(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6386522
(24)【登録日】2018年8月17日
(45)【発行日】2018年9月5日
(54)【発明の名称】計時器用エスケープのための安全用調節
(51)【国際特許分類】
G04C 5/00 20060101AFI20180827BHJP
G04B 15/14 20060101ALI20180827BHJP
【FI】
G04C5/00
G04B15/14 Z
【請求項の数】11
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2016-242073(P2016-242073)
(22)【出願日】2016年12月14日
(65)【公開番号】特開2017-111141(P2017-111141A)
(43)【公開日】2017年6月22日
【審査請求日】2016年12月14日
(31)【優先権主張番号】15201020.3
(32)【優先日】2015年12月18日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】504341564
【氏名又は名称】モントレー ブレゲ・エス アー
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(74)【代理人】
【識別番号】100064621
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 政樹
(72)【発明者】
【氏名】セバスチャン・アラゴン・カリヨ
(72)【発明者】
【氏名】ブノワ・ルジュレ
(72)【発明者】
【氏名】ダヴィデ・サルチ
【審査官】
榮永 雅夫
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭56−143980(JP,A)
【文献】
特開2012−168178(JP,A)
【文献】
実公昭59−022788(JP,Y1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G04C 3/02 − 12
G04C 5/00
G04B 15/00 − 18/08
G04B 21/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
機能的な可動部品(300)を有する計時器機構(200)の機能の達成には余剰なエネルギーを散逸させる調節機構(100)であって、
当該調節機構(100)は、前記機能的な可動部品(300)が過剰動作した場合に、エネルギーの散逸を制御するように構成しており、
当該調節機構(100)は、少なくとも1つのローター(10)を有し、このローター(10)は、前記機能的な可動部品(300)に運動学的に接続されているか又は前記機能的な可動部品(300)によって形成されており、透磁性である導電性ローター部分(11)又は磁化されている磁化ローター部分(12)を有し、
当該調節機構(100)は、磁気的相互作用を行う環状領域上において、前記導電性ローター部分(11)又は前記磁化ローター部分(12)のすぐ近くにこれと対向するように、磁化されている磁化ステーター部分(21)又は透磁性である導電性ステーター部分(22)を有する少なくとも1つのステーター(20)を有し、
前記磁気的相互作用を行う環状領域において、少なくとも前記ローター(10)又は前記ステーター(20)は、少なくとも1つの突出領域(15、25)を有し、この突出領域(15、25)においては、前記ローター(10)又は前記ステーター(20)は、磁気的相互作用をするように前記ステーター(20)又は前記ローター(10)とそれぞれ重なり合うように動くことができ、
前記環状領域においては、少なくとも前記ローター(10)又は前記ステーター(20)は、少なくとも1つの空欠領域(16、26)を有し、この空欠領域(16、26)においては、前記ローター(10)又は前記ステーター(20)は、前記ステーター(20)又は前記ローター(10)と磁気的相互作用をするように動くことができず、
当該調節機構(100)は、前記機能的な可動部品(300)が過剰動作したときに、前記環状領域における渦電流によるエネルギーの散逸を制御するように構成しており、
前記エネルギーの散逸は、前記ローター(10)及び前記ステーター(20)の相対的角度位置に依存しており、前記ローター(10)及び前記ステーター(20)の前記突出領域(15、25)が前記環状領域において対面しているときにのみ発生し、
前記空欠領域(16、26)及び前記突出領域(15、25)は、前記ローター(10)の回転軸に垂直な平面において延在して、前記ローター(10)及び前記ステーター(20)を半径方向に近づけ又は離すように動かす
ことを特徴とする調節機構(100)。
【請求項2】
少なくとも前記ローター(10)又は前記ステーター(20)は、前記突出領域(15、25)を交番構成で有し、前記突出領域(15、25)においては、前記ローター(10)又は前記ステーター(20)は、前記ステーター(20)又は前記ローター(10)と重なり合うように動いて渦電流を発生させる相互作用を行うことができ、
少なくとも前記ローター(10)又は前記ステーター(20)は、前記空欠領域(16、26)を交番構成で有し、前記空欠領域(16、26)においては、前記ローター(10)又は前記ステーター(20)は、前記ステーター(20)又は前記ローター(10)と重なり合うように動くことができず、前記ローター(10)と前記ステーター(20)の間の相互作用は、渦電流を発生させることができない
ことを特徴とする請求項1に記載の調節機構(100)。
【請求項3】
前記環状領域において、前記ローター(10)及び前記ステーター(20)の両方は、一連の前記突出領域(15、25)及び空欠領域(16、26)を有し、
前記突出領域(15、25)においては、前記ローター(10)又は前記ステーター(20)は、渦電流を発生させる相互作用を行うように前記ステーター(20)又は前記ローター(10)と重なり合うように動くことができ、
前記空欠領域(16、26)においては、前記ローター(10)又は前記ステーター(20)は、前記ステーター(20)又は前記ローター(10)と重なり合うように動くことができず、前記ローター(10)と前記ステーター(20)の間の相互作用によって渦電流を発生させることができないことを特徴とする請求項2に記載の調節機構(100)。
【請求項4】
当該調節機構(100)は、前記ステーター(20)の角度位置を調整する第1の手段(50)を有する
ことを特徴とする請求項1に記載の調節機構(100)。
【請求項5】
当該調節機構(100)は、同軸の前記ローター(10)を複数有し、前記ローター(10)の少なくとも2つは一緒にエアギャップ(E)を定め、このエアギャップ(E)の内部に前記ステーター(20)が収容される
ことを特徴とする請求項1に記載の調節機構(100)。
【請求項6】
当該調節機構(100)は、前記ローター(10)の少なくとも1つの他のものに対する角度位置を調整する第2の手段(60)を有する
ことを特徴とする請求項5に記載の調節機構(100)。
【請求項7】
機能的な可動部品(300)を有する計時器機構(200)の機能の達成には余剰なエネルギーを散逸させる調節機構(100)であって、
当該調節機構(100)は、前記機能的な可動部品(300)が過剰動作した場合に、エネルギーの散逸を制御するように構成しており、
当該調節機構(100)は、少なくとも1つのローター(10)を有し、このローター(10)は、前記機能的な可動部品(300)に運動学的に接続されているか又は前記機能的な可動部品(300)によって形成されており、透磁性である導電性ローター部分(11)又は磁化されている磁化ローター部分(12)を有し、
当該調節機構(100)は、磁気的相互作用を行う環状領域上において、前記導電性ローター部分(11)又は前記磁化ローター部分(12)のすぐ近くにこれと対向するように、磁化されている磁化ステーター部分(21)又は透磁性である導電性ステーター部分(22)を有する少なくとも1つのステーター(20)を有し、
前記磁気的相互作用を行う環状領域において、少なくとも前記ローター(10)又は前記ステーター(20)は、少なくとも1つの突出領域(15、25)を有し、この突出領域(15、25)においては、前記ローター(10)又は前記ステーター(20)は、磁気的相互作用をするように前記ステーター(20)又は前記ローター(10)とそれぞれ重なり合うように動くことができ、
前記環状領域においては、少なくとも前記ローター(10)又は前記ステーター(20)は、少なくとも1つの空欠領域(16、26)を有し、この空欠領域(16、26)においては、前記ローター(10)又は前記ステーター(20)は、前記ステーター(20)又は前記ローター(10)と磁気的相互作用をするように動くことができず、
当該調節機構(100)は、前記機能的な可動部品(300)が過剰動作したときに、前記環状領域における渦電流によるエネルギーの散逸を制御するように構成しており、
前記エネルギーの散逸は、前記ローター(10)及び前記ステーター(20)の相対的角度位置に依存しており、前記ローター(10)及び前記ステーター(20)の前記突出領域(15、25)が前記環状領域において対面しているときにのみ発生し、
前記空欠領域(16、26)及び前記突出領域(15、25)は、前記ローター(10)の回転軸と平行な方向に延在して、前記ローター(10)及び前記ステーター(20)を軸方向に近づけ又は離す
ことを特徴とする調節機構(100)。
【請求項8】
前記導電性部分及び/又は前記磁化部分は、散逸エネルギーの振幅の変調を可能にする可変厚みを有する
ことを特徴とする請求項7に記載の調節機構(100)。
【請求項9】
少なくとも1つのエスケープ車(300)を有する計時器用エスケープ機構(200)であって、
当該エスケープ機構(200)は、加速が前記エスケープ車(300)に与える影響を制限するように構成している請求項1又は7に記載の調節機構(100)を有する
ことを特徴とする計時器用エスケープ機構(200)。
【請求項10】
請求項9に記載のエスケープ機構(200)を少なくとも1つ有する
ことを特徴とする計時器用ムーブメント(400)。
【請求項11】
請求項10に記載の計時器用ムーブメント(400)を少なくとも1つ及び/又は請求項1に記載の調節機構(100)を少なくとも1つ有する
ことを特徴とする腕時計(500)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機能的な車セットを有する計時器機構の機能の達成には余剰なエネルギーを散逸させる調節機構に関する。
【0002】
本発明は、さらに、このような調節機構を有するエスケープ機構に関する。
【0003】
本発明は、さらに、このような調節機構を少なくとも1つ有する計時器用ムーブメントに関する。
【0004】
本発明は、さらに、このようなムーブメント及び/又はこのような調節機構を少なくとも1つ有する腕時計に関する。
【0005】
本発明は、腕時計又は移動体デバイスに組み入れられることを意図された計時器機構の分野に関する。
【背景技術】
【0006】
腕時計産業においては、常に、エスケープ機構の効率を改善することが関心事となっている。このために、一般的には、エスケープにおけるいずれの種類の散逸をも最小限にすることが探求されてきた。なぜなら、散逸を制御することは難しく、発振器の効率を落としてしまうからである。具体的には、具体的には、機構の実際の稼働に起因する加速による散逸や、外的要因、特に衝撃、に起因する加速による散逸は、有害であり、制御することが難しい。
【0007】
現在、散逸が制御されているシステムを用いているエスケープ機構はない。
【0008】
MONTRES BREGUET SA名義のスイス特許CH704457は、車セットの第1の回転軸のまわりの回転速度を調節する計時器車セット又は打撃機構用のレギュレーターを開示している。この車セットは、第1の回転軸と平行な第2の回転軸のまわりを回転する慣性ブロックを有するこのレギュレーターは、慣性ブロックを第1の軸に戻す手段を有する。車セットが基準速度よりも小さい速度で回転するときには、慣性ブロックは、第1の軸のまわりの第1の回転体積内に閉じ込まれ続ける。車セットが基準速度よりも大きい速度で回転するときには、慣性ブロックは、第1の軸のまわりの第2の回転体積内において、少なくとも周部上で係合する。この第2の回転体積は、第1の回転体積に隣接しており、外側にある。この周部は、車セットを制動させ回転速度を基準速度に戻しいずれの過剰エネルギーをも散逸させるように構成している調節手段と、第2の回転体積の内部にて連係している。このようにして、この機構は、速度/トルク従属性を減少させるデバイスを介して、動作速度又は基準速度に調節するシステムを記載している。
【0009】
THE SWATCH GROUP RESEARCH & DEVELOPMENT LTD名義の欧州特許EP2891930は、磁性構造と共振器の間の相対的な角速度を調節するデバイスについて記載している。この磁性構造と共振器は、磁気的に連結しており、特に磁気エスケープと一緒に発振器を定めている。磁性構造は、磁性材料で形成された少なくとも1つの環状のパスを有し、この磁性材料の1つの物理的パラメーターが、発振器の磁位エネルギーと相関している。磁性材料は、物理的パラメーターが周期的な形態で角度に応じて変化するように、環状のパス上に配置されている。環状のパスは、各角周期において、発振器における磁位エネルギーの蓄積領域を有する。この蓄積領域は、インパルス領域に隣接している。各蓄積領域における磁性材料は、当該磁性材料の物理的パラメーターが徐々に角度に応じて増加するか又は徐々に角度に応じて減少して、発振器の磁位エネルギーが、共振器に対して磁性構造が回転している間に角度に応じて増加するように構成している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
エスケープにおける散逸は、一般的には、最小限にされる。なぜなら、散逸は発振器の効率を定めるからである。しかし、特定の機能に関連する摩擦の発生及び消失の時点を制御することによって、機能的、音響的又は審美的なアプリケーションのために散逸を利用しつつ、当該機構の効率を保持することができる。
【0011】
伝統的な形態でエスケープ車がバレルによって駆動されるようなエスケープ機構において、バレルの巻きが緩むにしたがってバレルが伝えるトルクは変わり、エスケープに伝えられるエネルギーは、巻きのすぐ後と比べて数時間経過後には低くなる。同様に、特に輪郭の差及び摩擦現象に起因して、歯車列に依存して、トルクが変化し、したがって、エネルギーが変化する。エスケープの力を一定にするためには、適切な機構を設けることによって、特定のトルクを超える分のエネルギーを余剰分とすることが有利である。これが磁気エスケープの動作モードである。しかし、このエスケープの動作によって余剰なエネルギーを特定の方法又は別の方法で散逸しなければならない。より一般的には、いずれの伝統的なエスケープにおいても、インパルスの後であって堅固なバンキングに対向して止まる前のパレットレバーの運動エネルギーは、余剰なエネルギーである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、第1に、外的要因によって発生する加速の望まない影響を抑えることができるという利点を有する構成によって、機構の実際の稼働に起因する加速に作用することを探求している。
【0013】
散逸の制御の原理をエスケープ車に適用することによって、インパルスが作用した後に徐々に速度を落とす車を得ることが可能になる。これによって、以下のような利点が発生する。
− 動作の連続性が向上する。
− 他の歯車列における降下インパクトの影響が減少する。
− 着用者に降下インパクトが聞こえにくくなる。
− 降下インパクトが、測定の間に他の機能のインパクトとはさらに離される(測定が容易になる)。
− パレット石に対するエスケープ車のはね返りが小さくなる。
− 摩耗が減る。
【0014】
現在、散逸が制御されているシステムを用いているエスケープ機構はない。一定の力のエスケープにおいて、不時の加速、衝撃及び摩擦が発生しても、散逸させるように制御するようなことはなされていない。このようなエスケープは、摩擦系に依存している。
【0015】
磁気的レギュレーターは、過剰エネルギーが渦電流によって散逸されるが、作用が可動部品の位置合わせではなく与えられるトルクに依存するような唯一のシステムである。
【0016】
強制的に散逸させる他の手段を用いることも想到することができる。例えば、機械的摩擦によるもの、衝撃によるもの、又は歯車列によって駆動され慣性に起因してはね返りがあった場合に短い間回転し続けるようなアイドラー車の摩擦を用いることによるものである。これによって、はね返りの場合に摩擦を増加させる。再び書くが、力学的エネルギーの散逸は、制御して大きさを定めることが難しい。
【0017】
過剰エネルギーの散逸を必要とするいずれのエスケープ機構も、特にいずれの磁気的タイプのエスケープも、散逸の振幅及びピークが制御されるシステムを組み入れることによって有利になる。磁気エスケープにおいて、例えば、この過剰エネルギーによって、磁気的バンキングに対するエスケープ車の可視的なはね返りが発生してしまう。このリスクは、微小な衝撃の場合においてレートの変化をもたらし、また、審美的な観点からあまり良くない。
【0018】
本発明は、少なくとも1つのステーターと少なくとも1つのローターを有する計時器機構におけるエネルギーの散逸を制御することを提案するものである。前記ステーターと前記ローターは、一又は複数のステーターと一又は複数のローターの間の角度位置の関数として、互いに連係するように構成している。
【0019】
本発明は、より具体的には、渦電流によって散逸を制御して、単一のはね返りにおける過剰エネルギーをすべて散逸させることを提案するものである。ただし、これに制限されない。
【0020】
このために、本発明は、請求項1に記載の調節機構に関する。
【0021】
本発明は、さらに、このような調節機構を有するエスケープ機構に関する。
【0022】
本発明は、さらに、このような調節機構を少なくとも1つ有する計時器用ムーブメントに関する。
【0023】
本発明は、さらに、このようなムーブメント及び/又はこのような調節機構を少なくとも1つ有する腕時計に関する。
【0024】
本発明に係るシステムは、純粋な粘性摩擦の利点を享受するために、伝統的なエスケープにも同様に配置することができる。これにおいては、車の速度が最大であるときの降下よりもはるかに大きなエネルギーをその前に散逸させて、降下インパクトの強さを減少させる。パレット石に対する車のはね返りは、非常に大きいことがあるが、これを最小化することができ、特に、車がケイ素又は別の同様な微細加工可能な材料で形成されている場合において車の歯を破損してしまうリスクを回避することができ、また、塑性変形してしまうリスクを回避することができる。
【0025】
本発明は、等時性の制御のために有利である。実際に、エスケープにおける車のはね返りは、周波数を制限してしまう。なぜなら、機能を害さないようにするために、はね返りが減少しているときに、次の振動が発生する必要があるからである。この摩擦を迅速に緩和することによって、振動の間の時間を短くすることができ、したがって、発振器周波数を大きくすることができる。このことによって、結果的に、調整能力が高くなる。
【0026】
本発明の別のアプリケーションとして、バランスの振幅を精密に調整するシステムがある。実際に、発振器の寸法を計算するときに、動作振幅を高すぎるようにしないことは重要である。このリスクによって、ムーブメントの動作中のノッキングの問題を発生させてしまう。腕時計業者によって、進入深さ、したがって、散逸を、調整可能であるような本発明に係る渦電流制動システムを用いると、大きな振幅で動作するバランスを、ノッキングのリスクなしで、生産時のばらつきが小さく、構成することができる。
【0027】
添付図面を参照しながら下記の詳細な説明を読むことで、本発明の他の特徴及び利点を理解することができるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】渦電流制動のためのヨークが間に配置される2つのパスがある磁気エスケープの第1の変形実施形態の概略斜視図を示している。
【
図2】散逸の角度従属性がなく、パスの間のエアギャップにおけるヨークの進入深さを調整することによる腕時計業者のための精密な調整システムを備えた第2の変形実施形態についての
図1と同様な形態の図である。
【
図3】散逸の角度従属性がなく、腕時計業者のための精密な調整システムを備えた付加的な車セット上に配置された渦電流制動を行う第3の変形実施形態についての
図1と同様な形態の図である。
【
図4】磁性部品の半径方向の磁化に、そして付加的な車セットに適用した精密な調整を行う磁気的制動を用いる第4の変形実施形態についての
図1と同様な形態の図である。
【
図5】散逸の角度従属性がある半径方向に適用された意図的な磁気的制動を用いる第5の変形実施形態についての
図1と同様な形態の図である。
【
図6】
図6〜8は、車セットの回転軸を通り抜ける断面の概略断面図である。
図6は、半径方向にて構成している凸部と空欠部の構成及び導電性部分と磁化部分の構成を示している概略断面図である。
【
図7】半径方向にて構成している凸部と空欠部の構成及び導電性部分と磁化部分の構成を示している概略断面図である。
【
図8】軸方向にて構成している空欠部と突出部を有している構成を示している概略断面図である。
【
図9】ムーブメントを有する腕時計を示しているブロック図であり、このムーブメントは、次に、本発明に係る調節機構を備えるエスケープ機構を有している。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明は、少なくとも1つのステーター及び少なくとも1つのローターを有する計時器機構におけるエネルギーの散逸を制御することを提案するものである。前記ステーター及び前記ローターは、一又は複数の前記ステーター及び一又は複数の前記ローターの間のそれぞれの角度位置の関数として、互いに連係するように構成している。
【0030】
本発明は、伝統的にはステーターである対向している部品の少なくとも1つが固定されているような通常の場合と、ローターが可動部品又は第1の機構に属する車セットでありステーターが別の可動部品又は第2の機構に属する車セットであるような場合との両方に用いることができる。
【0031】
これらそれぞれの角度位置の変化を制御するために、ここでより正確に説明する本発明の好ましい実装例においては、特定の機能専用の計時器機構において、渦電流の特性を意図的に利用して、この特定の機能の達成には不必要なエネルギーを散逸させることを伴う。ただし、これに制限されない。
【0032】
本発明は、さらに、腕時計業者が、散逸する要素のインパクトの精密な調整(位置合わせ)を行うことができるように探求している。
【0033】
また、特定の変形実施形態において、このような精密な調整を、ムーブメント自体によって、残存パワー蓄積又は他の適切な動作パラメーターの関数として、制御することができる。
【0034】
このように、本発明は、機能的な可動部品300、特に、車セット、を有する計時器機構200の機能の達成には余剰なエネルギーを散逸させる調節機構100に関する。これは、特に、機構200の実際の稼働に起因する加速の影響、そして、このような機能的な可動部品300に対する外的要因、特に、衝撃、があった場合の不時の加速の影響を抑えることができる。
【0035】
本発明によると、この調節機構100は、機能的な可動部品300が過剰動作した場合のエネルギーの散逸を制御するように構成している。調節機構100は、少なくとも1つのローター10を有し、このローター10は、機能的な可動部品300に運動学的に接続されていたり、機能的な可動部品300によって形成されていたり、機能的な可動部品300と一定化されていたりする。
【0036】
このローター10は、透磁性である導電性ローター部分11、又は磁化されている磁化ローター部分12のいずれかを有する。
【0037】
調節機構100は、磁気的相互作用を行う環状領域において、ローター10と連係するように構成している少なくとも1つのステーター20を有する。このステーター20は、導電性ローター部分11又は磁化ローター部分12のすぐ近くにあり、これと対向している。
【0038】
そして、ステーター20は、ステーター20が連係するローター10の構成に応じて、磁化されている磁化ステーター部分21又は透磁性である導電性ステーター部分22を有する。
【0039】
「導電性の材料」とは、銅や銀のような電荷を運ぶ導電体を意味している。これは、当業者が適宜選択する。
【0040】
磁気的相互作用を行う環状領域では、少なくともローター10又はステーター20には、少なくとも1つの突出領域15、25が設けられており、この突出領域15、25においては、ローター10又はステーター20はそれぞれ、磁気的相互作用を行いながらステーター20又はローター10と重なり合うように動くことができる。この同じ環状領域において、少なくともローター10又はステーター20には、少なくとも1つの空欠領域又は凹状領域16、26が設けられており、この領域においては、ローター10又はステーター20はそれぞれ、ステーター20又はローター10と磁気的相互作用を行うように動くことができない。エネルギーの散逸は、ローター10とステーター20の相対的角度位置に依存しており、ローター10とステーター20の堅固な部分どうしが環状領域において対面しているときにのみ発生しうる。
【0041】
具体的には、調節機構100は、機能的な可動部品300が環状領域において過剰運動を行ったときに、渦電流によってエネルギーの散逸を制御するように構成している。
【0042】
さらに、具体的には、少なくともローター10又はステーター20には、交番構成で、前記のような突出領域15、25が設けられており、この領域においては、ローター10又はステーター20はそれぞれ、渦電流を発生させる相互作用を行うように、ステーター20又はローター10と重なり合うように動くことができる。また、少なくともローター10又はステーター20には、交番構成で、前記のような空欠領域16、26が設けられており、この領域においては、ローター10又はステーター20は、ステーター20又はローター10と重なり合うように動くことができず、また、ローター10とステーター20の間の相互作用が渦電流を発生させることができない。
【0043】
ローター10の速度は、調節される機構200に依存する。しかし、本発明の目的は、このローターの速度を調節することではなく、機構200が異常な加速をしたときにエネルギーを散逸させることである。
【0044】
本発明は、特に、エスケープ機構への適用について、ここで説明しているが、本発明の適用は制限されない。
【0045】
このエスケープ機構200への適用において、ローター10の速度は、エスケープ機構200が備えるエスケープ車3の速度に依存している。導電性ローター部分11又は磁化ローター部分12は、実際のエスケープ車3のすべて又は一部を形成することができる。
【0046】
図1の第1の変形実施形態は、2つの磁化ローター部分12を有する磁気タイプのエスケープ機構200への本システムの適用を示している。この2つの磁化ローター部分12は、上側車13及び下側車14であり、これらは、本例においては同軸であり平行であり、そのエアギャップの内部に、導電性ステーター部分22を形成しているヨーク23が配置されている。このヨーク23は、交番構成で、歯4と空欠部5を周状に有する。上側車13及び下側車14はそれぞれ、さらに、周部の歯153及び154を有する。ヨーク23の歯4は、特定の相対的な位置において、歯153又は154のすぐ近くにおいて歯153又は154と対向するように動くように構成しており、これによって、渦電流の発生、そして、エネルギーの散逸の制御が可能になる。ヨーク23の空欠部5のそれぞれは、ヨーク23の材料と、関連する空欠部5に面している歯153又は154との間の相互作用を防ぐように構成している。このように、ヨーク23の歯4と空欠部5は、散逸の角度従属性を制御し、はね返りの場合に散逸が最大となるように設計することができる。導電性ローター部分11の材料、厚み及び進入深さを選択することによって、散逸の強さを計算することができ、この散逸の強さは、はね返りなしで止まるような臨界的な減衰動作をするように選択することができる。
【0047】
図3及び4に示すように、このようなデバイスを、1セットの歯車列によってエスケープに接続された少なくとも1つの付加的な車セット7上に配置することができる。このような付加的な車セット7を用いる実施形態においては、空間的な制約はより少なく、散逸を大きくすることが可能になる。
【0048】
当然、歯車列によって接続しているいくつかの異なる車セットに、いくつかの意図的な散逸システムを加えることは可能である。この利点は、散逸を大きくし、様々なシステムの欠陥を平均化することができることである。
【0049】
進入深さ又は導電性部分と磁化部分の間の距離を変更すること―手動又は機構によって制御される―によって渦電流の散逸を調整することによって、渦電流の最大強さを調整することができることは有利である。この部分は、磁化ステーター部分21と連係する導電性ローター部分11や、導電性ステーター部分22と連係する磁化ローター部分12である。
【0050】
図1に係る例示的な実施形態は、本発明の概念の最小限の最適化されていない実施形態を形成している。上側ローター車及び下側ローター車はそれぞれ、歯の角振幅の3倍の角振幅を有する空欠部によって分離されている6つの歯を有し、一方、ステーターヨークは、同じ振幅の6つの歯及び6つの空欠部を有する。導電性ステーター部分の厚みは、0.2mmであり、その導電率は、銅の実施形態の場合は、5.998×10
7S/mである。上側及び下側のローター車はそれぞれ、通常の計時器用エスケープ車の大きさを有しており、磁路の残留場は、少なくとも1Tである。磁石と導電性部分の間の距離は、高々0.10mmである。したがって、導電性部分が非常に低い場に配置されるような非常に単純な実施形態においては、散逸エネルギーは、0.25μJmsのオーダーにある。もちろん、特に、
図3におけるように付加的な車セットが交番構成に磁化されているような手法によって、散逸を相当に大きくすることができる。これと同じことが、様々な部品の寸法が大きくなっているものについても当てはまる。
【0051】
磁気エスケープ機構は、The Swatch Group Research and Development Ltd名義のスイス特許出願CH02140/13、CH01416/14及びCH01129/15、Nivarox-FAR SA名義のスイス特許出願CH01444/14及びCH 01445/14、及びETA Manufacture Horlogere Suisse名義のスイス特許CH01290/14及びCH01127/15において記載されている。これらの文献を参照によって本明細書に組み入れる。
【0052】
図2は、調節機構100がステーター20の角度位置を調整する第1の手段50を有するようなアプリケーションに関連する第2の変形実施形態を示している。この第1の手段50は、ここにおいて、上側車13と下側車14の間のエアギャップにおける導電性ステーター部分22の進入深さを調整することができる偏心ねじ6によって形成されており、この進入深さは、ここにおいて、特定の角度のセクターに制限されている。
【0053】
特定のアプリケーションは、このようなデバイスを用いて、環状領域における導電性部分と磁化部分の間の進入深さ又は距離を手動又は制御された形態で変更することによって渦電流の散逸を調整して、バランス車の振幅を精密に調整することに関する。
【0054】
図3は、付加的な車セット7に対する角度従属性のない制動システムを用いている第3の変形実施形態を示している。この種の車セットにおいて、磁石は、交番構成で、軸方向に磁化されている。すなわち、N−S、S−N、N−Sのようにである。このことによって、角度従属性がある状況で、場変化を最大限にすることができ、したがって、磁石の場において導電性部分が動いているときに、磁束の変化を最大限にすることができる。制動の大きさが磁束変化に比例するので、上側部分の磁石が下側部分の磁石と軸一致しているときに、すなわち、N−SとN−Sが対向しているときに、制動が最大となり、磁石が反対の向きであるとき、すなわち、S−NとN−Sが対向しているときに、制動が最小になる。この変形実施形態においては、設計自由度が大きいことに起因して、大きい散逸が可能である。なぜなら、
図2の変形実施形態と異なりエスケープ機能に対する直接的なインパクトがなく、また、希土類含有磁石を使用するためである。
【0055】
特に、調節機構100は、少なくとも1つのローター10の角度位置を他のローター10の角度位置に対して調整する第2の手段60を有する。制御ピニオン61を補助的に用いて、ここにおいて磁石のプレートによって形成されている上側車13と下側車14の一方を他方に対して回転させることによって精密な調整を行うことができる。これによって、磁石の間の指標付けをなくし、また、車セットの回転によって発生する磁束変化を減少させる。希土類含有磁石は、磁化の方向が交番構成であってもなくてもよい。
【0056】
また、このような機構は、磁化ステーター部分21と連係する導電性ローター部分11、又は導電性ステーター部分22と連係する磁化ローター部分12を用いて達成することができる。これらは互いに、進入深さを変化させるのではなく、軸方向に近づくように構成している。
【0057】
また、散逸エネルギーの振幅の変調を、導電性部分又は磁化部分の厚みの変化によって行うことができる。したがって、磁化ステーター部分21と連係する導電性ローター部分11又は導電性ステーター部分22と連係する磁化ローター部分12を用いて、進入深さではなく厚みが変化するような機構を達成することができる。
【0058】
厚みの変化の関数としての散逸の変化の依存性は、仮想的には線形である。すなわち、厚みを50%の変化させることによって、前記の
図1に基づく例において、散逸を50%近く変化させることができる。これは、散逸段階の間のエスケープ車の速度が大きいことと組み合わさり、当該機構の内部で発生する余剰なエネルギーを散逸させるために十分である。厚みの変化が極端な場合はもちろん、変形が100%である場合であり、これは、図に示した歯を分離する空欠部に対応している。特定の空間的な制約を考慮すると、磁性部品が、軸方向ではなく磁化されていること、典型的には半径方向に磁化されていることが好ましいことがある。
【0059】
図4は、半径方向に磁化されているアプリケーションに対応する第4の変形実施形態を示している。これは、したがって、軸方向においてよりコンパクトであり、導電性リング8が導電性ローター部分11を形成しており、この導電性ローター部分11の距離を磁石9に対して調整可能であり、この磁石9は、磁化ステーター部分21を形成しており、偏心ねじ6によって調整可能なレバー90によって担持されている。
【0060】
図5は、調整が精密な半径方向のシステムに対応する第5の変形実施形態を示している。これは、エスケープ車3と一体化された導電性ローター部分11を用いており、導電性ローター部分11の周部に凸部31及び凹部32がある変化する周部輪郭によって散逸に角度従属性がある。ここにおいても、磁化ステーター部分21を形成する磁石9を担持するレバー90は、偏心ねじ6によって位置を調整可能である。
【0061】
本発明は、特に、少なくとも1つのエスケープ車300を有する計時器用エスケープ機構200に関し、エスケープ機構200は、エスケープ車300に対する加速、特に衝撃、の影響を制限するように構成している調節機構100を有する。
【0062】
本発明は、さらに、この種のエスケープ機構200を少なくとも1つ有する計時器用ムーブメント400に関する。
【0063】
本発明は、さらに、このような計時器用ムーブメント400を少なくとも1つ及び/又はこのような調節機構100を少なくとも1つ有する腕時計500に関する。
【0064】
例えば、腕時計500は、このような調節機構100によって制御されムーブメント400とは独立な別の機構600を有する。
【0065】
本発明は、さらに、他の移動体デバイスにも適用可能である。例えば、自動車、船又は航空機の装置のためのデバイス、軍用の時間遅延デバイスなどである。
【0066】
腕時計の外側、特に、着用者や敏感なデバイス、を腕時計のシステムの磁場から保護するために、また、システムの効率を向上させるために、強磁性のシールド(図示せず)を設けることができ、これを設けることは有利である。
【0067】
渦電流の発生は場の変化に関連しており、渦電流は、場の変化(局所的な変化に留まる)に応じて精密に発生する。
図1の変形実施形態において、場は、車の歯及び凹部を介して、変化する厚みに応じて変わるのと同様に変化する(厳密に言えば、厚みが0と固定値の間で変わる極端な場合においても)。
図5では、導電体の半径方向の厚み及び場への近接性の両方が変化する。厚みが軸方向に変化するような同じシステムも想到することができる。
【0068】
なお、本発明は、MONTRES BREGUET SA名義のスイス特許CH704457の前記教示内容とは異なる。なぜなら、本発明は、与えられたトルクに適合せず、導電性部分に対する磁気部分の位置に依存して進行中の機能に依存するような純粋に粘性の制動を発生させるからである。しかし、トルクが大きくなると常に、動作速度が大きくなる。また、実際の速度調節は行われず、その代わりに、機構によって実際に上流又は下流にて使用されないエネルギーの散逸が行われる。
【0069】
また、本発明は、THE SWATCH GROUP RESEARCH & DEVELOPMENT LTD名義の欧州特許EP2891930の前記教示とも相当に異なっている。これにおいては、相互作用の原理は、本発明の原理とは異なり(磁力によって誘導作用を行わない)、このデバイスの目的は、発振器の磁気励起を介して一定の周波数を得ることである。磁力は、振動する部分にインパルス又は止めを伝えるように用いられる。
【0070】
本発明の特に好ましい実施形態においては、磁化部分及び導電性部分は、凸状の輪郭を有する。機能時に制動トルクを変化させることがいかに望まれようとも、前記2つの部品の凸状の輪郭によってこのような制動トルクを得ることができる。この凸状構成が達成される形態は、実施形態に応じて異なる。例えば、1つの部品及び/又は他の部品が半径方向又は軸方向にて幾何学的に異なっていたり、特定の角度において磁性材料又は導電性の材料がなかったりする。
【0071】
エスケープに対して本発明を特定の形態で使用することは、特に有利であるが、本システムは、他の車セットに対して用いることができる。例えば、打撃機構などに起因するトルクの急変の間にエネルギーを散逸させるためにのみ用いることができる。
【0072】
短く書くと、本発明には、以下のような多く利点がある。
− 効率に影響を与えずにはね返りを排除することができる。
− 微小な衝撃の場合に、動作を改善させつつ、安全性能を改善させる。
− 歯車列の動作の連続性を向上する。
− 発振器の振幅を精密に調整し、特に、ノッキングのリスクなしで高振幅を可能にする。
− あまり聞こえないが容易に識別可能であって他の機能のインパクトとは離れているようなインパクトをなくして、これによって、測定が容易になる。
− 摩耗を少なくする。
− 周波数制限を減らす。
【符号の説明】
【0073】
10 ローター
11 導電性ローター部分
12 磁化ローター部分
15、25 突出領域
16、26 空欠領域
20 ステーター
21 磁化ステーター部分
22 導電性ステーター部分
50 第1の手段
60 第2の手段
100 調節機構
200 計時器機構
300 可動部品
400 計時器用ムーブメント
500 腕時計
E エアギャップ