(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
降伏応力(MPa)/弾性率(MPa)の比が0.010以上0.050以下の材料で構成されており、外径が50.0mm以上130.0mm以下で、厚みが2.0mm以上15.0mm以下である樹脂配管を、押出成形しながら巻き取ることで巻き取り構造体を製造する方法であって、
前記降伏応力(MPa)/弾性率(MPa)の比および前記樹脂配管の外径に対する前記巻き取り構造体の外周および内周の関係が、
3500.0mm≧巻き取り構造体の外周の最大幅(mm)、且つ、
巻き取り構造体の内周の最小幅(mm)≧0.62×樹脂配管の外径÷(降伏応力/弾性率)
を満たすように前記樹脂配管を巻き取る、
巻き取り構造体の製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような樹脂配管は、従来では、外径が50mm以上の樹脂配管としては長さがせいぜい3m程度しかなく、この3mの長さの直管を、トラックに複数本積載して敷設現地まで輸送している。そして、現地では、各3mの長さの配管同士を溶接により接続するか、フランジ継手等の継手を用いて接続することにより、所望の長さの配管を組み上げている。
【0005】
ところが、樹脂配管の中に流す流体の漏洩を抑制するためには、樹脂配管同士の接続箇所が少ないことが好ましい。すなわち、1本の樹脂配管で(接続箇所無しで)液体をできるだけ長距離輸送させることが好ましい。
【0006】
しかし、樹脂配管をトラック等に積載させて敷設現地まで輸送する場合には、1本当たりの直管の樹脂配管の長さは、トラック等の積載可能空間の大きさの制約を受けることになる。
【0007】
そこで、例えば、樹脂配管をリール等に巻き取られた状態にして、もしくは、リール無しに樹脂配管を巻き取った状態にして、トラック等の積載空間に積載させることが考えられる。
【0008】
ところが、樹脂配管の外径が50.0mm以上の大口径であり、樹脂配管の厚みが2.0mm以上である場合には、巻き取られた状態では樹脂配管に永久変形(巻き癖)が生じてしまい、敷設現地において元の直管に戻すことが困難になることがある。
【0009】
本発明の課題は、上述した点に鑑みてなされたものであり、永久変形を抑制させつつ巻き取られた状態で車両に積載させて運搬することが可能な樹脂配管の巻き取り構造体、巻き取り構造体の製造方法、
および、樹脂配管の敷設方
法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
第1観点に係る樹脂配管の巻き取り構造体は、樹脂配管が、降伏応力(MPa)/弾性率(MPa)の比が0.010以上0.050以下の材料で構成されている。この樹脂配管は、外径が50.0mm以上130.0mm以下である。また、この樹脂配管は、厚みが2.0mm以上15.0mm以下である。この樹脂配管の巻き取り構造体は、降伏応力(MPa)/弾性率(MPa)の比および樹脂配管の外径に対する巻き取り構造体の外周および内周の関係が、3500.0mm≧巻き取り構造体の外周の最大幅(mm)、且つ、巻き取り構造体の内周の最小幅(mm)≧0.62×樹脂配管の外径÷(降伏応力/弾性率)を満たしている。
【0011】
なお、弾性率は、ヤング率と称する場合がある。
【0012】
なお、樹脂配管は、降伏応力(MPa)/弾性率(MPa)の比が0.02以上0.042以下の材料で構成されていてもよい。この樹脂配管の外径は、50.8mm以上127.0mm以下であってもよい。この樹脂配管の厚みは、2.0mm以上10.0mm以下であってもよい。また、樹脂配管の巻き取り構造体は、3000.0mm≧巻き取り構造体の外周の最大幅(mm)の関係をさらに満たしているものであってもよい。
【0013】
なお、樹脂配管の巻き取り構造体においては、巻き取られている樹脂配管において座屈(折れ曲がり)等が生じていないことが好ましいが、相当塑性ひずみを1.0%以下に抑えることができればよく、座屈を生じさせないことは必須条件ではない。
【0014】
この樹脂配管の巻き取り構造体では、相当塑性ひずみを1.0%以下に抑えつつ、巻き取られた状態で車両に積載させて運搬することが可能になる。
【0015】
第2観点に係る樹脂配管の巻き取り構造体は、第1観点に係る樹脂配管の巻き取り構造体であって、降伏応力(MPa)/弾性率(MPa)の比および樹脂配管の外径に対する巻き取り構造体の外周および内周の関係が、3500.0mm≧巻き取り構造体の外周の最大幅(mm)、且つ、巻き取り構造体の内周の最小幅(mm)≧0.79×樹脂配管の外径÷(降伏応力/弾性率)を満たしている。
【0016】
また、樹脂配管の巻き取り構造体は、3000.0mm≧巻き取り構造体の外周の最大幅(mm)の関係をさらに満たしているものであってもよい。
【0017】
なお、樹脂配管の巻き取り構造体においては、巻き取られている樹脂配管において座屈(折れ曲がり)等が生じていないことが好ましいが、相当塑性ひずみを0.5%以下に抑えることができればよく、座屈を生じさせないことは必須条件ではない。
【0018】
この樹脂配管の巻き取り構造体では、相当塑性ひずみを0.5%以下に抑えつつ、巻き取られた状態で車両に積載させて運搬することが可能になる。
【0019】
第3観点に係る樹脂配管の巻き取り構造体は、第1観点に係る樹脂配管の巻き取り構造体であって、降伏応力(MPa)/弾性率(MPa)の比および樹脂配管の外径に対する巻き取り構造体の外周および内周の関係が、3500.0mm≧巻き取り構造体の外周の最大幅(mm)、且つ、巻き取り構造体の内周の最小幅(mm)≧1.025×樹脂配管の外径÷(降伏応力/弾性率)を満たしている。
【0020】
また、樹脂配管の巻き取り構造体は、3000.0mm≧巻き取り構造体の外周の最大幅(mm)の関係をさらに満たしているものであってもよい。
【0021】
なお、樹脂配管の巻き取り構造体においては、巻き取られている樹脂配管において座屈(折れ曲がり)等が生じていないことが好ましいが、相当塑性ひずみを実質的に0.0%以下に抑えることができればよく、座屈を生じさせないことは必須条件ではない。
【0022】
この樹脂配管の巻き取り構造体では、相当塑性ひずみを実質的に0.0%以下に抑えつつ、巻き取られた状態で車両に積載させて運搬することが可能になる。
【0023】
第4観点に係る樹脂配管の巻き取り構造体は、第1観点から第3観点のいずれかに係る樹脂配管の巻き取り構造体であって、樹脂配管は、フッ素樹脂を含んで構成されている。
【0024】
このフッ素樹脂としては、例えば、PFA(テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体)、FEP(テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体)、ETFE(テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体)、PVDF(ポリフッ化ビニリデン)、PCTFE(ポリクロロトリフルオロエチレン)、ECTFE(エチレン・クロロトリフルオロエチレン共重合体)からなる群より選択ECTFE(エチレン・クロロトリフルオロエチレン共重合体)、THV(テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、ビニリデンフロライドの3種類のモノマーからなる熱可塑性のフッ素樹脂)からなる群より選択される1種または2種以上を用いることができる。
【0025】
この樹脂配管の巻き取り構造体では、樹脂配管がフッ素樹脂を含んで構成されているため、耐薬品性に優れる。
【0026】
第5観点に係る樹脂配管の巻き取り構造体は、第4観点に係る樹脂配管の巻き取り構造体であって、樹脂配管は、60質量%以上がPFAで構成されている。
【0027】
第6観点に係る巻き取り構造体の製造方法は、降伏応力(MPa)/弾性率(MPa)の比が0.010以上0.050以下の材料で構成されており、外径が50.0mm以上130.0mm以下で、厚みが2.0mm以上15.0mm以下である樹脂配管を押出成形しながら巻き取ることで巻き取り構造体を製造する方法である。降伏応力(MPa)/弾性率(MPa)の比および樹脂配管の外径に対する巻き取り構造体の外周および内周の関係が、3500.0mm≧巻き取り構造体の外周の最大幅(mm)、且つ、巻き取り構造体の内周の最小幅(mm)≧0.62×樹脂配管の外径÷(降伏応力/弾性率)を満たすように樹脂配管を巻き取る。
【0028】
この巻き取り構造体の製造方法では、樹脂配管を押出成形しながら巻き取ることで巻き取り構造体を製造する。ここで、特に限定されないが、例えば、樹脂配管が押し出される出口から巻き取りが行われる箇所までの距離は10m以下とすることができる。
【0029】
このように、この巻き取り構造体の製造方法では、相当塑性ひずみを1.0%以下に抑えつつ、巻き取られた状態で車両に積載させて運搬することが可能な巻き取り構造体を製造するのに必要なスペースを、押し出しと巻き取りを同時に行うことで狭小化させることができる。
【0030】
第7観点に係る樹脂配管の敷設方法は、第1観点から第5観点のいずれかの巻き取り構造体または第6観点の製造方法によって得られる巻き取り構造体を、樹脂配管を敷設する現地において解く。
【0031】
この樹脂配管の敷設方法では、巻き取り構造体を敷設地まで運んで敷設地で解くことができるため、巻き取り構造体の製造地と樹脂配管の敷設地とが離れて存在している場合であっても、樹脂配管を敷設することが可能になる。
【0032】
第8観点に係る樹脂配管の敷設方法は、第1観点から第5観点のいずれかの巻き取り構造体または第6観点の製造方法によって得られる巻き取り構造体を複数用意し、樹脂配管を敷設する現地において複数の巻き取り構造体を解き、巻き取り構造体を解くことで得られる複数の樹脂配管を互いに接続することで、継ぎ目の間隔を6m以上の樹脂配管を敷設する。
【0033】
この樹脂配管の敷設方法では、継ぎ目の間隔を長くすることができるため、継ぎ目の数を少なく抑え、継ぎ目からの漏れを抑制させることが可能になる。
【0034】
付記に係る樹脂配管は、降伏応力(MPa)/弾性率(MPa)の比が0.010以上0.050以下の材料で構成されており、外径が50.0mm以上130.0mm以下で、厚みが2.0mm以上15.0mm以下で、長手方向の長さが6m以上である。
【0035】
この樹脂配管は、特定の性質および形状を有しているため、巻き付けられた状態として車両に積載させて運搬した場合であっても相当塑性ひずみを1.0%以下に抑えることが可能になる。また、複数の樹脂配管同士を接続して用いる場合であっても、継ぎ目の間隔を十分に長くすることができるため、継ぎ目の数を少なく抑え、継ぎ目からの漏れを抑制させることが可能になる。
【発明の効果】
【0036】
第1観点に係る樹脂配管の巻き取り構造体では、相当塑性ひずみを1.0%以下に抑えつつ、巻き付けられた状態で車両に積載させて運搬することが可能になる。
【0037】
第2観点に係る樹脂配管の巻き取り構造体では、相当塑性ひずみを0.5%以下に抑えつつ、巻き付けられた状態で車両に積載させて運搬することが可能になる。
【0038】
第3観点に係る樹脂配管の巻き取り構造体では、相当塑性ひずみを実質的に0.0%以下に抑えつつ、巻き付けられた状態で車両に積載させて運搬することが可能になる。
【0039】
第4、5観点に係る樹脂配管の巻き取り構造体では、耐薬品性に優れる。
【0040】
第6観点に係る巻き取り構造体の製造方法では、製造に必要なスペースを狭小化させることができる。
【0041】
第7観点に係る樹脂配管の敷設方法では、巻き取り構造体の製造地と樹脂配管の敷設地とが離れて存在している場合であっても、樹脂配管を敷設することが可能になる。
【0042】
第8観点に係る樹脂配管の敷設方法では、継ぎ目の数を少なく抑え、継ぎ目からの漏れを抑制させることが可能になる。
【0043】
付記に係る樹脂配管では、複数の樹脂配管同士を接続して用いる場合であっても、継ぎ目の数を少なく抑え、継ぎ目からの漏れを抑制させることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【
図1】本発明の一実施形態に係る樹脂配管の巻き取り構造体について、リールに巻き付けられた状態の例を示す概略外観斜視図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る樹脂配管の巻き取り構造体について、リールから分離された状態の例を示す概略外観斜視図である。
【
図3】樹脂配管が巻き取られる様子の一例を示す軸方向視概略図である。
【
図4】樹脂配管の巻き取り構造体が車両に積載されている様子の一例を示す概略外観斜視図である。
【
図5】降伏ひずみが2.05%、樹脂配管の外径が50.8mm、厚みが2.6mmである場合のリール径と相当塑性ひずみの関係を示すグラフである。
【
図6】降伏ひずみが2.05%、樹脂配管の外径が50.8mm、厚みが2.6mmである場合のリール径と巻き取りモーメントの関係を示すグラフである。
【
図7】降伏ひずみが2.05%、樹脂配管の外径が63.5mm、厚みが3.1mmである場合のリール径と相当塑性ひずみの関係を示すグラフである。
【
図8】降伏ひずみが2.05%、樹脂配管の外径が63.5mm、厚みが3.1mmである場合のリール径と巻き取りモーメントの関係を示すグラフである。
【
図9】降伏ひずみが2.05%、樹脂配管の外径が76.2mm、厚みが3.6mmである場合のリール径と相当塑性ひずみの関係を示すグラフである。
【
図10】降伏ひずみが2.05%、樹脂配管の外径が76.2mm、厚みが3.6mmである場合のリール径と巻き取りモーメントの関係を示すグラフである。
【
図11】降伏ひずみが2.05%、樹脂配管の外径が88.9mm、厚みが4.1mmである場合のリール径と相当塑性ひずみの関係を示すグラフである。
【
図12】降伏ひずみが2.05%、樹脂配管の外径が88.9mm、厚みが4.1mmである場合のリール径と巻き取りモーメントの関係を示すグラフである。
【
図13】降伏ひずみが2.05%、樹脂配管の外径が101.6mm、厚みが4.6mmである場合のリール径と相当塑性ひずみの関係を示すグラフである。
【
図14】降伏ひずみが2.05%、樹脂配管の外径が101.6mm、厚みが4.6mmである場合のリール径と巻き取りモーメントの関係を示すグラフである。
【
図15】降伏ひずみが2.05%、樹脂配管の外径が114.3mm、厚みが5.1mmである場合のリール径と相当塑性ひずみの関係を示すグラフである。
【
図16】降伏ひずみが2.05%、樹脂配管の外径が114.3mm、厚みが5.1mmである場合のリール径と巻き取りモーメントの関係を示すグラフである。
【
図17】降伏ひずみが2.05%、樹脂配管の外径が127.0mm、厚みが5.6mmである場合のリール径と相当塑性ひずみの関係を示すグラフである。
【
図18】降伏ひずみが2.05%、樹脂配管の外径が127.0mm、厚みが5.6mmである場合のリール径と巻き取りモーメントの関係を示すグラフである。
【
図19】降伏ひずみが3.08%、樹脂配管の外径が50.8mm、厚みが2.6mmである場合のリール径と相当塑性ひずみの関係を示すグラフである。
【
図20】降伏ひずみが3.08%、樹脂配管の外径が50.8mm、厚みが2.6mmである場合のリール径と巻き取りモーメントの関係を示すグラフである。
【
図21】降伏ひずみが3.08%、樹脂配管の外径が63.5mm、厚みが3.1mmである場合のリール径と相当塑性ひずみの関係を示すグラフである。
【
図22】降伏ひずみが3.08%、樹脂配管の外径が63.5mm、厚みが3.1mmである場合のリール径と巻き取りモーメントの関係を示すグラフである。
【
図23】降伏ひずみが3.08%、樹脂配管の外径が76.2mm、厚みが3.6mmである場合のリール径と相当塑性ひずみの関係を示すグラフである。
【
図24】降伏ひずみが3.08%、樹脂配管の外径が76.2mm、厚みが3.6mmである場合のリール径と巻き取りモーメントの関係を示すグラフである。
【
図25】降伏ひずみが3.08%、樹脂配管の外径が88.9mm、厚みが4.1mmである場合のリール径と相当塑性ひずみの関係を示すグラフである。
【
図26】降伏ひずみが3.08%、樹脂配管の外径が88.9mm、厚みが4.1mmである場合のリール径と巻き取りモーメントの関係を示すグラフである。
【
図27】降伏ひずみが3.08%、樹脂配管の外径が101.6mm、厚みが4.6mmである場合のリール径と相当塑性ひずみの関係を示すグラフである。
【
図28】降伏ひずみが3.08%、樹脂配管の外径が101.6mm、厚みが4.6mmである場合のリール径と巻き取りモーメントの関係を示すグラフである。
【
図29】降伏ひずみが3.08%、樹脂配管の外径が114.3mm、厚みが5.1mmである場合のリール径と相当塑性ひずみの関係を示すグラフである。
【
図30】降伏ひずみが3.08%、樹脂配管の外径が114.3mm、厚みが5.1mmである場合のリール径と巻き取りモーメントの関係を示すグラフである。
【
図31】降伏ひずみが3.08%、樹脂配管の外径が127.0mm、厚みが5.6mmである場合のリール径と相当塑性ひずみの関係を示すグラフである。
【
図32】降伏ひずみが3.08%、樹脂配管の外径が127.0mm、厚みが5.6mmである場合のリール径と巻き取りモーメントの関係を示すグラフである。
【
図33】降伏ひずみが4.10%、樹脂配管の外径が50.8mm、厚みが2.6mmである場合のリール径と相当塑性ひずみの関係を示すグラフである。
【
図34】降伏ひずみが4.10%、樹脂配管の外径が50.8mm、厚みが2.6mmである場合のリール径と巻き取りモーメントの関係を示すグラフである。
【
図35】降伏ひずみが4.10%、樹脂配管の外径が63.5mm、厚みが3.1mmである場合のリール径と相当塑性ひずみの関係を示すグラフである。
【
図36】降伏ひずみが4.10%、樹脂配管の外径が63.5mm、厚みが3.1mmである場合のリール径と巻き取りモーメントの関係を示すグラフである。
【
図37】降伏ひずみが4.10%、樹脂配管の外径が76.2mm、厚みが3.6mmである場合のリール径と相当塑性ひずみの関係を示すグラフである。
【
図38】降伏ひずみが4.10%、樹脂配管の外径が76.2mm、厚みが3.6mmである場合のリール径と巻き取りモーメントの関係を示すグラフである。
【
図39】降伏ひずみが4.10%、樹脂配管の外径が88.9mm、厚みが4.1mmである場合のリール径と相当塑性ひずみの関係を示すグラフである。
【
図40】降伏ひずみが4.10%、樹脂配管の外径が88.9mm、厚みが4.1mmである場合のリール径と巻き取りモーメントの関係を示すグラフである。
【
図41】降伏ひずみが4.10%、樹脂配管の外径が101.6mm、厚みが4.6mmである場合のリール径と相当塑性ひずみの関係を示すグラフである。
【
図42】降伏ひずみが4.10%、樹脂配管の外径が101.6mm、厚みが4.6mmである場合のリール径と巻き取りモーメントの関係を示すグラフである。
【
図43】降伏ひずみが4.10%、樹脂配管の外径が114.3mm、厚みが5.1mmである場合のリール径と巻き取りモーメントの関係を示すグラフである。
【
図44】降伏ひずみが4.10%、樹脂配管の外径が127.0mm、厚みが5.6mmである場合のリール径と巻き取りモーメントの関係を示すグラフである。
【
図45】降伏ひずみ毎の、「樹脂配管の外径/樹脂配管の厚み」に対する座屈が生じない最小リール径の関係を示すグラフである。
【
図46】降伏ひずみが2.05%の場合における、相当塑性ひずみ(%)別の樹脂配管の外径とリール径との関係を示すグラフである。
【
図47】降伏ひずみが3.08%の場合における、相当塑性ひずみ(%)別の樹脂配管の外径とリール径との関係を示すグラフである。
【
図48】降伏ひずみが4.10%の場合における、相当塑性ひずみ(%)別の樹脂配管の外径とリール径との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0045】
以下、一実施形態を例に挙げて説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0046】
(1)樹脂配管の巻き取り構造体の全体構成
樹脂配管の巻き取り構造体は、樹脂配管が、降伏応力(MPa)/弾性率(MPa)の比が0.010以上0.050以下の材料で構成されている。この樹脂配管は、外径が50.0mm以上130.0mm以下である。また、この樹脂配管は、厚みが2.0mm以上15.0mm以下である。この樹脂配管の巻き取り構造体は、降伏応力(MPa)/弾性率(MPa)の比および樹脂配管の外径に対する巻き取り構造体の外周および内周の関係が、3500.0mm≧巻き取り構造体の外周の最大幅(mm)、且つ、巻き取り構造体の内周の最小幅(mm)≧0.62×樹脂配管の外径÷(降伏応力/弾性率)を満たしている。この樹脂配管の巻き取り構造体によれば、相当塑性ひずみを1.0%以下に抑えつつ、巻き取られた状態でトラック等に積載して輸送することが可能になる。
【0047】
樹脂配管の巻き取り構造体は、樹脂配管がコイル状に巻き取られたものであり、内側にリールを有していても有していなくてもよい。また、巻き取り構造体がリールを有している場合には、そのリールが軸方向の両端において径方向に広がった鍔を有していてもよいし、このような鍔を有していなくてもよい。また、樹脂配管の巻き取り構造体は、径方向に一重となるように巻き取られていてもよいし、径方向に二重以上に重なるようにして巻き取られていてもよい。
【0048】
なお、樹脂配管の巻き取り構造体は、相当塑性ひずみを0.5%以下に抑えることができる観点から、3500.0mm≧巻き取り構造体の外周の最大幅(mm)、且つ、巻き取り構造体の内周の最小幅(mm)≧0.79×樹脂配管の外径÷(降伏応力/弾性率)を満たしていることが好ましい。
【0049】
さらに、樹脂配管の巻き取り構造体は、相当塑性ひずみを実質的に0.0%以下に抑えることができる観点から、3500.0mm≧巻き取り構造体の外周の最大幅(mm)、且つ、巻き取り構造体の内周の最小幅(mm)≧1.025×樹脂配管の外径÷(降伏応力/弾性率)を満たしていることがより好ましい。
【0050】
樹脂配管の巻き取り構造体は、積載に必要なスペースをより小さくすることができることから、3000.0mm≧巻き取り構造体の外周の最大幅(mm)の関係をさらに満たしているものであることが好ましい。
【0051】
(2)樹脂配管の材料
巻き取り構造体を構成する樹脂配管の材料(樹脂材料)は、降伏応力(MPa)/弾性率(MPa)の比が0.010以上0.050以下の材料で構成されている。
【0052】
樹脂材料の降伏応力(MPa)/弾性率(MPa)の比は、0.010以上0.050以下(すなわち、降伏ひずみが1.0%以上5.0%以下)であり、好ましくは0.017以上0.042以下(すなわち、降伏ひずみが1.7%以上4.2%以下)であり、より好ましくは0.02以上0.042以下(すなわち、降伏ひずみが2.0%以上4.2%以下)である。
【0053】
ここで、樹脂材料の弾性率(ヤング率)は、特に限定されないが、例えば、300MPa以上800MPa以下が好ましく、350MPa以上650MPa以下がより好ましく、390MPaがさらに好ましい。ここでの弾性率(ヤング率)は、ASTM D638−99に準じて引張試験して得られる値とし、具体的には、PFAについては、350℃に設定された熱プレスにて圧縮成形された、2mm厚の圧縮シートからASTM D638−99に記載のダンベル タイプVにて試験片を打ち抜き、ASTM D638−99に準じて引張試験を行い、A2.4に記載の方法で「ヤング率」を測定して得られる値である。なお、他の樹脂の測定においては、当該樹脂に適した温度(当業者に明らかな温度)で熱プレスされて測定され、一般に熱プレスされる代表的な温度は溶融させる時間によって10〜20℃程度の差はあるが、PFAやFEPでは350℃、PCTFEは265℃、ETFEやECTFEは300℃、PVDFは200℃の温度が溶融温度として適当である。加熱時間は金型サイズにより異なるが直径120mmで厚さ2mmサイズの円盤であれば30〜40分が適当である。
【0054】
また、樹脂材料の降伏応力は、特に限定されないが、例えば、7.0MPa以上17.0MPa以下が好ましく、8.0MPa以上16.0MPa以下がより好ましい。ここでの降伏応力は、ASTM D638−99に準じて引張試験して得られる値(A2.6に記載の方法で得られる値)である。
【0055】
また、樹脂材料のポアソン比は、特に限定されないが、例えば、0.39以上0.49以下であることが好ましい。ここでのポアソン比は、JIS K7181に準じて、測定温度23℃にて縦横歪ゲージの付いたインストロン1125型装置を使用し、ロードセル10ton、フルスケール200kg、クロスヘッド速度2mm/minにて圧縮成形試験片のポアソン比を測定して得られる値とする。
【0056】
樹脂材料は、樹脂であり、熱可塑性樹脂であることが好ましく、押出成形によって樹脂配管を製造可能なものであることが好ましく、降伏応力(MPa)/弾性率(MPa)の比が0.010以上0.050以下であれば特に限定されない。降伏応力/弾性率の比を0.010以上0.050以下とすることが可能な樹脂として、例えば、フッ素樹脂、PPS(ポリフェニレンサルファイド)、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)、ポリアセタール、ウレタン、硬質塩化ビニール、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ナイロン、ポリエチレン、エンジニアリングプラスチック類およびこれらの混合物を用いることができる。これらの樹脂には、例えば、さらに顔料が添加されていてもよい。
【0057】
また、なかでも、強酸や有機溶剤等のような薬品に対する耐薬品性に優れ、内部に薬品を流す用途で利用しやすいという観点から、フッ素樹脂が好ましい。このようなフッ素樹脂としては、PFA(テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体)、FEP(テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体)、ETFE(テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体)、PVDF(ポリフッ化ビニリデン)、PCTFE(ポリクロロトリフルオロエチレン)、ECTFE(エチレン・クロロトリフルオロエチレン共重合体)、THV(テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、ビニリデンフロライドの3種類のモノマーからなる熱可塑性のフッ素樹脂)からなる群より選択される1種または2種以上を用いることができる。例えば、PFAとPTFEの混合物の場合には、PTFEの混合比が50wt%以下であることが好ましい。また、例えば、FEPとPTFEの混合物の場合には、PTFEの混合比は50wt%以下であることが好ましい。なお、フッ素樹脂としては、ガスバリアー性に優れたものを用いることがより好ましい。フッ素樹脂のなかでも、PFAを含有するものが好ましく、PFAの含有率が60質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましい。なお、PPSとしては、例えば、ヤング率が3300MPa、ポアソン比が0.40、降伏応力が97MPaのものがある。
【0058】
このような樹脂材料は、上述の樹脂材料の条件を満たすものを適宜商業的に入手してもよいし、原料を用いて製造することで得るようにしてもよい。
【0059】
商業的に入手可能な樹脂としては、特に限定されないが、例えば、以下のものが挙げられる。
【0060】
PFA:ダイキン工業社製 ネオフロンPFA AP−230(MFR(メルトフローレート)=2g/10min、成形方法は押出成形、ヤング率(=弾性率、以下同様)が390MPa、ポアソン比が0.45、降伏応力が8.0MPa)
PFA:ダイキン工業社製 ネオフロンPFA AP−210(MFR=12g/10min、成形方法が押出成形、ヤング率が390MPa、ポアソン比が0.47、降伏応力が8.9MPa)
FEP:ダイキン工業社製 ネオフロンFEP NP−30(成形方法が押出成形、ヤング率が340MPa、ポアソン比が0.48、降伏応力が12MPa)
PVDF:ダイキン工業社製 ネオフロンPVDF VP−835(成形方法が押出成形、ヤング率が1000MPa、ポアソン比が0.34、降伏応力が50MPa)
PCTFE:ダイキン工業社製 ネオフロンPCTFE M−300PL(成形方法が押出成形、ヤング率が1400MPa、ポアソン比が0.42、降伏応力が41MPa)
ETFE:ダイキン工業社製 ネオフロンFTFE EP−541(成形方法が押出成形、ヤング率が770MPa、ポアソン比が0.42、降伏応力が25MPa)
ECTFE:Solvay Solexis社製 商品名Halar(ヤング率が1600MPa、ポアソン比が0.42、降伏応力が28MPa)
【0061】
(3)樹脂配管の形状および寸法
巻き取り構造体を構成する樹脂配管の外径は、50.0mm以上130.0mm以下であり、好ましくは50.8mm以上127.0mm以下である。
【0062】
また、巻き取り構造体を構成する樹脂配管の厚みは、2.0mm以上15.0mm以下であり、好ましくは2.0mm以上10.0mm以下である。なお、樹脂配管の厚みは、特に限定されないが、例えば、樹脂配管の外径の30%以下とすることができ、より好ましくは樹脂配管の外径の15%以下とすることができ、さらに好ましくは樹脂配管の外径の8%以下とすることができる。これにより、巻き取りに必要なモーメントが大きくなりすぎることを避けることが可能になる。また、樹脂配管の厚みは、特に限定されないが、樹脂配管の外径の1.5%以上とすることができ、より好ましくは樹脂配管の外径の2.0%以上とすることができ、さらに好ましくは樹脂配管の外径の3.0%以上とすることができる。樹脂配管の厚みの下限としては、例えば、輸送される流体のポンプの最大圧力に対して安全率としての3倍を乗じて得られる圧力よりも、高い破壊圧力を保証できる厚みとすることができ、特に限定されないが、輸送される流体のポンプの最大圧力は0.7MPaとすることができる。
【0063】
巻き取られる対象である樹脂配管(巻き取られる前の樹脂配管)の軸方向(長手方向)の長さは、特に限定されないが、例えば、4m以上200m以下とすることができ、10m以上150m以下であることが好ましく、20m以上100m以下であることがさらに好ましい。
【0064】
(4)樹脂配管の用途
樹脂配管の用途としては、特に限定されず、例えば、塗装用塗料配管チューブ、食品搬送シート、飲料及び液体状食品輸送チューブ、液晶製造装置用または半導体製造装置用の薬液輸送用チューブ等が挙げられ、なかでも、塗装用塗料配管チューブ、飲料及び液体状食品輸送チューブ、薬液輸送用チューブ、製薬工場、製鉄工場の酸洗ライン、金属プラントのスラリー輸送配管、火力発電所のスラリー輸送配管であることが好ましい。なお、温泉水や熱水などの高温配管や、海洋水などの微生物の付着が懸念される配管等に用いられてもよい。海洋水を輸送する用途で用いられる場合において、樹脂配管の材料としてフッ素樹脂を用いる場合には、フジツボ等の海洋生物の付着を抑制することが可能になる。また、加圧された流体の輸送に用いられてもよい。
【0065】
(5)樹脂配管の巻き取りおよび巻き取り構造体の製造方法
樹脂配管の巻き取り構造体の作成作業は、特に限定されないが、押出成形によって得られた円筒形状の樹脂配管を軸方向に送り出しながら、リール等によって巻き取るようにしてもよい。ここで、リール等によって樹脂配管が巻き取られる際には、樹脂配管の降伏応力(MPa)/弾性率(MPa)の比および樹脂配管の外径に対する巻き取り構造体の外周および内周の関係が、3500.0mm≧巻き取り構造体の外周の最大幅(mm)、且つ、巻き取り構造体の内周の最小幅(mm)≧0.62×樹脂配管の外径÷(降伏応力/弾性率)を満たすように巻き取りが行われる。
【0066】
例えば、
図1の概略外観斜視図に示すように、樹脂配管の巻き取り構造体1は、リール20の外周に樹脂配管10が巻き付けられて構成されていてもよい。また、
図2の概略外観斜視図に示すように、樹脂配管の巻き取り構造体1は、
図1に示すようなリール20と一体化した状態ではなく、樹脂配管10が巻き取られて構成されていてもよい。トラック等の車両に積載される場合には、樹脂配管の巻き取り構造体1は、
図1に示すようにリール20と一体化させたままで積載させてもよいし、
図2に示すようにリール20とは分離された状態で積載されてもよい。
【0067】
なお、樹脂配管の巻き取りの際には、
図3の軸方向視概略図に示すように、樹脂配管10は、リール20と巻き取り治具30とに挟まれた状態で巻き取り作業が行われてもよい。ここで、巻き取り治具30は、樹脂配管10をリール20側に押さえ付ける役割を果たすことができる。なお、特に限定されないが、樹脂配管10の巻き取り作業は、巻き取り治具30をリール20の軸心に対して公転させることで行われてもよいし、リール20と巻き取り治具30の位置は移動させずにそれぞれの軸心に対して自転させることで行われてもよい。ここで、巻き取り治具30のうち樹脂配管10と接触して樹脂配管10を押さえ付ける部分は、樹脂配管10に局所的な湾曲箇所を生じさせず相当塑性ひずみを小さく抑えるために、曲率がリール20の外周の曲率と同等以下であることが好ましい(巻き取り治具30が円筒形状である場合には、巻き取り治具30の曲率半径がリール20の曲率半径と同等以上であることが好ましい。)。
【0068】
なお、樹脂配管の巻き取り構造体としては、樹脂配管が径方向において一重に巻き取られたものに限られず、巻き取り構造体の外周の最大幅(mm)が3500.0mm以下であれば、径方向に二重に巻き取られたものや、径方向に三重以上に巻き取られたものであってもよい。
【0069】
なお、特に限定されないが、樹脂配管を押出成形しながら巻き取っていく場合には、押出成形される樹脂配管の押出機の出口とリールの軸心との距離は10m以下とすることができ、8m以下とすることが好ましく、6m以下とすることがより好ましい。このように距離を短くすることにより、押出成形と巻き取りを行うために必要なスペースを狭小化させることが可能になる。
【0070】
また、押し出される樹脂配管の長さは、用途に応じた長さとすることができるため、特に限定されないが、例えば、6m以上とすることが好ましく、10m以上とすることがより好ましく、20m以上とすることがさらに好ましい。樹脂配管の長さの上限は、特に限定されない。例えば、外径50mmで厚み2mmの樹脂配管を、リール径2500mmのリールに最大巻き取り径3500mmまで巻いた場合、リールの軸方向の長さが500mmの場合には、樹脂配管の全長は440mとなり、リールを含めた総重量はPFAの場合には(比重2.14とすると)約300kgとなる。また、外径130mmで厚み15mmの樹脂配管を、リール径3000mmのリールに最大巻き取り径3500mmまで巻いた場合、リールの軸方向の長さが500mmの場合には、樹脂配管の全長は79mとなり、リールを含めた総重量はPFAの場合には(比重2.14とすると)約950kgとなる。したがって、樹脂配管の長さは、外径50mmの樹脂配管では500mにすることも理論的には可能であるが、樹脂配管の外径と総重量を考慮した場合には、樹脂配管の長さの上限を500mとすることが好ましく、上限を200mとすることが取扱い性から更に好ましい。取扱いが容易なサイズと重量を考慮した巻き取り構造体を構成し、トラックに積載して搬送し、敷設する現地で用途に応じた長さに切断して使用することができる。
【0071】
(6)樹脂配管の巻き取り構造体の運搬
樹脂配管の巻き取り構造体の運搬は、
図4に示すように、車両50の積載箇所に樹脂配管の巻き取り構造体1を積層させた状態で行われる。
【0072】
樹脂配管の巻き取り構造体1の積載時の姿勢は、特に限定されず、樹脂配管の巻き取り構造体1の軸方向が車両の進行方向を向いた姿勢であってもよいし、樹脂配管の巻き取り構造体1の軸方向が車両の上下方向を向いた姿勢であってもよいし、樹脂配管の巻き取り構造体1の軸方向が車両の進行方向及び上下方向に垂直な方向を向いた姿勢であってもよい。
【0073】
また、車両50に積載可能である場合には、樹脂配管の巻き取り構造体の積載個数は、特に限定されず、2つ以上を積載させてもよい。
【0074】
(7)現地での敷設
現地まで運搬された樹脂配管の巻き取り構造体は、現地において解かれ、目的に応じた姿勢で敷設される。
【0075】
樹脂配管の長さが十分であれば、接続箇所無しで敷設することもできる。
【0076】
また、現地での樹脂配管同士の接続が必要である場合には、複数の樹脂配管を用意し、互いに端部同士を溶接(例えば、突き合わせ溶着)したり、フランジを用いて接続したり、継手を用いて接続することができる。なお、樹脂配管の材質としてフッ素樹脂が用いられている場合には、フッ素樹脂の特性であるクリープ現象により応力緩和が生じることから、漏洩を抑制させる観点で、機械式のねじ込みを伴う接続を行うよりも、溶接により接続を行う方が好ましい。
【0077】
なお、現地に敷設された樹脂配管は、用途に応じて内部を洗浄して用いるが、樹脂配管同士の接続箇所が存在する場合には、接続箇所からコンタミネーションが生じうるために、特に十分に洗浄を行うことが望ましい。
【0078】
複数の樹脂配管同士を敷設する現地において接続する場合には、例えば、接続箇所(継ぎ目)の間隔が6m以上であることが好ましく、10m以上であることがより好ましく、20m以上であることが更に好ましい。このように継ぎ目の間隔を長くすることにより、内部を流れる流体が漏れ出しうる箇所を少なく抑えることができる。また、樹脂配管同士を接続する際に接続箇所に生じるコンタミネーションの量を低減させることが可能になるため、洗浄コストを抑制させることも可能になる。
【0079】
なお、このような樹脂配管の敷設は、新たに現地に敷設する場合に限られず、既に敷設されている配管を置き換えにより更新する場合も含まれる。例えば、更新される樹脂配管よりも内径が小さいものが用いられていた場合には、更新により大口径化させることで、より大量の流体を輸送することが可能になる。更新としては、特に限定されないが、例えば、金属配管やポリ塩化ビニル配管等から、フッ素樹脂を含む樹脂配管への更新が挙げられる。
【0080】
(8)シミュレーション
樹脂配管の巻き取り構造体は、その外周の最大幅(外周の最大径)が小さくなるように巻き取ることで、径方向の大きさを小さくすることができ、トラック等の車両に積載しやすくなる。
【0081】
ところが、樹脂配管の巻き取り構造体の外周の最大幅を小さくしようとすると、樹脂配管の曲率が大きくなるため、樹脂配管にひずみが生じてしまう。そして、巻き取られた状態である樹脂配管の巻き取り構造体を現地に運送し、現地で巻き取りをほどいたとしても、樹脂配管に永久変形(永久ひずみ、相当塑性ひずみ)が大きく残ってしまい、巻き癖を治しにくい等の問題が生じてしまう。
【0082】
そこで、発明者らは、樹脂配管の巻き取り構造体の巻き取り径をできるだけ小さくしていった場合において樹脂配管に永久変形が生じにくい条件(相当塑性ひずみが1%以下に抑えられる条件、0.5%以下に抑えられる条件、0.0%以下に抑えられる条件)を、以下に述べるシミュレーションを行うことで確認した。
【0083】
シミュレーションでは、樹脂配管の材料の性質である降伏応力(MPa)/弾性率(MPa)の比(すなわち、樹脂材料の降伏ひずみ)と、樹脂配管の外径と、樹脂配管の厚み((樹脂配管の外径―樹脂配管の内径)/2)と、をそれぞれ変化させた場合の、樹脂配管に永久変形が生じにくい(相当塑性ひずみが1%以下に抑えられる、好ましくは0.5%以下に抑えられる、より好ましくは0.0%以下に抑えられる)樹脂配管の巻き取り構造体の内周の最小幅(樹脂配管がリールに巻き取られる場合にはリールの外径に相当)を求めるために、各リール径毎の相当塑性ひずみを算出した。具体的には、それぞれの樹脂材料の降伏ひずみと樹脂配管の外径と樹脂配管の厚みとの条件毎に、リールの外径毎の相当塑性ひずみ(%)の値を求めた。
【0084】
なお、相当塑性ひずみは、直接的に測定される物理量ではなく、塑性仕事に関して存在を仮定して計算されるものである。相当塑性ひずみは、塑性変形量(永久変形)の指標として使用されている。ここで、塑性仕事増分は、相当応力(例えば、Mises応力)と相当塑性ひずみ増分を掛け合わせることにより得られると仮定される。塑性変形での相当塑性ひずみ増分を積分すると、相当塑性ひずみを計算することができる。
【0085】
相当応力
は、以下の通りである(ミーゼスの降伏条件式の場合)。なお、添え字x、y、zは座標系方向を示している。
【数1】
【0086】
以下のように、塑性変形に必要な塑性仕事増分
は、相当応力
と相当塑性ひずみ増分
の積である。
【数2】
【0087】
相当塑性ひずみ増分
は、以下の通りである。
【数3】
【0088】
以上より、相当塑性ひずみ増分
を積分して得られる以下の
が相当塑性ひずみである。
【数4】
【0089】
シミュレーションでは、以上の考え方にしたがって相当塑性ひずみの算出を行った。
【0090】
なお、樹脂配管の巻き取り作業は、円筒形状の巻き取り治具を用いて行われることとし、巻き取り治具の外径はリールの外径と同じものを用いることとした。
【0091】
また、上記シミュレーションでは、相当塑性ひずみだけでなく、それぞれの樹脂材料の降伏ひずみと樹脂配管の外径と樹脂配管の厚みとの条件毎に、巻き取りに要するモーメントの算出も行った。巻き取りモーメントとしては、リールの中心軸から巻き取り治具の中心軸までの距離dと、巻き取り治具をリールに対して公転させて樹脂配管を巻き取っていく際の力Fと、の積(dF)として得られる値を用いた。
【0092】
なお、樹脂配管の材料としては、フッ素樹脂であるPFAをモデルとして用いた。モデルとして用いたPFAの物性は、降伏応力(MPa)/弾性率(MPa)の比(降伏ひずみ)が、0.0205(2.05%)のものと、0.0308(3.08%)のものと、0.0410(4.10%)のものと、があった。なお、降伏ひずみが、0.0205(2.05%)のものは、弾性率が390MPa、ポアソン比が0.46、降伏応力が8.0MPaとした。降伏ひずみが、0.0308(3.08%)のものは、弾性率が390MPa、ポアソン比が0.46、降伏応力が12.0MPaとした。降伏ひずみが、0.0410(4.10%)のものは、弾性率が390MPa、ポアソン比が0.46、降伏応力が16.0MPaとした。
【0093】
なお、シミュレーションでは、リールや巻き取り治具の剛性が、樹脂配管の剛性と比べると極めて高いことから、リールや巻き取り治具は剛体と満たして計算を行った。また、シミュレーション精度を高めるために、十分細かいメッシュで解析モデルを作成し、解析結果に及ぼすメッシュサイズの影響がないことを確認した。さらに、樹脂配管のリールへの巻き取りの際には、リールの軸方向の変位は拘束させて計算を行った。また、樹脂配管とリールとの接触面の摩擦、および、樹脂配管と巻き取り治具の接触面の摩擦については、考慮しないものとした。
【0094】
ここで、シミュレーション結果を示す前に、以下の補助的なシミュレーション結果(樹脂配管の材料を降伏ひずみ2.05%のものとし、巻き取りリール径を3000mmとした場合について、樹脂配管の外径が50.8mm、63.5mm、76.2mm、88.9mmのそれぞれの場合について、樹脂配管の厚みを変化させた場合のシミュレーション結果)を以下の表1〜表4に示す。
【0099】
以上の補助的なシミュレーション結果によれば、表1〜表4の相当塑性ひずみ(%)の値が示すように、驚くべきことに、樹脂チューブの厚みは、相当塑性ひずみの値に実質的に影響を及ぼさないことが明らかになった。すなわち、いずれの樹脂配管においても、樹脂配管の巻き取り構造体において永久変形が生じないようにするためには(相当塑性ひずみの値を小さく抑えるためには)、樹脂配管の厚みは考慮する必要が無いことが明らかとなった。
【0100】
以上の補助的なシミュレーション結果に基づいて、シミュレーションでは、各樹脂配管の外径の値に対する樹脂配管の厚みの値について、代表的な1つの厚みを定めたシミュレーションを行った。
【0101】
各シミュレーション結果を、
図5〜
図44に示す。また、対応する数値データの表を表5〜表25に示す。
【0123】
なお、表5〜25において、斜線で示す箇所は、座屈(巻き取り構造体の径方向内側に位置している樹脂配管の部分のたわみ)が生じるシミュレーション結果であったことを示している。樹脂配管の巻き取り構造体は、相当塑性ひずみが所定%以下に抑制されているだけでなく、さらに、座屈も生じていないことがより好ましい。この座屈が生じない条件を、上記シミュレーション結果のうち座屈が生じない最小のリール径の情報に基づいて以下の表26を作成し、降伏ひずみ毎に、「樹脂配管の外径/樹脂配管の厚み」に対する座屈が生じないリール径を求めた。降伏ひずみ毎の、「樹脂配管の外径/樹脂配管の厚み」に対する座屈が生じない最小リール径の関係を示すグラフを、
図45に示す。ここで、「樹脂配管の外径/樹脂配管の厚み」をxとし、座屈が生じない最小リール径をyとした場合のxとyの降伏ひずみ毎の近似関係式を求めたところ、降伏ひずみ2.05%ではy>165.90x
2−6348.6x+61586となり、降伏ひずみ3.08%ではy>162.27x
2−6115.5x+58469となり、降伏ひずみ4.10%ではy>168.41x
2−6430.3x+62407となった。これらの関係式は、いずれも類似しており、降伏ひずみに依存しない近似関係式を求めると、y>165.53x
2−6298.13x+60960となった。したがって、降伏応力(MPa)/弾性率(MPa)の比が0.010以上0.050以下の材料で構成され、外径が50.0mm以上130.0mm以下であり、厚みが2.0mm以上15.0mm以下である樹脂配管において、当該関係を満たす場合には、座屈は生じないことなる。
【0125】
さらに、降伏ひずみが2.05%の場合について、相当塑性ひずみ(%)が、1.0%となる場合と、0.5%となる場合と、0.0%となる場合のそれぞれの樹脂配管の巻き取り構造体の内周の最小幅(リールの外径)(mm)を上記シミュレーション結果の線形内挿法および線形外挿法により求めた結果を、以下の表27及び
図46に示す。
【0127】
表27において、「――――――」で示す箇所については、当該条件を満たし且つリールの外径が3500.0mm以下の樹脂配管の巻き取り構造体が得られないことを示している(表27、28においても同様)。例えば、降伏ひずみが2.05%であり、樹脂配管の外径が127.0mmである場合において、相当塑性ひずみ1.0%以下にしようとすると、樹脂配管の巻き取り構造体の内周の最小幅(リールの外径)(mm)を3500.0mm以下にすることができないことを示している。
【0128】
また、降伏ひずみが3.08%の場合について、相当塑性ひずみ(%)が、1.0%となる場合と、0.5%となる場合と、0.0%となる場合のそれぞれの樹脂配管の巻き取り構造体の内周の最小幅(リールの外径)(mm)を上記シミュレーション結果の線形内挿法および線形外挿法により求めた結果を、以下の表28及び
図47に示す。
【0130】
表28において、樹脂配管の外径が63.5mm、76.2mm、88.9mm、101.6mm、114.3mm、127.0mmの場合には、相当塑性ひずみ(%)を1.0%以下まで低下させる前に樹脂配管の座屈が生じてしまうことから、相当塑性ひずみを1.0%以下に抑えるだけでなく、さらに、樹脂配管の座屈をも生じさせない場合の樹脂配管の巻き取り構造体の内周の最小幅(リールの外径)(mm)のシミュレーション結果を示しており、その際の相当塑性ひずみ(%)はそれぞれ0.98%、0.78%、0.68%、0.58%、0.52%、0.47%であった。
【0131】
また、降伏ひずみが4.10%の場合について、相当塑性ひずみ(%)が、1.0%となる場合と、0.5%となる場合と、0.0%となる場合のそれぞれの樹脂配管の巻き取り構造体の内周の最小幅(リールの外径)(mm)を上記シミュレーション結果の線形内挿法および線形外挿法により求めた結果を、以下の表29及び
図48に示す。
【0133】
表29において、樹脂配管の外径が50.8mm、63.5mm、76.2mm、88.9mm、101.6mm、114.3mm、127.0mmの場合には、相当塑性ひずみ(%)を1.0%以下まで低下させる前に樹脂配管の座屈が生じてしまい、相当塑性ひずみ(%)を0.5%以下まで低下させる前に樹脂配管の座屈が生じてしまうことから、相当塑性ひずみを1.0%以下に抑えたり0.5%以下に抑えるだけでなく、さらに、樹脂配管の座屈をも生じさせない場合の樹脂配管の巻き取り構造体の内周の最小幅(リールの外径)(mm)のシミュレーション結果を示しており、その際の相当塑性ひずみ(%)はそれぞれ0.38%、0.22%、0.12%、0.07%、0.02%、0.0%、0.0%であった。
【0134】
上述のようにして得られたシミュレーション結果に基づいて、樹脂材料の降伏ひずみ(降伏応力(MPa)/弾性率(MPa)の比、%ではない)が0.010以上0.050以下であり、樹脂配管の外径が50.0mm以上130.0mm以下であり、樹脂配管の厚みが2.0mm以上15.0mm以下である範囲を前提とした場合において、樹脂配管の外径(mm)と樹脂材料の降伏ひずみ(降伏応力(MPa)/弾性率(MPa)の比、%ではない)に応じた相当塑性ひずみ(%)を少なくとも1.0%以下とすることができる樹脂配管の巻き取り構造体の内周の最小幅(リール外径の最小値)について、以下の関係式(1)を導出することができた。なお、上述のように、樹脂配管の厚みは、驚くことに相当塑性ひずみに対して実質的に影響を与えないことが明らかとなったため、当該関係式では樹脂配管の厚みはパラメータとして用いていない。
【0135】
巻き取り構造体の内周の最小幅≧0.62×樹脂配管の外径÷(降伏応力/弾性率)・・・関係式(1)
例えば、樹脂材料の降伏ひずみ(降伏応力/弾性率)が0.0205(%表記では、2.05%)であり、樹脂配管の外径が50.8mmである場合において、相当塑性ひずみ(%)を1.0%以下にしようとすると、巻き取り構造体の内周の最小幅(リールの外径)を0.62×50.8÷0.0205=1536.4(mm)以上であればよいことになる。
【0136】
また、樹脂配管の巻き取り構造体の外周の最大幅は、トラック等の車両に積載可能な範囲でなければならないことから、3500.0mm以下としている。ここで、例えば、巻き取り構造体の径方向において樹脂配管が重なるように二重以上に巻き取っている場合には、径方向の外側に位置している樹脂配管の径方向外側部分が巻き取り構造体の外周の最大幅を決定することとなる。
【0137】
また、同様にして、樹脂配管の外径(mm)と樹脂材料の降伏ひずみ(降伏応力(MPa)/弾性率(MPa)の比、%ではない)に応じた相当塑性ひずみ(%)を少なくとも0.5%以下とすることができる樹脂配管の巻き取り構造体の内周の最小幅(リール外径の最小値)について、以下の関係式(2)を導出することができた。
【0138】
巻き取り構造体の内周の最小幅≧0.79×樹脂配管の外径÷(降伏応力/弾性率)・・・関係式(2)
さらに、同様にして、樹脂配管の外径(mm)と樹脂材料の降伏ひずみ(降伏応力(MPa)/弾性率(MPa)の比、%ではない)に応じた相当塑性ひずみ(%)を実質的に0.0%以下とすることができる樹脂配管の巻き取り構造体の内周の最小幅(リール外径の最小値)について、以下の関係式(3)を導出することができた。
【0139】
巻き取り構造体の内周の最小幅≧1.025×樹脂配管の外径÷(降伏応力/弾性率)・・・関係式(3)
なお、よりコンパクト化させて車両に積載させることが可能になる観点から、3000.0mm≧巻き取り構造体の外周の最大幅(mm)の関係をさらに満たすことが好ましい。
【0140】
(9)特徴
従来は、3m程度の直管を複数本車両に積載し、現地まで運搬し、現地でフランジ、継手または溶接により直管同士を接続して目的の長さの配管を敷設していた。しかし、樹脂配管同士の接続箇所が多いため現地での作業性が悪く、また、接続箇所からの輸送流体の漏洩の問題が生じやすい。
【0141】
これに対して、本実施形態の樹脂配管の巻き取り構造体では、従来よりも長い樹脂配管を車両に積載して運搬することが可能になっており、しかも、現地で巻き取りを解いた場合にも永久ひずみ(永久変形、相当塑性ひずみ)を小さく抑えることが可能になっており、さらに、従来よりも接続箇所を減らせることができるため、輸送流体の漏洩の問題が生じることを抑制させることができている。