(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6386578
(24)【登録日】2018年8月17日
(45)【発行日】2018年9月5日
(54)【発明の名称】鉛陽極スライムの処理方法
(51)【国際特許分類】
C22B 7/00 20060101AFI20180827BHJP
C22B 5/16 20060101ALI20180827BHJP
C22B 30/02 20060101ALI20180827BHJP
C22B 30/04 20060101ALI20180827BHJP
B01D 53/64 20060101ALI20180827BHJP
B01D 53/68 20060101ALI20180827BHJP
B01D 53/78 20060101ALI20180827BHJP
C02F 1/58 20060101ALI20180827BHJP
C02F 1/62 20060101ALI20180827BHJP
C22B 11/02 20060101ALN20180827BHJP
C22B 15/00 20060101ALN20180827BHJP
C22B 30/06 20060101ALN20180827BHJP
【FI】
C22B7/00 Z
C22B5/16
C22B30/02
C22B30/04
B01D53/64ZAB
B01D53/68 220
B01D53/78
C02F1/58 M
C02F1/62 Z
!C22B11/02
!C22B15/00
!C22B30/06
【請求項の数】14
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2016-553741(P2016-553741)
(86)(22)【出願日】2014年11月19日
(65)【公表番号】特表2016-538428(P2016-538428A)
(43)【公表日】2016年12月8日
(86)【国際出願番号】FI2014050885
(87)【国際公開番号】WO2015075312
(87)【国際公開日】20150528
【審査請求日】2016年5月17日
(31)【優先権主張番号】20136164
(32)【優先日】2013年11月21日
(33)【優先権主張国】FI
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】514160582
【氏名又は名称】オウトテック (フィンランド) オサケ ユキチュア
【氏名又は名称原語表記】OUTOTEC (FINLAND) OY
(74)【代理人】
【識別番号】110001151
【氏名又は名称】あいわ特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】ベルグ、 グンナル
(72)【発明者】
【氏名】マリアリク、 ミカイル
(72)【発明者】
【氏名】オーグレン、 ベルト
【審査官】
神田 和輝
(56)【参考文献】
【文献】
特開2005−126747(JP,A)
【文献】
特開2008−302345(JP,A)
【文献】
特開昭63−203727(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 53/14−53/18
B01D 53/34−53/85
C22B 1/00−61/00
F27D 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)鉛陽極スライムを含有する供給混合物を用意する工程と、
(b)該供給混合物を融解炉において1000°Cを超える温度で製錬して該供給混合物を製錬するとともに、該供給混合物に含有されるアンチモン(Sb)、フッ化物(F)およびヒ素(As)の少なくとも一部を揮発させ、除去して、第1の金属相、Pbスラグ、ならびに揮発したSb、FおよびAsを含有する第1のプロセスガスを得る工程と、
(c)該得られた第1のプロセスガスならびに低含有量のFおよびAsを含有する第1のベンチュリ溶液をベンチュリスクラバにおいて接触させることによって該第1のプロセスガスをベンチュリスクラバにおいて洗浄し、前記Sb、FおよびAsの少なくとも一部を前記第1のプロセスガスから除去して、少なくとも部分的にSb、FおよびAsのない第1の洗浄済プロセスガスと、除去された分のSb、FおよびAsを含有する第2のベンチュリ溶液とを得る工程と、
(d)該得られた第2のベンチュリ溶液の少なくとも一部を濾過して、Sbを含有する第1のベンチュリスライムと、FおよびAsを含有する第3のベンチュリ溶液とを得る工程と、
(e)沈澱剤を第3のベンチュリ溶液に加えてFおよびAsの少なくとも一部を沈殿させるとともに、こうして得られた混合物を濾過して、少なくとも部分的にFおよびAsのない第4のベンチュリ溶液、ならびにFおよびAsの沈殿物を得る工程と、
(f)該得られた第4のベンチュリ溶液を工程(c)へ第1のベンチュリ溶液の一部として再循環させる工程とを含み、第1のベンチュリ溶液は水溶液であることを特徴とする鉛陽極スライムの処理方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法において、該方法はさらに、
(g)工程(b)で得られた第1の金属相を酸化条件下に置いて、残余のSb、FおよびAsの少なくとも一部、ならびに第1の金属相に含有されるPbの少なくとも一部を酸化させ、揮発させ、除去して、第2の金属相、SbおよびPbを含有する第1の転換スラグと、揮発したSb、F、AsおよびPbを含有する第2のプロセスガスとを得る工程と、
(h)該得られた第2のプロセスガスを前記洗浄工程(c)に導入する工程とを含むことを特徴とする処理方法。
【請求項3】
請求項2に記載の方法において、該方法はさらに、
(i)工程(g)で得られた第2の金属相を酸化条件下に置いて、残余のSb、FおよびAsの少なくとも一部と、第2の金属相に含有されるPbの少なくとも一部を酸化させ、揮発させ、除去して、第3の金属相、Biを含有する第2の転換スラグ、ならびに揮発したSb、F、AsおよびPbを含有する第3のプロセスガスを得る工程と、
(j)該得られた第3のプロセスガスならびに低含有量のFおよびAsを含有する第5のベンチュリ溶液をベンチュリスクラバ内で接触させることによって、前記第3のプロセスガスを前記ベンチュリスクラバにおいて洗浄して、前記Sb、FおよびAsの少なくとも一部を前記プロセスガスから除去するとともに、少なくとも部分的にSb、FおよびAsのない第2の洗浄済プロセスガスと、Sb、FおよびAsを含有する第6のベンチュリ溶液とを得る工程と、
(k)該得られた第6のベンチュリ溶液の一部を濾過してSbを含有する第2のベンチュリスライム、ならびにFおよびAsを含有する第7のベンチュリ溶液を得る工程とを含み、第5のベンチュリ溶液は水溶液であることを特徴とする処理方法。
【請求項4】
請求項3に記載の方法において、該方法はさらに、
(l)第6のベンチュリ溶液の残余の部分をプロセス水で希釈して希釈済ベンチュリ溶液を得、こうして得られた希釈済ベンチュリ溶液を前記洗浄工程(j)へ第5のベンチュリ溶液の一部として再循環させる工程を含むことを特徴とする処理方法。
【請求項5】
請求項3または4に記載の方法において、該方法はさらに、
(m)第7のベンチュリ溶液を緩衝させ、こうして得られた緩衝ベンチュリ溶液を前記洗浄工程(c)へ第1のベンチュリ溶液の一部として再循環させる工程を含むことを特徴とする処理方法。
【請求項6】
請求項3ないし5のいずれかに記載の方法において、該方法はさらに、
(n)第2のベンチュリスライムを前記製錬工程(b)へ再循環させる工程を含むことを特徴とする処理方法。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれかに記載の方法において、前記鉛陽極スライムは、25ないし50% w/wのSb、0.5ないし5% w/wのF、および0.2ないし10% w/wのAsと、任意的に0.2ないし20% w/wのBiを含有することを特徴とする処理方法。
【請求項8】
請求項1ないし7のいずれかに記載の方法において、工程(b)はさらに、前記供給混合物を1000°Cを超える温度で製錬後、粉コークスを融解炉に加えて、得られた製錬物の還元を完了することを含むことを特徴とする処理方法。
【請求項9】
請求項1ないし8のいずれかに記載の方法において、供給混合物を小分けして前記製錬工程(b)に加えることを特徴とする処理方法。
【請求項10】
請求項1ないし9のいずれかに記載の方法において、工程(b)の温度は1150ないし1200°Cであることを特徴とする処理方法。
【請求項11】
請求項1ないし10のいずれかに記載の方法において、前記工程(e)における沈澱剤は、CaO、Ca(OH)2、CaCO3またはそれらの混合物であることを特徴とする処理方法。
【請求項12】
請求項2ないし6のいずれかに記載の方法において、工程(g)は、第1の金属相を空気に露呈することによって行なわれることを特徴とする処理方法。
【請求項13】
請求項1ないし12のいずれかに記載の方法において、前記供給混合物はさらに、再循環された塵埃および/または下流のプロセス工程から再循環された材料を含有することを特徴とする処理方法。
【請求項14】
請求項1ないし13のいずれかに記載の方法において、前記工程(e)における沈澱剤はCaOであることを特徴とする処理方法。
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、フッ素およびヒ素含有量の高い鉛陽極スライムの処理方法、とりわけ、鉛陽極スライムを製錬し、生成されたオフガスを1つ以上の湿性ガス洗浄段階において洗浄することを含む方法に関するものである。
【0002】
従来、鉛陽極スライム(Pb AS)は、乾燥ガス洗浄系統に接続された炉を少なくとも2つ使用する一連のプロセス工程にて処理している。このプロセス中、ヒ素およびアンチモン濃度の高い有毒な煙塵が生成され、アンチモンを回収ないし除去するには、これをさらに処理しなければならない。
【0003】
例えば米国特許第4558564号には、硫化物鉱石製錬の煙道ガスのスクラビングに使用した洗浄水からヒ素を回収するプロセスが開示され、また中国実用新案公報第202099361号には、2段階ベンチュリスクラバ洗浄へヒ素含有煙道ガスを導入する方法が開示されている。
【0004】
そこで本発明は、上述の問題点を解消する方法を提供することを目的とする。本発明の目的は、独立請求項に記載の事項を特徴とする方法によって達成される。本発明の好ましい実施例は、従属請求項に開示されている。
【0005】
本発明は、ベンチュリ溶液の腐食性をほとんど無くし、かつ廃水処理へ送られる溶液の量を減らすために、フッ素およびヒ素の含有量が高い腐食性プロセスガスを別のガス洗浄工程で処理し、再循環ベンチュリ溶液からヒ素およびフッ素化合物を沈殿させるという思想に基づいている。これによって、鉛陽極スライムの処理が一基の融解炉で可能になる。さらに、本発明の方法の湿性ガス洗浄工程で生じた生成物は、乾燥ガス方式で生じた煙塵に比べて環境への有害性が少ない。
【図面の簡単な説明】
【0006】
以下に、添付図面を参照して本発明を好ましい実施例に従ってさらに詳細に説明する。
【
図1】本発明の方法の工程(c)ないし(f)を含む第1の洗浄段階の例を示す流れ図である。
【
図2】本発明の方法の工程(j)ないし(m)を含む第2の洗浄段階の例を示す流れ図である。
【0007】
本発明は、以下の工程を含む鉛陽極スライムの処理方法に関する。すなわち、本方法は、
(a)鉛陽極スライムを含有する供給混合物を用意する工程と、
(b)供給混合物を融解炉において1000°Cより高い温度で製錬して供給混合物を製錬するとともに、供給混合物に含有されるアンチモン(Sb)、フッ化物(F)およびヒ素(As)の少なくとも一部を揮発させ、除去し、第1の金属相、Pbスラグ、ならびに揮発したSb、FおよびAsを含有する第1のプロセスガスを得る工程と、
(c)得られた第1のプロセスガスおよび第1のベンチュリ溶液をベンチュリスクラバにおいて接触させることによって前記第1のプロセスガスをベンチュリスクラバにおいて洗浄し、Sb、FおよびAsの少なくとも一部を前記第1のプロセスガスから除去して、少なくとも部分的にSb、FおよびAsのない第1の洗浄済プロセスガスと除去された分のSb、FおよびAsを含有する第2のベンチュリ溶液とを得る工程と、
(d)得られた第2のベンチュリ溶液の少なくとも一部を濾過して、Sbを含有する第1のベンチュリスライムとFおよびAsを含有する第3のベンチュリ溶液とを得る工程と、
(e)沈澱剤を第3のベンチュリ溶液に加えてFおよびAsの少なくとも一部を沈殿させるとともに、こうして得られた混合物を濾過して、少なくとも部分的にFおよびAsのない第4のベンチュリ溶液ならびにF/As沈殿物を得る工程と、
(f)得られた第4のベンチュリ溶液を工程(c)へ第1のベンチュリ溶液の一部として再循環させる工程とを含む。
【0008】
第3のベンチュリ溶液においてFおよびAs化合物の含有量が高いと、ベンチュリ溶液が腐食性になる。沈澱剤を第3のベンチュリ溶液に加えると、前記ベンチュリ溶液が中和され、ほとんど腐食性にならない。沈澱剤の添加は、別の沈殿槽で行なうことができる。そこで、生じたF/As沈殿物を濾過除去でき、これは、好ましくは連続的に行なう。
【0009】
さらに、工程(e)においてFおよびAsの少なくとも一部を沈殿させると、ベンチュリ系統における溶液の量が減少し、その結果、濾過工程(d)からの最終濾過液として後に廃水処理で処理される量の溶液が廃水処理に回る。沈殿プロセスは、pH測定によって制御できる。得られた沈殿物を濾過することによって、ベンチュリ系統とその各管にこの沈澱生成物の固い層が形成される危険性が最小になる。
【0010】
本発明の方法の有利な例では、工程(e)における沈澱剤は、CaO、Ca(OH)
2、CaCO
3またはそれらの混合物、好ましくはCaOである。これによって、Ca(AsO
2)
2およびCaF
2の沈殿が生ずる。カルシウムは、あるpH値でFおよびAsとともに安定な生成物を形成する。
【0011】
本発明の方法はさらに、工程(b)で得られた第1の金属相を酸化条件下に置いて残余のSb、FおよびAsと第1の金属相に含有されるPbの少なくとも一部とを酸化させ、揮発させ、除去して第2の金属相、SbおよびPbを含有する第1の転換スラグ、ならびに揮発したSb、F、AsおよびPbを含有する第2のプロセスガスとを得る工程(g)と、得られた第2のプロセスガスを洗浄工程(c)に導入する工程(h)とを含んでもよい。
【0012】
有利には、工程(g)は、第1の金属相を空気に露呈することによって達成される。好ましくは、これは第1の金属相の表面に鋼製ランスを通して空気を吹き込むことで行なう。
【0013】
図1は、本発明の方法の工程cないしfを含む第1の洗浄段階の例を示し、高含有量のFおよびAsを含有し製錬工程(a)で生じた第1のプロセスガスと、任意的には上述のように酸化工程(g)で生成された第2のプロセスガスとから成る第1の混合プロセスガス(1)を第1のベンチュリガス洗浄工程(101)へ導入し、第1の混合プロセスガス(1)をベンチュリスクラバにおいて第1のベンチュリ溶液(11)に接触させることによってこれをスクラビングする。第1の混合プロセスガス(1)は、好ましくは、ガススクラバへの導入に先立って、まずクエンチャにおいて第1のベンチュリ溶液(11)でクエンチする。
【0014】
ベンチュリスクラバは、溶滴分離器で補完して、ベンチュリガス誘起液体霧化で発生した微溶滴を除去することができる。第1のベンチュリ溶液(11)は、上述のように低含有量のFおよびAsを含有してもよい。第1のベンチュリガス洗浄工程(101)は、少なくとも部分的にSb、FおよびAsのない第1の洗浄済プロセスガス(3)と、除去された分のSb、FおよびAsを含有する第2のベンチュリ溶液(2)とを排出し、後者は第1の保液槽(102)に集めることができる。
【0015】
図1から分かるように、第1のベンチュリガス洗浄工程からの第2のベンチュリ溶液(2)の少なくとも一部は、SbおよびPbを含有する固体微粒子が存在する場合、これを除去するために、好ましくは連続的に濾過する(103)。FおよびAsは依然として溶解している。こうして、Sbを含有する第1のベンチュリスライム(5)とAsを含有する第3のベンチュリ溶液(4)とを得る。次に、第3のベンチュリ溶液(4)を沈殿槽(104)に移送し、適切な沈澱剤(6)(例えばCaO)を加える。得られる反応によって、FおよびAs化合物の固体微粒子(例えばCaF
2、Ca(AsO
2)
2)(9)が生じ、これを、こうして得られたベンチュリ溶液混合物から連続的に濾過(105)して除去するとともに、少なくとも部分的にFおよびAsのない第4のベンチュリ溶液(8)と典型的にはF/As濾過ケーキ(9)として回収されるF/As沈殿物とが生ずる。第4のベンチュリ溶液(8)には、ほとんどFおよびAsがない。これは第1の循環槽(106)に集めることができ、ここでさらに、本プロセスの他の箇所で利用され生成されるベンチュリ溶液(10)にこれを混合することができる。第1の循環槽(106)からは、混合ベンチュリ溶液をクエンチャおよびベンチュリスロートへ第1のベンチュリ溶液(11)としてポンプで戻す。第1の洗浄段階の最後では、第1の循環槽(106)に集めた混合ベンチュリ溶液を廃水処理(12)へ送ることができる。第1の洗浄段階の完了後、この循環を(106)から(104)へ切り換え、そこで第2のベンチュリ溶液(2’)および混合ベンチュリ溶液は、(106)を経由して廃水処理(12)へ送られる。
【0016】
本発明の方法はさらに、次の工程を含んでもよい。すなわち、工程(g)で得られた第2の金属相を酸化条件下に置いて残余のSb、FおよびAsの少なくとも一部と第2の金属相に含有されるPbの少なくとも一部とを酸化させ、揮発させ、除去して第3の金属相、Biを含有する第2の転換スラグ、ならびに揮発したSb、F、AsおよびPbを含有する第3のプロセスガスとを得る工程(i)と、前記第3のプロセスガスおよび第5のベンチュリ溶液をベンチュリスクラバにおいて接触させることによってこの得られた第3のプロセスガスをベンチュリスクラバにおいて洗浄し、Sb、FおよびAsの少なくとも一部を前記プロセスガスから除去し、少なくとも部分的にSb、FおよびAsのない第2の洗浄済プロセスガスと、Sb、FおよびAsを含有する第6のベンチュリ溶液とを得る工程(j)と、得られた第6のベンチュリ溶液の一部を濾過してSbを含有する第2のベンチュリスライムと、FおよびAsを含有する第7のベンチュリ溶液とを得る工程(k)とを含んでもよい。
【0017】
多くの場合、第2のベンチュリスライムは主に、BiといくらかのSbおよびPbを含むことになる。第3のプロセスガスは、この段階の間、少量のFおよびAsと他の可溶性の種のみを含むことになり、これは、第1のプロセス段階に比べて溶液中の金属イオンが少ないことを意味している。
【0018】
工程(i)では、銀、金、およびプラチナ族金属以外の存在する実質的にすべての金属を酸化させ、工程(i)の後、第3の金属相は、好ましくは0.01% w/wより少ないPb、SbおよびBiを含有し、ほとんどドレのみを含有している。ここで使用し以下にも使用する用語「ドレ」とは、広く銀、金、およびプラチナ族金属を含有する金属合金をいう。典型的には、ドレは、0.5ないし5% w/wのAu、0.1ないし1% w/wのプラチナ族金属を含み、残余はAgである。
【0019】
得られた第3の金属相はさらに、残っている可能性のあるSeおよびTeを0.01% w/wより少ない量まで除去するために、融剤を使って精製し、第4の金属相および精製スラグを得ることができる。精製スラグは製錬工程(b)へ再循環することができる。
【0020】
Biを含有する第2の転換スラグは、粉コークスおよび黄鉄鉱の存在下で融解炉にて製錬および還元され、精錬して粗製ビスマスおよび銅マットを得ることができる。こうして得られた還元スラグは、工程(g)へ再循環させて戻すことができる。粗製ビスマスならびに銅マットはさらに、当業者に公知の方法で生成することができる。
【0021】
本発明の方法はさらに、第6のベンチュリ溶液の残余の部分をプロセス水で希釈して、希釈済ベンチュリ溶液を得、こうして得られた希釈済ベンチュリ溶液を第5のベンチュリ溶液の一部として洗浄工程(f)へ再循環させて戻す工程(l)を含んでもよい。
【0022】
本発明の方法はさらに、第7のベンチュリ溶液を緩衝させ、こうして得られた緩衝ベンチュリ溶液を洗浄工程(c)へ第1のベンチュリ溶液の一部として再循環させて戻す工程(m)を含んでもよい。
【0023】
工程(k)における第6のベンチュリ溶液の濾過は、好ましくは第1の洗浄段階の新たなサイクルを開始してから行なう。これは、第1の循環槽(106)が使用中で、第7のベンチュリ溶液を濾過工程(k)から直接、第1の循環槽(106)へ送れないことを意味する。そこで、緩衝工程(m)が必要なことがある。両サイクル間に十分な時間がとれれば、緩衝は必要ない。
【0024】
図2は、本発明の方法の工程(j)ないし(m)を含む第2の洗浄段階の例を示し、低含有量のFおよびAsを含有し第2の転換工程(i)で生成された第3のプロセスガス(28)を含む第2の混合プロセスガス(20)と、任意的には、これまでも述べ以下にも述べるようにスラグ精製工程(304)で生成される第4のプロセスガス(29)とを、第2のベンチュリガス洗浄工程(201)に導入し、第2の混合プロセスガス(20)をベンチュリスクラバ内の第5のベンチュリ溶液(23)に接触させることによって、これをスクラビングする。第2の混合プロセスガス(20)は、好ましくは最初にクエンチャ内の第5のベンチュリ溶液(23)でクエンチしてから、ガススクラバへ導入する。
【0025】
ベンチュリスクラバは、溶滴分離器で補完して、ベンチュリガス誘起液体霧化で発生した微溶滴を除去することができる。第5のベンチュリ溶液(23)は、上述のように低含有量のFおよびAsを含有してもよい。第2のベンチュリガス洗浄工程(201)は、少なくとも部分的にSb、FおよびAsのない第2の洗浄済プロセスガス(22)と、除去された分のSb、FおよびAsを含有する第6のベンチュリ溶液(21)とを排出し、後者は、第2の保液槽(202)に集めることができ、ここで、プロセス水(27)で希釈されて第5のベンチュリ溶液(23)を再生することができる。プロセス水での希釈の前または後のいずれかで分離された第6のベンチュリ溶液(24)の部分は、SbおよびPbが存在すればこれらを含有する固体微粒子を除去するために、好ましくは連続的に濾過(203)する。FおよびAsは依然として溶け込んでいる。こうして、Sbを含有する第2のベンチュリスライム(26)と、FおよびAsを含有する第7のベンチュリ溶液(25)とを得る。第7のベンチュリ溶液(25)は、緩衝槽(204)にてプロセス水(27)で希釈でき、そこで、こうして得られた緩衝ベンチュリ溶液(10)は、第1の洗浄段階へ送って第1のベンチュリ溶液(11)の一部として利用することができる。
【0026】
本発明の方法はさらに、第2のベンチュリスライムを製錬工程(b)へ再循環させる工程(n)を含んでもよい。第2のベンチュリスライムは、典型的には、いくらかの量の有価金属、例えばBi、Sb、および/または貴金属等を含有している。この回収を増すには、再循環が好ましい。
【0027】
驚いたことに、有利であると判明したことは、第1の洗浄段階後、第1のベンチュリスライムを別個の静加圧濾過器に集めて、次に第2の洗浄段階で新しいプロセス水を使用して、第2の洗浄段階におけるクエンチャおよびベンチュリスロート内の腐食性溶液の影響を最小化することである。しかし、新しいプロセス水は、第1の洗浄段階の開始から使用することも可能である。だが、何らかの理由でF/As-化合物が沈殿して系が障害となるならば、第1の洗浄段階後、新しい水を使用するのが有利である。
【0028】
図3は、本発明の方法の第1の例を示す。
図3において、同様の要素は、
図1および
図2で使用したのと同じ参照部号で示す。鉛陽極スライム(30)と、任意的には、再循環された粉塵および下流のプロセス工程(31)から再循環された材料は、融解炉(301)に導入されて陽極スライムを精錬し、供給混合物に含有されるアンチモン(Sb)、フッ化物(F)およびヒ素(As)の少なくとも一部を揮発させて除去し、第1の金属相(32)、Pbスラグ(33)、ならびに揮発したSb、FおよびAsを含有する第1のプロセスガス(18)を得る。そこで、第1の金属相(32)は、空気(34)とともに第1の転換工程(302)に導入されて、残余のSb、FおよびAsと、第1の金属相に含有されるPbの少なくとも一部を酸化させ、揮発させ、除去して、第2の金属相(35)、SbおよびPbを含有する第1の転換スラグ(36)、ならびに揮発したSb、F、AsおよびPbを含有する第2のプロセスガス(19)を得る。
【0029】
そこで、混合された第1のプロセスガス(18)および第2のプロセスガス(19)は、高い含有量のFおよびAsを含有する第1の混合プロセスガス(1)として第1の洗浄段階(100)に導入され、この段階は、上述し
図1に示したように本発明の方法の工程(c)ないし(f)を含むものである。そこでアンチモン(47)は、第1の洗浄段階(100)で得られたSbを含有する第1のベンチュリスライム(5)と、SbおよびPbを含有する第1の転換スラグ(36)とから、当業者に公知の方法によって回収する(307)ことができるとともに、得られたPb/Sb残渣(48)を排出させる。
【0030】
次に、第2の金属相(35)は、第2の転換工程(303)へ空気(37)とともに導入し、残余のSb、FおよびAsの少なくとも一部と、第2の金属相に含有されるPbの少なくとも一部を酸化させ、揮発させ、除去して、第3の金属相(38)、Biを含有する第2の転換スラグ(41)、ならびに揮発したSb、F、AsおよびPbを含有する第3のプロセスガス(28)を得る。
【0031】
そこで、ほとんどドレのみを含む第3の金属相(38)はさらに、残余の可能性のあるSeおよびTeを精製(304)して0.01% w/wより少ない量にまで除去し、第4の金属相(40)および精製スラグ(39)を得る。得られた精製スラグ(39)はそこで、製錬工程(301)へ再循環させて戻すことができる。銀は、第4の金属相(40)から当業者に公知の方法、例えば陽極銀鋳造によって回収することができる。
【0032】
混合された第3のプロセスガス(28)および第4のプロセスガス(29)は、低含有量のFおよびAsを含有する第2の混合プロセスガス(20)として第2の洗浄段階(200)に導入され、この段階は、上述し
図2に示したように本発明の方法の工程(j)ないし(m)を含むものである。そこで第2のベンチュリスライム(26)は、製錬工程(301)へ、また緩衝されたベンチュリ溶液(10)は第1の洗浄段階(100)へ第1のベンチュリ溶液(11)の一部として再循環することができる。
【0033】
第2の転換スラグ(41)からは、前記スラグをまず、スラグ還元用Bi転換器(305)へ導入し、前記スラグをコークスおよび黄鉄鉱(42)に接触させて銅マット(43)および粗製Bi(44)を得ることによって、銅が回収される。そこでビスマス(46)は、当業者に公知の方法で粗製ビスマス(44)から回収(306)される。残渣(45)は製錬工程(301)へ再循環できる。
【0034】
本発明によれば、供給混合物に含有される鉛陽極スライムは、典型的にはアンチモン、フッ化物、ヒ素およびビスマスを含有し、とりわけ鉛陽極スライムは、25ないし50% w/wのSb、0.5ないし5% w/wのF、0.2ないし10% w/wのAs、および0.2ないし20% w/wのBiを含有する。
【0035】
供給混合物は、鉛陽極スライムのみを含有することもあり、または、さらに、再循環塵埃および/または下流のプロセス工程から再循環された材料を含有することもある。
【0036】
供給混合物は、好ましくは小分けして製錬工程(b)に加える。有利には、供給混合物は製錬前に加熱する。融解炉は、好ましくは加熱および製錬中に回転させる。温度は約1000°Cを超えるまで上昇させて、供給混合物を製錬し、少なくともSbの一部を揮発させる。好ましくは、温度は1150°Cないし1200°Cである。温度が高すぎると、煉瓦張りの焼きが増す。さらに、蒸気圧が増すと、Pb、AsおよびFを含有する煙がより多く溶融物からガス洗浄へ気化することになる。好ましくは、これらの元素は、可能な限り製錬スラグに集めてガス洗浄系統内の濾過ケーキの形成を最小にすべきである。
【0037】
本発明の製錬工程(b)の好ましい例では、供給混合物の精錬後、粉コークスを製錬工程(b)に加える。ここで使用し以下にも使用する用語「粉コークス」とは、破砕の前または後で、サイズの大きなものから選別することで分離した粉状コークスをいう。典型的には、大きさが12mmより小さい。粉コークスを製錬工程に加えると、製錬における金属の還元が完了し、そこでスラグ中の最も容易に還元される金属酸化物は、残余のAgがスラグ内を沈降する際、その大部分を集める非常に小さい金属溶滴を形成することになる。これによって、Agの直接回収が増す。SbおよびBiの酸化物は、容易に還元される金属酸化物の例である。こうして、粉コークスの添加によっても、SbおよびBiの直接回収が増す。この段階で温度を1000°Cより上に維持すると、発泡スラグの形成が防止される。粉コークスは、少量添加するのが有利である。
【0038】
当業者に明らかとなろうが、技術の進展につれ、本発明に思想は、様々なやり方で実現可能である。本発明とその実施例は、上述の例に限定されず、特許請求の範囲内で変えてもよい。