(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6386514
(24)【登録日】2018年8月17日
(45)【発行日】2018年9月5日
(54)【発明の名称】接合部材と半田の接合方法
(51)【国際特許分類】
C25D 5/16 20060101AFI20180827BHJP
C25D 7/00 20060101ALI20180827BHJP
C25D 5/12 20060101ALI20180827BHJP
C25D 3/12 20060101ALI20180827BHJP
H01L 23/50 20060101ALI20180827BHJP
【FI】
C25D5/16
C25D7/00 G
C25D5/12
C25D3/12
H01L23/50 D
【請求項の数】2
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-213749(P2016-213749)
(22)【出願日】2016年10月12日
(65)【公開番号】特開2017-89004(P2017-89004A)
(43)【公開日】2017年5月25日
【審査請求日】2017年5月16日
(31)【優先権主張番号】特願2015-230083(P2015-230083)
(32)【優先日】2015年11月6日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000139333
【氏名又は名称】株式会社ワールドメタル
(74)【代理人】
【識別番号】110001601
【氏名又は名称】特許業務法人英和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】林田 洋之
(72)【発明者】
【氏名】青野 英樹
(72)【発明者】
【氏名】塚田 泰
(72)【発明者】
【氏名】寺田 恭明
(72)【発明者】
【氏名】末信 郁也
【審査官】
萩原 周治
(56)【参考文献】
【文献】
特開2015−106616(JP,A)
【文献】
特開昭50−149544(JP,A)
【文献】
特開2009−010407(JP,A)
【文献】
特開2004−349497(JP,A)
【文献】
特開2000−054183(JP,A)
【文献】
特公昭46−032483(JP,B1)
【文献】
特開2013−095991(JP,A)
【文献】
特開2007−266047(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2004/0232534(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D 3/00−7/12
H01L 23/48−23/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
接合部材の接合部表面にNi電気メッキ層を形成して半田と接合する方法であって、そのNi電気メッキ浴の組成が、浴中にハロゲンイオンとアンモニアイオンが共存してなり、かつ、そのNi電気メッキ浴の中の、Ni2+の濃度が、1〜50g/L、かつハロゲンイオンの濃度が、1〜100g/L、NH4+が、1〜100g/Lである電気メッキ浴を用いて、pH2〜10、メッキ浴温度が、常温〜80℃、陰極電流密度が、0.1〜10A/dm2で、メッキ厚さ0.05〜30μmメッキして、そのNiメッキ層のミクロ組織の断面構造が、花蕾野菜状結晶が林立する構造で、その結晶の下部は花蕾野菜の茎部状で、上部は花蕾野菜の花蕾部状からなり、その林立する花蕾野菜状結晶の中の一部あるいは全ての結晶の上部が、先太に広がる構造のNi電気メッキ被膜を形成し、半田との接合時、半田の流動体を、そのNi電気メッキ被膜の花蕾野菜状結晶間の隙間(幹と幹の間の隙間)、あるいは/および花蕾野菜の枝と枝の間の隙間に侵入させることを特徴とする接合部材と半田の接合方法。
【請求項2】
前記接合部材が半導体装置用リードフレームである請求項1に記載の接合部材と半田の接合方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は接合部材
と半田の接合方法に関するものである。
【0002】
本発明において接合部材とは、相手材に接合されることで製品として完成される部材全般を意味するものである。たとえば本発明において、半導体装置用リードフレームが最も代表的接合部材である。
本発明の「接合」という用語は、はんだ付け
意味するものである。
【0003】
本発明において接合性とは、接合部材と、その相手材
(半田)との間の接合強度、およびその半田の、接合部材に対する濡れ性、濡れ広がり性を意味するものである。
【背景技術】
【0004】
半導体の実装工程で、今日、最も重要視されている特性として、リードフレームと封止樹脂および銀ペースト樹脂との密着強度(接合強度)、半田との接合強度、濡れ広がり性、およびワイヤーボンディング性(ボンディングワイヤーとの接合強度)であり、これらすべてが優れたリードフレームが要求されている。
【0005】
リードフレームの表面は、まずNiメッキされるのが常法である。
半導体装置用リードフレーム素材上のNiメッキは、ボンディング性や展延性が必要なことから、従来は、無光沢のNiメッキが用いられているが、樹脂、半田、およびボンディングワイヤーとの接合性に問題点があるのが実情である。
【0006】
リードフレームの半田付け性を改善する従来発明として特許文献1が、そしてモールド樹脂との密着強度を改善する方法として特許文献2に記載された発明がある。
【0007】
特許文献1に記載された発明は、リードフレーム表面にNiメッキ、さらにNiメッキの上に、Pdメッキ(Ni−Pd)、さらにPdメッキの上に、Auメッキ(Ni−Pd−Au)をして半田付け性を改善する方法である。
特許文献1の発明は、Niメッキの上に更に、貴金属メッキが必須であり、メッキのコストアップが課題である。
【0008】
特許文献2に記載された発明は、リードフレーム上のNiメッキの結晶の配向性を制御することにより、モールド樹脂、Agペースト樹脂との密着強度を改善する方法であるが、半田付け性の改善には、特許文献1の発明と同じくNiメッキの上に更に、貴金属メッキが不可欠である。
特許文献1、2の発明は共に、貴金属メッキによるコストアップと、貴金属メッキしても尚かつ、接合強度そのものに問題がある。
【0009】
かかる観点から、リードフレーム表面に、貴金属メッキは必要とせず、Niメッキするだけで、封止樹脂および銀ペースト樹脂との良好な密着強度(接合強度)、半田との良好な接合強度、濡れ広がり性、および良好なワイヤーボンディング性(ボンディングワイヤーとの接合強度)が得られる新しいNiメッキ技術が嘱望されているのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特許第2543619号
【特許文献2】特開平10−27873号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたもので、その目的は、接合部材表面に、貴金属メッキは必要とせず、Ni電気メッキするだけで、半田との良好な接合強度、濡れ広がり性が得られる接合部材
と半田の接合方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は前記課題を解決すべく鋭意研究を行った結果、下記の知見を得た。すなわち、接合部材の接合部表面にNi電気メッキ層を形成し
て半田と接合するに際して、そのNi電気メッキ浴の組成が、浴中にハロゲンイオンとアンモニアイオンが共存してなり、かつ、そのNi電気メッキ浴の中の、Ni2+の濃度が、1〜50g/L、かつハロゲンイオンの濃度が、1〜100g/L、NH4+が、1〜100g/Lである電気メッキ浴を用いて、pH2〜10、メッキ浴温度が、常温〜80℃、陰極電流密度が、0.1〜10A/dm2で、メッキ厚さ0.05〜30μmメッキして、そのNiメッキ層のミクロ組織の断面構造
が、花蕾野菜状結晶が林立する構造で、その結晶の下部は花蕾野菜の茎部状で、上部は花蕾野菜の花蕾部状からなり、その林立する花蕾野菜状結晶の中の一部あるいは全ての結晶の上部が、先太に広がる構造
のNi電気メッキ被膜を形成し、半田との接合時、半田の流動体を、そのNi電気メッキ被膜の花蕾野菜状結晶間の隙間(幹と幹の間の隙間である)あるいは花蕾野菜の枝と枝の間の隙間に侵入させることで、貴金属メッキしなくても、貴金属メッキした場合と同等あるいは同等以上の接合特性(濡れ広がり性および接合強度)が
得られることが判った。
【0013】
本発明Niメッキ被膜は、メッキ被膜の厚さが、0.05μm以上になると、結晶の先端花蕾部が先太に広がり始め、先太結晶が林立するようになり、相手材との接合強度の上昇が特に顕著になるが、本発明Ni電気メッキ被膜は、いまだ先太に成長していないメッキ初期段階の被膜の状態(0.01μm〜0.05μm未満)でも、相手材が半田の場合、貴金属メッキしなくても、貴金属メッキした場合と同等あるいは同等以上の接合強度と半田の濡れ広がり性が得られることが判った。
【0014】
なお本発明では、いまだ先太に成長していないメッキ初期段階の被膜を「
メッキ初期段階の被膜」と表現した。
【0015】
本発明では、メッキ厚さが、0.05μm以上で、結晶の先端花蕾部が先太に広がり始め、花蕾野菜状結晶間に隙間が形成されてなる状態を「先太に成長した状態(あるいは段階)」と表現し
、メッキ厚さが、0.01μm〜0.05μm未満の状態をメッキ初期段階の被膜の状態と表現した。
【0016】
前記ミクロ組織断面の構造が、前記「先太に成長した段階」で、相手材
(半田)と接合した時の接合強度は、前記「
メッキ初期段階の被膜の状態」のNi電気メッキ被膜と接合した時よりも更に高い接合強度が得られる。
本発明は、これらの知見に基づいてなされたものである。
【0017】
ブロッコリーは花蕾野菜の代表的なものであるが、本発明Ni電気メッキ被膜表面を顕微鏡で観察した時、あたかもブロッコリーの森を上から俯瞰した外観になる。
【0018】
先太に成長した段階で、接合強度が、
前記メッキ初期段階の被膜の状態の接合強度よりも更に高くなるのは、相手材
(半田)の流動体が、隣り合う花蕾野菜状結晶間の隙間(幹と幹の間の隙間)、あるいは/および花蕾野菜の枝と枝の間の隙間に侵入し、隙間が相手材の流動体で埋められ、相手材が固化することで、接合面積の拡大と共に、アンカー効果が生まれて、接合強度がより高くなるものと思われる。
【0019】
前記したように、メッキ厚さが0.05μm以上になると、結晶の先端花蕾部が先太に広がり始めて前記先太に成長した段階になり、相手材との接合強度の上昇が顕著になるが、メッキ厚さが30μmを超えると、Niメッキの結晶が脆くなり、接合強度が低下するので、メッキ厚さは、30μm以下が好適である。
【0020】
前記
メッキ初期段階の被膜の状態は、0.01〜0.05μm未満の膜厚範囲である。
下限を0.01μmにする理由は、0.01未満のメッキ厚さになると、実際のメッキ工程では、被膜厚さのコントロールが難しくなり、安定的にメッキを行うことが難しくなるためである。したがって下限値は、0.01μmが好適である。
【0021】
前記したように、相手材が
半田の場合、Niメッキ被膜が「
メッキ初期段階の被膜の状態」でも、従来のNi電気メッキ被膜に貴金属メッキした場合と同等あるいは同等以上の接合強度が得られるので、相手材が
半田の場合、本発明の好適なNiメッキ被膜の厚さ範囲は、0.01μm〜30μmとなる。
【0022】
Ni電気メッキ層は、接合部材に直接メッキして形成しても良いし、あるいは下地に他の金属を被覆して、あるいは必要に応じてNiを無電解法、蒸着法等で形成して、この下地層の上にNi電気メッキ層を形成しても良い。
【0023】
ここで相手材の流動体とは、相手材が
半田にあっては、溶けた融体あるいは軟化した塑性流体を意味
する。
【0024】
最適な結晶構造の析出物を得るためには、メッキ液の組成、および電流密度、メッキ液温度、極間距離等のメッキ条件を制御することにより達成できる。
【0025】
本発明では、Niの電気メッキ浴中にハロゲンイオンとアンモニアイオンが共存することが必須である。すなわちNi
2+、ハロゲンイオン、NH
4+が必須である。
【0026】
Niの電気メッキ液のpHは、2〜10、メッキ温度は常温〜80℃、陰極電流密度は、0.1〜10A/dm
2が好ましい。
【0027】
メッキ浴組成およびメッキ条件を適正に管理することにより常に一定の結晶構造のメッキ被膜を得ること出来る。
【0028】
Niメッキ浴中の、Ni
2+の最適濃度は、1〜50g/Lであり、それより少ないと、結晶が脆くなり、それより多いと最適な結晶の出現が難しい。
Ni
2+供給塩としては、硫酸ニッケル、塩化ニッケル、スルファミン酸ニッケル、酢酸ニッケル、クエン酸ニッケル等が好ましい。
【0029】
またハロゲンイオンの最適濃度は、1〜100g/Lが好ましい。それより少ないと結晶が小さくなり、また多すぎると、結晶が脆くなる。
ハロゲンイオン供給塩としては、NH
4Cl、NH
4Br、NH
4F、NH
4HF(酸性フッ化アンモニウム)、NaF、KCl、NaCl、NiCl
2、NiBr
2、NaBr、KBr、CaBr
2、NaI、KI等が好ましい。
【0030】
さらにNH
4+は、1〜100g/Lが好ましい。
多すぎても、少なすぎても本発明の結晶は出現しない。
【0031】
硼酸等もpH緩衝剤として用いても良い。
【0032】
本発明接合部材の、最も代表的なものは、半導体装置用リードフレームであり、素材として、純銅、Cu合金、Ni−Fe合金等が用いられるが、本発明では、その他接合に供される全ての金属、合金成分からなる部材全てを包含するものである。
【発明の効果】
【0033】
本発明は、半導体装置用リードフレームの様な接合部材を、
半田と接合する際の接合強度、半田濡れ性、濡れ広がり性を顕著に向上させることができるものであり、接合部材の軽小化と、その接合部の信頼性の向上およびそのコスト低減に多大な貢献をなすものである。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【
図1】本発明Niメッキ層(0.01、0.03、1μm厚)外観SEM写真
【
図2】本発明Niメッキ層(1μm厚)断面のSEM写真
【
図3】
半田を接合した時の断面の元素のマッピング写真
【
図4】
従来のNiメッキ層(ワット浴)外観のSEM写真
【
図5】
従来のNiメッキ層(ワット浴)断面のSEM写真
【
図6】
従来のNiメッキ層(スルファミン酸浴)外観のSEM写真
【
図7】
従来のNiメッキ層(スルファミン酸浴)断面のSEM写真
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下に本発明の実施の形態を従来方法と対比させて説明する。なお、本実施の形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、本発明がこれのみに限定されるものでないことは勿論である。
【0036】
実施例1
半田合金に対するNiメッキ厚さ範囲の検証
接合部材として銅合金素材のリードフレームを使用し、接合部材に接合する相手材として、1種類の
半田合金を選択した。
【0037】
1種類の半田合金は、3%Ag−0.5%Cu−Sn(残部)である。
【0038】
リードフレーム接合面に形成するNi電気メッキ層の厚さを変えた時の相手材(
半田合金)との接号強度の変化を調べた。
【0039】
Ni電気メッキ層のメッキ厚さは、
0.01μm、0.02μm、0.05μm、1μm、10μm、20μm、30μm、40μmの8水準で変化させた。
メッキ初期段階の皮膜の状態が2水準、先太に成長した段階が、6水準である。
【0040】
リードフレームのNi電気メッキの条件は下記のとおりである。
銅合金素材のリードフレームの表面を常法通り脱脂、酸洗い、活性化処理後、リードフレーム全面に、前記8水準のメッキ厚さのNiメッキを施した。
Ni電気めっきのメッキ浴組成とメッキ条件を表1に示す。
【0042】
また従来技術と比較するために、従来技術のメッキ法で、1μm厚のNi電気メッキ層の表面に、Auメッキ層を1層形成したものと、Niメッキの表面にPdとAuを2層メッキした従来技術品も作成した。
【0043】
前記メッキ厚さの異なる8種類のリードフレームに、
半田合金を接合して、接合強度の測定を行った。また前記貴金属を1層、2層メッキしたリードフレームにも
半田合金を接合して、従来技術との接合強度の比較を行った
【0044】
表2の比較例は、従来技術のメッキ方法でNiメッキ層のみ被覆した場合であり、Niメッキ浴はスルファミン酸浴を用いた。
表2の比較例に使用したスルファミン酸浴組成とメッキ条件を表12に示す。メッキ条件は、50℃、5A/dm2で、銅合金素材のリードフレームに前記8水準のメッキ厚さでメッキした。
【0046】
表
2より、Niメッキ層の厚さが0.05μm以上(先太に成長した段階)になると、半田合金場合、比較例に比較して、極めて高い強度が得られることを確認できた。
また30μmを越える厚さになると、接合強度の低下が激しくなることを確認できた。
【0047】
また更に表
2より、本発明Niメッキ被膜は、
メッキ初期段階の被膜の状態(0.01〜0.05μm未満厚さ)の場合でも、比較例の場合に比較して、極めて高い強度が得られることが判る。そして更に、従来のNiメッキの上に、更に貴金属層を1層、2層メッキした場合(従来技術品)と同等以上の接合強度を有しているということであり、貴金属メッキすることなしに、貴金属メッキした従来技術品と同等以上の接合性が得られることが確認できた。
【0048】
実施例
2
貴金属メッキした従来技術品との比較
接合部材として実施例1と同じ銅合金素材のリードフレームを使用。
接合部材(リードフレーム)に接合する相手材として、2種類の半田合金を選択した。
【0049】
2種類の半田合金は、
3%Ag−0.5%Cu−Sn(残部)、
1%Ag−0.7%Cu−2%Bi−Sn(残部)である。
【0050】
接合部材接合面に形成するNiメッキ層の厚さは、1μmとし、Ni層単独のリードフレーム、Ni電気メッキ層の上に、更にAuメッキ層を形成した2層構造のリードフレーム、Ni電気メッキ層の上にPdメッキ層、Pdメッキ層の上に更にAuメッキ層形成の3層構造のリードフレーム、以上3種類のリードフレームを作製した。
また半田濡れ広がりテストでは、
メッキ初期段階の被膜の状態の濡れ広がり性を測定するために、Ni層厚さ0.01μm、0.03μmのリードフレームも作製した。
【0051】
Ni電気メッキ層の上にAuメッキ層形成の2層構造の場合は、1μm厚さのNiメッキ層の上に、0.05μm厚さのAuメッキ層を形成した。
Ni電気メッキ層の上にPdメッキ層、Pdメッキ層の上に更に、Auメッキ層形成の3層構造の場合は、1μm厚さのNiメッキ層の上に、0.1μm厚さのPdメッキ層を形成し、Pdメッキ層の上に、0.01μm厚さのAuメッキ層を形成した。
【0052】
リードフレームのNi電気メッキの浴組成およびメッキ条件は実施例1と同じである。
【0053】
表1に示したメッキ浴組成およびメッキ条件で、0.01、0.03、および1μm厚さNiメッキした時の、メッキ層表面外観のSEM写真を
図1に示す。
1μm厚Ni層断面のSEM写真を
図2に示す。
倍率は、
図1は10000倍、
図2は30000倍である。
【0054】
また本発明と比較のために、従来技術でNiメッキ後、更に、Ni層の上に、前記した条件で、Auメッキしたリードフレーム、およびNi層の上に、Pdメッキし、Pdの上に、更に、Auメッキした前記3種類の構造のリードフレームも作製した。
【0055】
SEM写真の解析結果と接合強度の測定結果
図1の外観SEM写真から判るように、本発明Niメッキ被膜は、先太に成長していない「
メッキ初期段階の被膜の状態」の被膜(0.01、0.03μm)でも、被膜が厚くなるにしたがって、芽が成長して大きくなることが判る。
先太に成長した段階(1μm厚さ)のNiメッキ層の結晶は、花蕾野菜状の結晶が林立した花蕾野菜の森を上から俯瞰した時のような外観をしており、そして個々の花蕾野菜状結晶の断面構造は、
図2の断面SEM写真から判るように、茎部と花蕾部からなる突起形状で、突起上部の花蕾部は、ほぼ半数以上が先太形状である。
【0056】
結晶断面の全体構造は、これらの突起が林立した構造になっており、隣同士の突起間には隙間が存在し、これらの隙間は、入り組んだ入江状の隙間構造を形成している。そして先太結晶部の隙間は、入江の入り口側が奥側よりも細く絞られる構造になっている。
【0057】
次に半田濡れ広がりテストの測定結果を表
3に、半田の接合強度の測定結果を表
4に示す。また併せて、半田とNiメッキ層の接合部断面の元素のマッピング写真を
図5に示す。倍率は10000倍である。
【0059】
表
3の従来技術で用いたNiメッキはスルファミン酸浴を用いた。
表
3の従来技術に使用したスルファミン酸浴組成とメッキ条件を表
6に示す。
メッキ条件は、50℃、5A/dm2で、1ミクロンのメッキである。
表
3の従来技術の、スルファミン酸Niメッキ後の外観のSEM写真は図
6に、断面のSEM写真は図
7に示す。
【0060】
表
3の結果より、
本発明Niメッキ被膜は、
メッキ初期段階の被膜の状態から先太に成長した状態まで、貴金属メッキしなくても、貴金属メッキした場合と同等の半田濡れ広がり性を有していることが判る。
このことからも、本発明においては敢えて貴金属メッキは必要としないことが判る。
【0061】
表
3の結果より、
本発明Niメッキ被膜は、
メッキ初期段階の被膜の状態から先太に成長した状態まで、貴金属メッキしなくても、貴金属メッキした場合と同等の半田濡れ広がり性を有していることが判る。
このことからも、本発明においては敢えて貴金属メッキは必要としないことが判る。
【0062】
また従来方法のNiメッキ被膜(1μm厚さ)に、貴金属を1層、あるいは2層メッキした場合よりも、本発明はNi被膜単独で、3倍以上の半田濡れ広がり性を有しており、本発明Niメッキ被膜には、敢えて貴金属メッキは必要としないことが判る。
【0064】
表
4の従来技術で用いたNiメッキのスルファミン酸浴組成とメッキ条件を表
6に示す。
メッキ条件は、50℃、5A/dm2で、1ミクロンのメッキである。
【0065】
表
4の半田接合強度の評価方法
半田接合強度の測定は、メッキ膜上の2mm×2mm=4mm
2の面積区域に、半田付け後、垂直方向に引張って強度を測定した。
【0066】
表
4の結果から、本発明Niメッキ被膜は、従来方法のNiメッキ上に、更に貴金属を1層、2層メッキした従来技術の、1.6〜1.8倍の接合強度を有しており、本発明Niメッキ被膜は、敢えて貴金属メッキしなくても、従来方法に比べて極めて高い半田接合強度を有していることが判る。
【0067】
強度が顕著に向上する理由は、図
3の接合部断面の元素のマッピング写真から判るように、半田がNiメッキ層の複雑な入江状、タコツボ状隙間の中に侵入、固化したことによるアンカー効果および接着面積の拡大が、本発明の接合強度を高くする最大の要因であろう。
【産業上の利用可能性】
【0070】
軽小化する半導体装置のリードフレームの分野で多くの需要が期待できる。
また、その他一般的な接合部材の分野でも多く利用されることが期待できる。
【符号の説明】
【0071】
1…接合部材 2…Niメッキ層
3…花蕾野菜状結晶 4…茎部
5…先太花蕾部 8…半田層