(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6386566
(24)【登録日】2018年8月17日
(45)【発行日】2018年9月5日
(54)【発明の名称】自動利得制御方法及び自動利得制御回路
(51)【国際特許分類】
H03G 3/20 20060101AFI20180827BHJP
【FI】
H03G3/20 A
【請求項の数】8
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-544938(P2016-544938)
(86)(22)【出願日】2015年8月19日
(86)【国際出願番号】JP2015004141
(87)【国際公開番号】WO2016031184
(87)【国際公開日】20160303
【審査請求日】2017年2月9日
(31)【優先権主張番号】特願2014-170187(P2014-170187)
(32)【優先日】2014年8月25日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】301072650
【氏名又は名称】NECスペーステクノロジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109313
【弁理士】
【氏名又は名称】机 昌彦
(74)【代理人】
【識別番号】100124154
【弁理士】
【氏名又は名称】下坂 直樹
(72)【発明者】
【氏名】河上 聡子
(72)【発明者】
【氏名】熊谷 進
【審査官】
白井 亮
(56)【参考文献】
【文献】
特開平10−322150(JP,A)
【文献】
特開平09−294091(JP,A)
【文献】
特開2012−044456(JP,A)
【文献】
特開2004−023508(JP,A)
【文献】
国際公開第2013/008747(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03G 3/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
受信信号が入力する可変利得増幅器と前記可変利得増幅器の出力に接続するアナログ/デジタル変換器とを有する受信機における自動利得制御方法であって、
前記アナログ/デジタル変換器の出力において前記受信信号の周波数帯域内の該周波数帯域よりも狭い帯域の信号を選択することと、
選択した前記信号の強度に基づいて前記可変利得増幅器に対する制御信号を生成することと、を有し、
前記信号を選択することは、
前記アナログ/デジタル変換器の出力を、前記周波数帯域よりも狭い通過帯域を有し、中心周波数が可変であるデジタルフィルタに供給することと、
前記中心周波数を変化させながら前記デジタルフィルタの出力の振幅を検出することと、
該振幅が最小となる中心周波数を選択することと、
を有する方法。
【請求項2】
受信信号が入力する可変利得増幅器と前記可変利得増幅器の出力に接続するアナログ/デジタル変換器とを有する受信機における自動利得制御方法であって、
前記アナログ/デジタル変換器の出力において前記受信信号の周波数帯域内の、該周波数帯域よりも狭い帯域の信号を選択することと、
選択した前記信号の強度に基づいて前記可変利得増幅器に対する制御信号を生成することと、を有し、
前記信号を選択することは、
前記周波数帯域よりも狭い通過帯域をそれぞれ有し、中心周波数が相互に異なる複数のデジタルフィルタの出力の振幅をそれぞれ検出することと、
検出された前記振幅のうち最小のものを検出して出力することと、
を有する方法。
【請求項3】
受信信号が入力する可変利得増幅器を備え、前記可変利得増幅器の出力をアナログ/デジタル変換器に供給する自動利得制御回路であって、
前記アナログ/デジタル変換器の出力に接続し、前記受信信号の周波数帯域内の、該周波数帯域よりも狭い帯域の信号を選択する周波数選択回路と、
前記周波数選択回路が選択した前記信号の強度に基づいて前記可変利得増幅器に対する制御信号を生成する制御信号生成回路と、
を有し、
前記周波数選択回路は、前記アナログ/デジタル変換器の出力に接続し、前記周波数帯域よりも狭い通過帯域を有し、中心周波数が可変であるデジタルフィルタであり、
前記中心周波数を変化させながら前記デジタルフィルタの出力の振幅を検出し、該振幅が最小となる中心周波数での前記デジタルフィルタの出力に基づいて前記制御信号を生成する、回路。
【請求項4】
前記通過帯域は、前記受信信号に重畳する外乱入力の周波数から外れる周波数帯域である、請求項3に記載の回路。
【請求項5】
前記デジタルフィルタは、
デジタル信号として可変周波数の発振波形を発生する発振波形発生回路と、
前記アナログ/デジタル変換器の出力と前記発振波形発生回路の出力とを乗算する乗算回路と、
前記乗算回路の出力が入力するデジタル低域通過フィルタと、
を有する、請求項3に記載の回路。
【請求項6】
前記制御信号生成回路は、
前記デジタルフィルタの出力の振幅を検出する振幅検出回路と、
前記振幅検出回路の出力が入力するデジタルループフィルタと、
前記デジタルループフィルタの出力をアナログ信号に変換して前記制御信号として前記可変利得増幅器に供給するデジタル/アナログ変換器と、
を有する、請求項3乃至5のいずれか1項に記載の回路。
【請求項7】
受信信号が入力する可変利得増幅器を備え、前記可変利得増幅器の出力をアナログ/デジタル変換器に供給する自動利得制御回路であって、
前記アナログ/デジタル変換器の出力に接続し、前記受信信号の周波数帯域内の、該周波数帯域よりも狭い帯域の信号を選択する周波数選択回路と、
前記周波数選択回路が選択した前記信号の強度に基づいて前記可変利得増幅器に対する制御信号を生成する制御信号生成回路と、
を有し、
前記周波数選択回路は、
前記周波数帯域よりも狭い通過帯域をそれぞれ有し、中心周波数が相互に異なる複数のデジタルフィルタと、
前記複数のデジタルフィルタの出力の振幅をそれぞれ検出する複数の振幅検出回路と、
前記複数の振幅検出回路で検出された前記振幅のうち最小のものを検出して出力する選択回路と、
を有する、回路。
【請求項8】
前記制御信号生成回路は、
前記選択回路の出力が入力するデジタルループフィルタと、
前記デジタルループフィルタの出力をアナログ信号に変換して前記制御信号として前記可変利得増幅器に供給するデジタル/アナログ変換器と、
を有する、請求項7に記載の回路。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線通信装置などにおいて用いられる自動利得制御方法及び自動利得制御回路に関する。
【背景技術】
【0002】
無線通信装置、特に受信機では、アンテナを介して入力する受信信号の強度の変動幅が大きい。微弱な信号を受信できるように装置を構成した場合、過大な信号を受信することによって、歪が生じるなどの悪影響が生じる。そこで、信号増幅での利得を信号強度の変動に基づいて制御することにより、強度の変動を抑制して入力信号を後段の回路に供給する自動利得制御(AGC:automatic gain control)回路が用いられている。
【0003】
図6は、関連技術において受信機に設けられる一般的な高周波(RF:radio frequency)フロントエンドの構成を示している。このRFフロントエンドは、アンテナ11で受信した信号を増幅してデジタル信号に変換するものであり、自動利得制御機能を備えるものである。アンテナ11に対し、受信信号を増幅する低雑音増幅器(LNA:low noise amplifier)12が接続している。LNA12の出力は、増幅回路13を介して、所望の周波数帯域の信号のみを通過させる帯域通過フィルタ(BPF:band-pass filter)14に供給される。BPF14を通過した所望の周波数の信号は、次に、可変利得増幅器15で増幅され、アナログ/デジタル変換器(ADC:analog-to-digital convertor)16によりデジタル信号に変換される。変換後のデジタル信号は、例えば、この受信機のデジタル信号処理部に供給される。可変利得増幅器15は、制御信号に応じて利得が変化する増幅器であって、制御信号は例えば電圧信号である。制御信号を発生するために制御回路17が設けられている。制御回路17は、ADC16で検出した信号強度に基づき、信号強度が大きいときに可変利得増幅器15の利得を低下させることによりADC16に入力する信号レベルが一定となるように、制御信号を発生して可変利得増幅器15に供給する。
図6に示した構成では、可変利得増幅器15及び制御回路17によって、自動利得制御回路が構成されることになる。自動利得制御回路では、可変利得増幅器15の出力側で検出される信号の強度があるしきい値以下である場合には、可変利得増幅器15における利得の制限を行わない。自動利得制御回路では、可変利得増幅器15の出力側で検出される信号の強度があるしきい値以下である場合には、可変利得増幅器がその最大利得で動作するようにすることが一般的である。
【0004】
図6に示すRFフロントエンドにおいて、受信信号がスペクトラム拡散変調などによる広帯域で微弱な信号である場合、可変利得増幅器15への入力信号ではLNA12の熱雑音が支配的である。したがって、このような入力電圧を可変利得増幅器15で増幅して得られるADC16への入力信号は、信号を積分したときの信号電圧の頻度分布で表すと、
図7に示すように、正規分布に近い分布を示す。またこのような場合、ADC16として、2ビットといった小さなビット数のものを使用する。2ビット以上のADCを使用する場合においては、そのADCが飽和するような信号がADC16に入力することを許容するようにする。ADCの飽和とは、ADCのダイナミックレンジの範囲を超える入力信号がADCに入力することをいう。
【0005】
図6に示すRFフロントエンドにおいて自動利得制御のしきい値は、受信信号が直接拡散スペクトラム拡散変調による信号である場合、正規分布で表される入力信号分布において、全体の約30%の部分がADC16のダイナミックレンジの範囲外となるように設定される。直接拡散スペクトラム拡散変調による信号であり、かつ微弱に受信される信号としては、例えば、GPS(全地球測位システム:Global Positioning System)衛星から受信されるGPS信号が挙げられる。
【0006】
広帯域であるが微弱な受信信号に重なって、鋭い周波数スペクトルを有する外乱が入力することがある。受信信号に重畳する外乱がない場合には、自動利得制御を行った結果、
図6の点[A]での信号、すなわちADC16の入力信号には、所望の信号である受信信号が十分なレベルで含まれている。可変利得増幅器15の入力信号では、上述したようにLNA12の熱雑音が支配的であるが、ここではスペクトラム拡散変調された信号を受信信号としているので、受信信号のレベルがノイズ電力に対してある割合以上であれば、ADC16からの出力デジタル信号をデジタル信号処理することによって、所望の成果を得ることができる。
【0007】
一方、広帯域の受信信号に対して狭いスペクトルを有する外乱が重畳したときは、可変利得増幅器15の入力信号分布に対してピーク状の外乱入力が重なることとなり、この外乱入力が加わったことによって入力信号の総電力が増大する。したがって、自動利得制御によって可変利得増幅器15の利得は低下させられ、ADC16の入力信号分布における所望の信号帯域の受信レベルが低下することとなり、受信信号が劣化する。その結果、外乱入力は、このRFフロントエンドを備える受信機の機能や性能に悪影響を及ぼすことになる。
【0008】
広帯域で微弱な受信信号に重畳する外乱入力の影響を防ぐ手法が特許文献1に開示されている。特許文献1には、可変利得増幅器の後段に設けられたADCが妨害波によって飽和するのを防ぐことが開示されている。特許文献1には、可変利得増幅器の前段に、ノッチフィルタとして機能する可変周波数帯域制限フィルタを設け、妨害波の周波数を検出してフィルタにより妨害波の周波数成分を除去することが開示されている。
【0009】
また関連技術において希望波に隣接するチャネルからの妨害波の影響を低減する技術が特許文献2に開示されている。特許文献2には、可変利得増幅器からの出力信号が供給される狭帯域のアナログ帯域通過フィルタを設け、妨害波の周波数が通過帯域外となるようにこのフィルタを設定した上で、フィルタの出力に基づいて自動利得制御を行うことが開示されている。特許文献3には、ADCの後段に希望波に同調させた帯域可変デジタルフィルタを設け、可変利得増幅器の出力をADCに供給してデジタル信号に変換し、このデジタル信号の振幅に基づいて可変利得増幅器の利得を制御することが開示されている。また特許文献3には、帯域可変デジタルフィルタの帯域通過特性の制御を行い、妨害波の影響を低減することが開示されている。特許文献4には、直交検波後の信号からフィルタ処理により希望波電力と妨害波電力を求め、希望波電力のみに追従して可変利得増幅器による自動利得制御を行うことが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】実開平5−80053号公報
【特許文献2】特開平5−327378号公報
【特許文献3】特開2006−121146号公報
【特許文献4】特開平11−195941号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
広帯域で微弱な受信信号に対して外乱入力が重なるときに外乱入力の影響を低減する方法として特許文献1に記載された方法は、可変利得増幅器の前段に設けられてノッチフィルタとして機能する可変周波数帯域制限フィルタを用いる。しかし、このフィルタはアナログフィルタであって所望のフィルタ特性を得るようにこのフィルタの正確な制御を行うことが困難であり、また、回路規模が大きくなる、という課題を有する。
【0012】
本発明の目的は、受信信号を増幅する可変利得増幅器を用いる自動利得制御方法であって、回路規模を小型にすることができるとともに、所望の信号である受信信号の周波数帯域内に重畳する外乱入力の影響を低減することができる自動利得制御方法を提供することにある。
【0013】
本発明の別の目的は、受信信号を増幅する可変利得増幅器を備える自動利得制御回路であって、回路規模が小型であって、所望の信号である受信信号の周波数帯域内に重畳する外乱入力の影響を低減することができる自動利得制御回路を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の例示態様によれば、受信信号が入力する可変利得増幅器と可変利得増幅器の出力に接続するアナログ/デジタル変換器とを有する受信機における自動利得制御方法は、受信信号の周波数帯域内の複数の周波数の中から、該複数の周波数の中の他の周波数よりもアナログ/デジタル変換器が出力する信号レベルが小さい周波数を選択することと、アナログ/デジタル変換器の出力における選択された周波数の成分の信号強度に基づいて可変利得増幅器における利得を決定することと、を有する。
【0015】
本発明の別の例示態様によれば、受信信号が入力する可変利得増幅器と可変利得増幅器の出力に接続するアナログ/デジタル変換器とを有する受信機における自動利得制御方法は、受信信号の周波数帯域の中から、受信信号に重畳する外乱入力の周波数から外れる周波数帯域を選択することと、アナログ/デジタル変換器の出力における選択された周波数帯域の成分の信号強度に基づいて可変利得増幅器における利得を決定することと、を有する。
【0016】
本発明のさらに別の例示態様によれば、受信信号が入力する可変利得増幅器を備え、可変利得増幅器の出力をアナログ/デジタル変換器に供給する自動利得制御回路は、アナログ/デジタル変換器の出力に接続し、受信信号の周波数帯域内の、この周波数帯域よりも狭い帯域の信号を選択する周波数選択回路と、周波数選択回路が選択した信号の強度に基づいて可変利得増幅器に対する制御信号を生成する制御信号生成回路と、を有する。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、受信信号の周波数帯域の中から外乱入力の影響を受けない周波数を選択して選択された周波数の成分の信号強度に基づいて自動利得制御を行うことができるようになる。したがって、受信信号の周波数帯域内に重畳する外乱入力の影響を低減することができ、受信信号に関して高い信号レベルでの信号処理を行うことができるようになる、という効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の基本的な実施の形態の自動利得制御回路を示すブロック図である。
【
図2】本発明の実施の一形態の自動利得制御回路を備えるRFフロントエンドの構成を示す回路図である。
【
図3】可変周波数デジタルフィルタの構成の一例を示す回路図である。
【
図4】本発明の別の実施形態の自動利得制御回路を備えるRFフロントエンドの構成を示す回路図である。
【
図6】一般的なRFフロントエンドの構成を示す回路図である。
【
図7】自動利得制御におけるレベル設定を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
次に、本発明を実施するための形態について図面を参照して説明する。
【0020】
図1は、基本的な実施形態における自動利得制御回路を示している。この自動利得制御回路は、アナログ信号である受信信号を増幅したのちにアナログ/デジタル変換器(ADC)によってデジタル信号に変換する受信機などにおいて好ましく用いられるものである。所望の信号である受信信号は、一例として、スペクトラム拡散変調によって変調された広帯域の信号であり、例えば、数MHz幅の周波数帯域を有している。
【0021】
自動利得制御回路は、受信信号が入力してこれを増幅する可変利得増幅器15を備えており、可変利得増幅器15の出力は、受信信号をデジタル信号に変換するADC16に供給される。ADC16が出力するデジタル信号は、受信機に設けられた例えば信号処理部などに供給される。可変利得増幅器15での利得は制御信号によって制御される。この自動利得制御回路は、ADC16の出力に応じて制御信号を生成して自動利得制御を実施する。このために、自動利得制御回路は、ADC16の出力に接続し、受信信号の周波数帯域内の、この周波数帯域よりも狭い帯域の信号を選択する周波数選択回路18を備えている。また、自動利得制御回路は、周波数選択回路18が選択した信号の強度に基づいて可変利得増幅器15に対する制御信号を生成する制御信号生成回路19、を備えている。
【0022】
周波数選択回路18は、受信信号の周波数帯域内の複数の周波数の中から、これら複数の周波数の中の他の周波数よりもADC16が出力する信号レベルが小さい周波数を選択するものである。受信信号の周波数帯域内に、受信信号の周波数帯域に比べて鋭いスペクトルを有する外乱が重畳したときに、周波数選択回路18は、この外乱の影響を受けない周波数範囲の成分をADC16の出力から取り出す。これによって取り出された成分での信号強度に基づいて可変利得増幅器15への制御信号を生成して自動利得制御を行うためである。したがって、周波数選択回路18としては、受信信号の周波数帯域の中から、受信信号に重畳する外乱入力の周波数から外れる周波数帯域を選択するものを用いることができる。周波数選択回路18には、後述するように、例えば、デジタルフィルタを用いることができる。デジタルフィルタは、受信信号の周波数帯域よりも狭い通過帯域を有するものである。ADC16が出力するデジタル信号における周波数ごとのレベルを考えたときに、デジタルフィルタの通過帯域は、ADC16の出力におけるレベルが相対的に低い周波数に設定される。あるいはデジタルフィルタの通過帯域は、受信信号の周波数帯域のうち外乱入力の周波数から外れる帯域に設定される。
【0023】
このような周波数選択回路18を用いた場合には、周波数選択回路18によって選択された周波数では外乱入力の影響が及んでいない。その結果、制御信号発生回路19は、外乱の大きさに依存せずに、受信信号と熱雑音などの周波数に依存しないノイズ成分とに基づいて、可変利得増幅器16に対する制御信号を発生する。ここで周波数に依存しないとは、受信信号の周波数帯域の範囲内では実質的に周波数に依存しないことを意味する。本実施形態の回路では、外乱の大きさが自動利得制御に反映されないので、外乱の大きさを反映して自動利得制御を行う場合に比べて可変利得増幅器15の利得が大きくなり、その結果、ADC16が飽和しやすくなる。受信信号が例えばスペクトラム拡散変調によるものであるとすると、上述したように飽和することを許容してADC16を使用するので、受信信号の周波数帯域に外乱が重畳するときに外乱の大きさを自動利得制御に反映させなくても後段の信号処理への悪影響はない。むしろ、ADC16の入力において受信信号成分のレベルを高く維持することができるので、熱雑音などのノイズによって覆い隠された受信信号を後段の信号処理においてより適切に扱うことができるようになり、受信機の機能や性能の劣化が防ぐことができる。具体的には、受信信号がスペクトラム拡散変調による信号であるとすると、本実施形態の自動利得制御回路によれば、受信信号に重畳する有意な外乱がある場合であっても、受信信号の逆拡散を確実に行えるようになる。
【0024】
また本実施形態の回路では、周波数選択回路18において周波数選択のためにアナログフィルタを使用する必要がないので、回路調整が不要となってより安定した自動利得制御動作を実現することができる。また、アナログフィルタを用いる場合に比べ、回路規模を小さくすることができる。
【0025】
次に、自動利得制御回路の別の実施形態について説明する。
図2は、本発明の実施の一形態の自動利得制御回路を備えるRF(高周波)フロントエンドの一例を示している。
図2に示すRFフロントエンドは、自動利得制御機能を備え、アンテナ11で受信した信号を処理してデジタル信号として出力するものである。ここで受信信号は、例えば、直接拡散スペクトラム拡散変調による信号であり、その代表的なものとして、GPS信号が挙げられる。
図6に示したRFフロントエンドと同様に、
図2に示すRFフロントエンドは、アンテナ11に接続するLNA(低雑音増幅器)12と、LNA12の出力に設けられた増幅回路13と、を備えている。またRFフロントエンドは、増幅回路13の出力に設けられ所望の周波数帯域の信号のみを通過させるBPF(帯域通過フィルタ)14と、BPF14の出力が入力する可変利得増幅器15と、を備えている。増幅回路13は、LNA12が出力する受信信号をさらに増幅する機能を有するものであるが、さらに、受信信号を周波数変換する機能などを備えていてもよい。増幅回路13が周波数変換機能を有する場合には、BPF14に供給される信号は、周波数変換後の受信信号となる。BPF14の通過帯域は、受信信号の周波数帯域に対応して設定されており、受信信号がGPS信号であるとすれば、BPF14の通過帯域幅は例えば5〜10MHz程度に設定される。
【0026】
制御信号に応じて利得が変化する可変利得増幅器15が出力する信号は、ADC(アナログ/デジタル変換器)16に供給されてデジタル信号に変換される。変換後のデジタル信号は、例えば、このRFフロントエンドを備える受信機の信号処理部に供給される。ADC16としては、例えば、2ビットといった低ビット数のADCが用いられる。このRFフロントエンドでは、制御信号を生成するために、ADC16が出力するデジタル信号が入力するデジタルフィルタ21と、デジタルフィルタ21の出力信号の振幅を検出する振幅検出回路22と、振幅検出回路22の出力が入力するデジタルループフィルタ23と、デジタルループフィルタ23が出力するデジタル信号をアナログ信号に変換して電圧信号である制御信号として可変利得増幅器15に供給するデジタル/アナログ変換器(DAC:digital-to-analog convertor)24とが設けられている。デジタルフィルタ21は、BPF14の通過帯域より狭い通過帯域を有するものであり、デジタルフィルタ21の通過帯域の周波数は、ADC16が出力するデジタル信号における周波数ごとのレベルを考えたときに、デジタルフィルタ21の通過帯域は、ADC16の出力におけるレベルが相対的に低い周波数に設定される。あるいは、デジタルフィルタ21の通過帯域は、受信信号の周波数帯域に重畳する外乱入力がある場合には、その外乱入力の周波数から外れる帯域に設定される。ここでは、可変利得増幅器15、デジタルフィルタ21、振幅検出回路22、デジタルループフィルタ23及びDAC24によって、自動利得制御回路が構成されている。
【0027】
ここで
図2において符号31で示すように、可変利得増幅器15に入力する広帯域の受信信号に対して、鋭いスペクトルを有する外乱入力が重畳している場合を考える。ここでは微弱な受信信号を考えており、BPF14の通過帯域特性に応じ、可変利得増幅器15に入力する信号のうちの受信信号に関連する成分は、周波数に対して電力が正規分布に近い形状で分布しているものとする。デジタルフィルタ21の通過帯域は外乱入力の周波数を含まないように設定されており、これによりデジタルフィルタ21の出力信号の周波数分布は、
図2において符号32に示すようになる。ここでは、所望の信号である受信信号に対し、前段のLNA12に起因する熱雑音などの周波数に依存しないノイズが重なった分布となっている。
【0028】
図示破線で示すようにデジタルフィルタ21の出力には外乱入力の周波数成分は含まれていないので、振幅検出回路22で検出される振幅は、外来入力の影響を含まないで本来の受信信号の振幅に依存したものとなる。その結果、振幅検出回路22の出力をデジタルループフィルタ23を介してDAC24に供給してアナログ信号に変換して得られる制御信号は、外乱入力の影響を受けないものとなり、外乱の大きさを反映しない自動利得制御が実行されることになる。本実施形態の回路においても、
図1に示した回路と同様に、熱雑音などのノイズに埋もれた受信信号を後段の信号処理においてより適切に扱うことができるようになり、受信機の機能や性能の劣化が防ぐことができる。特に、受信信号がスペクトラム拡散変調による信号である場合には、受信信号に重畳する有意な外乱の存在下でも受信信号の逆拡散を確実に行えるようになる。また
図2に示す回路は、制御信号発生のためにアナログフィルタを必要としないので、回路規模を小さくすることができるなどの利点を有する。
【0029】
図2に示した回路では、外乱入力の周波数から外れるようにデジタルフィルタ21の通過帯域を設定する必要がある。外乱入力の周波数が既知であればデジタルフィルタ21の設定も容易であるが、外乱入力の周波数が不明である、あるいは外乱入力の周波数が変動する場合には、固定した通過帯域を有するデジタルフィルタ21を用いることは不適切である。そのような場合には、通過帯域の中心周波数を可変とするデジタルフィルタ21を用い、中心周波数を変化させながら振幅検出回路22によりデジタルフィルタ21の出力の振幅を検出する。振幅が最小となる中心周波数を見出してデジタルフィルタ21の通過帯域をその中心周波数によって設定するようにすればよい。通過帯域の中心周波数を可変とするデジタルフィルタは、回路構成が複雑なものとなりがちである。本実施形態において用いることができる可変周波数デジタルフィルタの変形例として、
図3に示すものを使用することができる。すなわち、可変周波数デジタルフィルタとして、デジタル信号として可変周波数の発振波形を発生する発振波形発生回路27と、ADC16の出力と発振波形発生回路27の出力とを乗算する乗算回路28と、乗算回路28の出力が入力するデジタル低域通過フィルタ29とからなるものを使用することができる。デジタル低域通過フィルタ29の遮断周波数は、デジタルフィルタ21としての通過帯域幅から換算した周波数に設定する。デジタル低域通過フィルタ29の遮断周波数は、デジタルフィルタ21としての通過帯域幅に一致させてもよい。発振波形発生回路27が発生する発振波形を正弦波とし、この乗算回路28においてデジタル乗算演算を行う。その結果をデジタル低域通過フィルタ29に供給させることとすれば、全体として、発振波形発生回路27が発生する波形の周波数によって通過帯域の中心周波数が決まるデジタルフィルタとして機能することになる。発振波形発生回路27が発生する波形の周波数を掃引しつつ振幅検出回路22において振幅を検出し、振幅が最小となる点で周波数掃引を停止すれば、受信信号の周波数帯域内で、ADC16が出力する信号レベルが最も小さい周波数を選択したことになる。
【0030】
図2に示した自動利得制御回路では、外乱入力の周波数が変化するたびにデジタルフィルタ21の振幅を検出してデジタルフィルタ21の通過帯域の中心周波数の再設定を行う必要がある。そこで、中心周波数が異なる複数のデジタルフィルタに対して並列にADC16の出力を供給し、これらの複数のデジタルフィルタの各々の出力の振幅を検出する。振幅が最小となるデジタルフィルタの出力を選択し、選択された出力の振幅に基づいて可変利得増幅器15に対する制御信号を生成することが考えられる。
図4は、複数のデジタルフィルタに対して並列にADC16の出力を供給するようにした自動利得制御回路を備えるRFフロントエンドの構成の一例を示している。
【0031】
図4に示すRFフロントエンドでは、
図2に示すRFフロントエンドと同様に、LNA12、増幅回路13、BPF14、可変利得増幅器15及びADC16が設けられ、ADC16の出力はこのRFフロントエンドを備える受信機内に設けられた信号処理部に供給される。また、nは2以上の整数であるとして、ADC16の出力が並列に入力するn個のデジタルフィルタ21が設けられている。nは、典型的には3から10までの整数である。これらn個のデジタルフィルタ21の通過帯域は、いずれもBPF14の通過帯域よりも狭く、かつその中心周波数は相互に異なっている。各デジタルフィルタ21の出力には振幅検出回路22が接続しており、対応するデジタルフィルタ21の出力を検出する。n個の振幅検出回路で検出された振幅が入力する選択回路25が設けられており、選択回路25は、外乱が入力している状態において入力した振幅のうち最小のものを選択して出力する。さらに、RFフロントエンドには、選択回路25の出力が入力するデジタルループフィルタ23と、デジタルループフィルタ23の出力をアナログ信号に変換して制御信号として可変利得増幅器25に供給するDAC24とが設けられている。可変利得増幅器15、n個のデジタルフィルタ21、n個の振幅検出回路22、選択回路25及びデジタルループフィルタ23及びDAC24によって、自動利得制御回路が構成されている。
【0032】
次に、
図4に示すRFフロンエンドにおける自動利得制御回路の動作について、
図5を用いて説明する。ここでは説明のためn=3として、3個のデジタルフィルタ21が設けられるものとする。
【0033】
3個のデジタルフィルタ21の通過帯域の中心周波数が相互に異なっていることにより、図において符号40で示すように、受信信号の周波数帯域は、帯域1、帯域2及び帯域3の3個の帯域に分割される。これらの3つの帯域はそれぞれ3個のデジタルフィルタ21の通過帯域に対応する。ここでは、可変利得増幅器の入力信号分布において、帯域2内に鋭い周波数スペクトルを有する外乱が入力したものとする。外乱の周波数は、帯域2内において帯域1に近い位置である。その結果、各デジタルフィルタ21の出力の振幅を検出すると、振幅の大きさは、帯域2>帯域1>帯域3となる。
【0034】
図5の符号41は、帯域1に対応するデジタルフィルタ21の出力の振幅に基づいて可変利得増幅器15に対する制御信号を生成したとしたときの、このデジタルフィルタ21の出力での信号分布を示している。同様に符号42は、帯域2に対応するデジタルフィルタ21の出力の振幅に基づいて可変利得増幅器15に対する制御信号を生成したとしたときの、このデジタルフィルタ21の出力での信号分布を示している。符号43は、帯域3に対応するデジタルフィルタ21の出力の振幅に基づいて可変利得増幅器15に対する制御信号を生成したとしたときの、このデジタルフィルタ21の出力での信号分布を示している。これら信号分布41〜43を比較すると、信号レベルが最も大きいものは、帯域3に対応する信号分布43である。これは、帯域1から帯域3の中では帯域3が最も外乱入力の影響を受けにくいからである。一方、信号分布42では、帯域2に含まれる外乱の影響により、信号レベルが圧倒的に小さくなっている。したがって帯域2における振幅に基づいて自動利得制御を行ったとすると、外乱の影響によって可変利得増幅器15の利得が低下させられ、所望の信号である受信信号の受信レベルが低下する。なお、外乱の周波数が帯域2の中にあるとしても、フィルタの周波数特性から、帯域1にも外乱の影響が及んでいる。また、
図5における信号分布41〜43は、可変利得増幅器15における異なる利得の下で得られたものであることに注意する必要がある。
【0035】
そこで、
図4及び
図5に示した例では、帯域3に対応するデジタルフィルタ21の出力の振幅を選択回路25によって選択してデジタルループフィルタ23に供給し、可変利得増幅器15に対する制御信号を生成する。このようにして制御信号を生成すると、外乱入力の影響を受けることなく、自動利得制御が行われることとなる。その結果、ADC16に入力する信号における受信信号成分の信号レベルを高く維持できるので、後段の信号処理をより適切に行うことができ、受信機の機能や性能の劣化が防ぐことができる。またこの例では、外乱入力の周波数が変化したときに、それに追従して、選択回路25によって選択されるデジタルフィルタ21も変化し、常に振幅が最小である帯域が選択される。したがって、外乱入力の周波数の変化があったとしても、外乱入力の影響を受けることなく、常に、受信信号についての信号レベルが高い帯域の信号に基づいた自動利得制御が行われる。
【0036】
以上、実施の形態を参照して本願発明を説明したが、本願発明は上記によって限定されるものではない。本願発明の構成や詳細には、発明のスコープ内で当業者が理解し得る様々な変更をすることができる。
【0037】
この出願は、2014年8月25日に出願された日本出願特願2014−170187を基礎とする優先権を主張し、その開示の全てをここに取り込む。
【符号の説明】
【0038】
11 アンテナ
12 低雑音増幅器(LNA)
13 増幅回路
14 帯域通過フィルタ(BPF)
15 可変利得増幅器
16 アナログ/デジタル変換器(ADC)
17 制御回路
18 周波数選択回路
19 制御信号生成回路
21 デジタルフィルタ
22 振幅検出回路
23 デジタルループフィルタ
24 デジタル/アナログ変換器(DAC)
25 選択回路
27 発振波形発生回路
28 乗算回路
29 デジタル低域通過フィルタ