(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施の形態」と略記する)について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0015】
〔捲回体〕
本実施形態の捲回体は、円柱形状を有するコアと、該コアに捲回された微多孔膜を有する。捲回体の最大直径と最小直系の差(すなわち捲回体の外径差)は、捲回体が捲回された直後または捲回されてから24時間以内のものと、捲回体を捲回直後または捲回されてから24時間以内に室温25℃及び湿度30%で20日間保管した後との間では、同一であるか、又は概ね変わらないことが好ましい。
【0016】
具体的には、捲回体の両端部間の各位置において、コアに微多孔膜を捲回して捲回体を作製した直後または捲回されてから24時間以内の最大直径と最小直径の差X
0と、捲回体を捲回直後または捲回されてから24時間以内に室温25℃及び湿度30%で20日間保管した後の最大直径と最小直径の差X
1とが、下記式(1):
0%<{(X
1−X
0)/捲回体の捲回直後の平均直径}×100≦0.5% (1)
で表される関係を満たすことが好ましい。
【0017】
式(1)における捲回体の捲回直後または捲回されてから24時間以内の平均直径は、捲回直後または捲回されてから24時間以内に室温25℃及び湿度30%での20日間に亘る捲回体の保管前に、コアと微多孔膜が重なっている捲回体部の両端間において複数の位置で測定された捲回体の外径の平均値である。本実施の形態では、X
0とX
1が式(1)で表される関係を満たす限り、捲回体の捲回直後または捲回されてから24時間以内の平均直径は任意に設定されることができる。
【0018】
X
0とX
1および捲回体平均外径の関係は、下記式(2):
0%≦{(X
1−X
0)/捲回体平均外径}×100≦0.25% (2)
で表される関係を満たすことがより好ましい。
【0019】
式(1)又は(2)におけるX
0とX
1は、下記式(3):
0mm<X
1−X
0≦1mm (3)
で表される関係を満たすことがより好ましい。
【0020】
式(1)〜(3)におけるX
0は、
図1に示される通りに算出されることができる。捲回体(1)が捲回直後または捲回されてから24時間以内(すなわち保管前)には、捲回体(1)の最大直径は、捲回された微多孔膜(3)の最大直径R
0(max)と対応し、かつ捲回体(1)の最小直径は、微多孔膜(3)の最小直径R
0(min)と対応する。X
0は、R
0(max)からR
0(min)を引くことにより得られる値である。なお、微多孔膜(3)が極めて薄い場合には、R
0(min)としてコア(2)の最大外径を使用してもよい。
【0021】
式(1)〜(3)におけるX
1は、
図2に示される通りに算出されることができる。捲回体(1)を捲回直後または捲回されてから24時間以内に室温25℃及び湿度30%で20日間保管した後(すなわち保管後)には、捲回体(1)の最大直径は、捲回された微多孔膜(3)の最大直径R
1(max)と対応し、かつ捲回体(1)の最小直径は、微多孔膜(3)の最小直径R
1(min)と対応する。X
1は、R
1(max)からR
1(min)を引くことにより得られる値である。なお、微多孔膜(3)が極めて薄い場合には、R
1(min)としてコア(2)の最大外径を使用してもよい。
【0022】
図5は、捲回体のコアへの応力集中の概念図であり、かつ
図6は、後述される実施例1の収縮応力ρの上昇率の実測グラフである。
図5及び6に示される通り、コア(2)に微多孔膜(3)を捲くことにより得られる捲回体では、コア(2)の幅方向における中央付近に応力が集中するので、
図5に示すように、コアの中央部は、収縮する方向にひずむことが知られている(
図5中の2A)。このため、X
1−X
0の値が1mm以下である場合、微多孔膜を繰り出した際にタルミが小さい。また、X
1−X
0の値が1mm以下である場合、コアの変形が抑制されるので、捲回体の端部付近より採取した微多孔膜をセパレーターとして用いる電池のサイクル特性が良好である。
【0023】
このようなセパレーターによって良好な電池サイクル特性が得られる理由は明らかではないが、以下のように考えられる。リチウムイオン二次電池のサイクル特性には、主に初充電時の負極上の電気化反応が影響すると考えられる。特に、負極上ではキャリアであるリチウムイオンと有機電解液(例えば炭酸エチレン等)の反応により、固体電解質酸化被膜(SEI)が生成する。このSEIの生成が、充放電サイクルの効率を左右すると考えられる。ここで、微多孔膜がコアの変形に追従し、微多孔膜の微細な孔構造の均一性に変化が生じた場合、初充電時の負極表面上の反応も不均一となり、その後のサイクル特性にも影響を及ぼすと考えられる。
【0024】
上記で説明した通り、X
1−X
0の値は保管前後の捲回体の変形を反映しているので、捲回体の捲回直後または捲回されてから24時間以内の平均直径に対する(X
1−X
0)の値の割合が0.5%以下又は0.25%以下であれば、タルミ量の評価が良好である。捲回体の捲回直後または捲回されてから24時間以内の平均直径に対する(X
1−X
0)の値の割合が、0%を超えるか、又は0.005%以上である場合には、段ズレが発生し難い。このような捲回体が得られる理由は、明らかではないが、保管時に捲回体の変形を一定の範囲内に保つことにより、捲回されたフィルム相互の安定性が確保されて、全体の巻き姿が安定となるためと考えられる。
【0025】
コアの内面にひずみゲージを取り付けて、捲回体が捲回された直後または捲回されてから24時間以内に25℃及び湿度30%で20日間保管した後に、ひずみゲージにより測定されるコアの周方向のひずみβが、0.01%〜2%である場合、タルミ量の評価が良好であるため好ましい。この理由は、コア変形に応じて保管前後の捲回体の変形が生じ、式(1)〜(3)について上記で説明したように、捲回体の巻き姿が安定となるためと考えられる。コアが円柱形状を有するので、コアの内面にひずみゲージを取り付けることができる。コアの周方向のひずみβは、実施例において詳細に説明される方法で測定されることができる。
【0026】
コアの周方向のひずみβ(%)が、0.01%〜1%である場合、タルミ量の評価とサイクル特性がより良好である。このような捲回体が得られる理由は、明らかではないが、コアの変形に起因する微多孔膜(例えば、セパレーター)の孔構造の変形が抑制されるため、式(1)〜(3)について上記で説明した理由と同様に、サイクル性が良好となると考えられる。
【0027】
捲回体の巻長および幅は、特に制限されるものではないが、好ましくは、巻長は50m〜5,000mであり、かつ幅は、約100mm〜約2,000mmである。微多孔膜がリチウムイオン二次電池用セパレーターとして用いられる場合には、好ましくは、巻長は500m〜3,000mであり、かつ幅は約300mm〜約1000mmである。この範囲内であると、捲回体中央部と端部の膜特性が均一に制御する効果が顕著となる観点で好ましい。
【0028】
また、捲回体において、微多孔膜の巻長(m)(すなわち、捲回された微多孔膜の全長)に対する微多孔膜の積層回数(回)(すなわち、捲回数)の比(積層回数/巻長)は、好ましくは2.0(回/m)以下、より好ましくは1.5(回/m)以下、さらに好ましくは1.0(回/m)以下である。この比(積層回数/巻長)が小さいほど、巻長に対して微多孔膜の積層回数が少ないことを意味する。この比(積層回数/巻長)が2.0(回/m)以下であることにより、微多孔膜の巻き締まりが小さくなるため、捲回体から繰り出される微多孔膜の膜厚均一性が向上する傾向にある。
【0029】
〔コア〕
「コア」とは、微多孔膜の巻き取りに用いられる円柱形状の巻芯をいう。コアは、例えば、紙、樹脂含浸紙、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS樹脂)、FRP、フェノール樹脂、無機物含有樹脂、接着剤等で形成されることができる。
【0030】
コアの外径は、微多孔膜の捲回後の巻き締まりを緩和する観点から、好ましくは5インチ以上(約12.7cm以上)であり、より好ましくは6インチ以上であり、さらに好ましくは8インチ以上であり、特に好ましくは9インチ以上である。コアの外径の上限値は、特に制限されないが、ハンドリングの観点からは、好ましくは20インチ以下であり、より好ましくは15インチ以下である。
【0031】
コアの偏平強度は、好ましくは1000〜4000N/100mmであり、より好ましくは1200〜3000N/100mmであり、さらに好ましくは1300〜2700N/100mmである。偏平強度が1000〜4000N/100mmの範囲内であるコアは、捲回体の巻き締まりをある程度抑制する傾向があるので好ましい。偏平強度は、実施例に記載の方法で測定される。また、FRP製コアを用いた際には、捲回体作製後に膜より発生した巻締り力の応力緩和ができないため、捲回体に菊模様などの不良を誘発させる傾向にある。一方、本発明の紙管を用いた際には、適度な応力緩和能力あるため、巻締りによる不良が発生しないものと考えられる。
【0032】
コアの表面荷重凹み量は、1.0〜2.0mm/50kgであることが好ましく、1.2〜1.5mm/50kgであることがより好ましい。
【0033】
コアの幅(すなわち、TD方向の長さ)は、好ましくは10mm以上2,000mm以下、より好ましくは15mm以上1,900mm以下、さらに好ましくは20mm以上1,700mm以下である。コアの幅が10mm以上であることにより、微多孔膜がコアの品質による影響を受け易いため、本実施の形態では特に有用である。
【0034】
コアの素材としては、特に限定されないが、熱膨張係数が小さく、剛性が高く、湿度に対する膨潤性が低く、かつ捲回性に優れるという観点から、プラスチック、熱硬化性樹脂等が好ましい。コア素材が紙である場合は、特に樹脂等でその表面をコートすることで、所望の特性が得られ易い。さらに、コアは、表面平滑性の観点から、樹脂含浸紙の管であることも好ましい。
【0035】
〔微多孔膜〕
微多孔膜は、コアに捲回されている。微多孔膜は、リチウムイオン二次電池に使用されるセパレーターでよい。
【0036】
TD方向5mm及びMD方向20mmで裁断された微多孔膜を50℃で60分間静置した場合、1.0gの初期荷重における熱機械分析により計測されたMD方向応力ρ上昇率が、好ましくは1%〜300%であり、より好ましくは10%〜100%である。MD方向応力ρの上昇率が1%〜300%の範囲内であることは、捲回体作製後に微多孔膜由来の収縮力が特定の範囲内であることを意味する。捲回体作製後に微多孔膜由来の収縮力が特定の範囲内に調整されることにより、捲回時に巻き込まれることを避けられない空気が、捲回時又は捲回体作製後に容易に抜けることができ、捲回体の高い安定性を維持することができる。それによって、保管又は運搬時の段ズレを抑制できる。また、MD方向応力ρの上昇率が300%を超える場合は、捲回体に蓄積した応力が高いため、巻き締まりが顕著に進行するとともに、捲回体内部にシワを誘発させる。
【0037】
微多孔膜の気孔率は、好ましくは20%以上、より好ましくは25%以上、さらに好ましくは30%以上である。微多孔膜の気孔率が20%以上であることにより、リチウムイオンの急速な移動に対する追従性がより向上する傾向にある。一方、微多孔膜の気孔率は、好ましくは90%以下、より好ましくは80%以下、さらに好ましくは70%以下である。微多孔膜の気孔率が90%以下であることにより、膜強度がより向上し、自己放電がより抑制される傾向にある。微多孔膜の気孔率は実施例に記載の方法により測定することができる。
【0038】
微多孔膜の透気度は、好ましくは1秒以上、より好ましくは50秒以上、さらに好ましくは55秒以上である。微多孔膜の透気度が1秒以上であることにより、膜厚、気孔率及び平均孔径のバランスがより向上する傾向にある。また、微多孔膜の透気度は、好ましくは400秒以下、より好ましくは300秒以下、さらに好ましくは270秒以下である。微多孔膜の透気度が400秒以下であることにより、透過性がより向上する傾向にある。微多孔膜の透気度は実施例に記載の方法により測定することができる。
【0039】
微多孔膜の引張強度は、MD及びTD(MDと直交する方向、膜幅方向)の両方向において、それぞれ、好ましくは10MPa以上であり、より好ましくは30MPa以上であり、さらに好ましくは32MPa以上である。引張強度が10MPa以上であることにより、スリット又は電池捲回時での破断がより抑制されるか、電池内の異物等による短絡がより抑制されるか、又は表面粗度の高いコアからの転写がより抑制される傾向にある。一方、微多孔膜の引張強度は、MD及びTDの両方向において、それぞれ、好ましくは500MPa以下であり、より好ましくは300MPa以下であり、さらに好ましくは200MPa以下である。微多孔膜の引張強度が500MPa以下であることにより、加熱試験時に微多孔膜が早期に緩和して収縮力が弱まり、結果として安全性が高まる傾向にある。
【0040】
微多孔膜の引張弾性率は、MD及びTDの両方向において、それぞれ、好ましくは120N/cm以下であり、より好ましくは100N/cm以下であり、さらに好ましくは90N/cm以下である。引張弾性率が120N/cm以下であることは、リチウムイオン二次電池用のセパレーターとしては極度に配向していないことを示しており、加熱試験等において、例えばポリエチレン等の閉塞剤が溶融し収縮する際に、早期にポリエチレン等が応力緩和を起こす。これによって、電池内でのセパレーターの収縮が抑えられ、電極同士の短絡を防ぎ易くなる傾向にある(すなわち、セパレーターの加熱時の安全性を向上し得る)。このような低引張弾性率を有する微多孔膜は、微多孔膜を形成するポリオレフィン中に重量平均分子量が500,000以下のポリエチレンを含むことによって達成され易い。一方、微多孔膜の引張弾性率の下限値は、特に制限はないが、MD及びTDの両方向において、それぞれ、好ましくは10N/cm以上であり、より好ましくは30N/cm以上であり、さらに好ましくは50N/cm以上である。微多孔膜の引張弾性率は、延伸の程度を調整したり、必要に応じ延伸後に緩和を行ったりすることにより適宜調整されることができる。
【0041】
微多孔膜が、比較的高容量を有する近年のリチウムイオン二次電池に使用されるセパレーターである場合、微多孔膜の膜厚は、好ましくは25μm以下、より好ましくは16μm以下、さらに好ましくは14μm以下、特に好ましくは8μm以下である。この場合、微多孔膜の膜厚が25μm以下であることにより、透過性がより向上する傾向にある。また、膜厚が薄いと作成した捲回体は膜応力上昇ρ(%)やコア偏平強度の複合効果が顕著になり、長期保管後でも捲回体よりサンプルした膜のサイクル特性が安定する傾向にある。
【0042】
なお、上記のように巻長、気孔率、透気度、引張強度、引張弾性率又は膜厚を調整することは、上述した特定のコアと相俟って、膜厚均一性が良好な微多孔膜を得ることが可能な捲回体を実現する観点から好適である。また、微多孔膜は、単層体であっても積層体であってもよい。
【0043】
〔捲回体の製造方法〕
次に、本実施の形態における捲回体の製造方法について説明するが、ポリマー種、溶媒種、押出方法、延伸方法、抽出方法、開孔方法、熱固定(熱処理ともいう)方法等において、一例を示すものに過ぎず、以下に限定されない。
【0044】
まず、捲回体の製造方法において、微多孔膜を用意する方法(微多孔膜の製造方法)は、特に限定されず、公知の方法でよい。例えば、微多孔膜の製造方法としては、ポリマー材料と可塑剤を、又はポリマー材料と可塑剤と無機材とを、溶融混練しシートを押出す押出工程と、シートを延伸する延伸工程と、延伸フィルムから可塑剤(及び必要に応じて無機材)を抽出する抽出工程と、更には抽出後のフィルムを熱固定する熱固定工程とを含む製造方法が挙げられる。また、溶媒を用いず、適度に結晶化したフィルムを延伸開孔することによって微多孔膜を製造することもできるし、無機フィラー又は有機フィラーとポリマー材料との混練物を、延伸することによってフィラーとの界面を介して開孔を形成してもよい。更には、微多孔膜の表面に無機材を塗工してもよい。
【0045】
なお、用意する微多孔膜の好ましい態様としては、前述したものが挙げられる。
【0046】
捲回体の製造方法として、より具体的には、ポリオレフィンと、可塑剤と、必要に応じて無機材と、を含むポリオレフィン組成物を混練して混練物を得る混練工程と、得られた混練物を押出し、シート状(単層、積層であることは問わない)に成型して冷却固化させてシートを得るシート成形工程と、得られたシートから、必要に応じて可塑剤や無機材を抽出し、更にシートを一軸以上の方向へ延伸する延伸工程と、さらに必要に応じて、延伸工程後にシートから可塑剤又は無機材を抽出し、更に熱処理を行い、微多孔膜を得る後加工工程と、得られた微多孔膜を、必要に応じてスリットして、所定のコアへ捲回する捲回工程を有する方法が挙げられる。
【0047】
〔混練工程〕
混練工程は、ポリオレフィンと、可塑剤と、必要に応じて無機材と、を含むポリオレフィン組成物を混練して混練物を得る工程である。
【0048】
(ポリオレフィン)
混練工程において用いられるポリオレフィンとしては、特に限定されないが、例えば、エチレン、プロピレンのホモ重合体、又はエチレン、プロピレン、1−ブテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン、及びノルボルネンから成る群より選ばれる少なくとも2つ以上のモノマーで形成される共重合体が挙げられる。このなかでも、孔が閉塞せずに、より高温で熱固定が行えるという観点から、高密度ポリエチレン(ホモポリマー)又は低密度ポリエチレンが好ましく、高密度ポリエチレン(ホモポリマー)がより好ましい。なお、ポリオレフィンは、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0049】
また、重量平均分子量が500,000以下のポリオレフィンを含むポリオレフィン組成物を用いることが好ましい。その場合、重量平均分子量が500,000以下のポリオレフィンは、組成物に含まれる全てのポリオレフィンの合計質量に対して、好ましくは40質量%以上、より好ましくは80質量%以上の割合で組成物に含まれることが好ましい。
【0050】
重量平均分子量が500,000以下のポリオレフィンを用いることにより、電池加熱試験等において早期にポリマーの収縮の緩和が起き、特に加熱安全性試験において安全性を保ち易い傾向にある。なお、重量平均分子量が500,000以下のポリオレフィンを用いる場合を、500,000を超えるポリオレフィンを用いる場合と比較すると、得られる微多孔膜の厚み方向の弾性率が小さくなる傾向にあるため、コアの凹凸が比較的転写され易い微多孔膜が得られる。この点、上述した特定のコアを使用することによって、重量平均分子量が500,000以下のポリオレフィンを含む微多孔膜であっても、電池品質のバラツキを抑えながら、安全性をも維持できるという驚くべき効果が発現する。この効果は、微多孔膜を形成するポリオレフィンとして、重量平均分子量が500,000以下のみのポリオレフィンを使用する場合に、より顕著なものとなる。
【0051】
また、微多孔膜全体の重量平均分子量は、好ましくは100,000以上1,200,000以下であり、より好ましくは150,000以上800,000以下である。微多孔膜全体の重量平均分子量が100,000以上であることにより、溶融時の耐破膜性が発現し易くなる傾向にある。また、この重量平均分子量が1,200,000以下であることにより、押出工程が容易となり、また、溶融時の収縮力の緩和が早くなり耐熱性が向上する傾向にある。
【0052】
混練工程において、ポリエチレン以外のポリマーをブレンドする場合は、ポリエチレン以外のポリマーの割合は、ポリマー全体に対して、好ましくは1〜80質量%、より好ましくは2〜50質量%、さらに好ましくは3〜20質量%、特に好ましくは5〜10質量%である。ポリエチレン以外のポリマーの割合が1質量%以上であることにより、例えばポリエチレンよりも高弾性率のポリマーであれば、厚み方向の耐圧縮性が向上する傾向にある。また、ポリエチレンよりも高融点のポリマーであれば、耐熱性が向上する傾向にある。一方で、ポリエチレン以外のポリマーの割合が80質量%以下であることにより、ポリエチレンとの均一性により、透過性がより向上する傾向にある。
【0053】
混練工程において用いられるポリオレフィン組成物には、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛等の金属石鹸類;紫外線吸収剤;光安定剤;帯電防止剤;防曇剤;着色顔料等の公知の添加剤を含有させてもよい。
【0054】
(可塑剤)
可塑剤としては、特に限定されないが、例えば、沸点以下の温度でポリオレフィンと均一な溶液を形成し得る有機化合物が挙げられる。より具体的には、可塑剤としては、デカリン、キシレン、ジオクチルフタレート、ジブチルフタレート、ステアリルアルコール、オレイルアルコール、デシルアルコール、ノニルアルコール、ジフェニルエーテル、n−デカン、n−ドデカン、パラフィン油等が挙げられる。これらの中でも、パラフィン油及び/又はジオクチルフタレートが好ましい。可塑剤は、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0055】
可塑剤の割合は特に限定されないが、得られる微多孔膜の気孔率の観点から、ポリオレフィンと、可塑剤と、必要に応じて配合される無機材との合計質量に対して、20質量%以上が好ましく、溶融混練時の粘度の観点から90質量%以下が好ましい。
【0056】
(無機材)
無機材としては、特に限定されないが、例えば、アルミナ、シリカ(珪素酸化物)、チタニア、ジルコニア、マグネシア、セリア、イットリア、酸化亜鉛、酸化鉄等の酸化物系セラミックス;窒化ケイ素、窒化チタン、窒化ホウ素等の窒化物系セラミックス;シリコンカーバイド、炭酸カルシウム、硫酸アルミニウム、水酸化アルミニウム、チタン酸カリウム、タルク、カオリンクレー、カオリナイト、ハロイサイト、パイロフィライト、モンモリロナイト、セリサイト、マイカ、アメサイト、ベントナイト、アスベスト、ゼオライト、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、ケイ藻土、ケイ砂等のセラミックス;ガラス繊維等が挙げられる。無機材は1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。これらのなかでも、電気化学的安定性又は耐熱性を向上させるという観点から、シリカ、アルミナ及び/又はチタニアがより好ましい。
【0057】
混練方法としては、特に限定されないが、例えば、まず原材料の一部又は全部を、必要に応じてヘンシェルミキサー、リボンブレンダー、タンブラーブレンダー等で事前混合する。次いで、全ての原材料を、一軸押出機、二軸押出機等のスクリュー押出機;ニーダー;ミキサー等により溶融混練する。混練物は、T型ダイ、環状ダイ等より押出される。このとき、単層押出しを行なってもよいし、積層押出しを行なってもよい。
【0058】
なお、混練時においては、原料ポリマーに酸化防止剤を所定の濃度で混合した後、窒素雰囲気に置換し、窒素雰囲気を維持した状態で溶融混練を行うことが好ましい。溶融混練温度は、好ましくは160℃以上、より好ましくは180℃以上である。また、溶融混練温度は、好ましくは300℃以下、より好ましくは240℃以下である。
【0059】
〔シート成形工程〕
シート成形工程は、得られた混練物を押出し、シート状(単層又は積層であることは問わない)に成型して冷却固化させてシートを得る工程である。シート成形の方法としては、特に限定されないが、例えば、溶融混練し押出された溶融物を、圧縮冷却により固化させる方法が挙げられる。冷却方法としては、冷風、冷却水等の冷却媒体に混練物を直接接触させる方法、冷媒で冷却したロール又はプレス機に混練物を接触させる方法等が挙げられる。冷媒で冷却したロール又はプレス機に混練物を接触させる方法が、膜厚制御性が優れる点で好ましい。
【0060】
〔延伸工程〕
延伸工程は、得られたシートから、必要に応じて可塑剤又は無機材を抽出し、更にシートを一軸以上の方向へ延伸する工程である。シートの延伸方法としては、ロール延伸機によるMD一軸延伸;テンターによるTD一軸延伸;ロール延伸機とテンターの組み合わせ、又は2つのテンターの組み合わせによる逐次二軸延伸;同時二軸テンター又はインフレーション成形による同時二軸延伸等が挙げられる。より均一な膜を得るという観点からは、同時二軸延伸が好ましい。
【0061】
延伸時のトータルの面倍率は、膜厚の均一性、引張伸度、及び気孔率と平均孔径のバランスの観点から、好ましくは8倍以上、好ましくは15倍以上、好ましくは30倍以上である。トータルの面倍率が8倍以上であることにより、高強度で厚み分布が良好な延伸シートが得られ易くなる傾向にある。
【0062】
可塑剤又は無機材の抽出方法としては、特に限定されないが、例えば、シートを抽出溶媒に浸漬する方法、抽出溶媒をシートにシャワーする方法等が挙げられる。
【0063】
抽出溶媒としては、特に限定されないが、例えば、ポリオレフィンに対して貧溶媒であり、可塑剤又は無機材に対しては良溶媒であり、かつ沸点がポリオレフィンの融点よりも低い溶媒が好ましい。このような抽出溶媒としては、特に限定されないが、例えば、n−ヘキサン、シクロヘキサン等の炭化水素類;塩化メチレン、1,1,1−トリクロロエタン、フルオロカーボン系溶媒等のハロゲン化炭化水素類;エタノール、イソプロパノール等のアルコール類;アセトン、2−ブタノン等のケトン類;アルカリ水等が挙げられる。抽出溶媒は、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0064】
なお、無機材は、全工程内のいずれかで全量又は一部を抽出してもよいし、製品中に残存させてもよい。また、抽出の順序、方法及び回数については特に制限はない。無機材の抽出は、必要に応じて行わなくてもよい。
【0065】
〔後加工工程〕
後加工工程は、延伸工程の後、さらに必要に応じてシートから可塑剤又は無機材を抽出し、更に熱処理を行い、微多孔膜を得る工程である。
【0066】
熱処理の方法としては、特に限定されないが、例えば、テンター又はロール延伸機を利用して、延伸及び緩和操作等を行う熱固定方法が挙げられる。緩和操作とは、膜のMD及び/又はTD方向へ、ある所定の温度及び緩和率で行う縮小操作のことをいう。緩和率とは、緩和操作後の膜のMD寸法を操作前の膜のMD寸法で除した値;緩和操作後のTD寸法を操作前の膜のTD寸法で除した値;又はMD及びTDの双方向に緩和した場合は、MDの緩和率とTDの緩和率を乗じた値をいう。
【0067】
〔捲回工程〕
捲回工程は、得られた微多孔膜を、必要に応じてスリットして、所定のコアへ捲回する工程である。なお、使用するコアの好ましい態様は前述のとおりである。
【0068】
捲回体の製造方法は、上記各工程に加え、積層体を得るための工程として、単層体を複数枚重ね合わせる工程を有してもよい。また、電子線照射、プラズマ照射、界面活性剤塗布、化学的改質等の表面処理工程を有してもよい。
【0069】
本実施形態の捲回体から得られる微多孔膜は、従来の微多孔膜と比較して厚み分布が維持されている。そのため、微多孔膜を特に高容量電池のセパレーターとして使用することは、均一な電池性能を得る観点から好適である。
【0070】
なお、上述した各種パラメータについては、特に断りのない限り、後述する実施例における測定法に準じて測定される。
【実施例】
【0071】
次に、実施例及び比較例を挙げて本実施の形態をより具体的に説明するが、本実施の形態はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、実施例中の物性は以下の方法により測定した。
【0072】
(1)重量平均分子量
Waters社製ALC/GPC 150C型(商標)を用い、標準ポリスチレンを以下の条件で測定して較正曲線を作成した。また、下記各ポリマーについても同様の条件でクロマトグラムを測定し、較正曲線に基づいて、下記方法により各ポリマーの重量平均分子量を算出した。
カラム :東ソー製GMH
6−HT(商標)2本+GMH
6−HTL(商標)2本
移動相 :o−ジクロロベンゼン
検出器 :示差屈折計
流速 :1.0ml/min.
カラム温度:140℃
試料濃度 :0.1wt%
【0073】
(ポリエチレンの重量平均分子量)
得られた較正曲線における各分子量成分に0.43(ポリエチレンのQファクター/ポリスチレンのQファクター=17.7/41.3)を乗じることによりポリエチレン換算の分子量分布曲線を得て、重量平均分子量を算出した。
【0074】
(ポリプロピレンの重量平均分子量)
得られた較正曲線における各分子量成分に0.63(ポリプロピレンのQファクター/ポリスチレンのQファクター)を乗じることによりポリエチレン換算の分子量分布曲線を得て、重量平均分子量を算出した。
【0075】
(組成物の重量平均分子量)
最も質量分率の大きいポリオレフィンのQファクター値を用い、その他はポリエチレンの場合と同様にして重量平均分子量を算出した。
【0076】
(2)膜厚(μm)
東洋精機製の微小測厚器、KBM(商標)用いて室温23±2℃及び相対湿度60%で微多孔膜の膜厚を測定した。具体的には、TD方向全幅にわたってほぼ等間隔に5点膜厚を測定し、その平均値を膜厚として算出した。
【0077】
(3)気孔率(%)
10cm×10cm角の試料を微多孔膜から切り取り、その体積(cm
3)と質量(g)を求め、それらと密度(g/cm
3)より、次式を用いて気孔率を計算した。なお、混合組成物の密度としては、用いた原料の各々の密度と混合比より計算して求められる値を用いた。
気孔率(%)=(体積−質量/混合組成物の密度)/体積×100
【0078】
(4)透気度(sec/100cm
3)
JIS P−8117(2009年)に準拠し、東洋精器(株)製のガーレー式透気度計G−B2(商標)により透気度を測定した。
【0079】
(5)MD方向応力ρの上昇率測定
島津製作所製TMA50(商標)を用いて、微多孔膜を50℃で60分間静置して、1.0gの初期荷重におけるMD方向応力ρの上昇率を測定した。具体的には、TD方向5mm及びMD方向20mmの寸法を有する微多孔膜を採取し、専用プローブにMD方向の両端をチャックし、1.0gの初期荷重を掛けて、50℃で120分間静置した。その60分経過したときの応力をMD方向応力ρ(g)として計測し、初期値と比べて、上昇した力をパーセントとして算出した。
【0080】
(6)捲回体外径
図7に示す外径差測定器を用いて捲回体又はコアの平均直径を測定した。サンプリングは0.5mmごとに行ない、かつ捲回体幅方向に渡って測定を行なうこと以外は国際公開第2008/013114号に記載の測定法と同様に、捲回体幅方向における最大直径及び最小直径を定めた。
図7に示す外径差測定器は、データ収集用コンピュータ(7)と、データ収集用コンピュータ(7)に接続された測定データ処理装置(図示せず)と、データを測定するための測定用レーザーの発光部(8)及び測定レーザーの受光部(9)を有する。
【0081】
(7)捲回体のコア内部の周方向ひずみβ
図3に示すように、微多孔膜(3)とコア(2)が重なっている部分のTD方向における中央であり、かつコア(2)のTD方向の中央である位置で、微多孔膜(3)が捲回されたコア(2)の内面に、ひずみゲージ(6)をエポキシ接着剤で粘着させ、捲回体の周方向に発生する収縮に伴うひずみゲージ(6)の変位量をアンプ(5)へ送り、電気信号へ変換させ、コンピュータ(4)よりデータ取集した。具体的には、捲回体を室温25℃及び湿度30%で20日間保管した後、ひずみゲージより観測された収縮量を捲回体のコア内部の周方向のひずみβとして確認した。測定には、ひずみゲージ(L3M3S)、及び共和電業製ひずみ測定器(NBT−50A)を使用した。
【0082】
(8)電池の作製及びサイクル特性評価
a.正極の作製
正極活物質として92.2質量%のリチウムコバルト複合酸化物LiCoO
2、導電材としてリン片状グラファイトとアセチレンブラック(それぞれ2.3質量%)、及びバインダーとして3.2質量%のポリフッ化ビニリデン(PVDF)をN−メチルピロリドン(NMP)中に分散させてスラリーを調製した。このスラリーを、正極活物質塗布量が250g/m
2になり、かつ活物質嵩密度は3.00g/cm
3になるように、正極集電体である厚さ20μmのアルミニウム箔の片面にダイコーターで塗布し、130℃で3分間乾燥後、ロールプレス機で圧縮成形した。
【0083】
b.負極の作製
負極活物質として人造グラファイト96.9質量%、及びバインダーとしてカルボキシメチルセルロースのアンモニウム塩1.4質量%とスチレン−ブタジエン共重合体ラテックス1.7質量%を、精製水中に分散させてスラリーを調製した。このスラリーを、負極活物質塗布量が106g/m
2になり、かつ活物質嵩密度が1.35g/cm
3になるように、負極集電体である厚さ12μmの銅箔の片面にダイコーターで塗布し、120℃で3分間乾燥後、ロールプレス機で圧縮成形した。
【0084】
c.非水電解液の調製
エチレンカーボネート:エチルメチルカーボネート=1:2(体積比)の混合溶媒に、溶質としてLiPF
6を濃度1.0mol/Lとなるように溶解させて調製した。
【0085】
d.電池組立
セパレーターを直径18mmの円形に切り出し、かつ正極及び負極を直径16mmの円形に切り出し、正極と負極の活物質面が対向するよう、正極、セパレーター及び負極の順に重ねて、蓋付きステンレス金属製容器に収納した。容器と蓋とは絶縁されており、容器は負極の銅箔と、蓋は正極のアルミ箔と接していた。この容器内に上記cで得られた非水電解液を注入して密閉した。室温にて1日間放置した後、25℃の雰囲気下、3mA(0.5C)の電流値で電池電圧4.2Vまで充電し、到達後4.2Vを保持するようにして電流値を3mAから絞り始めるという方法で、合計6時間、電池作製後の最初の充電を行った。続いて、3mA(0.5C)の電流値で電池電圧3.0Vまで放電した。
【0086】
e.サイクル特性
充放電は60℃の雰囲気下で100サイクル実施した。充電は6.0mA(1.0C)の電流値で電池電圧4.2Vまで充電し、到達後4.2Vを保持するようにして電流値を6.0mAから絞り始めるという方法で、合計3時間充電した。放電は6.0mA(1.0C)の電流値で電池電圧3.0Vまで放電した。100サイクル目の放電容量と1サイクル目の放電容量から、容量維持率を算出した。容量維持率が高い場合、良好なサイクル特性を有するものと評価した。
【0087】
(9)タルミ評価
タルミ測定を以下のように実施した。
図8に示すように、捲回体(1)をシャフトに装着させた後、膜(3)を繰出し、2つの回転可能なロール(10,10)にロール間の長さが2mになるように張り、1kgの重り(11)で荷重させ、測定を行った。具体的には、2つのロール間に基準線(金属製ビアノ線)を張り、膜張り完了後、30秒経過時に幅方向において最も弛んだ部分と基準線の距離を計測し、タルミ量として算出した。測定位置は2つのロール間の中心位置であった。
【0088】
[製膜例1]
重量平均分子量が2,000,000のホモポリマーのポリエチレン(PE(A))99質量部に、酸化防止剤としてペンタエリスリチル−テトラキス−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]を1質量部添加し、タンブラーブレンダーを用いてドライブレンドすることにより、混合物を得た。得られた混合物を、二軸押出機へ窒素雰囲気下でフィーダーにより供給した。また、流動パラフィン(37.78℃における動粘度:7.59×10
−5m
2/s)を押出機シリンダーにプランジャーポンプにより注入した。
【0089】
押出機内で混合物と流動パラフィンを溶融混練し、押し出されるポリオレフィン組成物中に占める流動パラフィン量比が質量70%となるように(即ち、ポリマー濃度が30質量%となるように)、フィーダー及びポンプを調整した。設定温度230℃、スクリュー回転数240rpm、及び吐出量18kg/hの条件下で溶融混練を行った。
【0090】
続いて、溶融混練物を、T−ダイを経て表面温度25℃に制御された冷却ロール上に押出しキャストすることにより、原反膜厚1400μmのゲルシートを得た。
【0091】
次に、ゲルシートを同時二軸テンター延伸機に導き、二軸延伸を行った。設定延伸条件は、MD倍率7.0倍、TD倍率6.0倍(即ち、7×6倍)、及び二軸延伸温度125℃であった。
【0092】
次に、延伸後のゲルシートをメチルエチルケトン槽に導き、メチルエチルケトン中に充分に浸漬して流動パラフィンを抽出除去し、その後メチルエチルケトンを乾燥除去した。
【0093】
次に、熱固定(「HS」と略記することがある)を行なうべくTDテンターに導き、熱固定温度125℃及び延伸倍率1.8倍の条件下でHSを行い、その後、0.5倍の緩和操作(即ち、HS緩和率が0.5倍)を行った。その後、得られた微多孔膜について、端部を裁断し幅1,100mm、長さ5,000mのマザーロールとして巻き取り、表1に膜1として示す微多孔膜を得た。得られた膜について膜厚、透気度及び気孔率を測定して、結果を表1に示した。
【0094】
[製膜例2〜6]
製膜例1と同様の操作により、ポリマー吐出量、二軸延伸倍率、及びHS延伸倍率を調整し、表1に記載の膜2〜6の微多孔膜のマザーロールを得た。
【0095】
[コア作製例]
異なる密度を有する複数の樹脂含浸紙(それぞれの厚さ:0.3〜1.2mm)の組み合わせを所望の大きさに切断して、酢酸ビニル等の接着剤に複数回含浸させ、所定の捲回条件下で螺旋状に巻き上げて、熱プレスに供して、又はABS樹脂を一般的な連続押出し成形に供して、円筒管を形成した。ポリウレタン、アクリル樹脂等の樹脂を有機溶剤で希釈して円筒管の表面に塗布し、乾燥し、表面研磨により仕上げを行なった。得られた管をそれぞれ切り出して、表2に示される紙管1〜4及びABSコア1を得た。紙管1〜4及びABSコア1は、それぞれ、内径が152.6mmであり、かつ幅が700mmであった。
【0096】
[コアの強度評価]
偏平圧縮強度
各々のコアのサンプルを全長100mmに切断し、23℃、50%RHで24時間調湿した後、試験速度12.7mm/minの条件下で偏平圧縮強度を測定した。測定は、オートグラフ(AG−50kNG、(株)島津製作所社製)を用いた。座屈点(第一降伏点)を偏平圧縮強度とし、サンプル数は各々5点とし、5点の相加平均値を採用した。
表面荷重凹み量
各々のコアのサンプルを全長100mmに切断し、さらに半円型へ切断し、23℃、50%RHで24時間調湿した。試験片を同形状の半円型の治具にセットし、試験片の頂点に直径5mmの鉄球を乗せ、荷重50kg、試験速度0.1mm/minの条件下で圧縮試験を行った。測定は、オートグラフ(AG−50kNG、(株)島津製作所社製)を用いた。凹みの最大深さを表面凹み量とした。
【0097】
[実施例1]
製膜例1で得られた膜1のマザーロールから、微多孔膜を幅500mmでスリットし、紙管3に巻き取って実施例1の捲回体を得た。なお、スリッターにおける繰り出し張力はマザーロールの全幅1.1mに対し110Nとし、500mm幅の各捲回物の張力はいずれも10Nとなるように制御した。当該捲回体を室温25℃及び湿度30%で20日間保管した後、幅方向において、中央部又は端部よりセパレーターとして採取し、本捲回体を用いて上記の測定又は評価を行い、その結果を表3に示した。実施例1の捲回体について、コアの周方向のひずみβの実測グラフを
図4に示し、かつ微多孔膜のMD方向応力ρの上昇率の実測グラフを
図6に示す。
【0098】
[実施例2〜17、比較例1〜4]
表3又は4に示す通りに、多孔膜種類、コア種類及び捲回条件を設定したこと以外は実施例1と同様に捲回体及びセパレーターを得た。
【0099】
実施例1〜15及び比較例1〜4の評価結果を、それぞれ下記表3及び4に示す。比較例1については、膜6を紙管3に捲回するときに巻きずれを回避できなかったので、X
1−X
0の値の測定、捲回体の平均直径の測定、タルミ量の評価及び電池特性の評価を行わなかった。
【0100】
表3の実施例16及び17で示されるように、使用される微多孔膜の膜厚が7μmの場合には、たとえば実施例3又は4のような膜厚が12μmのものと比較して、両者の膜が有する収縮応力上昇率(ρ)が同じであっても、前者(7μmの膜)の応力は小さくなるので、保管前後の変化量が少なく、そのため膜一枚としての変化量も少なくなり、その結果、所望するような良好な電池サイクル特性が得られる。
【0101】
【表1】
【0102】
【表2】
【0103】
【表3】
【0104】
【表4】