仮止め状態を維持することができるため、仮止めの効果が損なわれることがなく、第2段階の全周溶接完了後における最終的な熱歪が低減され、クラッチフェーシングと摺動するフロントカバー面のうねり低減することができる。そのため、所期のスリップロックアップ動作を行うことができ、燃料消費効率の向上を図ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1はこの発明の実施形態におけるトルクコンバータを軸線に沿った断面にて示しており、10はインペラシェルであり、インペラシェル10にフロントカバー12(インペラシェル10と素材を同様とする鋼板のプレス成形品)が後述のように全周にてレーザ溶接部11にて接合され、外部に対して密閉された内部空間が形成される。この内部空間に流体式動力伝達装置13とロックアップ装置14とが収容される。流体式動力伝達装置13は周知のようにインペラ15、タービン16及びステータ17を基本的構成要素とする。タービン16はハブ18上のタービン支持プレート19に固定され、ハブ18は内周面にスプライン18-1を形成している。他方、インペラシェル10の内周側に固定されるスリーブ20に、周知のように、変速機の図示しない入力軸が
図1の左側より挿入され、入力軸の先端がハブ18のスプライン18-1に嵌合される。ロックアップ装置14は出力側回転部材であるドリブンプレート22(ハブ18にタービン支持プレート19と共にリベット24にて供締めされる)と、入力側回転部材であるドライブプレート26と、周知のように、円周方向に離間して複数設けられ、ドリブンプレート22とドライブプレート26とを周知のように円周方向に弾性連結するダンパスプリング28と、ダンパスプリング28と共に移動される中間部材であるイコライザプレート29とからなる。更に、ドライブプレート26はハブ18上を摺動可能なピストンプレート30にリベット31にて固定される。ピストンプレート30の外周面にクラッチフエーシング(摩擦材)32がフロントカバー12と微小間隙にて対向するように設置される。外周側のダンパスプリング28に加え、内周側にもダンパスプリング33が設けられ、外周側のダンパスプリング28と同様に内周側ダンパスプリング33もドリブンプレート22とドライブプレート26とを円周方向に弾性連結し、スプリング28による緩衝域より高弾性域において回転変動の抑制を行うように機能する。フロントカバー12は外面にボスナット34を溶接(アーク溶接)固定しており、このボスナット34に、周知のように、エンジンの出力軸と一体回転する回転プレート35がボルト36にて連結・固定される。そして、
図2においてクラッチフエーシング32に対向するフロントカバー12の表面における環状部位12Aは粗面をなしている。
【0014】
以上の構成はトルクコンバータとしては周知のものであり、エンジンの出力軸の回転は回転プレート35よりフロントカバー12及びインペラシェル10を介してインペラ15に伝達され、インペラ15よりタービン16、タービン16からステータ17を介しインペラ15に循環されるオイルの流れにより回転トルクはハブ18を介して図示しない変速機の入力軸に伝達される。また、ロックアップ時には前後差圧によってピストンプレート30がフロントカバー12側に移動され、クラッチフエーシング32がフロントカバー12の対向面と摩擦係合することによりエンジン出力側と変速機入力側が直結される。また、内周、外周のダンパスプリング28, 33は回転変動に応じてドリブンプレート22とドライブプレート26との相対回転を許容し、相対回転が小さいときの小弾性率の外周側ダンパスプリング28、相対回転が大きくなったときの高弾性率の内周側ダンパスプリング33の夫々による振動吸収機能が達成される。内、外周のダンパスプリング28, 33を備えたスプリングダンパの構成及び作用は特許文献6に開示のものと実質的に同様である。
【0015】
次に、ロックアップ機構におけるクラッチフエーシング32とこれに対向するフロントカバー12との間のロックアップ動作について
図2を参照してより詳細に説明すると、非ロックアップ状態におけるクラッチフエーシング32とフロントカバー12との対向部は部分的に拡大して
図2(a)に示され、クラッチフエーシング32は摩擦特性の良好な特殊な紙を素材とし、ピストンプレート30のフロントカバー12に対向するピストンプレート30の面上に環状に固着されている。クラッチフエーシング32を固着したピストンプレート30の面30-1はトルクコンバータ中心線C(
図1)に鉛直なフロントカバー12の表面に対して外周側に対し内周側が後退するように幾分の傾斜をなしている。そのため、ピストンプレート30の面30-1に固定されたクラッチフエーシング32もフロントカバー対向面に対して同様な傾斜を呈している。従って、クラッチフエーシング32がフロントカバー12の対向面から離間した非ロックアップ状態においてはフロントカバー12とクラッチフエーシング32との間の隙間Sの大きさは外周側が小さく内周側が大きくなっている。フロントカバーの表面におけるクラッチフエーシング32と対向した部位12Aは粗面化されている。
【0016】
次に、本発明におけるロックアップ動作について説明すると、ロックアップ前は
図2(a)に示すように、ピストンプレート30はフロントカバー12の対向面から離間して位置しており、ピストンプレート30は回転はしているがフロントカバー12とは差回転が大きい状態にある。ロックアップ域への移行のため、ピストンプレート30に前後の差圧をかけて行くとピストンプレート30はフロントカバー12に向けて摺動移動される。そして、このとき、ピストンプレート30にかかる圧力は未だ小さいため、ピストンプレート30はその姿勢を維持したまま、フロントカバー12の対向内面における粗面部位12Aに油膜を介して軽く押し付けられる。そして、ピストンプレート30の未だ低い回転数とフロントカバー12の大きな回転数との差の下でスリップロックアップ状態に移行するが、ピストンプレート30の面30-1の傾斜故に、フロントカバー12との接触は
図2(b)に示すように対向面が滑りながら主にクラッチフエーシング32の外周部において起こる。このときのスリップロックアップ状態は低押し付け力及び高差回転下でのスリップロックアップとなる。スリップロックアップにおいてはロックアップクラッチによる動力伝達も行われるが、トルクコンバータによる動力伝達機能もまだ効いており、両者の並存下での動力伝達となる。そして、クラッチフエーシング32と接触するフロントカバー12の環状領域12Aは粗面をなしているためクラッチフエーシング32とフロントカバー12との間の油膜の良好な切れを得ることができ、良好なスリップロックアップを得ることができる。
【0017】
スリップロックアップ域への移行によりピストンプレート30の回転数が大きくなってゆき、また、ピストンプレート30にかかる動力伝達油の圧力が大きくなると、高押し付け力及び低差回転下でのスリップロックアップ領域に入る。このとき、ピストンプレート30はクラッチフエーシング32を介してフロントカバー12の接触面を起点として変形するため、ピストンプレート30は
図2(c)に示すように、中心部がフロントカバー側に変形し、ピストンプレート30の面30-1(クラッチフエーシング32の表面)は(a)(b)に示す当初の傾斜が解消し、むしろ、クラッチフエーシング32の内周側がフロントカバー12の表面における粗面領域12Aに主として当たる。このときにおいても、クラッチフエーシング32と接触するフロントカバー12の環状領域12Aは表面が粗面をなしているためクラッチフエーシング32とフロントカバー12との間の油膜の良好な切れを得ることができ、良好なスリップロックアップを得ることができる。そして、押し付け力がさらに上昇し、ロックアップピストンとフロントカバーとの差回転が完全に消失すると完全ロックアップ動作に移行する。
【0018】
次に、インペラシェル10とフロントカバー12とのレーザ溶接による溶接部11の構成を説明する。溶接部11は後述するように第1段階での仮止め溶接と、その後の第2段階での全周溶接(本溶接)とから構成される。溶接部11は
図1−
図3に示すようにインペラシェル10はフロントカバー12の側が筒状部10-1を構成し、フロントカバー12もインペラシェル10の側が筒状部12-1を構成する。
図3に拡大して示すようにインペラシェル10の筒状部10-1の先端部が外径側において肉を取られた内側筒状突出部10-1Aを形成し、他方、フロントカバー12の筒状部12-1の先端部は内径側において肉を取られた外側筒状突出部12-1Aを形成し、インペラシェル10の内側筒状突出部10-1Aとフロントカバー12の外側筒状突出部12-1Aとが相互に軸方向に嵌合され、本実施形態では後述のようにインペラシェル10の筒状部10-1に対する外側筒状突出部12-1Aの突当面にレーザビームが照射され、溶接部11が形成される。
【0019】
図4はインペラシェルとフロントカバーとの間に軸方向の嵌合構造を持つ特許文献2及び3における溶接構造を模式的に示すが、この場合、溶接方法は溶肉部の形状からアークであると推認され、溶接部111はインペラシェルの筒状部10-1に対するフロントカバーの外側筒状突出部112-1Aの突当面に位置しており、外面はビード111Aが盛り上がった構造となっている。また、アーク溶接部111は内側筒状突部110-1Aの外面に留まっており、内側筒状突出部110-1Aの中まで食い込む(貫通する)構造は見られない。この従来のアーク溶接による溶接部111による問題点として、溶接時の入熱によるフロントカバー12(
図2)のクラッチフエーシング32との対向部の平面度の悪化がある。即ち、アーク溶接では被溶接部の隣接部位への入熱が大きく、クラッチフエーシング32との対向部においてフロントカバー12に熱歪を発生させ、この熱歪特に、クラッチフエーシング32との対向面12Aにおいてフロントカバー12の平面度が悪化する。面12Aの平面度の悪化は、ロックアップ制御、特にロックアップ制御開始時にクラッチフエーシング32をこれに対向するフロントカバー12の表面に対して滑らせる前述したスリップロックアップ制御に悪影響を及ぼす。即ち、フロントカバー表面12Aのうねりの存在は所謂くさび効果により油膜の圧力変動を大きくし、所期のスリップロックアップ制御ができなくなる。また、クラッチフエーシング32との対向部におけるフロントカバー12の悪化した平面度はクラッチフエーシング32との摺動抵抗(クラッチフエーシングとフロントカバー12の対向部位との隙間はあまり大きくできないため被係合状態でも多少の摺動抵抗は発生する)を大きくするため、クラッチフエージング32を構成する摩擦材として耐力の大きなものを必要とする。また、アーク溶接による溶接部に隣接した部位への大きな入熱は、ボスナット34の座面34A(
図1の回転プレート35の取付け面)の平面度も悪化させる。従って、溶接時の熱歪を考慮し、ボスナット34の座面34Aの見込み加工(想定される熱歪に合わせてボスナット34の座面34Aをテーパ状に切削加工し、熱歪によって座面34Aが平行となるように補正を行う加工)を行う必要が出てくる。更に、溶接ビードによるトルクコンバータ隣接部品への緩衝の問題もある。即ち、アーク溶接の場合、
図4に示すように溶接ビード111Aが必ず発生し、溶接ビード111Aの盛り上がりは、外側の部品との干渉の懸念があるため(干渉ラインをLにて模式的に示す)、この干渉ラインLを超えないように、溶接ビード111Aの盛り上がり部分を除去するための切削加工が後工程として必要となる。
【0020】
これに対し、本実施形態では突当面の溶接はアーク溶接ではなくレーザ溶接によっている。即ち、
図3において、インペラシェル10の内側筒状突出部10-1Aとフロントカバー12の外側筒状突出部12-1Aとが相互に軸方向に嵌合され、インペラシェル10の筒状部10-1に対する外側筒状突出部12-1Aの突当面がレーザ溶接による溶接部11を構成する。この溶接部11は突当面間を半径内方に延びていることはもとより、径方向内側の内側筒状突出部10-1Aに一部食い込むように延設されている。レーザ溶接部11は内側筒状突出部10-1Aに部分的に貫通するようになっている。レーザ溶接はその高いエネルギ密度によって溶接ビームの貫徹力が大きく、このような貫通溶接が実現可能であり、せん断強度の保証が可能となる。そして、フロントカバー側の板厚(フロントカバー12の外側筒状突出部12-1Aの肉厚)を薄くし、溶着面積を大きく確保することによりせん断強度の向上に繋げることができる。また、インペラシェル10とフロントカバー12とを圧入構造(インペラシェル10の内側筒状突出部10-1Aとフロントカバー12の外側筒状突出部12-1Aとを圧入構造)とし、これにより溶接隙間が非常に狭くなりボイド等の溶接不良の対策となる。尚、図示した実施形態のようにフロントカバー先端(外側筒状突出部12-1A)をインペラシェルに突当構造とする代わりに、インペラシェル先端をフロントカバーに突当構造とする(外側筒状突出部をインペラシェル10側、内側筒状突出部をフロントカバー12側とする)ことも可能である。
【0021】
レーザ溶接においてはエネルギ密度が高いためビームを被溶接部(突当部)に熱を集中させることができ、溶接部以外の部位への入熱(フロントカバー12側への入熱)が少なく、クラッチフエーシング32に対するフロントカバー12の平面度が維持されるため、クラッチフエーシング32との摺動抵抗が小さく維持され、クラッチフエーシング32として耐力の大きなものを必要としない(クラッチフエーシング32のコスト低減)。また、ボスナット34の座面34Aの平面度を維持することができるため、アーク溶接の場合は必要であったボスナット34の座面(回転プレート35の取付け面)の見込み加工工程を省略することができる(加工コストの低減)。加えて、レーザ溶接においては、溶接ビードの盛り上がりは殆ど生じない(被溶接部と面一に維持される)ため、溶接ビードはそのままにしておいても外側の部品との干渉ラインLに対し
図3に示すように余裕があり、これを超えてしまう懸念がない(アーク溶接で必要であったビード部の切削加工が不要でありこの分の加工コストの低減)。
【0022】
インペラシェル10とフロントカバー12との接合部の溶接は内部に作動油を封入する必要上全周において行う必要がある。溶接すべきインペラシェル10とフロントカバー12との対向面間に残る隙間(
図3ではフロントカバー12の筒状部12-1の外側筒状突出部12-1Aとこれに対向するインペラシェル10の筒状部10-1との間の隙間)は平均的には0.2mm程度であるが、許容範囲内の突当部の隙間の大きさ変動及び隙間位置の変動更にはレーザ溶接機の位置ずれ、平面度、軸直角度の各々の公差を考慮すると、これらを全てカバーするように、レーザビームにより直接照射溶融される範囲にその両側の直接照射部位からの熱伝導により溶融される範囲を付加したトータルの範囲が最低限0.6mm程度は得られることが溶接品質の確保のため必要である。
図5はインペラシェル10とフロントカバー12との突当面間の隙間を円周方向に展開して模式的に示しており、インペラシェル10とフロントカバー12間の突当面間の隙間(合わせ目)Gは円周方向に一定ではなく或る程度の範囲で変化しており、また、突当面の位置も一定ではなく、レーザトーチから発生される溶接ビームとしてはこの変動範囲の隙間において所望の溶接品質を得ることができるものであることが必要である。そこで、本発明の実施においては円周方向における突当面の変動範囲をカバーするようにビームスポットの形状として矩形のものを採用している。そして、矩形断面のレーザビームについては例えばYAGレーザに関しては特開2011−18823号公報等に記載があるが、ビームスポットの広い矩形断面における強度分布が均一な観点において本発明の実施においては半導体レーザの採用が好ましい。このような半導体レーザとして市販のものとしては例えばエンシュウ株式会社製のL1型レーザ溶接装置(出力4KW)を採用することができる。即ち、半導体レーザにおいてもレーザ発信器により得られるレーザビームの断面は円形断面であるが、クラッドにより被覆された縦長矩形断面の光ファイバコアを有するビーム形状変換器を通過させるとき、コアとクラッドとの界面での全反射を繰り返すことによりレーザビーム断面を縦長矩形断面形状に変換することができる。即ち、
図6においてビーム形状変換器(図示せず)により得られたこのような縦長矩形断面形状のレーザビームを40にて示し、縦長矩形断面形状のレーザビーム40は集光レンズ42により集光され、インペラシェル10とフロントカバー12間の突当面に照射(照射位置でのレーザビームを40Aにて示す)され、
図1−
図3のレーザ溶接部11を得ることができる。
図5において、レーザビームの縦長矩形断面形状のインペラシェル10とフロントカバー12間の突当面間の隙間Gに対する位置関係が示され、レーザビーム40の縦長矩形断面における縦長Lの方向が突当面間の隙間Gに沿うような位置関係となっている。この位置関係は矩形断面のレーザエネルギの効率的利用のため重要である。即ち、上述L1型レーザ溶接装置によるレーザビーム40の縦長矩形断面は1.6mm×0.4mmといった極細長形状であり、溶接方向(円周方向)における被溶接部の各一点を想定すると、この各一点におけるレーザエネルギの照射を受ける時間の実質的最長(その点で受ける照射レーザエネルギの総量の実質的最大)はレーザビーム40の縦長矩形断面における縦長Lの方向を突当部に沿うように配置することにより得ることができるからである。そして、突当面間の溶肉の形成はレーザビームが直接当たることにより溶融が行われることと、この溶融部からの伝導熱により溶融されること、とが合併して行われる。換言すれば、レーザビーム40の縦長矩形断面形状における縦長L分に熱伝導効果により溶融される分を上下に付加した範囲(上述L1型レーザ溶接装置の場合上下に夫々0.5mm程度の範囲)において溶接が行い得る。レーザビームによる直接加熱分に伝熱による加熱分を付加した溶接範囲の上下縁の軌跡は想像線M
1, M
2にて示される。上述のように、突当面間の隙間Gはその位置及び大きさが円周方向に沿って変動があるが、隙間Gが全周に亘って軌跡M
1, M
2の内側に位置するようにレーザビーム40の矩形断面における縦長Lが選定され、これにより全周に亘ってのインペラシェル10とフロントカバー12間の突当面間の完全密閉溶接が可能となる。
【0023】
レーザビームの強力な貫徹力により溶接部11は
図3に示すようにインペラシェルの筒状部10-1に対するフロントカバー12の外側筒状突出部12-1Aの突当面を超えて、先端部11-1がインペラシェル10の内側筒状突出部10-1Aに部分的に食い込むようにされ(貫入深さ=d)、せん断に対する高い強度を得ることができる。
【0024】
図7は変形実施形態を示し、
図1−
図3に示すレーザ溶接部11に加えて、第2のレーザ溶接部44を設けたものである。この第2のレーザ溶接部44も全周に設けられ、レーザ溶接部11から軸方向に離間して、フロントカバー12の外周よりその外側筒状突出部12-1Aを貫通し、インペラシェル10の内側筒状突出部10-1Aに少し食い込むようにされる。この実施形態では溶接部を2箇所に設けることで、せん断に対する一層高い強度を得ることができる。
【0025】
本実施形態においては、レーザ溶接部11の形成は、従来と同様であるが、仮止めと本止めとの2段階にて行う。以下、この2段階溶接について説明すると、第1段階の仮止めにおいてはインペラシェル10に対し、フロントカバー12を円周方向に離間した例えば3箇所において局部的な溶接(仮止め)を行う。
図8はインペラシェル10の筒状部10-1に対するフロントカバー12の外側筒状突出部12-1Aの突当部における横断面図(
図1のVIII-VIII線に沿ったインペラシェル10及びフロントカバー12の横断面図)を示す。
図3によって説明したように溶接時にインペラシェル10の筒状部10-1とフロントカバー12の筒状部12-1とは、内側筒状突出部10-1Aと外側筒状突出部12-1Aとの間で相互に挿入され、インペラシェル10の筒状部10-1に対するフロントカバー12の筒状部12-1の外側筒状突出部12-1Aの突当部においてレーザ溶接が行われる。
図8において、仮止め溶接部をWpにて示し、インペラシェル10とフロントカバー12との突当部Gに
図6のようにレーザビーム40を当てることで、突当部のレーザ溶接が行われる。この実施形態では
図8に示すように仮止め溶接部Wpは円周方向に120度の等間隔で3箇所において行われる。また、溶接部の円周方向における部分的展開形状を
図9に示す。
図9ではインペラシェル10とフロントカバー12との溶接時の合わせ目G(インペラシェル10の筒状部10-1に対するフロントカバー12の外側筒状突出部12-1Aの突当部)は本来は円周方向で隙間が一定でなく、またその位置も変動があるが、説明の便宜上に直線にて表している。そして、仮止めのための溶接部Wpはインペラシェル10とフロントカバー12との溶接時の合わせ目Gに沿って細長く延びている。従来も仮止めは行われていたのであるが、従来の仮止め溶接部の形状はWp´で示すように点状であったが、本発明において仮止め溶接部Wpを合わせ目Gに沿って円周方向に細長く延在させたことが相違点である。このような仮溶接部Wpの形状は本溶接の際に仮止め部においてインペラシェル10とフロントカバー12が相対的に動いてしまい仮止めの効果が消失することを防止することに役立つ。
【0026】
本溶接は円周方向における適当な位置から開始され、
図8ではレーザビーム溶接の場合は溶接ビーム40がインペラシェル10とフロントカバー12との合せ目に沿って円周方向に矢印fのように移動させて行く事で本溶接Wrが開始されている様子が分かる。
図9(a)(b)(c)(d)(e)は全周での本溶接部Wrの形成過程を円周方向に展開された合せ目Gに沿って模式的に示すが、
図9(a)〜(e)を通じて、溶接部における白抜き部分を溶融部分とし斜線部分を凝固部分とする。
図9(a)は一つの仮止め溶接部を示し、本溶接は未だ行われていない状態を示す。
図9(b)では本溶接部Wrは仮止め溶接部Wpの手前に位置するが、本溶接が少し進んだ(c)の位置では本溶接部Wrの先端部分が仮止め溶接部Wpの先端部分にかかっており、このとき仮止め溶接部Wpの先端部分は本溶接部Wrからの熱により完全に溶融状態(白抜きにて表す)となるが、仮止め溶接部Wpの溶融は全体ではなく仮止め溶接部Wpの前方部分は凝固状態(斜線)のままである。本溶接は(d)では更に進行し、下側の仮止め溶接部Wpとの重なりが大きくなるが、仮止め溶接部Wpの前方部はまだ凝固状態のままであり、他方、(c)で一旦溶融した仮止め部分(最初に本溶接と重なった部分)は本溶接部分と共に凝固状態(斜線)に戻っている。そして、(e)では本溶接部の溶接アークは一箇所の仮止め溶接部Wpを完全に通過しており、前方側部位において仮止め溶接部Wpは溶融状態(白抜き)であるが、下流側部位における再凝固部分は更に広がっている。従って、当初
図9(a)の仮止め溶接部Wpにより固定化した部位におけるインペラシェル10とフロントカバー12との間の固定状態(仮止め状態)は(b)−(e)の本溶接の過程を通じて維持される。このように本発明では仮止め溶接部Wpを溶接時の合わせ目Gに沿って細長くすることによって本溶接の進行にかかわらず第1段階の溶接で仮止めを受けた各部位はその一部が必ず凝固状態であるため、仮止め溶接部においてインペラシェル10とフロントカバー12との相対位置は固定されたままであり、仮止め効果を維持することができる。これに対し、従来の点溶接による仮止めの場合、本溶接の熱によって仮止め溶接部(
図9(a)のWp´)が完全に溶融してしまい、その仮止め部位でインペラシェル10とフロントカバー12との相対位置はフリーとなるため、仮止め効果がその部位で消失してしまい、仮止め効果としては弱くなってしまっていた。
図10はこの本発明の仮止め溶接方式と従来の仮止め溶接方式とで本溶接後のフロントカバーのクラッチフエーシング対向面(
図2の12A)の平面度の測定結果を示す。仮止め部位は円周方向で0度、120度及び240度の3箇所とし、平面度の測定値は基準値(零点)に対するプラス若しくはマイナス方向における変位量として表示している。本発明仮止め方法(a)によって従来の仮止め方法(b)との比較で平面度の向上(うねり縮小)が得られることが分かる。これにより、スリップロックアップにおけるクラッチフエーシング32とフロントカバー12との間の油膜における圧力変動を抑え、クラッチフエーシング32とフロントカバー12とを油膜を介して滑らせるスリップロックアップ下での良好な動力伝達を確保することができる。また、熱歪低減のためのトルクコンバータに組立完了後の二次加工の廃止若しくは最小化を図ることができる。
【0027】
本実施形態におけるインペラシェル10とフロントカバー12との仮止め及び本止めの2段階からなる溶接部の形成、特に、仮止め溶接部Wpを円周方向に細長くし、本止め溶接時に仮止め溶接が一部を必ず凝固した状態に維持する溶接方式は、溶接方式をレーザ溶接に限定せず、電子ビーム方式やアーク溶接によって行ってもレーザ溶接による
図9及び
図10に関連して説明した効果に準じた効果を奏することができる。