(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
シリンダと、前記シリンダ内を往復移動するプランジャと、前記シリンダ及び前記プランジャによって区画される加圧室と、フィードポンプによって燃料タンクから汲み出された低圧燃料を前記加圧室に供給する低圧燃料通路と、前記加圧室で加圧された高圧燃料が吐出される高圧燃料通路とを備える高圧ポンプ及び前記フィードポンプを制御するポンプ制御装置であって、
請求項5に記載の燃料温度推定装置を備えており、前記燃温推定部にて前記高圧ポンプ内の燃料温度を推定するとともに、
前記燃温推定部で推定された前記高圧ポンプ内の燃料温度が高いときほど前記フィードポンプの吐出圧を増大させるフィード圧制御部を備える
ことを特徴とするポンプ制御装置。
【発明を実施するための形態】
【0027】
(第1実施形態)
以下、機関燃料系の燃料温度の推定に用いる適合係数の適合方法、燃料温度推定装置、及びポンプ制御装置の第1実施形態について、
図1〜
図5を参照して説明する。
【0028】
<内燃機関の燃料系の構成>
図1に示すように、本実施形態の制御装置が適用される車載用の内燃機関の燃料系は、燃料タンク10内に設置された電動式のフィードポンプ12や、内燃機関のシリンダヘッドカバーに設置された高圧ポンプ18などを備えている。
【0029】
フィードポンプ12を駆動する電力は、内燃機関のクランクシャフトによって駆動されるオルタネータによって発電されている。フィードポンプ12には、燃料タンク10から汲み出した燃料が吐出される低圧燃料配管11が接続されており、低圧燃料配管11におけるフィードポンプ12の燃料吐出口との接続部分には、燃料の逆流を防止する逆止弁13が設けられている。また、低圧燃料配管11における逆止弁13の上流側の部分には、燃料を濾過するフィルタ14が設けられている。
【0030】
さらに、燃料タンク10内には、リリーフ弁16が設けられてもいる。リリーフ弁16は、低圧燃料配管11内の燃圧が規定のリリーフ圧を上回ったときに開弁して、低圧燃料配管11内の燃料を燃料タンク10にリリーフする。
【0031】
低圧燃料配管11は、内燃機関が搭載されたエンジンルーム内において、2つの通路に分岐され、分岐された通路の一方は低圧側デリバリパイプ17に、もう一方は高圧ポンプ18に設けられた低圧燃料通路44にそれぞれ接続されている。低圧側デリバリパイプ17には、内燃機関の各気筒の吸気ポートにそれぞれ設置された、気筒別のポート噴射用の低圧燃料噴射弁19がそれぞれ接続されている。また、低圧側デリバリパイプ17には、その内部の燃圧である低圧側燃圧Pfを検出する低圧側燃圧センサ20が取り付けられている。なお、低圧側燃圧Pfは、高圧ポンプ18に設けられた低圧燃料通路44内の低圧燃料の圧力と同一である。
【0032】
一方、高圧ポンプ18の低圧燃料通路44の途中には、燃料室21が設けられており、この燃料室21の内部には燃圧脈動を減衰させるためのパルセーションダンパ23が設置されている。この燃料室21は、高圧ポンプ18においてフィードポンプ12から吐出された低圧燃料が流れる低圧燃料通路44の一部を構成している。
【0033】
さらに、高圧ポンプ18は、シリンダ40と、内燃機関のカムシャフト25に設けられたカム26の回転に応じてシリンダ40内を往復移動するプランジャ27と、シリンダ40及びプランジャ27によって区画される加圧室22とを備えている。
【0034】
プランジャ27の末端にはカム26に当接しながら回転するカムフォロワ43が設けられており、カムフォロワ43とカム26との接触面には、オイルジェット50から内燃機関の潤滑油が供給されている。
【0035】
燃料室21と加圧室22とは、電磁スピル弁24を介して接続されている。電磁スピル弁24は、通電に応じて閉弁する常開式の弁で、開弁時には、燃料室21と加圧室22とを連通し、閉弁時には、それらの連通を遮断する。
【0036】
さらに加圧室22には、高圧ポンプ18内に設けられてチェック弁28を有する高圧燃料通路45が接続されており、この高圧燃料通路45は高圧側デリバリパイプ30に接続されている。また、上記高圧燃料通路45には、上記チェック弁28を迂回するリターン燃料通路46が接続されており、リターン燃料通路46の途中にはリリーフ弁29が設けられている。
【0037】
チェック弁28は、加圧室22内の燃圧が高圧側デリバリパイプ30内の燃圧よりも規定の吐出開始圧以上に高くなったときに開弁して、加圧室22から高圧側デリバリパイプ30への燃料吐出を許容する。リリーフ弁29は、高圧側デリバリパイプ30内の燃圧が加圧室22内の燃圧よりも規定のリリーフ開始圧以上に高くなったときに開弁して、高圧側デリバリパイプ30から加圧室22への燃料のリリーフを許容する。
【0038】
高圧側デリバリパイプ30には、内燃機関の各気筒にそれぞれ設置された、気筒別の筒内噴射用の高圧燃料噴射弁31がそれぞれ接続されている。また、高圧側デリバリパイプ30には、その内部の燃圧である高圧側燃圧Pmを検出する高圧側燃圧センサ32が取り付けられている。なお、高圧側燃圧Pmは、加圧室22で加圧された高圧燃料の燃料圧力と同じである。
【0039】
高圧ポンプ18の加圧動作は、以下のようにして行われる。なお、以下の説明では、カム26によるプランジャ27の往復動における、加圧室22の容積を拡大する方向への移動をプランジャ27の下降と記載し、加圧室22の容積を縮小する方向への移動をプランジャ27の上昇と記載する。
【0040】
電磁スピル弁24が開弁した状態でプランジャ27が下降すると、加圧室22の容積が拡大し、低圧燃料配管11を通じてフィードポンプ12から燃料室21に送られた燃料がその容積の拡大に応じて加圧室22内に吸引される。プランジャ27が下降から上昇に転じると、加圧室22の容積が次第に縮小するようになる。このとき、電磁スピル弁24が開弁したままであると、加圧室22に吸引された燃料が燃料室21に押し戻される。こうしたプランジャ27の上昇中に、電磁スピル弁24への通電を開始して同電磁スピル弁24を閉弁すると、加圧室22が密閉され、その内部の燃圧がプランジャ27の上昇に応じて上昇するようになる。そして、加圧室22内の燃圧が、高圧側デリバリパイプ30内の燃圧よりも吐出開始圧以上に高くなるまで上昇すると、チェック弁28が開いて、加圧室22内の燃料が高圧側デリバリパイプ30に吐出される。
【0041】
こうした高圧ポンプ18における高圧側デリバリパイプ30への高圧燃料の吐出量は、プランジャ27の上昇期間における電磁スピル弁24の通電開始時期を変更することによって調整される。
【0042】
こうした燃料系を有する内燃機関は、電子制御ユニット33により制御されている。電子制御ユニット33は、機関制御のための各種演算処理を行う中央演算処理装置、制御用のプログラムやデータが予め記憶された読出専用メモリ、中央演算処理装置の演算結果やセンサの検出結果などを一時的に記憶する読み書き可能メモリを備える。そして、電子制御ユニット33は、高圧ポンプ18内の燃料温度を推定する燃温推定部33Aや、フィードポンプ12の作動を制御するフィード圧制御部33B、高圧ポンプ18の作動を制御する制御部などを備えている。なお、上記燃温推定部33A、フィード圧制御部33B、及び高圧ポンプ18の作動を制御する制御部などを備える電子制御ユニット33は、燃料温度推定装置やポンプ制御装置を構成している。
【0043】
電子制御ユニット33には、上述の低圧側燃圧センサ20、高圧側燃圧センサ32に加え、クランク角センサ34、エアフロメータ35、アクセルペダルセンサ36、吸気温センサ37、水温センサ38、油温センサ39などの各種センサの検出信号が入力されている。なお、クランク角センサ34は、内燃機関のクランクシャフトの回転位相を検出し、エアフロメータ35は、内燃機関の吸入空気量GAを検出する。また、アクセルペダルセンサ36は、運転者のアクセルペダルの踏み込み量ACCPを検出する。また、吸気温センサ37は内燃機関に吸入される吸気の温度である吸気温度THAを検出し、水温センサ38は内燃機関の冷却水の温度である冷却水温THWを検出し、油温センサは内燃機関の潤滑油の温度である油温THOを検出する。
【0044】
そして、電子制御ユニット33は、それらセンサの検出結果に基づき、高圧ポンプ18に設けられた電磁スピル弁24の通電開始時期を制御して同高圧ポンプ18の作動制御を行う。また、電子制御ユニット33は、それらセンサの検出結果に基づき、フィードポンプ12の作動制御を行う。また、電子制御ユニット33は、低圧燃料噴射弁19や高圧燃料噴射弁31の通電制御を通じて内燃機関の燃料噴射制御も行う。なお、電子制御ユニット33は、クランク角センサ34の検出結果から機関回転速度NEを、エアフロメータ35及びアクセルペダルセンサ36の検出結果から機関負荷KLをそれぞれ演算して求めている。
【0045】
<燃料の噴き分け>
電子制御ユニット33は、低圧燃料噴射弁19及び高圧燃料噴射弁31による燃料の噴き分けを実施して噴射態様を変化させる。例えば、低回転低負荷領域では低圧燃料噴射弁19によるポート噴射のみを行い、中負荷中回転領域では低圧燃料噴射弁19及び高圧燃料噴射弁31の双方を用いたポート噴射及び筒内噴射を行う。そして、高負荷高回転領域では高圧燃料噴射弁31による筒内噴射のみを行う。こうした燃料の噴き分けは、機関運転状態に基づいて設定される燃料噴射量Qのうちで低圧燃料噴射弁19から噴射させる燃料量の割合を示すポート噴射割合Rpを種々変更することにより実行される。
【0046】
ポート噴射割合Rpは、機関負荷KLや機関回転速度NE等の機関運転状態に基づき「0≦Rp≦1」の範囲内で可変設定され、燃料噴射量Qに対してポート噴射割合Rpを乗算した結果得られる燃料量が低圧燃料噴射弁19の燃料噴射量として設定される。一方、「1」からポート噴射割合Rpを減じた値が、燃料噴射量Qのうちで高圧燃料噴射弁31から噴射させる燃料量の割合を示す筒内噴射割合Rdとして算出される(Rd=1−Rp)。そして、燃料噴射量Qに対して筒内噴射割合Rdを乗算した結果得られる燃料量が高圧燃料噴射弁31の燃料噴射量として設定される。
【0047】
<高圧ポンプ18のベーパロック>
上述したような噴き分けなどにより、高圧燃料噴射弁31による燃料噴射が停止されて、高圧ポンプ18の加圧動作の頻度が低減されると、高圧ポンプ18の燃料はほとんど入れ替わらなくなる。高圧ポンプ18は、内燃機関の運転中に高温となるカム室内に設置されているため、燃料の入れ替わりがないと、高圧ポンプ18内の燃料が高温化してベーパが発生することがある。
【0048】
高圧ポンプ18内の燃料にベーパが発生すると、電磁スピル弁24を閉弁した状態でプランジャ27が上昇しても、ベーパが圧縮されるだけで、液体の燃料はほとんど加圧されなくなる。そのため、高圧ポンプ18が加圧動作を行っても、燃料の加圧が行われなくなる、いわゆるベーパロックの状態となり、高圧側デリバリパイプ30への燃料供給が滞るようになってしまう。
【0049】
ここで、
図2に示すように、高圧ポンプ18内の燃料温度が高くなるほど、ベーパの発生を抑えるために必要な最低燃圧PFLは高くなっていくため、高圧ポンプ18内の燃料温度が高いときほどフィードポンプ12から吐出される低圧燃料の燃圧、つまりフィード圧が高くなるようにすれば、上述したベーパロックの発生を抑えることができる。
【0050】
そこで、電子制御ユニット33は、下記のフィード圧制御を通じて、そうした高圧ポンプ18のベーパロックに対処している。以下、こうしたベーパロックの解消にかかる制御の詳細を説明する。
【0051】
<フィードポンプ12のフィード圧制御>
電子制御ユニット33のフィード圧制御部33Bは、高圧ポンプ18内の燃料温度が高いときほどフィードポンプ12のフィード圧が高くなるようにフィードポンプ12の作動を制御する。
【0052】
具体的には、電子制御ユニット33は、上記燃温推定部33Aにて高圧ポンプ18内の燃料温度の推定値である燃温推定値Tfを算出する。そして、電子制御ユニット33のフィード圧制御部33Bは、燃温推定値Tfに基づいてフィードポンプ12の目標フィード圧FPを設定する。そして、フィード圧制御部33Bは、上記低圧側燃圧Pfと目標フィード圧FPとの偏差に基づき、それらの偏差が縮小するようにフィードポンプ12の吐出圧を制御する。
【0053】
先の
図2に示すように、電子制御ユニット33のフィード圧制御部33Bは、燃温推定値Tfが予め設定された第1燃温Tf1よりも低い場合には、第1燃温Tf1での上記最低燃圧PFLよりもやや高い燃圧である第1燃圧P1を上記目標フィード圧FPに設定する。また、燃温推定値Tfが、上記第1燃温Tf1以上であって且つ上記第1燃温Tf1よりも高い温度に設定された第2燃温Tf2未満の場合には、第2燃温Tf2での最低燃圧PFLよりもやや高い燃圧である第2燃圧P2を上記目標フィード圧FPに設定する。そして、燃温推定値Tfが上記第2燃温Tf2以上の場合には、第2燃圧P2よりも所定圧だけ高い第3燃圧P3を上記目標フィード圧FPに設定する。なお、上記第1燃圧P1、上記第2燃圧P2、及び上記第3燃圧P3は、予めの実験等によって最適な値が予め設定されている。
【0054】
こうしたフィード圧制御の実行により、燃温推定値Tfが高くなるについてフィードポンプ12のフィード圧は段階的に高められていき、こうしたフィード圧の増大によって高圧ポンプ18内の燃料の圧力も高められていくため、高圧ポンプ18内の燃料温度が高くなっても、ベーパロックの発生は抑えられる。
【0055】
<燃温推定値Tfの算出>
電子制御ユニット33の上記燃温推定部33Aは、上記フィード圧制御を行うために上記燃温推定値Tfを、以下に説明する高圧ポンプ18での熱授受を示す式に基づき、所定周期毎(例えば数ms毎)に算出する。
【0056】
まず、高圧ポンプ18のカムフォロワ43には、オイルジェット50から潤滑油が供給されているため、潤滑油から高圧ポンプ18には受熱による熱伝達が起きて高圧ポンプ18の温度は上昇する。この受熱による熱伝達量を熱伝達量Qo[J/s]とする。
【0057】
また、高圧ポンプ18から周囲の空気には放熱による熱伝達が起きて高圧ポンプ18の温度が低下する。この放熱による熱伝達量を熱伝達量[J/s]Qaとする。
また、高圧ポンプ18に流入した燃料によって高圧ポンプ18は冷却されるため、高圧ポンプ18の温度が低下する。こうした高圧ポンプ18内に流入する燃料の熱量と高圧ポンプ18内から流出した燃料の熱量との差を熱量差Qf[J/s]とする。
【0058】
また、高圧ポンプ18からは熱が発生するため、このときの単位時間当たりの発熱量を発熱量Qhp[J/s]とする。
そして、高圧ポンプ18内に存在する燃料の温度は高圧ポンプ18の温度とほぼ等しくなることから、高圧ポンプ18での熱授受は、上記の各熱伝達量、熱量差、発熱量、及び燃温推定値Tf等を使った次式(1)に示すモデル式で表すことができる。
【0059】
Qo+Qa+Qf+Qhp=Mhp・Chp・(Tf−Tfold) …(1)
Mhp:高圧ポンプの質量[g]
Chp:高圧ポンプの比熱[J/g・K]
Tf:現在の高圧ポンプ内の燃温推定値[K]
Tfold:前回推定された高圧ポンプ内の燃温推定値[K]
潤滑油から高圧ポンプ18に伝わる熱伝達量Qoは、次式(2)で表すことができる。なお、式(2)から分かるように、潤滑油の温度が燃料温度よりも高いときには、熱伝達量Qoは正の値になる。
【0060】
Qo=Koil・Sp1・(THO−Tfold) …(2)
Koil: 潤滑油と高圧ポンプとの間の熱伝達係数[J/m2・K・s]
Sp1:潤滑油と高圧ポンプとが接触する部分の表面積[m2]
THO:油温[K]
高圧ポンプ18から周囲の空気に伝わる熱伝達量Qaは、次式(3)で表すことができる。
【0061】
Qa=Kair・Sp2・(Tahp−Tfold) …(3)
Kair:高圧ポンプと空気との間の熱伝達係数[J/m2・K・s]
Sp2:高圧ポンプと空気とが接触する部分の表面積[m2]
Tahp:雰囲気温度(高圧ポンプ周りの空気の温度)[K]
なお、式(3)から分かるように、燃料温度が雰囲気温度Tahpよりも高いときには、熱伝達量Qaは負の値になる。また、内燃機関が搭載された車両が走行しているときには、高圧ポンプ18の周囲に存在する空気の流速が車速に変化に合わせて変化する。そのため、高圧ポンプ18と空気との間の熱伝達係数Kairは、車速に応じて変化させることが好ましい。
【0062】
ここで、雰囲気温度Tahpは、次式(4)に基づき、吸気温度THA及び冷却水温THWを利用して推定可能なことを本発明者は確認しているため、上記式(3)に次式(4)を代入すると、式(3)は次式(5)になる。なお、式(4)の重み付け係数Khpの値については、雰囲気温度Tahpが実際の温度に近づくように適合試験等を別途行い、その結果から得られた適合値が設定されている。
【0063】
Tahp=(1−Khp)・THA+Khp・THW …(4)
Khp:重み付け係数
THA:吸気温度[K]
THW:冷却水温[K]
Qa=Kair・Sp2・{((1−Khp)・THA+Khp・THW)−Tfold} …(5)
上記熱量差Qfは、高圧ポンプ18に流入する燃料の温度Tfinと前回推定された高圧ポンプ18内の燃料の温度(燃温推定値Tfold)との差、及び高圧ポンプ18に流入する燃料の流量Fhpに相関するため、次式(6)で表すことができる。
【0064】
Qf=Cfu・(Tfin−Tfold)・Fhp …(6)
Cfu:燃料の定圧比熱[J/g・K]
Tfin:高圧ポンプに流入する燃料の温度[K]
Fhp: 高圧ポンプに流入する燃料の流量[g/s]
(*高圧燃料噴射弁の単位時間(秒)当たりの燃料噴射量[g/s]で代用)
なお、通常は、前回推定された高圧ポンプ18内の燃温推定値Tfold、つまり高圧ポンプ18から流出した燃料の温度よりも、高圧ポンプ18に対して新たに流入してくる燃料の温度Tfinの方が低い。そのため、式(6)から分かるように、熱量差Qfは基本的に負の値になる。
【0065】
ここで、高圧ポンプに流入する燃料の流量は、高圧燃料噴射弁31の燃料噴射量と相関しており、燃料噴射量が増大すると高圧ポンプ18に流入する燃料の流量は増大する。そこで、そうした高圧ポンプ18に流入する燃料の流量Fhpを示すパラメータとして、単位時間当たりの高圧燃料噴射弁31の燃料噴射量を利用している。なお、高圧ポンプに流入する燃料の温度Tfinは、燃料配管における燃料の熱授受をモデル化した式を構築し、その構築した式を使って推定することができる。また、高圧ポンプに流入する燃料の温度Tfinは、温度センサを使って実際に検出することも可能である。ここで、本発明者は、高圧ポンプに流入する燃料の温度Tfinが吸気温度THAと相関していることを、実験を通じて確認している。そこで、本実施形態では、高圧ポンプ18に流入する燃料の温度Tfinとして、簡易的に吸気温度THAを代用するようにしており、式(6)の「Tfin」を「THA」に置き換えると、式(6)は次式(7)になる。
【0066】
Qf=Cfu・(THA−Tfold)・Fhp …(7)
Cfu:燃料の定圧比熱[J/g・K]
THA:吸気温度[K]
Fhp: 高圧ポンプに流入する燃料の流量[g/s]
(*高圧燃料噴射弁の単位時間(秒)当たりの燃料噴射量[g/s]で代用)
高圧ポンプ18での発熱量Qhpは、次のようにして求めることができる。
【0067】
すなわち、プランジャ27がシリンダ40内を往復移動するときには、プランジャ27とシリンダ40とが摺動することによって摩擦熱が発生する。また、プランジャ27の往復速度は機関回転速度NEに依存し、機関回転速度NEが高くなるほど摩擦熱の発生量は多くなる。そのため、この摩擦熱による単位時間当たりの発熱量を発熱量Qhp[J/s]とすると、発熱量Qhpは、次式(8)で表すことができる。
【0068】
Qhp=Kh・NE^Kn …(8)
Kh:適合係数
NE:機関回転速度[r.p.m]
Kn:適合係数(例えば「1」など)
ここで、上記式(8)に示されるように、発熱量Qhpは機関回転速度NEに相関する関数になっている。そこで、内燃機関の機関回転速度NEを許容最高回転速度NEMAXにまで上昇させた状態での高圧ポンプ18での単位時間当たりの発熱量を予めの実験等を通じて計測しておき、その計測値を、高圧ポンプ18で発生する単位時間当たりの最大発熱量QhpMAXとして設定する。そして、許容最高回転速度NEMAXに対する現状の機関回転速度NEの比率(NE/NEMAX)を算出し、その算出された比率を上記最大発熱量QhpMAXに乗算する。
【0069】
こうした算出を行うことにより、現状の機関回転速度NEにおける発熱量Qhpを簡易的に求めることができる。なお、こうした算出を行う際には、その算出式に予め設定された適合係数を組み込むことにより、発熱量Qhpの算出値を実際の発熱量により一層近づけることができる。そこで、上記式(8)を使った高圧ポンプ18での発熱量Qhpの算出に代えて、次式(9)に基づいて発熱量Qhpを求めている。
【0070】
Qhp=Kpfhp・QhpMAX・(NE/NEMAX)^Kn …(9)
Kpfhp:適合係数
QhpMAX:許容最高回転速度NEMAXにおいて
高圧ポンプで発生する単位時間当たりの最大発熱量[J/s]
NE:機関回転速度[r.p.m]
NEMAX:内燃機関の許容最高回転速度[r.p.m]
Kn:適合係数(本実施形態では「1」に設定)
そして、上記式(1)に上記式(2)、上記式(5)、上記式(7)、上記式(9)を代入する。また、適合係数Kohp、Kahp、Kfhp、Kpfhpを、「Kohp=(Koil・Sp1)/(Mhp・Chp)」、「Kahp=(Kair・Sp2)/(Mhp・Chp)」、「Kfhp=Cfu/(Mhp・Chp)」、「Kpfhp=Kpfhp1/(Mhp・Chp)」と定義する。そうすることで、式(1)は次式(10)に変形することができる。
【0071】
Tf=(1−Kahp−Kfhp・Fhp−Kohp)・Tfold+Kahp・Khp・THW+Kohp・THO+Kahp・(1−Khp)・THA+{Kpfhp・QhpMAX・(NE/NEMAX)^Kn}+Kfhp・Fhp・THA …(10)
この式(10)を用いて、電子制御ユニット33の上記燃温推定部33Aは燃温推定値Tfを算出する。すなわち、前回の推定周期で推定された高圧ポンプ18内の燃温推定値Tfoldと、今回の推定周期において取得した値であって燃料温度に相関して種々変化する各種パラメータ、すなわち冷却水温THW、油温THO、吸気温度THA、機関回転速度NE、及び高圧ポンプ18に流入する燃料の流量Fhpを上記式(10)に代入して、今回の推定周期における燃温推定値Tf(現在の高圧ポンプ18内の燃料温度の推定値)を算出する。
【0072】
なお、上記燃温推定部33Aは、機関始動時に取得した冷却水温THW及び油温THO及び吸気温度THAのうちでもっと高い温度を、機関始動時における燃温推定値Tfの初期値として設定する。
【0073】
<適合係数の適合方法>
ところで、上記式(10)による燃温推定値Tfの算出を行うためには、適合試験を行って適合係数Kohp、適合係数Kahp、適合係数Kfhp、適合係数Kpfhp、及び適合係数Knを設定する必要がある。そこで、本実施形態では、以下のような適合試験を行うことでそれら各適合係数を適合させている。なお、以下では、燃温推定値Tfの算出を行うための適合係数Kohp及び適合係数Kahp及び適合係数Kfhp及び適合係数Kpfhp及び適合係数Knをまとめて適合係数群KGという。
【0074】
まず、先の
図1に示すように、電子制御ユニット33に、適合ユニット100を接続する。この適合ユニット100は、適合試験を行うための各種演算処理を行う中央演算処理装置、制御用のプログラムやデータが予め記憶された読出専用メモリ、中央演算処理装置の演算結果やセンサの検出結果などを一時的に記憶する読み書き可能メモリを備える。そして、適合ユニット100は、適合係数Kohp及び適合係数Kahp及び適合係数Kfhp及び適合係数Kpfhp及び適合係数Knを設定する適合部100Aを備えている。適合部100Aは、互いに異なる方法にて適合係数を最適化して設定する第1設定部110A及び第2設定部120Aを備えている。
【0075】
第1設定部110Aによる適合係数の適合工程では、実際の燃温に対する燃温推定値Tfの誤差ERが予め定められた範囲内に収まるように適合係数を設定する処理、いわば誤差範囲設定による適合が実施される。この第1設定部110Aによる適合方法は後述する。
【0076】
一方、第2設定部120Aによる適合係数の最適化では、最小二乗法を使った適合係数の適合が行われる。こうした最小二乗法による適合係数の適合は周知であるため、その詳細な説明をここでは述べない。
【0077】
適合試験を行う試験者は、適宜用意されたスイッチ操作を通じて第1設定部110A及び第2設定部120Aのうちのいずれか一方を選択し、その選択された設定部を使って適合部100Aは適合係数を最適化する。なお、第1設定部110A及び第2設定部120Aは、適合部100Aによる適合係数の最適化について汎用性を持たせるなどの理由によって設けられており、上記式(10)の適合係数群KGを最適化する際には、第1設定部110A及び第2設定部120Aのどちらを選択してもよい。また、第1設定部110Aのみで適合してもよい。また、第2設定部120Aのみで適合してもよい。また、第1設定部110Aによる適合を実施した後に第2設定部120Aによる適合を行ってもよい。また、第2設定部120Aによる適合を実施した後に第1設定部110Aによる適合を行ってもよい。
【0078】
以下、上記式(10)の適合係数群KGを最適化するために第1設定部110Aを選択した場合の適合態様について説明する。
適合ユニット100と電子制御ユニット33とは接続ケーブルを介して相互にデータ通信を行う。また、適合ユニット100には、高圧ポンプ18内の燃料温度を計測する燃温センサ130が接続されており、この燃温センサ130によって高圧ポンプ18内の燃料温度の実値である燃温計測値TfRが検出される。
【0079】
図3に適合ユニット100の機能ブロック図を示す。この
図3に示すように、適合ユニット100は、機関運転中において所定のサンプリングタイミングt(i)毎に、燃温センサ130で検出された燃温計測値TfR、冷却水温THW、油温THO、吸気温度THA、機関回転速度NE、燃料の流量Fhpを読み込んで記憶する。また、燃温推定部33Aで算出された燃温推定値Tfも読み込む。
【0080】
なお、上記式(10)の適合係数群KGには初期値が予め設定されており、適合試験の開始時点では、そうした初期値による燃温推定値Tfの算出が行われる。そして、適合試験が開始された以降は、適合部100Aで更新された最新の適合係数群KGを使って燃温推定値Tfの算出が行われる。
【0081】
燃温推定値Tf及び燃温計測値TfRを取得すると、適合部100Aは、燃温計測値TfRに対する燃温推定値Tfの誤差ERを算出する。
より詳細には、燃温推定値Tfから燃温計測値TfRを減算することによって誤差ERを算出する(ER=Tf−TfR)。以下では、こうして算出される誤差ERのことをプラス誤差ERPという。また、適合部100Aは、上記誤差ER(=プラス誤差ERP)を算出すると、その算出した誤差ERに「−1」を乗じた値、つまり「−ER」も同時に算出する。この誤差ERに「−1」を乗じた値(−ER)のことを、以下ではマイナス誤差ERMという。
【0082】
上記プラス誤差ERPは、燃温推定値Tfが燃温計測値TfRよりも高い温度になっている場合には正の値になり、燃温推定値Tfが燃温計測値TfRよりも低い温度になっている場合には負の値になる。
【0083】
上記マイナス誤差ERMは、上記プラス誤差ERPに対して符号が逆になる。そのため、マイナス誤差ERMは、燃温推定値Tfが燃温計測値TfRよりも高い温度になっている場合には負の値になり、燃温推定値Tfが燃温計測値TfRよりも低い温度になっている場合には正の値になる。
【0084】
上記プラス誤差ERP及びマイナス誤差ERMを算出すると、適合部100Aは、試験者によって選択された第1設定部110Aを使って適合係数群KGを最適化し、その最適化された適合係数群KGを燃温推定部33Aに送信する。最適化された適合係数群KGを受信した燃温推定部33Aは、上記式(10)の適合係数群KGの値を、最適化された適合係数群KGの値に更新する。
【0085】
次に、第1設定部110Aによる適合係数群KGの適合工程をより詳細に説明する。
第1設定部110Aは、上述したサンプリング周期毎に、そのサンプリングタイミングt(i)[i=1〜n]における燃温計測値TfR(i)、冷却水温THW(i)、油温THO(i)、吸気温度THA(i)、機関回転速度NE(i)、及び燃料の流量Fhp(i)を取得して記憶する処理を所定期間TDの間実行する。これにより、燃温計測値TfR、冷却水温THW、油温THO、吸気温度THA、機関回転速度NE、及び燃料の流量Fhpが所定の値になっているときの燃料温度の実測値が記憶される。
【0086】
次に、第1設定部110Aは、サンプリングタイミングt(i)における燃温推定値Tf(i)を燃温推定部33Aに算出させる。なお、ここでの燃温推定値Tf(i)の算出は試験ベンチにて行われる。また、第1設定部110Aは、燃温推定部33Aに燃温推定値Tf(i)を算出させるために、冷却水温THW(i)及び油温THO(i)及び吸気温度THA(i)及び機関回転速度NE(i)及び燃料の流量Fhp(i)といった各サンプリングデータを燃温推定部33Aに送信する。そして、第1設定部110Aは、燃温推定部33Aで算出された燃温推定値Tf(i)を受信して、サンプリングタイミングt(i)における燃温推定値Tf(i)及び燃温計測値TfR(i)に基づき上記プラス誤差ERP(i)及び上記マイナス誤差ERM(i)を算出する。
【0087】
図4に示すように、第1設定部110Aは、こうしたプラス誤差ERP(i)及びマイナス誤差ERM(i)の算出を、上述した所定期間TD内で取得した全てのサンプリング値に対して行うことにより、各サンプリングタイミングt(i)毎のプラス誤差ERP及びマイナス誤差ERMを算出する。
【0088】
そして、先の
図4に示すように、第1設定部110Aは、所定期間TD内においてサンプリングタイミング毎のプラス誤差ERPを全て算出すると、その算出したプラス誤差ERPのうちで最大値(
図4に例示するERP(a))を選択し、その選択した値をプラス誤差最大値ξ1(グザイ1)として取得する。つまり燃温計測値TfRに対する燃温推定値Tfの誤差であって、燃温推定値Tfが燃温計測値TfRよりも高い温度になっているときの誤差の最大値をプラス誤差最大値ξ1として取得する。
【0089】
また、先の
図4に示すように、第1設定部110Aは、所定期間TD内においてサンプリングタイミング毎のマイナス誤差ERMを全て算出すると、その算出したマイナス誤差ERMのうちで最大値(
図4に例示するERM(b))を選択し、その選択した値をマイナス誤差最大値ξ2(グザイ2)として取得する。つまり燃温計測値TfRに対する燃温推定値Tfの誤差であって、燃温推定値Tfが燃温計測値TfRよりも低い温度になっているときの誤差の最大値をマイナス誤差最大値ξ2として取得する。
【0090】
こうしてプラス誤差最大値ξ1及びマイナス誤差最大値ξ2を取得すると、第1設定部110Aは、これらプラス誤差最大値ξ1やマイナス誤差最大値ξ2が予め設定された適合条件を満たすように適合係数群KGを最適化して設定する。
【0091】
なお、こうした適合係数群KGの設定に際しては、周知の方法を利用することができる。例えば、値の異なる適合係数群KGを複数用意しておき、そうした適合係数群KGを種々変更することによりプラス誤差最大値ξ1やマイナス誤差最大値ξ2を変化させる。そして、変化させたプラス誤差最大値ξ1やマイナス誤差最大値ξ2のうちで予め設定された適合条件を満たす値が得られた適合係数群KGを適合完了後の適合係数として設定することができる。あるいは、適合係数群KGを変化させたときのプラス誤差最大値ξ1やマイナス誤差最大値ξ2の変化量を取得することにより、適合係数群KGの変化に対するプラス誤差最大値ξ1やマイナス誤差最大値ξ2の変化傾向を分析する。そして、その分析結果を使って、プラス誤差最大値ξ1やマイナス誤差最大値ξ2が予め設定された適合条件を満たすことのできる適合係数群KGを算出、あるいは選択することも可能である。
【0092】
プラス誤差最大値ξ1やマイナス誤差最大値ξ2に対して予め設定された上記適合条件として、本実施形態では、次式(11)に示す適合条件が設定されている。
ERRA≧w1・ξ1+w2・ξ2 …(11)
ERRA:誤差範囲ガード値[K](ERRA≧0)
w1:第1の重み付け係数(本実施形態では「1」に設定)
w2:第2の重み付け係数(本実施形態では「1」に設定)
ξ1:プラス誤差最大値[K]
ξ2:マイナス誤差最大値[K]
誤差範囲ガード値ERRAは、燃温推定値Tfと燃温計測値TfRとの誤差ERが予め定められた範囲内に収まるように適合係数群KGを設定するための値である。より詳細には、プラス誤差最大値ξ1に第1の重み付け係数w1を乗算した値とマイナス誤差最大値ξ2に第2の重み付け係数w2を乗算した値との和が予め定められた上記誤差範囲ガード値ERRA以下となるように適合係数群KGを設定するための値である。なお、誤差範囲ガード値ERRAの値は、プラス誤差最大値ξ1やマイナス誤差最大値ξ2の大きさに対する適合要求に応じて任意に設定することができる。例えば、誤差範囲ガード値ERRAの値を実現可能な範囲内においてできる限り小さくすることにより、燃温推定値Tfの推定誤差の範囲を極力最小化することができる。
【0093】
以上説明した本実施形態によれば、燃温推定値Tfと燃温計測値TfRとの誤差ERが予め定められた範囲内に収まるように適合係数群KGが設定される。そのため、高圧ポンプ18内の燃料温度の推定誤差が所望の範囲内に収まるように保証することができる。
【0094】
より詳細には、上記式(11)の適合条件を満たすように適合係数群KGが設定されるため、
図5に示すように、高圧ポンプ18内の燃料温度の推定誤差の範囲、つまり上記プラス誤差最大値ξ1とマイナス誤差最大値ξ2との和で表される推定誤差の範囲が予め設定された誤差範囲ガード値ERRA内に収まるように保証することができる。従って、燃温推定値Tfが燃温計測値TfRよりも高くなるときの推定誤差や、燃温推定値Tfが燃温計測値TfRよりも低くなるときの推定誤差について、これらの推定誤差を上記誤差範囲ガード値ERRA内に収まるように保証することができる。
【0095】
また、燃温推定部33Aは、上述した適合方法によって求められた適合係数群KGを用いて高圧ポンプ18内の燃料温度を推定するため、燃料温度の推定誤差が所望の範囲内、つまり誤差範囲ガード値ERRA内に収まるように保証された燃温推定値Tfを求めることができる。
【0096】
また、燃温推定部33Aで推定された高圧ポンプ18内の燃料温度が高いときほど、フィード圧制御部33Bによってフィードポンプ12の吐出圧は増大される。ここで、上述したように、上記燃温推定部33Aでは、燃料温度の推定誤差が誤差範囲ガード値ERRA内に収まるように保証された燃温推定値Tfが算出される。そのため、燃温推定値Tfが燃料温度の実値よりも過度に高くなることが抑えられる。従って、燃料温度の実値が上記第1燃温Tf1よりも低いにもかかわらず燃温推定値Tfが第1燃温Tf1を超えることによりフィード圧が不要に増大されてしまうことや、燃料温度の実値が上記第2燃温Tf2よりも低いにもかかわらず燃温推定値Tfが第2燃温Tf2を超えることによりフィード圧が不要に増大されてしまうことが抑えられる。従って、燃料温度の実値が比較的低いにもかかわらずフィード圧が増大されてしまうことによる内燃機関の燃費の悪化を抑えることができる。
【0097】
また、上記燃温推定部33Aによって、燃料温度の推定誤差が誤差範囲ガード値ERRA内に収まるように保証された燃温推定値Tfが算出されるため、燃温推定値Tfが燃料温度の実値よりも過度に低くなることも抑えられる。従って、燃料温度の実値が上記第1燃温Tf1よりも高いにもかかわらず燃温推定値Tfが第1燃温Tf1よりも低いことによりフィード圧の増大が行われない状態や、燃料温度の実値が上記第2燃温Tf2よりも高いにもかかわらず燃温推定値Tfが第2燃温Tf2よりも低いことによりフィード圧の増大が行われない状態になることが抑えられる。従って、燃料温度の実値が比較的高いにもかかわらずフィード圧が不足することによる高圧ポンプ18でのベーパロックの発生も抑えることができる。
【0098】
このようにフィード圧を適切に制御することが可能になるため、内燃機関の燃費の悪化や、高圧ポンプ18でのベーパロックの発生をともに抑えることができるようになる。
(第2実施形態)
次に、機関燃料系の燃料温度の推定に用いる適合係数の適合方法、燃料温度推定装置、及びポンプ制御装置の第2実施形態について、
図6を参照して説明する。
【0099】
本実施形態では、プラス誤差最大値ξ1やマイナス誤差最大値ξ2に対して予め設定された適合条件として、上記式(11)に加えて更に次式(12)の適合条件が追加されており、この点のみが上記第1実施形態と異なっている。
【0100】
ERRA≧w1・ξ1+w2・ξ2 …(11)
ERRA:誤差範囲ガード値[K](ERRA≧0)
w1:第1の重み付け係数(本実施形態では「1」に設定)
w2:第2の重み付け係数(本実施形態では「1」に設定)
ξ1:プラス誤差最大値[K]
ξ2:マイナス誤差最大値[K]
ξ1=ξ2 …(12)
本実施形態では、上記式(12)の適合条件が追加されている。そのため、
図6に示すように、プラス誤差最大値ξ1とマイナス誤差最大値ξ2とが同じになるようにしつつ、プラス誤差最大値ξ1に第1の重み付け係数w1を乗算した値とマイナス誤差最大値ξ2に第2の重み付け係数w2を乗算した値との和が予め定められた上記誤差範囲ガード値ERRA以下となるように適合係数群KGが設定される。
【0101】
従って、本実施形態によれば、燃料温度の推定誤差の範囲が誤差範囲ガード値ERRA内に収まるように保証しつつ、さらにプラス誤差最大値ξ1及びマイナス誤差最大値ξ2が同等となるように適合係数群KGを設定することができる。そのため、例えば、フィード圧制御に実行に際して、内燃機関の燃費悪化と高圧ポンプ18でのベーパロックの発生とをバランス良く抑えることができる。
【0102】
(第3実施形態)
次に、機関燃料系の燃料温度の推定に用いる適合係数の適合方法、燃料温度推定装置、及びポンプ制御装置の第3実施形態について、
図7を参照して説明する。
【0103】
本実施形態では、プラス誤差最大値ξ1やマイナス誤差最大値ξ2に対して予め設定された適合条件として、上記式(11)に加えて更に次式(13)の適合条件が追加されており、この点のみが上記第1実施形態と異なっている。
ERRA≧w1・ξ1+w2・ξ2 …(11)
ERRA:誤差範囲ガード値[K](ERRA≧0)
w1:第1の重み付け係数
w2:第2の重み付け係数
ξ1:プラス誤差最大値[K]
ξ2:マイナス誤差最大値[K]
w2>w1 …(13)
つまり、本実施形態では、第2の重み付け係数w2を第1の重み付け係数w1よりも大きい値に設定した状態で、プラス誤差最大値ξ1に第1の重み付け係数w1を乗算した値とマイナス誤差最大値ξ2に第2の重み付け係数w2を乗算した値との和が、誤差範囲ガード値ERRA以下となるように適合係数群KGが設定される。
【0104】
本実施形態では、第2の重み付け係数w2が第1の重み付け係数w1よりも大きい値に設定されているため、上記和に対してマイナス誤差最大値ξ2が与える影響は、上記和に対してプラス誤差最大値ξ1が与える影響よりも大きくなる。
【0105】
従って、第2の重み付け係数w2が第1の重み付け係数w1よりも大きい値に設定されている状態で、上記和が誤差範囲ガード値ERRA以下となるように適合係数群KGが設定された場合には、
図7に示すように、上記和に対して影響が大きいマイナス誤差最大値ξ2がプラス誤差最大値ξ1よりも小さくなるように適合係数群KGは設定されている。そのため、燃料温度の推定誤差が誤差範囲ガード値ERRA内に収まるように保証しつつ、プラス誤差最大値ξ1及びマイナス誤差最大値ξ2のうちでマイナス誤差最大値ξ2を小さくすることを重視した適合係数群KGを設定することができる。
【0106】
そして、このようにマイナス誤差最大値ξ2を小さくすることを重視した適合係数群KGを設定することができるため、燃温推定値Tfが燃料温度の実値よりも低くなるときの推定誤差を小さくすることを重視した適合係数群KGを設定することができる。そのため、燃温推定値Tfが燃料温度の実値よりも過度に高くなるよりも、過度に低くなることの方が優先して抑えられるようになる。従って、燃料温度の実値が上記第1燃温Tf1よりも高いにもかかわらず燃温推定値Tfが上記第1燃温Tf1よりも低いことによりフィード圧の増大が行われない状態や、燃料温度の実値が上記第2燃温Tf2よりも高いにもかかわらず燃温推定値Tfが上記第2燃温Tf2よりも低いことによりフィード圧の増大が行われない状態になることが抑えられる。そのため、内燃機関の燃費悪化の抑制よりも、高圧ポンプ18でのベーパロック発生の抑制を重視した適合係数群KGを設定することができるようになる。
【0107】
(第4実施形態)
次に、機関燃料系の燃料温度の推定に用いる適合係数の適合方法、燃料温度推定装置、及びポンプ制御装置の第4実施形態について、
図8を参照して説明する。
【0108】
本実施形態では、プラス誤差最大値ξ1やマイナス誤差最大値ξ2に対して予め設定された適合条件として、上記式(11)に加えて更に次式(14)の適合条件が追加されており、この点のみが上記第1実施形態と異なっている。
ERRA≧w1・ξ1+w2・ξ2 …(11)
ERRA:誤差範囲ガード値[K](ERRA≧0)
w1:第1の重み付け係数(本実施形態では「1」に設定)
w2:第2の重み付け係数(本実施形態では「1」に設定)
ξ1:プラス誤差最大値[K]
ξ2:マイナス誤差最大値[K]
ξ1=FIX1 …(14)
FIX1:固定値[K]
上記固定値FIX1は、プラス誤差最大値ξ1について予め設定されている固定値であって、例えばプラス誤差最大値ξ1として許容することが可能な最大値などを設定することができる。
【0109】
本実施形態では、上記式(14)の適合条件が追加されている。そのため、
図8に示すように、プラス誤差最大値ξ1が予め定められた固定値FIX1にて固定された状態で、プラス誤差最大値ξ1に第1の重み付け係数w1を乗算した値とマイナス誤差最大値ξ2に第2の重み付け係数w2を乗算した値との和が上記誤差範囲ガード値ERRA以下となるように適合係数群KGが設定される。従って、誤差範囲ガード値ERRAを変更するとマイナス誤差最大値ξ2だけが変化するようになり、適切な誤差範囲ガード値ERRAを設定することにより、プラス誤差最大値ξ1を固定値FIX1で固定しつつ、マイナス誤差最大値ξ2を小さくすることが可能になる。
【0110】
そのため、本実施形態でも上記第3実施形態と同様に、燃料温度の推定誤差が誤差範囲ガード値ERRA内に収まるように保証しつつ、プラス誤差最大値ξ1及びマイナス誤差最大値ξ2のうちでマイナス誤差最大値ξ2を小さくすることを重視した適合係数群KGを設定することができる。
【0111】
そして、このようにマイナス誤差最大値ξ2を小さくすることを重視した適合係数群KGを設定することができるため、上述したように内燃機関の燃費悪化の抑制よりも、高圧ポンプ18でのベーパロック発生の抑制を重視した適合係数群KGを設定することができるようになる。
【0112】
(第5実施形態)
次に、機関燃料系の燃料温度の推定に用いる適合係数の適合方法、燃料温度推定装置、及びポンプ制御装置の第5実施形態について、
図9を参照して説明する。
【0113】
本実施形態では、プラス誤差最大値ξ1やマイナス誤差最大値ξ2に対して予め設定された適合条件として、上記式(11)に加えて更に次式(15)の適合条件が追加されており、この点のみが上記第1実施形態と異なっている。
【0114】
ERRA≧w1・ξ1+w2・ξ2 …(11)
ERRA:誤差範囲ガード値[K](ERRA≧0)
w1:第1の重み付け係数
w2:第2の重み付け係数
ξ1:プラス誤差最大値[K]
ξ2:マイナス誤差最大値[K]
w1>w2 …(15)
つまり、本実施形態では、第1の重み付け係数w1を第2の重み付け係数w2よりも大きい値に設定した状態で、プラス誤差最大値ξ1に第1の重み付け係数w1を乗算した値とマイナス誤差最大値ξ2に第2の重み付け係数w2を乗算した値との和が、誤差範囲ガード値ERRA以下となるように適合係数群KGが設定される。
【0115】
本実施形態では、第1の重み付け係数w1が第2の重み付け係数w2よりも大きい値に設定されているため、上記和に対してプラス誤差最大値ξ1が与える影響は、上記和に対してマイナス誤差最大値ξ2が与える影響よりも大きくなる。
【0116】
従って、第1の重み付け係数w1が第2の重み付け係数w2よりも大きい値に設定されている状態で、上記和が誤差範囲ガード値ERRA以下となるように適合係数群KGが設定された場合には、
図9に示すように、上記和に対して影響が大きいプラス誤差最大値ξ1がマイナス誤差最大値ξ2よりも小さくなるように適合係数群KGは設定されている。そのため、燃料温度の推定誤差が誤差範囲ガード値ERRA内に収まるように保証しつつ、プラス誤差最大値ξ1及びマイナス誤差最大値ξ2のうちでプラス誤差最大値ξ1を小さくすることを重視した適合係数群KGを設定することができる。
【0117】
そして、このようにプラス誤差最大値ξ1を小さくすることを重視した適合係数群KGを設定することができるため、燃温推定値Tfが燃料温度の実値よりも高くなるときの推定誤差を小さくすることを重視した適合係数群KGを設定することができる。そのため、燃温推定値Tfが燃料温度の実値よりも過度に低くなるよりも、過度に高くなることの方が優先して抑えられるようになる。従って、燃料温度の実値が上記第1燃温Tf1よりも低いにもかかわらず、燃温推定値Tfが上記第1燃温Tf1を超えることによりフィード圧が不要に増大されてしまうことや、燃料温度の実値が上記第2燃温Tf2よりも低いにもかかわらず、燃温推定値Tfが上記第2燃温Tf2を超えることによりフィード圧が不要に増大されてしまうことが抑えられる。そのため、高圧ポンプ18でのベーパロック発生の抑制よりも、内燃機関の燃費悪化の抑制を重視した適合係数群KGを設定することができるようになる。
【0118】
(第6実施形態)
次に、機関燃料系の燃料温度の推定に用いる適合係数の適合方法、燃料温度推定装置、及びポンプ制御装置の第6実施形態について、
図10を参照して説明する。
【0119】
本実施形態では、プラス誤差最大値ξ1やマイナス誤差最大値ξ2に対して予め設定された適合条件として、上記式(11)に加えて更に次式(16)の適合条件が追加されており、この点のみが上記第1実施形態と異なっている。
ERRA≧w1・ξ1+w2・ξ2 …(11)
ERRA:誤差範囲ガード値[K](ERRA≧0)
w1:第1の重み付け係数(本実施形態では「1」に設定)
w2:第2の重み付け係数(本実施形態では「1」に設定)
ξ1:プラス誤差最大値[K]
ξ2:マイナス誤差最大値[K]
ξ2=FIX2 …(16)
FIX2:固定値[K]
上記固定値FIX2は、マイナス誤差最大値ξ2について予め設定されている固定値であって、例えばマイナス誤差最大値ξ2として許容することが可能な最大値などを設定することができる。
【0120】
本実施形態では、上記式(15)の適合条件が追加されている。そのため、
図10に示すように、マイナス誤差最大値ξ2が予め定められた固定値FIX2にて固定された状態で、プラス誤差最大値ξ1に第1の重み付け係数w1を乗算した値とマイナス誤差最大値ξ2に第2の重み付け係数w2を乗算した値との和が上記誤差範囲ガード値ERRA以下となるように適合係数群KGが設定される。従って、誤差範囲ガード値ERRAを変更するとプラス誤差最大値ξ1だけが変化するようになり、適切な誤差範囲ガード値ERRAを設定することにより、マイナス誤差最大値ξ2を固定値FIX2で固定しつつ、プラス誤差最大値ξ1を小さくすることが可能になる。
【0121】
そのため、本実施形態でも上記第5実施形態と同様に、燃料温度の推定誤差が誤差範囲ガード値ERRA内に収まるように保証しつつ、プラス誤差最大値ξ1及びマイナス誤差最大値ξ2のうちでプラス誤差最大値ξ1を小さくすることを重視した適合係数群KGを設定することができる。
【0122】
そして、このようにプラス誤差最大値ξ1を小さくすることを重視した適合係数群KGを設定することができるため、上述したように高圧ポンプ18でのベーパロック発生の抑制よりも、内燃機関の燃費悪化の抑制を重視した適合係数群KGを設定することができるようになる。
【0123】
(第7実施形態)
次に、機関燃料系の燃料温度の推定に用いる適合係数の適合方法、燃料温度推定装置、及びポンプ制御装置の第7実施形態について、
図11を参照して説明する。
【0124】
本実施形態では、適合係数群KGを設定するための予め設定された適合条件として、上記式(11)に代えて次式(17)の適合条件を設定しており、マイナス誤差最大値ξ2については、その取得及び適合条件の設定を行っていない。そしてこれらの点のみが上記第1実施形態と異なっている。
【0125】
ERPG≧ξ1 …(17)
ERPG:プラス誤差ガード値[K](ERPG≧0)
ξ1:プラス誤差最大値[K]
上記プラス誤差ガード値ERPGは、燃温推定値Tfと燃温計測値TfRとの誤差ERが予め定められた範囲内に収まるように適合係数群KGを設定するための値である。より詳細には、プラス誤差最大値ξ1が予め定められた上記プラス誤差ガード値ERPG以下となるように適合係数群KGを設定するための値である。なお、プラス誤差ガード値ERPGの値は、プラス誤差最大値ξ1の大きさに対する適合要求に応じて任意に設定することができる。例えば、プラス誤差ガード値ERPGの値を実現可能な範囲内においてできる限り小さくすることにより、燃温推定値Tfが燃料温度の実値よりも高くなるときの誤差の範囲を極力最小化することができる。
【0126】
本実施形態によれば、上記式(17)の適合条件を満たすように適合係数群KGが設定されるため、
図11に示すように、プラス誤差最大値ξ1がプラス誤差ガード値ERPG以下となるように適合係数群KGを設定される。従って、高圧ポンプ18内の燃料温度の推定誤差であって、特に燃温推定値Tfが燃料温度の実値よりも高くなるときの誤差については、予め設定された所望の範囲内、つまりプラス誤差ガード値ERPG内に収まるように保証することができる。
【0127】
従って、プラス誤差ガード値ERPGを適切に設定することにより、プラス誤差最大値ξ1を小さくすることを重視した適合係数群KGを設定することができるようになり、燃温推定値Tfが燃料温度の実値よりも過度に高くなることが抑えられるようになる。そのため、燃料温度の実値が上記第1燃温Tf1よりも低いにもかかわらず燃温推定値Tfが第1燃温Tf1を超えることによりフィード圧が不要に増大されてしまうことや、燃料温度の実値が上記第2燃温Tf2よりも低いにもかかわらず燃温推定値Tfが第2燃温Tf2を超えることによりフィード圧が不要に増大されてしまうことが抑えられる。従って、内燃機関の燃費悪化の抑制を重視した適合係数群KGを設定することができる。
【0128】
(第8実施形態)
次に、機関燃料系の燃料温度の推定に用いる適合係数の適合方法、燃料温度推定装置、及びポンプ制御装置の第8実施形態について、
図12を参照して説明する。
【0129】
本実施形態では、適合係数群KGを設定するための予め設定された適合条件として、上記式(11)に代えて次式(18)の適合条件を設定しており、プラス誤差最大値ξ1については、その取得及び適合条件の設定を行っていない。そしてこれらの点のみが上記第1実施形態と異なっている。
【0130】
ERMG≧ξ2 …(18)
ERMG:マイナス誤差ガード値[K](ERMG≧0)
ξ2:マイナス誤差最大値[K]
上記マイナス誤差ガード値ERMGは、燃温推定値Tfと燃温計測値TfRとの誤差ERが予め定められた範囲内に収まるように適合係数群KGを設定するための値である。より詳細には、マイナス誤差最大値ξ2が予め定められた上記マイナス誤差ガード値ERMG以下となるように適合係数群KGを設定するための値である。なお、マイナス誤差ガード値ERMGの値は、マイナス誤差最大値ξ2の大きさに対する適合要求に応じて任意に設定することができる。例えば、マイナス誤差ガード値ERMGの値を実現可能な範囲内においてできる限り小さくすることにより、燃温推定値Tfが燃料温度の実値よりも低くなるときの誤差の範囲を極力最小化することができる。
【0131】
本実施形態によれば、上記式(18)の適合条件を満たすように適合係数群KGが設定されるため、
図12に示すように、マイナス誤差最大値ξ2がマイナス誤差ガード値ERMG以下となるように適合係数群KGを設定される。従って、高圧ポンプ18内の燃料温度の推定誤差であって、特に燃温推定値Tfが燃料温度の実値よりも低くなるときの誤差については、予め設定された所望の範囲内、つまりマイナス誤差ガード値ERMG内に収まるように保証することができる。
【0132】
そのため、マイナス誤差ガード値ERMGを適切に設定することにより、マイナス誤差最大値ξ2を小さくすることを重視した適合係数群KGを設定することができるようになり、燃温推定値Tfが燃料温度の実値よりも過度に低くなることが抑えられるようになる。
【0133】
従って、燃料温度の実値が上記第1燃温Tf1よりも高いにもかかわらず燃温推定値Tfが第1燃温Tf1よりも低いことによりフィード圧の増大が行われない状態や、燃料温度の実値が上記第2燃温Tf2よりも高いにもかかわらず燃温推定値Tfが第2燃温Tf2よりも低いことによりフィード圧の増大が行われない状態になることが抑えられる。そのため、高圧ポンプ18でのベーパロック発生の抑制を重視した適合係数群KGを設定することができる。
【0134】
(第9実施形態)
次に、機関燃料系の燃料温度の推定に用いる適合係数の適合方法、燃料温度推定装置、及びポンプ制御装置の第9実施形態について、
図13〜
図15を参照して説明する。
【0135】
上記第1実施形態では、高圧ポンプ18内の燃料温度を推定するようにした。しかし、上述した適合係数の適合方法は、上記高圧ポンプ18内の燃料温度の推定だけではなく、機関燃料系における他の部位の燃料温度の推定に際しても適宜適用することができる。
【0136】
そこで、本実施形態では、そうした他の部位の燃料温度を推定する一例として、内燃機関の低圧系の燃料配管内における各部の燃料温度を推定するとともに、その推定された燃料温度を使って低圧燃料噴射弁19のボディの温度や先端温度なども推定している。そして、低圧系の燃料配管内における各部の燃料温度を推定するための適合係数を、上述した適合方法によって設定している。
【0137】
なお、低圧系の燃料配管内における燃料温度、低圧燃料噴射弁19のボディ温度並びに先端温度を推定する理由は以下による。
すなわち、上述したような噴き分けなどにより、低圧燃料噴射弁19による燃料噴射が停止されると、低圧燃料配管11及び低圧側デリバリパイプ17などで構成される低圧系の燃料配管内の燃料はほとんど入れ替わらなくなる。特に、低圧系の燃料配管において最下流に位置する低圧側デリバリパイプ17は、内燃機関の運転中において高温となるシリンダヘッド近傍に配設されているため、燃料の入れ替わりがないと、低圧側デリバリパイプ17内の燃料が高温化してベーパが発生しやすい。低圧側デリバリパイプ17内の燃料にベーパが発生すると、低圧燃料噴射弁19から噴射される燃料が少なくなるため、噴射精度が悪化し、例えば空燃比制御や機関出力などに悪影響を与える。そこで、本実施形態では、上記燃温推定部33Aにて、低圧系の燃料配管内における各部の燃料温度を推定することにより低圧側デリバリパイプ17内の燃料温度を推定する。そして、低圧側デリバリパイプ17内の燃料温度の推定値に基づき、上記フィード圧制御部33Bは上述したフィード圧制御を実行することにより、低圧側デリバリパイプ17内でのベーパの発生を抑えている。
【0138】
また、低圧燃料噴射弁19の先端には、燃料を噴射する噴射孔やこの噴射孔を開閉する弁座を有するニードル弁などが設けられている。ここで、低圧燃料噴射弁19のボディ温度や先端温度が変化すると、熱膨張等によってニードル弁の弁座と噴射孔との距離が変化する。そのため、同じ開弁時間を設定しても噴射される燃料の量が異なるようになり、こうした理由によっても噴射精度が悪化してしまう。
【0139】
そこで、本実施形態では、上記燃温推定部33Aにて推定した低圧系の燃料配管内における燃料温度を使って、低圧燃料噴射弁19のボディ温度や先端温度を推定している。そして、電子制御ユニット33は、推定されたボディ温度や先端温度に基づき、低圧燃料噴射弁19の燃料噴射量を補正する処理を実行することにより、低圧燃料噴射弁19の温度変化による噴射精度の悪化を抑えている。
【0140】
以下、低圧系の燃料配管内における燃料温度、低圧燃料噴射弁19のボディ温度、及び低圧燃料噴射弁19の先端温度を推定する式について説明する。
本実施形態では、低圧燃料系内の燃料温度の推定値である燃温推定値TfLを算出するに際して、
図13に示すように、低圧燃料配管11及び低圧側デリバリパイプ17で構成される低圧系の燃料配管を燃料の流れ方向に連なる複数の領域(本実施形態では5つの領域)に分割し、各領域毎に燃料温度を推定するようにしている。具体的には、燃料の流れ方向にあって上流側から順次、領域A、領域B、領域C、領域D、領域Eといった燃料温度推定領域を設定するようにしている。領域B〜領域Eはエンジンルーム内の燃料配管における領域とし、特に領域Eは低圧側デリバリパイプ17及び低圧燃料噴射弁19に相当する領域として設定されている。なお、本実施形態では、燃料配管を5つの領域に分割しているがこれは一例であり、そうした分割数は適宜変更することができる。
【0141】
低圧燃料噴射弁19内は燃料で満たされているため、低圧燃料噴射弁19の先端温度は低圧燃料噴射弁19内の燃料温度の推定値とほぼ一致する。従って、本実施形態では、この領域Eの燃温推定値TfLEを低圧燃料噴射弁19の先端温度TiPに設定している。一方、領域Aはエンジンルーム2の外側の燃料配管における領域として設定されている。従って、この領域Aの燃料配管の温度は、領域Aの雰囲気温度、すなわち燃料配管の周囲における空気の温度とすることができ、領域Aにおける燃料配管の雰囲気温度と配管温度とは略等しくなっている。
【0142】
図14に、低圧燃料噴射弁19のボディにおける熱授受の態様を模式的に示す。なお、本実施形態では、低圧燃料噴射弁19のボディが内燃機関のシリンダヘッドに取り付けられている。そのため、熱授受のモデル化に際しては、低圧燃料噴射弁19のボディ周辺のシリンダヘッド及びボディを1つの部材とし、まとめてモデル化するようにしている。
【0143】
同
図14に示すように、冷却水から低圧燃料噴射弁19のボディ及びシリンダヘッドへは熱伝達が起きる(この熱伝達量をΔQ1[J/s]とする)。また、低圧燃料噴射弁19のボディ及びシリンダヘッドから低圧燃料噴射弁19内に流入した燃料へは熱伝達が起こる(この熱伝達量をΔQ2[J/s]とする)。また、低圧燃料噴射弁19のボディ及びシリンダヘッドから低圧燃料噴射弁19のボディ周りには熱伝達が起きる(この熱伝達量をΔQ3[J/s]とする)。従って、低圧燃料噴射弁19のボディにおける熱授受は次式(19)に示すモデル式で表すことができる。
【0144】
[低圧燃料噴射弁のボディにおける熱授受モデル式]
Mi・Ci・Tiold+ΔQ1−ΔQ2−ΔQ3=Mi・Ci・Ti …(19)
Mi:低圧燃料噴射弁のボディの質量[g]
Ci:低圧燃料噴射弁のボディの比熱[J/g・K]
Tiold:前回推定された低圧燃料噴射弁のボディ温度[K]
Ti:現在の低圧燃料噴射弁のボディ温度[K]
なお、各熱伝達量ΔQ1、ΔQ2、ΔQ3は次式(20)〜次式(22)にてそれぞれ表すことができる。
【0145】
ΔQ1=hi1・Si1・(THW−Tiold) …(20)
hi1:低圧燃料噴射弁のボディ及びシリンダヘッドの熱伝達係数[J/m2・K・s]
Si1:シリンダヘッドと冷却水とが接触する部分の表面積[m2]
THW:冷却水温[K]
ΔQ2=hi2・Si2・(Tiold−TfLEold) …(21)
hi2:燃料の熱伝達係数[J/m2・K・s]
Si2:低圧料噴射弁のボディと燃料とが接触する部分の表面積[m2]
TfLEold:前回推定された領域Eの燃温推定値[K]
ΔQ3=hi3・Si3・(Tiold−Tiround) …(22)
hi3:大気の熱伝達係数[J/m2・K・s]
Si3:低圧燃料噴射弁のボディ及びシリンダヘッドと大気とが
接触する部分の表面積[m2]
Tiround:低圧燃料噴射弁周りの空気の温度(ボディ雰囲気温度)[K]
ここで、ボディ雰囲気温度Tiroundと前回推定された低圧燃料噴射弁19のボディ温度Tioldとはほぼ等しいと考えることができるため、上記熱伝達量ΔQ3は「ΔQ3=0」になる。
【0146】
そして、上記式(19)に式(20)、式(21)を代入するとともに、適合係数K1、K2を、「K1=(hi1・Si1)/(Mi・Ci)」、「K2=(hi2・Si2)/(Mi・Ci)」と定義すると、式(19)は次式(23)のようになる。
【0147】
Ti=(1−K1−K2)・Tiold+K2・TfLEold+K1・THW …(23)
この式(23)を用いて低圧燃料噴射弁19のボディ温度Tiを推定することができる。すなわち低圧燃料噴射弁19内の燃料の温度に相当する領域Eの燃温推定値TfLEと、低圧燃料噴射弁19が取り付けられた部位の温度を推定することのできる冷却水温THWとをパラメータとして低圧燃料噴射弁19のボディ温度Tiは推定することができる。なお、領域Eの燃温推定値TfLEの算出については後述する。
【0148】
他方、
図15は低圧系の燃料配管内の燃料における熱授受の態様を模式的に示している。なお、同
図15では、上記各領域B〜Eでの熱授受を概念化しており、領域Xとは領域B〜Eのうちのいずれかの1つの領域を示している(X=B、C、D、E)。
【0149】
図15に示すように、燃料配管の周囲の空気から燃料配管へは熱伝達が起きる(この熱伝達量をΔQ5[J/s]とする)。また、燃料配管から同配管の燃料へは熱伝達が起こる(この熱伝達量をΔQ4[J/s]とする)。また、燃料配管内を流通する燃料の温度は、低圧燃料噴射弁19から燃料タンク10に向かうほど低くなる傾向にある。そのため、燃料配管内を流通する燃料の流量が増大すると、低圧燃料噴射弁19へは比較的温度の低い燃料がより多く流入するようになり、低圧燃料噴射弁19内に流入する燃料の温度は低くなる傾向にある。このように燃料の流量に基づいて低圧燃料噴射弁19に流入する燃料の温度変化を精度よく推定することができ、燃料配管内の燃料における熱授受は、次式(24)に示すモデル式で表すことができる。また燃料配管における熱授受は次式(25)のモデル式で表すことができる。
【0150】
ちなみに本実施形態において、各領域毎では配管温度と燃料温度とがほぼ等しいものと仮定している。
[燃料配管内の燃料における熱授受]
Mf・Cf・TfLxold−Q・Cf・TfLxold+Q・Cf・TfL(x-1)old+ΔQ4x=Mf・Cf・TfLx …(24)
Mf:領域Xにおける燃料の質量[g]
Cf:燃料の定圧比熱[J/g・K]
TfLxold:前回推定された領域Xの燃料温度(燃温推定値)[K]
Q:単位時間(秒)当たりの低圧燃料噴射弁の燃料噴射量[g/s]
TfL(x-1)old:領域Xに対して1つ上流側の領域(X−1)における
燃料温度であって前回推定された温度[K]
ΔQ4x:領域Xにおいて燃料配管から同配管の燃料へ移動する熱伝達量[J/s]
TfLx:現在の領域Xにおける燃温推定値[K]
なお、燃料噴射量Qが増大すると燃料配管内の燃料の流量は増大する。すなわち燃料流量と燃料噴射量Qとは相関関係にあるため、本実施形態では燃料の流量を示すパラメータとして、機関負荷と機関回転速度等から算出される燃料噴射量Qを利用するようにしているが、もちろん、燃料噴射量Qに代えて燃料の流量そのものを用いるようにしてもよい。
【0151】
[燃料配管における熱授受]
Md・Cd・TfLxold+ΔQ5x−ΔQ4x=Md・Cd・TfLx …(25)
Md:領域Xにおける燃料配管の質量[g]
Cd:燃料配管の比熱[J/g・K]
ΔQ5x:領域Xにおいて燃料配管の周囲の空気から
同燃料配管へ移動する熱伝達量[J/s]
また、各熱伝達量ΔQ4x、ΔQ5xは次式(26)、次式(27)にてそれぞれ表すことができる。
【0152】
ΔQ4x=hf・Sfx・(Tdx−TfLx) …(26)
hf:燃料の熱伝達係数[J/m2・K・s]
Sfx:領域Xにおいて燃料配管と燃料とが接触する部分の表面積[m2]
Tdx:領域Xにおける燃料配管の温度[K]
ΔQ5x=hdx・Sdx・(Tpround−Tdx) …(27)
hdx:領域Xにおける燃料配管の熱伝達係数[J/m2・K・s]
Sdx:領域Xにおいて燃料配管と周囲の空気とが接触する部分の表面積[m2]
Tpround:領域Xにおける燃料配管周りの空気の温度(配管雰囲気温度)[K]
なお、配管雰囲気温度Tproundは次式(28)にて推定することができる。
【0153】
Tpround=Kx・Tiold+(1−Kx)・THA …(28)
THA:吸気温度[K]
適合定数Kx:領域Xにおいて、配管雰囲気温度Tproundに対する
ボディ温度Tiからの受熱影響度合
そして、上記式(24)及び上記式(25)に示した各式の両辺を加算した式に、上記式(26)及び上記式(27)を代入するとともに、適合係数K3、K4を、「K3=(hdx・Sdx)/(Md・Cd+Mf・Cf)」、「K4=Cf/(Md・Cd+Mf・Cf)」と定義すると、次式(29)が得られる。そしてこの式(29)で示される式を用いて各領域における燃温推定値TfLxを算出することができる。すなわち吸気温度THAと燃料噴射量Qとをパラメータとして各領域における燃温推定値TfLxを算出することができる。
【0154】
TfLx=(1−K3−Q・K4・)・TfLxold+Q・K4・TfL(x-1)old
+K3・{Kx・Tiold+(1−Kx)・THA} …(29)
そして、各領域B〜Eの燃料温度の推定値は、上記式(29)で示されるモデル式に基づき、次式(30)〜次式(33)にて示される各式によって算出することができる。また、上述したように、領域Eの燃温推定値TfLEを低圧燃料噴射弁19の先端温度TiPとして設定しているため、式(33)で算出される領域Eの燃温推定値TfLEが、低圧燃料噴射弁19の先端温度TiPの推定値として利用される。また、領域Eの燃温推定値TfLEが低圧側デリバリパイプ17内の燃料温度として利用される。
【0155】
領域Bの燃温推定値TfLB=(1−K3−Q・K4・)・TfLBold+Q・K4・TfLAold
+K3・{KB・Tiold+(1−KB)・THA} …(30)
領域Cの燃温推定値TfLC=(1−K3−Q・K4・)・TfLCold+Q・K4・TfLBold
+K3・{KC・Tiold+(1−KC)・THA} …(31)
領域Dの燃温推定値TfLD=(1−K3−Q・K4・)・TfLDold+Q・K4・TfLCold
+K3・{KD・Tiold+(1−KD)・THA} …(32)
領域Eの燃温推定値TfLE=(1−K3−Q・K4・)・TfLEold+Q・K4・TfLDold
+K3・{KE・Tiold+(1−KE)・THA} …(33)
また、本実施形態において、各領域毎では配管温度と燃料温度とがほぼ等しいものと仮定している。そして、領域Aの燃料配管の温度は、領域Aの雰囲気温度と略等しくなっている。そのため、領域Aの燃温推定値TfLAは、上記式(28)で示される式を領域Aについて適用した次式(34)で示される式に基づき算出することができる。
【0156】
領域Aの燃温推定値TfLA=KA・Tiold+(1−KA)・THA …(34)
このように本実施形態では、燃料配管の上流側から下流側にかけて連続した複数の燃料温度推定領域が設定されており、上記式(29)に示されるように、上流側の燃料温度推定領域において推定された燃料温度がその直後の下流側の燃料温度推定領域における燃料温度の推定に順次反映されていく。従って、燃料配管の全長方向における温度分布に対応させて各領域の燃料温度を精度よく推定することができ、ひいては低圧燃料噴射弁19内に流入する燃料温度もより精度よく推定される。また、燃料配管の雰囲気温度と同燃料配管の温度とが略等しい部位を最も上流側の燃料温度推定領域、すなわち領域Aに設定するようにしている。そのため、この燃料温度推定領域の燃料温度は容易に、かつ精度よく推定され、ひいては順次推定される下流側の各燃料温度推定領域における燃料温度も精度よく推定される。
【0157】
他方、上記式(23)に示した式から推定されるボディ温度Ti、上記式(29)に示した式から推定される燃温推定値TfLxは、それぞれ前回推定された温度を考慮して現在の温度を推定するようにしているが、この前回推定された温度については機関始動直前における推定値を初期値として設定することができる。この機関始動時における推定値は以下のようにして推定することができる。
[機関始動直前における各領域の燃料温度の推定]
まず、機関始動直前では、「領域Xの現在の燃温推定値TfLx=領域Xの前回の燃温推定値TfLxold」であると仮定することができる。また、燃料噴射が実施される前であるため、「燃料噴射量Q=0」である。従って、上記式(29)に示した式に「TfLx=TfLxold」及び「Q=0」を代入するとともに、機関始動直前のボディ温度Tiを始動時ボディ温度Tistartとして「Tiold」に代入し、TfLxについて解くと次式(35)に示す式が得られる。
【0158】
TfLx=Kx・Tistart+(1−Kx)・THA …(35)
そして、上記式(35)にて示される式において、機関始動直前の各領域Xの燃温推定値TfLxを始動時燃温推定値TfLxstartとすると、各領域A〜Eの始動時燃温推定値TfLxstartは、次式(36)〜次式(40)に示す各式に基づいて算出することができる。
【0159】
領域Aの始動時燃温推定値TfLAstart=KA・Tistart+(1−KA)・THA …(36)
領域Bの始動時燃温推定値TfLBstart=KB・Tistart+(1−KB)・THA …(37)
領域Cの始動時燃温推定値TfLCstart=KC・Tistart+(1−KC)・THA …(38)
領域Dの始動時燃温推定値TfLDstart=KD・Tistart+(1−KD)・THA …(39)
領域Eの始動時燃温推定値TfLEstart=KE・Tistart+(1−KE)・THA …(40)
[機関始動直前における始動時ボディ温度の推定]
まず、機関始動直前では、「現在のボディ温度Ti=前回のボディ温度Tiold」であると仮定することができる。また、上記式(23)に示した式の「TfLEold」は上記「TfLEstart」に等しい。従って、式(23)に示した式に対して「Ti=Tistart」、「Tiold=Tistart」を代入するとともに、「TfLEold」には上述した領域Eの始動時燃温推定値TfLEstartの算出式を代入する。そして、こうした各値や式が代入された式(23)の式を、機関始動直前における始動時ボディ温度Tistartについて解くと、次式(41)で示す式が得られる。
【0160】
Tistart=[(1−KD)・K2/{K1+(1−KD)・K2}]・THA
+[K1/{K1+(1−KD)・K2}]・THW …(41)
そして、この式(41)に示される式に基づいて始動時ボディ温度Tistartは推定することができる。
【0161】
ここで、上記適合係数KA、KB、KC、KD、KE、K1、K2、K3、及びK4については、ボディ温度Tiや各領域における燃温推定値TfLx、あるいは始動時ボディ温度Tistartが実際の温度に近づくように適合試験を行う必要がある。そのため、それら各適合係数KA、KB、KC、KD、KE、K1、K2、K3、及びK4で構成される適合係数群の設定に際しても、上記第1実施形態から上記第8実施形態で説明した適合方法のいずれかを実施する。
【0162】
例えば、第1実施形態で説明した適合方法を実施する場合には、ボディ温度Tiや各領域における燃温推定値TfLx、あるいは始動時ボディ温度Tistartにそれぞれについて、上述したような所定期間TD内において上記各式から算出される推定値と実際の温度との誤差ERを算出することにより上述したプラス誤差ERPやマイナス誤差ERMを算出する。そして、算出されたプラス誤差ERP及びマイナス誤差ERMの中から上述したようなプラス誤差最大値ξ1とマイナス誤差最大値ξ2を取得する。そして、プラス誤差最大値ξ1及びマイナス誤差最大値ξ2が上記式(11)の適合条件を満たすように各適合係数を設定する。
【0163】
こうした適合係数の適合を行うことにより、本実施形態では、ボディ温度Ti、各領域の燃温推定値TfLx、或いは領域Eの燃温推定値TfLEを推定することで得られる低圧側デリバリパイプ17内の燃料温度の推定値や先端温度TiPについて、それら各推定値と実値との誤差が予め定められた範囲内に収まるように上記各適合係数が設定される。また、始動時ボディ温度Tistartについても、その推定値と実値との誤差が予め定められた範囲内に収まるように上記の各適合係数が設定される。
【0164】
従って、本実施形態でも、第1実施形態から第8実施形態に準じた作用効果、つまりボディ温度Ti、各領域の燃温推定値TfLx、先端温度TiP、低圧側デリバリパイプ内の燃料温度、及び始動時ボディ温度Tistartの各推定誤差が所望の範囲内に収まるように保証することができる。
【0165】
なお、上記各実施形態は、以下のように変更して実施することもできる。
・フィードポンプ12のフィード圧制御では、フィード圧を3段階に変更するようにしたが、2段階に変更したり、4段階以上に変更したりしてもよい。また、燃温推定値Tfの上昇に合わせてフィード圧を連続的に増大させるようにしてもよい。
【0166】
・高圧ポンプ18での発熱量Qhpを上記式(9)から求めるようにした。この他、上記式(9)に代えて、上記式(8)を使って発熱量Qhpを求めるようにしてもよい。
・高圧ポンプ18に流入する燃料の温度Tfinを吸気温度THAで代用した。この他、燃料配管での燃料の熱授受をモデル化した式を構築し、その構築した式を使って高圧ポンプ18に流入する燃料の温度Tfinを推定することにより、同温度Tfinの精度を高めるようにしてもよい。また、温度センサを使って実際に高圧ポンプ18に流入する燃料の温度Tfinを検出してもよい。なお、これら変形例の場合には、熱量差Qfの算出式が上記式(7)ではなく、上記式(6)になる。そのため、上記式(10)に示した「Kfhp・Fhp・THA」の数式は、「Kfhp・Fhp・Tfin」に変わることになる。
【0167】
・高圧ポンプ18内の燃料温度を上記態様とは異なる態様で推定してもよい。
・低圧系の燃料配管内の燃料温度を上記態様とは異なる態様で推定してもよい。
・低圧燃料噴射弁19の先端温度を上記態様とは異なる態様で推定してもよい。
【0168】
・高圧燃料噴射弁31のボディ温度や先端温度を、低圧燃料噴射弁19と同様な態様にて推定してもよく、その推定式に用いる適合係数を上記第1実施形態から上記第8実施形態で説明した適合方法のいずれかを使って適合させてもよい。
【0169】
・第7実施形態及び第8実施形態をともに実施することにより、プラス誤差最大値ξ1が上記プラス誤差ガード値ERPG以下となり、且つマイナス誤差最大値ξ2が上記マイナス誤差ガード値ERMG以下となるように適合係数群KGを設定してもよい。この場合には、第7実施形態及び第8実施形態に準ずる作用効果が得られる。
【0170】
・上記適合方法を実施することにより、マイナス誤差最大値ξ2は予め保証される。そのため、燃温推定値Tfが燃料温度の実値よりも低くなっているときの推定誤差が、マイナス誤差最大値ξ2よりも大きくなることはない。従って、燃温推定値Tfにマイナス誤差最大値ξ2を加算して得られる算出値ADは、必ず燃料温度の実値以上の値になる。そこで、同算出値ADを求めてその算出値ADと上記第1燃温Tf1とを比較したり、同算出値ADと上記第2燃温Tf2とを比較したりしてもよい。この場合には、燃料温度の実値が第1燃温Tf1や第2燃温Tf2を超える前にフィード圧の増大が行われるようになるため、高圧ポンプ18でのベーパロックの発生をより適切に抑えることができる。
【0171】
・上記各実施形態では、燃料温度の推定値の算出及び適合試験を試験ベンチで行うようにした。しかし、それら推定値の算出及び適合試験を必ずしも試験ベンチにて行う必要はなく、例えば、上記内燃機関を搭載した車両に上記適合ユニット100を搭載して、車両走行中に燃料温度の推定値の算出及び適合試験を実施することにより、車両走行中に各適合係数が自動的に学習されるようにしてもよい。